タナベから、オファーを持ってくる事になった経緯を聞くLotusとTenno達。
それは、ちょっとした捕り物から始まり、思わぬ人物が絡んでいたのだった。
~Side Tenno&タナベ:Lua Tenno Secret Outpost 謁見の間~
「では、不肖ながら今回の“インシデント”と“オファー”についてプレゼンさせていただきます」
タナベ氏が綺麗に一礼すると、かわいらしい、ぺちぺちという拍手が部屋に響いた。
Downyの膝の上に乗り、更に自分の膝上に縫いぐるみを座らせるという、可愛らしいトーテムポールと化したLilianaがその小さいおててで拍手しているのだ。
ビジネススマイルより更に柔らかい微笑を返したタナベ氏が壁に投影された資料へポインターの光点を向ける。
ちなみに壁に資料を投影しているのは、床に置かれたノートPCだ。
「まず、弊社“ここではないどこか清掃 不可説不可説転会社”、略して“ココドコ清掃”の業務内容でございますが、世のちまたに溢れる“汚物”の清掃と回収を主としております、社是は“汚物をすっきり、心も晴れ晴れ”でございます」
スライドに表示されている資料では、“ここではないどこか清掃 不可説不可説転会社”の社名がどどん、と表示され、その下ではい○すとやっぽい絵柄の……完全武装の兵士や、騎士、お侍、学ランを着た男子学生達が楽しげな笑顔で並んでいる。
各自、手錠をかけたテロリストを制圧した状態、まっぷたつになったゴブリンを踏んで剣を掲げ、落とした生首を掲げ、間接が曲がっちゃいけない曲がり方をした鬼の前で残心の体勢だ。
無論そちらも、いら○とやテイストの絵柄である。
「清掃会社……だよな?」
「弊社、社会のゴミの清掃も業務範囲にてございます」
Tessaiの呟きに、ごく当たり前といった様子で返答するタナベ氏。
「Lilianaもお掃除してるよ!資源ゴミ!」
「お前は“根こそぎ”にし過ぎなんだよ、お前の行ったとこ、動かせない物以外は全部無くなるじゃねぇか」
「Liliana綺麗好きなんだもん!」
「……」
Tenno達のやりとりを笑顔でやり過ごし、タナベ氏はスライドを進める。
「仕事の完遂率は100%と申したい所でございますが、それでは偽装表示となってしまいますな……私の所属する部署は、“本社”のエージェントが“余計に汚してしまった場合”や、“ご満足いただけなかったクライアントさまからのクレーム対応”等のケースを担当させて頂いております」
今度は、“回収不能部 特殊清掃課”のロゴがあり、その下では……
ゾンビになった兵士をパワードスーツ姿の未来兵士が蜂の巣にし、突き立った剣の墓標を背景に溢れる魔物の群へ何やら極大魔法を放つ女子高生、侍の生首を肴ににやつく悪代官と越○屋の眼前でオイランゲイシャのガワをかなぐり捨てて殺戮者じみたエントリーを披露する忍者、そして、鬼面をつけた学ランと静かに対峙する鏡写しの様なもう一人の学ラン。
明らかに、先のパワポ資料の失敗した続きみたいな状況が、いらす○やテイストの絵柄で記載されていた。
「ミッション失敗の尻拭いが専門か、まぁ、俺らもやるな」
「Lilianaもとられたふれーむのだっかんにんむとくいだよ!」
危険な忍務に赴くTennoはたまにWarframeを無力化され、囚われる事もある。
分解等される前に自壊や自爆する事もあるが、当然、奪還するのが普通である。
「お前がやると、“奪還”じゃなくて、“強奪”になるからなぁ」
「Tessaiだって、“そーめつ”になるでしょ、てきは、いなくなるまでうつべし、うつべしよ!」
「お前は撃つ前に“採ってる”じゃねぇか」
「“てき”がいなくなるなら、どっちもいっしょでしょ?」
「さて……弊社は“清掃”が主業務ではございますが、副次的業務として、“貴重品”や“危険物”の回収についても承っております、そして、私の所属する“回収不能部”は副次業務について、“回収不能”と判断された案件、中でも“特殊清掃”が必要な案件を“処理”しております」
