増援要請。
それは、平穏に感じられていたこの世界でも、確かに戦が続いている証。
Tennoの日常。
休暇の終わりが近づいていた。
『オペレータ、面白い事があった様ですね』
Ordisの声に漂わせていた意識が収束する。
元より眠っていた訳ではない。
階下から通信端末のコール音が聞こえ、慌ただしい気配が生じているのが耳に入った。
耳を澄ますと、保提督と“叢雲”の囁きが幾度か聞こえ、玄関の開け閉めされる音と共に、二人分の足音が離れてゆく。
一人は鈍く重い長靴の音。
もう一人は独特の硬い、だが軽やかな足音。
『何かあった様だな、Ordis?』
『はい、別の“鎮守府”から支援要請があったようですね……オペレータ、ついてゆけばちょっとした“小戦”が見られそうですが』
Ordisの言葉を聞きながら、瞑想体勢を解き、基本動作をゆっくりと実行して軽く体をほぐしてゆく。
こそりとも音が立たなかった事に満足し、目を開ける。
『いや、今回はあくまでも“空気”を吸いにきたのと“靴慣らし”が目的だ、そちらの方は次に回そう』
『ナンダツマラナイ……いえ、当初の目的を見誤らない賢明なご判断です、オペレータ』
部屋に灯りは無いが、窓から差し込む月光で充分に明るい。
単純な動きでは、闇を味方にするのは難しいだろう。
『“提督”と“艦娘”達の動きはどうだ?』
『オペレータ、保“提督”は、4隻を支援艦隊として抽出した様です……クラス識別コード“天龍”、“三日月”、“皐月”、“長月”が出動し、既に現地へ向かっています』
しばし、耳を澄ましても、染み入る様な静寂が返ってくる。
他の住民は休んでいる様だ。
彼らにとっては、この程度は日常なのだろう。
布団から身を起こし、鞄から小さな人型を取り出して布団に置く。
少し、Voidエネルギーを注いでやると、一瞬で布団の上にもう一人の自分が出現した。
「急ぎだったからな……」
出現した全裸のコピーに若干顔をしかめつつ、備えつけの浴衣を放ってやる。
無表情のままだが、コピーは滑らかな動作で浴衣を身につけ始めた。
これは、Warframeやクリーチャー、その外、特定の人物のクローンを一時的に作り出す、“スペクター”の技術を応用して作り上げた“身代わり”だ。
通常の“スペクター”は追従しながら、敵として設定された相手と戦う自律兵器に過ぎない。
だが、この“身代わり”は“Ordis”が操る事ができるし、使いどころは余り無いが、私もWarframeの様に操る事ができる。
「オペレータ、留守番はおまかせアレ」
無表情な自分の口からの“Ordis”の言葉が出てくるのは、あまり愉快な光景ではない。
健太に見せたら、怯えさせてしまいそうだ。
せいぜい狸寝入りをさせている間に、用事を済ますことにしよう。
鞄を部屋の中程に引き出し、部屋の端から“Void dash”で突っ込む。
鞄を突き抜け、“Void dash”から抜け出ると、慣れ親しんだ感覚に全身が覆われたのを感じる。
(ふむ、問題無さそうだな)
全体的にひらひらとしたドレスの様な意匠のボディにほっそりした手足。
右腕にはフリルのついたアームドレスがあり、腰から下は、後ろ側に向けて丈が長くなるフィッシュスカートがふわりと覆う。
ヴェールの様な意匠が施された頭部を軽く俯かせている姿は、どことなく貞淑な淑女然とした印象を醸し出している。
Warframe“YARELI”。
小柄で華奢に見えるこのフレームは知らぬ者が見れば、到底戦える様には見えぬだろう。
しかし、水を操り、生体K-Driveを操る“YARELI”は侮れば間違い無く手痛い目に合わされる相手だ。
Warframeである以上、それは変わりが無い。
窓枠にちょん、としゃがみ込んでから、勢い良く宙へ身を踊らせる。
