ハリー・ポッターと灰の魔女 作:アストラマギカ
そして迎えたダンスパーティ当日の朝、いつになく大勢の生徒たちがホグワーツに残っていました。
16時ごろになるのを待って、私たちはいそいそとメイク室へ向かいます。
「化粧に4時間もかけるのか?」
「そんなにはかかりませんけど、直前だとメイク室の奪い合いになるので」
驚いたような顔で聞いてくるセオドール・ノットにそう答えてメイク室へ向かうと、みんな考えることは一緒らしく、既に結構な数が埋まっていました。
まずは朝につけたメイクをいったん落とすべく、クレンジング・オイルを丁寧に顔へ広げていき、ぬるま湯で肌に馴染ませるように洗い流します。
摩擦で肌を傷つけないよう柔らかいタオルで優しく水気を切り、水分を補ってみずみずしい肌を整えるべく化粧魔法水をしっかり肌に浸透させていきます。それから美白や肌の弾力など好みに応じて魔法美容液でケアしてから、最後に保湿のための魔法乳液やクリームをつけてようやくスキンケアが完成。
ここから気合を入れて、パーティ用のメイクに入っていきます。個人ごとの体質に合った化粧用下地を顔全体にまんべんなく塗っていき、ファンデーションを塗ってからスポンジやブラシで綺麗に整え、フェイスパウダーをパフにとって余分な粉を落としつつ肌にふわっと乗せます。
最後に立体感を整えるハイライトやシェーディングなんかを鼻やおでこ、目周り、あご、口元なんかにつければベースメイクの完成です。あとは歯を磨いたり、念のためブレスケアなんかを飲んだりと。
「そういえば皆さん、カラーはどうするんです?」
私が聞くと、ミリセントが鏡を見ながら答えてきました。
「赤みとニキビを隠したいから、アタシはイエロー系」
「無難にホワイトね。勝負所こそ無難によ」
パンジーの肝心な所で安パイしか出さないの、いかにもスリザリンって感じです。
「私はせっかくだからパーティ映えするよう、ゴージャスにパール系でいこうかなーって。前に試してみたら案外いい感じだったし」
ゴールドを試したら流石にやり過ぎ感あったけどね、とダフネがウィンクしてきました。美貌を維持するには、こういう日頃の試行錯誤も重要なのです。
「イレイナは……やっぱピンクなのね」
何故か憮然とした顔のパンジーに、首をかしげる私。
「というか私、逆にピンク系じゃないと血色悪く見えるんですよね」
「嫌味か? 嫌味なんだな?」
「色白うらやまー」
ミリセントとダフネに続き、「アンタなんでクィディッチ選手のくせに日焼けしないのよ?」とかパンジーがぼやいてきますが、そんなの日焼け止め対策しっかりしてるのと天性の体質の相乗効果だとしか。
そんな感じでベースメイクが終わると、今度はアイブロー、アイシャドー、アイライン、マスカラ、リップ、チークなんかのアイメイク。
眉下などをアイブローパウダーで描き足していき、スクリューブラシを使って毛流れを整えて自然な立体感を作ります。
目頭から目尻までは半円形にブラシでぶんわりとアイシャドーベースを塗って、目尻には少し濃い色のアイシャドーを入れて引き締める感じに。
アイラインは瞼を引き上げながらペンシルやジェルのアイライナーで目頭から目尻までラインを引いていくのですが、目の形に合わせて色や塗り方は要調整。マスカラはビューラーでまつ毛を適度にカールさせてから、しっかりと塗っていきます。
最後にリップをグラデーションを効かせて塗れば、大体のお化粧は完成です。
「ダフネとイレイナ、化粧はやっ」
「パンジー、時代はナチュラルメイクなんだよ」
「ダフネの言う通り、実際やり過ぎるとかえって素材を殺してしまいますしね」
「やっぱイレイナ、さっきから喧嘩売ってるよな?」
そして最後に、魔女にとって必須の呪文。
「「「「インパービアス-防水せよ!」」」」
