獲りすぎた魚を漁協に持ち込んで始末する流れになるが、宴会好きの艦娘達と、実家の財政を憂う提督の思惑により、急遽、設けられた宴席に招待されるのであった。
どたどたどたと、階段を駆け上がってくる足音が二組分聞こえた。
「ばっか、勝手に!」
「アイちゃん、宴会始まるぴょん!」
木と樹脂が擦れる音を、たーん、という小気味良い衝突音が断ち切った。
閉じていた目を開けると、部屋の襖が開け放たれており、“健太”と“うーちゃん”が立っている。
「何やってんだ……えっと、天野さん、飯の準備出来たぜ」
「ちょっとした瞑想だ」
ゆるやかに印を組んでいた手を離し、結跏趺坐を崩す。
「なんか、坊さんみたいだな……まいっか、みんな来てるぜ」
「そうそう、早く食べるぴょん」
「そうだな、すぐ行こう」
せき立てられるままに宴会場へ行くと、大きめのテーブルを3つ繋げて作られた宴会宅に関係者が勢揃いしていた。
「おっ、今日の主賓がいらっしゃったねぇ」
宴会場の奥から嬉しそうな声を上げて出迎えたのは、ごま塩頭の男性だった。
確か、“漁協”に行った時、奥の方で仕事をしていた様な気がする。
その隣に、“提督”が座っている所を見ると、彼と同格か、上位の権威を持つ人物らしい。
「アイちゃんはこっちぴょん!」
卯月に案内されるまま、宴会場の一番奥、ごま塩頭の男性の前に座ると、ささっ、と卯月が左隣に腰を下ろしてしまった。
右手側の壁には、借りている部屋にもある、謎の板張りスペースがある様だ。
何となく、“良い席”に案内されたのが分かる。
Tenno、卯月、三日月、健太、(叢雲)
田澤、保(提督)、天龍、皐月、文月、(女将)
位置的には上の様な感じとなった。
女将さんと、叢雲は宴会中も給仕をこなす為か、テーブルの端にエプロンを着けて控えている。
「ささ、一杯」
「どうも」
目の前に逆さにして置かれていた透明なコップで、ごま塩頭の男性が差し出してきた茶色瓶の口を受ける。
泡立つ液体が注がれ、軽い刺激臭が鼻をくすぐった。
周りを見ると三日月が天龍に飲み物を注ぎ、天龍は三日月に注いでやっている。
(成る程)
手元に用意されている茶色瓶を取って、今度はごま塩頭の男性に差し出す。
「悪いねぇ、ありがとさん……っと、っと」
泡が溢れない程度に注いでやると、嬉しそうに目尻が下がったので、正しい作法を行えた様だ。
全員に飲み物が行き渡った事を確認し、彼が立ち上がる。
「えー、本日はお集まり頂き、ありがとう御座います……普段から漁場の安全を守っている諸君らの働きには村民全員が感謝して、るのは分かるじゃろ?」
「よっ、大統領!」
「早く呑もうよ~」
にっ、と笑って言葉を切った彼に、艦娘達からヤジが飛ぶ。
「へへっ、上司の祝辞とスカートの丈は短い程いいってな、後は、若大将に任せよっかね」
「げひん~」
「全く、セクハラだよ」
ブーイングが飛ぶ中、平然と腰を下ろした彼は、“提督”の背中をばしん、と叩く。
「この空気で投げんのかよ!」
不承不承立ち上がった保提督は、咳払いをする。
「正直、いつもの呑み会なんで、言う事ねぇんだけど……まぁ、今日は天野さんの大漁祝い兼歓迎会って事で、兎に角乾杯!」
『かんぱーい!』
なし崩し的に乾杯の音頭がかかり、全員が飲み物に口を付ける。
(旧地球では、会食の時に全員で飲み物に口を付けるのが習慣なのだな)
飲み物は酸味と苦みが強く、気泡が口全体を刺激してくる風変わりな酒だった。
飲み慣れれば美味いのかも知れない。
挨拶が終わった後は、一斉に艦娘達が酒食に手を付け始めた。
落ち着いてテーブルの上を見てみると、一人一人に銛でついた魚の煮付けが一尾ずつ配され、白い穀物が盛られた椀が添えられている。
そして、料理が盛られた大皿がテーブルの真ん中に幾つも置かれていた。
各人のコップが伏せられていた小皿に取って食べるらしい。
シータスを思わせる、素朴なスタイルの会食だ。
(安全が確保出来る様になったら、Zanaもどこかで上陸休暇させてやらないとな)
宴会は実に騒がしくすすみ、酒の入った艦娘達が赤い顔をしながら酒を飲み、料理に舌鼓を打ちながら楽しげに雑談に興じている。
