Warframe無しでの勝手が違う“釣り”で釣果を上げる事ができるのか?
“長四丸”の階段の前で振り返ると、“うーちゃん”は最後の角から顔を出していた。
「どうした?」
「隠密作戦ぴょん、目撃されちゃうと作戦続行にししょーを生じるぴょん!」
どうやら、“提督”の親族に見られると通報されるといった所の様だ。
「……分かった、ちょっと取ってこよう」
「健闘を祈るぴょん」
特に問題なく“はまぼう”まで戻り、鞄から必要なものを取り出す。
そこまで“硬い”魚は居ない様な気がするので標準的な棘の付いた“Lanzo”銛を取り出し、後は、“Luminous Dye”を幾つか。
ベイトは止めておく。
(撒き餌は……ここ向けのがよく分からんからな、しかし、Warframe無しでやるのは久しぶりだな)
道具を担いで階段を降りると、健太が風呂場から顔をだした。
「すっげぇ銛!何それ、見せてくれよ!」
健太にとっては、かなり物珍しいものに見えるらしい。
触らせてやると、眼をきらきらさせて、持ち上げたり、さすったり、構えてみたりしている。
彼の血縁の“提督”も漁師の様だから、血が騒ぐのかもしれない。
「よっ、と、ありがとな、これから、魚突き行くのか……でも、まだ風冷たいぞ?」
「ああ、“漁協”で獲れそうな所を教えて貰ったからな、海には入らん」
健太は若干怪訝な顔をした。
こうしてみると、陸から銛を投げて魚を獲るのはこの辺では一般的ではないらしい。
(余り、ひけらかすのも考え物か)
「まぁ、なんか獲れたら、かーちゃんに言って明日の飯にして貰おうぜ」
「ふむ、そうなると手ぶらでは帰れんな」
「へへっ、期待してるぜ、そうだ、こいつを貸してやるよ」
「氷か、成る程……有り難く借りよう」
健太が差し出した“長四丸”と書かれた箱を受け取って外へ出ると、玄関先からでも、階段下の壁からちらちらと覗いているピンク色の髪が眼に入る。
正直、隠密作戦と言うよりは、陽動作戦の方が相応しいだろう。
「前段作戦は成功だぴょん」
「では、本作戦と行く事にしよう」
“うーちゃん”はこの港では結構な有名人らしく、移動中、道で出会う現地民は皆、ニコニコと彼女の挨拶に返礼していた。
彼女の元気な挨拶に反応しているだけかも知れないが、嫌そうな顔はされていないので、実際に好感は持たれているのだろう。
「ここが、“松ヶ浦”、石ばっかりだぴょん」
港から若干離れた場所にある“松ヶ浦”はごつごつとした岩場になった場所だった。
陸側には、狭い砂浜があり、そこから波打ち際までの間が磯になっている。
満潮時には潮が上がってくるらしく、そこかしこが潮だまりになっている様だ。
「成る程、悪くない」
「健太と一緒にこの辺たまに来るけど、水たまりにちっちゃい魚とか、タコとかいて結構面白いぴょん」
「ほう」
(Chiaraがサンプルを採取する時は、現地民と“密漁”で揉めない様に気をつけねばな……その辺の規則関係についてはTimothyが協力してくれるだろうが)
「健太も小さい銛を持ってて、潮だまりでついたり、素潜りでついたりするんだぴょん」
健太が銛に強く反応したのは、自分でも銛を使っていたかららしい。
波打ち際には、小さな岬の様に突き出した岩が所々あり、一人、二人程度竿を出している釣り人が見える。
(成る程、あれがここ本来の“釣り”なのだな)
人が居ない岩を選んで登り、“Luminous Dye”を取り出す。
念の為、四角錐になった容器の頂点に銛の尻に用いているのと同様の“糸”と結わえる。
普段は使い終わったら沈むに任せるものだが、漁場にゴミを棄てられて喜ぶ漁師は居ないだろう。
「それ、何ぴょん?」