すいっ、と画面遷移したスライドでは……
『あっ!ちきゅうはかいばくだんをおとしちゃった!』
と書かれたケースで、余白に“たいむましん”と書かれた謎のフライングプラットフォームに乗っている青くて丸っこい生き物が、古めかしい爆弾を地球っぽい惑星の上で落とす絵が描かれ、矢印の先の絵では粉々になった地球の姿が……
『あ~あ、ちきゅうがこなごなになっちゃった』
「あ~あ、じゃねぇだろ!おい」
思わず突っ込むTessai。
そして、次の矢印の先では……
『なんやかんやあってもとどおりになおったよ!』
と書かれ、正座させられた青狸が、手の上に元通りになった地球を載せた何やら女神っぽい女性から説教されている絵で終わっている。
「なんやかんや……ってなに?」
「なんやかんやは、なんやかんやだろ?」
「左様でございます、人の言葉では言語化が困難でございますから」
その下のケースでは……
『いせかいかんせん王におれはなる!』
と書かれたケースで、何故かちょっとAlad Vっぽいおっさんが転送ゲートをくぐろうとしている所で、Excaliberっぽいフレームに“グワー”とか言いながら真っ二つにされている絵があり、矢印の先の絵では……
『たいへんだ!いせかいがてくのさいとういるすだらけになっちゃつた!』
と書かれており、そこでは異世界の謎生物にモリモリとおいしく頂かれるいら○とやテイストのAlad Vとそこから蔓延る感染体達の絵が記されている。
『だいじょうぶ、みんななかよしになったよ!』
最後のスライドでは、感染ダイモスみたいになった星で、Nidusっぽいフレームと、流石にOrigin太陽系でもまだ見たこと無い気色悪い感染体が肩を組んで握手している。
ちなみにAlad Vはその足下で生首から手足が生えた謎生物になって“Alad V一生の不覚!”なんて吹き出しをくっつけられている。
当然これもいらす○やテイストだ。
「おい、何にも解決してねぇぞ!」
「お客様にはご満足頂けておりますので、問題ございません、終わりよければなんとやらでございます」
涼しい顔でスライドを進めるタナベ。
「この様に、他部署のフォローと、お客様よりのクレーム処理に粉骨砕身している訳でございますが、残念ながら弊社のリソースにも限りがございまして、私共だけで全てが“裁ける”わけでございません」
次のスライドでは、電話を耳に当てて目をぐるぐるさせているスーツの男の周りにぽやぽやとした吹き出しが幾つも浮かび、その中で、どう見ても滅ぶか大変な事になっている世界が映し出されており……
『たいへんだ、ぎょうむがぱんくしちゃうぞ!』
と白々しく書かれている。
「そこで、私の様な“営業”の出番となる訳でございます」
スライド画面が遷移すると……
『そうだ、てがまわらないところは、ぎょうむうけおいけいやくをすればいいんだ!』
と書かれており、タナベ氏の様なスーツを着た社員が、潜入用スーツを身につけ、頭にバンダナを巻いた男や、降着姿勢をとったロボットの中から顔を覗かせている、水色の髪に赤いパイロットスーツの男、なんだかやたらとつんつんした髪型の緑髪で片目が隠れた男性、黒いボディに真っ赤な目をした仮面の戦士等々に名刺を差しだし、何かを説明している。
そして、矢印で指し示された次の絵では、彼らが様々な世界で活躍している様子が描かれ、その片隅では前のスライドで目がぐるぐるになっていたスーツの男がにこにこしながら電話をとっている。
『ぎょうむによゆうができて、せかいもすくわれたぞ!』
「……今回Tenno様方へオファーさせて頂くのは、この“業務請負契約”の部分でございます」
「成る程、そちらの“組織”の事は多少の事ながら“視えて”きました……が、判断する為の詳細情報が足りませんね?」
