虚無海洋 ~Void Ocean~   作:八切武士

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 “うーちゃん”に乗せられるまま、“釣り”に挑戦する事になったTenno。
 Warframe無しでの勝手が違う“釣り”で釣果を上げる事ができるのか?


Mission 7:~Gerridae 4~

 

 “長四丸”の階段の前で振り返ると、“うーちゃん”は最後の角から顔を出していた。

 

「どうした?」

「隠密作戦ぴょん、目撃されちゃうと作戦続行にししょーを生じるぴょん!」

 

 どうやら、“提督”の親族に見られると通報されるといった所の様だ。

 

「……分かった、ちょっと取ってこよう」

「健闘を祈るぴょん」

 

 特に問題なく“はまぼう”まで戻り、鞄から必要なものを取り出す。

 そこまで“硬い”魚は居ない様な気がするので標準的な棘の付いた“Lanzo”銛を取り出し、後は、“Luminous Dye”を幾つか。

 ベイトは止めておく。

 

(撒き餌は……ここ向けのがよく分からんからな、しかし、Warframe無しでやるのは久しぶりだな)

 

 道具を担いで階段を降りると、健太が風呂場から顔をだした。

 

「すっげぇ銛!何それ、見せてくれよ!」

 

 健太にとっては、かなり物珍しいものに見えるらしい。

 触らせてやると、眼をきらきらさせて、持ち上げたり、さすったり、構えてみたりしている。

 彼の血縁の“提督”も漁師の様だから、血が騒ぐのかもしれない。

 

「よっ、と、ありがとな、これから、魚突き行くのか……でも、まだ風冷たいぞ?」

「ああ、“漁協”で獲れそうな所を教えて貰ったからな、海には入らん」

 

 健太は若干怪訝な顔をした。

 こうしてみると、陸から銛を投げて魚を獲るのはこの辺では一般的ではないらしい。

 

(余り、ひけらかすのも考え物か)

 

「まぁ、なんか獲れたら、かーちゃんに言って明日の飯にして貰おうぜ」

「ふむ、そうなると手ぶらでは帰れんな」

「へへっ、期待してるぜ、そうだ、こいつを貸してやるよ」

「氷か、成る程……有り難く借りよう」

 

 健太が差し出した“長四丸”と書かれた箱を受け取って外へ出ると、玄関先からでも、階段下の壁からちらちらと覗いているピンク色の髪が眼に入る。

 正直、隠密作戦と言うよりは、陽動作戦の方が相応しいだろう。

 

「前段作戦は成功だぴょん」

「では、本作戦と行く事にしよう」

 

 “うーちゃん”はこの港では結構な有名人らしく、移動中、道で出会う現地民は皆、ニコニコと彼女の挨拶に返礼していた。

 彼女の元気な挨拶に反応しているだけかも知れないが、嫌そうな顔はされていないので、実際に好感は持たれているのだろう。

 

「ここが、“松ヶ浦”、石ばっかりだぴょん」

 

 港から若干離れた場所にある“松ヶ浦”はごつごつとした岩場になった場所だった。

 陸側には、狭い砂浜があり、そこから波打ち際までの間が磯になっている。

 満潮時には潮が上がってくるらしく、そこかしこが潮だまりになっている様だ。

 

「成る程、悪くない」

「健太と一緒にこの辺たまに来るけど、水たまりにちっちゃい魚とか、タコとかいて結構面白いぴょん」

「ほう」

 

(Chiaraがサンプルを採取する時は、現地民と“密漁”で揉めない様に気をつけねばな……その辺の規則関係についてはTimothyが協力してくれるだろうが)

 

「健太も小さい銛を持ってて、潮だまりでついたり、素潜りでついたりするんだぴょん」

 

 健太が銛に強く反応したのは、自分でも銛を使っていたかららしい。

 波打ち際には、小さな岬の様に突き出した岩が所々あり、一人、二人程度竿を出している釣り人が見える。

 

(成る程、あれがここ本来の“釣り”なのだな)

 

 人が居ない岩を選んで登り、“Luminous Dye”を取り出す。

 念の為、四角錐になった容器の頂点に銛の尻に用いているのと同様の“糸”と結わえる。

 普段は使い終わったら沈むに任せるものだが、漁場にゴミを棄てられて喜ぶ漁師は居ないだろう。

 

