ハリー・ポッターと灰の魔女   作:アストラマギカ

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※一部に独自設定あり。苦手な方はご注意ください


第34章 ~第2の課題~

 

 湖で開催される第2の課題を見るため、海上油田を掘削するための石油プラットフォームのような外観のタワー型観客席が3つ、ホグワーツの湖の上に浮かんでいました。

 

 

 ハリー以外の選手たちは既に待機しており、それぞれ水着に着替えて軽くウォーミングアップ中。

 

 セドリックは黄色いシャツに黒い短パン型の水着、クラムさんのそれは灰色と赤で、鍛え上げられた筋肉が盛り上がっています。

 そしてフラーさんはシルバーの競泳用水着で、すらっと女性らしい柔らかで曲線的な体のラインが強調されていました。

 

「セドリック、めちゃめちゃイイ身体してるわね……」

「クラムの筋肉すごー」

「知ってはいたけど、水着になるとフラーのスタイル余計にエグいな」

 

 案の定、観客たちによる選手たちの水着品評会が始まり、当然ながら「イレイナはどんな水着なんだろ?」との期待は否が応でも高まります。

 

 そして――。

 

 

「お待たせしました」

 

 

 満を持して私が会場に現れると。

 

 

「「「「「うぉおおおおーーーーー………お?」」」」」

 

 

 わぁっと脊髄反射の如く歓声が響いた後。

 

 

「「「「「あるぇええええええッ!?」」」」」

 

 

 示し合わせたわけでもないのに、仲良く疑問形の叫びに代わっていきます。

 

 

 

「「「「「なんで上着羽織っちゃってんの!?」」」」」

 

 

 

 いや、だって寒いですし。

 

 

 私が着ていたのは、黒のパーカー型ラッシュガードでした。下は同じ黒の水着用レギンスの上から、ボタニカル柄のショートパンツをはいて、全身を隠して完全に防寒モードです。ラッシュガードは裏起毛タイプなので暖かくて保温力があり、冷たい冬の風も気になりません。

 

 むしろ2月の凍えるような寒さの中、水着で湖に飛び込もうなんて方が常識的に考えて普通じゃないと思うのですが、観客の皆さんからは「うるせぇ俺たちの期待を返せ」という無言のブーイングを感じます。困ったものですね。

 

 

 しばらくしてハリーが赤と黒の水着姿で登場すると、解説席にいたバグマンさんが立ち上がりました。

 

 

「――さて、いよいよ第2の課題です!」

 

 

 魔法で拡大されたバグマンさんの声は暗い水面を渡り、スタンドに轟いていきます。

 

「それでは試合が始まる前に、改めて今回の三大魔法学校対抗試合を、少し振り返ってみましょう!」

 

 バグマンさんが指をパチン!と鳴らすと、どこからともなく巨大な透明のヴェールが5枚ほど現れました。

 5枚のヴェールはゆらゆらと揺れながらタワー型観客席の前で停止し、空中にスクリーンのように展開され、そこに映像とテロップが映し出されます。

 

 

 

 700年の歴史を持つ、あの世界最高の試合が――。

 

 

 200年ぶりに、ホグワーツで蘇る―――。

 

 

 ありがちな宣伝文句を合間に挟みつつ、スクリーンに映し出されたのは三大魔法学校対抗試合のPV映像でした。

 

 古い資料映像が徐々に新しい時代の映像へと変化していき、最近のクィディッチ・ワールドカップの試合映像が流れた後に、再び無駄にスタイリッシュなテキストアニメーションが表示されます。

 

 

 伝説の三大魔法学校対抗試合、ここに開催――!

 

 

 暗闇に浮かび上がる荘厳なホグワーツ城に、ペガサスが引くボーバトン校の巨大馬車が大空から飛来し、湖の中からは水しぶきを上げてダームスラング校の帆船が浮上する映像は迫力満点。

 

 続くクラシック音楽ベースのBGMに合わせてボーバトンとダームストラングの生徒たちが大広間に入場し、ダンブルドア校長が対抗試合の開催を宣言すると、炎のゴブレットが青白く燃え上がりました。

 

 

 ――ビクトール・クラム! フラー・デラクール! セドリック・ディゴリー!

