ハリー・ポッターと灰の魔女   作:アストラマギカ

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※前半ネビル視点、後半マルフォイ視点です。


第29章 ~ネビル・ロングボトム~

   

 指定された空き教室に僕――ネビル・ロングボトムが散々道に迷った挙句、やっとのことで到着すると、すぐさまパンジー・パーキンソンの鋭い声が飛んできた。

 

「ちょっとロングボトム、遅いわよ! ドラコを待たせるとか、喧嘩売ってるわけ?」

 

 ガッツリとアイメイクをキメたパンジーの眼光は迫力があって、凄まれるとガチガチに緊張してしまう。

 

「ご、ごめん! 道に迷っちゃって……」

「は?」

 

 必死の弁明もトーン低めの「は?」で強制キャンセルされてしまい、慌てて何度も謝罪する。

 

「ほ、本当にごめん! 次からは30分前には着くようにするから……!」

 

 パンジーは冷めた目で僕をジロジロと見つめた。

 

「いい? ドラコに迷惑かけたら承知しないから」

 

 ドスを利かせた声で脅すように言うと、さっさと立ち去ってしまう。最近は温和なイレイナたちが抑え役に回ることが多いから少し忘れかけていたけど、やっぱり1対1で対峙すると怖い……。

 

 

 けれど、それだけでは終わらなかった。

 

 

 僕たちの様子を見ていたトレイシー・デイビスが、小馬鹿にするような薄笑いを浮かべてからかいにきたのだ。

 

「ロングボトムがダンスぅ~!? うっそ、女子に触ったことすら無さそうなのに?」

 

 ほぼ本当の事を言われて心が折れそうになったけど、なんとか苦笑いを浮かべて場を取り繕う。

 

 実際、茶髪ショートで細身なトレイシーは、見るからにオシャレなイマドキのスリザリン女子といった感じで、さっきまで一緒に踊っていた彼氏っぽい人も普通にカッコいい。

 

(パンジーもそうだったけど、なんというかオーラが違うんだよね……)

 

 例えば、服装だ。ダンスの練習ということで、トレイシーもホグワーツ指定の寮Tシャツを着ているけれど、一目で勝ち組と分かるような着崩し方をしている。

 

 左胸に校章がプリントされた半袖Tシャツを、裾の部分で結んでへそ出しアレンジ。脇腹あたりできゅっと結ぶことで身体のラインがはっきり出る上、くびれたお腹がチラチラとのぞく。

 しかもTシャツの下に穿いたスカートまで短く裾上げされていて、すらっと伸びる脚線美が否が応でも強調される。

 

「ん? あー、これカワイイよねー」

 

 僕の視線を目ざとく見つけたトレイシーが言うと、近くにいたダフネも「だよね!」とニコニコしながらやってきた。

 

「このコーデ、先々月の『エイティーン』でやってたんだ~」

 

 『エイティーン』というのは、退職したロックハートが立ち上げた出版社で発行されている、新進気鋭のファッション雑誌だ。マグルのファッションを積極的に取り入れる目新しいコーデやスタイルで、若い魔法使いに絶大な人気を誇っている。

 

 スリザリンでは世代によって大きく評価が分かれていて、親世代では「マグルの下品な真似ごと」と酷評する声がほとんどだ。一方で流行に敏感なファッションリーダーであることが発言力に影響する若い世代では、逆に「読者モデルといえばスリザリン」というぐらい熱心な読者が多い。

 

 実際、あたりを見渡せばスリザリン女子の大部分は似たような恰好をしていて、細かい部分で個性を出している。

 例えばイレイナは綺麗な光沢のある灰色の髪をアップでまとめ、パンジーはお洒落にスカーフで裾を結び、ダフネは何故か腰にパーカーを巻いていて、ミリセントは大胆に袖をめくって肩を露出させ、トレイシーは首にチョーカー、といった具合だ。

 

 

「ていうか、どういう流れでロングボトムがこの場にいるわけ?」

 

 トレイシーが首をかしげて説明を促すと、近くにいたダフネが答えた。

 

「この前、レイブンクロー男子たちと『三本の箒』に行ったんだけど、男子が1人少なかったから誰か欲しいなーって話になって。そっから流れでハンナとネビルがペアになったんだ」

「にしても、もうちょいマシなのいたでしょ」

「んー、でもネビルちょうど一人だったし、薬草学の授業でも時々ハッフルパフの生徒と組んでるみたいだから、ハンナたち的にも声かけやすかったみたい」

 

 ダフネの言葉に、やってきたハンナ・アボットも「そ、そうなんだよ~」と頷く。

 

