対峙する二本の“聖剣”のもと、戦端は開かれる。
状況は加速していく。
~Side 憲兵&Tenno:町工場の裏手~
『オペレータ!Tennoですよ、Tennoナンデ!』
『落ち着け、“私達と同じではない”……voidのプレッシャーの質が違う、Arthur達と似てはいるが……』
フレームのHUDの中で跳ね回るOrdisを払いのけ、天野は対峙したPROTO EXCALIBURを今一度検分する。
小銃と拳銃を装備しているが、格闘武器は正面から見える範囲では装備している様には見えない。
それは、彼のフレームを知る者にとっては強く違和感を感じさせられる事だった。
遙かいにしえ、詳細は忘失されつつも、旧地球時代から名前のみが伝わる聖剣。
その名を冠したEXCALIBURは刀剣を手にする事で最大の力を発揮するフレームだ。
それが、短剣の一振りさえ帯びていない。
定石を棄てた拵え(こしらえ)。
(何か、“初見殺し”に一つや二つはありそうだな)
天野は警戒を強くしつつ、いつでもDRAGON NIKANAを抜ける様にしつつ、間合いをはかってゆく。
『“長月”さん、すんません!こいつ、うちの“身内”じゃあないっす!“M案件”なんで、えーと、色々は偉いさんへお願いしまっす!』
『キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!』
天野は顔をしかめる(イメージを出し)、Ordisの音量を下げる。
『いや、うるさいぞ……プロトは純粋なWarframeじゃない、喋るのは分かっているだろう?』
『失礼致しました……ダッテミタノハハジメテダゾ』
諸処の事情から通常のWarframeには発声機能はない。
会話可能なプロト達がいる別世界の1999年に行けるのはオペレータ本人だけ。
確かにOrdisが“彼ら”を実際に目にする機会は無い。
(しかし、“M案件”か……Timothyも頻出単語とは言っていたが詳細は掴めていないのだったな)
『こいつは相手しときます!』
PROTO EXCALIBUR……プロト EXが両拳をまるでカタナを抜く様に合わせ、ゆっくり引き抜くと、何も無い筈の空間にぬるぬると“カタナ”が生成されてゆく。
『“SKANA”……見たかOrdis?』
『見ましたしっかりと……Warframeの目ですけどネ、生成過程は“Braid”の行使する、感染金属武器の生成とほぼ一致……アイツニンゲンジャナイゾ』
ジャンプでもなく、ダッシュでもない、摺り足からコマ落としの様に間合いを盗む一撃。
体の中心線へ放たれた必殺の突きは抜刀されたDRAGON NIKANAの刀身にそらされ、脇へ大きく膨らんだかと思えば、瞬間、半歩右へ位置をずらした頭上から逆袈裟に降ってくる。
重心を急激に落とし、人体には真似できない凄まじい下半身の粘りで滑らかに斬撃の下をくぐり抜けつつ、横流しに刃を振るう。
プロト EXは刃を振りぬく勢いのまま前宙、斜め回転を加えて軌道を変えたSKANAで後ろ首を狙う。
しかし、既に前方にローリングしていた天野の頭部はそこになく、再び二体のEXCALIBURは刃を向けあったまま対峙する。
その距離、二メートル。
『Arthurより、大分“こっち寄り”だな、面白い』
元々軍人だったArthurは正統派の剣術で押してくるタイプだったが、目の前の相手は剣術と高度な体術を併せ持つ、Tennoにより近いスタイルらしい。
(こちらの世界では“ニンジャ”と呼ぶのだったか……遙か古よりの系譜か、純粋にAlbrechtの“実験”の産物か……)
吸い寄せられる様に互いに足を踏み出し、刃がすれ違う。
交錯しながらも決して刃は交わらず、めまぐるしいステップが激しく入れ替わり、時に触れ合わんばかりに上体がすれ違う。
まるで約束組み手か、パートナーダンスでも踊っているかの様な息の合い様は、互いの手の内を知り尽くした門弟同士が舞う剣舞だ。
(基本のスタンスは……“DECISIVE JUDGEMENT”に近いな)
“DECISIVE JUDGEMENT”は両手持ちした刀を左右に大きく振り回す動きが特徴的な、強打攻撃を重視する流儀。
これの使い手が暴れ回った後は、両断された死体だらけになるのが慣例だ。
(しかし……まだ剣が“若い”)
剣舞のあちらこちらで火花が散る。
短い均衡が崩れつつあるのだ。
プロト EXがSKANAの柄から持ち手をつるりと滑らせると、やや大きめの金属音が響き、二つの影が弾かれた様に距離を離す。
光が飛び交い、連続して金属音が響く。
