ハリー・ポッターと灰の魔女   作:アストラマギカ

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第32章 ~2人のセドリック~

  

「……」

 

 なにゆえ? なにゆえセドリックが2人もいるんでしょうか?

 

「マズいぞジョージ、このままじゃ双子キャラの座がディゴリーに奪われちまう」

「心配するなって。俺たちの方がイケメンだろ?」

 

 騒ぎを聞きつけてやってきたフレッドとジョージに続き、他の生徒たちも「なんだなんだ?」「どうしてディゴリーが2人もいるんだ?」「私にも1人ぐらい分けてくれないかしら……?」などと言いながら集まってきます。

 

「イレイナ、そいつから離れろ。僕が本当のセドリックだ」

「いいえ、ボクが本物のセドリックです!」

「嘘つけ。君の正体はサヤだろう!」

 

 

 激しく言い争う2人のセドリックたちの話を聞いているうちに、段々と私にも事情が掴めてきました。

 

 

「要するに今の話をまとめると、サヤさんがポリジュース薬を密造してセドリックに成り代わってる、ということでいいんでしょうか?」

 

 私が聞くと、セドリック2号はこくりと頷きました。

 

「睡眠薬を飲まされて、トイレに押し込められていたんだ。嘆きのマートルが起こしてくれなきゃ、朝まで寝ていただろうね」

 

 ちなみにマートルさんは1人でトイレから青春を謳歌する生徒たちを呪いつつ、「でも、もしかしたら素敵な王子様が私を迎えに女子トイレまで……♡」などという妄想を捨てきれずにいたところ、たまたま「眠りの水薬」を盛られて昏睡中のセドリックを発見したようでした。

 

 なお、残念ながら目覚めたセドリックがマートルさんに惚れるような展開は特になく、感謝の意を伝えてすぐに私の元へと向かったとのこと。

 マートルさんは「結局みんな顔のいい女がタイプなのね―――ッ!?」と嘆いて癇癪を起こしてしまったらしく、きっと今ごろ3階の女子トイレ周辺は水浸しでしょう。

 

 

 しかし、セドリック1号も黙ってはいません。

 

「証拠はあるんですか、証拠はー?」

 

 ポリジュース薬は本人を完璧に再現するため、見た目で判断することは不可能です。1時間もすれば効果は切れますが、そんなに悠長に待っていられません。

 

 

 ―――ということで。

 

 

「じゃあ、本物しか知らない質問をしてハッキリさせましょうか」

 

 またもや首を突っ込んできたのは、ユーフェミア・ロウル先輩でした。これでもスリザリン監督生なので立場的には適任なのかもしれませんが、なんだか微妙に不安がぬぐい切れません。

 

 

 そんな私の懸念をよそに、ロウル先輩はさっそく2人のセドリックに質問を投げかけました。

 

「では、質問その1。イレイナの好きな食べ物は?」

 

 パートナーなら当然知ってるわよね?みたいなノリで投げられた質問に、2人のセドリックは。

 

「クロワッサンです!」

「パンかな」

 

「2人とも正解よ。じゃあ、次の質問に行くわ」

 

 割とガバガバな回答基準を気にした様子もなく、ロウル先輩はバラエティ番組の司会者みたいなノリで話を進めていきます。

 

 

「それでは第2の質問――イレイナの誕生日は?」

 

「10月17日です!」

「10月17日」

 

「え、なんで知ってるんですか……?」

 

 知らない間に個人情報が流出しているようでした。「事と次第によっては訴訟も辞さねーぞ?」という視線で見つめると。

 

「グレンジャーせんぱ……さんに聞きました!」

「グリーングラスさんが教えてくれたんだ」

 

 ジト目でハーマイオニーとダフネに顔を向けると、ちょうどツーショット自撮りの角度を調整している真っ最中。ダフネがハーマイオニーにアヒル口のキメ顔の作り方などを指導しており、「小顔効果あるんだー」などとほざいております。

 

 いやぁ、偶然ってあるもんですね。

 

「あら残念、回答被ったから今回も引き分けね」

 

 まったく残念そうじゃない顔で淡々と肩をすくめるロウル先輩。

 

「じゃ、次に行きましょ」

 

 雑に流されました。

 

 

「第3の質問――あなたが今、一番気になってる人は?」

 

「イレイナさん!」

「イレイナだ」

 

 

「「「「きゃあああああぁぁ♡」」」」」

 

 

 人目をはばからない大胆な告白に、一斉に沸くギャラリーたち。

 

「うーん、回答が被ったからこれも無効ね……まぁいいわ、次の質問に行きましょう」

 

 やっぱりこの司会、無能では?

