虚無海洋 ~Void Ocean~   作:八切武士

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 平穏な田舎の風景を散策しながら港を目指すTenno。
 虚無より出でて、荒れ果てた宇宙しか知らぬTennoにとって、平穏な旧地球は目にするもの全てが物珍しい。
 風景を堪能しつつ、オブジェクトをスキャンする彼女の姿は、奇しくも、“観光客”そのものであった。


Mission 5:~Gerridae 2~

 道ばたに立っている鏡付きのオブジェクトや、停車している車、発光信号機等、めぼしいものは全て眼鏡を通して注視し、未登録のものは全て、仕込んでおいたスキャナーに読み込ませてゆく。

 

「民宿、Ty……長四丸」

 

 道ばたに立っている、何かの看板を音読してみる。

 看板には、小さな建造物と、船、そして料理らしきもの絵が描かれていた。

 

(“民宿”……小規模な宿泊施設、か、下に書いてある番号は、“電話番号”、通信先のアドレスだったな)

 

『Ordis』

『はい、オペレータ、Ordisは空の鳥を数えておりました、旧地球の鳥も、あちらとさして変わらないですね……少しがっかりしました』

『暇なら、スキャンしておけ』

『オペレータ、もちろん、全てスキャン済みです、Ordisに落ち度などありませんとも!』

 

 Ordisの減らず口はいつもの事だ。

 付き合っていたら、日が暮れてしまう。

 

『例の“艦娘”の一人が住んでいる建物の名前はなんだった?』

『……工作員からの報告では、“長四丸”です、駆逐艦、クラスコード“Murakumo”が住んでいるようです、“提督”も一緒に住んでいますよ』

『ふむ……そうか、分かった』

 

 “提督”は“艦娘”を何らかの力で強化する事ができる、らしい、とBraidも証言していた。

 両方を近くで観察できるかも知れない。

 曲がりくねった坂を下りきると、ようやく港が見えてきた。

 情報通り、小規模な入り江に作られた漁港だ。

 見える範囲で停泊している船は全て10mから、15m程度の大きさで、20mまである船はない様に見える。

 広さもそうだが、大型船が入れるほど水深が深くないという事か。

 入り江は木が密に生えた山に囲まれている為、開口部以外の視界は良くない。

 施設は港に面した僅かな平野部に公共施設らしいものが建ててある他は、山の斜面を切り開いて、段々状に家屋が配置されている。

 

(海からの上陸攻撃には強そうだが……)

 

 ふと、そんな事を考えるが、そもそも防衛施設はなさそうだ。

 外海の波から入り江を守る防波堤に、小型の灯台がある程度に見える。

 ここの戦力は、“艦娘”達だけなのだろう。

 手近に、大きな看板を出している建物が見える、中には色々と品物が陳列されている所を見ると、商店の様だ。

 近寄って戸をあけてみる。

 

「いらっしゃい」

 

 住居になっているらしい奥から、現地語の挨拶が聞こえた。

 見た感じ、食品や日用品の雑貨を置いてある店らしい。

 正直、まだぱっと見た目で用途は分からないが、黄色い長方形の箱を手に取ってみる。

 中には何か六角形に細く整えられた、緑色の棒が10本程度入っている様だ。

 箱には何か羽が四枚付いた虫のマークが付いている。

 振ってみると、木質な音がした。

 

(500円と少し、そこまで高価なものではないな……)

 

「これを買いたい」

 

 奥からゆっくりと現れた店主と思しき女性に品物を示して、声をかけた。

 

「はいはい……5xx円ね、お嬢さん日本語上手だねぇ、どっから来たんだい?」

「“東京”からだ、ちょっと、自然の空気が吸いたくなってな」

 

 にこにこしている女性に紙幣を渡し、釣り銭を受け取る。

 物々交換じみた実物の金銭授受は、中々新鮮な経験だ。

 一応、旧地球にもクレジットの様な仕組みはあるらしいが、“日本”では現物の金銭でやりとりするのが主流らしい。

 正直今の自分の様な怪しい身分にとっては、現物の金銭でやりとりできるのは非常に好都合である。

 使っている金銭も事前に工作員が確保した本物なので、足が付く可能性もない。

 