「ふーん。でも逆にロングボトム、グリフィンドール内に誘える相手とか、一緒にナンパできる友達いなかったんだ? ハブられでもしてるの?」

 

 意地悪く「こわ~」と笑うトレイシーに、困ったように「えー、どうだろ……」と苦笑いを浮かべるダフネとハンナ。

 僕もイケイケ女子のトレイシーに正面から反論できるはずもなく、ガチガチに緊張しながら取り繕うように作り笑いを浮かべて、無難にやり過ごそうとする。

 

「こら」

 

 緊張した空気を破ったのは、トレイシーの彼氏っぽいスポーツマン風の男子だった。トレイシーの頭に軽めのチョップを食らわせ、そのまま腕を握って引き離す。

 

「まったく……イジるにしても、もう少しマイルドな言い方あるでしょうに」

「え~、こんぐらい普通っしょ」

「そんなんだからスリザリン全体がイジメっ子の巣窟みたいに思われるんですよ、先輩」

 

 呆れたように言ってから、トレイシーの彼氏は僕に向き直って頭を下げる。上下関係を重んじる体育会系らしく、寮は違えど年上の僕にはしっかり敬語だ。

 

「うちのトレイシーがすみませんでした。ちゃんと躾けておきますんで」

「やーん、躾けてー♡」

「ひ、人前で抱きつかないでください……ほら、行きますよ」

 

 照れた様子の彼氏とトレイシーがイチャイチャしながら去っていくと、ダフネが申し訳なさそうに両手を合わせた。

 

「ハーパー君も謝ってたけど、ほんとゴメンね。ウチの寮、ガラ悪いって思ったでしょ?」

「そんなことは……」

 

 ない、とは言い切れなかった。

 

 闇の魔法使いを輩出したことを抜きにしても、純血名家のエリートが多いせいかスリザリン生の一部には「自分たちは特別だから、多少のワガママやイジメは許されるっしょ」みたいなノリが結構ある。

 

 

 とはいえ、火のない所に煙は立たないもので、トレイシー・デイビスの嫌味も完全に否定できないのが辛いところだ。

 

(実際、グリフィンドールに親友って感じの友達はいないし……)

 

 魔法薬学ではスネイプ先生が怖くて毎回ヘマをやらかしているし、他の授業でも周りに手伝ってもらってばかり。去年は談話室の合言葉を覚えられなくて紙切れにメモしていたせいで、シリウス・ブラックの侵入を許してしまった。

 

 

 下手をしたら、とっくにイジメを受けていてもおかしくない立場だ。グリフィンドールの同級生はそんなことはしないけど、かといって僕といつも一緒にいてくれるほどの親友はいない。

 

 だから時々、ハリーとロン、ハーマイオニーの3人組、あるいはシェーマスとディーン、もしくはラベンダーとパーバティがいつも一緒にいるのを見て、羨ましさを感じることはある。

 

(去年もホグズミードに行けない生徒同士で仲良く過ごそうとしたのに、ハリーはどっか行っちゃうし……)

 

 

 とはいえ、いつも一緒にいる親友がいなかったせいで、逆にそこそこ話せるレベルの他寮の友達は割といたりする。

 

 今回、僕がハンナと組めたのもそういった縁だし、スリザリン生だらけのダンスレッスンに参加できたのも、ダフネとハンナが友達だからという繋がりだ。

 

 グリフィンドールでダンスに詳しい人はほとんどいないから、もしこうしたご縁が無ければ、僕はきっと1人でイマジナリーパートナー相手に何時間も踊っている、やばい人になっていたかもしれない。

 

 

 **

 

 

 しばらくして、面倒臭そうな顔をしたマルフォイがやってきた。

 

「なんで僕がロングボトムたちの世話なんか……」

「いいじゃん。つれないこと言わないで、仲良くしようよ」

 

 ダフネの言葉を受けて、マルフォイが僕の方を見た。色白の顔に「お前たちいつの間に友達になったんだ?」みたいな表情を浮かべている。それは僕の方が知りたい。

 

「一度一緒にバタービール飲み交わしたら、みんな友達でしょ」

 

 マルフォイは面白くなさそうにフンと鼻を鳴らした。

 

「ダフネ、君は僕とロングボトムが同じだと言いたいのかい?」

「ううん、ドラコの方がもっと大事だよ。昔からの幼馴染だし」

「っ……そうか」

 

 ぼそっと呟いたマルフォイの青白い頬が、少しだけ赤くなったのを僕は見逃さなかった。

 

「……まったく、仕方ないな。今回だけだぞ?」

「やたっ! ドラコ愛してるぅ!」

 

