虚無海洋 ~Void Ocean~   作:八切武士

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 新章開始!

 視察という名のバカンスを楽しんだTenno。
 好き放題して帰って来た彼女を出迎えたのは……

 そして、早速彼女がやらかしの被害者が発生するのであった。


第2章:降臨編
Mission 1:~Beetle in the box~


 

 

~Side Operator:オービター船内~

 

 

『Tenno、今回の上陸は軽い視察と聞いていたのですが、私の認識違いだったでしょうか?』

 

 軌道衛星上のオービターへ帰還すると同時にTimothyから即入電があった。

 少々ご機嫌斜めの様だ。

 

「良い気晴らしだったな」

『はい、オペレータ、Grineerの居ない地球があんなに楽しい場所だとは、“Ordisもびっくり”です』

 

 Ordisは相変わらず、旧地球風の駄洒落か何かを仕入れる事に熱心な様だ。

 

『“休暇”を満喫された様で何より……ですが、現地の防衛組織に我々の正体を“宣伝”した上に“粗品”まで置いてくる必要は無かったのでは?』

 

 置いてきた茶器のポットはAyatan starを埋め込んだ特別製だ。

 入れた液体の温度と鮮度を非常に長い間変えずに保つし、効果はポットの仕掛けが壊れなければ半永久的に使える。

 ついでに、惑星のどこにあるか探知可能な位の”置き忘れ防止機能”もついている。

 

「ふむ、あれはそれなりにお気に入りだからな、“贈答品“と言うのが適切ではないか?」

『オペレータ、旧地球の慣習では、贈り物には未使用のオブジェクト……“初物”?が好まれる様です、使い古しの“中古品”は好まれません、“女房と畳は新しいのがよい”……しかし、畳とは何なのでしょうか?』

 

 Timothyは組み合わせた指に額を埋め、ため息をつく。

 

「少々早めですが良いでしょう、情報収集の“効率刺激”に利用させていただきます……次はご相談頂けると助かりますが」

「ああ、どこにどう流れるか、“答え合わせ”が楽しみだな」

 

 Tennoの言葉に目線を上げたTimothyの瞳が輝く。

 

「おおよその予想はしていますが、どこまで流れるのか、それとも一笑に伏すのか……“答え合わせ”は確かに興味をそそられますね」

 

 Timothyは居住まいを正し、モニターグラスの位置を直す。

 旧地球風の眼鏡という視力矯正具に模して作ったものだ。

 

「そう言えば、今日は旧地球の服を着ているんだな」

 

 Timothyはいつものエンジニア仕様のジャンプスーツではなく、旧地球のビジネススーツを着用している。

 焦げ茶色のスーツに真っ白なシャツはしわ一つなく、首元を覆うダークブルーのネクタイは形よくセミウィンザーノットに結ばれ、アクセントのタイピンが銀色に煌めいていた。

 まるで日常的に着こなしている様な、自然でいて、隙のない着こなしぶりである。

 

「ええ、これから商談があるものでして、地上の“フロント企業”経営の一環ですよ」

 

 現地の情報収集拠点兼、活動資金及び物資確保対策として、Timothyは元コーパス関係者を中心とした“商業部”を立ち上げている。

 

「しかし、旧地球でも、原始的とは言え、我々が使う“Credit”の様な仕組みがあって助かりました、最初は雑多な実体貨幣やら、紙幣やらをかき集める作業を覚悟してましたからね」

「私は割と実体のある金属製や紙製のお金も気に入ってるがね、手にした時の所有感と、手渡しする時の“使ってる感”が何とも生々しい……“生活感”がある、シータスの市場で物々交換する感覚に近いが」

 

 Timothyは机の上に置かれたコインカウンターから薄金色の貨幣を一枚取ると、指でぴん、と弾いた。

 ピィーンと中々良い音を立てて跳んだ硬貨を空中で掴み取り、ギザギザの縁を撫でる。

 

「このようなかさばる物を製造し、保存し、破損品を回収して作り足し、容易に製造可能な贋金の対策に追われる……余りにも非効率……」

 

