ハリー・ポッターと灰の魔女   作:アストラマギカ

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第28章 ~ダンスレッスン~

 

 クリスマス休暇に突入してから、僕――ドラコ・マルフォイには悩みの種が一つ増えていた。

 

 当然のことだが、僕自身のことではない。パンジーもまた、聖28一族に連なるパーキンソン家のご令嬢なだけあって、ダンスは完璧で、もちろんイレイナが迷惑をかけるでもなく、ダフネたちも普通にデートを楽しんでパートナーを見つけている。

 

 

 問題は――。

 

 

「お前たち、まだ相手が見つからないのか……」

 

 

 そう、悩みの種はスリザリン男子の問題児―――目の前でお菓子をヤケ食いしているクラッブとゴイルの2人だった。

 

 

「お前らな……あのノットですら相手を誘えたんだぞ」

 

 しかも相手はハッフルパフの監督生、エステル・ロストルフだ。セドリックとイレイナからの紹介で断り辛かった側面はあるにせよ、ノットなんかにOKを出してしまうあたり、人を見る目は無いらしい。とはいえ彼女は名家の家系でもないし、僕の知った事ではないのだが。

 

 

「気になる相手ぐらいはいるだろ? 力になれるかもしれないから、まずは言ってみろって」

 

 しかし二人とも僕の顔色を窺うばかりで、なかなか話し出そうとしない。

 

「変に恥ずかしがるなよ。もう子供じゃないんだから、お前らに気になる女子がいたって別に誰も馬鹿にしたりない」

 

 しびれを切らして催促するように促すと、二人とも「じゃあ……」と躊躇いがちに口を開いた。

 

 

「フラー」

「イレイナ」 

 

「寝言は寝て言え」

 

 

 目を真ん丸にして「えぇ……」と手ひどい裏切りに遭ったような顔をしている2人に、僕は辛抱強く言い聞かせるように言った。

 

「とりあえず、お前たちが銀髪好きなのは分かった。けど、世の中は気持ちだけじゃどうにもならない事だってあるんだ」

 

 イレイナは早々にセドリック・ディゴリーとペアを組み、フラー・デラクールは最近やっとパートナーをロジャー・デイビースに決めたという。後から申し込んで略奪するという選択肢も無くはないけれど、さすがに相手が相手なだけに無謀過ぎるだろう。

 

「そもそもだ。お前たち、フラーはもちろん、イレイナとだってほとんど話したこと無いだろ」

 

「でも、同じスリザリンだし……」

「あと同い年」

 

 とにもかくにも、見込みがゼロであることは分かった。

 

 

 

 ――というわけで。

 

 

 

「悪いんだが、どうにかならないか?」

 

 談話室に問題児2人を連れてきて、ドレスの話題で盛り上がっていたイレイナたちに頭を下げた。

 

「もう1週間前ですよ? なんで今まで放置してたんですか」

「それは、その……」

 

 パンジーの方をチラッと見ると、僕の顔を見ていた彼女と目が合った。耳元が熱くなって、つい恥ずかしさで俯いてしまう。パンジーの方も顔を赤くして、ふいっと目を逸らした。

 

「あっ、はい」

 

 イレイナは秒で察してくれた。

 

 ダフネやトレイシーたちも「お年頃だね~」とか「頑張れ少年!」などと煽ってきて、真っ赤になったパンジーが「うっさい!」と一喝する。

 

 

 何と言うか、その……紆余曲折あったとはいえ、僕だってパートナーの申し出を受けた以上、少なくともクリスマスまではパンジーを最優先にしなければならない。

 だからパンジーから「今晩、一緒に勉強しない?」とか「2人でチェス、しよ?」みたいな感じで誘われてしまったら、首を縦に振るのは当然の義務なのだ。

 

 

 

「こほん……それでクラッブとゴイルのことなんだが」

 

 気を取り直して話を元に戻す。

 

「誰かいないか?」

「逆にいたら奇跡だろ」

 

 ミリセントが肩をすくめ、リリィ・ムーンも小馬鹿にしたような表情を浮かべた。

 

「だってクリスマス1週間前にもなって、スリザリン女子にパートナーがいないわけなくない?」

 

 これは自慢なのだが、スリザリン寮はエリートの寮なだけあってモテる男女が多い。もちろん偶然ではなく、モテることが力に直結することを僕たちスリザリン生は理解しているからだ。

 

 ハイスペックな異性を多く惹きつけられれば、有益な人脈も広がっていく。力のある純血名家の生徒に気に入られれば、一気に成り上がることだって夢じゃない。

 