「へぇ、わざわざ東京からねぇ、こんなとこ何にも無いよ、今時、こんなとこまで来るのは重度の釣りキチ位さね、みんな内地の温泉とか行っちゃうからねぇ」

「釣りは、それなりに好きだが……この辺はどんな魚が獲れるんだ?」

「アジとか、クロダイ、タカベとかかねぇ、船釣りなら、今時釣り船出してるのは、長四丸さんのとこかねぇ、そんでも、最近は船出せるほどお客さん居るのは滅多にないみたいだけどさぁ、漁にでるついでなら乗っけてくれるかも」

 

 どこでも、暇そうな商店主というのは話し好きだ。

 軽く調子を合わせていると、この界隈の噂話をたっぷりと提供してくれた。

 多少の修正は必要だったが、“鎮守府”が置かれている“漁協”と、“艦娘”達が住んでいる“寮”、そして、“提督”と駆逐艦“叢雲”の家、民宿“長四丸”の情報を入手し、店を出る。

 “民宿 長四丸”は宿泊客に獲った魚の料理を提供したり、釣船に客を乗せるのが商売らしい。

 もっとも、海に“深海棲艦”がうろついているご時世では、釣船に乗りたがる客は少ない様だが。

 何故か追加で渡された飲み物のボトルの礼を言って外へ出ると、少し太陽は傾いていたが、時間はまだありそうだ。

 

(取りあえず、“長四丸”へ行ってみるか)

 

 聞いたとおりの道筋を通り、段々になった居住区を歩く。

 すると、ほどなく、鉄の薄板を適当に重ね、でかでかと“民宿 長四丸”と書いた看板が目に入る。

 普通の住居より少し大きく、二階建てになった建物だ。

 玄関に、しましまで、毛が全身に生えた小動物が座っていた。

 柔らかそうな前足を舐めて頭部にこすりつけ、毛並みを整えている様だ。

 三角形の耳が二つ、忙しく動き、こちらの様子を探っている。

 用心深そうな生き物だ。

 取りあえず、スキャンする。

 

(大きさは全然違うが、キャバットに似ているな……)

 

 そう思いながら近づくと、さっ、と逃げて行ってしまった。

 餌の皿が置かれている所を見ると、ここで飼われているのかも知れない。

 警戒心が高いところもキャバットとそっくりだが、襲いかかってくる動物ではない様だから、飼いやすい生き物なのだろう。

 

「こんにちは」

 

 開け放たれたままにされた戸にかかった網をよけ、先ほど実例を聞いた挨拶を試す。

 すると、どたどた足音がして、奥に髪を丸く刈った子供が顔を出した。

 

「かーちゃん!お客さん!」

「はーい」

 

(こういったやりとりは変わらんな……)

 

 つかの間、シータスでのやりとりを思い出す。

 まぁ、シータスでは彼位の歳になれば、既に自分の露天をもって商売している者もいるのだが。

 

「何日か泊まりたいのだが、部屋は開いているだろうか?」

 

 布巾で手を拭きながら出てきた婦人は、少し黙って、じっと顔を見てきた。

 何か値踏みされている気がするが、何か疑われる様なプロトコル違反をしてしまったのだろうか。

 

「一応、支払いに困らない程度は持ってきているつもりだが?」

「そうねぇ、泊まりたいのは今日から3日位かしら?」

「ああ、今日から三日間で頼む、延長したい時は、前の日までに言おう」

「料金は、一泊、朝夕二食付きで6,800円、朝か夕どっちか一食付きで5,800円、素泊まりで4,800円だよ」

 

(……まぁ、毒にはならん筈だ)

 

「分かった、取りあえず今日は1食、夕食付きで、明日は2食で」

「分かったわ、夕食は18:00から、朝食は7:00から、お風呂は、シャワーならいつ使ってもいいけど、湯船に浸かりたかったら、14:00から後で、お湯貯めるのにちょっと時間かかるから30分前位に言ってね」

 

