次の段階に進む為、デブリーフィングを兼ねた会議という名のお茶会を開く一同。
しかし、これから得るものの前に、既に得たものの事を考える必要があった。
「さて、明るい材料としては、“艦娘”、“深海棲艦”双方とも、Warframeで対応可能な事が確認できたという所かな」
「んで、悪いところは、キャプテン以外の攻撃は通じないかも知れないってとこよね」
「傍受した情報では、対艦攻撃兵器を直撃させれば効果はある様だから、Railjackの武装は有効だろうな……旧地球の軍用船がダメージを与えられるものなら、携行火器でも効果は見込めるかも知れん」
最初の作戦の後、持ち帰った素材や情報を元に各自が分析を行っていた。
個々に軽く進捗の確認は行っていたが、本格的なデブリーフィングを兼ねた打ち合わせはあれから初めてになる。
「そりゃ、キャプテン、重砲ぶっ放せば大抵のもんは蒸発しちまうだろうけどさ、Railjackでカチ込めないでしょ」
否定する割には、“良い考えだ”とでも言いたげな笑みがJemmaの顔に浮かんでいる。
当然本気だとは思っていないだろうが、軽く肩を竦めて受け流しておく。
「ソロでのミッション対応等、今始まった事でも無いからな、当面問題はないだろう」
ミッションによっては一時的に他のTennoや、シンジケートの構成員と手を組む事はあるが、敵基地の正面攻撃の様な極めつけに危険な任務ですら、単独で実行するのはTenno達にとってごく普通の行為だ。
「でも、やっぱ、キャプテンだけに全部任すってのもなぁ」
Wolfeeは不平そうに唸りながらテーブルの壺へ手を伸ばし、きつね色に焼かれた棒菓子をひょいと一本取った。
小気味良い音を立ててかみ砕かれた棒菓子から、ぱらぱらと細かい欠片が飛び、Zanaがあらかじめ各員の前に敷いておいたランチョンマットの外まで散乱する。
「あたい達だって、何にもしない訳じゃないさ、いままでだってバックアップしてきたでしょ?」
ZanaはWolfeeの脇腹を肘で一突きしてから、香草茶を一口啜った。
会議室は空調が効いているが、それでもほっとする様な香りが幽かに鼻をくすぐる。
クランの主要メンバーが集まる会議は、共有される話題は真面目だが、主にZanaの趣味で見た目はお茶会にしか見えない。
「っ、まぁ、そうだけどさぁ」
「まぁ一応、一つ試してみたい対策がある、それが通用すれば攻撃面は改善されるかも知れない……Stain、後で相談させてくれ」
テーブルに並べられた茶請けを全部試している最中のStainに声をかけた。
研究に入ると寝食を忘れるタイプの彼は、会議に出る度に何かを食べなくてはいけない事を思い出すらしく、せっせと栄養補給に励むのが常だ。
「……構わんよ、儂の方からも1つ試してみたい事があってな、相談したかった所よ」
頭髪が寂しい頭を撫でながら、Stainは鷹揚に頷く。
聞いていない様で、ちゃんと話は聞いているのも常なので、問題はない。
「えー、こほん……最低限の活動に必要な要素が集まってきたのは嬉しいんだが、隊長、ビジネスの件を詰めるにはもう少し、“地球”の件でもっと情報が……“生”の情報が欲しい」
Timothyは2cm厚に切られたケーキを一切れ追加した。
会議中に食欲もついでに満たそうとしているのはStainだけではないらしい。
甘味料漬けにした乾燥果物と穀物の粉を練り、それを型に流したものを焼く。
素朴なケーキなのだが、甘くてほろ苦い風味が癖になる代物だ。
Zanaの料理は、日だまりのぬくもりに肌を撫でる薫風、夕日の中に漂う夕餉の匂い、そういった穏やかな何かを思い起こさせる。