 

 だから純血名家の生徒たちは洗練されたマナーや会話を幼少時から教え込まれるし、化粧やファッション、プレゼントにかける資金力も桁がひとつ違う。

 

 一方で半純血の生徒たちは、生まれついての資産こそ無いものの――あるいは無いからこそ――恋愛や婚姻を通じて下克上しようという野心家も多く、美容や駆け引きのテクニックを磨く努力を怠らない。

 

 

 がさつなグリフィンドールや口先だけのレイブンクロー、退屈なハッフルパフとは、こういうところでも差がつくのだ。

 

 

「ドラコが頼んでるのよ! 何とかしてよ!」

 

 パンジーが叫ぶと、女性陣は渋々といった顔で検討を始める。

 

「イレイナ、なんか良いアイデアない?」

「知り合いはあらかた紹介しちゃったので……」

「だよね。てか、残ってる女子はいてもあんま知らんし」

 

 なかなか良いアイデアが浮かばず、絶望的かと思われたその矢先。

 

 

「あれー? ダフネ、今日は妙に静かだね」

 

 トレイシー・デイビスがキツネのような瞳を細め、ミリセントの陰に隠れるようにしていたダフネを名指しする。

 

「ソンナコトナイデスヨ?」

「あ、待って。そういえば――」

 

 冷や汗を浮かべて謎のカタコトで誤魔化そうとしたダフネを見て、トレイシーは何かに気付いたようだった。トレイシーのズル賢そうな顔に嗜虐的な笑顔を浮かび、ダフネが慌てて口を叫ぶ。

 

「待ってトレイシー、それだけは……!」

 

 しかし慌てるダフネの口をパンジーが押さえてしまい、先を促されたトレイシーはにまーっと笑いながら言った。

 

 

「年下なら、まだ何人か残ってるんじゃなーい?」

 

 

 ダフネが絶望の表情を浮かべ、ガクッと膝をつく。

 

「あ、あんまりだ……オラの妹はまだ12で、あんな子供を生贄にするだなんて」

 

 謎の村人演技をするダフネだったが、イレイナやミリセントたちは「すまん、スリザリン村の為に犠牲になってくれ」と憐れむばかりで誰も助けようとしない。

 

 パンジーだけは「その手があったか!」とばかりに目を輝かせた。

 

「トレイシー、あんた天才よ! そうと決まれば、さっそくアストリアを呼んでくるわ!」

「いや、ダフネが嫌がるならそこまで無理しなくても……」

 

 

 しかしパンジーは僕が言い終わる前に、さっさと下級生の部屋へと行ってしまう。

 

 

「――というわけで、美人で彼氏のいない年下スリザリン女子3人衆を連れてきたわよ!」

 

 

 パンジーに連れられてやってきたのは、ダフネの妹のアストリアと双子のカロー姉妹だった。3人とも聖28一族に連なる純血で、家柄も容姿も申し分ない。

 

 というか、むしろ申し分なさ過ぎて逆に無理な気がしてくる。

 

 これが平凡な家柄の半純血ぐらいであれば聖28一族のパンジーに遠慮して渋々受けそうなものだが、家柄が同格のアストリアやカロー姉妹であれば遠慮する必要もないからだ。

 

 

「なるほど、話は聞かせてもらいました」

 

 

 アストリアは腕を組み、じーっと値踏みするようにブルーの目を細めてクラッブとゴイル、そして僕を順に見つめた。なんとなくバツが悪くなって俯き、視線を合わせないようにする。

 

 

 しかし、アストリアの口から出てきたのは意外な言葉だった。

 

 

「構いませんわ」

 

 

「「「「ええっ!?」」」」

 

 あっさり承諾したアストリアに、男子も女子も全員が驚愕した。慌ててダフネが駆けつける。

 

「アストリア、大丈夫? 故郷の親を人質に脅されてたりとかしてない?」

「父上と母上なら、どんな刺客だろうと返り討ちですわ」

 

 だけどぉ、と不安げなダフネに対してアストリアは。

 

 

「私とて、名門グリーングラス家の一員です。困っている同胞がいれば率先して手を差し伸べることこそ、純血名家に生まれた者としての務めでしょう」

 

 

「「「「―――っ!?」」」」

 

 当たり前のことみたいに返ってきた誉れ高い思考・言動に、純血名家の全員が衝撃を受けたような顔になる。

 

 

 それからアストリアは豊かな金髪をふぁさっと掻き上げ、双子のカロー姉妹に向き直った。

 

