そこで待ち受ける者は?
~Side Tessai:オービター船内~
「Kid、やっぱ怒られるのかなぁ」
Dojoを持たぬ、“家なき子”状態のTennoにとって移動する“我が家”である船、宇宙キャンピングカーと言うには些かデカいオービター船。
椅子すらない、人型をした生物にはちょっとばかり優しくないそのブリッジで、青年は横臥していた。
もっと正確に言えば、床に左肘をついて、手のひらは左耳の上辺りを支え、上側になった右足はまっすぐに伸ばされたままゆっくりと足先が頭にくっつきそうになる程の角度で開閉を繰り返し続けている。
かと思えば、体を捻って両足を跳ね上げ、背中の半分程を床につけ、肘をついた両手は腰に添え、天に伸ばされた足をペダルを漕ぐようにゆっくりと力強く動かす。
そして、更に体全体を捻ると、今度は地面に両手をついて体を真っ直ぐに伸ばした倒立の状態になり、ゆっくりと腕を屈伸させ、頭頂部が床につくかつかないかまで下げると、今度はゆっくりと元の状態まで戻してゆく。
その最中、伸ばした足は揺らぐことなく真っ直ぐに天井を指したままだ。
そんな青年の姿を、コンソールの端に止まって見下ろす金属製の猛禽が首をこきっ、と傾けで口を開く。
「相棒はホントに落ち着きがねぇナ、そんなことダカラ、Emberより暑苦しいとか、Atlasより脳筋だとか、そんなに筋肉が好きならHildryn姉貴と結婚しろとか、Ashよりくさそう、オマエなんかドMのHarrowがお似合いだ、NidusよりばっちいからYareliちゃんの周囲1パーセクに近づくな!とか、フレームに比べて体がガチムチ過ぎんだろ!やっぱりくさそう!なんて言われるんダゼ」
「おい!Nidusくんは悪くねぇだろ!バイキン扱いすんじゃねぇよ!バイキンよりたちわりぃけど!つーか、ほぼほぼ、“アイツ”が言った悪口じゃねぇか!いや、改めて聞くとひでぇな、もう、フレーム達の事は悪く言ってやんなよなぁ」
セファロン“Kid”の端末ドローンは呆れた様に翼を開いてため息を吐いた。
肩も無いのに、両手を挙げて肩を竦めている様なやたらと人間くさい動作である。
「オマエがヤラカシテ、Lotusにお小言をモラウのなんていつもの事ダロ?相棒は今までに喰ったキューブ飯の数を憶えておく方なのカ?」
「おいおい、そこは、いままで救った人の数とか言うとこじゃねぇの?」
にべもないKidの言葉に、青年は倒立腕立てを、片手倒立腕立てへシフトさせながら苦笑する。
「そんなダセぇ事気にする様なヤツじゃないダロ、相棒ョ?」
「まぁな」
更に汗一つかかずに、一通りTenno流の“その場でできるストレッチ術”をこなしてから、青年はLotusからのミッション依頼を確認する。
「“確保”ただし、対象は逃亡しない為、粒子化せずに、“救出”、“脱出”の時同様にエスコートを行い、目的地点まで移動せよ、道中の敵対的存在、目撃者は抹殺せよ……ね」
やけに細かい指示である。
基本的にLotusの指示はシンプルで明確なものだ。
Tennoは割と、“悪党共は俺が破壊し尽くすだけだぁ!”だの、“最終的に全員殺せば良いのだ!”みたいなやべぇ連中だと思われているのだが、適者生存の掟の中、幾多の死線を潜り、生き残ってきた者として、極限状態の判断力と生存能力に秀でているのも特徴の一つだ。
なので、明確な作戦の目標さえ与えておけば、結果には各自、独自のアプローチでたどり着くものなのである。
まぁ、その目標達成の手段が多々、暴力まみれになるのはご愛敬だ。
origin太陽系で、もっとも話者の多い言語が、肉体言語(ぼうりょく)なのだから、仕方ない。
(なんか妙だが、ま、いきゃわかんだろ)
青年はブリッジのモニターに映るTenno達にとって浅からぬ因縁の地、Luaの月……正確にはその残骸へ目をやり、すっくと立ち上がる。
「じゃあ、行くか相棒!」
「おう、Kidはいつでも準備ができてるゾ!」
~Side Tessai:Lua Secret Outpost~
砕けた破片の中で、まぁまぁ大きめのものの一つへ、ランディングクラフトで接近し、降り立つ。
「いつ来ても辛気くせぇ場所だぜ……」
かつて栄華を誇ったOrokin帝国が権力の御座とした地球の月。
だが帝国と共に砕け散った月は今や残骸でしかない。
Orokin文明の遺跡を内包した残骸は、そんな大きなものでもないのに、確かな重力があり、まるで地球タイプの惑星地表の様に歩む事ができた。
