そこで待っていたのは、Lotusとの謁見だった。
~Side Tessai:Lua Tenno Secret Outpost 深部~
「24、25、26、27……ここか」
がらんとした回廊を進みながらぶつぶつと呟いていた青年……Tessaiが脚を止める。
執事姿のDownyに抱っこされたままのLilianaは、すやすやと夢の中であった。
その夢は、一発のデコピンで弾けて消える事となる。
「ったあ!頭にあなあいた!のうみそでちゃう!てんさいがこぼれちゃう!」
「全部こぼれる前にちゃんと使えよ?」
Downyの腕の中で悶絶しながら、Lilianaは手鏡を取り出し、まだ揺れてる感覚のする額を確認する。
「痣になってる!輿入れ前なのに!ナニすんのよ!ばいしょーをよーきゅうするわ!」
「輿入れする相手なんざ、国ごと滅びてるじゃねぇか、つーか、天才だろうがなんだろうが、使わなきゃぬいぐるみの綿が詰まってんのと一緒だぜ?」
Lilianaは頬を膨らませてTessaiを睨みつけていたが、さっ、と片手を上げ、壁へVoidBlastを放った。
すると、Voidエネルギーに曝された壁が、ふっ、と透明化する。
「隠し扉なんて、Downyが“視てる”もん」
「ばっか、セファロンにばっかたよんなよ、この手の“非常口”は自分で把握できてなんぼだぜ?」
ぷい、と横を向いてしまったLilianaに肩を竦め、Tessaiは先へ進む。
「成る程、Voidエナジーが鍵となるのであれば、場所が分かってもおいそれとは進入できない訳ですな」
後に続くタナベ氏は関心しきりと言った様子ですたすたと“扉”をくぐる。
背後で再実体化した壁が塞ぐと、隠れ家への道は再び閉ざされる。
幾つか一時的な避難所や貯蔵庫、武器庫、動力室等へ続く道があるが、Tessaiは真っ直ぐ最奥への道を進んでゆく。
一際厳重な隔壁の前で、KidとDownyが信号を発すると、ゆっくりと厚さ数メートルの隔壁がゆっくりと開き、二メートル程度の隙間が開いた。
「さて、“お袋サン”の顔でも拝みに行くか、半分しかみえねぇけど」
「中身が変わってても気づけるか怪しいもんだナ」
「笑えねぇよ!」
「つうしんでじゅうぶんなのに~」
「ほらほら、久しぶりにお会いするんだから、ちゃんとして下さい」
TessaiはKidといつもの漫才、LilianaはDownyに服の着崩れた箇所を直され、髪に櫛を入れられ、リボンを結び直されと身支度の最終チェック。
組織のトップに呼び出されていると言うのに実に緊張感の無い連中である。
そんな緩んだ雰囲気の中でも、タナベ氏は程良いスマイルを絶やさず、姿勢良く背筋を伸ばした自然体で佇んでいた。
笑顔の奥に何か隠された真意があるのか、見通すのも難しい。
にこやかなる鉄壁。
「よっす、来たぜ!」
「えー、うん、きたよ……」
やたらと気合いを入れるTessaiに、Downyの後ろに隠れようとして、すすっと避けられ、そのまま前に押し出されるLiliana。
思ったよりは広くない部屋の奥、十段はある階段の上に玉座がある。
黒に見える程深い藍。
表面には幾何学的な光が、そこに流れている膨大な情報を暗示する様に、ひっきりなしに流れている。
背後には放射状に設けられた黄金の装飾。
それは、Tenno達を照らす光である事を示しているかの様だ。
そこへ静かに、姿勢良く腰掛けている女性は、顔の鼻上までを完全に隠すヘッドギアを装着していた。
体には質の良さそうなイブニングドレスを纏い、肌の露出部分からは、“生身”の人であろうと見て取れる。
身に纏うものは全て藍色で統一され、それらのデザインモチーフとなった蓮の花……Lotusの色は無い。
「今日はよく来てくれました……今は、Tessaiと名乗っているのでしたか、Liliana、顔を見せてくれるのは久しぶりですね」
Lotusの口角が僅かに上がり、いつもの落ち着いた声で“我が子”達へ声をかける。