ばっちりメイクした顔に防水呪文。魔法が使えて女の子的に楽なことを1つあげるとすれば、防水呪文さえかけとけば食事をしたり汗がにじんでも化粧崩れは発生しないということ。
べちゃべちゃにソースがかかった料理や果汁の滴る果物を食べたばっかりに口紅が落ちたり、くしゃみや鼻をかんだ際に鼻周りのメイクが落ちたり、といった悲劇が防げるめちゃくちゃ便利な呪文です。
そして顔のメイクも重要ですが、それと同等かそれ以上に重要なのが髪型のセット。
髪の毛を水で少し濡らしてから魔法で温風を吹きかけて乾かし、電気いらず魔法のヘアアイロンで巻いたり真っ直ぐに伸ばしたりして、最後は好みのヘアスタイルになるようにスタイリング剤で髪型を調整していきます。
例えばパンジーは今日の為にボブの黒髪を肩まで伸ばしてきたので、ヘアアイロンを使って内巻きと外ハネの交互に巻いていき、華やかさを演出しています。
対してミリセントは茶髪ミディアムショートの癖毛を少しストレート寄りに伸ばしてから、捩じったりヘアピンを使ってアップにまとめていました。
一方のダフネは元々が緩く波打ったミディアムロングのウェーブヘアなため、さほど手を加えず少し巻いただけで、シンプルながらイマドキ感が出せています。
私も前髪や横髪はそのまま、耳の少し後ろ上ぐらいから編み込み、襟足でまとめてローポニーテールにアレンジ。
「残るは……香水とネイルぐらいでしょうか」
うなじ、手首、肘なんかに香水を吹きかけ、せっかくなので髪の毛にもヘアフレグランスをつけたりする私たち。
「おや、ダフネなんか新しいの使ってますね」
「気づいた? これウチの子会社の試作品で、ボツになった奴なんだ。嗅いでみる?」
せっかくなので鼻を近づけてみると、爽やかでフルーティな香りが。桜とフリージアのみずみずしい香りが鼻腔をくすぐり、ダフネ曰く時間が経つとスズランとサクランボのフローラルへと変化し、最後はザクロとピーチが甘く小悪魔的な余韻を残してくれるとのこと。
「これ本当にボツなんですか? 普通に悪くないと思いますけど」
「コスト的に採算合わないんだってさ」
これだから資本主義という奴は……。
「イレイナはいつもの?」
「いえ、夏休みにファーレイ先輩から貰った奴を使ってみようかと」
私が取り出したのは、香水の本場・フランスから輸入されたシトラス系フレグランス。気品あるベルガモットの香りをベースにラズベリーとアプリコットのフルーティーな甘さにがほのかに漂い、上品ながら軽やかな余韻を残してくれます。
気分をリフレッシュさせてくれる爽やかな甘さだけでなく、ふとした瞬間にミステリアスで濃厚な香りがほんのりと包み、フェミニンかつセクシーでクールに演出してくれます。
「あー、それ私もめっちゃ気になってた」
「私も。イレイナ、今度貸してくんない?」
「パンジーに貸すと私物化するから嫌です」
「別にいいじゃない。減るもんでもないし」
「いや減りますが?」
実際、目の前で香水を吹きかけているパンジーは手首やうなじ以外にも、腰やら膝の裏側、足首などかけられる場所にはフルでかけてました。
ちなみにパンジーの香水は定番のフローラル系。万人受けするクラシック・ローズの華やかで優雅な香りは、昔ながらの正統派クラシックの良さ。
「――なぁ、そこのイケイケ女子3人衆よ」
しばらくすると私たちのやり取りを見ていたミリセントが、いくつかの香水を化粧台に揃えて手招きしてきます。
「どれが良いと思う?」
普段は香水代わりにグリーングラス製薬の制汗剤『オーシャンミスト』を愛用するというスポーツ女子あるあるムーヴなミリセントですが、さすがに今回ばかりは女子力高めに行こうという気になったようです。
「へぇ、ミリセントもようやくオーシャンミスト卒業なのね」
「本当に立派に成長して……」
「だぁああああッ! 2人ともやかましいわ!」