「ヘスティアとフローラは、相手いますの?」

 

 するとヘスティアが慌てて言った。

 

「あの~、実は私ぃ、彼氏がいてぇ」

 

 3人衆のうち1名は既に脱落していた。

 

「そうなんですの? お相手は?」

「ルシアン・ボール先輩」

「夏まではウルクハートと付き合ってたから、けっこう最近ですわね」

「ですです~。まだ2週間ぐらいですけどぉ、先月からデートとかしてるうちに好きになっちゃってぇ」

 

 

 それからアストリアは残る双子の片割れ――フローラ・カローに目を向けた。

 

「フローラは?」

「パンジー先輩がどうしてもと言うなら、私は別に構いませんけどー」

 

 だるそうに返すフローラ。ヘスティアと違ってテンション低めだが、知り合いのよしみで面倒な案件を引き受けてくれるあたり、根はいい奴みたいだ。

 

 

「では、決まりですわね」

 

 アストリアはクラッブとゴイルに向き直り、ぐっと近づいて二人を見上げた。

 

「というわけで、僭越ながらパートナーを務めさせていただきますわ―――と言いたいところですが、条件があります」

 

 アストリアはビシッと指を立て、クラッブとゴイルにそれを突き付ける。凄んではいるが、大柄な2人に届かないせいでちょっと背伸びしているところは、やっぱり子供っぽい。

 

「わたくし達のパートナーとなるからには、無様なダンスは許されません。いいですわね?」

 

 有無を言わせぬ口調で言い放つアストリア。それからの行動は迅速だった。

 

 

 

 ***

 

 

 

「ワン、ツー、スリー、フォー、ここで回って!」

 

 

 空き教室に、パンジーの声が響く。

 

 

「ワン、ツー、スリー、フォー、男子はパートナー持ち上げる!」

 

 

「ワン、ツー、スリー、フォー、はい今の体勢でストップ!」

 

 

 クリスマス休暇が始まった直後からアストリアはダンスレッスンを主催し、クラッブとゴイルは徹底的にしごかれていた。実際に指導するのはパンジーで、必要に応じて問題点を指摘していく。

 

 

「ちょっとゴイル、足さばきが遅れてるわよッ!」

「うす!」

 

「クラッブ、あんた振り付けちゃんと覚えたの!?」

「おす!」

 

 

 ちなみに、この場に集められたのは2人の問題児ばかりではない。

 

 

「ノットはまず姿勢! 背筋伸ばす!」

「すまない……」

 

「エステル先輩も、変に恥ずかしがらないでください。中途半端な動きだと、結局もっと恥ずかしいので」

「はい、気を付けます……」

 

 問題児2人のすぐ傍では、ミリセントにダメ出しされたノットとエステル先輩が声にならない悲鳴を上げていた。他にも大勢の生徒たちが、ダフネたち純血名家出身の生徒から指導を受けている。

 

「イレイナはなんだろ、もうちょい感情込めて?」

「そんなフワッとしたこと言われましても……」

「んー、なんていうか、頭で踊ってるって感じなんだよね」

 

 イレイナとディゴリーのペアを指導しているのは、ダフネ・グリーングラスだ。3人ともホグワーツのカースト上位に君臨する強者とはいえ、こういった文化的教養に関してはやはり生まれの差が現れる。

 

「ちょっと踊るから見てて」

 

 パートナーのアンソニー・ゴールドスタインをリードしながら華麗にターンを決めるダフネは、普段の軽薄な様子から想像できないほどエレガントな動きで、やっぱり純血名家のお嬢様なんだなと久々に感じる。

 

 それでいて気構えるでも気取るでもなく、動きが自然で……なんというか、()()()()()のだ。

 

「イレイナはあれかなー、教科書通りにやろうとして動きがぎこちないっていうか……多少は崩れてもいいから、次は動きやすいように動いてみよっか」

「わかりました」

 

「あとセドリック先輩は、ちょっと周りを気にし過ぎですね」

「自覚はあるんだけどね……他のペアにぶつかったら困るし、それを思うと気になって」

「その時はぶつからないよう、勢いでイレイナを抱き寄せちゃえばいいんで、どーんと構えてください♪」

「今の手口、たしかフリントが去年どっかで言ってたような……」

 

 

 ***

 

 

 

「はい! じゃあ、ここで一回休憩いれるわよ」

 

 

 パンジーの声を合図に、ダンス慣れしてないメンバーが一斉に脱力する。

 

「つ、疲れた~」

「想像以上に足が張りますね……」

 

