まだ、日のある内に活動が行えそうという事で、“漁協”という名の“鎮守府”に顔を出してみる事にしたのだが……
「少し散歩に出てくる」
「門限は20時だよ、あと、外のご飯だったら、夕方までは漁協の食堂、お酒なら“魚定”で呑めるからね……場所は、下に降りればすぐ分かるよ」
「わかった」
個人的に酒を呑む習慣は無いが、持って帰れば喜びそうな連中は結構いる。
(帰りに幾つかサンプルを持って帰ってやるか)
婦人……民宿のおかみに頭を下げてから、ここで一番大きな建物、“漁協”へ足を向ける。
建物に大きく“松雲町漁業組合”と名称が書かれているので、見落とす心配はない。
元はクリーム色だったと思われる壁はあちこち削れているが細かく補修されており、充分堅牢そうだ。
(造り足したのか……)
建物の右側は、明らかに建て増しされており、そちらは青系統に塗られている。
明らかに新しい。
“朝市”とか、“ひもの”、“軽食”等の文字列が掲げられている所を見ると、そちらは商業施設の様だ。
(この建物のどこに“鎮守府”があるのだ?)
流石に商業施設側ではなく、“漁協”と書いてある方だろう。
「ふむ……」
取りあえず、正面の扉から“漁協”の中へ入ってみる。
入ってすぐあるカウンターで入り口と内部の空間は仕切られており、傍らには多分順番待ち用と思われる長椅子が置かれていた。
なんとなく、コーパスの事務オフィスを思い出させる雰囲気だが、壁のあちこちに魚拓や、魚の剥製が飾られているのは、シータス風だ。
(旧地球の魚も中々大きいな、しかし、魚拓や剥製はこの頃からの習慣なのだな……興味深い)
カウンターの中には、机が島になる様に並べられており、書類や機械の端末が並べられている。
ますます、事務オフィスだ。
取りあえず目にとまったのは、右奥の方の島で何やら仕事をしている一団だった。
他は大人ばかりの中、明らかに年少と思われる少女達が固まっていて、白髪やピンク色の目立つ色合いの髪の毛。
彼女達が“艦娘”だろう。
(……で、あれが、“提督”か)
健太と似た様な丸刈りにねじりタオルを巻いた青年で、シャツと、胸当て付きの吊り下げズボンをはいている。
白い長靴を履いた足は、妙に不安定なリズムを床で刻んでいた。
キーボードの上に這い上がろうとした“妖精”を邪魔そうに払いのけた動きからすると、間違いなく見えている。
ついでに、払いのけられた“妖精”が手の動きに合わせて机から転がり落ちた所を見ると、ちゃんと触れている用だ。
間違いないだろう。
「何かご用でしょうか?」
声をかけられて視線を動かすと、カウンターの所まで女性の職員がやってきていた。
いきなり入ってきたよそ者が、物珍しそうに中を見回しているんだから、まぁ、目立つだろう。
実際、視界の端で、ピンク色の髪をした“艦娘”がこちらをチラチラ見ながら、“提督”をつついて何かを囁いている。
「この辺で、魚が獲れると聞いてな、どの辺なら良く獲れるか、情報を提供して貰えるだろうか?」
「……ええ、釣りでしょうか?」
「獲れるのは、アジ、クロダイ、タカベだったか?」
一瞬、女性はかなり面食らった表情になった。
何か妙な事を言ってしまったらしい。
困惑した様子の女性が後ろへチラリと目をやると、“提督”が大きくのびをして、こちらへ体を反らした。
「やりたきゃ防波堤か、磯だが、道具は持ってきてるのかい?」
「一応、普段使ってる銛なら持ってきているな」
「もりぃ?」
伸びを止めた“提督”は席を立ってこちらへやってきた。
ピンク色の髪をした“艦娘”がその後をぴょこぴょこ跳ねながら追いかけてくる。
「一応、魚突きは禁止じゃねぇけど、この辺の磯は泳ぐにゃ危ねぇぜ」
「泳ぐ気はないな、魚を獲る時は陸から銛を投げる」
「あ、陸からだって?……いやいや、そりゃ無理だろ!」
“提督”の困惑した顔からすると、この辺では陸から銛を投げて魚は獲らないらしい。
「まぁ、情報を聞いたから、何となく聞いてみただけだ、無理ならいいんだ」
「そっか、うーん、まぁ、別に駄目じゃねぇけど……やるなら、“松ヶ浦”辺りかな」
“提督”は困惑しながらも、簡単な地図を描き、目印をつけてくれた。
簡素だが綺麗な線だ。
結構絵心があるのかも知れない。
(さっき買った木の棒は、筆記具だったのか……成る程、刃物で削って使うのか、面白いな)
「兎に角、海に落ちたりしないでくれよ、あと、魚だけだぜ?……貝とか密漁だかんな、あ、こっち、観光パンフな」
「承知した、感謝する」
渡された紙と簡易地図を肩からかけたバッグにしまい、頭を下げる。
“日本”での挨拶や謝意を示すエモートとして、お辞儀が使われていた事は中々面白い事実だ。
Tennoにとっても、お辞儀は似た様な意味合いを持つエモートとして伝えられている。
(この辺の文化、伝承については、Chiaraが喜んで研究するだろうな……)
そのまま“漁協”を出て、青色に塗られている棟の入り口へ回る。
中には商品の陳列棚が並ぶ一角と、テーブルが並んでいる場所に分かれており、奥はカウンターになっている様だ。
食物の匂いが漂う中、テーブルには客が数名飲み物や食物を前にして寛いでいる。
皆、作業着や砕けた普段着を着用し、大きな荷物を持っている者はない。
地元の人間なのだろう。
(ふむ)
商品を見ると、魚やそれ以外の魚介類らしきものを用いた保存食品と、装飾品、食器等が陳列されている。
(こういうのは、Zanaが喜びそうだな)
食品の包装には構成物質も書かれているので、解析の参考になりそうだ。
とは言え、流石にやたらと活動資金を無駄遣いする訳にもいかない。
必要ならTimothyが融通してくれるだろうが、土産を買いたいからというのは、流石にちょっと言い辛いものがある。
(とりあえず、“お茶”、“紅茶”、“コーヒー”のどれかを頼めば問題ないんだったな……)
ひとまず、カウンターでコーヒーを買って、適当なテーブルに落ち着く。
コーヒーを軽く一口飲んでみると、馴染みのない苦みと酸味が口中に広がり、焦げ臭いと言うには好まし過ぎる香味が鼻腔を抜けてゆく。
(まぁ、悪くない……これも見かけたらZanaに買っていってやろう、ふふ、これでは孫に何でも買ってやるおばあちゃんだな)
一緒に貰った粉を軽く舌先にのせてみると、じわりと心地よい甘みを感じる。
(甘味料か……“砂糖”砂、鉱物由来なのか?)