パンジーと一緒にミリセントを弄っていると、ダフネがくすくすと笑います。
「じゃあ、せーのでオススメ指そうか」
三人寄れば文殊の知恵とも言います。色とりどりの香水を確認し、私たちは互いの顔を確認してから同時に指さしました。
「ホワイトフローラルですね」
「ジャスミンでしょ」
「ライラックかな」
「おっと、どうした猿知恵3人衆」
見事にバラバラでしたが、一応3人とも無難にフローラル系統ではあります。
「とりあえず、困ったらホワイトフローラルで清潔感出しときゃ良くないですか?」
「えー、それだと透明感とか清楚感とか出ちゃうじゃん」
「んん? ダフネの嬢ちゃん、今のどーいう意味か教えて欲しいな?」
なんやかんやで一通りメイクが終わると、ようやくドレスに袖を通す番です。
「そういえば、私たちスリザリンなのに誰も緑色のドレス着てないわね」
着替え終わって互いにチェックしてると、パンジーがそんなことを言ってきます。
「ダフネは絶対に緑だと思ったんですが」
「
「そう思われるのが嫌だから、敢えて違う色にしたんだべさ」
そんな感じで、私とミリセントの疑問を「へっ」と一笑に付すダフネ。着替えたのは光沢のあるローズバイオレットを基調としたホルターネックのドレスで、フリルや裾にはブラックやゴールドなんかも取り入れた煌びやかなデザイン。レイヤードスカートの裾は短めで、足元のエナメルパンプスまで白く滑らかな太ももが大胆に露出しています。
ちなみに親からは本当に緑色のドレスを送られたのですが、お気に召さなかったため小遣いでドレスを新調したとのことで、こういうところの金遣いは流石お嬢様。
「そういうミリセントも中々、大人っぽい感じゃん」
「どことなくプリマドンナ感ありますよね」
「よせって、照れてまうやろがい!」
満更でもなさそうに返すミリセントはアイスブルーのワンショルダーで、腰の巻いたサッシュベルトやタイトめのスカートが細身のシルエットを際立たせていました。癖のある茶髪ミディアムショートにはドレスと同じ色のコサージュが飾られ、華やかな雰囲気を醸し出しています。
「でも、パンジーもだいぶ化けたよな」
「たしかに、中身を匂わせませんよね」
「ホントそれ」
「3人共うるさいし!」
パンジーが着ているのは、鮮やかなマゼンタピンクを基調としたオフショルダーのパーティードレス。がっつり巻いたセミロングの黒髪ボブに合わせてか、手袋やリボン、フリルなんかには黒色も使われていて、伝統的な魔法族らしいゴシック調を現代風にアレンジした感じです。
そして残った僅かな時間を雑談で潰し、ふと時計を見れば19時半。
「では、そろそろ行くとしましょうか」
――ダンスパーティー開始まで、あとわずか。
◇◆◇
19時30分、僕――セドリック・ディゴリーは玄関ホールの脇にある、スリザリン談話室から一番近い大広間の入口で待機していた。
隣にはスリザリンのドラコ・マルフォイ、そしてレイブンクローのアンソニー・ゴールドスタインとハッフルパフのアーニー・マクミランがいる。
マルフォイは英国国教会の牧師のような黒いビロードの詰襟ローブに白いシャツと白い蝶ネクタイで、髪型も少し変えて七三分けにしてかきあげていた。しかし今日ばかりは落ち着かないのか、無言でひたすら壁を眺めている。
僕は無難にタキシードと黒の蝶ネクタイ、アンソニーはほぼ同じだけどお洒落なベストを着込んでいる点だけが違って、アーニーの方は白い蝶ネクタイに燕尾服だった。
「なぁアンソニー、僕のネクタイ曲がってたりしない?」
「アーニー、今日それ6回目。気持ちは分かるけど、落ち着きなよ」
そわそわしているアーニーに苦笑するアンソニーだったけど、彼の方も少し声が震えているように感じた。
――そして。
「「「「おお~~」」」」
