しかし、彼女意識を取り戻す。
見た事のない部屋。
見た事のない服。
戸惑う彼女が見たものは?
別に戦う事が好きな訳じゃない。
艦娘を殺して嬉しい訳でもない。
ただ、痛いのはイヤだし、折角集めた物資を燃やされるのだけは絶対に嫌だった。
人間に特に思うところがある訳でもない。
いや、思うところはないって訳ではないかも知れない。
最期の記憶は体中が粉々になる衝撃。
皮膚と髪の毛が燃える嫌な臭い。
集積した燃料で全身に炎がまとわり付き、火薬の炸裂で飛散した金属の端切れが灼かれた皮膚を更にずたたに切り裂いた。
艤装が重くて持ち上がらない。
滴った血が、青っぽい色をつけて、砂浜にどんどん染みこんでゆく。
空が白く濁っている。
寒い。
最期なんて、こんなものか。
(アイツカラ貰ッタゲーム、オワラナカッタナ……)
ぼんやりした意識を、最期の最後、全身を無数のピンセットで少しずつ千切り取られる様な激痛が真っ白に染めた。
目を開けると、滑らかな天井が眼に入る。
痛みはない。
(顔を触ってみると、滑らかな皮膚が手で触れた。
特に傷はない。
髪の毛も、あるみたいだ。
(……ナンカ、シッカリ結ンデアルナ)
目の前に持ってくると、いつも通り太く編んであった。
薄明かりの中でよく見ても、ほつれてる所はない。
こんなに甲斐甲斐しく身繕いをしてくれたのは一体誰なのだろう。
少なくとも、空母の奴じゃなさそうだ。
(古鬼カ、アイツ意外ト面倒見ガイイカラナ……)
そう言えば、眼鏡がない。
いつもの黒縁のやつを出して、かける。
別に、視力が変わる訳でもないが、無いと落ち着かない。
(疲レタナ、モウ誰カ呼びニ来ルマデ寝テヨウカナ)
もう一度寝ようと、体の上にかかっていた薄い布を持ち上げて、初めて違和感を覚えた。
指で撫で回すと、柔らかくて薄いが、かかっている所は充分暖かい。
寝ている寝台を撫でると、何か快適な詰め物が入っているクッションが触り、更に手をずらすと、ひんやりと滑らかな金属が指の腹に触れる。
なんで今まで気づかなかったのか。
“深海棲艦”の寝床はこんな上品なベッドじゃない。
体を起こすと、体はぴったりと皮膚にフィットする服に包まれていた。
不思議な光沢のある服は、多分、頭と手、足先以外の全部を覆っている様だ。
(人間ガ、コウイウノキテタナ……)
集めさせた本の中で、なんか、人間が人間を踏みつけたり、火をつけた何かを垂らして、女が男を拷問していた様な気がする。
“拷問”が頭をよぎった時、背筋に、すっと、何か冷たい水が落ちた気がした。
まさか、“艦娘”達に鹵獲されてしまったのではないか。
恐る恐る周りを見回すと、さほど広くない部屋は、継ぎ目のない滑らかな素材で作られているのが分かった。
ベッド以外に家具は無さそうに見える。
コレが、牢屋なのだろうか。
それとも工廠にあるという“研究室”なのか。
(……ナンカ、思ッテタノトチガウナ)
捕虜を捕まえておくのは、もっと、薄暗くて威圧的なイメージのある所ではないのか。
少なくとも、人間共の“まんが”とか、“ゲーム”ではそうだったと思う。
とは言え、普段棲んでた“深海棲艦”の住処の方が、大抵の場所より暗くて威圧感があるので、そう感じるだけなのかもしれない。
すると、ふっと、部屋の照明が明るくなる。
「目が覚めたかな?」
割と近い所から声をかけられ、思わず、体がびくっ、と竦ませながら横を向くと、床の上で人間が胡座をかいて座っていた。
片目を開けた人間は、胡座をかいた姿勢を崩さず、少し首をかしげる。
「ふむ……Ordis、言語サンプルを一通り頼む」