 

 

 代表選手たちの名前が次々に読み上げられ、それぞれのキメ顔がアップ。それからポカンとした顔のハリーとドヤ顔の私の顔が同時にコメディ調で映し出され、「そして、何故かいるオブザーバー参加の選手たち……」というテロップが流れたところで、会場がドッと沸きました。

 

 

 続いてクリスマス・ダンスパーティーのきらびやかな映像が流れ、第1の課題でそれぞれの選手がドラゴンと戦うカッコいいショットも流れます。締めは私の作った巨大騎士像がドラゴンを殴る映像のスローモーションで、そこから画面が再び暗転してテキストアニメーションが現れました。

 

 

 

 誰も経験したことのない――。

 

 

 まったく新しい三大魔法学校対抗試合―――。

 

 

 

 ライトアップされた魔法省のロゴがドーンと拡大され、画面がズームアウトすると同時に映し出されたのは、腕組みしながら誇らしげに遠くを見つめるファッジ魔法大臣の横顔でした。

 

 

 

 ―――英国魔法省は、三大魔法学校対抗試合を応援します。

 

 

 

 なんというか、わっかりやすいプロパガンダでした。

 

 

 恐らく、心の清い人間には「200年ぶりに三大魔法学校対抗試合が開催されるんだー、魔法省もスポンサーなんだー」ぐらいにしか映らないでしょう。

 

 しかし心が薄汚れてくると「英国魔法界は三大対抗魔法学校を200年ぶりに再開できるぐらい、平和で繁栄した社会を取り戻したんですよー。これも魔法省とファッジ大臣のお手柄なのです。ワールドカップも開催して凄いですねー。だからシリウス・ブラックとか死喰い人とかの不祥事は脇に置いといて、引き続き魔法省を支持してくださーい」みたいな、現政権の実績アピールが透けて見えてくるわけです。

 

 

 最後は協賛企業ロゴのラッシュで、紋章とかにありがちなリースの中でドヤ顔を決めているロックハート先生が目立つロックハート出版社や、重厚なデザインが特徴のノット・マジック・インスツルメンツ、緑と白の正八角形パラソル柄が印象的なグリーングラス製薬なんかが次々に映し出されます。

 

 

 そして一番後に現れたのが、盾のフレームに銀色で「GM」と書かれたモノグラムがデザインされた、我らがゼネラル・マギティクス社のシンプルなロゴとキャッチコピーでした。

 

 

 ――GMにとって良いことは、魔法界にとっても良いこと。

 

 

 うちの会社、めちゃくちゃ乗っかってますね……。

 

 もっともGM社の強みはベンチャー企業でありながら、魔法省やスリザリン純血名家系の財閥とも太いパイプを持っていることなので、たぶんファーレイ先輩あたりが「次の選挙に向けた準備も必要でしょうし、実績アピールも兼ねてウチの新技術使ってみませんか?」みたいに営業をかけて、他の企業も一緒に巻き込んだのでしょう。

 

 スキャンダルで支持率低迷中の魔法省にとっては良いプロパガンダになりますし、GM社としては新技術と会社のPRに加えて魔法省からお金も貰え、その他の協賛企業にとってもイメージアップの良い宣伝になります。

 

 

 

 ――などと思っていたら、案の定。

 

 

 

「さて、第2の課題は水中で行われるため、代表選手たちの活躍を見られるよう、革新的な魔法道具が導入されました!浮かんでいるカーテン型通信鏡は新進気鋭のGM社で改良され、安心と信頼のノット社で製造されたものです!」

 

 

 さてはバグマンさん、うちの会社とノットの実家からお金を受け取りましたね?

