そんな中、Tennoは工作員の下調べを元に、小さな漁村に降り立つ。
そこにはとある小さな“鎮守府”があるという話だが……
地上に降り立ったTennoが見たのは、ゆったりとした時間の流れる、平和な風景であった。
「……ふむ、駆逐艦が精々といった所か」
『そうですね、駆逐艦でも“秋月型”は完全にオペレータのパラメータが許容範囲外です』
「喋るとバレそうだな、イントネーション程度なら翻訳機で補正すればごまかせるが、どうせボロが出る」
『オペレーター、モノハタメ……海外艦もお試しになられては?』
「“日本”だと海外艦はちょっと目立ちそうだが、そうだな……この“Z3”という艦はどうだ」
『オペレータ……この足が付け根まで見えてしまいそうな服は本当に軍服なのですか、旧人類の考える事はOrdisには分かりません、満足に制服を供給できない位戦況が逼迫しているのでしょうか?……マッタク』
「傍受した情報からは、そこまで逼迫している様子は無かったが……まぁ、“艦娘”に化けるのはおまけだ、どれでもいい」
フィッティングルームの画面には、“Z3”の姿になった自分が映っている。
傍受したサンプル画像が真顔だったので適当に選んだだけだが、普段からこの様な表情をしている個体であれば、黙っている間は欺けるかも知れない。
体のサイズも似たり寄ったりなので、“化けの皮”を無理に補正する必要も無いのも良さそうだ。
「遠目に見られた時、ごまかせるか期待してるだけだ」
指を振って、ワードローブのサンプルを変える。
今度は、地上の一般的な民間人の服装だ。
「“成人”か“未成年”か……」
旧人類の平均と較べても、自分の背丈が高い方ではない。
だが、服と身分証次第で、どちらでも通せるだろう。
(まぁ、どうせ長居する訳でもないが)
少し“散歩”するだけの事だ。
サンプルを高速で切り替え、頭にベージュでつば広なトラベラーズハットを載せ、上半身はルーズなカットソーで包み、下半身はベルト付きの丈長のスカートで隠す。
靴は、歩きやすそうなスニーカーというのにした。
銀色の腕時計も左につけておく。
(……眼鏡も変えるか)
旧地球で使われてそうなデザインの眼鏡をかける。
固定具が鼻の上と耳にかかるのは少々違和感があるが、慣れるだろう。
少なくともずれない様にはなっている。
「こんなものか……ordis、どうだ、人畜無害な旅行者だろう?」
鏡の前でポーズを取ってみせると、Ordisは何やらひとしきり電子音を吐いた。
人間で言えば、ため息に近い行為だ。
『オペレーター、今お選びのお洋服、似合っていますよ……ただ、目つきが鋭すぎます、まだ、血みどろの戦いで頭がいっぱいですね?』
「所詮、中身は変わらんからな……よし、出るぞ」
『了解ですオペレータ、“Orbiter”は準備完了していますよ』
“Orbiter”はRailjackとは又違う航宙船だ。
生活に必要な全てが揃っており、Tennoはこれで太陽系を移動し、任務先へはステルス能力を持つランディングクラフトで降下する。
DOJOを持たぬ新人Tennoにとっては家も同然の移動拠点なのだ。
Ordisも本来は、“Orbiter”を管理していたセファロンである。
(まぁ、長い付き合いだな)
乾ドックには、いつも入渠しているRailjackはない、別の調査任務に出かけるJemma達を送りに出かけているのだ。
『オペレータ、先にStainがいらっしゃってます』
「Stain、珍しいな?」
『オペレータ、終わったら、連絡するので放っておけ、との事です……どうしますか?』
「何日か滞在する予定なんだがな」
研究室と会議室以外で彼を見かけるのは珍しい。
まぁ、何か作業している時には声をかけるのはやめておいた方がいい。
「わざわざ乗り込んでるのは、あっちで何かしたいんだろう、そのまま行こう」
『わかりましたオペレータ、注文のケースは、ランディングクラフトの方に配達済みですよ』
「ああ」
ランディングクラフトに行ってみると、ブリッジに腰からちょっと上位の高さがあるケースが置かれていた。
