ハリー・ポッターと灰の魔女   作:アストラマギカ

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第45章 ~真実と現実と~

 

 翌日、目覚めた時には大人たちが大声で何やら言い争っていました。

 

 ファッジ大臣とダンブルドア校長が中心にいて、それをお母さんとハリーとウィーズリーおばさん、大臣の護衛で来たシーラさんにフラン先生、マクゴナガル先生とスネイプ先生、そして何故か端の方で震えているカルカロフ校長が、遠巻きに二人の言い争いを見守っていました。

 

 

「クラウチは支離滅裂だ! すべて“例のあの人”の仕業だとか何とか、何を言っているのやら!」

 

 

 コーネリウス・ファッジ大臣は珍しく憤慨していました。

 

「たしかにヴォルデモート卿の仕業なのじゃ、コーネリウス。第3の課題で起きた騒動は、あの者が再び勢力を取り戻す計画の一環じゃった。計画は成功し、あの者は肉体を取り戻した」

「何を言うかと思えば……“例のあの人”が復活しただと? バカバカしい」

 

 横顔を殴られたような顔で、ファッジ大臣は茫然とした顔で目を瞬きながらダンブルドア校長を見つめ返しました。今しがた聞いた話が、にわかには信じがたいといった表情です。

 

「バーテミウス・クラウチとかつて彼に仕えていた屋敷しもべ妖精のウィンキーが、共に証言した。証言の際には弁護士と闇祓いの立ち合いのもと、本人たちの同意を得て『真実薬』を服用させておる」

 

 ダンブルドア校長の視線が私のお母さんとシーラさんに向けられ、2人とも同意するように頷きました。

 

「何があったんですか?」

 

 こっそりお母さんに耳打ちすると、私が寝ていた間に起こったことを話してくれました。

 

 

 昨晩、私とハリーが寝た後、ダンブルドア校長たちはまっすぐにバーテミウス・クラウチ・シニア氏の自宅へと向かったそうです。表向き「在宅勤務」ということになっていたクラウチ邸は魔法で封鎖されていたそうですが、ダンブルドア校長が押し入ったところ、「服従の呪文」をかけられたクラウチ氏を見つけたとのこと。

 

 発見されたクラウチ氏は衰弱しており、すぐさま聖マンゴ魔法疾患傷害病院に搬送され、解呪と治療の後に病室でウィンキーさんと共に取り調べを受けました。

 

 

 クラウチ氏とウィンキーさんの証言は、驚くような話ばかりでした。

 

 

 死んだはずの息子が、実は面会時にポリジュース薬でこっそり母親と入れ替わってアズカバンを脱獄したこと。つい最近までクラウチ氏は『服従の呪文』で息子を自宅軟禁していたこと。

 

 屋敷しもべ妖精のウィンキーはそんなクラウチ・ジュニアさんを憐れんで、気晴らしにクィディッチ・ワールドカップへ連けるようクラウチ氏を説き伏せたこと。しかし徐々に『服従の呪文』を破り始めていたクラウチ・ジュニアさんは、隙をついてワールドカップで『闇の印』を打ち上げたこと。

 

 そしてある日、偶然クラウチ家の秘密を知ってしまったバーサ・ジョーキンズさんがワームテールに捕まってしまい、この事を知ったヴォルデモートがクラウチ家にやってきたこと。今度はクラウチ氏が『服従の呪文』にかけられ、息子の方は偽ムーディとしてスパイ活動をすることになったこと。

 

 

「バーティは己のしたことを大いに恥じ、悔いておった。ウィンキーにも真実を話すように命令し、調査には終始協力的じゃった」 

「だとしてもだ。まさか――まさか、クラウチの話をそっくりそのまま受け取ったわけではあるまいな?」

 

 大臣の顔には、疲れと困惑の混じった皮肉っぽい笑みが漂っていました。

 

 

「たしかにクラウチと屋敷しもべ妖精は、“例のあの人が戻った”と証言していた。だが、証言だけだ。物的証拠はどこにもない」

 

 

 ファッジ大臣はこめかみに指を当て、ナンセンスだとばかりに首を左右に振りました。

 

 

「現在のウィゼンガモット法廷では冤罪防止のために、被害者の証言だけをもとに事実認定を行うことはない。そうだな、ヴィクトリカ?」

 

 

 魔法大臣が億劫に質問すると、お母さんは大きく息を吸って唇をキュッと結んだ後、溜息を吐いてから答えました。

 

