ハリー・ポッターと灰の魔女   作:アストラマギカ

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※30話のタイトルを変更して、代わりにこっちに持ってきました。


第33章 ~クリスマス・ダンスパーティー~

 

 サヤさんがスネイプ先生に連行された後、ダンスパーティーは順調に盛り上がっていきました。

 

 

「よーし、ノってけよぉおおおおおっ!」

 

 

 ローブを芸術的に引き裂いた『妖女シスターズ』のリーダーが叫ぶと、生徒たちも割れるような歓声で絶叫して応えます。すると最初のワルツ調の曲から一転して、アップテンポの激しい曲の演奏が始まりました。

 

 

 のたうつ巨人のようにロックに身を任そう♪

 はね回る妖精のように踊りまくろう♪

 ユニコーンのように朝まで踊り続けよう♪

 両手を振り上げて人食い鬼のように♪

 

 

 三大魔法学校対抗試合のユール・ボールは本来、歴史と伝統ある格式高い舞踏会という話なのですが、後半に差し掛かったころには音楽ライブのような雰囲気となっていました。

 

「いいぞーー! スラストンさいこーーー!!」 

「ワグテイル愛してるー! 抱いてーーー!!」  

「デュークぅううっ!こっち見てーー!!」

 

 ザビニ、トレイシー、ミリセントなんかは髪をかきあげながら腰を振ったり、肩を組んでぴょんぴょん飛び跳ねながらハイテンションでバンドマンの名前を絶叫するなど、清々しいぐらいにパーリーナイトしており。

 

「ルーモス・コロバリア=ロセウム‐光よ、緑色に輝け!」

「ルーモス・コロバリア=ウィリデ‐光よ、桃色に輝け!」

 

 一方でダフネやパンジーはというと、杖先にカラフルな光を灯してペンライトよろしくノリノリで前後に振ってキャーキャーと黄色い声援を送っていて、他の生徒たちもそれを真似て大騒ぎ。妖女シスターズの演壇前にはぎっちぎちに生徒たちが押し寄せ、大広間はちょっとしたライブ会場と化しておりました。

 

 しかし先生たちは注意するというわけでもなく、むしろ微笑ましげな表情で寮や学校の垣根を超えてライブに夢中になる生徒たちを眺めており。

 

「伝統的ではないかもしれませんが、国際交流は十二分に果たせていますな」

「ええ。本来の目的はそちらですし、今日ぐらいは羽目を外すのも大目に見てやりましょう」

「若いっていいですねぇ」

「貴女だって十分に若いでしょうに」

 

 フリットウィック先生とスプラウト先生はしみじみとワインを飲み、フラン先生とマクゴナガル先生もチーズと生ハムをツマミに一杯やっております。

 

「ああ、音楽とは何にも勝る魔法じゃ!」

 

 あとダンブルドア校長、とりあえずそれ言っとけば何でも許されると思ってません?

 

 

 ――やがて『妖女シスターズ』の演奏が終わると割れるような拍手が響き、興奮冷めやらぬまま生徒たちがテーブルに戻ってきました。

 

 

「はー、めっちゃ興奮した! いい汗かいたー!」

「ラジオで何度か聞いたけど、やっぱり生演奏は違うよね」

「会場との一体感がね、もう最高!」

「ねー! 超絶にアガったし!」

「あかん、叫び過ぎて喉ガラガラなんだけど」

 

 ダフネとアンソニーのペアは肩を組みながら口々に感想を言い合い、前の方にいたミリセントとトレイシーはもみくちゃになったせいでドレスがはだけそうになっており、ザビニは絶叫のあまり喉を痛めておりました。

 

「あ、皆さんお疲れさまです」

「こっちに飲み物あるけどいる?」

 

 早めに退散していた私とセドリックはがこんなこともあろうかと用意していたマナエイド(魔法界のスポーツドリンク)を手渡し、和やかに談笑していたドラコとパンジーのペアも苦笑しながら加わります。

 

「お前たち、よくあの人込みに入ろうと思うよな」

「つーか髪の毛ぐちゃぐちゃじゃない」

 

 ライブをエンジョイしていた皆さんは「あざーっす」「さんきゅ」などと言ってドリンクを受け取ると、その場で腰に手を当ててぐびぐびと一気に飲み干して。

 