『了解ですオペレータ、主立った言語はスベテ、カンペキに解析済み、成果を披露する時ですね』
どう反応して良いか分からない内に、何かよく分からない言葉で短いフレーズが流れ始めた。
『この言葉が分かるか?』
意味が分からない言葉の羅列の中、一つ耳に入った、聞き慣れた言語に、いつの間にか下げていた顔を上げる。
「ソレ……ニホンゴ?……タブン、ワカル」
「Ordisいいぞ」
『了解デス、お役に立ったでショ?』
言ってから、答えなかった方が良かったんじゃ無いかと後悔したが、少なくとも、挨拶か何かの朗読は止まってくれた。
「……よし、“日本語”は最初に憶えたからな、何とかなるだろう」
胡座を書いていた人間が薄く笑い、立ち上がる。
見た目は白い髪を肩の辺りにまで伸ばした、多分、“若い”女だ。
どうやって顔に貼り付いているか分からない、眼鏡みたいなものをつけている。
紫色の、ちょっと素材が分からない服を着ているが、制服っぽくは見えない。
(“鎮守府”ノ連中ジャナイノカ?)
「体で痛む所はあるか?」
奴らにまとわりついている、鬱陶しい“妖精”とかいうヤツは見当たらない。
しかし、ベッドの上で身を起こしていると、この人間より目線が上だ。
背が高い方じゃ無さそうだ。
「……ナイ」
「そうか、“深海棲艦”を分解して戻したのは初めてだったからな、影響がなさそうで良かった」
「ブンカイ?」
体を分解整備したと言う事か。
思わず、胸に手を当てる。
服で隠れてる所は無事なのか。
「少し手荒だが、抱えて運ぶのは我々のやり方ではないのでな」
「ワレワレ……?」
何か、決定的に違う気がする。
昔、話した事がある、人間共とは何がが違う。
背筋に、ピリピリ、ちくちくと妙な違和感が訴える。
「“私”はTenno、この星、この世界の住民ではない」
集積地棲姫は黙った。
多分、他の“深海棲艦”なら、既に短気を起こして暴れていただろう。
しかし、下手に人間の文化に毒されていた彼女の頭には、ゲームや映画、アニメ、まんが等から仕入れた似た様なシチュエーションが詰め込まれていた。
停止しかかった頭で、何となく、こう言うやりとりをしている時は、先に暴れた方が碌な目に合わない。
そんな予感がしたのだ。
「……何ダヨソレ」
「そうだな、“日本語”で近いのは“宇宙忍者”だったか」
「ニンジャ?」
訳が分からない。
「時間はある、説明しよう」
“Tenno”がベッドに歩み寄ると、床から音も無く椅子と机が構成された。
既に手が届く位置に居る事も気にせず腰をかけると、宙に指を走らせ、机の上にホログラムを呼び出す。
「Ordis“窓”を開けてくれ、眺めを良くしよう、少し長い話になる」
壁の一部が、すっ、と色を変えたというか、透明になり、青と白に彩られた球。
眼下の地球を映し出した。
「流石に素通しの窓じゃないが、“絵”は今の地球だよ」
「……イマ、宇宙ニ居ルトカ、言ワナイダロウナ?」
「今は、地球より月の方が近いかな」
他の艦なら、はなから単に“艦娘”達の陰謀だと疑っただろう。
だが、彼女は人間の文化に毒されすぎていた。
(……先ガ、見テミタイナ)
この馬鹿げた話の先が見たい。
そう思ってしまった。
「分カッタ……聞ク」
“Tenno”の話はジッサイ、少々長かった。
To Be Countinued...
Night Waveの課題片付けたり、何故かいままで掘ってなかったMITERの部品掘ってたら、週末終わってしまった……
しかし、Warframeのサントラとか欲しいなぁ。
フォーチュナーとかテンペスタリの曲、ゲーム外で作業BGMにしたい。