銃身から弾き出される弾丸の様に回転を加えた“バレットジャンプ”、空からふわりと獲物へ迫る“エイムグライド”へつなげ、接地の瞬間、“スライディング”の型に切り替え、伝わるべき衝撃を滑る力に変え、静かに民家の屋根に降り立つ。
この時間になると、村はすっかり静まりかえり、明かりは弱い月明かりと、僅かに設置された街路灯だけだ。
。
裸眼では暗がりに身を潜めた者を視認することは困難だろう。
聴覚にも、エネミーレーダーにも動体反応はない。
足に力を込め、昼間のうちに確認しておいた目標地点へ、屋根から屋根へ跳び移りながら向かう。
特に外出禁止令が出ている訳ではないが、酔漢が出歩いている様子もない。
漁村の夜は早いという事だろう。
“漁協”まで問題無く移動すると、中に灯りが点いている。
そっと、海側の迄から中を伺うと、昼間艦娘達が詰めていた机の島周辺だけ照明が灯っており“提督”と“叢雲”が何か相談していた。
その隣では“卯月”が机に突っ伏して眠っている。
(今、この漁村の守備戦力は、“駆逐艦”が2隻……2人、近隣に正規軍の確か、“海上保安庁”所属の艦隊も駐留している筈だが、何かあった時に増援が間に合うかは怪しいな)
これからやろうとしている水遊びに余計な茶々が入っても、接触を回避するのは容易だろう。
窓から離れ、漁協の近くに建てられているガレージへ走る。
防波堤に守られた港の一角に建てられたガレージは、水面に張り出す様に作られていた。
水面から直接ガレージに上がれる様な構造になっている様だ。
(流石にセキュリティはあるな)
地上側の入り口付近にはカメラが仕掛けられている。
ドアも施錠されているだろう。
“YARELI”の第2パワーを発動し、“Merulina”を召喚。
楕円形のまるで平べったいクラゲの様なそれに跳び乗り、水面に滑り降りる。
“Merulina”は“YARELI”に付き従う生体K-Drive、ホバーボードだ。
どの様な地形であろうと高速で滑走し、主への攻撃は身をもって防ぐ。
体の一部と言っても良い存在だ。
(……センサーの類いは無いな)
水面からガレージに伸びているスロープ側は観音開きの扉が閉じられているが、外側から閂で抑えてある程度で他にセキュリティを仕掛けてある訳でも無さそうに見える。
殆ど座り込むまで腰を落としてスロープと扉の下の空間をくぐり抜け、ガレージの中へ滑り込む。
ガレージの内部は作業台にエンジンクレーンが数機、壁掛けの工具収納に、鍵のかかる備品棚が幾つかあり、風呂桶が2つ設置されている。
上ってきたスロープの中央は艦娘サイズのドックになっており、注水と排水で乾ドック、湿ドックの両用可能に造られているらしい。
『“艦娘”は最小単位ならこの程度の小規模設備で運用可能という訳か、思ったより簡便な兵器なのだな』
『グリニアの前線キャンプよりは大分ましですね、オペレータ、少なくとも小綺麗です』
確かにシンプルな金属工具や設備が並んでいるのは、何となくグリニアっぽさを感じさせるものはある。
しかし、KUVA要塞のエリート部隊でもない限り、何処を見ても整理整頓とはほど遠い、と言うよりは廃品置き場じみたグリニア軍のガレージや居室に較べれば、床に燃料缶一つ落ちていないこのガレージは、グリニア軍の基準としては不合格だろう。
ひとまず“Merulina”から降り、設置されている備品類をスキャンしてゆく。
どれも構造は原始的で、構成している物質も今までの調査で判明した、この地球では一般的な素材である。
特別なものはない。
『そうなるとこの中か……』
備品棚についているのは、原始的で簡単な錠前だ。
だが、原始的であるが故に、“Warframe”の手首にしこまれたブレード状の“Parazon”でハッキングする訳にもいかない。