 

「「「「ぷはぁ~~~!」」」」

 

 

「全員で風呂上がりですか」

「イレイナもう一杯おかわり!」

 

 女子力が行方不明なミリセントに別のゴブレットを渡すと、ダフネがクスクスと笑って別の写真をパシャリと撮っていきます。

 

「なんか、こういうのっていいよね」

 

 あちらこちらに多面鏡のカメラを向けて、ダフネが優しく微笑みながら言いました。何気にカメラ機能は好評のようで、今度ペネロピー先輩たちに会った時に報告しておこう……などと思って周囲を眺めていると。

 

 

「おや……?」

 

 審査員テーブルの方を見た時、なんとも言えない違和感が。

 

「あれ、クラウチさんの席にいるのって……パーシー先輩、だよね?」

 

 怪訝な顔をしたセドリックの言葉で、やっと私も違和感の正体に気づきました。

 

 

 ――そう。クラウチさんの席にいたのは、真新しい濃紺のローブを着こんだパーシー・ウィーズリーさんだったのです。

 

 

 するとパーシーさんも私たちに気づいたようで、もったいぶった様子で近づいてきました。

 

「やぁ、楽しんでいるかい?」

 

 聞いてもいないのに「昇進したんだ」とか「クラウチさんの補佐官として代理でね」などと嬉しそうに語りだすパーシーさんでしたが、私とセドリックは何とも言えない表情で顔を見合わせ、遠慮がちに切り出しました。

 

「ところで……ペネロピー先輩は?」

「え? ペニーなら家で過ごしてるみたいだけど」

 

 怪訝な顔をするパーシーさんを見て、セドリックが「こいつ正気か」みたいな顔になりました。

 

 

「先輩、今日はクリスマスですよ!?」

 

 

 セドリックの声を聞いて、近くにいた女性陣が一斉に反応しました。

 

「えっ、ウィーズリーの奴、カノジョいるのに放っておいてんの?」

「クリスマスなのに?」

「ないわー。私だったらソッコーで別れる」

 

 大ブーイングの嵐でした。

 

 特にチョウ先輩をはじめとするレイブンクロー女子は、ペネロピー先輩が同寮の監督生だった頃にお世話になった人も多く、非難の嵐です。しまいには夏休み中にGM社で一緒に働いていたフレッドやジョージたちまで現れ、「そーだそーだ」とブーイングに加わってきました。

 

「お、お前たちまで……!」

 

 ここまで非難されると思っていなかったらしく、パーシーさんは動揺しながらも反論します。

 

「言わせてもらうが、僕だってちゃんと多機能両面鏡の変幻自在術メッセンジャーで連絡はしたんだ! クラウチさんの代理で終日、このダンスパーティーに出席しなきゃいけないって!」

「それで?」

「これがペニーの答えだ」

 

 パーシーさんが見せた画面には、こう書かれていました。

 

 

 ―――大事なお仕事だもんね。私も今日はちょっと熱っぽくて休んでるから、気にしないで頑張って!

 

 

 べしっ。

 

 

 固まる女性陣にかわって、フレッドとジョージが思いっきりパーシーさんを引っぱたきました。

 

 

「「この大馬鹿野郎」」

 

「なんで!?」

 

 パーシーさんの情けない声に、集まってきたアンジェリーナ・ジョンソン先輩やケイティ・ベル先輩、リー・ジョーダンさん、アリシア・スピネット先輩が順に口を開きます。

 

「どう考えても本心じゃないでしょーが」

「わざわざ体調不良アピールしてくるあたり、来て欲しいサインばりばりじゃん」

「つーかさ、カノジョが熱っぽかったら普通は心配して様子見に行かん?」

「付き合って2ヶ月とかなら様子見も分かるけど、交際2年目でこれはない」

 

 そこまで言われて、ようやくパーシーさんも事態に気付いたようでした。

 

「もしかして、遠慮してたけど本音では嫌だった……とか?」

 

 十中八九そうだと思います。

 

「てか、改めて文面読むと‟大事なお仕事だもんね”って絶対に皮肉じゃん」

「少なくとも審査員席で座ってるだけの仕事なら、クリスマスに恋人を放置してまでやる事じゃないよね」

「むしろ一周回って逆に別れたがってるんじゃない?」

 

