虚無海洋 ~Void Ocean~   作:八切武士

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謎の営業マン、タナベ氏と道を急ぐ青年。
途中で強奪ミッションに勤しむTennoの一団(?)と鉢合わせし、独特の“コンタクト”を試みるのだった。


Mission 3:~幕間:Graveyard lily~

 

~Side Tessai:Lua Tenno Secret Outpost~

 

 Cavatの通り道という訳ではないが、Tennoの通り道というのも、決して常人に優しく出来てはいない。

 スライディングに二段ジャンプ、バレットジャンプに、壁走り、壁登り、三角跳びを含めたウォールクラッチ。

 Tennoの基本運動と言われるパルクールを修めている事が前提となった道選びは、“道”という言葉の概念を再考させるのに充分なものだ。

 一般的には、断崖絶壁とか、崖、とか、綱渡り、とか、後は、飛び石(空中)等と呼ばれてるものはTennoにとって、ごく普通の“道”である。

 とは言え、目覚めたてのNewbieTennoでは、少々手間取る事もある道を、その男は普通についてきた。

 狭い道は匍匐で抜け、つるつるの高い壁はまるではしごでもついてるかの様にのぼり、床が奈落になっている部屋は横の壁をおっかなびっくり、“直立して歩いて”通り過ぎる。

 完全に“足場”がつながっていない飛び石はどうするのかと思えば、見てる間に一瞬意識が逸れて、次に見えた時には隣の足場へ移って、危なっかしくバランスをとっている。

 歴戦のTennoの意識の死角を狙って移動する等、至難の技だ。

 普通に短距離の瞬間移動を使った方が“簡単”である。

 

(まぁ、ただもんじゃないな)

 

「いや、中々、良い運動になりますなぁ、通うだけで健康維持の効果がありそうです」

 

 にこやかに出てもいない汗をハンカチでおさえるタナベへ、流石に青年も少々胡散臭気な視線を向ける。

 

(相棒、このおっさん、結構“やる”ぞ)

(ああ、不意打ちしても初撃は避けるだろうな)

 

  Kidの無線に相づちを打ちつつ、青年はタナベ氏へ手を振る。

 

「まぁ、俺もあんま頻繁に来ちゃいないが、Tennoの秘密基地なんてどこもこんなモンだろ……そこの広間を抜けりゃ、もうすぐだ」

 

 大ホールへ入ると、比較的保存状態の良いそこは、過去の栄華を示す様に、煤け、色褪せたりしていない白亜の基材に、黄金の差し色が入った、壮麗なOrokin様式の空間になっていた。

 まぁ、部屋のど真ん中に置かれた、無駄にデカいEntratiの像は真っ二つになって床に転がっているのだが。

 

「あのう、もしかして、本日御葬式等おありなのでしょうか?」

「あ?そーしき?」

 

 唐突なタナベ氏の言葉に、青年は首を傾げ、次にその手のひらの指す方へ目をやって、げっそりした顔になる。

 

「あー、アレはなぁ……」

 

 タナベ氏が指し示した先、青年達が入ってきた所から見て右手の入り口から、大ホールへ、しずしずと歩み入ってくる一団があった。

 

 鎖の先にぶら下がった香炉の様な物を揺らしながら先頭を歩く、中世の修道士の様な姿をしたのはHarrow、苦行を追及する求道者だ。

 そしてその後には絶対の凍気を支配する者Frost、捕らわれぬ事の無い可憐な水流yareliが並び、列の末尾には全てを平等に蝕む蛇毒の女王Sarynが殿を勤めている。

 その列の中央に鎮座するのは、地面から三十センチ程浮いたフロートパネルに乗せられた棺桶。

 より、正確に言えばWarframeの冷凍ポッド、それの改造品だ。

 

「んん~、“ハイジャック”ミッションかナ???」

「ったく、お前、知ってて言ってんだろ?」

 

 すらっとぼけたKidの台詞に、青年は更に顔を顰める。

 確かに絵面は、敵地からの重要物品強奪指令の実行中にしか見えないが……“棺桶”の横に見覚えのある人物が優雅に付き添っているのが既に目に入っていた。

 “棺桶”の隣に付き添っているのは、Sanctum AnatomicaにいるAlbrechtの従僕……Loidが身に纏った執事服を幾分か女性用に寄せたデザインにした用な服装の女性。

 

(“アイツ”の“付き人”じゃねぇか……つーか、出てくるのがおせぇよ!)