 

 

「そして代表選手の活躍を記録してくれるのが、こちらの撮影用ドローン・スニッチです!」

 

 

 バグマンさんが掲げたそれは、真鍮製のスニッチのようなもの。ただしスニッチと違ってボール部分にはムーディ先生の義眼のような目玉が付いており、魔法道具らしい不気味さがあります。

 

 5羽の撮影ドローン・スニッチは羽ばたきながら私たちの前まで飛んできて、目の前で水中に飛び込みました。すると羽が水分を吸収してふやけ始め、金魚のヒレのように変化して泳ぎ始めたではありませんか。

 

「この撮影用ドローン・スニッチには飛行モードと水中モードの2つがあり、陸でも水の中でも選手たちの活躍をリアルタイムで追跡し、こちらのカーテン型通信鏡にライブ配信してくれます!」

 

 水中を泳ぐヒレのついた目玉……というのは不気味以外の何物でもありませんが、バグマンさんの言う通り5つのカーテン型通信鏡にはそれぞれが撮影している映像が生中継されており、たしかにこれなら観客も臨場感たっぷりに楽しめそうです。

 

「選手たちが水に潜っている間、我々観客はひたすら水面を見つめているだけ……なんてことはありませんので、ご安心ください!」

 

 バグマンさんが冗談めかして言うと観客席から笑いが起こり、一呼吸おいてから再び口を開きました。

 

「では、試合開始前に今回の課題の説明をしましょう! 選手たちはこれから黒い湖に入り、己の勇気と英知を限界まで駆使して試練に立ち向かい、きっちり1時間のうちに奪われたものを取り返すのです!」

 

 再び観客がどよめき、満足そうに笑顔を浮かべるバグマンさん。

 

 

「そして、こちらが奪われたものです!」

 

 

 バグマンさんが指を鳴らすと、5つの通信鏡の映像が切り替わりました。

 

 

 ――水中の柱に、縛り付けられた5人の人質。

 

 

 広場の真ん中では灰色の肌をして暗緑色の髪をした水中人たちが集まっていて、背後には荒削りの巨大な水中人をかたどった石像が立っています。象の尾の部分をよく見ると、そこには魔法で眠らされた6人の人質が繋がれておりました。

 

「ロン!」

「父さん!」

 

 ハリーとセドリックが叫び、フラーはハッと口元を押さえました。視線の先には小さなフラーそっくりの女の子がおり、またクラムさんはハーマイオニーを見つめながら真剣な表情になりました。

 

 そして私の「奪われたもの」はというと。

 

 

「なぜサヤさん……」 

 

 

 呪文で眠らされているようですが、頬が少し染まっていて口元には軽くうすら笑いを浮かべております。まるで人質になって助けてもらいたくてたまらない、といった様子のサヤさんがきっと私の人質なのでしょう。

 

 チラっと審査員の席を見ると、ダンブルドア校長がにこやかに微笑んできました。

 

(たしかに一時的とはいえ、実質的なパートナーにはなっていましたが……)

 

 いいのか、これで。

 

 まぁ、真面目に推理すると私とセドリックという代表選手同士のペア成立のせいで、人質を誰にしようか困った運営が苦肉の策として捻り出したんでしょうけど。

 

(サヤさんは喜んで自分から人質になりそうですし、セドリックのお父さんは魔法省勤めっぽいので、偉い人に「やれ」って言われたら逆らえないでしょうし……)

 

 ちなみに5枚のカーテン型通信鏡の右下には「※本人の同意を得た上で、安全に配慮して撮影しております」と小さなテロップが映り込み、コンプラ的には正解なんですが微妙に緊張感が削がれるような気がしないでもありません。

 

 

「――では、これより試合開始です!いーち……にー……さん!!」

 

 

 ホイッスルが鋭く鳴り響くと、選手たちが一斉に動き始めました。

 

「「エバブリオ・カプト=ウェルム‐泡頭」」

 

 最初に動いたのはセドリックとフラーで、杖を自分の顔に向けるとフェイスベールのようなものが鼻から口を覆っていきます。比較的オーソドックスな「泡頭呪文」で、このフェイスベールから酸素が供給されて水中でも呼吸可能になるのです。

 

 

 対して、クラムさんは上半身をサメに変身させるという、中々に豪快なスタイルで第2の課題に挑むようでした。

 

 ちなみに完全に全身をサメに変身させてしまうと、徐々に自分が人間であることを忘れてしまう上に、元に戻るためには他の魔法使いの助けを借りる必要があります。それを防ぐにはマクゴナガル先生のような「動物もどき」になるしかないのですが、こちらはこちらで習得が難しい上に必ずしも望んだ動物の姿になれるとは限りません。