 弄んでいた硬貨をそっとコインカウンターへ戻し、Timothyは軽く肩を竦める。

 

「ですが、独特の魅力がある事は理解します、あくまで骨董的な魅力ですが」

 

 ちら、とTimothyの視線が動く。

 メッセージが着信したのだろう。

 

「……そう言えば、技術部から、“艦娘”を一人ラボへ招待できないか検討して欲しいと要望が来ていますよ」

「ふむ、そのうち別件で招待する気はあったが……」

 

 元の世界でも、Tennoはただ孤剣を頼りに暴れていた訳ではない。

 Tenno達を育み導いてきたLotus、地を踏みしめるシータスの民、経済支配に抗うソラリス連合、風変わりな隣人のエントラティー一家、ベールの支配に抗うKAHL守備隊、“無関心”なササヤキに抗するカビア、そして、各々のTennoが思想に共鳴するシンジケート達。

 結果的に風変わりな里帰りとなったZariman船では、再会する事等考えても居なかった過去からの旅人、ホールドファストと新たに知己を結んだ。

 Kalymosシークエンスを通じては、謎めいたAlbrechtとLoid主従に導かれ、ヘックス達の絆と共にササヤキと無関心を打ち破ったし、後に合流したラウンドテーブルのメンバー達とはバーで親交を重ねてはホルバニアのスタジアムで愉快な“ライブ”に興じたりもした。

 時に刃を交える事はあっても、共に理不尽に立ち向かってきのだ。

 Tennoを倒す為に産み出されたkuva・リッチやPavosシスター、特殊感染者のテック・ロット達とすら絆を結ぶ者もいる。

 そして、最悪の時には、仇敵と手を組んだ事もあった。

 

(我は調和を求める……)

 

 この世界でも根本を変える気はない。

 まずは”深海棲艦”を迎えた、次は“艦娘”を迎えてみるのも確かに頃合だろう。

 

「前に、我等がクランへ加わって頂いた、Braid嬢は、非常に協力的で“深海棲艦”の種族研究は順調な様ですが、そこで、前々から疑いのありました件について……“一定の確証”が得られましたので、“艦娘”の実体からもデータを採取し、更なる検証を行った上で結論を報告したい、との事です」

 

 Timothyが指を弾くと、メッセージの着信音が響く。

 

『受信ボックスにオペレーター宛てのメッセージがございます、Ordisについてのものは無いのですか?』

『ああ、ないよ』

『それはツマラン……残念です』

 

 送り主からリアルタイムに回答を貰っているOrdisを放置して、メッセージを確認する。

 

(少し急ぐか……)

 

 Braid達、“深海棲艦”とそれに対する“艦娘”達の能力発現方法にも少し思うところがあったので、念の為、観点を絞った確認を内々に指示しておいたのだが、どうやら“当たり”を引いたらしい。

 

『オペレータ、ChiaraとWolffyが帰還しましたニャーニャー……出迎えなされますか?』

 

 別口で地上の調査に出向いていたChiaraとその護衛につけていたWolffyを拾いに行ったランディングクラフトが戻ったらしい。

 

『もうそんな時間か、Tenno私もそろそろ出かけるので』

「そうだな、また後で……Ordis、二人ともキャビンか?」

『いいえ、オペレータ、二人とも出撃待機室でお待ちですよ』

 

 通信を切ってブリッジを出る。

 

(にゃーにゃー?)

 

 しかし、わざわざエアロック真横の部屋で待たずとも、下部のキャビンには乗客用のサロンが有るはずだが。

 ブリッジから上部キャビンへ続くスロープを下りる。

 下まで下りきるとブリッジの床と上部キャビンの天井を兼ねたそれがすっ、と、持ち上がって区画を閉鎖し、今度は上部キャビンの床が下へのスロープを作った。

 

『に゛ゃ~、に゛ゃ~』

「……ふむ」

 

 出撃待機室に足を踏み入れ、眉を潜める。

 室内ではぽたり、ぽたりと床に垂れる水滴が立てる音に混じり、元気な鳴き声が響いていた。

 水滴の音源は、全身ずぶ濡れで眼を逸らしているWollfyから。

 そして、元気な泣き声は、困り顔のChiaraが大事そうに抱えている“箱”から発されている様だ。

 