 皆で「うんうん」と頷く中、いまいちピンと来てなさそうなのはパーシーさんご本人と、チョウ先輩についてきたハリーぐらいのもの。

 

「でも、だったら素直に言――」

 

 余計なことを言おうとしたハリーの口を、ハーマイオニーが「シレンシオ‐黙れ!」と呪文をかけて塞ぎ、「チョウに嫌われたくなかったら静かにしてて」と念押しします。

 

「とにかく、パーシーさんは今すぐクラウチさんに事情を説明して、ペネロピーさんのところへ行ってください。もう手遅れかもしれませんけど」

 

 結局、パーシーさんが慌てて多面鏡でクラウチさんに連絡したところ。

 

「バグマンにも事情を伝えて引き継ぎをしたら、早退して構わない。休暇届の事後申請も忘れないように」

 

 割とホワイトな指示がクラウチさんから下り、パーシーさんは双子に追い立てられるようにして早退していきました。

 

 

 **

 

 

 パーシーさんが去った後、セドリックが何とも言えない顔で口を開きました。

 

「あの2人には去年はお世話になったから、うまくいってくれると嬉しいんだけど」

 

 聞けばセドリックが監督生になったばかり頃、パーシーさんとペネロピーさんには仕事の進め方なんかを色々と教えてもらっていたそうです。

 

「たしかに2人とも、面倒見いいですもんね」

「うん。監督生の仕事だけじゃなくて、5年次の進路指導の時も相談に乗ってもらったし」

 

 ホグワーツでは5年生の時に一度、寮監と面談して進路指導を受けることになっています。セドリックの場合はスプラウト先生になるのですが、歳が近い監督生の先輩たちにも色々と相談したのだとか。

 

 

 ちょうど良いタイミングだったので、私は気になっていたことを聞いてみました。

 

「そういえば、セドリックって将来、クィディッチ用品の開発をするんですか?」

 

 ポリジュース薬で化けていたサヤさんを見分けるための「将来の夢は何?」という質問に対して、たしかにセドリックはそう答えていたはず。

 

 セドリックは「うん」と小さく、けれどしっかりと頷きました。

 

「もともとクィディッチ関係の仕事をしたいとは思ってたんだけど、開発の仕事をしたいと思ったのは最近かな」

 

 クィディッチ用品の開発、と私は口の中で繰り返しました。

 

「箒メーカーに就職したい、という意味でしょうか」

 

 有名どころでいえばファイアボルトを製作したラルフ・スパッドモア社やニンバス・レーシング・ブルーム社、クリーンスイープ・ブルーム社、コメット・トレーディング社なんかがあり、採用人数は多くありませんが人気の業界でもあります。

 

 セドリックはクィディッチ選手でもあるので関連した業界を目指すのは特に驚きではありませんが、その場合は去年卒業したオリバー・ウッドさんのようにプロのチーム入りを目指すものだとばかり思っていたので、開発の道に進むのは少し意外でした。

 

 

 しかし、セドリックは首を横に振りました。

 

 

「箒メーカーには就職しない。僕がやりたいのは、スニッチとブラッジャーの改良なんだ」

「それはまた……中々にマニアックな道ですね」

 

 私が首を傾げているのを見て、セドリックは「だね」と続けました。

 

「でも、本気だよ。僕はクィディッチが好きだから、もっと沢山の人に楽しんで欲しい。そのために何が必要か、自分なりに考えてみたんだ」

「その結果がスニッチとブラッジャーの改良?」

 

 いまいちピンと来ない私に、セドリックが再び口を開きます。

 

 

「そう。だって―――最近のクィディッチは、ちょっと退屈だから」

 

 

 セドリックにしては珍しく、強めの言葉でした。

 

「こんなこと言うと老害って思われちゃうかもだけど、最近のクィディッチは箒の性能が上がり過ぎて、ちょっとシーカー偏重になってる気がする。シーカーに最高の箒を与えさえすれば、1時間も経たないうちにスニッチを捕まえてゲームセット」

 

 昔の試合はそうじゃなかった、と続けるセドリック。

 

「箒の性能だけが上がってしまう前の試合は、長丁場になること多かったし、選手交代も頻繁だったんだ」

 

 それゆえチーム編成や選手投入のタイミングも含めて、もっと複雑な駆け引きがあったそうな。

 