壊してあからさまな痕跡を残すのも出来れば避けたい所だ。
『……地球の原始的な錠前ならどれでも開くとは言うが』
所持しているギアから、“RETRO CIPHER”を取り出す。
見た目は、人差し指と親指の輪で握り込める程度の短い金属円柱だ。
片側の端が黒い樹脂の様な柔軟な素材と融合しているが、それ以外何の装飾もない。
“樹脂”の部分を錠前に押しつけて反対の端を撫でると、それは幽かに一瞬震えた。
そっと回すと、カチャリと錠前が解除された音がする。
引き抜いてみると、黒い物質で“鍵”が形作られていた。
(“Wolfee”の玩具も役に立つものだな)
“RETRO CIPHER”は、“Wolfee”の私物に入っていた子供用玩具の備品だ。
正式名称は“保護者様用玩具箱マスターキー”で商標登録されているらしいが、流石に呼びづらいので“Timothy”の提案でギアとしての呼称をつけた。
名前はどうあれ、役には立ちそうだ。
もう一度筒の尻を撫でて鍵を消し、他の棚の錠前も最初の備品棚を同様に解除する。
それぞれの備品棚には、緑色の円柱缶に砲弾と魚雷のミニチュア、インゴットが2種、“修復”と書かれたバケツ、そして、予備の火砲と魚雷発射管が格納されていた。
(かなり無造作なしまい方に見えるが、問題無いのだろうか?)
鍵がかかるとは言え、単純極まりない錠前だし、棚の構造材自体1mmあるかどうか、ペラペラの鋼鉄製だ。
盗難以前に、爆発、火災の危険がありそうな気がする。
そんな事を考えつつ全てをスキャンし、少量ずつサンプルを回収してゆく。
やってる事は完全に窃盗だ。
『やはり、この“補給物資”からは幽かにvoidに類似した反応を感じるな……』
『Tennoの居ない世界のvoid……オペレータ、この世界にもvoid空間はあるのでしょうか?』
一通り回収し終わった所で錠前を元通り閉鎖し、時間を確認する。
『あるかも知れないな……あそこは、時間も何も確かなものは何もない、確かなものになるか、確かでない事を受け容れるか、或いは確かでありながら不確かでありつづけるか、いずれにせよvoidに求めてはいけない、どうあるかは自分のあり方次第だ、あると思えばあり、無いと思えばない
『オペレータ……Ordisはまだ理解するには遠いようです、LotusやTeshinならもっと理解できるのでしょうか?』
Ordisからの返答には若干の間があった。
リソースを割いて、voidについての思考処理を実際に走らせていたらしい。
『voidは“理解”する様なものではないよ』
実際、生涯をかけて修行し、研鑽を積んだ所で“理解”する事は絶対にないだろう。
まぁ、知識探求の為に世界を喰らい続けるセファロンSimarisなら、その内何らかの答えには達するかも知れない。
『しかし、“艦娘”やはり興味深いな……こうなると、設備の整った大規模な基地も、“深海棲艦”側の拠点も調べてみたいものだ』
『“艦娘”側の基地なら“Timothy”が潜入工作員を手配していますから、その内手に入るかと思いますよ、“深海棲艦”の施設は“Braid”に見繕わせてミナ……潜入ミッションですね、オペレータ』
『ああ、面白くなりそうだ』
“Merulina”に跳び乗ってスロープを滑り降り、港の水面を滑走。
防波堤をジャンプで超え、“テール プランカー”から“コプター”、“フロントサイド ロールアウト”そして、“ノーズ クラッチ”のトリックを決め、感覚が鈍っていない事を確認する。
『問題無いな……Ordis、このままテスト予定の座標へ向かう、“Stain”の様子はどうだ?』
『最終調整中じゃ、しあがっとるぞぉ……楽しみじゃわい』
Ordisの返事より先に、“Stain”の興奮した含み笑いが聞こえる。
『Ordis?』