「それ、何ぴょん?」

 

 興味しんしんで覗き込んでくる“うーちゃん”に一通り見せた後、海面に投げ込む。

 “Luminous Dye”は、糸を結わえた頂点を上に、ぴたりと海面より若干上に固定された。

 

「止まったぴょん!ひ、光ってるぴょん!」

「成る程、沢山居るんだな」

 

 そろそろ耳慣れてきた頓狂な叫びを聞きながら海面を見ると、速やかに広がった染色剤の効果により、ぼんやりと魚影が浮かび上がっている。

 波がうねっているが、効果はしばらく続くはずだ。

 

「さて……腕がなまってなければいいが」

 

 “Lanzo”銛を構え、魚影の未来位置へ向かって投擲する。

 

「惜しいぴょん!」

 

 水の抵抗をものともせずに、すっ、と突き刺さった銛は、魚影を僅かに逸れ、海底の砂を刺した。

 

(やはり、Warframeでやるのとは、加減が違うな……)

 

「ねーちゃん、そんなんじゃ獲れねぇべ」

 

 釣り人のだろう、苦笑交じりの声が聞こえる。

 だが、グリニア兵の“GRAKATA”(アサルトライフル)の弾幕や、“Dargyn”(一人乗り飛行兵器)の機銃弾が飛び交っていたあちらの海に較べれば、無音に等しい。

 

「あっ!……獲れたぴょん!」

「ふむ、これはなんだろうな?」

 

 銛には、木の葉型で、腹の部分が白く、それ以外の部分は黒っぽい魚が刺さっていた。

 整然と鱗が並んだ鱗が綺麗だ。

 

「……これは、“メジナ”だぴょん、お刺身にしても、煮ても、焼いても凄く美味しいぴょん!」

「よし、では、もう少々獲ってみようか、迷惑にならない程度にな」

 

 魚の頭を軽く指で弾いて即死させ、健太から借りてきた氷の入った箱(クーラーと言うらしい)へ納める。

 普段なら、“Parazon”等を使って、血抜きをしたりするのだが、そこまではいいだろう。

 

「す、すごいぴょん……まるで本職の漁師だぴょん!」

 

 指で弾いて魚をしめた時、ほんの少しだけ“Void Blast”を使ったのだが、特に反応はない。

 

(“艦娘”にはVoidパワーを感知する感覚は無いのだろうか?)

 

※“Void Blast”

 ⇒本来は手のひらから、Voidパワーによる強力な衝撃破を放つ技。

 

 少しだけしか使っていないし、彼女が注目してないから見逃しているだけかも知れないが。

 そんな些細なやりとりをしつつ、魚つきを小一時間続けていると、いつの間にかクーラーボックスの中が一杯になってしまった。

 

「すげぇな、ねえちゃん……こりゃ、曲芸だぜ」

 

 さっき、苦笑していた釣り師の男性まで、自分の釣りを止めて寄ってきている。

 

「まぁ、こんなものか」

「いやぁ、いいもん見せて貰ったなぁ」

「ふふん、アイちゃんは凄いんだぴょん!」

 

 感心しながらたばこをふかす男性に、何故か自慢げに腰に手を当てていた“うーちゃん”の頭に、結構な速度で手刀が炸裂した。

 

「うびゃあ!!」

「お前が獲ったわけじゃねえだろ、ったくよぉ」

「ぷぁーっ!あ、頭が割れたっー!」

 

 磯の上だというのに全力で転がり回る“うーちゃん”の首根っこを掴んで持ち上げたのは、眼帯をした“艦娘”だった。

 

「ったく、すぐにサボりやがって、勤務時間中だろが」

「サボりじゃ無いぴょん!沿岸警邏ぴょん!」

「お前は沿岸警邏中に漁まですんのかよ、働きもんだなおい」

 

 彼女が頭を振ると、頭部左右に備え付けられたセンサーが、ふわふわと追随する。

 旧地球の技術としてはオーバーテクノロジーも良いところだ。

 

(あのセンサー、どの程度の性能なのだろうな)

 

「軽巡、“天龍”だ、松雲町海防団所属艦隊で旗艦をやってる、うちのコレが迷惑かけたな」

 