「はい。物的証拠と違って、自白や証言は見間違いや思い違いをすることもあります。もちろん『真実薬』の使用によって、嘘の供述ではない証明にはなりますが……やはり証言には、証拠の裏付けが無ければ事実認定は難しいでしょう」

 

 それ見たことか、とファッジ大臣が得意顔になりました。

 

「ダンブルドア、昨晩のクラウチがどんな状態だったか見ただろう? まともに会話が出来ているかと思えば、急にブツブツと独り言を言ったり、植木を部下だと思って話しかけていた……まともな精神状態ではなかった」

「バーティには、強力な『服従の呪文』をかけられていた。精神力で無理やり解呪しようとした場合、精神に不調をきたすこともある」

「だからこそだ。心神喪失状態の者の発言を、証言として扱うわけにはいかない」

 

 再びファッジ大臣がお母さんの方を見ると、お母さんは諦めたように投げやりな様子で口を開きました。

 

「大臣のおっしゃる通り、心神喪失状態の人間には責任能力が認められず、責任能力を問えない証人の証拠能力は限定的です。聖マンゴの呪文性損傷科の担当癒からも診断書が出ている以上、クラウチ氏の証言は信用性が低いと言わざるを得ないでしょう」

「ウィンキーはどうかね? 彼女に心神喪失の診断書は出ておらぬ。また、『真実薬』の服用によって、バーティに忖度した証言を行う可能性も排除できているはずじゃが」

 

 ダンブルドア校長の言葉に、お母さんは難しい顔になりました。

 

「ウィンキーの発言は、重要な証拠となり得ます。ですが……」

 

 

「――2人とも『錯乱の呪文』にかけられていた可能性だってある!」

 

 

 ファッジ大臣が横から大声で口を挟みました。

 

「いくら『真実薬』とて、本人が()()()()()()()()()場合には、間違った証言をする可能性があることは否定できまい。事実、クラウチは発狂しているのだから、あの屋敷しもべ妖精も同じように“例のあの人に従わされた”と思い込まされたと考えた方が自然だろう」

「だとしたら、コーネリウス――いったい誰が、そんなことをするというのかね?」

 

 ダンブルドア校長の鋭い指摘に、今度は大臣が黙り込む番でした。すかさず、私より先に起きて事情を聴いていたらしいハリーが叫びました。

 

「僕たちはヴォルデモートが復活するのを見たんだ! 死喰い人たちもいた! ルシウス・マルフォイにマクネア、エイブリー、ノット、クラッブとゴイル――」

「彼らの潔白は、13年前にヴィクトリカが証明済みだ!」

 

 大声で吠えるハリーに負けじと、ファッジ大臣も顔を真っ赤にして叫びます。私のお母さんはそっと顔を逸らし、フラン先生とシーラさんがその様子に生温かい目を向けました。

 

 

 ファッジ大臣は意固地な表情のまま、不信に満ちた視線をダンブルドア校長に向けます。

 

「どうやら諸君は、我々がこの13年にわたって努力して築いてきたものを、全て覆すような大混乱を引き起こしたいらしいようだ」

「コーネリウス、聞くがよい。ヴォルデモート卿は戻ってきた。これは事実なのじゃ」

 

 ダンブルドア校長がファッジ大臣に一歩詰め寄りました。

 

「貴方がすることはその事実を認め、アズカバンを吸魂鬼の支配から解き放ち、巨人に使者を送る事じゃ。どちらも急がねば、たちまちヴォルデモート卿の一声で寝返るじゃろう」

「狂気の沙汰だ! 魔法使いの半数は吸魂鬼がアズカバンを警備しているから安眠できると考えているし、巨人族はかつて“例のあの人”の側に属して大勢を殺した。なのに手を組めと? そんなことをすれば、私の政治生命は終わりだ――大臣職から蹴り落とされる!」

 

 ファッジ大臣が叫び、ダンブルドア校長も負けじと強く迫りました。

 

「はっきり言おう、コーネリウス。儂の言う措置を取るのじゃ。そうすれば大臣職に留まろうが、追われようが、貴方は歴代魔法大臣の中でもっとも勇敢で偉大な大臣として名を残すじゃろう。さもなくば貴方は歴史に、堂々と再建した世界をヴォルデモートが破壊するのを傍観しただけの男として記録される」

「無茶を言うな!」

 

 ついに堪忍袋の緒が切れた、といった顔でファッジ大臣が顔を真っ赤にしました。

 