「今より箒のスピードが遅かったから、名シーカーがいてもブラッジャーにやられて補欠と交代することは珍しくなかったし、なかなかスニッチを捕まえられないうちにチェイサー戦で150点以上の差が付くことも結構あったんだ」

 

 けれど箒の性能がどんどん向上する一方で、スニッチやブラッジャーの性能は昔のまま。スニッチは簡単に捕まるようになり、ブラッジャーも簡単に回避できるようになって、複雑なクィディッチの試合がどんどんシーカーの腕に左右されるようになっていきました。

 

「箒の性能が上がったなら、スニッチとブラッジャーも追いつかないと」

「なるほど」

 

 

 私としては納得できる理屈でしたが、すぐ近くで話を聞いていたハーマイオニーは不思議そうに首を傾げながら「でも……」と口を挟みました。

 

「それなら魔法省の魔法スポーツ部に入って、箒の速度を規制すればいいんじゃないかしら?」

 

 

「「それはない」」

 

 

 セドリックどころか隣にいたクラムさんにまで秒で否定され、「えぇ……」と困惑するハーマイオニー。

 

「い、イレイナはどう思う?」

「そうですね……良くも悪くも、現場を知らないエリートっぽいアイデアではあるなと」

「どっちかというとエリート寄りの人に否定された!?」

 

 まぁ、この辺は気持ちの問題です。クラムさんが見せたような華麗なプレーは、箒の性能向上あってこそのものでもありますし。

 

 セドリックも「一応、魔法スポーツ部も考えなくは無かったけどね」と笑って。

 

「やっぱり制限を加えるより、研究でスニッチとブラッジャーを改良した方が、スポーツとして面白くなるかなと思って」

「ひょっとして、三大魔法学校対抗試合の賞金は、その開発資金に?」

 

 私が質問すると、セドリックは少し恥ずかしそうに頬をかきました。

 

「……ちょっと俗っぽいかな?」

 

 私ははっきりと首を横に振って。

 

「セドリックらしくて、いい考えだと思いますよ」

 

 本心からそう口にしました。

 

「ただ……」

「それだけなのか、って事かい?」

 

 私の疑問を見透かしたように、セドリックが聞いてきました。

 

「そうですね……必ずしも夢が大きくなければいけないとは思いませんが、セドリックなら3年も経たないうちにそのぐらい出来そうな気もして」

 

 私の言葉に、セドリックは頷きました。

 

「うん、実際2~3年ぐらいで実現するつもりだよ」

「その後は退職して、悠々自適の日々を?」

「まさか。あくまで具体的な案が出ているのがスニッチとブラッジャーの改良なだけで、クィディッチの試合を楽しんでもらうための商品開発については、まだまだアイデアがある。それを一つずつ、形にしていきたい」

 

 

 それからセドリックは、いくつものアイデアを語ってくれました。

 

 

「例えば、万眼鏡の改良だね。箒のスピードに合わせてスニッチとブラッジャーもどんどん高速化したら、観客は肉眼じゃ追えなくなる。だから、安価で高画質な万眼鏡があれば、みんな欲しがると思うんだ」

「なるほど」

 

 

「夏休みにリー・ジョーダンが語ってくれた、通信鏡を使った『英国魔法放送協会』なんかも立ち上げてみたい。もう一度、GM社にいるファーレイ先輩たちと組んで、マグルのテレビ局の魔法界版を作って、料理番組だとか天気予報やニュースに加えて、スポーツ中継を流すんだ」

「リビングでバタービールでも飲みながら、家族と一緒に大きな通信鏡で見たら楽しそうですね」

 

 

「通信鏡で中継できるなら、きっといつか多面鏡の方でも視聴できるようになるはずだ。逆に多面鏡の方を万眼鏡とリンクさせて、観客席から撮影した写真や映像を変幻自在メッセンジャーで送信できるかも」

「それなら《Riddle 94》に試合映像を編集させて、オモシロ動画を作って友達とシェアする、なんて楽しみ方もありそうですね」

 

 

 夢は尽きることなく、アイデアは減るどころか、話をする度に増えていって。

 

 