「取りあえず、着替えてくる様に」

 

 二人にそう言い置いてから、何がツボに入ったのか“にゃーにゃー”うるさいOrdisを適当に流しながらサロンで待つことしばし。

 旧地球への潜入用衣装から着替えたWollfyとChiaraがやってくる。

 Chiaraの腕には透明な飼育箱が抱えられており、その中には、もふもふとして頭の大きな生き物と、ころころぷるぷるした、小さな生き物が入っていた。

 

(“長四丸”に最初に行った時、玄関で遭った動物だな……“猫”だったか)

 

 小さな生き物が口を開く度に、小さくて高い“にゃ~、にゃ~”が聞こえる。

 

「さて、そちらの視察でも、中々面白い事があったようだな?」

「Chiara、報告します」

 

 水を向けてみると、“猫”達に目尻を緩めた視線を送っていたWolffyが背筋を伸ばす。

 

「……では、今回の予定タスクは九割がた完了できた様だな」

「はい、Tenno」

『オペレータ、予定外の収穫物を含めるとミッションの達成率は100%を超えています、103.285%と言うところでしょうか?……勿論冗談ですよ』

 

 タスクを確認していたデータパッドから目を上げると、テーブル上の飼育箱で母猫から授乳され、すっかり満腹になった子猫達がぽてん、とぽっこりぽっこり膨れた腹をへそ天に寝息を立てていた。

 

「小さいkavatの様な動物だな……もっと、無邪気だが」

 

 kavatはしなやかで非常に敏捷なハンターであり、Tennoの友だ。

 kubrow……ここだと、“犬”や“狼”と似ている生き物と並び、相棒兼愛玩動物として手元に置くTennoも多い。

 かく言う自分も、幾匹か飼育しているが、流石にこの小さい生き物はミッションに連れて行くのは無理だろう。

 

「はい、Tenno、この子達はその……ここにくる前にTeasonaiに預けたかわいい子を思い出します」

 

 獣飼いのTeasonaiはシータスで動物保護活動をしている男だ。

 Tennoに付き添うクルーとして働くのは非常な危険を伴う生き方であるため、彼女はクランへ合流する前に愛するkavatを手離していたのである。

 

(何となく、経緯が分かってきた気がするな)

 

「いや、ミッションも大体終わったし、時間だからそろそろ帰ろうかと思ったんだけど……」

 

 Wolffyに目を向けると、彼は頭を掻きながら唇の片方を歪ませる。

 

「ピックアップ地点に向かう途中で海が見える橋があって、丁度夕焼けが見えて、それがすげ……えっと、“とても印象的”で……“こっち”でも夕日は落ちるんだな、とか、ちょっとバカな事考えながら足を止めたんですけど……」

 

 Origin太陽系の地球でも、夕日に朝焼け、天体の営みは変わる事はなく、エイドロンの草原から眺めたあの夕焼け空は今も記憶に美しい。

 もう、何年生きたかなどとうに忘れたTennoでも感慨に浸る事はあるのだ。

 若い彼にとってはさらに鮮やかに映ったに違いない。

 

「そうですね……あの夕焼けは、私が仰ぎ見、祈りを捧げた太陽と同じもの」

 

 Chiaraはつかの間、祈るように目を閉じる。

 

「二人してちょっとそのまま橋からそれを見てたんですが、なんか、にゃー、にゃー、聞こえるなと思って下を見たら、此奴等が入った箱が流れてて……目が合っちまったんですよ」

 

 チラリとChiaraに目を向けると口を開きかけていたので、軽く頷いて静止し、Wolffyに目を戻す。

 

「それで川に跳び込んだ訳か」

「一応、深さと状態は分かる位に水質は良かったんで、イケると判断しました」

 

 そう言う問題では無い。

 

「ふむ」

 

 取りあえず、ケースの中のしょぼしょぼとしたちっちゃい毛の固まりに指を出すと、かじかじと甘噛みして、まだ飲みたりないのか、ちゅうちゅうと指を吸い始める。

 思わず口元が少し緩む。

 当たり前だが、Tennoとて可愛いものは好きなのである。

 

