ハリー・ポッターと灰の魔女   作:アストラマギカ

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第11章 ~トロールの侵入~

              

 クィレル先生の衝撃的な発言により、広間はカオスに陥っていました。

 

 トロールは最大で4メートルほど、体重は1トン近くある巨人の一種のような魔法生物。気性が荒く、桁外れの馬鹿力と、硬い皮膚で暴れると危険極まりありません。知能は低いようですが、逆にいえば身の危険も顧みず襲い掛かってくる危険もあるわけです。

 

 当然ながら、生徒たちは恐怖に飲み込まれて大混乱。ついさっきまでハロウィン気分だった顔は恐怖で染まり、悲鳴を上げながら右往左往しています。

 

 

「しーずーまーれー!!」

 

 

 事態を収拾したのは、ダンブルドア校長の大音量でした。さすが20世紀で最も偉大な魔法使いと言われるだけの事はあります。騒がしかった大広間は一瞬で静まり返り、ダンブルドア校長に視線が集まっていきます。

 

「監督生は自分の寮の生徒を引率して、すぐ寮へ戻るように」

 

 校長の指示を受けた監督生たちが動き出し、寮生をまとめます。スリザリンでも監督生が地下室にある寮へと動き始め……あれ?地下室?

 

 

 たしか、トロールがいたような。

 

 

 スリザリン生の中にも何人か気づいた生徒がいたようで、ダフネとノットが「え?」みたいな顔をしていました。

 

 

 私は慌てて、我先に監督生に続こうとしたマルフォイとパンジーの首根っこを掴みます。

 

「ぐえっ」

「ちょ、何すんのよイレイナ!」

 

 抗議する二人に、私は落ち着くよう説得します。

 

「ちょっと様子を見てからにしましょう」

「イレイナ、君は何を言ってるんだ? 聞いただろ、地下室にはトロールが……」

「だからですよ」

 

 そこでようやく、私が何を言わんとしているかマルフォイにも分かったようです。パンジーも「あ」というような顔になり、はたと足を止めました。

 

「ぶっちゃけ、ダンブルドア校長もマクゴナガル先生もいる大広間の方が安全です。しばらくここにいましょう」

 

 

 と思ったら、先生方はクィレル先生を蘇生させると、さっさと大広間を出て行ってしまいました。先にスリザリン寮へ向かった生徒たちからも、悲鳴のようなものは聞こえません。

 

 

「ちょっと考え過ぎだったみたいですね……私たちも寮へ帰りましょうか」

 

 いくつか皿に食べ物を盛って帰ろうとしていると、なぜか慌てた様子のネビルが近づいてきます。

 

「ネビル、グリフィンドール寮は反対方向ですよ」

「そ、そうじゃなくて! ハリーたちがハーマイオニーを探して地下に探しに行っちゃったんだ!」

 

 ネビルの話によると、ロンと喧嘩したハーマイオニーは地下の女子トイレで泣いていたらしく、トロールの侵入を知らないことに気づいたハリー達が救助に向かったとのこと。

 

「僕はダンブルドア先生に伝えようとして大広間に戻ってきたんだけど、どこに行ったか知らない?」

「さっきクィレル先生と一緒に出て行っちゃいましたね」

「そんな……!」

 

 

 さて、どうしたものでしょうか。

 

 クィレル先生に連れられて教師陣はトロールの捜索に向かったようですが、なにせホグワーツは広い学校です。先生たちが見つけるより早く、トロールとハーマイオニーが遭遇する可能性も低くありません。

 

 あと単純に、野生のトロールは見たことが無いので、ちょっと見てみたい気もします。どうしましょう。探しに行っちゃいますか。

 

 行っちゃいましょう。

 

 

 私が女子トイレに向かおうとすると、パンジーが信じられないといった顔で見つめてきます。

 

「あんた正気? もしトロールに襲われたらどうすんのよ?」

「逃げますけど」

 

 別にトロールを倒す気はありませんよ。ちょいとハーマイオニーの捜索がてら、せっかくなので遠目に観察でもしようかと。

 

「皆さんも一緒にどうです? 実はちょっぴり、私ひとりでは心細いなーなんて」

 

 まぁ、嘘ですけど。

 

「ふんっ、僕はいかないぞ!」

「私も穢れた血を助けるなんてまっぴらよ」

 

 マルフォイ、パンジー、脱落。

 

「トロールに興味はねぇわ」

「パス」

 

 ミリセントとノットも興味なし。ザビニはさっさと帰ってしまったようで、姿が見えません。

 

 残るは2人。まずネビルがおずおずと「僕は行くよ……」と手を上げ、最後に残ったダフネはニヤリと笑って――。

 