 慣れない運動をした生徒たちが地面にへたれこむ中、僕はアストリアに近づいて声をかけた。

 

「大丈夫か? アイツらの相手をするの、大変だろう?」

「ええ、想像以上に難題ですわ」

 

 愚痴を言いつつも、アストリアの表情は明るい。大したものだ、と思う。

 

 クラッブとゴイルの面倒を見るのがどれだけ大変か、僕だって知らないわけじゃない。というより、僕ですら最近は見放しかけていた。

 

「まさか、君がここまでするとはね」

 

 去年よりも少しだけ、背が伸びてきた彼女を見やる。

 

 

 ――ダンスを断る、という選択肢もあったはずだ。

 

 

 もともと身体が丈夫でない彼女は、他の下級生と一緒に実家に帰るつもりだったという。そういう道もあったはずなのに、どうして敢えて面倒な道を選んだのか。

 

「そもそも君はずっと、こういう浮ついたパーティーは嫌いだったろうに」

「ええ……若さゆえの過ちでしたわ」

 

 そうやって大人ぶろうとするところが子供なんだよなぁ、と思いつつ、僕は無言で先を促す。

 

「たしかに『血の呪い』による身体的ハンデがあるので、わたくしに向いているかと言われると向いてないでしょう」

 

 すぐ疲れちゃいますし、と続けるアストリア。

 

「だから、わたくしはこれまで手の届かないものを、手を伸ばす価値が無いものだって思い込もうとしてました。でも、それは結局のところ酸っぱい葡萄だったと気づきましたの」

 

 もちろん、頑張って手を伸ばしても、手に入らないことだってある。けれど、欲しいものを手に入れた人は、きっと最後まで手を伸ばし続けていた。

 

「今のわたくしは、この学校生活を全力で楽しみたいと思っています。『血の呪い』なんて無かったみたいに、皆さんが楽しみにしていることを、同じように楽しみたい」

 

 これまで無価値と切り捨ててきたものを取り戻していくように、今のアストリアはやはり全力だ。

 

「でも、それだけじゃありませんわ」

 

 アストリアは僕の顔をじっと見て、ふっと微笑む。

 

 

「もし、今までのわたくしのように燻っている人がいたら、踏み出せるように手を差し伸べたい――去年、あなたがそうしてくれたように」

 

 

「……そんな事もあったな」

 

 なんとなく、彼女がクラッブとゴイルのパートナーを引き受けた理由が、わかったような気がした。純血名家としての義務という大義もあるんだろうけど、きっとそれだけじゃない。

 

 たぶん、アストリアは単純にみんなで楽しみたいんだ。そっちの方が、きっと、もっと楽しくなる。ホグワーツでそのことを、知ってしまったから。

 

 

「そんな風に言われたら、僕も自分の仕事を頑張らざるを得ないな……」

 

 僕に与えられた仕事は、別の問題児の指導だ。()()()は初回から遅刻してきて、まだ教室に現れてもいない。

 

「マルフォイ先輩なら、きっと出来ますわよ。むしろ、周囲をあっと言わせてやってくださいな」

「ああ。純血名家の本気がどういうものか、ボーバトンとダームストラングにも見せつけてやるよ」

 

 冗談めかして言うと、アストリアは嬉しそうに微笑んだ。

 

 

「……そういえば、実は前から気になっていたんですけれど」 

 

 不意にアストリアは思い出したように話題を変え、ぐっと身を乗り出して顔を近づけてきた。

 

「……どうした?」

「えっと、その」

 

 見ればアストリアの端正な顔は少し赤くなっていて、おまけに急にモジモジし始め――なんだか僕の方まで落ち着かなくなってくる。

 

「その、パンジー先輩とは」

「うん?」

「ど……どこまでいったんですの?」

 

 あ、この子やっぱりダフネの妹だ。

  




 クラッブとゴイル救済ルート。原作だとこの2人だけパートナーなしであまりに不憫……。
 本作のマルフォイは色々と余裕が出来ているので、原作以上にクラッブとゴイルの親分やってるフォイ。

 社交パーティーで鍛えた名家の本領を発揮するスリザリン寮、たぶん普通にモテる。原作に比べるとオープンなので、スリザリン生とコネがあればダンスレッスンのレクチャーまで受けられるお得仕様。
 たぶんスラグ・クラブなんかも、起源はこういう感じのネットワークだったんだろうなぁと想像していたり。


 なかなかダンスパーティーに進まなくって、すみません(汗)。もう一話だけ、次回は別のキャラのエピソードが入ります。 
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