 

 

「では第4の質問―――イレイナとはどこまで進展した?」

 

 もう完全にただの野次馬根性です。

 

「手を握るところまでです!」

「手を握るところまでだね」

 

 またもや回答被り。ギャラリーからは「ぴゅあぴゅあ……推せる」とか「なんか昔を思い出しちゃったな……」みたいな声がチラホラと。

 

 

「第5の質問――あなたの希望進路は?」

 

 

「イレイナさんのお嫁さん!」

「……クィディッチ関係の仕事」

 

「前者、ダウト」

 

 次の瞬間、ロウル先輩は目にも止まらぬ速さで杖を抜き、セドリック1号に向けて呪文を放ちました。

 

「ロコモーター・モルティス‐足縛り!」

 

 逃げようとしたセドリック1号が地面に倒れ、続けてロウル先輩が「ブラキアビンド‐腕縛り!」と唱えると、どこからともなく現れた縄が1号の腕を縛りあげます。

 

「残念だったわね。せめて“お嫁さん”じゃなくて“お婿さん”って答えていれば、まだ男だと誤魔化せたかもしれないのに」

「ああああああ……」

 

 勝ち誇ったロウル先輩の言葉に、セドリック1号改めサヤさんは観念したようにガックリと項垂れました。

 

「さてと……ブレーズ、フィルチさんを呼んでくれるかしら。天井から吊るして、洗いざらい白状してもらいましょう」

「はいはい、お嬢様の仰せのままに」

 

 わざとらしく頭から腹にかけて手をクルクルさせながら一礼し、ザビニがフィルチさんを呼ぼうとした時のことでした。

 

 

「―――その必要はなかろう」

 

 

 背後からぬっと現れたのは、我らが寮監たるセブルス・スネイプ教授でした。

 

「吾輩の部屋に今ちょうど『真実薬』がある。1滴垂らすだけで充分だ」

「ですが……」

 

 不満そうなロウル先輩に、スネイプ先生は続けて言いました。

 

「加えてサヤは一応、吾輩のダンスのパートナーでもある。吾輩にも監督責任があるからにして、しっかりと事情聴取を行ってから減点と罰則を与えるつもりだ」

 

 

「「「「「「えっ」」」」」」

 

 

 最後に爆弾発言を残し、「嫌だぁあああああ!」と叫ぶサヤさんを引きずっていくスネイプ先生。しかし、すぐには退出しないで一旦マクゴナガル先生とダンブルドア校長のもとへ寄ったかと思うと。

 

「吾輩のパートナーが、いくつもの校則を粉々に破る大問題を起こしましてな。吾輩としても1曲も踊らぬままパーティー会場を後にしなければならぬのは遺憾の極みだが、これもまたやむを得ない事情ゆえ」

 

 口では「残念だ」と連呼する割に、さっさとパーティー会場を後に出来ることが嬉しくてたまらない様子でした。

 

 なんなら「ですが、私の寮生が起こした問題なのですから~」と引き継ごうとするマクゴナガル先生に対して、「いえいえ、それには及びませぬぞ」とへりくだりつつも全力で引継ぎを拒否。

 

「ミネルバ、貴女は副校長でもあるのだから、最後までこの場にいなければ。この件については、吾輩が責任をもって対処しよう」

 

 もっともらしい理屈を付けてマクゴナガル先生を説得し、悠然と大広間を後にしていったのでした。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 吾輩――セブルス・スネイプは、忌々しいクリスマス・ダンスパーティー会場から出て、冷え込む廊下へと出た。後ろにはセドリック・ディゴリーに変身したサヤが、やりきった感のある表情を浮かべてついてきている。

 

 

 くだらんイベントに強制参加させられてしまった吾輩にとって、こっそり薬品庫からポリジュース薬の材料を盗んでいたサヤは格好の相手だった。

 

 サヤはイレイナ・セレステリアのことしか頭にない問題児だが、それゆえにパートナーを組んでもバカバカしい噂は立ちづらいからだ。

 あの年代の子供ときたら、口を開けば誰と誰が付き合ってるだの、交際人数が何人だのといった低俗な話ばかりで、残念ながら我がスリザリン寮とてそれは例外ではない。

 

 というわけで現行犯でサヤを捕まえた吾輩は、すぐさま3階の女子トイレで製造中のポリジュース薬を没収し、窃盗の罪を見逃すかわりにパートナーになるよう取引を持ち掛けた。もちろんサヤに選択肢の余地は無く、わかりやすい形だけのペアとして平穏無事に乗り切れる……はずだった。

 

 

 ディゴリーに変身したサヤに向き直り、吾輩は口を開いた。

 

「……お前が作っていたポリジュース薬は没収したはずだが」

 

 一体どんな手を使って代わりのポリジュース薬を調達してきたのか聞いてみると、返ってきたのは実にあっさりとした回答だった。

 

 

「あのあと廊下で“ボクのポリジュース薬がぁああああ~~!?”と嘆いていたら、アストリアさんが教えてくれたんですよ~」

 

 

 ――つい最近、実家の方で魔法薬の通信販売を始めましたの。ホグズミードにあるJ・ピピン魔法店を代理店として通す形で注文すれば、大抵の魔法薬は手に入りますわよ。

 

 

「けっこう値は張るんですけど、ちゃんと指定した時間通りにフクロウ便で届けてくれたんですよねー。いやぁ、便利な時代になったなーと」

「………」

 