「相棒、この先、“お客さん達”で一杯だぜ、いつもみたいに、飲んだくれで一杯の酒場よりひでぇ有様だ」
「お、いいねぇ、賑やかだぜ!」
いつぞやの“事件”でvoid時空へ隠されていたLuaの残骸群が通常空間へ吐き出されて以来、CorpusとGrineerの連中がOrokin時代のお宝探しに血眼で出没する様になり、更には、遙か昔に退治したはずの機会仕掛けの害虫野郎共……センティエントまで彷徨くカオスな空間となってしまった。
「前はまぁ、安全だけど墓場みてぇな場所だったからな、こっちの方が面白ぇや!」
「イヤ相棒、一応ここにはTennoの秘密基地が残ってるんだゾ、あんまり“面白い”のも困りもんダ」
Kidのつっこみをよそに、青年は嬉々として、またも生身で敵のただ中へひた走ってゆく。
手頃な小集団が争っているの見つけると、Grineer側の背後からひょっこり現れて、Lancerの丸っこく装甲された頭部を掴むと、ぐいと百八十度回転。
真後ろになった顔をまさぐりながら倒れてゆく体を後に、床に向けて振り下ろされるHeavyGunnerの拳をそっと包み込み、“軸をずらす”。
本来、周囲の者を全て弾き飛ばす程の衝撃を発生させる衝撃エネルギーが天地を逆転させて放出され、HeavyGunnerは背中、肩、後頭部の三点着地をキメると、逆さまのままぴくりとも動かなくなった。
さて次、と移動しようとした青年が不意に飛び退く。
異様なエネルギーを発しながら、半透明の何かが現れる。
ソレは、歪んだ三角形を集めて構成された様な、いびつな様でいて、それなりの法則性を感じさせる人型のもの。
ペンチを逆さにした様な本体に付属物がついており、胸の部分には光体が蠢く。
本能的な忌避感を抱かせるその姿に、CorpusCrewman達が手にした武器を撃ちまくるが、光弾はことごとくすり抜け、遺跡の壁に吸い込まれてゆく。
「相棒、オキュリストだ、すぐにたんまり湧いてくるゾ!」
「おう!害虫共が、くびり潰してやるぜ!」
センティエントの尖兵、偵察型のオキュリストにTennoが観測されると、その周囲はちょっとばかり騒がしくなる。
「そらきたゾ!」
どこからともなく、ふわり、と数体の異形が姿を現す。
全体的なデザインは偵察型のオキュリストと似通っているが、透けてはいない。
そして、紅白に塗り分けられた個体は両手がバチバチと帯電したブレードになっており、赤い個体は両手に錫杖の様なものを握っている。
「バタリスト三体、コンキュリスト四体!なんか、ちょっと多くない力?」
「サービスがいいねぇ、おっ、“観客”も増えたじゃねぇか」
騒ぎを聞きつけたのか、近くでドンパチしていたCorpus、Grineerの両軍の分隊が集まってきたらしく、長方形の小ホールは満員御礼状態だ。
実体弾と光弾、ビームが乱れ飛び、両軍とセンティエントファイター達、ついでに青年にも降り注ぐ。
「おっと!」
VoidSlingで短距離を瞬間移動した青年は勢いのまま肘を突き出してGrineerNapalmの顔面をめしゃりと凹ませると、その手からOgrisを引ったくり、空中のバタリストへぶち込んだ。
特別仕様のナパームロケット弾は若干弧を描いて短い飛翔を終え、ふよふよ浮いているバタリストと、ついでにその足下にいたCorpusCrewman達に景気よく炎をぶちまけた。
「Corpusのクローンはよく燃えるなぁ、相棒」
「“そっち”はな」
全環境用の戦闘用スーツの耐熱限界を超える高温をくらい、灼熱のファイヤーダンスを踊り狂うオーディエンス。
その間から、全身を炎に包みながら、全く動きを鈍らせないバタリスト達が空中を滑ってくる。
足下のScorchを蹴っ飛ばして、宙にバラけた予備弾を掴んで再装填、更に火炎をぶち撒く。
流石に高熱にあぶられ続けた外装に小さくない罅(ひび)が入り始めるが、不意に赤いオーラが揺らめくと、それが止まる。
「火に適応されたゾ」
「あぁ、うぜぇなぁ」
青年はOgrisをバタリストへ投げつけると、間髪入れずに走り出す。
帯電剣の一閃で真っ二つに切り裂かれるOgrisとその先のバタリストを通過する軌道へVoidSling。
バタリストの眼前に実体化した青年は、振り切られた腕へ手を添え、更に肩を傍目から見ると優しくすらある動作で、ぽん、と叩いた。
