ハリー・ポッターと灰の魔女 作:アストラマギカ
※後半、かなりダークな展開になるので苦手な方はご注意ください。
第2の課題を終えた後、ホグワーツは試合そっちのけで別の話題で持ちきりでした。
「イレイナ試合よかったよー」
「ね!ね!それで、フラーと付き合うの!?」
「浮気かー? 二股かー?」
「羨ましいぞー、このこの~」
私の頬をつんつんしてくるトレイシー・デイビスさんの手にあったのは、日刊預言者新聞でした。トップ記事にはフラーさんが私の頬にキスしている写真がでかでかと載せられ、見ようによっては熱いキスをしているように見えなくもありません。
「ちゃんと試合の記事を読んでくれませんかね……?」
「いや、試合は生で見たから別にもういいし」
「それな。ぶっちゃけイレイナの恋路の方が気になる」
ジト目で返すも、パンジーやミリセントたちはニヤニヤ笑ってからかうばかりで、止めようとするどころか積極的にネタにしてイジるつもりのようです。まったく、これだからスリザリンは。
「私はハーレムもアリだと思うよ?」
「あはは、女の敵だー♪」
「男もいるじゃん」
「じゃあ全人類の敵?」
「つよそうw」
もっとも嫌味な感じや本気にしている様子はないので、こちらも真面目に相手しないで「訴訟も辞さない」などと適当に受け流すのが、大人の対応というものでしょう。
一応、記事そのものに嘘は書かれておらず、せいぜい妹を助けてもらったフラーが感極まって感謝のキスをした、という匂わせ程度のもの。
むしろ私の扱いはハリーの次に好意的で、記事の中ではセドリックやクラムさんを差し置いて「ホグワーツ1の美少女、親友ハリー・ポッターの危機に駆けつける!」などと持ち上げられているなど、ゴシップ記者なりに敵に回す相手は選んでいるようでした。
しかし、裏を返せば酷い扱いを受けている人もいるわけでして。
「そういえば、次の授業なんだけっけ?」
「魔法生物飼育学ですよ」
パンジーの質問に私が答えると、ダフネがぱぁっと目を輝かせました。
「やたっ! 今日やっとユニコーンにエサあげられるんでしょ!?楽しみー」
「まさか魔法生物飼育学を楽しみにする日が来るなんてなぁ」
「やっぱグラブリー=プランク先生しか勝たん」
「少なくとも森番はダメでしょ」
リータさんの被害を一番受けているのは、『魔法生物飼育学』を教えているルビウス・ハグリッドでした。「日刊預言者新聞」に書かれた中傷記事のせいで、小屋に引きこもるほどのメンタルヘルス不調を起こしています。
ところがハグリッドの代理で雇われたグラブリー=プランクという壮年の魔女の授業レベルが高かったため、スリザリンでは「仕方のない犠牲」としてハグリッドを切り捨てる声がほとんどでした。
「いっそこのまま卒業まで、ずっとグラブリー=プランク先生が教えてくれればいいのに」
「ハグリッドは?」
「元の森番に戻ればよくない? そもそも分不相応な職を手に入れたのだって、どうせダンブルドアのコネでしょ」
「実際、それに近い形になりそうだぞ」
パンジーとダフネの会話に口を挟んできたドラコが手にしたのは、今朝の「日刊預言者新聞」でした。
―――ダンブルドアの「巨大な」過ち、正常化へ。
割とまともっぽいタイトルに引かれて中身を読むと、なかなか興味深い展開が書かれておりました。
――――――――――――――――――――――――
本紙の特派員、リータ・スキーターの告発記事を受けて、ホグワーツ理事会は『魔法生物飼育学』の実態調査に乗り出した。
同授業を担当するルビウス・ハグリッド教授は3年生の時にホグワーツを退校処分となり、それ以降はダンブルドアのコネを使って森番としての職を享受してきた。ところが森番の職に飽き足らず、あまたの適任候補を尻目に『魔法生物飼育学』教授の座を射止めてしまったのだ。
「僕は去年、ヒッポグリフに襲われて大怪我をしました。でも、その反省が全く生かされていないようで残念です」
4年生のドラコ・マルフォイが深い失望をあらわにするのも無理はない。
先月、記者の取材に対してハグリッドは『尻尾爆発スクリュート』と命名した危険極まりない魔法生物を飼育していると認めた。魔法生物の新種を作り出すことは、周知のとおり「魔法生物規制管理部」が常日頃厳しく監視している行為だ。