「降りてみたいか?」
「そろそろ、そういう段階かと思います、傍受で得られるのはどうしても一端フィルタを通した情報ですからね、“空気”を肌で感じてみたいんですよ」
ここまで他の惑星は散々現地調査してきたが、地球は敢えて傍受と、ドローンによる遠隔監視に調査をとどめてきた。
先日のミッションが初の上陸となる。
「地上に降りての調査でしたら、是非、私にも実施させて下さい」
回答を待たずに、Chiaraが口を挟む。
彼女の口調は普段通り柔らかいものだが、強い熱意を感じる。
伝説の旧人類達が住まう地球への巡礼。
それが叶うのであれば、ニュー・ロカに身を置いた者であれば、全てを投げ打ってでも行くに違いない。
むしろよく我慢してくれたものだ。
「そうだな、“非破壊的”な地球の直接調査を開始しよう、Timothy、Jemma、選抜した工作員達への準備は問題ないか?」
「勿論、問題ない、傍受した情報から可能な限り学習させて“旧人類風”に仕立て上げてある、隊長、後は実践さ」
自信たっぷりのTimothyを横目に茶のおかわりを注いでいたJemmaは、甘味料をたっぷりと加えて念入りにかき回してから顔を上げる。
「まぁ、問題ないと思うわよ、“非破壊”だしね……それに、素手で転がすやり方も、たっぷりと復習しといたよ、簡単にこっちの武器をチラつかせる訳にもいかないしね」
「そうだ、“艦娘”と“深海棲艦”と直接事を構えれば、工作員を失う公算が高い、隠密に徹するべきだろうな、最悪の場合は私が“迎えに”行こう」
「ああ、よくよく、言い聞かせておくよ、隊長」
そうだ、もう、スタッフの補充は不可能だ。
一人も失う訳にはいかない。
「直接上陸する時、JemmaはTimothyをサポート、WolfeeはChiaraをサポートしてやってくれ、細かいプランは後でOrdisに伝えてくれ……後は、そうだな、Zana」
「なんだい?」
「地上のもので欲しい情報とかサンプルを思いついたら、TimothyとChiaraにリクエストしておくといい」
「そりゃいいねぇ、折角旧地球に来たんだ、ここのうまいもんをみんなに喰わせてやりたいし……まぁ、その内ね」
食料は完全自給自足できるが、新鮮で良質な食事は確かにスタッフ達の士気向上には有効に違いない。
コーパスやグリニアじゃあるまいし、スタッフ達には少なくとも気晴らしになる位にまともな食事を与えたいものだ。
「良い考えだが、生ものを増やすのは、よくよく調べてからにしてくれ」
流石に家畜とか魚の養殖槽をいきなり増やされても困る。
「わかってるって、ボス」
にっこり笑うZanaに頷いて、香草茶の匂いを吸い込む。
気が落ち着く香りだ。
「さて、では私は引き続き、“艦娘”と“深海棲艦”の接触調査だな……“艦娘”の側は事前情報では、“日本”という国の“大本営”をトップとした“鎮守府”という勢力が分布している様だが……“大本営”直属と、独立組織の“鎮守府”、最初に接触してみるのであれば、独立系の“鎮守府”だろうな、実際に組織として接触するのはTimothyの調査が終わってからが望ましいが」
「“独立系”を狙うのは、手始めとしてはありですね……なんなら、営業をかける前に一つ二つは“お披露目”しておくと効果的でしょうな」
“国”や“大本営”は取引相手としてはいささか図体が大きすぎる。
個人経営のTennoとしては、もっと、“草の根”レベルの交流から始めたい所だ。
「“深海棲艦”については“お客人”の知る限り、“艦娘”側程には統制のとれた組織では無いらしいな、勢力としては感染体を思い浮かべて貰った方が早い……小規模な内は野生の獣と変わらないが、時折強力な個体が発生すると、その制御下で統制がとれた行動を取る様になる、感染体と違って、軍事作戦レベルの統制になるのが厄介だ」