「はい、弊社の“概要説明”をさせて頂きましたので、つぎに、オファーさせていただきました、“請負契約”の背景説明に移らせていただきます」
タナベ氏が何か操作すると、Po○erPointで作られた様な資料は消え、動画の再生に切り替わる。
『とうとう追いつめたぞ、指定境犯PLDD92BC号、大人しくお縄につくんだな!』
『回収屋の狗(いぬ)は流石にしつこい、まさか“ここ”まで追ってくるとは』
油膜の表面の色彩がてろり、てろりと流れて極彩色をつくりだした様な背景が“脳に”クる異空間で、紺色の制服に身を包んだ男と、薄白い碧色の肌色をした男が対峙していた。
Tenno達は知る由も無かったが、紺色の制服は特徴的な制帽、太股の中程からやや上まで届きそうな上着の腰を巻く黒革のベルト、そして、肩口から斜めに体の前後を通ってベルトへ連結されている革帯、それは昭和日本の制服警官そのものであった。
対する碧色の男、色素の抜けた薄緑色の髪に爬虫類を思わせる緑系の肌色、そしてその身を包む一見一枚布をたっぷり巻き付けた様に見える被服と、黄金色の装飾品。
Orokin帝国の貴族階級が好んだファッション。
「あれれ?あのおじさん……みたことある?」
「Liliana、いくらどんなドグサレ外道であっても、他人様を指さすのははしたないですよ、向けるなら銃口か切っ先でございます」
「うん!“さすのはころすときだけ”だもんね」
「そう、それでこそTennoでございますよ」
会話の内容以外は微笑ましい主従のやりとりを横目に、Tessaiは眉をしかめる。
「相棒、コイツの素行がアレなのって、割とセファロンの教育のせいじゃねぇか?」
「何言ってんだ相棒、セファロンはTennoを“教育”したりしねぇよ、Lilianaは昔から“あんなもん”じゃねぇか」
『生憎と、世間様に不幸をばら撒くてめぇみたいな奴をふん捕まえるのが仕事なんでね、もう、“大人しくしなくてもいいから”パクらせてもらうぜ!』
『Tennoですらない人間の分際で、監査官、Verikを捕らえるだと、馬鹿も休み休み言いたまえ』
『なぁにが監察官じゃい!こちとら元駐在のお巡りさんじゃ!』
Verikが指を鳴らすと、どこからともなく感染体が湧き出し、警官に襲いかかる。
『往生せぇ!』
警官の手にした小型のリヴォルヴァー……
“SAKURA M360J”が銃声を放ち、感染体の“頭部”だった場所を弾き飛ばす。
きっかり五発で五体を倒しながら身を引き、残った感染体を逆手に抜いた丸木の短棒(警棒)で打ち据える。
そして、撃ち尽くした拳銃と警棒をそれぞれベルトのホルスターとホルダーへしまい込むと、今度は胸位までの長さのBOの様な長杖(警杖)を取り出して構えをとった。
『抵抗するか、なら、ちいと荒っぽくなるぜ!』
『結構、ならば、たのしい“大捕り物”を演出してやろうではないかね』
Verikが指を鳴らすと、どこからともなく、警官を取り囲む様にSentient達が降りたった。
おなじみの稲光ブレードを両手に携えたBattalyst、両手に棍のConculystに加えて
右腕に鋭角的な三角の盾を備えたSymbilystと、触覚の付いた恐竜の頭部骨格じみた本体から四本の脚を生やした様なBrachiolystの混成集団だ。
「うわ、うぜぇ」
「Lilianaあいつらキライ、じゃまなんだもん」
Tessaiは単に、Sentientの攻撃への抵抗力を獲得する性質を面倒くさがっているのだが、Lilianaはプロテクトが硬くて、一匹“収穫”している間に他が殺到して殴りつけてくるSentient群を忌避している。
ちなみに、感染体も似た様なものなのだが、もとより“くさそう”なので、Lilianaは積極的に“回収”しないから問題にならない。
『確保ぉ!』
投影されている動画では、警官が警杖でConculystの棍をからめ取り、そのまま腕の関節を極めながら素早く背後に回り込むと、両手首(?)へワッパ(手錠)をはめて無力化していた。