すると、バタリストの肩が内部からの圧力に耐えかねた様に爆ぜ、あっさりと腕がもげる。
更にVoidSlingして突き抜け、天井へ着地した青年は手にしたモノを投擲し、更に跳ぶ。
青年の背後で光体を斜め上から己の剣で貫かれたバタリストが糸を切られた人形の様に床へ落ちてゆく。
それが床に触れぬ内に、空中で前屈でもする様に体を丸め始めたバタリストへライダーキックが突き刺さる。
地面に激しく激突したバタリストは水切り石の様に吹っ飛びながら円形のエネルギーオーブを形成し、周囲に大量のオレンジ色のレーザーをまき散らす。
ぽんぽん跳ねながら光を放射する様は、紅白ミラーボールめいていっそユーモラスでさえあったが、その周囲では次々にCorpusとGrineer達がキロ幾らのサイコロ肉へ加工されていく精肉パーティが開催されており、実に笑えない状況であった。
「おっと」
着地した背中にコンキュリストの錫杖が振り下ろされる、が、着地がそのままスライディングへ移行していた為、紙一重で残像を通り抜けるのみ。
そして、攻撃を失敗を悟ったコンキュリストが放った逆手の錫杖突きは、床で横転した青年の掌中に捕らえられていた。
軽い一捻りにどれだけの力が込められていたのか、錫杖を捻り取られたコンキュリストの手からはうっすらと白煙が散る。
「らぁっ!」
離れようとする動きが不自然にがくりと止まり、伸び上がる様に吸い込まれた錫杖の一突き。
光体を貫かれたコンキュリストの四肢から力が失われ、がくりと垂れ下がる。
その背後で体を折り畳み終わるバタリストの姿を確認し、青年は錫杖ごと踏んづけていた足を蹴り上げ、そのままコンキュリストのボディを盾に、オレンジ色の殺人光線を堪え忍ぶ。
シールドを失ったボディをちりちりと刻む光線が網を成し、動けぬ青年へ左右から二体のコンキュリストが殺到する。
音より早く振り下ろされた二対の錫杖が、息絶えたコンキュリストの遺骸を打ち砕き、その下の床を空しく叩く。
同時に、二体の真後ろに唐突に青年の姿が現れ、右手首に備わった“アンプ”からパチンコ玉程のエネルギー球をポンポンと射出し、床や壁をぽこぽこと跳ね回りながら、凄まじく強靱なセンティエントの外郭へ容易く孔を穿ってゆく。
突如として吹いた突風が青年を吹き飛ばし、壁に叩きつける。
最後の一体、コンキュリストの作り出した、つむじ風。
その、局所的な竜巻じみた突風は、瞬間Fスケールの3を越えていた。
住居は倒壊し、大木をへし折り、鉄骨はへしゃげる暴風。
そんな局所竜巻に巻き込まれた人体はどうなるか。
四肢という四肢が本来曲がらない角度へ自在に曲がるユニバーサルジョイントと化し、壁に接触した頭部は風船の様に弾け、脱落した装甲の端切れが体を切り裂き貫く無数のナイフになり、後に残るのはバラされた肉塊だけである。
しかし、暴風を解除し壁際に転がった青年の元へ近寄ったコンキュリストを迎えたのは、エネルギー球の連射であった。
「あー、いってぇな」
「よそ見してるからダ、あと、4ミリセコンド早くVoidModeに入っていれば痛みなんか無かったダロ?」
Kidは呆れたようにぐるりと回る。
口調は呆れているが、主のダメージをスキャンした様だ。
青年が後頭部を抑えながら起き上がり、コンキュリストの錫杖を脚で軽く蹴り上げると、軽やかに跳ねた棒が吸い込まれる様にに青年の掌中に収まる。
その動きにダメージの残滓は見られない。
Tennoの主要なVoidアビリティの一つ、VoidModeはVoidのポケット空間を作りだし、そこへ潜むもの。
不可視となり、現界からの影響は受けなくなるが、完全に“接触”を切ってはいないので、一部のエネルギー攻撃についてはある程度は影響を受ける。
まぁ、ダメージは無いのだが。
「懲りねぇなぁ」
最後に残ったバタリストがバチバチとオゾンを発生させながら突っ込んでくる。
青年はそれをむしろ面倒くさそうな表情で迎え、袈裟懸けを錫杖の上部で受け流し、跳ね上げた下部をわき腹っぽい箇所へ叩き込む。
体勢を崩しながら放たれた逆突きを、すっ、と左前半身となって躱(かわ)しながら錫杖を手放し、燃え上がる抜き手で胸の光球を貫く。
「おまえらに出すフレームはねぇ!」
青年が動作を止めたバタリストを放り出すと、光球から引き抜いた手に輝く珠が握られている。
センティエントの核を成すユニット、名前もそのまま、“センティエントコア”である。