手首を捻る様にして、四つ刃手裏剣“HIKOU”を次々と繰り出し続けながら間合いを取るプロト EXに、EXCALIBURはDRAGON NIKANAを閃かせ、命中しそうなものだけを反らし、悠々と間合いを詰める……ふりをして、手裏剣の投げ手側へサイドステップからのしゃがみ、そして、きりもみを加えながらのバレットジャンプへ瞬間的にスイッチ。
一、二枚のHIKOUに被弾するが、EXCALIBURのシールドを破るには至らない。
左、下、上と揺さぶられたプロト EXが反応する前に、直上から背中へ向けて降り注いだKUANIがシールドを削る。
距離を取りながらSKANAを構え直したプロト EXの正面から、更に凄まじい連射速度のKUANIがマシンガン如く降り注いだ。
先程とは攻守が入れ替わり、懸命にSKANAで防ぐプロト EXだが、空中に居る内にDRAGON NIKANAを納刀していたEXCALIBURは、目にもとまらぬ速度で大腿部のホルダーからKUNAIを抜き取り、濃密な弾幕を形成する。
片手打ちのHIKOUとは、速度も重量もワンランク上のKUNAIはプロト EXの防御をすり抜けて、更にシールドを削り続け、僅かな時間で数本がスーツの防御を打ち破った。
『いって!くっそ』
苦鳴と共に、激しい閃光が走った。
苦し紛れに放った“RADIAL BLIND”の効果も確認せず、プロト EXは逆手にエネルギーの刃を成形すると地面へ突き立てる。
刃は地面を走る無数のエネルギー“RADIAL JAVELIN”と化してEXCALIBURへ迫り、次々と地面からエネルギーの槍が伸び上がり、剣山じみたキルゾーンを作り出してゆく。
(む!)
だが、EXCALIBURの手から清らかな光を放つ巨大なエネルギーブレード“EXALTED BLADE”が形成されると、槍衾の間を舞う様に歩むそばから穂先は刈り取られ、霧散。
消え失せてしまう。
『やべ、食い過ぎ……なんか甘いの出てきそうだぜ』
肩を大きく喘がせながらKUNAIを引き抜くプロト EXとは対照的に、EXCALIBURは息一つ切らさずにエネルギーブレードを消し、背中へ手を回す。
戻った手には、左右対称の大型ナイフが握られていた。
鉄板から打ちだし、端っこだけ研いで刃を付け、持ち手の尻に吹き流し代わりの赤布を結びつけたソレは、Tennoには割と見覚えのあるデザインだ。
(“SPIRA”……に似た飛び道具だな)
手首を捻って、手品の様な手つきでVOID POCKETにそれをしまうと、おかわりが高所から飛んできたので、連続バク転で躱す。
ガレージの屋上から細身のシルエットが音も無く飛び降り、EXCALIBURをプロト EXと挟み撃ちする位置取りとなった。
『たるんだもんだよ』
『げぇっ!ばあちゃん』
すっくと立つ人影を見たプロト EXの声は、何となくさっきKUNAIが突き刺さった時より切羽詰まっていた。
額から鼻梁上部を覆う程の基部から生えた巨大な角が急角度で後頭部へ向け湾曲し、兜飾りの様になっているのが特徴のフレーム。
“NYX”はスレンダーな女性型フレームで、精神を操り、戦場を撹乱・支配する事に長けている。
(NYXのPROTOFRAMEまでいるのか……Eleanorではなさそうだが)
プロト NYXが発した声は、ホルバニアの知人より大分年齢を重ねている事を感じさせた。
『まぁいい、誰だか知らないが好きにやってくれたじゃないか……事情、訊かせて貰いましょうねぇ、いけるね?』
『はあっ……おうっ!いける』
プロト NYXはすっ、と片手剣を抜く。
護拳の部分に指を引っかける様なリングがついた、浅く反った細身の刀身が優美な片刃剣。
"PANGOLIN SWORD"
一部、古のTennoが用いていたとされる様式の鋭い長剣……に似た武器。
幻惑と撹乱、敵の攻撃力を利用するのを得意とするプロト NYXは直接攻撃する能力はほぼ持っておらず、集団戦でこそ真価を発揮するフレームだ。
しかし、二対一の状況である事は変わらない。
(まぁ、もう充分だ……)
目標物は回収され、チームも撤収が完了している。
あとは、この世界にPROTOFRAMEが存在するという情報を持ち帰って検証する必要があるだろう。
『オペレータ、三十六計逃げるにしかずです……なんでサンジュウロクナンデショウ?』
(それに、まだ追加の“潜入ミッション”も残っているしな)
対角線上からプレッシャーを与えてくるプロト NYXとプロト EXとじり、じりと間合いを計りながら、視界の端で二課のメンバー達が艤装を展開した敷波と長月を盾にして銃を構えているのを確認する。