「いや、なんだアレ?」
ただ、鉄の輪と鎖を繋いだ様にしか見えない手錠を填められただけで、Conculystは地面にうつ伏せになったじたばたするだけで、完全に制圧されている。
本来あんな華奢な造りの手錠等、どのSentientでも普通に引きちぎるし、飛行能力もあるのだが、もがくしかできない様だ。
「いいなぁ、べんり~」
不思議そうなTessaiをよそに、Lilianaはきゃっきゃとはしゃいでいる。
見ている間に、警官は見事な杖術でSentientを武装解除し、制圧し、感染体については的確に急所を衝いて昏倒させてゆく。
捕縛、制圧する事を主目的としたその技は、極めれば折り、絞めれば息の根を止め、打てば粉微塵なTenno達が用いる格技とは術理が根底から異なっていたが、それがまた、Tessaiには新鮮に映った。
「いいな、確保忍務の時にああいう技が使えれば、やりようの幅が増えるぜ」
「うーん、かんせんたいはくさいし、Lilianaはいいかな……どっちもつかまえるだけなら、“のっとれば”いいし」
『ご自慢の手下共はこれで全部かい?大漁だぜ』
棒を構え直した警官の周囲には、手錠をはめられたり、ガラクタになったSentientや、倒れたまま痙攣する感染体がそこかしこに転がり、もう戦えそうな個体は見あたらない。
『狗め!だが、言うだけの事はあるではないか……ならば、貴様には見せてやろう、我が切り札の一つをな!』
妙に芝居がかった仕草で見栄を切った、Verikの姿が一瞬霞む。
次の瞬間、激しい破壊音と共に吹っ飛ぶ警官と、その手の中で真っ二つにへし折れた警杖が画面を横切ってすっ飛んでゆく。
地面を幾度もバウンドしながら転がった先で、柔道の受け身を思わせるキレのある動きで警官は跳ね起きる。
元々警官の立っていた場所に拳を突きだしていたVerikは残心でもしている様にゆっくりと姿勢を戻してゆく。
元の立ち位置から十メートル以上、それをVerikは瞬く間に移動した。
現場に出ない官吏が持つ能力ではない。
「馴染むな、実に馴染む……やはり、体の“使い方”を知るには、実戦が一番だとは思わないかね?」
「柔軟もしねぇで、“やっ、とお”なんてしたら、間接イわすぜ?おっさん」
警官は真っ二つになった警杖をくるりと回し、両手をやや上段へ構え直す。
上体は立て、重心を後ろ足へ置いたスタイル。
相手の攻撃へいち早く対応が可能な防御に優れた構えだ。
鋭い音と共に、警官の左手に残った警杖がすっぱりと切断され、右手の警棒が爆発でもした様に砕け散る。
姿がブレる程の瞬足で近接したVerikの右手から繰り出された攻撃を防ぎ、更にそのこめかみに独楽の様な回転力を載せられた一撃がクリーンヒットしている。
Tenno達の眼は、攻撃の瞬間Verikの腕から瞬時に伸びた爪、そして引き裂かれた頭皮の下から覗くSentientの甲殻を捉えていた。
『ででっ、ででっでんででん♪ででっ、ででっでんででん♪……ったく、硬ってぇと思ったぜ』
某、未来からやってくる暗殺ロボのテーマを口ずさみながらぼやく警官をよそに、Verikは頭部の傷をひと撫ですると、手のひらから何度か鉤爪を出し入れしながら興味深げに観察する。
内側への巻きが強いそれは、まるでカランビットナイフの様に見えた。
『久々に使ったが、やはり、ちと間合いが狭いな』
『“銃刀”、長さが足んなきゃ“軽犯”だぜ!』
警官がどこからか取り出した散弾銃が火を噴き、Verikの残像を打ち抜いたのを端緒として、死闘が再開された。
散弾がVerikの皮膚の上で弾け、仰け反る警官の眼前を真下から伸び上がったVerikの蹴りが通過、足の甲からスイッチナイフばりに飛び出した鉤爪が制帽の目日差しを深々と切り裂き、数本の毛髪を持ってゆく。
『眼の一つくらい取れたと思ったが……』