「ふむ、ふむ……やはり興味深い、まだ、儂らは“お客人”に会えんのか?」
「Stain、充分スキャンはとっただろう?……あの“お客人”は俺たちなんか、朝飯のパン位簡単に真っ二つにできるんだぞ、多少は慎重になった方がよいのでは?」
今にも解剖刀を持ち出しそうな勢いのStainに、Timothyが呆れた様に首を振る。
まぁ、解剖は無いだろうが、鬱陶しい質問責めとテストでかなり彼女を辟易させる事は確実だ。
かなり人見知りな性格の彼女に対しては拷問だろう。
「さっきも話した通り、“深海棲艦”達の帰属意識は、種族として同士討ちはしない程度で、組織としても精々個人への忠誠がある程度だな、そもそもが人型をしてないタイプは、命令ができても会話が通じる様な精神構造をしていないらしい、殆ど戦闘ロボットだ、コーパスのモアみたいなものか……概ね事前に傍受した情報の分析結果と合致している、“彼女”は大分素直に話してくれたと思う」
「幾ら何でも、あいつ、ぺらぺら喋りすぎじゃない?」
「う~ん、まぁ、確かになぁ……一応仲間の情報だぜ、そんなぺらぺら喋るもんかな、俺だったら喋らないぞ」
Jemmaの疑問にWolfeeが乗る。
勇敢さと忠誠を良しとする二人からすれば、ちょっと理解しがたい態度だろう。
「ふふ、お前なら喋らないだろう、でも、彼女は戦士じゃない……疲れてしまったんだよ、終わらない戦いに」
「ボス、その言い方だと、うちの食い扶持が一人増えそうな気がしてきたんだけど?」
しかめっ面で腕を組んだZanaに、指を向ける。
察しの良さにポイント1点だ。
「実の所、もう地球には帰りたくないと言われてる、“亡命”させて欲しいとな」
「これはこれは……そこまでは知りませんでしたね」
「ここで話し合うつもりだったからな」
若干非難する様な視線を向けてくるTimothyに手を振り、抗議を一蹴する。
「では、Tenno、あなたはその者に手を差し伸べるつもりなのですか?」
「まぁ、私としてはそうしても良いとは思ってる」
Chiaraの問いに首肯し、テーブルを見回す。
「ただ、私の一存だけ決めない方がスムーズだからな、皆はどう思う?」
「ボス、参考までに、あの子は誰が面倒見る訳……ボス付にするの?」
Zanaの顔が見る見る内に渋面になった所を見ると、笑いが顔に出ていた様だ。
「彼女は兵站を担当していたそうだ、あと、力は強いから、倉庫整理も畑仕事だって何でもやるらしいぞ」
「畜生!ボス、アイツに握り殺されたら、Voidの底まで追いかけて憑り殺してやるからね!」
「是非そうしてくれ、それができれば、君もTennoになれるぞ……他に何かあるか?」
言うだけいって、椅子にどすんと腰を落としたZanaから目を離して一同を見回すと、天を仰いで目をぐるぐる回す者や、軽く肩を竦める者は居ても、拒否する者は見えない。
「Ordis、“お客さん”を呼んでくれ、改めて顔合わせをする」
『そのう……Tenno、本当にそのまま出歩かせてよろしいのでしょうか?……ワタクシとしては、首わ、いえ、アスカリスを取り付けるのとか……オススメダゾ』
「Ordis」
『ワカリマシタ、ハヤクキガエテ!……えー、Tennoちゃんとお色直しさせて、向かわせます、スグニ!』
しばらくすると、会議室のドアがすっ、と開き、何故か片手の拳を持ち上げたままつんのめった“集積地棲姫”が部屋の中に転がり込んできた。
結構派手な音を立てて転んだが、どれだけの力で叩こうとしていたのやら。