「おばちゃ~ん、チョコパフェ一丁!」
「まだ3時には早くないかい?」
カウンターの方へ目をやると、ピンク色の髪をした“艦娘”がやってきていた。
入り口から入ってきた気配は無いので、建物内にこちらの部屋に繋がっているドアがあるのだろう。
「多忙な艦娘にとって、おやつの摂取は高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変に対処する事が必要なのぴょん!」
「へぇ、うーちゃんは難しい事しっとるねぇ」
「うーちゃんも艦娘ですから、当然ぴょん!」
子供をあやす様な顔のおばちゃんの前で胸をそらしているのは、先ほど“提督”とやりとりしている間、背後からこちらを覗いていた“艦娘”だ。
軽く背伸びをして代金を払い“チョコパフェ”を受け取った彼女は、何故か、こちらへ一直線にやってきた。
「こんにちは、ごいっしょさせて下さいぴょん!」
「問題ない」
返事を聞くより先に、“うーちゃん”は向かいの椅子に腰を下ろしていた。
スキャン完了のシステム音と共に、Ordisの音声が脳裏に囁きかける。
『オペレータ、スキャン完了です……種別“駆逐艦”、タイプコード“睦月型”、シリアルナンバー“四番艦”、パーソナルコード“卯月”』
「ありがとうぴょん!駆逐艦“卯月”でーす、うーちゃんって呼んでぴょん!」
「アイヴァラ・天野だ、よろしく」
何の目的か分からないが、“艦娘”側から接触してきた事は好都合だ。
“うーちゃん”は“チョコレートパフェ”に、銀色のカトラリー……確か“スプーン”、を突き刺して中身を掬うと、大きく口を開けて一口食べる。
“チョコレートパフェ”はクリーム状にした何かと、氷菓の様なもの、そして彩りに果実を盛り、そこへタール様のシロップをかけたものらしい。
こちらの鼻先まで、甘そうな香りが漂ってくる。
一口やった“卯月”の幸せそうな顔を見ると、間違いなく、食事というよりは嗜好品に違いない。
「おねえさん、陸から魚突きするって、本当なのかぴょん?」
「ああ、前に海の近くで活動してた事があってな、海でも、池でも……まぁ、色々獲ったな、“村”が沢山引き取ってくれたんでね」
地球の“魚”は兎も角、金星のサーボ魚とか、ダイモスの感染魚は、ここでいう“釣り”には含めない方が良さそうだ。
「アイちゃんも漁師さんだったぴょん!」
『“アイちゃん”アイチャン……オペレータ、Ordisも呼称をお変えした方が宜しいでしょうか?』
何となく、含み笑いが混じっている気がする。
「たまにはな」
「見てみたいぴょん!」
眼をきらきらさせながら、“うーちゃん”が身を乗り出す。
こうして、近くでじっくり観察すると、“艦娘”の周りには“妖精”が複数纏わり付いているのが分かる。
他の客が注目していない所をみると、珍しいものでもないのか、或いは、艦娘が意図的に実体化させないと“妖精”は普通の人間には見えないのか。
取りあえず、今の所は“見えないふり”をしておいた方が良さそうだ。
「そうだな……まだ、日が落ちるまで間があるな、“銛”を取ってきていいなら、試してもいいが」
「やったあ、だったら、うーちゃんが案内するぴょん!」
“うーちゃん”は見るからに嬉しそうに小躍りすると、ものすごい勢いで“チョコレートパフェ”を片付け始めた。
「うーちゃん、あんまりサボってっと、又、たー坊にドヤされるよ」
「サボりじゃないもん、磯場は危ないから、うーちゃんが観光客さんを案内するだけだぴょん!」
抗議しながらも、“うーちゃん”は若干不安そうに奥の方をちらちら見ている。
同僚が見に来るのを警戒しているのだろう。
ここは、さっさと出た方が良さそうだ。
「よし、行こう」
「善は急げって、いうぴょん、うひひっ!」
“うーちゃん”は机の上に置かれている箱から薄い紙片をとり、口の周りについたべたべたしたものを素早く拭うと、立ち上がった。
(地上に降りて泊まりがけで魚獲りか……ますます休暇っぽくなってきたじゃないか)
To Be Countinued...
うーちゃん襲来!
初のスキャンは、睦月型四番艦となりました。
しかし、キャラクターとかの情報って、活動報告とかどっかに書いておいた方がいいんですかね。
まぁ、何となくでも読めるとは思いますが。