「とりあえず検疫はしっかりするように……幸い、飼育ノウハウは豊富な生き物だ、この子達の映像を休憩室に投影しておけば、Dojoのメンバー達のストレス軽減に貢献してくれるだろうよ」

「ありがとうございます!」

 

 正直、Wolffyを甘やかしすぎている自覚はあるが、まぁ、いいだろう。

 真っ当な潤いは必要だ。

 彼はTennoでは無いのだから。

 

 

~Side 天野狩場:大本営取調室~

 

 

(えっと……なんで取調室、もう、イヤな予感しかしねぇんだけどぉ、最近、なんかやらかしたっけ?)

 

 大本営憲兵部第四課所属の天野狩場(あまのかりば)は、さほど広くもない取調室で正面にどっかり腰を下ろす、直属の上司、空栗優理子(そらりゆりこ)に視線を向けた。

 ぴっしりとしたダークブルーのスーツに包まれた背はぴんと伸び、女性にしては怒り肩気味の肩のラインもオーダーメイドのスーツに包まれていると、まるでモデルの様にキマって見える。

 だが、狩場は知っていた。

 彼女は着痩せするタイプだ。

 

 筋肉が。

 

 新人の時期に、道場でいっぺん壁までぶん投げられて、取り敢えず逆らうのは止めとこうと思ったものだ。

 彼女は短く切りそろえられた前髪の下から、しばらくじっと、見透かす様に狩場の眼をのぞき込んだ後に口を開いた。

 

「何か“報告しておくこと”はあるかい?」

 

 狩場の背筋に冷たい汗が流れる。

 艦娘に関わる事件を扱う大本営憲兵部は、軽犯の一課、重犯の二課、機微案件の三課ときて、狩場の所属する、“マル秘”案件の四課に分かれる。

 四課が扱う事件の性質上、課員が一時的に事件に関わる機微情報を抱え込む事も多い。

 当然、最終的には上司へ報告する必要はある。

 そして、要するに、今、目の前にいる上司は……

 

『隠れて“おいた”してないだろうね?吐いて楽になるなら、今が最後だよ?』

 

と仰せなのだ。

 

「いや、最近抱えてた案件については、一昨日出した報告書が最後で、次のは資料を読み込んでるとこで、現場にはこれから出るんで大した情報はないんですが、いや、マジで、最近はそこまでやらかした記憶が……」

 

 本気で当惑した表情をそのまんま出すと、空栗はふぅと息をついて、目頭を揉んだ。

 

「そうかい、じゃあ、コレに見覚えは?」

 

 机の上に、一葉の写真が置かれる。

 

「!……蓮紋、ジジイの……こいつはどこで?」

 

 何かの繊維を大量に敷き詰めた地面に描かれた巨大な紋様。

 三枚の花弁で構成されたそれは、中央の一際大きい花弁が三重、左右斜めに突き出した花弁は二重。

 日本で一般的に使われているものより、簡素かつ記号的なそのデザイン。

 それは、狩刃にとって、個人的に見覚えのあるものだった。

 喰い付く様に乗り出した狩場から眼を逸らさずにもう一度見据えてから、優理子は頷く。

 

「“それ”について会議がある、ついてくるんだよ」

 

 

~Side 天野狩場:大本営会議室~

 

 

 優理子と狩刃が移動すると、大本営の奥まった所にある会議室にはもう人員が集まっている様だった。

 

(おいおい、叔母さんまで居るじゃねぇか、こりゃますます“ジジイ”案件だな)

 

 大本営技術部部長、天野エレノア。

 

 狩場の父、アーサーの姉がエレノアだ。

 

 日の本最古の忍びの系譜にして、最後の忍び、“M案件”担当の最古参メンバーであり、単独で深海棲艦の“巣”を撃破した、かの男の血を引くもの。

 

 天野平典(あまのへいでん)。

 

 任務の性質上、表沙汰にされる事は無いが、裏社会では伝説の男。

 最後の任務で、“装備”だけ残して煙の様に消えた男。

 