女将と叢雲は、空になった料理の皿を下げたり、酒瓶を追加したりと、忙しく立ち働き、健太もつまみ食いの合間に手伝っている様子だ。
「へぇ、東京の方からきなすったんかい、わざわざこんなとこまでねぇ」
そんな中、私は目の前に座ったごま塩頭の男性を相手していた。
このごま塩頭の男性は、田澤といい、ここの鎮守府“松雲町海防団”の団長らしい。
隣に座っている“提督”の保(たもつ)は副団長となる訳だが、田澤は“松雲町消防団”という防衛組織のトップも兼ねている為、“副団長”かつ“提督”である保が、実質的には“松雲町海防団”の代表を務めているらしい。
「静かな所で、少し海を眺めながらゆっくりしたくなってな……しかし、“ニュース”では、“自衛隊”所属の“艦娘”達の活動はよく流れているが、彼女達は“漁協”の所属なのだな?」
「ああ、よくある民間の鎮守府さ、漁は水産庁、警備の時は大本営のくくりだから、そこんとこ二重に申請したり、報告出すのだるいけどな」
「まぁ、うちみたいな村が、あきちゃん達にこうして守って貰えんのは、鎮守府の助成があるからだしな」
“国”が持つ軍隊以外にも、“艦娘”の保有が認められているという事前情報は掴んでいる。
(恒常化した防衛コストを、各地の自治組織に助成金付で分担させる施策が取られているらしいと、Timothyは言っていたな……しかし)
「あきちゃん……?」
鎮守府の関係者だろうか。
「“叢雲”の事ぴょん!」
酒を呑むにつれ、どんどんべったりとくっついてくる“卯月”が、何か隠し事でもするかの様に、耳元で叫ぶ。
実に酒臭い。
「勝手に人の名前、バラしてんじゃ無いわよ!」
「い゛っだぁ!」
縦にしたお盆で音が出るほどどつかれ、悶絶している“卯月”の前から、“叢雲”が空になった食器を下げる。
“艦娘”は艦名以外にも、何か個を特定できる名称を持っているらしい。
そう言う風習なのかも知れないが、“叢雲”の様子を見る限り、不特定多数に開示するのは好ましくないものなのだろう。
「大体、“卯月”お前、お客さんに馴れ馴れしすぎだろ、ちったあ、遠慮しろや」
となりに座った“卯月”は腕が当たりそうな程近くに座っていたのだが、保提督の叱責を受けると、ますます密着してきた。
まるで、体を擦りつけてくる小動物である。
「アイちゃ~ん、髪ぼっさぼっさで、ひげも剃ってないむさ苦しいおっさんが苛めるぴょん!汚いヒゲなんか生やしてるから、彼女もできないし、嫁も来ないんだぴょん!」
「ひ、ヒゲはかんけぇねぇだろ!」
「そうねぇ、保もちょっとは身ぎれいにしないと、女の子ばっかりの職場なんだから」
思わず身を乗り出した保提督は女将さんに笑いながら窘められてしまい、そそくさと腰を下ろし、茶色い飲み物を啜り始める。
「ター坊、こんだけ綺麗どころが沢山居る職場なんてそうそうねぇぞ、文句言ってたら、青年団の連中にどつかれちまうわ」
「これだから、昭和のおっさんはよぉ~、今はそう言うの色々うるせぇんだよ、ホントに“憲兵”がとんで来ちまうんだって、大体、“天龍”以外は見た目の歳的にやべぇだろが」
田澤に肘でつつかれた保提督が、若干愚痴っぽく吐きだす。
“憲兵”というのは、確か“艦娘”達に関わる案件専属の治安組織だった筈だ。
「へへっ、大丈夫、大丈夫だって、海防艦の子達と結婚してる人も一杯居るんだしさ」
「流石に、マジで結婚したダチが連れてる子供ぐらいの子はいっくらなんでも、無理だろ!ぜってぇ、道ばたで会う度に、子供背中に隠されるぞ」
どんどんげんなりしていく保提督を肴に、“皐月”と“文月”はくすくすと笑っている。
“提督”の職場事情も色々と大変らしい。
「ふむ……そう言えば、違うものを飲んでいるのだな」
保提督の席に置かれた瓶だけ、他と貼付されているラベルが異なる。
「あ~、ここにゃ、俺しか“提督”居ないしなぁ、酔っ払っちまう訳いかねぇんだ」
どうやら、彼が飲んでいるのは、酒の様に見えるが酒では無い何からしい。
「へへっ、俺たちばっかり呑んじまってわりぃな、コレばっかは“艦娘”で助かるぜ」
保提督の横に座った“天龍”が、肩をばしばしと叩きながら、酒を呷る。