「君と話していると、なんでも出来そうな気がしてくるよ。おとぎ話みたいな夢だって、すぐ近くにあって、手を伸ばせば届きそうに思えてくる」

「きっと届きますよ。おとぎ話だって、いつか現実になる日が来ます」

 

 

 だって――。

 

 

 

「私たちは、『魔法使い』なんですから」

 

 

 

 人間が想像できることは、人間が必ず実現できる……偉大なマグルのSF作家、ジュール・ヴェルヌもそんな言葉を残しています。

 魔法を使えないマグルが不可能を可能に出来るのならば、私たち魔法使いだって――いつか、きっと。

 

 

 

「セドリックなら実現できますよ」

 

 

 私の言葉に、セドリックは頷いて。けれども少しだけ、不安を覗かせた顔で。

 

 

「本当に、僕にも出来るかな?」

「ええ」

 

 

 ふと口を突いて出たのは、はっきりとした肯定の言葉。根拠もなければ保証もない、気休め程度の希望的観測かもしれないけれど。

 

 

 ――いつかそんな言葉に、とても勇気づけられてしまった事があったから。

 

 

 だから、私は言うのです。かつての恩師(ロックハート先生)が、私に与えてくれた魔法の言葉を。

 

 

()()()()()()と願って歩き続けている限り――必ず、なれますよ」

 

 

 今度は私が、セドリックに。

  

 

 **

 

 

 それからは私はセドリックと一緒にのんびりとお茶を飲みながら、ダンスパーティーで踊る皆さんの様子を眺めていました。

 

 

 特別な日というだけあって、いつもと同じようで少し違う。「今日はクリスマスだから」と誰にともなく言い訳して、ちょっと大胆になったり感傷的になってみたり。日常と非日常が混ざり合って、まるで魔法にでもかけられたかのよう。

 

 

 例えば―――当初は参加すら危ぶまれたクラッブとゴイルですが、いつの間にか大食い競争を始めており、これが妙にウケたようで双子のカロー姉妹は大爆笑。

 

 

 そして踊り疲れたアストリアさんはユーフェミア・ロウル先輩の肩に頭を乗せてウトウトしており、ロウル先輩と目が合うと、口元に人差し指を当てて「しーっ」と微笑んできました。

 

 

「これが……女の子と一緒の、クリスマス………これが……せい、しゅん……!」

 

 セオドール・ノットは初めて感情を知ったホムンクルスみたいなことをブツブツ呟いており、パートナーのエステルさんは「あはは……」と引き気味の苦笑い。

 

 

 一方、ブレーズ・ザビニはグリフィンドールのエマ・ベインさんと熱々のキスを交わした後、耳元で何かを囁いてエマさんから「ばーか♪」と軽く小突かれていました。

 

 

「ボーバトンの宮殿ではクリースマスの間、森のニンフの聖歌隊がいて、歌を奏でまーす。周りには、ぐるーりと氷の彫刻が立ちまーす。まるでおーきなダイヤモンドの彫刻のように……」

 

 フラー・デラクールさんは延々と母校自慢をしておりますが、残念ながらパートナーのロジャーさんはその美貌を見つめるのに忙しくてお話は右から左へと流れている様子。

 

 

 そしてチョウ先輩と一緒のハリーはというと、ちゃっかり糖蜜パイを2人でシェアするなどしております。

 

「ハリーって結構、甘いもの好きよね?」

「小さい頃あんまりお菓子とか食べられなかったから、つい食べちゃうんだ」

「それは……厳しい家庭なのね」

「うん」

「じゃあ、今日はいっぱい食べちゃいましょ!」

 

 ダーズリー家の実態を知る私には家庭環境の闇が垣間見えてヒヤヒヤする会話でしたが、チョウ先輩は何も知らないまま地雷原を無事に通過しました。

 

 

「ビクトール、これは何かしら?」

Баклава(バクラヴァ)……甘い、美味しい、お菓子です」

 

 ハーマイオニーはクラムさんと一緒にダームストラングのテーブルに座っていて、ブルガリア語を教えてもらいつつ、東欧スイーツに舌鼓を打ったりと正しく国際交流の真っ最中です。

 

 

 そんなハーマイオニーたちを、ロンは隅っこのほうから睨みつけていて。

 

「普通、敵と一緒にダンスなんてするか?」

 