 

 その点、クラムさんは上半身だけサメに変身することで、人間の思考をギリギリ残しながらも鰓呼吸を可能にしており、ビジュアルさえ気にしなければ独創的で面白い方法です。

 

 

 一方、ハリーの方は何の呪文も唱えないまま湖に飛び込んだので不安だったのですが、しばらくして水中から魚のようにジャンプしてきたハリーの手足にはカエルのような水かきが付いており、耳の下から首にかけてエラらしきものが生えておりました。

 

 

(あー、なるほど‟鰓昆布”という手も…………)

 

 想像したのは、鰓と水かきの生えた自分自身。

 

「…………」

 

 訂正、やっぱり無いですね。泡頭呪文のフェイスベールで口元を隠した私ならミステリアスでセクシーでしょうが、サメ人間と鰓昆布はちょっと美的センスに合いません。

 

 

 ――というわけで。

 

 

「グレイシアス‐氷河となれ」

 

 

 呪文を唱えると湖の表面が見る見るうちに凍っていき、軽めの人間が一人ぐらいなら歩けるような厚さの氷になっていきます。

 

 試しに少し歩いてみると、私の体重が軽いおかげもあって割れる様子はありません。なので杖を自分の少し手前に向けて湖の表面を凍らせながら、即席で作った氷の道を悠々とビーチサンダルで歩いていく私。

 

 

「「「イレイナ、めっちゃ地味!?」」」

 

 

 スリザリン寮の応援席にいたミリセントたちから煽りが飛んできますが、目的の為には手段など選んでられません。いつもスリザリン談話室の窓から湖の様子を見ていた私は、ここがどれだけ危険かをよく知っているのです。

 

(場所によっては水草がいっぱい生えてて絡まると危ないですし、水中は寒い上に暗くて視界悪いですし、水魔とか大イカとかいますし……)

 

 どうやら最終的には潜らないと「奪われたもの」は取り戻せない様子ですが、なにも最初から水の中に潜る必要はありません。

 そこで最初は安全な水上で捜索を行い、ある程度の当たりをつけてから、最後だけ潜るのが私の作戦でした。

 

 

(気分的にサヤさんを助けに行くのはイマイチ気が乗らないのですが……幸か不幸か探しやすくはあるんですよね)

 

 ラッシュガードのファスナーを少し下ろして、私は首にかけていたペンダントを取り出しました。例のクリスマス・ダンスパーティーの時に、サヤさんからもらったお揃いのものです。

 

 

「アベンジグイム‐追跡せよ」

 

 

 対象物が元あったところまで追跡する呪文をかけると、磁石で引き寄せられるようにしてペンダントが特定の方向を指しました。

 元はサヤさんから貰ったペンダントなので、これを追っていけばサヤさんのいるところまで最短コースでたどり着けるはずです。

 

 

 そんなわけで私はペンダントの示す方角に従い、湖の表面を凍らせて氷の道を作りながらのんびりと歩いていきました。

 

 しばらくすると観客席の方が騒がしくなり、少し耳を澄ませて聞くとフラーさんが水魔に襲われて脱落したというニュースが入ってきます。なんとまぁ。

 

 

 **

 

 

 そして観客席からだいぶ遠ざかったころ、ペンダントが下に向かって引き寄せられるような動きに変わりました。どうやら、この下にサヤさんがいるようです。

 

「では、私も潜るとしますか」

 

 杖を構えると、私の周りを飛んでいた例の撮影用ドローン・スニッチが前にやってきてスタンバイ(他の選手と違って私は水中移動をしていないため、飛行モードに切り替わっています)。

 

 ここでフラーさんたちと同じように頭泡呪文を使っても良かったのですが、観客の目や独創的な魔法を使った方が高得点であることを意識して、私は別の呪文を唱えました。

 

 

「プロテゴ・インパービアス‐防水の守り」

 

 

 杖先から透明な被膜が球体バリアのように展開され、私の周囲をすっぽりと包んでいきます。効果を防水に限定した「盾の呪文」の亜種で、さながらウォーターバルーンのよう。

 