さらに、この『尻尾爆発スクリュート』なる生物は、魔法省分類で最高レベルの危険度XXXXXの魔法生物であるマンティコアと危険度XXXの火蟹を掛け合わせた魔法生物なのだ。生徒たちの安全について十分な配慮がなされているのか質問したところ、ハグリッド教授は「俺はただ、ちょいと楽しんでいるだけだ」と言って慌てて話題を変えた。
ここまで読んだ読者の中には、「親の顔が見てみたい」と思った者もいるだろう。
この件について本紙が掴んだ情報によれば、なんとハグリッドの母親は巨人フリドウルファだという。ハグリッド教授は純血の魔法使いのフリをしてきたが、そもそも純粋なヒトですらなかったのだ。
血に飢えた凶暴な巨人たちは全盛期に仲間同士で殺し合い、その生き残りが「例のあの人」に与して、マグル大量殺戮に関わったことは未だ記憶に新しい。ハグリッド教授の遵法意識の欠如や危険を楽しむ傾向は、凶暴な先祖の性質を受け継いでいる可能性がある。
―――――――――――――――――――――
中々に判断の難しい記事でした。嘘は言っていませんが、かといって真実を全て語っているわけでもありません。リータさんの悪意は感じますが、ハグリッドの方も叩いてホコリの出ない人物というわけでもないという。
―――――――――――――――――――――
本紙が明らかにした数々の不祥事に関する指摘、および保護者からの不安の声を受け、ついにホグワーツ理事会も事態の収拾に動いた。
ダイアナ・パーキンソン理事長はダンブルドア校長を理事会に召喚し、数々の鋭い追及を行い、答弁は十数時間に及んだ。最終的にダンブルドア校長は「ハグリッド教授は森番との兼務による業務過多にあり、安全管理等の徹底が不十分であった」と監督不行き届きの事実を認めた。
「今後は業務量を考慮して追加の人員を手配し、生徒たちの安全に最大限配慮すると共に、法令遵守の徹底にも積極的に取り組んでいく」
ダンブルドア校長は臨時職員として雇用中のグラブリー=プランク教授を正規職員に昇格させると共に、来週から復帰予定のハグリッドの補助に付けることを決定した。
こうした不祥事を全て「森番との兼務による業務過多によるもの」と決めつけて僅かな停職処分のみで済ませる姿勢には不安も残るが、長らく“聖域”と化していたホグワーツに外部監査の目が入るようになったことで、ひとまず保護者達は胸を撫で下ろしているようだ。
また、「魔法生物規制管理部」の職員エイモス・ディゴリーはホグワーツで立ち入り検査を行い、『尻尾爆発スクリュート』の危険性について報告をまとめた。
同報告書は『尻尾爆発スクリュート』について「危険度XXXX」との評価を下し、「学生の手には余る」と結論づけられた。これを受けてホグワーツで飼育中の『尻尾爆発スクリュート』は、全て魔法省の管理下に置かれることが決定された。
しかし、ハグリッドが意図的に危険な魔法生物を作り出した疑惑については証拠不十分とされ、ディゴリー職員は「あくまで偶発的な交配による新種の誕生であり、生徒たちに危害を加えようという悪意はみられない」というダンブルドア校長の主張を渋々ながら受け入れた。
ただし、今後は二度とこのような“偶然”が発生しないよう、魔法生物を厳重に管理するよう是正勧告を行った。
一方、ハグリッドが半巨人である可能性についての事実確認を求める理事会の要請に関して、ダンブルドア校長は「個人情報保護の観点から開示請求は認められない」と一蹴した。
――――――――――――――――――――――――
結論をまとめると、「ハグリッドの問題行為には目を瞑る代わりに、グラブリー=プランク先生を正規雇用させて授業を改善させる」という内容で妥協したようでした。
(まぁ、ベストではないにせよ、ベターな結果に落ち着いたんじゃないんでしょうか)
ところが、ホッと胸を撫で下ろしたのも束の間。ハグリッドネタが不完全燃焼に終わるや否や、リータさんはすぐさま次の爆弾を放り込んできました。
***
3月に入って少しずつ雪も解けてきた頃、暖かさを通り越して大炎上するような事件が発生しました。
「来た、来た!」
ハリーたち3人トリオが近づいてくるなり、パンジーがクスクスと笑って『週刊魔女』を取り出しました。
「あなたの関心がありそうな記事が載ってるわよ、グレンジャー!」
「何よ、魔法省が屋敷しもべ妖精の権利保護に力を入れたとか?」