 “天龍”は片手にぶら下げた“うーちゃん”を突き出す。

 最初はもがいていたが、今は脱力しきってぶら下がっている姿は中々哀れを誘う、と言いたいが、舌をだしている顔はなんとなく、反省したジェスチュアではない気がする。

 

(まるで捕まったクアカだな)

 

「いや、こちらは案内して貰って助かった、出来れば余り怒らないでやって欲しいが」

「数少ないお客さんのリピート率を上げるのも、お仕事ぴょん!」

 

 不意に顔を上げて抗議を始めた辺り、予想は当たっていたらしい。

 

「いったぁい!」

「しゃーねぇな、取りあえずこいつは持って帰っから、きぃつけて戻れよ」

 

 今度は拳で“うーちゃん”を黙らせた“天龍”は手を上げて挨拶すると、そのまま帰ろうとする。

 

(ふむ、もう少し押してみるか)

 

「魚を獲りすぎてしまった、君たちの所で貰ってくれないか?」

「あん?」

 

 “天龍”は“うーちゃん”をぶら下げたまま振り向いた。

 

「いや、そりゃ、悪いんじゃねぇか?」

「クーラーボックス一杯になってるぴょん!」

 

 鼻を掻いて、恐らく遠慮している様子の“天龍”にクーラーボックスの中身を見せてやる。

 

「へぇ、ホントに大漁じゃねぇか」

「アイちゃんは、司令官のとこに泊まってるぴょん」

「泊まりかぁ、そりゃ確かに持てあますよな」

 

 “天龍”は少し考え、“うーちゃん”から手を離した。

 

「よよよぉ?いきなり離したら危ないぴょん!」

「分かったよ、うちでちょっと引き取るぜ、残りは提督んとこでさばいて貰えばいいさ」

 

 “天龍”はクーラーボックスを拾い上げると、“うーちゃん”の首にかける。

 

「うーちゃんが持つのかぁ……ぷっぷくぷ~」

「“お客さん”に持たせられねぇだろ、よっしゃ、鎮守府へ戻ろうぜ」

 

 そろそろ日は傾き、降り注ぐ光にはあかね色の風味が混じり始めていた。

 あと少しすると、風が冷たくなり始める頃合いだろう。

 

(地球の上を誰かとこんなのんびり歩く事になるとはな)

 

 前を歩く“天龍”のスキャンを済ませ、感慨に浸る。

 一応、スティール・メリディアンが築いた拠点の様に、一定の平穏が保たれている場所もあるが、当然ながらこのように遊び歩ける場所ではなかった。

 そもそも、Warframeで出歩くのとは、感覚が違う。

 ぴょんぴょん跳ねる様に歩みを進める“うーちゃん”の姿を見ていると、“天龍”が歩を緩めて横に並んできた。

 

「あんた何者だ?」

「“観光客”だが?」

「なら、“武道が達者な観光客”だな」

 

(“武道”……そう言えば、“日本”には“Tenno Schools”の様に体系化した戦いの“道”があったのだったな)

 

 Tennoの戦流儀にも5つに大別される“テンノ道”とでも言うべき技術体系がある。

 艦娘達にも、そんな戦の流儀が伝えられているのだろうか。

 旧地球の文化に触れれば触れるほど、幾ら長い時間が隔たっていようとも、ここが自分達の文化にとってもルーツなのだと感じ入る。

 

「オレも職業柄、ちょっとは使うからよ、何となく分かるんだよ」

 

 確かに、“天龍”の立ち居ふるまいには、何らかの近接武器に熟達した者共通のしなやかさがあった。

 

「気のせいだ、まぁ、ちょっと寝たきりになっていた時期があるから、健康の為、体操と瞑想は嗜んでいるがね」

「そんなもんかねぇ」

 

 “天龍”は、あえてそれ以上の追求をするのは止めたらしい。

 “漁協”につくと、“提督”、或いは“司令官”の青年はようやく1日の仕事を片付けたらしく、コーヒーを片手に大きなあくびをしている所だった。

 

「“天龍”さんお疲れさまです」

「おう」

 