 そのままだと動けないので、さらに続けて呪文を唱えていきます。

 

「ディセンディウム‐降下!」

 

 今回は潜水するだけなので降下の呪文を唱えましたが、一応「ウィンガーディアム・レヴィオーサ‐浮遊せよ」を使えば水中でも自在に動けたりもします。もっとも移動速度は遅めなので、水上移動が可能であれば目的地に着いてから潜水した方が時間はかかりません。

 

「ルーモス‐光よ」

 

 あと水中だと見えづらいので光を灯しながら潜水していくと、ややあって水中人の石像に縛られた人質たちの姿が見えてきました。

 

 人質が縛られている場所は広場のようになっていて、周囲には洞窟を削った荒削りな水中人の家が立ち並び、大勢の水中人がたむろしておりました。家の周りには水草の庭があったり、ドアの外に水魔グリンデローをペットにして杭につないであったりします。

 

(そういえばスリザリン談話室の窓から水中人を見たことはありましたけど、彼らの家を見るのは初めてでしたね)

 

 灰色の肌に暗緑色の髪をした水中人たちの目は黄色く、あちこち欠けた黄色い歯をむき出しにして私を眺めながらヒソヒソと立ち話をしていました。広場周辺にも大勢の水中人たちが監視するように槍を構えていて、不気味な声でコーラスを歌っています。

 

 

 

 そのまま人質の方に近づくと、6人とも縛られたままでした。どうやら私が一番乗りのようです。

 

(さてと……)

 

 サヤさんの前まで近づき、防水被膜から杖の先っぽだけを出して呪文を唱えました。

 

「ディフィンド‐裂けよ!」

 

 サヤさんを縛っていた縄を切って抱きかかえたところで、水かきを生やしたハリーが近づいてくるのが見えました。

 

 ハリーの方も私の姿を見つけたらしく、軽く手を挙げて挨拶してきます。いつもなら二言三言ほど話しかける場面なのですが、今回は試合なので手短に会釈だけしてお先に失礼する私。

 

 

「アセンディオ-昇れ!」

 

 特に水中人から妨害を受ける事もなく浮上していき、私とサヤさんが水面から顔を出すと観客席で歓声が上がるのが聞こえました。

 

「やったぞ! イレイナが一番だ!」

 

 ドラコ・マルフォイの声を皮切りに、皆さんが叫んだりきゃーきゃーと黄色い悲鳴をあげたり、もっとよく見ようと立ち上がったりしています。

 

 と、そこでサヤさんが目を覚ましました。

 

「あ……」

 

 サヤさんは目を開けてから私を見て、「えへへぇ」とだらしなく表情を緩めました。

 

「イレイナさん、ボクのこと助けに来てくれたんですね!」

 

 そりゃまぁ、そういう試合ですし。

 

「しかも一番乗りですし、やっぱりボクのこと――」

「とりあえず私から離れて、さっさとそこの氷の上に上がってください」

「やです!ボクはもう一生イレイナさんから離れませーん!」

「スネイプ先生に言いつけますよ?」

 

 やっとのことで離れてくれました。さすがスネイプ先生、こういう時頼りになります。

 

 

 しばらくするとセドリックも父親を連れて浮上し、少し遅れてハーマイオニーを抱えたクラムさんも水面に上がってきました。

 

 

 

 ところが、ハリーだけが一向に戻ってきません。

 

 

 

 私は「あれ?」と首を傾げました。

 

「おかしいですね……ハリーの方が先に到着してたような」

 

 セドリックとクラムさんに聞いてみると、どうやらハリーはロンだけでなく他の人質も助けようとしているようだった、とのこと。

 どうやら水中人の歌を真に受けてしまっているようです。

 

「真面目というか何というか……魔法省的にも死者は出せないでしょうし、丁寧に安全配慮済みのテロップまで表示されていたのに」

「あれ、そんなのあったっけ?」

「右下の方に小さく表示されてましたけど」

「ごめん、父さんに気を取られて見てなかったかも」

 

 恥ずかしそうに頬をかくセドリック。

 