「イレイナの旦那、別にトロールを倒してしまっても?」

「構わんですよ」

 

 私たちはこう見えても11歳、ちょっと怖いもの見たさと背伸びもしたいお年頃。後で冷静に思い返せば、ハロウィンで浮かれたバカでした。

 

 

 マルフォイ達と別れて地下に降りていくと、女子トイレに近づくにつれて徐々に異臭が漂ってきます。汗と嘔吐物が混ざったような、思わず逃げ出したくなるほどの悪臭に、思わず鼻を押さえます。

 

「……やっぱり帰りましょうか」

「イレイナ!」

「冗談ですよ、ネビル」

 

 渋々、足を女子トイレに進めていきます。すると、なにやら聞き覚えのある声が。

 

「キャァァァァァアアアッーーー!!!」

 

 間違いありません。悲鳴を上げたハーマイオニーの絶叫でした。

 

 

 **

 

 

「ハーマイオニー、大丈夫ですか!?」

 

 私たちが慌てて女子トイレに突入すると、そこには洗面台をなぎ倒しながらハーマイオニーに突進するトロール、破壊された個室で頭を庇うハーマイオニー、パイプを投げつけるハリー、そして大声で囃し立てることでトロールの気を引こうとしているロンがいました。

 

「やーい! このウスノロ!」

 

 ロンの語彙力……。

 

 

「ネビル!? それにイレイナまで、どうしてここに?」

 

 私たちに気づいたハリーが驚いたような顔になります。

 

「ぼ、僕は君たちの事が心配になって……」

「ヒーローは遅れてやってくるものです」

「わたしはイレイナのご乱心にお付き合い的な?」

 

 ダフネは後でちょっと話があります。

 

 

「あ、トロールの動きが止まりましたね」

 

 ロンの小学生みたいな煽りにキレたのかどうかは定かでありませんが、トロールがはたと立ち止まります。新しい獲物を見つけたトロールは棍棒を振り回しつつ、ロンとハリーのいる方角へ……。

 

 

「あれ、行かない……」

 

 

 むしろ、こっちに向かってきているような。

 

 

 何故でしょう。パイプを投げたり暴言を吐いてるのはハリーとロンなのに、トロールは私たち3人のいる方角へとのっしのっしと歩いてきます。とばっちりもいいとこです。

 

 

「ハーマイオニー! 大丈夫?」

 

 トロールの注意が私たちに向いている隙をついて、ロンは瓦礫の中からハーマイオニーを救出しました。見たところ、ハーマイオニーに怪我はない模様。

 

 

「こっちだ!」

 

 そしてハリーが私たちの身を案じてか、再びトロールにパイプを力いっぱい投げつけました。

 

 しかし、トロールが大きく体を揺らしたせいで、パイプは既のところでトロールの横をかすめ、地面にカランと虚しい音を響かせます。

 

 

 となると、トロールの動きは止まりません。

 

 

 結果、4メートル超えの巨体が、私たち3人めがけて絶賛突進中。間近で見るトロールは迫力満点で、ダフネは可愛らしく「ひぃっ」なんて言いながら私の後ろに隠れてますし、ネビルは顔面蒼白で今にも気絶寸前です。

 

「ダフネにネビル、落ち着いて今から私の言う事をよく聞いてください。秘策があります」

 

 私が振り返ると、2人とも真っ青な顔をコクコクと何度も縦に揺らします。

 

「それでイレイナ、どうすんの?」

「―――全力で」

 

 そう、全力で。

 

 

 

「逃げ出します!!」

 

 

 

 そう言うが早いか私はトロールに背を向け、わき目も振らず一目散に全力ダッシュ。三十六計、逃げるに如かず。勇気と無謀を履き違えてはいけません。

 

「お、置いていかないでよイレイナ!」

「イレイナ待って~!」

 

 ハリー達が呆気に取られている中、ダフネとネビルも慌てて私の後に続いて駆け出しました。そのすぐ後を、トロールが棍棒を振り回しながら追っかけてきます。

 

 え、情けない? そりゃあハリーたちは勇敢だったかもしれませんが、命あっての物種です。トロールと戦って勝てる保証なんてありませんし。私たち1年生ですし。

 

 そもそも当初の目的だったハーマイオニーの安全は、どうにかロンとハリーが確保しています。打倒トロールは目的外ですので、ならばもうこの場に用はありません。

 

 

 何より、私はホグワーツに来る前にお母さんと約束をしています。

 

 

 ―――イレイナ、危険な目に遭いそうなときは逃げること。

 

 

 お母さん、あなたの娘はきちんと約束を守って逃げています。

 




どこぞの伊賀越えと違って、全力で押し通ったりはしません(結果は似たようなもんですが)

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