『“イチモツ”隠した奴のツラは見慣れてるもんでねッ』
淀みなく叩き込まれた下段脚払いをぴょん、と跳んでかわしながら、警官はショットガンを連射する。
『どぅっ!ぐほ!ぐぎいぃつ!』
一粒弾(スラグ弾)が額を打ちのめし、更に至近距離で銃口から飛び出したワッズがカップ部分にバラケる前の散弾を抱え込んだまま大きく仰け反った腹部に激突し、更にくの字になった所へ、交互に続く、散弾、一粒弾、散弾、一粒弾のワンツージャブが次々にVerikの上半身に激突し、ぐらぐらと上体を泳がせる。
『……は!効かぬ!効かぬわ!』
「“しょうげき”てきおーした?」
「だな」
口から緑色の何かを吐きながら、Verikは独楽の様に身を回転させ警官へ迫る。
独楽の縁である両手足の先に少しでも触れれば手足が飛ぶ。
しかし、警官は迫る回転撃を前に一歩も退かず、四指を揃えて伸ばした右手を下方から振り上げると、そこから細く白い流れがVerikへ伸び、回転に吸い込まれる。
『むぅ!』
「あ~あ」
「勘が鈍すぎる」
ヤバイ雰囲気を感じ取ったがもう遅い。
急に回転を止められないVerikの体に白い流れ、“捕縄(ほじょう)”が見る見る巻き付き、慌てて鉤爪で細縄を断ち切ろうとするが、いつの間にか流れに添えられていた左手が微妙に縄を繰る度に二の腕、手首、足首、太股と、まるで蜘蛛の糸の様に絡みついていき、あっという間に白い簀巻きが出来上がる。
『こちとら、高卒の春に桜田組に草鞋脱いでから、アホほどてめぇみてぇな使えもしねぇヤッパぶん回すひょうろく玉相手にしてきてんだ、舐めてんじゃねぇぞ!』
ヤクザじみた恫喝を叫びながら、警官は手際よく簀巻きから手首、手足だけを引っ張り出して手錠をかけてしまう。
実にあっけない幕切れである。
『まぁ、あのおっさん、妙に前線出てくるの好きだったよな、弱いのに』
『逃げ足だけすっごいはやいの!腕ちょん切ったら、クアカみたいにぴょんぴょん~んて逃げてったの』
「痛い!よりによってただの縄などと、何と原始的な!」
「うるせぇ!テロリストにゃ、人権なんてねぇんだ大人しくゴミ回収されやがれ!」
もう一言でも余計な事を喋れば、更に鉄拳が飛ぶだろう。
まるで昭和時代の刑事ドラマばりに暴力への閾値が低すぎる。
彼が本当の警官だったら、不祥事からの懲戒免職コースまっしぐらだろう。
「まぁよかろう、所詮余興よ」
Verikはひとしきり喚いた後、ニヤリと笑みを浮かべる。
「我が軍勢は既に新天地を確保し、主の号令を待ちわびているのだからな」
「誇大妄想狂罪でもう一発いっとくか?」
「ぐぅ!口と手を一緒に動かすのは止めたまえ、がっ!は、話を、んごぉ!、い、痛!んがぁ!ぐほっ!」
「やれやれ」
警官は容赦なくVerikを気絶するまでぶん殴ってから、左肩に装備していた無線に手をやる。
「あ~、こちら"私警官"、マル被確保、マル被確保、別動隊がどうのとほざいております、どうぞ」
『あ、はい、そちらの“回収案件”は既に別途“対応済”ですが“後片付け”に少々問題が生じているようで、そちらの対応を手配中です』
「了解、こちらはゴミを“集積所”まで配送に戻る」
無線を切った警官が笛を吹き鳴らすと、何処からともなく古めかしいセダンタイプのパトカーが現れる。
運転手も居ないのにピタリと近くまで来て停車したパトカーのドアを開けると、警官は簀巻きにしたVerikを後部座席に放り込み、運転席に乗り込んで、いずこかへ走り去って行くと、動画は終わった。
「……まぁ、この様に、主犯事態はTenno様方もご存じのVerik氏で“回収”はされ、別途“不法投棄”されていた“危険廃棄物”については“回収”を実施したのですが……少々難航致しまして」
タナベ氏は又、ありもしない汗をハンカチで丁寧に拭い、次の言葉を口にする。