 公式にはKIAとなっているが、家族も、彼を直接知っている者達はそれを信じてはいない。

 

 彼はどこかで生きている。

 

「はーい、では“M案件”の会議はじめちゃいますねぇ!」

 

 会議室に漂う緊張感をガン無視して脳天気な声を上げたのは、人には有り得ないピンクの地毛を短めのポニーテールに結んだ艦娘、重巡“青葉”だ。

 見た目は、いつ見てもへらへらして、何を考えてるか分からない面白姉ちゃんだ。

 

 艦娘故に顔もスタイルも実にいい、良いのだが、狩場はこの女が少々苦手である。

 

 笑顔の中に埋め込まれたカメラ、いや、昆虫みたいに無関心でありながら、観察されている様な、そんな異質な眼。

 時折彼女が見せるその眼が、狩場の背筋を寒くさせる。

 情報部所属のこいつは、“M案件”がある度に、どこでいつでも二十四時間三百六十五日、日本全国津々浦々、本当にどこでも出てくる神出鬼没なやばいヤツだ。

 ただ、それだけの執念の賜か、“M案件”については関係者の誰よりも詳しい。

 詳し過ぎて墓に入るまでこの仕事を辞められない程にだ。

 そんな風にならないよう、程々の付き合いにとどめるべきだろう。

 

 なんか怖いし。

 

 改めて部屋を見回すと、会議のメンバーは狩場、エレノアの天野一家、優理子、青葉、そして、二人のおっさん……憲兵部と情報部のトップの六名らしい。

 

 つるつるの禿頭に目の離れた魚面、そこへ恵比寿さんみたいな微笑を貼り付けたおっさんが、憲兵部の部長、椎田紺蔵(しいたこんぞう)人呼んで、“恵比寿の紺蔵”……そのまんまである。

 ふさふさのアフロみたいなパンチパーマに、サンタみたいなもさもさヒゲを生やした方のオヤジが、情報部の部長、保早九印(ほばやくいん)こちらは人呼んで“ブラックサンタ”、こちらも見た目そのまんまだ。

 しかし、この二人、ストライプのスーツ着せて、サングラスと代紋バッジを装備させれば、完璧に極道そのものである。

 

「さて、今回の案件だが……事前に見て貰った写真から分かる様に、いつもと少々違う所がある、青葉、説明して」

「はーい、今回“M”被疑体と目される自称“アイヴァラ・天野”が現れたのは松雲町という港町でして……」

 

 青葉はノート端末にケーブルを繋ぐと、大型モニタに事件資料を表示させ、松雲町という鄙びた港町を舞台に進行した“M案件(仮)”のインシデントについて説明を始めた。

 

「アイヴァラ・天野ねぇ……まさか隠し子?父さん?アーサー?」

 

 一通りの情報共有が終わった後、宴会の席でどこか超然とした表情でグラスを掲げている少女……というにはちょっと落ち着きすぎている娘の写真を手にしていたエレノアはぽつりと呟く。

 祖母のナディアから受け継いだ、彫りの深い顔立ちに困惑が浮かんでいる。

 

「ジジイにも婆ちゃんにも似てねぇ、つーか、何人だよ?……まぁ、流石に親父はないだろ?いや、オレもねぇよ!」

 

 叔母から向けられた疑いの目を、狩場は慌てて手を振って否定する。

 

「大体、計算あわねぇだろ」

「まぁ、そうね」

 

 狩刃が肩を竦めると、エレノアも流石に頷く。

 流石に学生やってる内に子供を仕込んでたら、確実にバレて、地獄の家族会議が開催されていただろう。

 

(親父…、もしも、“やらかしてた”ら、俺はかばわねぇからな……)

 

 浮気、隠し子なんて“やらかし”が発覚した瞬間、祖母、叔母、母という天野家女衆三人からのトライアタックによる処刑を受けるのは必定。

 平典は兎も角、アーサーと狩場が結託したとしても、勝つどころか、逃亡すらできる目が見えない。

 

 命あっての物種である。

 