しかも、これは“ハラワタ”に手を突っ込んで抉りだしたものだから、瑕疵のない無傷な代物で市場ではちょっと価値が高い。
捨てるのは勿体ないので、青年は取り敢えず握りこんでそれを消す。
適当に物を放り込んでおける“ヴォイドアーセナル”は実に便利だが……
「いい加減に整理しねぇと、肝心な時にゴミしかでてこねぇゾ」
「ああ、又今度な」
ため込み過ぎるのも考え物である。
「あのう、失礼いたします、私、“ココドコ清掃”の“営業”をしておりますタナベと申します……こちらLuaのテンノ様方の秘密基地近辺で宜しいでしょうか?」
以外な程近くでした声に、青年は瞬間的に構えを取った。
数歩先に、男が一人立っていた。
短く整えられた白髪交じりの髪に、上側だけに黒いフレームがのった妙に古風なオキュラス。
グレーの上着とズボンに襟のある白いインナー、首にはダークブルーの帯が巻かれ、胸前から腹部へ垂れた部分は銀色のクリップでインナーに留められている様だ。
靴も皮革製品らしく、かなり懐古趣味を感じさせる代物であった。
ただ、実用性も重んじるシータスの製品とは異なり、よく磨かれ、黒光りしているソレは安物ではなさそうである。
『おい、こいつ武器を持ってなイ?ぞ、気をつけろ!』
『ああ、でも“コイツ”だな』
Kidが通信で出した警告に応え、青年は慎重に構える。
Lotusが送ってきたミッション指令に記載されていたターゲット情報。
そこに、“対象は営業のタナベ”と名乗るとあった。
しかし、危険がそこいら中をWalkingしているOrigin太陽系では、丸腰で戦闘地帯を闊歩するなど、クブロウの巣で生肉を振り回しながら歩いているようなものだ。
そんな中を悠々とやって来た“武器を持ってない様に見える”相手など、重々警戒すべき対象でしかない。
それは“武器を持つ必要がない”かも知れないのだから。
まぁ、それ以前に、Tennoの格闘距離まで近づきながら声をかけるまで気取られないという事の方があり得ない危険性を示しているのだが。
「そう思って来た“来客”はその辺に散らかってるな」
青年が答えると、男は、実に遺憾といった様子で周囲を見回し何度も頷く。
最早原型を留めていない肉と樹脂と金属が入り交じったジャンクのカーペット。
それを目にして眉一つ動かさないのも、カタギの住人の精神性とはほど遠いものを感じる。
「“飛び込み営業先”で、同業他社と鉢合わせする事は多々ございますが、お客様の敷地で角をつき合わせるなど、甚だビジネスマナーに反する行いでございますね、ただ、どちらかと言えば、“営業”ではなく“押し売り”をする輩と存じますが……」
非常に物柔らかで、敵意や殺気などはまるで感じない。
Corpusの商人の様でいて、Sanctum AnatomicaにいるAlbrechtの従僕じみてもいる。
奇妙な男だった。
「無論、弊社はその様な不作法をお客様や取引先の企業様へ働く事は決してございません!……まぁ、希に“不幸な事故”が生じてしまう事もございますが、そうした“事故”を防ぐ為にも、正式な“お取り引き”を申し入れさせて頂くご相手様には、必ず何らかの形でアポイントメントを取らせていただいております、先日Lotus様へ送付させて頂きましたメールもその一つでございます」
「はぁ、礼儀正しいこったな、全く、この辺じゃ珍しいぜ」
肩を竦める青年の前で、“営業のタナベ”は綺麗に一礼する。
「お取引様をご不快にさせないマナーはビジネスの基本でございますれば……ご案内頂いても?」
「調子狂うぜ……こっちだ」
戦闘現場に長時間滞在するのはTennoのスタイルではない。
青年は、確保対象を伴い、移動を開始する。
胡散臭い男だが、Lotusの指示だ。
指令通りに実行すれば、最低限、安全については担保されている筈である。
(細かい事かんがえんのは、俺の仕事じゃねぇしな)
Kidに聞かれたらブーチク言われそうだが、性分なのだから仕方ない。
(“あいつ”が居てくれりゃあなぁ、その辺はうまくやってくれたんだが……)
暫く前にDo-joごと姿を消してしまった“家族”の事を考えて青年はため息をつき、取りあえず、目先の確保任務を終わらせるべく意識を集中させるのだった。
To Be Countinued...
何故か、さらりまんが出てきた。
そういえば、GaussP、あと設計図だけなんですが……全然出てこない……
芋が、芋が足りないぃぃ