「そんなことより、もっと楽しい話題よ」
―――ハリー・ポッターの密やかな胸の痛み。
内容は、要するにハーマイオニーが『愛の妙薬』を盛って、ハリーとクラムさんを天秤にかけている、というようなものでした。
「あの女……!」
記事をじっと見て居るハーマイオニーに、ロンが歯ぎしりしながら言いました。
「君のことを、まるで緋色のおべべ扱いだ!」
一瞬の沈黙の後、ハリーたちの反応を窺っていたスリザリン生が爆笑し、ハーマイオニーまでもが体を震わせて笑いを堪えていました。
「緋色のおべべ?」
「……ママがそう呼ぶんだ。その手の女の人を」
ロンが耳を真っ赤にしてボソボソ呟くと、ミリセントがニヤッと笑って隣にいたトレイシー・デイビスさんを小突きます。
「だってさ。トレイシー、仲間が増えて良かったじゃん」
「おっ、いいね。ハーマイオニー、この機会にバンドでも組む?」
「バンド名は?」
「『Scarlet Women』」
「残念、音楽性の違いで解散よ」
ハーマイオニーが澄ました顔で流すと、トレイシーも嬉しそうに「わかってるねー」とまるで昔からの友達みたいな口調で返しました。
最近はハーマイオニーも少しずつ煽り耐性がついてきて、スリザリン生とも普通にコミュニケーションが取れるようになり、スリザリン生の方も「クラムのパートナー」ということで一目置くようになってきているようです。
もっとも、それはホグワーツにいて顔を合わせているからの話。外部の人間にはそんなことまで伝わるはずもありません。
数日後、いつになく沢山のフクロウがグリフィンドールのテーブルにやってきたかと思うと、大量の封筒をハーマイオニーの上に爆撃していきました。驚いた彼女が封筒を開けると、そこに書かれていたのは――。
『勘違いカス女じゃん』
『ハリーとクラムが可哀そう過ぎる』
『ブスのくせに調子乗っててイタい』
『顔からしてヤ〇マン』
『わざわざ魔法界まで荒しに来てて迷惑過ぎ』
『マグルの世界に帰って、どうぞ』
見事なまでの大炎上、誹謗中傷の嵐でした。
しかもフクロウ便で次々に送られる怪文書の中には、封筒を開いた途端に濃縮した『腫れ草』が噴き出して両手が出来物だらけになるものまで。
「だから言ったんだ!」
ロンが激高しました。
「リータ・スキーターみたいなゴシップ記者も、こんな怪文書を送ってくる読者も、みんな頭がおかしいんだ!」
つかつかとスリザリンのテーブルまでやってきたロンは、パンジーを凄い剣幕で睨みつけました。記事の中ではパンジーのインタビューも紹介されており、『愛の妙薬でも使ったんじゃない?』という発言が炎上の一因となったことは否定できません。
「わた、私のせいじゃない!普通、こんなの冗談って分かるでしょう!? 」
青い顔で後ずさりながらも、必死に責任逃れを図るパンジー。
「私は悪くないし! 発言を切り取ったスキーターと、真に受ける読者が悪いのよ!」
しかしパンジーの弁明は火に油を注ぐ結果となり、ロンはカンカンになって怒鳴りました。
「自分がハーマイオニーみたいな目に遭っても、そんな他人事みたいに言えるのかよ!?」
「やめろ、ウィーズリー。お前こそ他人のくせに当事者ぶるな」
涙目になったパンジーを見かねたドラコが間に入るも、事態はどんどんヒートアップ。
「なんだよマルフォイ、そっちこそ他人だろ!」
「いやパンジーと付き合ってるが?」
「え、それはおめでた――って、そういう問題じゃない!いくら付き合ってても、良いことと悪いことの分別ぐらい付けろよ!」
「僕が諭すならともかく、お前みたいな赤の他人が偉そうに説教するなと言っているんだ」
「いったい何の話をしているんですか!?」
放っておくと議論が迷子になりそうだったので、これ以上の悪化を食い止めるべく仲裁に入る私。
「とりあえず、ドラコはパンジーと一緒に少し離れてください。あとパンジーとドラコ、ようやく付き合い出したんですね。おめでとうございます」
こんな事態でなければ盛大にお祝いするところですが、状況が状況なだけに2人には先に寮へ帰ってもらいます。
それから私は、送られてきた怪文書を暖炉に投げ捨てようとしていたハリーにストップをかけました。
「ハリー、待ってください。重要な証拠になるので、燃やさずに保管しないと。それと――」
今度はハーマイオニーに向き直ります。