「“例のあの人”が復活した件について、まだ世間が納得できるほどの証拠は見つかっていない!不確かな証拠に基づいて不人気な政策を実行しろなどと……無責任なのはダンブルドア、あなたの方だ!」

 

 声を荒げるファッジ大臣。

 

「行方不明になったセドリック・ディゴリーだって、まだ見つかっていない! こんな状況で吸魂鬼をアズカバンから追い出すだの、巨人に使者を送るだのしてみろ。日刊預言者新聞に“魔法省はディゴリー少年の命より、残虐な巨人と仲良くする方が大事なのか?”などと政権批判記事を書かれるに決まってる」

 

 ファッジ大臣は人差し指を立てて、脅すように振りました、

 

「ダンブルドア、私はいつだってあなたの好きなようにやらせてきた。尊敬していたから、同意できなくても黙っていた。生徒に内緒で相談せず狼人間を雇ったり、ホグワーツを吸魂鬼の警備の対象外としたり、ハグリッドをここに置いたり、マグル生まれを優遇したり……」

「コーネリウス、大事なのはどう生まれついたかではなく、どう育ったかじゃ。貴方は純血を重んじ、心地よい秩序だった自分の世界を大事にしすぎるあまり、物事の本質が見えなくなっておる」

 

 しかし大臣は頭を振り、「正気の沙汰ではない。狂っている……」などとブツブツ呟くばかり。話はどこまでも平行線でした。

 

 

「………」

 

 堂々巡りの会話を聞く中で、私の頭に浮かんできたのは、意外な人物……リータ・スキーターさんでした。

 

 

 ――嘘も方便ざんすよ。流れに逆らえば溺れるけれど、乗りこなせば早く先へと進める。

 

 

 私はリータさんの言葉を何度か頭の中で反芻し、やがて意を決して立ち上がりました。

 

 

 **

 

 

「あのぅ」

 

 私が会話に入ってくるとは思わなかったらしく、ダンブルドア校長もファッジ大臣もハリーたちも驚いて私の方に視線を向けてきます。

 

 

「もしかするとなんですが、私たちが思っているより多くの人間が、『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のかもしれません」

 

 

 私がそう切り出すと、ハリーが「何を言っているんだ?」といった顔になるのが見えました。ダンブルドア校長も何か言いたそうでしたが、私は手を挙げてそれを制し、ぽかんとするファッジ大臣を真っ直ぐに見つめます。

 

「私たちが優勝杯にしかけられていた移動キーで連れ去られた場所には、不気味な仮面を被った黒いフード付きローブの集団がいました。ワールドカップ会場で暴れていた集団と、たぶん同じ人たちでしょう」

 

 ワールドカップで怪しい仮面を付けた集団が暴れていたことは、大勢の人間が目撃しています。日刊預言者新聞でも大きく取り上げられていましたし、さすがのファッジ大臣も彼らの存在までは否定できません。

 

 

「残念ながら、彼らはまだ逮捕されていません。その正体も謎に包まれています」

 

 

 ファッジ大臣は大きく息を吸って少し考えるように宙を見つめた後、やがて諦めたようにフゥーッと大きくため息を吐きました。

 

「……たしかに。君の言う通りだ」

 

 人は自分の目で見たものは信じますが、見ていないものは信じません。ましてや信じたくないものを、見たことも無いのに信じろ、という方が無理な話です。

 

 そしてファッジ大臣は、実際に自分の目でヴォルデモートの復活を見たことも無ければ、死喰い人の仮面の裏にあるルシウスさんたちを見たこともありません。

 であれば常識的に考えて、ハリーの証言を聞いても疑うのが当たり前で、逆に「はいそうですか」と納得したら、それはむしろダンブルドア校長の洗脳を疑うべき状況でしょう。

 

 とはいえ、ワールドカップ会場で「仮面を被った謎の集団が暴れていたこと」は大勢が目撃していますし、「彼らが逮捕されていない」ことも紛れもない事実。それはファッジ大臣とて認めざるを得ません。

 

 

「あー……つまり、君はこう言いたいのかね? ワールドカップ会場で暴れた怪しげな集団が、優勝杯に移動キーを仕込んだ。アラスター・ムーディに化けた実行犯は連中の一人で、ハリーを拉致して殺害しようとしていた」

「はい」

「その上で、あの連中は『錯乱の呪文』で操られていたと? 誰が? 何のために?」

「私もそれをずっと考えていました」

 