「詳細に申しますと、Verik氏の“軍隊”、感染体とセンティエント、そして、それらの融合体……“アマルガム”でしたか、それらが本来の目的地へ辿り着けない様に誘導し、一カ所に纏めて“梱包”する想定だったのですが、元々の管理が不十分だったらしく、“請負業者”がVerik氏の拠点としている世界へ踏みこんだ時点で、元の“軍隊”は“共食い”により消滅状態だった上、その結果、感染体はJuggernautや、Phorid、Lephantisの様な特殊感染体、或いはJordas Golemの様な宇宙航行能力を持つ個体がごろごろと生じるまで“濃縮”されておりまして……更には、放置すれば、こちらのダイモスの様に“成長”しかねない“核”まで産まれている状態でした」
タナベ氏の言葉に、Tessaiは渋い顔で首を振る。
「あのおっさん、ミスった時の方が被害でけぇじゃねぇか」
「はい、残念ながら完全回収は不可と判断された為、我々、“特殊清掃課”が対処に入り、“清掃”致しました、が、ある痕跡を発見致しました」
タナベ氏がまたノートPCを操作すると、少し薄暗い映像が投影される。
ボディカメラらしいそれは、薄暗いビルへのエントリー映像らしい。
密やかに一つ一つの部屋を確認しながらも、確信のある足取りで最奥を目指して階段を下ってゆく。
そして、蒼白い光が漏れるドアをそっと開けると、部屋の中は異様な機械で溢れていた。
「あのおじさんのけんきゅーしつ?」
「“清掃”を完了させる前、生存者を最終捜索していた時の映像です」
部屋の中にある機材は、Tenno達が見慣れているOrokin帝国由来の技術で作成されたものだった。
部屋の中をクリアリングしながら中へ進むと、様々な感染体サンプルが保存液に満たされたケースに浮いているのが見える。
そして、古風なデスクトップ端末があるのを発見したカメラの主が、端末の接続ジャックを確認し、Cipherの様な恐らく暗号解読か、情報収集用の機器を接続すると、不意に室内に“ピロピロピロリ”という軽い電子音が響き渡った。
びくりと視線が跳びはねる訳でもなく、すっ、と向き直ったカメラの主は中々の手練れだが、それより、そこに立っていた人物にTenno達は注目した。
暗い色をしたキャップの側頭部には三つの金色の円盤、“エントラティオボルス”があしらわれ、簡素な藍色のシャツに金の縁取りのあるコート。
コートの裾前面にはまるで重りの様に“エントラティオボルス”が斜めに貼り付けられ、首からは丸みを帯びた大きなペンダントがぶら下げられている。
鼻下から顎にかけて短めに蓄えられたグレーの髭に囲まれた口元は面白くも無さそうに引き締められ、両手を後ろに回してぴん、と背筋を伸ばした姿は何となく軍人ぽさを醸し出していた。
「時間か……技術者としては使えない男だったが、偶然とは言え、“興味深い環境”を作り出したものだ」
銃を向けられているのを一切無視して、初老の男(?)はゆっくりと後ろに回していた腕を解き、コートのポケットから折りたたみ携帯の様な機器を取り出す。
どうやらアラームの類いだったらしいそれを止め、ちらりと、カメラの方へ目線を向ける。
「あなたは誰ですか?」
男とも女性ともつかない合成音。
『あ、これは、担当者が自動翻訳機を通してるんで、合成音になってますね』
タナベ氏の淡々とした補足が入るが、Tenno達はじっと黙って、続きを観ている。
「“ここ”では充分な検証ができた、後は“実践”だが……少し、“時期”が“前後”しているか、“結果”はそこまで変わるまい」
男は再び携帯端末へ目を落とし、頷く。
「勿論、記録しているな?」
ややあって、視界が上下に揺れる。
「名前、目的を開示してください」
「……Albrecht」
すっ、と手が伸び、デスクトップ端末を指さした。
「“掃除屋”見落としているぞ、株が二種足りん……“座標”は入れておいた、“ここ”の掃除代だ」
「それは既に、この世界から“菌”が漏れていると?もっと事情を……」