 弾けんばかりの笑顔を見せて、パートナーの下へと戻っていくダフネ。あんな風に頼まれたら、さすがのマルフォイでも断れないみたいだ。

 

 正直なんでダフネみたいな良い子がスリザリンなんだろう……って思ったことは一度や二度じゃないけど、ところどころ計算づくで甘えてる気もするし、やっぱり妥当な組み分けなのかもしれない。

 

 

 ――そんな経緯もあって。

 

 

「ドラコ・マルフォイだ。よろしく」

「ぼ、僕の方こそよろ――」

「ロングボトム、お前には言ってない」

「………」

 

 マルフォイがハンナと挨拶してから、さっそくレッスンが始まった。

 

「じゃあ、始めるぞ――まずは手を繋いで並ぶんだ」

 

 いきなり難題をふっかけられ、恐る恐るハンナの手を握る。お婆ちゃん以外の女性の手を握ったことなんてない(先週マクゴナガル先生に集められた練習では、相手の袖を掴むのが精一杯だった)から、緊張で手汗が噴き出してきた。

 

(どうしよう……もしこれでハンナに引かれたら――)

 

 動揺のあまり、つい助けを求めるようにマルフォイの方を見てしまう。

 

「こっちを見るな」

「ご、ごめん」

 

 マルフォイは「まったく先が思いやられる……」と大きく溜息を吐いて、再び無理難題を押し付けてきた。

 

「じゃあ次だ。片手を腰に添えて、基本姿勢をとれ」

 

「「えっ」」

 

 しかしマルフォイは「早くしろ」と先を促すばかりで、諦めた僕たちはおずおずとお互いの顔を見る。

 

「………」

「………」

 

 金髪を三つ編みにしたハンナは、綺麗というより可愛い系で、メイクも薄めだけど綺麗に整っていて優等生っぽい印象だ。タレ目気味のライトブラウンの瞳は、緊張しているせいか所在なさげにあっちこっちに視線が飛んでいる。

 

(逆に僕は、ハンナにどう思われてるんだろう……?)

 

 気にはなるけど怖くて聞けないまま、マルフォイが姿勢を正していく。

 

「二人とも、手は添えるだけじゃなくて、ちゃんと相手をホールドしろ。じゃないと動いた時に息が合わない」

 

 意外としっかり教えてくれるマルフォイだったけど、やっぱり恥ずかしくてハンナと二人でモジモジしてしまう。

 

「あの、まだ心の準備が……」

「私も右に同じく……」

 

「息がピッタリなのは結構だが、1週間後までそうやってるつもりか?」

 

 皮肉っぽく返されてしまった。

 

(正直まだ恥ずかしいし心臓バクバクだけど、でも……!)

 

 えいやっとばかりに、マルフォイに言われた通りに力を入れた。ハンナの体が一瞬ビクッと固くなったけど、すぐに向こうも覚悟を決めたのか、ちゃんとホールドし返してくる。

 

 

「………」

「………」

 

 

 ――すごく、心臓に悪い。

 

 

「よし、一旦ここで休憩だ」

 

 マルフォイの合図で、ハンナと2人同時にパッと相手から距離を取る。

 

(き、緊張した……)

 

 手を繋ぐだけでもこんな状態なのだから、音楽に合わせてステップを踏むなんて、まるで出来る気がしない。けれど、休憩時間はそれほど長くなく、すぐにマルフォイは練習を再開した。

 

 

「次は、基本ステップの練習だ。まずは互いにホールドして、壁沿いに端から端までゆっくり移動しろ」

 

 ハンナが一歩前進して、僕が一歩後退する。言葉にすればそれだけなのに、やってみると意外と難しい。4年生にもなると男子と女子の身長差で歩幅なんかも変わって来るし、そもそも他人と一緒のスピードで移動するという行動にまず慣れない。

 

 けれども、以前の全体練習でジニーと組んだ時に比べると、いくらか落ち着いて身体を動かせた。あの時は「女の子と手を繋ぐ」と「ペアで踊る」という慣れない行為を同時にやろうとしたから、緊張のあまり何度もジニーの足を踏んで愛想を尽かされてしまった(結局、ジニーはレイブンクローのマイケル・コーナーとくっついてしまった)。

 

 その点、今回は一つずつ順を追っているから、少し心に余裕がある。動きも随分とシンプルだ。何回か繰り返していると、少しずつコツを掴めたような気さえしてきた。

 

「あと3回やったら、次はロングボトムが進んでアボットが下がれ。くれぐれも足を踏むんじゃないぞ」

 

「「はい!」」

 