「医務室に向かう前に、証拠写真を撮影させてください」
ハーマイオニーの両手は大きな黄色い腫物でブツブツに膨れ上がっており、分厚いボコボコの手袋のようになっておりました。
「いや、私……こんな手、見られたくない……」
「あ、今の表情いいですね」
「………」
出来るだけ痛々しい被害者に見えるよう、私は写真を何度も撮り続けました。
**
写真を撮ってから、ハーマイオニーを医務室まで見送った後、私はほくそ笑みました。
「さて、これだけ証拠があれば裁判は起こせそうですね」
「そうこなくっちゃ!」
ロンが手を叩きました。
「これでスキーターもアズカバン行きだ!」
「そこまでは言ってません」
というより、と続ける私。
「今回の場合、そもそも罪には問うのは難しいと思います」
「嘘だろ!? ハーマイオニーがあんな目に遭ったのに!?」
残念ですが、ハーマイオニーに直接危害を加えたのはリータさんではなく、不特定多数の読者です。独裁国家の秘密警察であれば不特定多数の読者をしらみつぶしに逮捕できるかもしれませんが、魔法省にはそこまでの権限はありませんし。
リータさんにしても直接危害を加えたりそれを指示したわけでもなく、『週刊魔女』の購入を読者に強制したわけでもありません。読者に対して強制力を行使していない以上、ほう助の罪に問うのは難しいのが現状です。
「ほう助の概念は曖昧ですし、拡大解釈されると様々な行為が犯罪になりかねませんからね」
例えば、営業熱心な店員が貧乏人に売りつけた刃物が強盗殺人に使われた場合などに、結果論で「貧しくて強盗するリスクが高そうな相手にもかかわらず、積極的に包丁を売りつけていたのは、強盗殺人を教唆・ほう助する意図があったのではないか?」と罪に問われかねない危険があります。
ロンは不満げに言いました。
「だったら、何のために訴えるんだ?」
「バッシングを止めるために決まってるじゃないですか」
大がかりな裁判を起こせば、少なくとも世間の注目は集まります。そこで例の記事が事実無根であることを世間に周知させれば、少なくともハーマイオニーに対する誹謗中傷は止まるでしょう。
「じゃあ、スキーターや手紙を送ってきた連中は野放しってことかい?」
「残念ですが、世の中そう簡単に全ての問題は解決しませんよ」
むしろ一気に解決しようとすると、かつての『屋敷しもべ妖精福祉振興協会』のように過激化して、別のトラブルを引き起こしかねませんし。
「でも、それだと何も変わらないかもしれないじゃないか」
「そこなんですよねぇ……」
理想主義に走り過ぎて暴走しがちなグリフィンドール式改革に対して、保守的なスリザリン式改革は慎重過ぎるあまり「やった感だけ出して、何も変わってない」こともしばしば。
裁判はお母さんに頼めば負けることは無いと思いますが、果たしてどこまで魔法省が動いてくれるか。
(時間と資金と人手がもっとあれば、ロックハート先生の会社やGM社で独自のメディアを立ち上げるという案もあったんですが……)
さすがに現状では、そこまでの余裕はありませんし。
(とりあえず、困った時にはその道の知り合いに相談しましょう)
スリザリンの良い点のひとつは、エリートの寮なだけあって政財界にやたらとコネが利くというところ。かくいう私も経済界であれば元・監督生のジェマ・ファーレイ先輩、魔法省であれば元・クィディッチチーム・キャプテンのマーカス・フリント先輩といった頼れるOBがいるのです。
―――というわけで。
さっそく魔法警察に勤めるフリント先輩に「この手のマスメディア対策に熱心で、権力めっちゃ持ってそうな知り合いっていたりしますか?」などと聞いてみたところ、「任せておけ」と心強い返事が。
「実はな、リータ・スキーターがあまりにスキャンダルをすっぱ抜くもんだから、魔法省の方でも対策に躍起になっていてな。例の『週刊魔女』の事件を話したら、なんと魔法大臣上級次官が直々に全面協力してくれるそうだ」
「ま、魔法大臣上級次官……!」
まさかの超大物でした。
上級次官というのはマグルで言う事務次官のようなもので、大臣に次ぐ権力者です。これは海老で鯛を釣るどころか、クジラを釣り上げたようなものじゃないでしょうか。
かくして1週間後、私の前に現れたのは、けばけばしいピンク色の服に身を包んだ、ガマガエルのような魔女でした。彼女はいったい誰でしょう?