『あ~、オペレータ、行動糧食は摂取させたんですが、1日だと仮眠は無理でした……Ordisの介護ルーチンはまだまだ改善の余地があるようです、あ、おやつの時間は死守しましたよ、“Zana”が焼いてくれた非常用のビスケットはみんな大好きなおやつですからね』
誰も止める者がないランディングクラフトの中で、“Stain”は存分に機械いじりを充分に堪能したらしい。
(終わったら、一端返すか……)
一段落付いたら流石に寝るとは思うが、あのご老体の場合、それば寝台の上とは限らない。
眠くなったら、床の上でごろりと一寝入りという事もある。
密航同然とはいえ、面白そうな玩具を持ってきてくれたのはいいが、調子を悪くされてもまずい。
『Ordis、海域の確保を頼む』
『了解ですオペレータ、先行して海域を確保します』
凪いだ外海に月明かりが反射し、きらきらとした銀色のアクセントを加えていた。
波の上を滑走するK-driveは穏やかな波からは何の影響も受けず、快適に滑走し続けている。
Warframeの表面を撫でる空気と、風鳴り以外は世界から消えてしまった様な孤独感。
月だけが冴え冴えと見下ろしている。
『オペレータ、出撃していた“天龍”達の艦隊が会敵しました……通信によると、揚陸艦を伴った“連合艦隊規模”の敵の様です、更に増援を要請中……“空母級”、“戦艦級”が混じっている為、軽量編成の彼女達は、戦力的に不利との判断でしょう』
『“連合艦隊規模”確か、12隻程度で組まれた艦隊だったな……分かった、Ordis、戦局に変化があったら続報してくれ』
“深海棲艦”は“艦娘”と同様にサイズとしては非常に小さい、おまけに、襲撃場所の付近に来るまで浮上しない、“拠点襲撃”パターンの“深海棲艦”はどうしても探知が遅れる。
本格的な増援を最初から要請出来なかったのはそのせいだろう。
(こうしてみると、“深海棲艦”の強みは我々の“Warframe”と同じだな……やはり、あちらも少し見てみたかったも知れんな)
今夜は“Stain”が密航まがいのサプライズで持ってきたおもちゃのテストをしにきたが、特にイベントが無ければあちらを覗きに行っていたかも知れない。
そんな事を考えつつ滑走していると、すぐに通信が入った。
『オペレータ、問題発生です』
『どうした?』
Ordisから、ミッションマップが転送され、視界に表示される。
軽量編成の“深海棲艦”に揚陸艦タイプが随伴している様だ。
それに向かう“艦娘”のアイコンも二つ表示されている。
『付近で“深海棲艦”の艦隊浮上を検知しました、推定目標は“松雲町海防団”の施設でしょう、付近には人口密集地はなく、他に軍事拠点もありませんので……既に、“叢雲”、“卯月”が迎撃に出ています、“艦娘”側の兵装の有効射程圏内まで17分程度、村には既に警報が出ており、住民はシェルターへ避難中です……オペレータ?』
完全編成の“水雷戦隊”を二隻の駆逐艦で阻止するのは困難だろう。
『“Stain”、準備はできているか?』
『まかせんしゃい!』
“玩具”のお披露目には丁度良さそうだ。
ぶっつけになるが、それは何時もの事だろう。
『すぐにランディングクラフトを合流ポイントへ移動させます、オペレータ……ド派手にイキマショウ!』
To Be Countinued...
と言う訳で、短いようで長かったTennoの休暇は終わります。
本当に更新が空いてしまって済みませんでした。
次回は、ちょっと視点が変わる予定です。
Warframeは長かったNightWaveの幕間が終わって、新しく何か始まりましたね。
艦これはもう、夏イベントが始まりそう……“比較的”小規模なんて言葉を信じるのは難しいですね。
資源がまだ回復してないなぁ。
次回も、宜しくお願い致します