 魔法大臣は胡散臭そうに眉をひそめていましたが、何も言わずに私に先を促しました。

 

「謎の集団は仮面を被っていましたが、誰が彼らのリーダーなのか推測することは出来ます」

「いったい誰なんだね?」

 

 ここが勝負どころだ、と私は小さく息を吸いました。夏休みにやった『Riddle 94』のプレゼンテーションを思い出し、敢えて数秒の間を作って「どんな答えが来るんだ?」と期待を高め―――ファッジ大臣が焦れる直前に答えを口にしました。

 

 

 

「シリウス・ブラック」

 

 

 

 即座に反応したのはハリーとスネイプ先生でした。ハリーは真っ赤になり、スネイプ先生は唇の端が奇妙にヒクヒクと痙攣しました。

 

「嘘だ! シリウスは――」

 

 ハリーが叫びかけますが、意外なことにその肩を掴んで制止したのはダンブルドア校長でした。ようやく、私の言わんとするところを察したのでしょう。

 

 

 そう、誰だってヴォルデモート卿が復活したなんて認めたくないのです。

 

 結局のところ人は自分が見たいものしか見ない訳で、都合の悪い情報は何かと理由をつけて否定したがるもの。未だ大勢の人が名前を呼ぶことすら恐れるほどトラウマになってる闇の魔法使い、それが復活して悪夢の時代がまた始まる……なんて想像するだけでも嫌なのでしょう。

 

 であれば、信じられるレベルまで話をスケールダウンするまで。この場に必要なのは事実(ファクト)よりも、人々を納得させられる物語(ストーリー)なのですから。

 

 

 もし真実が混乱と不和を招くのであれば、そんなものはいりません。今すぐ欲しいものは団結と行動という現実で、真実は何十年後かに歴史学者が明らかにしてくれれば、それでもう十分。

 

 

 

「ブラックは強力な『錯乱の呪文』と『服従の呪文』を使い、敵味方に“例のあの人”が復活したと信じ込ませ、魔法界に再び混乱をもたらそうとしているのです!」

 

 

 私が作り上げたストーリーは、世間では凶悪犯とされているシリウス・ブラックさんをダシに使うというもの。

 

「ブラックは“例のあの人”の最も忠実で、強力な家来でした。1年の逃亡を経て力を取り戻した彼は、再び死喰い人の残党を集めて、“例のあの人”の復活を企てているのです。私達はその動きを阻止しなければなりません」

 

 

 要は魔法省が警戒態勢さえ取ればいいわけで、理由はヴォルデモートでもシリウス・ブラックでも構いません。

 もちろんヴォルデモートに比べれば警戒レベルは低いでしょうが、シリウス・ブラックの脱獄でもそこら中に吸魂鬼を配置して巡回させるぐらいの警戒態勢はとられていました。

 

 

「アズカバンを脱出してからの1年、ブラックは巧みに魔法省から逃げ続け、かつての力を取り戻したのでしょう。全盛期のブラックがどれほど凶悪で、どれほど強力な闇の魔法使いだったかは、他でもないファッジ大臣が良く知っているはずではありませんか?」

 

 私が問いかけると、ファッジ大臣が神妙な顔になりました。

 

「ああ……当時、魔法惨事部の次官だった私は現場に到着した第一陣だった。今でも時々、夢に見る……道路の真ん中にえぐれたクレーター、亀裂の入った下水管、悲鳴を上げるマグルたち、狂ったように笑うブラック、血だらけのローブに無数の肉片……」

 

 当時の光景を思い出したのか、ぶるっと身震いする魔法大臣。

 

 実際に自分で体験した経験というのは、良くも悪くも記憶に残るもの。実際にシリウス・ブラック逮捕の現場に居合わせたファッジ大臣にとって、ヴォルデモートや死喰い人の恐怖は他人事でも、ブラックによってもたらされた悲劇は自分事として捉えてしまうのでしょう。

 

「たしかに、ブラックほどの闇の魔法使いであれば、強力な『服従の呪文』や『錯乱の呪文』で無実の一般人を操り人形にすることなど造作もないことだろう。そうでなくても、奴はずっと友人のフリをしてポッター夫妻をはじめとする大勢を騙し続けていた……」

 

 案の定、ファッジ大臣は考え込むようにして、顎に手を当てました。

 

「そういえば、ブラックはずっとハリーを狙っていた。ハリーが死ねば、“例のあの人”が復活すると信じていた……」

 

 