「そして……貴方が、メッセージを送ってきた方、“タナベ”ですか?」
Tessai達へかけた時と声質は変わらない筈なのに、そこに暖かみは一切ない声。
Tessaiはいつでも動ける自然体のまま、力を全身に行き渡らせ、LilianaはDownyを盾にする。
「はい、私、“ココドコ清掃”こと、“ここではないどこか清掃 不可説不可説転会社 回収不能部 特殊清掃課”で営業をしております“田邊”と申します」
物理的な圧さえ感じさせる視線に曝されたタナベ氏は営業スマイルを消し、神妙な顔で両手を脇へ、ゆっくりと斜め四十五度で頭を下げ、美しい最敬礼を行う。
「此度はご多忙の所、貴重なお時間を割いて頂き誠に感謝致します」
そんなタナベの姿に、Tessaiはかつて僅かに目にする機会のあったOrokin帝国宮廷での謁見室の様子を思い出す。
ただ、Entrati相手にへりくだっていた陪臣達とは違う。
タナベはあくまでも上の立場の者に対して礼を尽くしている。
彼の背中には何かそう感じさせる、矜持の様なものがあった。
「……“あの子”の行方について情報を持っているのですね?」
部屋の空気に一気に硬質な気が充満する。
TessaiとLiliana、その二人を呼び、行方の分からない“あの子”Lotusがそう言うのであれば、対象は一人しかない。
「はい、あの方……今は“天野”と名乗られていらっしゃいますが、彼女はDo-joのお仲間と一緒に“天の川銀河太陽系”の“地球”で活動されております」
タナベはゆっくりとした動作で跪くと、アタッシェケースの留め金を外し、中から数葉の写真と、タブレットPCを取り出した。
「あ、かーちゃんだ!」
「は?あいつ……なにしてんだ?」
さささっと近づいて写真を覗き込んだLilianaは歓声を上げ、Tessaiは眉根を寄せた。
写真には、初老の男性と日に焼けた青年、そして、色とりどりの髪色をした少女達と酒宴の真っ最中の見慣れた同僚の姿があった。
別の写真では、ピンク色の髪をした少女の自撮り風のショットで、背後に見慣れない魚で一杯の箱と銛を片手に一緒に写り込んでいる。
更に別の粒子の粗い写真では、何故かヘルス回復パックという名前のお立ち台を片手にポーズをとっているYareliが写っているし、別の写真では、地面に何か枯れた植物を使って大写しに作られたLotusシジルが写っている。
「あいつ、なんか派手にやらかしてないか?心配して損したぜ」
「Do-joが無くなってた時は、マジ泣きそうになってた癖によくいうなァ、いてェ!」
鼻の下を擦っている相棒からマグナムデコピンを食らったKidは二発目を食らう前に慌てて距離をとる。
ちなみにLilianaはまたぐずりだしたので、Downyに抱き上げられてハンカチに涙とはなをちん、させられている。
「……Originとは大分星図が異なります、この配置は、地球に古代文明が存在した時期と酷似していますね?」
Tenno達が好き勝手にやっているのをよそに、LotusはソツのないDownyがタブレットから抜き取り、精査した上で送信してきたデータを確認していた。
写真の画像の方はKidが連携している。
「はい、“時期”としてはその辺りになります、“こちら”ですと、ヘイデン=テンノ様がご活躍されていた時代でしょうか……あちらでは、“天野平典(あまのへいでん)”という方が近似存在となりますが」
「彼女は過去ではなく、平行世界に居ると言うのですか?」
Origin太陽系……と言うか、一部のTenno達の間では、時間旅行は理論の話でなく、既に実践の段階に入っている技術だ。
ただ、それは当然、容易い技術ではない。
そして、Orokin文明以前の太古、原初地球文明時代の正確な星図を入手するだけでも容易な事ではない。
