ハリー・ポッターと灰の魔女 作:アストラマギカ
ホグワーツ入学から2か月ほどが経った10月31日、私たちはハロウィンを迎えていました。朝っぱらから城中にカボチャの甘ったるい香りが充満し、この日ばかりはクィレル先生の教室のニンニクも押され気味です。
「料理が豪華だといいよねっ、今日めっちゃケーキ食べたい気分だし」
「ダフネけっこう食べるくせに、何で私より細いのかしら?」
ハロウィン気分でロクに授業が耳に入っていないダフネの隣で、パンジーが愚痴を漏らしています。まぁ、なんというか平和な一日ですね。
もっとも、ハロウィンだろうと昼間は普通に授業があります。午前に「闇の魔術に対する防衛術」と「天文学」を終えて昼食を食べ、午後の「妖精の呪文」に備えます。
この日はグリフィンドールとの合同授業で、物を宙に浮かばせる呪文を学んでいました。
「ビューン、ヒョイ、ですよ。いいですか、ビューン、ヒョイ。呪文を正確に、これもまた大切ですよ」
フリットウィック先生が杖の動きや、呪文の発音を丁寧に解説して実演した後、生徒たちが実習に入ります。課題は机の上に置かれた羽ペンを浮かせること。
「ウィンガーディアム・レビオーサ-浮遊せよ!」
先生を見習い、生徒たちが見様見真似で杖を振りながら呪文を唱えました。が、微妙に発音が微妙に難しいのか上手くいきません。
「ウィンガーディアム・レビオウサ!」
「ドラコ、発音が違うのでは?」
「ふん、ならイレイナ、君がやってみたらどうだい?」
やってやろうじゃないですか。せっかく善意のアドバイスをしてあげたというのに、それを鼻で笑うとは。後になって後悔しても知りませんよ。
もちろん、予習はバッチリです。目の前で恥をかかされたマルフォイの吠え面が目に浮かぶようです。隣で苦戦していたパンジーたちも、私たちのやり取りを聞いて興味深そうに視線を移してきました。
「よく見ていてください。 ―――ウィンガーディアム・レヴィオーサ!」
あれ、浮かない。
「発音が何だって?」
「いやはや私としたことが、空気抵抗の計算を忘れていました―――ウィンガーディアム・レヴィオーサ!」
2度目の正直という奴です。今度こそ、羽ペンが風に吹かれたように軽やかに浮いて――。
「あ、落ちた」
「そもそも隙間風で浮いただけじゃね?」
「イレイナ、だっさ……」
パンジーたちは後で校舎裏に来てもらいましょうか。
「セレステリアさんは発音は完璧ですが、手首の振り方が少し間違ってますね」
どうやってパンジーに復讐しようか考えていると、いつの間にか近くに寄ってきたフリットウィック先生が見本を見せてくれました。
「ビューン、ヒョイ、です」
なるほど?
「こほん、では気を取り直して。―――ウィンガーディアム・レヴィオーサ!ウィンガーディアム・レヴィオーサ! ウィンガーディアム・レヴィオーサ!」
ふわっ。
「おお、セレステリアさんがやりましたよ!」
必殺、下手な鉄砲も数撃てば当たる理論。
「た、ただのまぐれだろ!」
「ドラコ、負け犬の遠吠えは見苦しいですよ? どんな手段を使おうとも、勝った者が正義なのです」
「じゃあもう一度やってみろよ」
「仕方ないですね。では、よーく見ていてください。ウィンガード―――」
次の瞬間、ボンッ!!と凄まじい音が響き、教室が眩い光に包まれました。
「おいこらイレイナ」
「待ってください。ほら、よーく宙を見るのです。羽が浮かんでいますよ」
爆発こそしたものの、焦げた羽と羽毛の切れ端が浮かんでいます。
「……ほぼ燃えカスだけどな」
「別に五体満足で浮かせろとは言われてません」
そんなやり取りをしていると、グリフィンドールの方でも爆発音が聞こえてきました。どうやらシェーマス・フィネガンが私の動きを真似たところ、同じく爆発オチとなったようです。
すぐ横ではフリットウィック先生が頭を抱えていました。
「浮遊呪文は本来、爆発するようなものではないのですが……」
「先生、本来なら爆発しないはずの浮遊呪文で爆発を起こせてしまう私、逆に天才じゃないでしょうか」
「ホントその自信どっから来るんだ……」
弱冠1年生にして新しい爆発呪文を完成させてしまうとは、我ながら自分の才能が恐ろしいです。授業が終わったら魔法省に特許でも申請しましょうか。
「セレステリアさん、呪文の連続使用は対象に大きな負荷をかけます。爆発したのはそのせいでしょう。次からは気を付けてくださいね」
「……はい」
そんなやり取りをしていると、なにやらグリフィンドールの席が騒がしくなっている様子。
「ロン、発音がちょっと違うわよ。レビオサーじゃなくて、レヴィオーサよ」
「そんなに言うなら、まず君がやってみろよ」
なんだかデジャブを感じます。このままいくとハーマイオニーも3人目の爆弾魔に―――。
「ウィンガーディアム・レビオーサ-浮遊せよ!」