 席から立って迎えたのは、生真面目そうな黒髪の艦娘だった。

 何故か髪の毛が一房、くるりと巻いてアンテナの様に立っている。

 紺色を基調とした“うーちゃん”の制服とは異なり、黒ベースの制服だ。

 細部のデザインも異なる。

 “提督”の前の席に座っている白髪の艦娘は白基調のワンピース。

 事前情報で“艦娘”達の制服は統一されていない事は知っていたが、改めてみると、軍隊組織としての統一感が感じられない。

 

(……一応、艦の製造タイプ毎に違うという事だったな、統一性より、外観からタイプ判別する為のデザインという事か)

 

「全く、午後思いっきりサボりやがって、“卯月”お前、明日は船と工廠の掃除当番な」

「ええ~っ!うーちゃん、明日は近海哨戒当番ぴょん!」

 

 口を尖らす“うーちゃん”に“提督”はくるりと椅子を回して向き直り、ぐっ、と睨み付ける。

 

「そっちは三日月と交代だ、サボったら、ご近所の公衆トイレ全部1週間掃除奉仕させっかんな」

「しれいかぁ~ん!」

「へっ、その方がトイレが綺麗になりそうでいいじゃねぇか」

「う~」

 

 “天龍”に頭をぐりぐりやられてうなりを上げつつ、“うーちゃん”は“提督”の前にクーラーボックスを置いた。

 

「ん?うちのじゃねぇか」

「アイちゃんが、お魚くれるぴょん」

「マジでやったのか」

 

 “提督”が少し驚いた顔で、こちらに眼を向けてきた。

 本気で行くとは思っていなかった様だ。

 

「折角、案内までして貰ったからな」

「凄いわね、アンタより腕いいんじゃない?」

「っせーな、俺だって船出しゃこれ位」

 

 白髪の“艦娘”に揶揄され、妙に気色ばんだ様子を見せる“提督”に若干の既視感を覚える。

 

(Wolfeeか)

 

 Jemmaにからかわれてムキになると、結構あんな感じになる。

 確か、この白髪の“艦娘”、“叢雲”と“提督”は“民宿 長四丸”で生活している。

 寮住まいの他の“艦娘”よりも近しい立場に違いない。

 

「って、それは兎も角だよ……えー、天野さんだっけ、あんた、うちの民宿に泊まってる客だったのか、そんじゃ……こいつは、有り難く貰うけど、寮とうちへの持ち帰りで分けて、礼に飯の内容に色つけるのと、後は何か土産をつけるわ」

「単なる暇つぶしだ、余り気にしないでくれ……ただ、もてなしは有り難く受けよう」

 

 この手の共同体は、一方的な借りを作る事を忌避するものだ。

 相手の返礼は余り拒みすぎない方がいい。

 

「提督、折角だから宴会にしちまおうぜ」

「おいおい、うちは宴会場じゃねえんだぞ」

「いいじゃねぇか、どうせ、他に客なんていねぇんだろ?」

「やったぁ!宴会ぴょん!」

 

 割と本気でむっとした様子の“提督”の肩に腕を回し、“天龍”はにやにやと笑う。

 

「“天龍”さん、失礼ですよ」

「まぁ、お客さんが居ないのは本当だけどねぇ……参加費とれば足しになるんじゃない?」

 

 ぴたりと、提督が真顔になった。

 

「……ま、ただ酒じゃないなら」

「そんなケチな事言わねぇって、なぁ、“三日月”、“卯月”?」

「も、勿論、参加費はお払いします」

「えー……も、勿論、うーちゃんもただ食いなんてしないぴょん!」

 

 今夜はなかなか面白くなりそうだ。

 

To Be Countinued...

 

 





 艦これのイベントが始まり、Warframeは8周年記念イベント期間ですが、皆さんはどのようにお過ごしでしょうか?

 私は、艦これイベントは様子見中です……情報揃ってから楽にやりたいので。
 出遅れるのヤバいですが。

 今日は慌ててWarframeの8周年ウィークリーをこなしてたらヤバい時間になってます。

 そう言えば、8周年の公式ページで振り返りの統計を出力して見ましたが、プライマリとセカンダリが一寸意外な結果に。
 格闘のHIRUDOは確かにずっと使ってるんで分かるんですけどね。
 GRAKATAとKUNAIってそこまで愛用してた記憶がイマイチ無いなぁ。

https://twitter.com/yatugiri/status/1392900794068787200

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