 とりあえず、アストリア・グリーングラスには後で厳重に注意しておくことにする。まさか当人もこんな使い方をされるとは思っていなかっただろうが、それはそうとサヤのように悪用する輩が出てこないとも限らない。世の中が便利になり過ぎるのも考え物だ。

 

 

 

 それから、もうひとつ気になっていたことを聞いてみた。

 

「どうして、そこまでしてセレステリアと踊ろうとしたのだ?」

 

 すると、サヤは間髪入れずに。

 

 

「そんなの、イレイナさんが大好きだからに決まってるじゃないですか」

 

 

 セドリック・ディゴリーのハンサムな顔に、くしゃっとした笑顔が浮かぶ。どこか見覚えのあるような表情に、久しく忘れていた不快感が蘇る。

 

「……明らかにセレステリアは引いていた」

「かもしれません」

 

 この期に及んで「かも」などと言い張れる傲慢さに、またもや気持ちがざわつく。よくもまぁ、ここまで楽観的になれるものだと思う。

 

「……嫌われたかもしれない、とは思わないのかね?」

「まぁ、正直なところ何度か」

 

 けど、とサヤは言ってから。

 

 

「たとえ嫌われたって、最後にボクを好きになってもらえればいいので!」

 

 

 はっきりと、言い切る。その真っすぐで向こう見ずな姿勢に、思わずたじろいでしまう。

 

 

 これは、まるで――。

 

 

「本当に怖いのは、何もできないままイレイナさんが卒業しちゃうことですし。そしたらボク、絶対に後悔します」

 

 

 しまった、と気づいた時にはもう遅かった。

 

 

「……余計なことをして、一生後悔することだってある」

 

 心の奥底に閉じ込めていた感情を抉り出されたような感触に、どうしようもなく心拍数が上がっていく。らしくもなく、心がささくれ立つのを感じる。

 

 それでも、言わずにはいられなかった。

 

 

「だとしても」

 

 吾輩の安い挑発を真正面から受け止めて、サヤはそれを粉砕するかのように言う。

 

 

「ボクは踏み込みますよ。だって――」

 

 

 真っすぐに言葉を紡ぐ。

 

 

 

「失う覚悟も無いまま、手に入れようだなんて思ってませんから」

 

 

 

 その言葉に、どうしようもなく突きつけられてしまう。自分の弱さと恐れ、不安と保身、未練と後悔を。

 

 

「っ――」

 

 

 思わず、言葉に詰まる。目の前にいる少女の気持ちは、呆れるほどに純粋で。

 

 

 

 ――どこまでも、ひたむきな恋をしている。 

 

 

 

「要はそのぐらい、イレイナさんが好きってことなんですよ!」

 

 

 へへっと無邪気に微笑むサヤから、吾輩は顔を背けた。

 

 

 ……今日のところは、彼女の勝ちだ。

 

 

 好きな人に嫌われるかもしれないという恐れを抱きつつ、サヤは踏み込む道を選んだ。失敗するかもしれないと理解してなお、手を伸ばした。

 

 

 この気持ちには、それだけの価値があるのだと――。

 

 

「………そうか」

 

 

 ――もし、この無謀さが少しでもあれば。

 

 

 何かが変わっていたのだろうか。

 

 

(いや、違うな……) 

 

 世の中は、それほど優しく出来てはいない。願いの大半は叶わないし、良かれと思ったことが裏目に出ることも珍しくない。

 

 どこまでも自分に正直であることは、いつか後悔へとつながるのかもしれない。

 

 

 けれど、きっと未練は残らないはずだ。

 

 

 後悔を背負って、彼女は前を向くだろう。いくつもの「もし」を過去に清算して、未来に生きるのだろう。

 

 

 ――だから。

 

 

 

「……グリフィンドール、40点減点だ」

 

 

 ほんの少し、手心を加えて減点した。

 

 

 

「あと今年は大広間でスリザリンのテーブルに近づくことを禁ずる。出禁を破ったら、その都度20点減点だ」

「ええっ!?」

「それから、3階の女子トイレが水浸しだとゴーストから連絡があった。こちらも今日中に掃除したまえ」

 

 サヤはセドリック・ディゴリーの声で「そんなぁ~」と情けなく叫び、「雰囲気的に許してくれる流れだったじゃないですかぁ~」などと腑抜けたことを言ってくる。

 

「馬鹿者、初犯と年齢を考慮して減免してあるが、本来ならばその3倍の減点が妥当なところだ。不満ならトロフィー室の掃除の罰則を追加してやっても、一向に構わないのだが?」

「わーっ、わかりました! わかりましたからぁ!」

 

 サヤは半べそで叫び、3階の女子トイレに向かって飛び出していく。癇癪を起こした嘆きのマートルが水浸しにしていたから、少なくともダンスパーティーが終わるまではかかるだろう。

 

「まったく……これだからグリフィンドールは好かんのだ」

 

 誰にともなく独り言ちて、吾輩も3階の女子トイレへと向かった。

   




セドリック「ばかもーん!そいつがサヤだ~!」
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