 たどたどしい動きではあるけど、段々と自然に身体が動くようになってきていた。まだスリザリン生たちの上手なダンスには程遠いけれど、少し前の自分とは別人のように動けている。

 

 

(これ……楽しいかもしれない)

 

 

 変化を実感できると、やる気も湧いてくる。まだスタートラインに立ったばかりかもしれないけれど、ちょっと前までそこにすら立てなかった事を思うと、なんだか自分が少しだけ成長した気分になった。

 

 

 ――それから、僕は毎日のようにレッスンへ通うようになった。

 

 

 毎日、少しずつ難しい動きに取り組み、ダンスのレベルを上げていく。ハンナがいない時も、独りでシャドー練習を繰り返す。

 

 朝から晩まで筋肉痛になるまで練習しては、クィディッチ選手でもあるハリーに教えてもらったマッサージで筋肉をほぐし、一晩しっかり休ませてから再び練習に向かう。残された時間は多くないから、少しでも無駄には出来ない。

 

 猛練習の甲斐あってか、段々とハンナの足を踏むことも無くなったし、多少予想外のことがあっても「何とかなるだろう」と気楽に構えられるようになった。

 

 そして指導役のマルフォイは想像以上に教え方が丁寧で、要領の悪い僕に同じことを何度も根気強く指導してくれた。

 

 

 自分が上達していくのが分かると、練習するのも楽しくなってくる。何より嬉しかったのは、少しずつ周りの人たちから褒められるようになったことだ。

 

「ロングボトム先輩、だいぶ上達しましたわね」

 

 週末に差し掛かった頃には、驚いたアストリアさんが目を丸くしていた。

 

 

「ドラコの教え方が上手かったのよ!」

「まぁ、僕の手にかかればこんなもんだ」

 

 パンジーにおだてられて気を良くしたマルフォイは、以前よりも熱心に教えてくれるようになった。2時間ぐらいでさっさと帰っていたのが、少しずつ長く指導してくれるようになって、僕が複雑なステップやターンに苦労していると、見かねてパンジーと一緒に手本を見せてくれたこともあった。

 

 

「ネビルって、やれば出来る子だったんだね~」

 

 ダフネは自分のことのように喜んでくれて、「パーティー楽しみだね!」とハンナと一緒に盛り上がっている。

 

 

「私は最初から信じてたもーん。ネビルのこと」

「トレイシーは嘘下手くそですか」

 

 心にもないことを平然と言ってのけたトレイシー・デイビスに対しては、イレイナが全員の想いを代弁してくれた。

 

 すぐさまミリセントやブレーズ・ザビニから「それな」とか「調子のいいこと言ってんじゃねーぞ!」みたいなヤジが飛び、トレイシーも負けじと「ブレーズには言われたくないんですけど!?」などと減らず口を叩く。

 

 スリザリン生の内ゲバを見てセドリック先輩やエステル先輩もおかしそうに笑い、つられて僕まで頬が緩んでしまう。同時に、そんな自分に驚いてもいた。

 

(まさか、こんな日が来るなんて……)

 

 スリザリン生以外にも、レッスンに参加していたハッフルパフ生やレイブンクロー生、今まであまり話したことのなかったグリフィンドールの先輩や後輩とも、少しずつ会話が増えていった。

 

 世界が広がって、少しずつ自分に自信が持てるようになっている。そんな気がした。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 結局、僕――ドラコ・マルフォイは、毎日のようにロングボトムたちにレクチャーする羽目になった。

 

 

 もともと問題児を教えるのはクラッブとゴイルで慣れていたとはいえ、想像を上回るロングボトムの上達ぶりには内心驚いてもいた。

 

 正直なところ、3日ぐらいで自分の下手さに耐えられなくなって音を上げると思っていたから、毎日のように通い詰めて朝から晩まで練習していたのは予想外の一言に尽きる。

 

(ロングボトムの奴、こんなに根性あったのか……?)

 

 レッスン最終日、気づけば僕は自分からロングボトムに声をかけていた。

 

「お前……そんなにダンス上手くなりたかったのか?」

 

 個人的な質問をするのは初めてだったから、ロングボトムは少し驚いたような顔になった後、こう返してきた。

 

「上手になりたいのは……そうなんだけど」

 

 続く意外な言葉に、驚く。

 

 

「それ以上に、君たちみたいに僕も楽しんでみたいって思ったんだ」

 

 

 僕たち、みたいに……?