 バタービールで呑んだくれながらロンがぼやくと、同じようにパートナーに逃げられたザカリアス・スミスさんが相槌を打ちます。

 

「全くだ。グレンジャーはもっと賢い女性だと思っていたが、あんな風に浮かれるなんてガッカリだよ」

「おい……僕の前でハーマイオニーを悪く言うな」

「君、本当に面倒臭いな!?」

 

 どんよりとした空気は似たような雰囲気の人を惹きつけるのか、すぐ横では膝を抱えてうずくまるエロイーズ・ミジョンさんや“嘆きのマートル”なんかもいます。

 

「うぅぅ……結局、男子は顔が良くてガードの緩そうな女の子がいたら、すぐそっち目移りするんだ……ひーん」

「じゃあ、そこにいる赤毛の子とか金髪の子とかどう?」

「やだ……やっぱり自分のニキビは棚に上げてイケメン欲しい」

「最近の子って欲深いのね……」

 

 こっちはこっちで、寮の垣根を超えた友情らしきものが芽生えているようでした。

 

 

 そして練習の甲斐あって完璧なダンスを披露したネビルとハンナのペアは、驚いたアーニー・マクミランさん達から質問攻めにあっていました。

 

 

「……なんだか、見てて飽きませんね」

 

 

 お馴染みの面子でも、今日のドラコとパンジーは少しだけ雰囲気が大人びており、普段ボーイッシュなミリセントのドレス姿は時折ドキッとするような色気があって。

 

 普段ずっとポーカーフェイスなノットもまた子供のように目をキラキラと輝かせていて、逆にザビニはチャラチャラした姿と完璧なエスコートのギャップでパートナーを魅せています。ダフネはトレイシーと一緒に、まるで昔からの幼馴染のように親しげに何やら話し込んでいました。

 

 

 こうやって少し遠くから眺めると、当たり前のように私がまだ知らない皆さんの姿が見えてきて、改めて一人ひとりに違う人生があるんだなーなどと実感します。

 

 

 それが妙にかけがえのないものであるような気がするのは、やはりクリスマスという特別な日ゆえなのでしょうか。

 

 

「さっきのパーシー先輩たちじゃないけど、卒業して働き始めたらこういう景色も見納めなのかな」

 

 しんみりと語るセドリックの声には、少しだけセンチメンタルな響きが滲んでおり、改めて歳の差を意識せずにはいられません。

 

「むしろダンスする場は増えたりするかもですけどね」

「社交パーティー的な?」

「フリント先輩やファーレイ先輩みたいに、毎晩クラブで踊ってるかもですよ」

「イレイナはああいう大人になっちゃダメだよ」

 

 ここにいない人たちの話で茶化しつつ、ふと将来のことを思います。

 

 今年6年生のセドリックは来年がホグワーツで過ごす最後の年で、気づけば私が学生でいられる期間も半分を切りました。

 きっとこの先、大人になってダンスパーティーに参加する機会や誰かとクリスマスを過ごす機会があったとしても、今日と同じ景色はもう見れないのでしょう。

 

 

 

 ふと時計を見れば、日付が変わるまであと少し。

 

 

 聖夜の魔法が解ける時間が近づいてくるにつれ、このふわふわした空間がどうしようもなく名残惜しいような気がしてきて。夢から醒めませんようにと、少しでもこの不思議な時間を引き延ばそうとするように。

 

 

「そろそろだね」

「はい」

 

 

 かちっ、かちっ、と時を刻む時計の音。最後まで元気よくカウントダウンを叫ぶ、生徒たちの声を聞きながら。

 

 

 ―――聖夜の終わりを告げる、時計の鐘の音に合わせて。

 

 

「メリークリスマス、イレイナ」

「メリークリスマス、セドリック」

 

 

 最後に湖の方から飛びっきり大きな花火が打ち上り、私たちのクリスマス・ダンスパーティーが終わったのでした。

  




 個人的に原作のパーシーが彼女と別れたのってこの時期だと思ってます。

 ロン以外は割と原作に比べてクリスマスをエンジョイ中。セドリックも良い思い出が出来……たはずなんですが、幸せになればなるほど将来が不安視されるなこの人。

 これでダンスパーティー編は終わりです!なんだかんだこの時期の生徒たち思春期で好きなので、ついつい色々と書いてしまった・・・。
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