「時間がない、Hunhowの……Tennoへ見せろ、ここに至るまでに少し想定外の“無理”をした、“あちら”にも影響は出ている」
カメラが更に前に出ようとした時、上から激しい衝撃が襲った。
横倒しになった視界の中、巨大なまるでスフィンクス種の様に被毛の無い猫降り立ち、まるで確認する様にぺしぺしと猫パンチで頭を小突き回すが、カメラの主は完全に気を失ったらしい。
男、Albrechtは口笛を吹いて猫を呼び戻すと、ゆっくりと歩いてカメラの死角外へ立ち去って行った。
「現場のカメラからは以上ですね……時に、お知り合いで?」
動画を止めたタナベ氏に水を向けられたLotusは、一拍おいてから口を開く。
「“知り合い”と言っていいかは分かりませんが……彼はAlbrecht Entrati、Orokinの科学者であり、現在ダイモスに居を構えるEntrati家の当主でもあります、そして、“時”を、恐らく今は“時空”を旅する者でしょう、タナベ、あなた方が我々に求めるのは、散逸した2種のテクノサイトウィルスへの対処ですか?」
「そうなります、Albrecht氏が“掃除代”として残された情報を当方で既に下調べし、“現場”は特定しております」
「ちょっといいか?」
手を上げたTessaiにタナベ氏はLotusへ目をやって、彼女が頷くのを確認してから口を開く。
「はい」
「どの程度漏れてる?知ってるタイプでも、アレは根絶は難しいと思うぜ」
「むにゃ……かんせんたいはみなごろしにしてやくのがはやいよ~、もどせないし、またわくけど」
そう、完全耐性のあるTennoは兎も角、テクノサイトウィルスは有機物、無機物関係無く蝕み、侵食してゆくのだ。
耐性のないものに一度感染したら基本、最後の慈悲にとどめを刺してやるしかない。
その手のつけられ無さ具合は、Grineer帝国とCorpusからして、自分のとこの兵隊を通りすがりにスナック感覚で皆殺しにして回る不倶戴天の狂人集団Tennoに、報酬をたんまり詰んで駆除を依頼してくる程なのだ。
それもかなり日常的に。
普通に考えて、到底一人、二人のTennoを派遣した程度でどうこうなるものではない。
「そこはですね、残された資料を確認頂くのと……“業務請負”の内容はウイルスの根絶では無いのです」
「オモシロくなってキタな!」
タナベ氏が懐から取り出した記憶媒体を、セファロンKid経由で受け取ったLotusはそれを解析にかけながら、二人のTennoと、来訪者へ目をやる。
「Albrechtの意図は気になりますが……“現場”に彼女が居るのですね?」
「はい、弊部門の者が軽く確認しています」
脳裏で“情報”の中身を確認し、Lotusは眉を潜め、唇を引き締める。
「Tessai、Liliana、新しいMissionを命じます」
「応!」
「ふぁい」
力強く応えるTessaiに、Downyにつつかれて欠伸混じりの声を上げるLiliana。
「“向こう”の“地球”へおもむき、“彼女”の活動のサポートを行いなさい……タナベ、細かい条件を話し合いましょう」
「はい、ありがとう御座います……契約条件に、移動の方法、物資の搬入等、詰めさせて頂きます」
ビジネススマイルで一礼し、いそいそと契約書類(紙)を取り出すタナベを前に、LotusはAlbrechtの残した情報を反芻する。
(タナベ達の封じ込めが不完全だった?Albrechtの把握していた菌株の中からたまたま二種が足りなくなった?……いえ、今は“契約書”の内容確認を優先すべきですね)
違和感をひとまずバックグラウンドプロセスの一つに投げ、Lotusは椅子を立った。
To Be Countinued...
間が空きましたが、投稿です。
殆ど、「ゴ〇ゴムの仕業か!」レベルで登場するAlbrecht氏。
1999の方ではどうなるか分かりませんが、本作では割と親切(?)なご様子。
幕間も終わり、次回からは、天野さん達の方へ戻る予定となります。