スリザリン女子たちの一団が一斉にホールに現れ、ホールにいた生徒たちの中から自然と感嘆の声が上がる。
先頭を歩いているのはパンジー・パーキンソンさんで、少し後ろからグリーングラスさんにブルストロードさん。
他にもシースルー素材を使ったグリーンのロングドレスを着たアストリア・グリーングラスさんや、スカートにスリットの入った黒のキャミソールドレスで着飾ったトレイシー・デイビスさん、上質なシルクで出来たワインレッドのカクテルドレスを身に纏ったユーフェミアなんかが続いて、ホールはちょっとしたファッションショーのように盛り上がっていた。
「すごいね。アイドルグループみたいだ」
アーニー・マクミランが感心したように呟くと、ドラコ・マルフォイが謎の彼氏面でふんぞり返る。
「当然だ。名家は名家らしく、相応に美しく着飾らなければナメられる」
「内面からにじみ出てくる高貴さこそ尊い、という考え方もあると思うけれど?」
「他人の内面まで知れる機会より、外面しか知れない機会の方が多いと思うけどね。であれば、外見から美しく見せるべきだろう」
そしてマルフォイたちの謎の美意識談義をよそに、アンソニー・ゴールドスタインはちゃっかりパートナーのグリーングラスさんを褒めちぎっていた。
「とっても似合ってるよ。すごいお洒落だ」
「えへへ♡ 見惚れた?」
「うん。ていうか、現在進行形で見惚れてるかも」
「え~、ホントにぃ~?」
「本当にかわいいよ。これは世界一だね」
「ん~、もっと言って♡」
ノリで大袈裟に褒めるアンソニーも、あからさまなお世辞に会心の笑みを浮かべてデレデレし始めるグリーングラスさんも、敢えて浮かれてパーティーを心から楽しむつもりのようだった。
(イレイナはまだなのかな?)
てっきりダフネたちと一緒に来るのかと思いきや、イレイナの姿は一向に見えない。きょろきょろと探していると、監督生仲間のユーフェミア・ロウルが苦笑しながら近づいてきた。
「落ち着きなさい。イレイナは最後に来るように言ってあるだけだから、もうすぐ来るわよ」
「はぁ……でも、なんでイレイナが最後?」
「あの子が先に出てきたら、後に続く子が可哀そうでしょ」
ユーフェミアのこういう細かい気配りが出来るところは、お節介に感じる人もいるけど個人的にはけっこう尊敬している。
――そして。
「すみません、お待たせしました」
聞き覚えのある声がした。
色とりどりのローブやドレスを着ていたホグワーツ生の群れが、波が引くように後ずさる。その反応だけで、誰が何をしたのか容易に想像できてしまう。
(相変わらず、イレイナは期待を裏切らないな……)
ふっと口元が緩む。
どんな言葉をかけるべきか、あれこれ考えながら振り返ると――。
「え………?」
言葉を失う。
イレイナが纏っていたのは、上質のシルクで作られたロイヤルブルーのイブニングドレス。後頭部の低い位置でまとめられた灰色のポニーテールの髪は艶々と輝き、オフショルダーからのぞく華奢な肩と背中にはらりとかかっている。
うっすらとピンク色に上気したような頬は色白のある肌によく映え、潤いのある艶やかな唇はみずみずしい。すっと通った鼻筋は綺麗に整っており、透明感のある目元は明るく華やかで、澄んだ瑠璃色の瞳には吸い込まれそうなほどの魅力があって。
「っ――」
全身金縛り術にあったように、身体が動かない。息が止まり、見開いた目を閉じることも逸らすことも出来ず、ごくりと唾を飲む。
良く知っているはずの彼女は、まるで別人のようで――。
「イレイナ……」
女の子はよく花に例えられるけど、目の前にいる彼女はまさに――花の中の“華”だった。
「……セドリック?」
ぼーっ、と見惚れている時間が長かったからだろうか。ふと、イレイナが怪訝な顔になる。けれど、それすら絵になるほど綺麗だったから。
「ごめん、見惚れてた」
思わず、本音がすっと漏れていく。