興味しんしんで覗き込んでくる“うーちゃん”に一通り見せた後、海面に投げ込む。
“Luminous Dye”は、糸を結わえた頂点を上に、ぴたりと海面より若干上に固定された。
「止まったぴょん!ひ、光ってるぴょん!」
「成る程、沢山居るんだな」
そろそろ耳慣れてきた頓狂な叫びを聞きながら海面を見ると、速やかに広がった染色剤の効果により、ぼんやりと魚影が浮かび上がっている。
波がうねっているが、効果はしばらく続くはずだ。
「さて……腕がなまってなければいいが」
“Lanzo”銛を構え、魚影の未来位置へ向かって投擲する。
「惜しいぴょん!」
水の抵抗をものともせずに、すっ、と突き刺さった銛は、魚影を僅かに逸れ、海底の砂を刺した。
(やはり、Warframeでやるのとは、加減が違うな……)
「ねーちゃん、そんなんじゃ獲れねぇべ」
釣り人のだろう、苦笑交じりの声が聞こえる。
だが、グリニア兵の“GRAKATA”(アサルトライフル)の弾幕や、“Dargyn”(一人乗り飛行兵器)の機銃弾が飛び交っていたあちらの海に較べれば、無音に等しい。
「あっ!……獲れたぴょん!」
「ふむ、これはなんだろうな?」
銛には、木の葉型で、腹の部分が白く、それ以外の部分は黒っぽい魚が刺さっていた。
整然と鱗が並んだ鱗が綺麗だ。
「……これは、“メジナ”だぴょん、お刺身にしても、煮ても、焼いても凄く美味しいぴょん!」
「よし、では、もう少々獲ってみようか、迷惑にならない程度にな」
魚の頭を軽く指で弾いて即死させ、健太から借りてきた氷の入った箱(クーラーと言うらしい)へ納める。
普段なら、“Parazon”等を使って、血抜きをしたりするのだが、そこまではいいだろう。
「す、すごいぴょん……まるで本職の漁師だぴょん!」
指で弾いて魚をしめた時、ほんの少しだけ“Void Blast”を使ったのだが、特に反応はない。
(“艦娘”にはVoidパワーを感知する感覚は無いのだろうか?)
※“Void Blast”
⇒本来は手のひらから、Voidパワーによる強力な衝撃破を放つ技。
少しだけしか使っていないし、彼女が注目してないから見逃しているだけかも知れないが。
そんな些細なやりとりをしつつ、魚つきを小一時間続けていると、いつの間にかクーラーボックスの中が一杯になってしまった。
「すげぇな、ねえちゃん……こりゃ、曲芸だぜ」
さっき、苦笑していた釣り師の男性まで、自分の釣りを止めて寄ってきている。
「まぁ、こんなものか」
「いやぁ、いいもん見せて貰ったなぁ」
「ふふん、アイちゃんは凄いんだぴょん!」
感心しながらたばこをふかす男性に、何故か自慢げに腰に手を当てていた“うーちゃん”の頭に、結構な速度で手刀が炸裂した。
「うびゃあ!!」
「お前が獲ったわけじゃねえだろ、ったくよぉ」
「ぷぁーっ!あ、頭が割れたっー!」
磯の上だというのに全力で転がり回る“うーちゃん”の首根っこを掴んで持ち上げたのは、眼帯をした“艦娘”だった。
「ったく、すぐにサボりやがって、勤務時間中だろが」
「サボりじゃ無いぴょん!沿岸警邏ぴょん!」
「お前は沿岸警邏中に漁まですんのかよ、働きもんだなおい」
彼女が頭を振ると、頭部左右に備え付けられたセンサーが、ふわふわと追随する。
旧地球の技術としてはオーバーテクノロジーも良いところだ。
(あのセンサー、どの程度の性能なのだろうな)
「軽巡、“天龍”だ、松雲町海防団所属艦隊で旗艦をやってる、うちのコレが迷惑かけたな」
“天龍”は片手にぶら下げた“うーちゃん”を突き出す。