なんで浮いてるんでしょうか。
「オーッ、よくできました!皆さん、グレンジャーさんが一発でやりましたよ!」
ハーマイオニーの呪文に従い、羽が2メートルほど宙に安定して浮かび上がっていました。
「おかしいですね……」
「いや、爆発する方がおかしいだろ」
マルフォイのツッコミを無視し、何度か爆発させてるうちに私もコツが掴めてきます。やはり失敗は成功の母と言いますか、ハーマイオニーに続いて私、そしてシェーマスの順に浮遊呪文を習得していきました。
それを見ていた他の生徒たちも、負けじと浮遊呪文をマシンガンのように連発―――教室の至るところで同時多発的に羽が爆発していきます。
「あー、君たち、困ります! そんなに爆発させたら教室が壊れてしまいます! あ、ミス・グリーングラスも成功ですね。できれば爆発させないで成功させて欲しかったんですが……そこ! ええ、君ですよブラウンさん! だから連続で呪文を唱えると爆発すると……」
羽ペンさん、あなた達の犠牲は忘れません。
***
「まったく、イレイナのせいで髪がボサボサなんだけど」
「ワイルドなパンジーも魅力的ですよ」
「チャラいのはザビニで間に合ってるし」
授業終了後、私たちは互いの煤けた顔にけらけら笑いながら、寮へと向かっていました。途中、すれ違ったスネイプ先生に「戦争にでも行ってきたのかね?」と怪訝な顔をされましたが、名誉の負傷だと説明すると、とっとと寮のシャワーを浴びるよう言われます。
「さてと」
シャワー室で爆発の煤を洗い流し、髪の毛を乾かして服を着替えます。やや遅れて大広間へと入った私たちを迎えたのは、無数の蝋燭に蝙蝠、そしてジャック・オー・ランタンが浮かぶザ・ハロウィンな空間でした。
そして金色の皿の上には、色とりどりのこってりしたハロウィン料理の山が見えます。
「今日も元気だカボチャがうまい!」
ダフネは嬉しそうな顔で椅子に座ると、細い体のどこにそんな物量が入るんだ?と周囲が奇異の目で見る中、ひたすらカロリーの山を摂取していきます。
一方のパンジーはというと、慎重に炭水化物の少なそうな料理をよそって、どこか恨めしそうにダフネを見ていました。
「……さっさと脂肪ついちゃえばいいのに」
「つくべき場所にはついてるんだな、これが」
「殴っていい?」
パンジーはダフネに有言実行した後、「あーっ、飲まなきゃやってらんない!」と叫んでパンプキン・ジュースを一気飲み。
その横にいたミリセントはというと、ハロウィンそっちのけでチキンとポテトを同時に口の中に含み、ハムスターみたいな顔でなんかモゴモゴ言ってますけど全く聞き取れません。
「さて、まずはパンプキン・ケーキに紅茶から始めましょうか」
そして私は常に余裕をもって優雅に。かぼちゃパンとかぼちゃポテトサラダを、ちょっとずつ切り分けて味わいます。
男子の方に目を向ければフード・ファイターもかくやという勢いで、クラッブとゴイルが凄まじい勢いで料理を口に詰め込んでいました。間に挟まれたマルフォイが神妙な顔で、「座る場所ミスった……」みたいな感じの溜息を吐いています。
そしてテーブルの反対側では、黙々と料理を食べるノットにザビニがぺちゃくちゃと話しかけていました。
「グリフィンドールにグレンジャーっているじゃん? あいつと赤毛のウィーズリーが痴話喧嘩したらしいぜ?」
「なるほど」
「なんでもウィーズリーがグレンジャーのことを‟悪夢のようなヤツ”とか‟そんなだから友達いないんだ”とか煽ったらしくてさ」
「すごいな」
「騎士道の寮が聞いて呆れるよ。女の子の扱いってものを何も分かっちゃいない」
「悪いのはお前じゃない」
おやまぁ、そんなことになっていたとは。
「それにしても、このパンプキン・パイけっこう美味しいですね」
ハーマイオニーの事は気になりますが、せっかくのハロウィンをスリザリンの友人と楽しみたいという気持ちもあります。まぁロンの言葉にショックを受けていたとしても、命に別状があるわけじゃありません。
しばらくそっとしておいて、宴が終わったら様子でも見に行きましょうか。
「かぼちゃのグラタンもなかなか……」
もっきゅもっきゅとハロウィン料理を堪能していると、突如として大広間に大きな音が響きました。
大きな扉が勢いよく開かれ、クィレル先生がヒーヒー言いながら全速力で駆け込んできます。
「トロール! トロールが地下室に! お知らせしなくてはと……」
息も絶え絶えにダンブルドア校長先生の前まで辿り着くと、緊張の糸がプッツリと切れたようにクィレル先生はその場で崩れ落ちました。
個人的にハーマイオニーよりも、浮遊呪文ごときで爆発させられるシェーマスの方が天才みがあると思っていたり。
ちなみに、かぼちゃとパンプキンの表記の使い分けには特に意味はありません(作者の語感)。