 立て板に水の勢いで喋る婦人に、手付けとして取りあえず今晩分の宿泊賃を払い、靴を脱ぐ。

 そして、差し出された“宿帳”というものに、名前と住所を記載する。

 

「アイヴァラ・天野さん……東京からねぇ」

「しばらくでも、騒がしいのを忘れたくてな」

「まぁ、確かにここは静かなもんだねぇ……健太、2階の“はまぼう”にお客さんを案内してやんな」

「あいよっ、荷物持つぜ!」

「ああ……止めておいた方がいいと思うが」

 

 鞄の取っ手を掴んだ健太は、力を入れて持ち上げようとするが、流石に無理な様だ。

 

「これ、兄ちゃんのお泊まりセットより重いよ!一体何入れてんだ、ねぇちゃん?」

「ちょっとした“お泊まり”だからな、色々と準備してきたんだ」

 

 私は健太から鞄を取り、木製の階段をのぼる。

 流石にちょっと、階段が軋んでしまう。

 

(夜は持って降りようとしない方がいいな……)

 

 階段を上りきると、狭い廊下に出た。

 右側は扉になっていて、左側は奥へ続いている様だ。

 隙間を通ってひょいと先へ出た健太が、左側の廊下に指さした。

 

「トイレは右のそこ、で、左の一番奥の部屋が、“はまぼう”だよ」

 

 先に立って歩き、軽そうな戸を開ける。

 

(木に紙を貼って作った戸か、外から中の様子は筒抜けだな……)

 

 中を見ると、長方形の草を編んで作った様なマットを敷き詰めた中に、丸い小さな机がおいてある。

 天井にぶら下がっているのは、照明器具だろうか。

 部屋の奥は窓になっており、そこには小さな机と、向かい合う様に椅子が2つ置かれていた。

 窓際の床は木の板になっている様なので、そこに鞄を置き、外を眺める。

 

(ここからは入り江がよく見える……無理に外に行かなくても、観察はできそうだ)

 

「ポットと、お茶はそこにあるから、好きに使ってよ」

 

 低いテーブルの上に、蓋付きの水差しと、小さな陶器製のポットとコップ、そして円筒形の金属缶が載った盆が置かれていた。

 喫茶用のセットらしい。

 

「ありがとう」

 

 礼を言ってから、健太がまだ何か言いたげに残っているのを見て、もしかして、案内の礼に小遣いをやる風習があるんだろうかと少し思案する。

 

「あの、ねえ……天野サンは、“艦娘”なのか?」

「ふむ、何故そう思うんだ?」

 

 興味深い。

 現地人から見て、Tennoがどの様に見えるのか。

 何か、見分ける能力があるのか。

 それも確認できれば収穫だ。

 

「うーん、髪の毛白いし、なんか力も強いし……なんか、ちょっとうちのねーちゃんと似た感じがするし」

「そうか、でも、私は“艦娘”ではないな」

「そっか……うーん、ま、いいや、じゃ、ごゆっくりー!」

 

 健太はドタドタと足音を立てて下へ降りていった。

 

(当てずっぽうか、感覚で“分かった”のか……子供の感覚は馬鹿にできんな)

 

 一端座って部屋を見回し、つやつやする木枠で作られた空間に眼を止める。

 そこには、紙の書画が掛けられ、段差の上には、花が生けられた小さな花瓶が置かれていた。

 

「地球は地球か……」

 

 その空間から漂う雰囲気に、何となくDOJOの装飾に通ずるものを感じ、少し見入る。

 外の日差しは傾いているが、まだ、夕食の時間として告げられた時間までは充分余裕がある筈だ。

 顔合わせをしておいてもいいだろう。

 

 




 ああ、GWがおわってしまう……

 このお話はGW中に終わらせておきたかったんですが、ちょっと無理でした。
 そう言えば、土曜日に艦これメンテで、イベント開始みたいですね。

 取りあえず、先行組の情報待ちですが……やっぱ、イベントはしんどいなぁ。

 なんか、もう、普通にTennoの休暇旅行みたいになってますが、一応、艦これ世界は戦時下なんですよね。
 常在戦場なTenno達にとっては充分平和な世界なんですけども。
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