最初はもがいていたが、今は脱力しきってぶら下がっている姿は中々哀れを誘う、と言いたいが、舌をだしている顔はなんとなく、反省したジェスチュアではない気がする。
(まるで捕まったクアカだな)
「いや、こちらは案内して貰って助かった、出来れば余り怒らないでやって欲しいが」
「数少ないお客さんのリピート率を上げるのも、お仕事ぴょん!」
不意に顔を上げて抗議を始めた辺り、予想は当たっていたらしい。
「いったぁい!」
「しゃーねぇな、取りあえずこいつは持って帰っから、きぃつけて戻れよ」
今度は拳で“うーちゃん”を黙らせた“天龍”は手を上げて挨拶すると、そのまま帰ろうとする。
(ふむ、もう少し押してみるか)
「魚を獲りすぎてしまった、君たちの所で貰ってくれないか?」
「あん?」
“天龍”は“うーちゃん”をぶら下げたまま振り向いた。
「いや、そりゃ、悪いんじゃねぇか?」
「クーラーボックス一杯になってるぴょん!」
鼻を掻いて、恐らく遠慮している様子の“天龍”にクーラーボックスの中身を見せてやる。
「へぇ、ホントに大漁じゃねぇか」
「アイちゃんは、司令官のとこに泊まってるぴょん」
「泊まりかぁ、そりゃ確かに持てあますよな」
“天龍”は少し考え、“うーちゃん”から手を離した。
「よよよぉ?いきなり離したら危ないぴょん!」
「分かったよ、うちでちょっと引き取るぜ、残りは提督んとこでさばいて貰えばいいさ」
“天龍”はクーラーボックスを拾い上げると、“うーちゃん”の首にかける。
「うーちゃんが持つのかぁ……ぷっぷくぷ~」
「“お客さん”に持たせられねぇだろ、よっしゃ、鎮守府へ戻ろうぜ」
そろそろ日は傾き、降り注ぐ光にはあかね色の風味が混じり始めていた。
あと少しすると、風が冷たくなり始める頃合いだろう。
(地球の上を誰かとこんなのんびり歩く事になるとはな)
前を歩く“天龍”のスキャンを済ませ、感慨に浸る。
一応、スティール・メリディアンが築いた拠点の様に、一定の平穏が保たれている場所もあるが、当然ながらこのように遊び歩ける場所ではなかった。
そもそも、Warframeで出歩くのとは、感覚が違う。
ぴょんぴょん跳ねる様に歩みを進める“うーちゃん”の姿を見ていると、“天龍”が歩を緩めて横に並んできた。
「あんた何者だ?」
「“観光客”だが?」
「なら、“武道が達者な観光客”だな」
(“武道”……そう言えば、“日本”には“Tenno Schools”の様に体系化した戦いの“道”があったのだったな)
Tennoの戦流儀にも5つに大別される“テンノ道”とでも言うべき技術体系がある。
艦娘達にも、そんな戦の流儀が伝えられているのだろうか。
旧地球の文化に触れれば触れるほど、幾ら長い時間が隔たっていようとも、ここが自分達の文化にとってもルーツなのだと感じ入る。
「オレも職業柄、ちょっとは使うからよ、何となく分かるんだよ」
確かに、“天龍”の立ち居ふるまいには、何らかの近接武器に熟達した者共通のしなやかさがあった。
「気のせいだ、まぁ、ちょっと寝たきりになっていた時期があるから、健康の為、体操と瞑想は嗜んでいるがね」
「そんなもんかねぇ」
“天龍”は、あえてそれ以上の追求をするのは止めたらしい。
“漁協”につくと、“提督”、或いは“司令官”の青年はようやく1日の仕事を片付けたらしく、コーヒーを片手に大きなあくびをしている所だった。
「“天龍”さんお疲れさまです」
「おう」
席から立って迎えたのは、生真面目そうな黒髪の艦娘だった。
何故か髪の毛が一房、くるりと巻いてアンテナの様に立っている。
紺色を基調とした“うーちゃん”の制服とは異なり、黒ベースの制服だ。
細部のデザインも異なる。
“提督”の前の席に座っている白髪の艦娘は白基調のワンピース。