事務所棟の窓からは、長良と霰が飛び降り、残りのメンバーは銃を突き出して支援射撃の構えだ。
包囲が完成しつつあった。
ついでに言えば、上空はさっきからヘリが五月蠅い。
(しかし、上からの気配……なんだ、この、“ササヤキ”じみた、妙な気配は……)
最初から誰かが強い関心を持って上から見下ろしているのは感じていたが、そこから感じる多数のざわめきを含んだ気配は、Albrechtの研究所で意識を逆撫でする“ササヤキ”に酷似していた。
だが、そこに含まれるあからさまな“好奇心”の眼差しは、“ササヤキ”の“無関心”とは正反対の熱量を含んでいる。
EXCALIBURは素早く後方宙返り半ひねりを繰り出し、まだ空中で逆しまの体勢のまま事務所棟へKUNAIを投擲、派手にガラスを粉砕させつつ降り立つ。
そして、長良と霰にへ丸い投擲物を一掴み投擲しつつ建物へ猛ダッシュからのバレットジャンプ、そしてエイムグライド。
投擲物に思わず防御態勢を取った長良達の頭上を通り越して建物の壁にウォールクラッチで貼り付くと、追いすがるプロト EXとプロト NYXへKUANIを投げつける。
『何か混じってるよ!』
走りながらPANGOLIN SWORDでKUNAIを弾いたプロト NYXは、幾つか混じった円形のフォルムをした物体を見逃さず、プロト EXへ注意を飛ばす。
次の瞬間、充分周囲へ散らばった円形の物体が唐突に膨れあがり、直径が人の膝辺りまであるボールへと成長する。
メタリックと言うより、非現実的なポリゴンじみた発色で、てらてらと黄金に輝くそれらは、たちまち意思を持って周囲を跳ね回り始めた。
『邪魔だね』
『おわ!なんだこれ?』
飛び回り、纏わり付いてくるそれに、反射的にHIKOUを投げつけて破壊するプロト EX。
手近の一つを一刀両断し、もう一つを冷静に回避したプロト NYXは、壁に貼り付いているEXCALIBURへSPIRAを投げつけるが、壁を駆け上るのを捕らえきれず、壁に突き立つだけだ。
「なにこいつ!力が抜け……もう!」
「くっつくね……」
反射的にサッカーボールキックでべっこりとそれをへしゃげさせた長良は急に膝下からテンションが抜ける感覚に慌てて片足でバランスを取り、引っ張られる感覚に逆らわずにハンマーを振るった霰は、吸いつく様な感触に不快感を覚えたのか、血振りの様な横降りで残骸を吹き飛ばす。
ぶつかってくるボール……“Roller Spector”は“Steel Meridian”シンジケートが同胞に提供する支援兵器だ。
ベースはGrineer帝国の兵器“Grineer Roller”だが、“Leech Eximus”化改造が施されたそれは、強烈な磁気を狭い範囲にまき散らす他、敵対する対象から“活力”を奪うフィールドを形成する。
あと、直径が膝辺りまである鉄球が弾み、体当たりしてくるだけで当然ながら非常に危険だ。
Warframeでもよろめくし、艦娘とて、陸上では堪えようがない。
足止め、嫌がらせには非常に効果的なユニットだった。
『Ordis、海に例のものは回してあるか?』
『予定通り完成品の“配達”は終わってオリマス』
屋上からつかの間生じている混沌へと目を向け、VOID POCKETからホバーボード“K-DRIVE”を取り出す。
飛び乗って屋上から滑り降りると、落下中にプロト EX達とすれ違う。
トリックを決めながら地面へ滑り降り、広場をカーブしながら混乱を通り抜け、ノーズクラッチを決めながらフェンスを飛び越え、道路を滑走。
ヘリのローター音とサーチライトが追いすがるのを感じ、フレームに追われる気配を背にしながら、EXCALIBURはボードの上で前傾姿勢を取り、トップ速度をひねり出す。
熟達した乗り手が駆るK-DRIVEはそれなりに平坦な場所であれば、一部を除いたWarframeのパルクール移動を引き離す事が可能だ。
と思ったら、力強いエンジン音とライトが背後から聞こえてくる。
『オペレータ、“ATOMICYCLE”デス!調達したようですよソノヘンカラ』
『この世界では“バイク”というらしいな……結構早いか?』
背後に迫ってきているのはプロト NYXが乗った、スポーツタイプのバイクだ。
追いつきついでに、SPIRAが飛んでくるのをナイフの様に逆手に持ったKUNAIで弾く。
直線で速度で追いついてくるのをトリックでかわしていると、沿岸沿いの通りに入っている。