そう――。
「初めまして、お嬢ちゃん―――わたくしは、ドローレス・ジェーン・アンブリッジ!魔法大臣上級次官です!」
***
アンブリッジ上級次官の行動は迅速でした。
「リータ・スキーターの件は魔法省に任せてちょうだい。編集長のバーナバス・カッフはご存じ? わたくし、あの人には伝手がありまして……」
さっそく日刊預言者新聞に働きかけて、今回の事件を大きく取り上げる記事を寄稿したのです。
『振りかざされる“報道の自由”について問う ~行き過ぎた売り上げ至上主義が引き起こした悲劇~』
一面には涙ぐむハーマイオニーの写真に加え、怪文書の中傷コメントや腫れあがった手の写真などが掲載され、見る人の注意を誘うショッキングな内容でした。
「学校で大人に守られるべき子供たちが、このような世間の悪意に晒され、あまつさえ『腫れ草』を吹きかけられるような危険な目に遭ってよいのでしょうか?」
いたいけな14歳の美少女がゴシップの対象となり、心ないコメントで徹底的にバッシングされ、『腫れ草』によって精神的のみならず肉体的苦痛を受けたというニュースは、瞬く間に魔法界に衝撃を与えました。もちろん、悪い意味で。
「長らくマスメディアは“表現の自由”を盾に、然るべき適切なルールを設けるべきという魔法省の提案を、ことごとく撥ねつけてきました。ですが、その“表現の自由”によって今回のような悲劇が起きているのだとしたら、それは果たして誰を守るための権利なのでしょうか?」
アンブリッジ上級次官の寄稿記事は多くの反響を呼び、大勢の人が哀れな被害者であるハーマイオニーに深く同情しました。同時に、無責任な記事を書いたリータさんや『週刊魔女』に対しては激しい憤りをあらわにし、問い合わせの手紙が殺到していると聞きます。
そして寄稿記事の最後には、こう記述されていました。
「このような悲劇を二度と引き起こさないよう、わたくしは4つの提案をいたします。
1つ、『侮辱罪』への罰則を強化し、個人に対する誹謗中傷に対して重い罰則を加えます。
2つ、『情報開示請求』法を改革し、匿名の手紙を特定できるよう捜査権限を警察に与えます。
3つ、『虚偽報道規制法』を制定し、悪質なメディアまたは個人の記事を速やかに差し止めます。
4つ、『懲罰的損害賠償』を強化し、将来の同様の加害行為を防止するべく追加制裁を可能にします。
表現の自由は重要ですが、他者への人権侵害の恐れがある場合、権利の制限を認めることは公共の福祉に反しません。子供たちが安心して暮らせるよう、魔法省には悪質なメディアを規制する責任があるのではないでしょうか?」
もちろんリータさんも、黙ってやられているばかりではありません。すぐに『週刊魔女』に反論記事を掲載し、「アンブリッジ上級次官の提案は事実上の検閲制度で、魔法省に都合が悪いスキャンダルは揉み消されることになる!」と指摘しましたが、世論から「どの口が言うてんねん」と大バッシングを受ける結果となりました。
もともと、多方面から恨みを買っていたのでしょう。ハグリッドやハーマイオニーの時よりもバッシングはずっと激しく、最後の方は私はもちろんアンブリッジ上級次官でさえコントロール不能なぐらい、リータさんは燃えまくっていました。
『週刊魔女』はこの騒動で発行部数が大きく低下し、大規模なリストラの一環でリータ・スキーターさんもクビになり、「日刊預言者新聞」の職も「自主退職」せざるを得ない状況に追い込まれたそうです。
「………」
しかし、どういうわけか私の心は晴れませんでした。
ゴシップ記事が一掃されたという意味では、きっと良い変化なのでしょう。リータさんにしても、自業自得といえばそれまでのこと。
それでも不思議と、ときおり胸に一抹の不安がよぎることがあるのです。
私たちは何を得て、何を失ったのか――と。
前回から間が空いて失礼いたしました(汗)
イレイナさん、痛恨の人選ミス……! まぁ、ヤバい独裁者も権力の座に着くまでは割とマトモっぽいこと言ってて大勢の支持を得ていた、とかもっとヤバい奴がいて相対的にマシに見えてた、みたいなのはたまによくある話。
「地獄への道は善意で舗装されている」とは言いますが、フェイクニュースメディアを叩き潰した魔法省が来年度以降、どんな理想郷を築いているか楽しみになりますね(ニッコリ)