「この“アイヴァラ”と名乗る女が、天野家の関係者かは分からんが……この娘は平典氏、そして君達が扱っている様な、“スーツ”に類する装備を使い、深海棲艦を倒したと主張しているんだな?」

「いやぁ、凄いですよねぇ、ざっとした解析ですが、所々で100ノットは出てたみたいですよ、それに、駆逐級を折り紙みたいに貫通した艦砲に、一撃で沈める対艦斧、どれも規格外、引き揚げた残骸はまだ届いてないですが、松雲町の“叢雲”さんの証言だと、綺麗にトンネル開通して、着弾した装甲は赤熱してたって事です」

 

 艦娘の記録カメラ映像から切り出した謎の“スーツ”が駆逐級を狙撃したかと思えば、斧で真っ二つにし、その後、ド派手なジグザク航行で登場する、何とも現実感に欠けるシーンを幹部二人はのんびりお茶を啜りながら眺める。

 

「こいつぁ凄い、駆逐級の装甲なんて無いも同然だな、ありゃ、何だろうなぁ?」

「そうね……あの砲撃、殆ど真横から飛んできてるわね、あんな低伸弾道出せる兵器で実用化済のものなら、レールガンかレーザーだけど、一瞬で綺麗に貫通している辺り、レールガンの方が近いわ、深海棲艦の残骸を見ないと何とも言えないけど」

 

 眉を上げて感心している紺蔵にちらりと目線を向けられ、エレノアは軽い見解を述べる。

 

「あの対艦斧、変形するのはいいが、どこにしまっているんだ……?」

「殴る前にぱっと出して、殴り終わったら、ぱっ、と消えてたから、深海棲艦みたいに謎金属で作ってる感じではないっすね」

 

 首を捻る久印を見て狩刃はちらりとエレノア見るが、ぷいと顔を反らされてしまい、一応コメントを述べておく。

 

「一応先に言っておくけど、あんな“スーツ”用の装備、私は知らないわよ、“スーツ”用の強化外装なんて、技術者として興味はあるけど、特定個人にしか使えない物の開発計画に許可も予算も出ないし……そんな余裕があれば、艦娘か提督用の強化装備作れって言われるのが精々よ」

「だよなぁ……あんなもん、あったら、俺も使いたいです」

 

 狩刃のマジレスに、紺蔵はカラカラと笑う。

 

「はっはっは!確かにあんな便利そうなものがあったら、もっと働いて貰えるな」

「勘弁してください」

 

 憲兵組二人の漫才をよそに、案件の一時報告書を読んでいた久印は、ふう、と一息吐いて少しぬるくなったお茶を飲み、添付された“M”被疑者の写真に、裏まで届きそうな視線を向ける。

 

「なんにせよ、クローズした“Hファイル”をもう一度開けて、洗い直す必要はありそうだね」

 

 意味ありげに言葉を切った久印に、紺蔵がうんうんと頷く。

 

「うちからは、青葉を」

「んじゃ、うちは狩刃だ」

 

 にっこり笑って小さく手を振ってくる青葉に引きつった愛想笑いを返しながら、狩刃は嫌な予感を飲み下す様にお茶を一気飲みする。

 

「狩刃、お前は当分の間この“M”案件専従だ、今聞いた通り情報部と合同だ、今の案件は他の者へ回しておく」

「はい、了解です」

 

 最初から聞いていたっぽい優理子から、改めて新しい案件担当を拝命した狩刃はイエスマンと化し、びしり、と敬礼する。

 宮仕えに否やは許されないのだ。

 

 かなしいね。

 

「うちは、遺留品の調査ね、まだ届いてない調査物が届いたら回して……そうね、話は通してあるから、引き続き技術課の荒戸君に任せるわ」

 

 エレノアは端末のアプリケーションに何事か打ち込んでから、テーブルへ眼をやった。

 

「で、取りあえず、うちに回されてきた、彼女の“お土産”だけど……今の所、“原理不明”ね」

 エレノアは現場写真に写っている茶器のセットを指さす。

 