そのまま、人通りのない埠頭へ突っ込んでゆき、トップスピードのまま真っ暗な海面へ躍り出た。
激しいスキール音と共にヘッドライトが外れるのを感じながら、合流地点へK-DRIVEを全力でとばす。
(流石に“ヘリ”と言うのはついてくるな……原始的な回転翼だが、流石に空中移動は強い)
幾らK-DRIVEが並の自動車より速いとは言っても、ヘリを完全に振り切れる程ではない。
兵器の類は付いていないのか、撃って来ないのが幸いだ。
『オペレータ、脱出ポイントです』
Ordisの声を聞きながら、小さくジャンプし、横回転を始めたK-DRIVEをサイドスクラッチ気味に掴んでVOID POCKETへ収納。
そのまま海面へダイブする。
海水を貫くサーチライトから逃げ、海底を目指して水を掻く。
真っ暗な中、Warframeの感覚が捉えているビーコンを目指すと、海底に鎮座している陰がセンサーの補正で浮かび上がってきた。
全長10m足らず、直径1m少々の葉巻型というには少々鋭角的な物体。
潜入・離脱用潜航艇“Sardinops”。
基本一人乗り運用想定だが、通常、アークウィングランチャーを載せたりする多目的貨物スペースを転用すれば二人までは乗れる。
武装は短距離魚雷6発と近接防御の小型連装機銃が一門と、(Tenno基準では)貧弱極まりないが、ステルス性に優れ、限界深度は300mを超えていた。
エアロックを開けて潜り込み、排水されるのを待ってから内部へ滑り込む。
内部は狭く、身長二メートル程もあるWarframeにとっては窮屈であるが、ひとまず操縦席へ座り、待機状態を解除、航行を開始する。
『さて、帰りはこいつの運用評価という所か』
『そもそも、追ってきてる相手がホトンドイマセンケドネ……』
Ordisの呟きは少々不服そうだ。
『近くの治安組織、“海上保安庁”だったか、その辺りが出てこないのは、“M案件”というのが公にはできない案件だからだろう……しかし』
何故か、まだ背筋がぞわぞわする感覚が消えなかった。
まだ耳のそばであのさざめきが聞こえるような……
『さざめき……そうだな、あれは“サザメキ”だ、それがしっくりくる』
『それは“ササヤキ”の亜種ですか?……イセカイハコワイトコロダナァ』
何となく納得しつつ、Tennoは闇夜の海へ“Sardinops”を疾駆させた。
夜が明ける前に次の忍務が待っている。
~Side Tenno:海軍総合病院~
必要最小限に落とされた照明。
薄暗がりと闇の中を、密やかに歩む。
腕の中の小さく、余りにも軽い命を優しく抱いて。
『シレイ……平戸が……』
小さな唇が漏らす声に見回りの看護師がライトを向けるが、そこにはただ、いつもと変わらぬ廊下が続いているだけだ。
HUDのミッションマップを辿って階段を駆け抜け、ナースステーションへ目を向ける。
夜勤の看護師が何やら事務仕事をしているのが見えた。
音もなく足を運び、隣接した“観察室”へ入り込む。
六つ置かれているベッドは二つ埋まっており、点滴とベッドサイドモニタに繋がれた患者が寝息をたてている。
一番手前のベッドへ、毛布にくるまれた小さな体をそっと降ろし、目隠しのカーテンを引く。
そうしていると、じわりと虚空から異形の姿が現れる。
扁平な、撞木鮫(シュモクザメ)の如き頭部にカラテ着を纏った様な胴体、そして、下半身は乗馬ズボンの如く大腿部が膨れていた。
Warframe“LOKI”
潜入、攪乱に特価した能力を持つフレーム。
正面戦闘ではちと心許ないが、こういった“静かな”忍務では、古くから力を発揮してきた。
LOKIはVOID POCKETから書類を入れた封筒とメッセージの紙を取り出し、“平戸”の枕元へ置く。
書類は、建造ドックのモニター機器からダウンロードした、“平戸”に行われた所行のデータ等が入っている。
メッセージには、彼女が誘拐・密建造の被害者であり、医療処置が必要である件、憲兵の第三課が捜査中である旨、そして、通報先のアドレスと担当者名を記載しておいた。
そして、ついでに……
『調和と平安を T』
と署名し、Lotusマークを添えてある。
少し切なげな表情で寝息を立てる平戸を一瞥し、ナースコールのスイッチを押す。
風が吹いた様にカーテンがそよぐと、LOKIの姿は消えていた。
足早にナースステーションからベッドへ直行した看護師が緊急連絡を出す頃には、既に院内にはTennoの姿はない。
“潜入Misson”Complete
To Be Countinued...
と言うわけで、狩刃君達とのファーストコンタクトでした。