事前情報で“艦娘”達の制服は統一されていない事は知っていたが、改めてみると、軍隊組織としての統一感が感じられない。
(……一応、艦の製造タイプ毎に違うという事だったな、統一性より、外観からタイプ判別する為のデザインという事か)
「全く、午後思いっきりサボりやがって、“卯月”お前、明日は船と工廠の掃除当番な」
「ええ~っ!うーちゃん、明日は近海哨戒当番ぴょん!」
口を尖らす“うーちゃん”に“提督”はくるりと椅子を回して向き直り、ぐっ、と睨み付ける。
「そっちは三日月と交代だ、サボったら、ご近所の公衆トイレ全部1週間掃除奉仕させっかんな」
「しれいかぁ~ん!」
「へっ、その方がトイレが綺麗になりそうでいいじゃねぇか」
「う~」
“天龍”に頭をぐりぐりやられてうなりを上げつつ、“うーちゃん”は“提督”の前にクーラーボックスを置いた。
「ん?うちのじゃねぇか」
「アイちゃんが、お魚くれるぴょん」
「マジでやったのか」
“提督”が少し驚いた顔で、こちらに眼を向けてきた。
本気で行くとは思っていなかった様だ。
「折角、案内までして貰ったからな」
「凄いわね、アンタより腕いいんじゃない?」
「っせーな、俺だって船出しゃこれ位」
白髪の“艦娘”に揶揄され、妙に気色ばんだ様子を見せる“提督”に若干の既視感を覚える。
(Wolfeeか)
Jemmaにからかわれてムキになると、結構あんな感じになる。
確か、この白髪の“艦娘”、“叢雲”と“提督”は“民宿 長四丸”で生活している。
寮住まいの他の“艦娘”よりも近しい立場に違いない。
「って、それは兎も角だよ……えー、天野さんだっけ、あんた、うちの民宿に泊まってる客だったのか、そんじゃ……こいつは、有り難く貰うけど、寮とうちへの持ち帰りで分けて、礼に飯の内容に色つけるのと、後は何か土産をつけるわ」
「単なる暇つぶしだ、余り気にしないでくれ……ただ、もてなしは有り難く受けよう」
この手の共同体は、一方的な借りを作る事を忌避するものだ。
相手の返礼は余り拒みすぎない方がいい。
「提督、折角だから宴会にしちまおうぜ」
「おいおい、うちは宴会場じゃねえんだぞ」
「いいじゃねぇか、どうせ、他に客なんていねぇんだろ?」
「やったぁ!宴会ぴょん!」
割と本気でむっとした様子の“提督”の肩に腕を回し、“天龍”はにやにやと笑う。
「“天龍”さん、失礼ですよ」
「まぁ、お客さんが居ないのは本当だけどねぇ……参加費とれば足しになるんじゃない?」
ぴたりと、提督が真顔になった。
「……ま、ただ酒じゃないなら」
「そんなケチな事言わねぇって、なぁ、“三日月”、“卯月”?」
「も、勿論、参加費はお払いします」
「えー……も、勿論、うーちゃんもただ食いなんてしないぴょん!」
今夜はなかなか面白くなりそうだ。
To Be Countinued...
艦これのイベントが始まり、Warframeは8周年記念イベント期間ですが、皆さんはどのようにお過ごしでしょうか?
私は、艦これイベントは様子見中です……情報揃ってから楽にやりたいので。
出遅れるのヤバいですが。
今日は慌ててWarframeの8周年ウィークリーをこなしてたらヤバい時間になってます。
そう言えば、8周年の公式ページで振り返りの統計を出力して見ましたが、プライマリとセカンダリが一寸意外な結果に。
格闘のHIRUDOは確かにずっと使ってるんで分かるんですけどね。
GRAKATAとKUNAIってそこまで愛用してた記憶がイマイチ無いなぁ。
https://twitter.com/yatugiri/status/1392900794068787200