 

 

「だってほら、君たちスリザリン生は……いつも賑やかだし、なんか楽しそうだし……すごい目立つっていうか、キラキラしてるっていうか」

 

 聞きようによっては馬鹿にしているような台詞でもあったけど、ロングボトムの声からそういった悪意は感じられない。むしろ、素直な羨望の色があった。

 

 

「僕は何をやっても失敗ばかりで、自分に自信が無かったから……その真逆にいるみたいな、君たちが眩しく見えたんだ」

 

 

 だから憧れたのかも、とロングボトムは言った。

 

 

「たとえダンスパーティーの日だけでも、君たちと同じところに立てれば――こんな僕でも、輝けるかもしれないって、そう思って」

 

 

 意外と俗っぽい理由に、つい可笑しくなってしまう。人畜無害そうな顔して、意外に目立ちたがり屋な部分もあるのか。

 

(まぁ、ロングボトムもなんだかんだでグリフィンドールだしな)

 

 

 けれど――。

 

 

(ひょっとして……僕が思ってたほど、こいつらは敵じゃないのかもしれない)

 

 ロングボトムは落ちこぼれの劣等生だが、そのせいか目立ちたがり屋のポッターや無礼なウィーズリー、鼻持ちならない頭でっかちのグレンジャーと違って、きちんと分を弁えてはいる。

 もともとロングボトム家は純血だし、スリザリンに相応の敬意を示すのであれば、その手を振り払うほど僕も狭量ではない。

 

 

「……せいぜい、本番で恥をかかないよう気を付けることだ」

 

 

 僕が言うと、ロングボトムは「本当にありがとうね!」と笑顔で去っていった。その後ろ姿を見ながら、ふと思う。

 

 

 ――もしかしたら、これがスリザリンの本来あるべき姿なのではないだろうか。

 

 

 強く、洗練され、常に勝利する。誰もが憧れて、思わず付き従いたくなるような本物の貴族。他の寮を排除するのではなく、彼らを導くべきエリートとしてホグワーツの頂点に君臨する。

 

 輝かしい栄光の一部を分け与え、華やかなエリートの一員となる機会をもう少しだけ外に向かって開くことで――ロングボトムがそうだったように、然るべき賞賛と敬意を勝ち取ることも不可能ではないはずだ。

 

 

(純血名家は昔からずっと魔法界を支えてきたけれど……少し内側に籠り過ぎて、自分たちの偉大さを外に示す努力を怠っていたのかもしれない)

 

 だから長年、闇の魔法使いを輩出する犯罪者予備軍だとか、差別主義者の集まりみたいな悪評ばかりが強調されて誤解されてきた。

 

(父上はその元凶がマグルびいきのダンブルドアやウィーズリーみたいな連中だとお考えで、スリザリンは不当な扱いを受けているとおっしゃっていた……)

 

 だからこそ、スリザリンが正当な扱いを受けるには、『穢れた血』のグレンジャーはもちろん『血を裏切る者』のウィーズリーやポッターを蹴落とすしかないと思っていた。

 

 

 けれど――。

 

 

 正面から殴り合うのだけが喧嘩ではない。それはむしろ、グリフィンドールのやり方だ。

 

 敵とも友人のように接して油断を誘い、栄誉や富を分け与えることで味方を増やし、自ら従いたいと思うように仕向けて恭順させる……。

 

(うん、むやみに敵を作るよりも、ずっと狡猾でスリザリンらしいじゃないか……)

 

 そもそも父上も含めて大勢の元・死喰い人がアズカバンに投獄されないまま上流階級でいられるのも、「昨日の敵は今日の友」を地で行ったからだ。

 

(少しはやり方を変えてみるのも、悪くないかもしれないな……これなら別に、純血主義を捨てたことにもならないし……)

 

 さすがにイレイナみたく純血主義に無頓着でいることや、ダフネのようにやたらと友達認定したり、目まぐるしく手の平を返すザビニやトレイシーに倣うのは、まだ躊躇われるけれど。

 

 これからは僕も少しだけ――ほんの少しだけ、イレイナたちみたいに寮の壁にこだわらない付き合いを増やしてみよう。

 

 そう、自分に言い聞かせた。

 




マルフォイ「(ロングボトムは)わしが育てた」

 クラッブとゴイルを見捨てないあたり、たぶんマルフォイも根は面倒見が良くて、案外ネビルとの相性は悪くないような気もします。
 本作だと原作に比べてスリザリンが目立つ場面も多いので、ネビルから素直にスリザリンをポジられて満更でもないフォイ。

 映画版のノリノリでダンスの練習してるネビル、作者は結構好きだったりします。
 何気に練習で足を踏んだせいでネビルは原作と違ってジニーとは組めず、ジニーは5巻で付き合うマイケル・コーナーと組むことに。
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