 人質がサヤさんだったせいで妙に冷静だった私と違い、他の代表選手たちは少なからず動揺していたみたいです。

 ハリーも興奮すると周りが見えなくなるところありますし、フラーさんが脱落したことも知らないので、このままだと人質が水中人に殺されてしまうと思ったようでした。

 

 

 案の定、耳を澄ませば観客席でバグマンさんが驚いたように解説する声が聞こえてきます。

 

「おっと、ハリー・ポッター選手……これはどういう事でしょうか?」

「ドローン・スニッチの中継映像を見たところ、デラクールさんの人質を助けようとしているみたいですね。ですが、水中人に他の人質を助けることは禁じるよう依頼しているので、妨害を受けてしまっているようです」

 

 フラン先生の解説を受けて、バグマンさんが「なんという事でしょう!」と叫びました。

 

「見てください! ハリー・ポッター選手は自分の点数を捨ててまで、見ず知らずの他人を助けようとしているのです!」

 

 ハリーの英雄的な行為にグリフィンドールから歓声があがり、他の寮に加えてボーバトンやダームストラングにもハリーを応援する声が広がっていきます。

 

 

(おや、この流れは……)

 

 

 チラッとセドリックを見ると、向こうも「わかった」と無言でアイコンタクト。続けてクラムさんに顔を向けると、こちらも準備万端だと言わんばかりに頷いています。

 

「………」

 

 そして私たちは互いに顔を見合わせ、再び湖に飛び込みました。その様子は撮影用ドローン・スニッチを通じてカーテン型通信鏡にリアルタイムで中継され、再びバグマンさんが叫びました。

 

 

「――なんということでしょう!ポッター選手の行動を見て、代表選手たちまでもが次々と危険を顧みず再び湖に飛び込んでいます!」

 

 フラン先生も「あらあら」と嬉しそうな声をあげて、「若い生徒たちの友情っていいですねぇ」と微笑んでいます。

 

 

 かくして私とセドリックにクラムさんの3人は、再び武装した水中人たちの待ち構える水中広場に降り立ちました。

 ここは感動する場面なので、様式美に乗っかった姑息な点数稼ぎとか言ってはいけません。

 

 

「~~~!?」

 

 

 戻ってきた私たちの姿を見て、ハリーが驚いたように目を見開きました。次いで「みんな!?」とか「戻ってきてくれたんだ!」的なことを言おうとしたっぽいのですが、水中ゆえ泡になってしまって聞こえないのが残念でなりません。

 

 突如として割り込んできた3人の代表選手を見て、水中人たちも私たちの意図に感づいたようでした。

 

『自分の人質だけを連れていけ!』

 

 憤怒の形相になり、荒々しく槍を突き出して妨害しようとしてきます。しかし、それより早くセドリックと私が呪文を唱えました。

 

「インペディメンタ‐妨害せよ!」

「エクスペリア―ムス‐武器よ去れ!」

 

 妨害呪文で相手の動きを邪魔したり、水中人が武器にしている槍を吹き飛ばす私たち。上半身だけサメの姿になったクラムさんも鋭い牙で水中人を威嚇すると、水中人は悔しそうな表情を浮かべて去っていきます。

 

 散り散りになっていく水中人たちの後ろ姿に、セドリックはホッとしたような表情を浮かべて。

 

「ふぅ……なんとか追い払えたね。みんな無事でよかったよ」

「あの、安全圏に退避する前にそういう発言は控えた方が……」

 

 何とも言えない不安を感じてセドリックをたしなめる私でしたが、残念ながら世の中は悪い予想ほど的中するものです。

 

 水中人たちが去っていった方向から、何やら黒いものが近づいてきました。それは見る見るうちに大きくなっていき、すごいスピードで急速接近してきます。

 

 

「グリンデローだ!」

 

 

 ほーら、言わんこっちゃない。

 

 現れたのは、水魔グリンデローの大群でした。グリンデローたちは薄緑色の肌をした全長150cm程の魔法生物で、獲物を絞め殺すために使う長い指とタコのような下半身が特徴です。

 

「セドリックとクラムさんは、ハリーたちをお願いします」

「グリンデローは?」

「私に任せてください」

 