ケースには引くのに便利そうな伸び縮みする取っ手と、車輪が付いている。
旧地球で一般的な“旅行鞄”の見た目に作って貰ったものだ。
準備は問題ない。
「Ordis、出発だ」
『ヤッタゼ!……オペレータ、“Orbiter”出航します、随分と久々に感じますねぇ』
地球までさしてかかった訳でもないが、結局Stainは顔を一度も出さなかった。
先日相談してきたプロジェクトにかなり入れ込んでいるらしい。
割と面白そうな話だったし、結果報告を楽しみに、今は放っておく事にしよう。
ランディングクラフトを目的地付近の小規模な林に降下させる。
真っ昼間だが、透明化したランディングクラフトは目撃される心配はない。
『オペレータ、お気をつけて』
「撤退の時には連絡する、Stainから何かあったら、報告をくれ」
『分かりました、オペレータ、タノシンデ……ご無事に帰ってきてください。』
ランディングクラフトから飛び降りて周囲を軽く見回してみるが、特に見られている気配はない。
事前の確認でも反応は無かったが、念の為だ。
先に落としておいた旅行鞄を確認してみるが、傷一つ無い。
(注文通りだ……しかし、本当に何もかも違うのだな……)
埃っぽくない空気に、どこか爽やかに感じる風。
林から匂う草木の香りも見知った“地球”の異常繁茂した植物から匂い立っていた青臭さとは全然違う、控えめなフレーバー。
「……空気まで心地よいのだな」
以前のミッションでも地球には降りたが、戦闘で降りるのとはやはり違う。
鞄を拾い上げて林を抜けると、すぐに整備された道路に突き当たった。
黒い舗装材で作られた道路の真ん中に白いラインが引かれており、両脇には別の白っぽい舗装材で作られた歩道がある。
風が変わり、潮と、何かが燃える臭いが鼻をくすぐった。
動力音に顔を向けると、箱形の乗り物が目の前を通り過ぎてゆく。
(“自動車”化石燃料を燃やして車輪を回す乗り物だったな……動力は兎も角、荷物を運ぶカートと似た様なものだな、追いかけるだけならK-Driveで足りるか)
そんな事を考えながら、鞄を下に卸して取っ手を伸ばし、がらがらと音を立てて歩道を歩き出す。
事前情報では、このまま坂を下ってゆけば小さな漁村に出る。
人口は少ないが、小規模な入り江を持つ漁港だ。
そこには、最小規模の“艦娘”達の基地がある。
軽巡洋艦1隻、駆逐艦5隻の“水雷戦隊”と呼ばれる構成で、交代要員はなし。
村の漁業組織が所有する建造物の一角を間借りする形で“鎮守府”が存在する為、簡単に“艦娘”達の姿を見る事ができる筈だ。
(入り江の中で機動訓練をやっている事もあるらしいな、ツイてればそれも見られそうだが……)
そんな事を考えながら坂を下ってゆくと、三角と四角を組み合わせた建物が道路左右に現れてきた。
旧地球では、直線的なラインで住居を作るのが主流らしい。
材質も、石材や木材、薄い金属板を組み合わせたもので、丸っこい緑色や、銀色の金属塊、後は、無駄に華美な白地に金装飾の建造物を見慣れた身からすると、異国的な風景だ。
開閉が容易にできそうな窓には、透明な板がはめ込まれていて、中々快適そうに見える。
道路脇に生えている柱に渡されているワイヤーは、原始的な電力伝達ラインの筈だ。
(必要なものは一通り揃っているという事か)
進む程に道が狭くなり始めた
道の周りに建っている建物はどれも民間人達の住居らしく、人の気配はするが、とても静かだ。 耳を澄ますと、幽かに子供達の遊ぶ声が風に乗って聞こえてくる。
戦争をしている星とは思えない静寂。
(Tennoの居場所など無い様に思えるな……)
To Be Countinued...
Tennoの地球観光開始です。
実は、SF小説の異文化接触や、ファンタジー世界から現代世界に来るタイプの異世界ものが非常に好きなのです。
なので、Tennoの目を通した旧地球の様子みたいなものはちょっとじっくり書きたくて、ちょっと長くなってます。
次回、港町へ降りたTennoは旧地球人達と交流を持ちます。