「………」
流石のイレイナにも予想外の返答だったらしく、ぽかんと呆気にとられた顔をして。
「えーっと……ありがとうございます?」
なぜ疑問形なんだろう。いや、僕が微妙に反応に困る答えをしたからか。
僕だって本当はもっと気の利いた言葉を幾つも用意して、イレイナのことだから軽くからかわれることも予想して軽口だって考えてきたはずなんだけど。
本人を目の前にした途端、そういうのは全部どこかへ吹っ飛んでしまったから。
物憂げな眼差しは無数の視線を釘付けにし、甘い吐息は凍てつく氷をも溶かす。この世のものとは思えない神秘性を備えた魔女は、ただそこに存在するだけで空気をがらりと変えてしまう。
「セドリック」
「うん?」
再び見惚れていると、何とも言えない顔で目を細めたイレイナがずい、と前に踏み出した。その瞬間にふわっと柔らかで心地よい香りが鼻腔をくすぐり、どうしようもなく鼓動が早鐘を打つ。
「その、後輩の身体を舐めまわすように観察するのは止めた方が良いかと」
「冤罪だ。僕は見てない」
「見てくださいよ。何のためにドレスアップしたと思ってるんですか」
圧倒的理不尽……。
「でも、似合ってるよ。すごく綺麗だ」
「この世で一番美しいですか?」
なんか悪役のお妃さまみたいなこと言い出した。
でも、あんまり堂々としているものだから、妙に納得してしまう。見た目は可憐なお姫様でも、その本性は彼女を見た者を魔法にかけてしまう、正真正銘の魔女だ。
「この世で一番キレイだよ」
素直にそう言うと、イレイナは嬉しそうに顔をほころばせた。
「セドリックも、かっこいいと思います」
「あ、ありがとう」
割と褒められ慣れているはずなのに、体中が燃え上がりそうだ。今ならホグワーツ城を飛び出して、凍てつく黒い湖にだって飛び込める気がする。しないけど。
しばらくすると、繊細な刺繍に彩られたチャイナドレス風の白いマーメイド・ドレスを着たチョウ・チャンもやってきて、パートナーのハリーはビクトール・クラムの隣にいる女子を見て驚いたように眉を吊り上げた。
「ハーマイオニー……!」
最近は少しずつ垢抜けていたから別人のように見えるほどの衝撃は受けずとも、やはり見慣れた友人がいつになく女子女子している様子を見て面食らっているようだった。
「こんばんは、ハリー! チョウもこんばんは!」
笑顔で挨拶するグレンジャーさんは、ふんわりした薄いピンク色のフェミニンなVネックのドレスに身を包み、染めた金髪を頭の後ろでねじって、シニヨンに結い上げてサイドにまとめている。
「な、なんかすっごく綺麗な子がいる!?」
驚いたのはハリーだけでなく、グリーングラスさんもグレンジャーさんを見るなり目を輝かせて近づいてきた。
「えーっと……私のこと、でいいのよね?」
「ふむ、自分が綺麗だという自覚が出てきたようで何より」
すかさずイレイナが茶化すと、グレンジャーさんは「もう!」と照れながら軽めに小突く。お洒落にも褒められるのにも慣れてきたようだけど、やはり嬉しいものは嬉しいのか満更でも無さそうだ。
「わー、にしてもハーマイオニーすごい美人になったねー! 抱いていい!?」
「え、それはちょっと」
「じゃあ抱いて?」
「それもちょっと……」
「よいではないか、よいではないかー♪」
グリーングラスさんはそう言ってどんどん距離を縮めてきて、グレンジャーさんは向き合うような恰好になりながらも必死に「え、ちょ、近っ……」と目を逸らしている。
けれど彼女たちのパートナーは止めるでも間に割って入るでもなく、クラムは顔を赤らめて俯いているし、ゴールドスタインさんに至っては目を細めて「尊い……」などとしみじみしていた。
「……い、イレイナ」
ついに弱り切ったグレンジャーさんがか細い声で助けを求めると、イレイナは小さく頷き――そして。
―――カシャカシャカシャッ!