 

「タナベ、アレは葬式じゃない」

「はて?」

 

 流石に当惑した様に首を捻っているタナベに苦笑を見せると、青年はため息をついた。

 

「“布団”ごと、ひきこもりを引っ張り出してきただけだ、ぜ!」

 

 ノーモーションで跳躍した青年が天井を跳ね、空中でライダーキックの形を取った時、瞬時に反応したのはFrostとYareli、“棺桶”を絶対零度のドームが覆い、ぼこり、と幾つもの水玉が湧き上がり、彼を捕らえようと迫る。

 しかし、水玉が捕らえた、と思った時、彼の姿はブレる様に消え、その右隣に現れる。

 まるで、コマ数の少ないアニメの様に氷のドームを時計回りに、かくっ、かくッと瞬間移動する青年は徐々に炎のオーラを纏い、瞬きが七度目を数えた時、人型の炎が解き放たれた。

 三重にはられたドームを纏めて叩き割り、“棺桶”めがけて突き進む炎を、すっ、と一体の影が遮る。

 短い額の角に頭部のやや後ろに耳の様な盛り上がり。

 そして、首回りから肩にかけて二重の襟の様に盛り上がった膨らみ。

 真正面から攻撃を受け止めたのは、片刃の黒光りするカタナ……Nikanaを構えたSarynだ。

 細身のNikanaはきしみを立てる訳でもなく青年の炎を受け止め、ただSarynの後ろ足の踵がじわり、と半歩ほど弧を描いて開かれてゆく。

 

 一瞬の拮抗。

 

 弾かれた様に距離を取った青年の手に、一振りのカタナが現れる。

 握りは透かし細工、刀身の中程に刃の無いくびれを持つ異形のカタナ。

 その刀身は自ら光り輝いていた。

 

 Syam、夢幻の彼方で産まれし刃。

 

 青年がやや下段の構えをとった時、何か、緊張感のない、空気の抜ける音が小さく響いた。

 

「相棒、おわったゾ」

「お、ごくろうさん」

 

 いつの間にか“棺桶”の傍らに浮かんでいる相棒へ片手を挙げて応え、青年はカタナを一瞬で消すと、慌てて陣を組み直そうとしているフレームの間をすり抜け、“棺桶”の前に立つ。

 “棺桶”の中では、ひらひらとした装飾のついたドレスを纏った少女が横たわっていた。

  柔らかそうな白っぽい金髪を胸元まで伸ばし、ちょっとブサイクな……多分VascaCavatのふわふわなぬいぐるみをしっかりと抱いて目を閉じている。

 些か痩せぎすの上に血の気のないミルク色の肌、そして朱を差した様な愛らしい唇。

 流石にそこから牙が覗いている訳でもないが、薄い胸が微かに上下していなければ、吸血鬼と間違えるかも知れない。

 青年がそこへ躊躇いもなく手を伸ばしたのは、ちょっと犯罪臭がする光景だったのだが……不意にカッ、と目を見開いた少女が青年の手首をがっしり掴んだ所で無事(?)ホラーへシフトする。

 

「なんだ、やっぱり“起きてる”じゃねぇか」

「なに勝手に“人の部屋”に入ってきてんにょよ!寝てる女の子に手を出そうとか変態!変態!大変態!」

 

 寝起きのリズミカルな罵倒を涼しい顔で受け流しつつ、青年はぐぐぐ、と腕を一定の速度で押してゆく。

 

「は、離しなさいよ!」

「掴んでるのはそっちだろ?」

 

「Downy、通信以外であうのは久しぶりだナ」

「ええ、お久しぶりですKid、お変わりないようで……我が主は、滅多に“外出”されませんから」

「相変わらずその“かっこ”の時は、それなんだナ」

「主のりくえすと、ですので」

 

 じわりじわりと顔の前へ迫ってくる手のひらをくい止めるべく、両手で掴んだ手首を必死に押し上げる少女は、目を見開いて、うぎぎと歯を食いしばり凄い形相になっている。

 

「おいおい、どうした?お前まえよりだいぶひ弱になってね?飯食ってんのか?」

「ぐぐ!なに?うそ!前より力強くなってない?脳筋!なんで!バカなの?Tennoならフレーム使いなさいよ!んぐ!んぎぎいッ!ぎゃぁぁぁぁぁ!」

 

「そっちも、ナンか出たの力?」

「ええ、GrineerとCorpusが少々、ささいなものです」

「こっちは、センティエント共が彷徨いてやがっタ、まぁ、相棒が軽く捻ってやったがナ!」

 

 抵抗空しくがっつりとアイアンクローをキメられた少女はそのまま“棺桶”から持ち上げられ、空中でじたばたする。

 

 身長が130cmにそこそことは言え、人一人をアイアンクローで掴んだまま宙に浮かせる青年の筋力も馬鹿げているが、首だけで体重を支えて暴れる余裕のある少女も大概Tenno的であると言える。

 

 振る舞いまでがそうであるかと言えば、多々異論はありそうだが。

 

「さて、そろそろ頃合いでしょうか?」

「だナ?」

 