「“艦娘”は酒に酔わないのか?」
「酔っ払うよ~」
「僕らは、“艤装”を展開すれば、アルコールなんてすぐ燃えちゃうからね、酔いなんてすぐ醒めるよ」
疑問をそのまま口にしたら、顔を赤くした“文月”と、“皐月”が口々に答えてくれた。
“艦娘”は飲食したものを彼女達の機械部位、“艤装”で燃焼させる事が出来る様だ。
確か、“艦娘”の生理学的な資料はChiaraが見ていた筈だが、経口摂取した人間用の食物がどうなるかまでは聞いていない。
(戦闘活動には、機械的な燃料が必要だとは聞いているが……)
そう言えば、今回の目的には、“艦娘”達の消費資材についても分析用のサンプルを入手する事が含まれていた。
そう、これは“休暇”ではない……)
潜入ミッションだ。
「なんだ、なんだ、コップが空いてるじゃねぇか、呑め呑め」
上機嫌で透明な酒を呑んでいた天龍が、小さなセラミック製のコップにそれを注いで勧めてくる。
先程とは又違う、穀物の匂いがする酒だ。
「天龍さん、無理に勧めるのは良くないですよ」
「そーだ、そーだ、アルハラだー」
「いいじゃねぇかよ、一杯ぐらい、そういや、あんた、大分お堅い口調だけどよ、どっかのお役所勤めか?」
“三日月”と“皐月”の抗議を押しのけ、“天龍”が身を乗り出す。
「ふむ、普通に喋っている気がするんだが、“堅い”のか?」
「流石に艦娘でも、そんなしゃべり方する人、あんまり居ないよぉ~」
一応、割と“標準的な”日本語を喋っているつもりなのだが、標準的過ぎたのかも知れない。
何かを思い出した様に、“三日月”がくすくす笑う。
「ちょっと、訓練所の教官を思い出しますね」
「ああ、確かにな」
酔いか、笑った為か目尻に滲んだ涙を拭っている“三日月”に、“天龍”もにやりと笑う。
「天龍達の教官って言うと、那智教官だったっけ?」
「でもなぁ、あいつは、酒の席になると、こんな涼しい顔してなかったぜ」
軍隊教練の教官扱いされる程となると、“堅い”と言うよりはもう“威圧的”なしゃべり方になっているのかも知れない。
のんびりしに来た観光客”という偽装には、些かそぐわなかったのは間違いなさそうだ。
とは言え、今更変える訳にもいかないだろう。
「まぁ、仕事としては“害虫駆除作業”か、書類手続きが好きそうな所に出入りするから、堅めの喋りになれてしまっているのもあるな、正直この方が楽だ」
「財閥系か公共案件ってやつか、まぁ、このご時世でも親方日の丸なとこの支払いは一応いいみたいだしな」
『オペレータはいつも宇宙の害虫退治にせいを出していらっしゃいますので、大変適切な表現……グリニア?コーパス?センティエント?……ドレモニタヨウナモノカ』
宴は3時間程度でお開きとなった。
「じゃあ、又、明日な」
「ねむいぴょ……ん」
「おい、ここで寝るな!」
「もぉ、しょーがないなぁ、文月、そっちもって」
「えー」
「皆さん、おやすみなさい」
自室の窓から玄関を見ていると、保提督に見送られて、皆が帰宅する所だった。
田澤は帰宅し、“天龍”達はぐずる“卯月”を持って、寮へ引き揚げていく様だ。
“叢雲”は女将さん達と片付けをしているのだろう。
(中々、興味深かったな)
ひとまず宴会の中で、充分に“艦娘”達と“提督”をスキャンできた。
(やはり、こういう風俗とか、空気感の様なものは直接接触しなくては分からないからな……さて、少し瞑想しておこう)
皆が寝静まった頃、顔を合わせない方が分かる事を調べる必要がある。
To Be Countinued...
時期が開いちゃってすみません。
そろそろ艦これのイベントも前段作戦に援軍が来て……ますが、色々ありまして、全然攻略に着手出来てません……orz
Warframeもそろそろアップデートの情報が出て、新フレームの“Yareli”が紹介されてましたね。
パッシブスキルはあざとさですか?って位のフレームですが。
中々楽しみな事です。
武器も大量に追加されるみたいですね。(20位?)
さて、ここの所のんびりと休暇を楽しんでいたTennoですが、次回からはお仕事の時間が始まる予定です。
次は、もう少し早めに投降出来れば……イベント攻略しながら書けるかな~