 セドリックは少しだけ心配そうな顔になりましたが、すぐ「無理はしないでね」と切り替えてハリーたちの方へ泳ぎ去っていきました。クラムさんもそれに続き、4人で水中からの脱出を図ります。

 

 

 そして殿をつとめることになった私は不敵な笑みを浮かべると、「防水の護り」で作り出した防水被膜から杖先を突き出して呪文を唱えました。

 

 

「コンフリンゴ・マキシマ‐大爆発!」

 

 

 爆発呪文はグリンデローの手前で爆発し、強力な衝撃波とバブルバルスを引き起こしました。

 

 水中では空気中よりも衝撃の威力が大きくなる上、水中爆発によって泡を形成されるとガス圧と水圧が膨張と収縮を繰り返すバブルバルスという現象が発生したりします。

 潜水艦を撃沈するための爆雷はこうした物理現象を利用した兵器であり、それに比べれば控えめですがグリンデローたちに対しては効果てきめんでした。

 

 グリンデローたちは爆雷のごとく水中でさく裂する爆破呪文を恐れて及び腰になり、そうこうしている内にハリーたちが水面に浮上。襲う理由が無くなったことで退散していきました。

 

 

 

 ――こうして「第2の課題」は終了し、観客席に戻った私を待っていたのは大歓声でした。

 

 

「イレイナ選手が戻ってきました! 襲い来る無数の水魔に一歩も引かず、最後まで友人たちを守る盾となった彼女にも盛大な拍手を!」

 

 バグマンさんの声で観衆が大騒ぎする中、私の前に現れたのはフラー・デラクールさんでした。

 

「あなたも、妹を助けてくれました」

 

 フラーさんは声を詰まらせ、ゆっくりと近づいてきました。

 

「あなたの()とじちではなかったのに――()ルプしてくれました」

「まぁ、それほどでもありますよ」

 

 すると次の瞬間、フラーさんが私の上に屈みこんできて。

 

 

 ふにっ。

 

 

 両頬に、ぷっくりとした唇の柔らかい感触が触れたのでした。

 

 

 

「「「「「うぉぉおおおおおおおおおおおーーーーーッ!!?」」」」

 

 

 

 今までで一番大きい、まるで湖が爆発したかのような大歓声が上がりました。

 

 

「あああああああああああああああっ!?」

 

 

 続けて、サヤさんの断末魔の悲鳴。

 

 

 

 既に充分過ぎるほどの大騒ぎなのですが、残念ながら話はこれで終わりではありませんでした。

 

 

 

 がしゃっ!

 

 

 

 シャッター音とストロボがボンッ!と爆発する音に驚いて振り返れば、そこには目を輝かせたリータ・スキーターさんとカメラマンの姿まで。

 

「ボゾ、今のしっかり撮ったざんすか?」

「もちろんでさぁ!」

 

 リータさんは嫌らしい笑顔を浮かべ、にんまりと口元を歪めてこう言ったのでした。

 

 

「ふふふ、美少女2人のキス……明日のトップニュースを飾る、いい絵が撮れたざんす!」

  




 クラムのサメ人間ですが、自分が調べた感じだと

・動物もどき・・・人間の思考は維持。自力で元に戻れる。変身対象は固定
・変身術・・・・・人間の思考を失う。自力では戻れない。変身対象は任意

 という感じだったので、たぶん使ったのは変身術と推測。一部だけサメだったのは原作ハリーは単に不完全な変身術だと言っていましたが、変身術で失敗するのは危険極まりないというような話もあったので、本作ではその説は採用しませんでした。
 代わりに本作では敢えてクラムが不完全な変身に留めることで、デメリットである「人間の思考喪失」「自力で元に戻れない」を緩和したという設定です。

 
カーテン型通信鏡
・イメージ的にはファンタビ3作目の選挙を、各国魔法省で中継してたスクリーンみたいな感じ。

撮影用ドローン・スニッチ
 スニッチのボール部分がムーディの義眼みたいになっている、魔法の動く撮影用ドローン。水中だと羽がふやけてヒレになる。技術的には「両面鏡」と「万眼鏡」の応用で、義眼部分に映っている映像を上述の通信鏡にライブ配信する。
 
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