 機械仕掛けの猛禽と、執事姿のセファロン達は頷きあうと、ぶらーんと脱力しきった少女をぶら下げた青年へ顔を向ける。

 周囲のフレームまで脱力してるのが、ちょっとさっきまでのホラーをまだ引きずっていた。

 

「相棒、“お客さん”が困ってるゼ」

「ん?お、いけねぇ!」

 

 青年はぽいっ、と掴んでいたものを執事……Downyへ押しつけると、営業スマイルを浮かべたままのタナベ氏の所へ戻る。

 

「いや、悪いな、ああして“寝起きが悪い”ガキなんで、“布団”ごと引っ張り出して来た訳よ」

「Tenno様方とは“個性的”ですなぁ」

「うーん、アレは流石に珍しいけどな」

「あなたも“それ”に含まれてるかと」

「だな、相棒も大概おかしいゼ」

 

 にこやかに相づちを打つタナベ氏へ曖昧に頭をかく青年の背中へ、セファロン達からのバックアタックが突き刺さる。

 

「……っは!こ、ころす気!痛い~、Downyまだ、顔ついてる?頭も首も痛い!いた~い!いたいよぉ~」

 

 青年が答える前に、Downyの腕の中で白目を剥いたまま、よしよしされていた少女がびくん、と痙攣してめそめそ泣き出した。

 どうやら気絶から回復したらしい。

 ちなみに、彼女の周囲のWarframe達も一緒になってめそめそ泣きのエモートを出している。

 女性型のYareliやSarynなら兎も角、特にガチムチの男性型であるFrostアニキの女の子っぽいめそめそ泣きエモートは正直キツい絵面だった。

 

「うわ、うっとおしいな……」

「お前のせいだろ、相棒どうするョ?アイツああなると、割と根に持つゾ?」

 

『すぱんっ』

 

 妙に間の抜けた破裂音が響き、Tenno関係者の視線が発生源のタナベ氏へ集中する。

 彼の手には、三角形に折られた紙が摘ままれていた。

 やけに流麗な手つきで振るわれたそれは、内部に折りたたまれた谷折りの紙を展開し、又も“ぱん”と音を発する。

 

「こちら、“紙でっぽう”と申します」

 

 いつの間にか泣き止んでまじまじとタナベ氏を凝視している少女……を抱っこしているDownyの前に歩み寄った彼は、やや身をかがめた体勢になると、恭しくそれを差し出した。

 

「くれるの?」

「“紙”植物原料の記録媒体、Orokinより遥か古代の文化ですが、それを折り曲げる事で音を出す機能を出しているのね……興味深い」

 

 Downy経由でおずおずとそれを受け取った少女は物珍し気に“紙でっぽう”見て、鳴らしてみる。

 もうすっかり涙は引っ込んでいる様だ。

 

「おっさん、器用だな」

「手慰みにございます……この様なものもございますよ」

 

 タナベ氏は平べったく折りたたまれた四角と三角が組み合わさった紙を取り出し、その一辺に、ふっ、と息を吹き込むと、ぽんっ、と真四角の立方体に変化した。

 

「わぁ!」

 

 TennoがVoidの力で発生させる数々の不思議現象に比べれば、非常に地味なのだが、その素朴な所がかえってお気に召したらしい。

「お嬢様、お初にお目にかかります、私、“ココドコ清掃”の“営業”をしておりますタナベと申します、お見知りおき下さいませ」

「わたし、Liliana!Lilyでいいわ、おじさま、れーぎただしいし」

「Lily様ですね、恐縮でございます」

 

 にこにこのLilianaがポンポンと弾ませている“かみふうせん”には、“(不)ココドコ清掃”という日本語と古代Orokin文字のルビ、そして、大きな鞄を背負った女の子のキャラクターが印刷されている。

 

(ちょろいな、っていうかおっさん、子守うまいな)

(相棒とはえらい違いだゼ)

 

 流石にここで余計な口をきく程、青年もウカツではなかった。

 

(そりゃいいけどヨ、相棒、お前名乗ってなくネ?)

「あ、やべ」

 

 Tennoは普段余人に名を名乗る機会は余りない為、つい、流れのままで名乗らずに来てしまったのだ。

 

「えーと、俺はTessaiとでも呼んでくれ、取り敢えず移動しようぜ」

「かしこまりました、参りましょう」

 

 ど派手なピチピチスーツの青年とビジネススーツの中年、そしてドレスの少女を抱いた女性執事にWarframeの従者達。

 まったく統一性のない集団がLuaを歩みだす。

 

(全くLotusはどんなつもりでこいつ……と、俺らを喚んだんだか?)

(ま、行きゃわかんだロ)

 

To Be Countinued...

 




 墓場に咲く百合、リリーちゃん登場です。
 あと、地味に名前が判明する青年。

 次回は、やっとこの面白集団がLotusの所へ辿り着く訳なのですが……
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