「正確な成分表はまだだけど、出る前に荒戸君が“恐らく地球にある素材ではない”と言ってたわね、あと、湧かしたお湯を入れて確認したけど、二十四時間、一度たりとも温度に変化は無かった、動力らしきものは見当たらないのに、勿論、中身とお茶請けも解析中……結果が待ち遠しいわね」

「“銀河の深淵、Voidの深奥より産まれ出で”……ね、今まで確認された“M”には無かったパターンだわ、単なる欺瞞なのか」

「それとも、本当に“宇宙人”なのか?」

 

 懐疑的に呟く優理子に、狩刃も肩を竦める。

 艦娘や深海棲艦、それと、平典から受け継いだ“体質”に“スーツ”。

 オカルト的な存在はもう充分に間に合っている。

 宇宙人なんてショックサイエンス的な存在で味付けしたら、胃もたれ必至だ。

 

「今までの“M”は、割と一般人っぽく紛れてくる“不思議な隣人”ケースが殆どね」

 

 エレノアの発言に優理子も頷く。

 この世界にたまに現れ、何らかの目的をもって干渉する異常存在“M”。

 遺留品や遺体が確保されるケースもあるが、大抵の場合分析や検死結果は、常人と変わらず、身元不明の変死として、表向きは処理される。

 そして、大抵の場合は未知の艦娘が新たに人類と邂逅するという結果だけがもたらされるのだ。

「今回は、ただの旅行者として現れて漁村の危機を救い、一人の少年を“提督”として覚醒させ去って行った……たっぷりと自己アピールした後で」

 

 胡散臭げに付け加えて締める優理子に、狩刃も頷く。

 

「ついでに、鎮守府の備蓄を漁ってな……ちょっとずつ消耗品を持って帰ってる辺り、サンプルを集めてる臭いぜ、“M”なら艦娘の事なんて知り尽くしてるんじゃねぇか、俺には別口に見えるぜ」

「正直私としては“宇宙人”の方がマシね、死んだという事になっていた父さんが、実は妙な組織を作って暴れ始めたなんて事になったら、ナディア母さんが知った時が怖すぎるわ」

「あ~、絶対に現場に復帰してくるわ、ジジイぶん殴る為に」

 

 エレノアも“違和感”がある事には異論は無い様だ。

 ちなみに、それなりによい年の筈のナディアは、夫の平典がKIAになってから現役を退いてはいたものの、今でもたまに“スーツ”を着て鍛錬は欠かしていないらしい。

 

「それは私としても勘弁してほしい……まぁ、それは兎も角、“蓮紋”に“天野”と“テンノ”、そして、あの“スーツ”もどき」

「余りにも天野さん達のご一家と重なる情報が多すぎるんですよねぇ、勿論、それなりのお付き合いがある、“私達”は、似て異なるものだと、まぁ、判断はつくんですけど、“空気の薄い所”にお住まいの方々はそうでもないですからねぇ」

 

 優理子が苦い顔をして呟く言葉を、青葉はニコニコ顔のまま引き取り、久印を苦笑させる。

 

「ま、疑わなくても、攻撃の材料にする連中は居るだろうな」

 

 官公庁の中にも当然、“政治”はある。

 

「“結果”は出しておかねばなるまい」

「まぁ、年くっとる分“空気の薄い所”はちっとは慣れとる、そっちはなんとかしよう、“手札”は若いもんが増やしてくれるだろ?」

「ご期待にそえる様、鋭意努力致します」

 

(おっさんのウインク、嬉しくねぇ……)

 

「じゃあ、取りあえず第六種接近遭遇対象の子、“小林健太”君ね、彼の聞き取りついでに、精密検査の付き添いもお願いね」

「あー、はい」

 

 ぴしっ、と敬礼する甥っ子にエレノアは追い討ちをかけるのだった。

 

 

To Be Countinued...

 





 不定期投稿でほんと申し訳ない!

 書ける時と書けない時のムラがホント激しいんですよね……

 コメントが入ると、ヤバイ!書かなくちゃ!読んでる人いるじゃん!

 とか焦ったりw

 しかし、yareliPのパーツが全然集まらない……ニューロティックとシステムがが……
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