 人は自分の手に負える範囲で、しかも分かりやすい解決法が示されると案外あっさり飛びつくものです。

 

 闇の帝王ヴォルデモートに立ち向かう勇気は無くとも、凶悪犯シリウス・ブラックの凶行を許さない程度の正義感は――まだ、ファッジ大臣にも残されているようでした。

 

 

「大臣、お騒がせしてしまって申し訳ありません。ですが、これだけは聞いて欲しいのです。あの日、私たちは3人とも拷問されました……気が狂いそうになるぐらい、何度も、何度も……」

 

 わなわなと声を震わせて重苦しい囁くと、ファッジ大臣が息を呑むのが見えました。言葉に詰まって俯いた私の体は思い出した恐怖のトラウマに震え、荒い呼吸を繰り返します。

 

「ですが……セドリックは私たちを助けようとして、一人で残って……最後まで勇敢に―――」

 

 声が嗚咽交じりになり、一筋の涙が頬をつたい、床にポトリと落ちていきます。

 

 

「なんと、なんとまぁ」

 

 たちまちファッジ大臣は沈痛な表情になり、意気消沈した私を慰めるように掠れた声をかけてきます。

 

「無理はしなくていい。怖い思いをしたのだろう……。ああ、無理もない。エイモスにも悪いことをした……」

 

 そう言って大臣はポケットからティッシュを取り出し、優しく私に手渡してくれました。先ほどまでの怒りはすっかり息を潜め、憐れむような表情で私を見つめてきます。

 

 私は受け取ったティッシュでチンと鼻をかみ、掠れた声で続けました。

 

「セドリックはとても勇敢でした……けど、こうも思うのです。もし、もしあの時、闇祓いが1人でもいてくれたら――もし、もっと早く魔法警察がクラウチ氏の異変に気づいてくれたら……」

 

 私が再び言葉に詰まったフリをすると、ファッジ大臣は長い溜息を吐きました。

 

「……君が寝ていた間に、闇祓いが現地を調査した。セドリック・ディゴリーに関しては、まだ捜索中だ」

 

 同情と誠実さ、そして計算の混じった複雑な声でした。純粋に一人の前途有望な若者を案ずる気持ち、遺体が発見されていない以上は生きているとも死んだとも断言できないという専門的見地からの発言に対する注意、そして三大魔法学校対抗試合中という国際イベント中に死者が出るなどというスキャンダルは起きて欲しくないという政治的な計算……不安定な均衡の中で、気持ちが揺れ動いているようにも見えました。

 

 

「これは気休めかもしれないが、もしかしたら……」

 

 ファッジ大臣はそこで言葉を切り、計算と期待と同情の入り混じった瞳で私を見つめました。

   

 

「まだ、希望はある。魔法省は総力を挙げて、セドリック・ディゴリーの捜索とシリウス・ブラックの逮捕に取り組むと約束しよう」

 

 

 同情するような目でハリーと私を交互に見て、ファッジ大臣は「先ほどは取り乱してすまなかった」と恥ずかしそうに謝罪の言葉を口にします。

 

 まだヴォルデモート復活は認めていないものの、私たちを心配するような瞳に嘘偽りの色は見えません。

 

 

 要するに、コーネリウス・ファッジ大臣は()()()()でした。

 

 

 ハリーの不幸に同情し、ダンブルドア校長の経歴を敬い、ブラックの凶行に対しては憤り、ヴォルデモートの恐怖に対しては怯える。いつも魔法省に寄付をくれるルシウスさんには頭が上がらず、日刊預言者新聞の評判に一喜一憂し、マグルかぶれの変わり者であるアーサー・ウィーズリー氏を見下す。

 

 立場や周囲の言葉に左右されやすく、物事を自分に都合よく解釈し、面倒ごとはなるべく避けたい。けれど、正義感や矜持、情が全く無いわけではない……とまぁ、つまるところ割とそこら辺にいる平凡な、ごく普通の人だったのです。




 リータから「嘘も方便」を学んだイレイナさん、目的のために手段は選ばないスリザリン生なのでフェイクニュースも必要悪として利用していくスタイル(一応、あくまで「シリウス・ブラックの可能性が高い」と言っているだけで、「シリウス・ブラックの犯行を見た」とも「ヴォルデモートは復活していない」とも言ってはいません)。

 シリウス「ファッ!?」


 原作のここ、ファッジの態度もアレなんですけど、ヴォルデモート復活を裏付ける十分な証拠があったかと言われると、要検討ぐらいな気もします。
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