「……おい、大丈夫かよ?」
席の近くでうずくまられたWolfeeは、さっと立って、“集積地棲姫”を抱え上げてやった。
「イキナリ開クナンテ酷イゾ……」
『いきなり扉を叩こうとしたりするからですよ、旧地球の謎の儀式ですか?』
「メ、眼鏡ドッカ行ッタ……」
こけた時に眼鏡がすっ飛んでいった事に気がついたらしく、キョロキョロと周囲を見回始めた彼女の髪の毛は大分ボサボサだ。
もしかして、風呂に入ってないのでは。
ふと、そんな疑念が浮かぶ。
(まさか……な)
彼女に貸し与えた部屋には当然衛生設備が備え付けられているし、着替えも充分あった筈だ。
使い方も説明したし、分からなかったらOrdisに聞けと言ってある。
流石に、Ordisに事実をここで聞くのは憚られた。
「ほら」
「姐さんどうも!……ほら」
「ア、眼鏡ダ……悪イ」
Wolfeeは抱えられたまま眼鏡をかけ直している彼女を、そのまま席に座らせてやる。
放っておくと、座る前にもう一度こけそうな気がしたのだろう。
全く、面倒見の良い子である。
「エー、自己紹介トカスルノカ……?」
全員にじっと見られているのに気づいて、“集積地棲姫”は肩を丸めて猫背になってしまった。
「別にいいんじゃないか、君の事は全員知ってるからな」
「ソウカ?」
「でも、なんか、名前呼びづらくないか」
自己紹介が要らないと言われて一寸ほっとした顔をしていた“集積地棲姫”が、今度は多少むっとした顔をする。
「ソレハ、人間ガ呼ンデル名前ダ、アイツラニ文句言ッテクレ」
「そもそも、“集積地棲姫”は種類の名前であって、個体名ではないな……個体識別名はないのか?」
「ナイ、同ジヤツハ、沢山居ナイカラ別ニ困ッタ事モナイ」
少し考える。
「“メガネ”でいいでしょ?」
「私と被るから却下だ」
「いや、流石にキャプテンの事、メガネなんて言うヤツ、居ないだろ……」
Jemmaの発言を却下してもう少し考える。
「Ordis、ああいう髪、旧地球だとなんて言うんだ?」
『はいはい、類似のものは三つ編み、おさげ、辮髪、Braid、Plait……』
「ふむ、Braidでいいか?」
“集積地棲姫”に目を戻して確認してみると、おずおずとした首肯が返ってきた。
「ソレデイイ」
「よし、じゃあBraid、これから宜しく、Zana、新入りの面倒を見てやってくれ」
「ヨロシク……」
ため息をついたZanaは、片手で獣の形を作ってぱくぱくさせた。
「じゃ、続きをするか、Braid“深海棲艦”の勢力で交渉ができそうな所があるか?」
「交渉?……ソウダナ、多分、大体ノヤツが顔ヲ出シタ瞬間ニ撃ッテクルト思ウゾ……何カイイ匂イガスルナ……」
Zanaがケーキをとってやると、Braidは匂いを嗅いでから一口囓り、気に入ったのかもう一口囓る。
「ウマイ……ソレモ、貰ッテイイカ?」
言われるままにWolfeeが穀物の薄焼き菓子を取ってやると、ぱくり、と口に放り込む。
頬を膨らませて咀嚼する姿に、感心したのか、呆れたのか、眉を上げたまま、Wolfeeは口をゆがめる。
「お前、なじむの早いな……」
「問題はなさそうだな」
To Be Countinued...
と言う訳で、集積地棲姫さんは居残りです。
なんか、公式の台詞からすると、性格が大分違う……みたいな感じかも知れませんが、個体差です。
同型個体は複数存在する世界線となりますので。
今朝3:00から、DE公式がTwitchで新情報流してましたね。
なんかIvaraにちょっと似てる単眼顔の青いフレームの絵が公開されてましたが、あれが新フレームなんだろうか?