めちゃくちゃシャッターを切った。
「なんでよ!?」
「いや、すごい映えるなと思いまして」
イレイナが撮影に使ったのはゼネラル・マギティクス社製の多機能両面鏡(通称『多面鏡』)で、魔法のカメラはもちろん『万眼鏡』のようにズームや動画撮影も出来る優れものだ。
「イレイナ、写真どんな感じ?」
「私にも見せてー」
「今からミリセントとトレイシーにも送りますね」
ちなみに『多面鏡』の最新版では、万眼鏡の機能で撮影した写真を「双子の呪文」で複製し、変幻自在術を応用したメッセンジャー機能で他人と送受信することも出来る。
「これは……
「私も交ざりたーい」
「いいよー。ていうか、どうせなら思い出作りにみんなで撮らない?」
「それもいいですね」
イレイナは小さく頷くと、さっそくグレンジャーさんたちに声をかけに行った。僕もせっかくなので友人のロジャーとペアのフラーを連れてきて、ブルストロードさんとグリーングラスさんは「なんで僕がポッターなんかと……」と渋るマルフォイやパーキンソンさんを引きずってきた。チョウも友人のマリエッタたちを呼び、トレイシー・デイビスさんが監督生のユーフェミアに写真撮影を頼む。
「いくわよ」
ユーフェミアが多面鏡を構え、僕らも思い思いのピースサインで待機して。
「はい、ピース」
「「「「「ピース!!!」」」」」
シャッターが切られて、僕らの学生時代が写真に刻まれていく。
沢山の友達や素敵な女の子と過ごせた時間が、この先も色褪せませんように――これからも、いつまでも。そう、聖夜に小さな祈りを捧げて。
いつかホグワーツを卒業した後、クリスマスの夜が来る度に。今日を懐かしく思い出せたらいいな、と思った。
***
それからイレイナたちは、交代で沢山の写真を撮っていた。よく知っている人も、それほど知らない人も、みんな何か思い出を残そうと快く応じてくれていて。
「――――あのっ!」
不意に背後からかけられた声に振り返ると、そこには中性的な顔立ちをした黒髪ボブの女の子――グリフィンドールのサヤが立っていた。
「どうしたんだい?」
「あの~、ちょっと外まで来てもらってもいいですか? 実は見てもらいたいものがありましてですね~」
彼女の頼みを、僕は「いいよ」と二つ返事で引き受けた。監督生という立場上、ものを頼まれるのには慣れているし、こういうイベントの前後には何かとトラブルが起こりやすい。
一応、イレイナにも「少しだけ外すね」と声をかけてから、サヤの後に続く。少し人通りが少なくなってきたところで、サヤはポケットからおもむろに何かを取り出した。
「あ! これ一応、お礼として先に渡しておきますね」
渡されたのは、小さな飴玉。
「ありがとう」
別にいいのに、とも思ったけれど、飴玉ぐらいであれば高価なものでもないし、かえって固辞するのも野暮というものだ。素直に受け取ることにして、僕は飴玉を口に放り込む。
しばらくミント味の飴玉を口の中で転がしていると少しずつ溶けてきて、二層構造になっていた中身が溢れてきた。
――と、そこで異変に気付く。
(あれ……?)
溢れた中身はありがちなガムやソフトキャンディではなく、液体で―――それが魔法薬だと気づくと同時に視界がぼやけ、僕の意識は遠ざかっていった。
更新3週間ほど止まってしまい、て礼いたしました。しかもダンスパーティーとサブタイ付けておきながら、まだ踊っていない件(汗)
もはやクラウチjrよりもサヤさんの方が悪役じみてきたような気がしないでもないですが、たぶんホグワーツの治安的にはたまによくある。
本作の魔法界における化粧に関しては、パーマとかドライヤーみたいな「全体にまんべんなく」系は魔法で、アイメイクのような細かい系は主に手を動かす感じです。
一応アイメイクの呪文とかもあるけど、今のところ上級者はむしろ手を動かした方が早いし完成度も高いから逆に使わない……という設定。
アンソニーとクラムは百合の間に挟まらない……漢の鑑。
多機能両面鏡(
商品名はパランティア。本作の炎ゴブ編02話で出てきたのものに、変幻自在術を応用したメール機能である『変幻自在術メッセンジャー』を搭載した最新版。
オーシャンミスト
グリーングラス製薬のベストセラー制汗剤。元ネタはシーブ〇ーズ。