Tennoのルーツ、古代地球のヘイデン=テンノ、彼の歴史に付随して記録され、Tenno達の間で連綿と保存されて続けてきた情報と比較しても、ほぼ正確なものとなれば、揃えられる組織は限られる。
一つは、ダイモスのEntrati一家。
あの研究者一家なら、誰かが学術的価値か、懐古趣味の為に所蔵しているかも知れない。
後は古代地球文明を信望する、NewLokaシンジケート。
古代地球に関する事であれば貪欲に回収し、秘蔵し続けてきた彼らであれば、同等の情報を持っている可能性はある。
この“タナベ”と名乗る男がどうやってその情報を得たのか。
Lotusの情報網では、Origin銀河に“ココドコ清掃”……“ここではないどこか清掃 不可説不可説転会社”などという組織は存在しない、と結果が出ている。
では、虚偽を騙っているのか。
リアルタイムの生体スキャンでは、嘘をついている様な生体反応の揺らぎはなし。
落ち着きすぎているとも言えるが、それは訓練されたエージェントであればおかしいという程の事ではない。
そして、彼は機械的な身体改造を一切行っていない、完全な生身だ。
身につけているものも、単なる布と皮素材の衣服であり、デザインを除けば、素朴な生活を守り続けるシータスの民の衣服と大差ない文明レベルの代物。
腕に付けている時計も、単純な機械式……なんとゼンマイ式という古代の出土品並の代物であり、懐にしまわれている、二つ折りになった通信端末も、非常に原始的で、とてもそれだけでどこかへ通信できるとは思えないものだった。
Origin太陽系を闊歩するにしては、余りにも異様な風体の人物。
どこの所属とも知れず、無防備に過ぎて、無防備に見えぬ男。
Lotusにとってすら、その脅威の底を安直に推し量るの躊躇わせる存在だった。
「簡潔に言ってしまえば、そのご理解で相違ないかと思います、今回、お時間を頂きましたのは、この“インシデント”につきまして、弊社から幾つか、Tenno様方へ提示可能なオファーがある為でございます」
「提案とは?」
この男、いや、この男の背後にあるものは、余りにも“知りすぎて”いた。
今でこそ、他勢力でもTennoについての情報をある程度知っている存在はある。
他者どころか己の身さえ使い込んで非道な実験を繰り返すAlad Vは捕らえたWarframeを切り刻み、苛み、かなりの知識を得ているし、Grineerの女王はTennoが戦場で発散する力を利用し、Kuvaを奪う。
今や、Tennoを覆うヴェールはうっすらと透け、観測者へその向こう側は完全な幻想では無いと伝えている。
だが、この男の知識量は外からでは無く、内から見ている者のそれだった。
この男、そして、その背後にあるもの。
それは、危険だ。
途方もなく。
Lotusの中で、かつて決別したNatahとしての感覚が身じろぎする。
“この者達の介入を阻止しなければならない”いま、ここで。
『Lotus、私は貴方の声を聞くだけでした、今は貴方と話す事ができます』
控えめな微笑みに隠された喜びと誇らしさ。
それに感じた微笑ましさ。
Lotusである自分を取り戻した日。
心が凪いでゆく。
「弊社から提示可能なオファーは、“技術提携”と“人材派遣”業務の提携と、それに伴う“通信技術”と“移動手段”のご提供となります」
Lotusは目を開いて、タナベの言葉を吟味する。
「何の為に?我らの有り様を知った上の事ですか?」
Tennoの力は、銀河の安寧の為。
虐げられし人々の為。
危うき力の天秤を傾かせぬ為。
故無き事にふるえるものではない。
「はい、提携先の“社是”、“社風”も心得てご提案させて頂くのが“営業”でございますれば……少し、事情をお話させて頂いても?」
「聞きましょう」
タナベ氏は居住まいを正し、口を開いた。
「では、少々お時間頂きまして……」
To Be Countinued...
次回、多分、うちの艦これ世界がああなった原因の一部が語られる、かも?かも?