ハリー・ポッターと灰の魔女   作:アストラマギカ

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第12章 ~怪物退治~

                     

「グォォォォォーーーーーッ!」

 

「「「ギャーーーー!!!」」」

 

 

 ホグワーツの地下通路で、トロールと命がけの追いかけっこ。後にも先にも、こんな貴重な経験をしたのはきっと私たちだけでしょう。

 

 

 私たちの悲鳴とトロールの絶叫が響いたからでしょうか。

 

 

 かれこれ5分ほど全力疾走していると、前の方にある十字路の横からマクゴナガル先生が飛び出してくるのが見えました。すぐ後ろにはスネイプ先生とクィレル先生も。

 

「これは一体、どういう―――」

「「「すみませんでした――――!!!」」」

 

 マクゴナガル先生の脇を通り抜けて、私たちはすたこらさっさと逃げ続けます。本当は立ち止まって謝るべきでしょうが、棍棒を振り回すトロールに追いかけられている以上、立ち止まるわけにもいきません。

 

 

「ステューピファイ-麻痺せよ!」

 

 

 マクゴナガル先生が落ち着いて呪文を唱えると、杖から赤い閃光が勢いよく飛び出し、トロールの顔面を直撃します。トロールは間抜け面のまま失神したように動かなくなり、やがてグラリと巨体を揺らしてドスン!!という大きな音と共に地面に倒れました。 

 

「ペトリフィカス・トタルス-石になれ!」

 

 すぐさまスネイプ先生が続けてトロールに全身金縛り術をかけ、その動きを完全に封じます。

 さすがホグワーツの教師陣、優秀な魔法使いが揃っていますね。クィレル先生だけは、トロールを見てヒーヒーと弱弱しい声を上げ、へなへなと廊下に座り込んでしましたが。

 

 

 とりあえず、これでトロールの脅威は去りました。

 

 

 ですが、一難去ってまた一難……私たちの前に立ったマクゴナガル先生には、今まで見たことも無いほどの怒りの表情が。

 

 

「さて、どういう事か説明してもらいましょうか」

 

 

 マクゴナガル先生、完全にブチギレモードです。これは非常にマズいですね。

 

「殺されなかったのは運が良かった。寮にいるべきあなた方が、どうしてここにいるんですか?」

「先生、違うんです! これは、その……えっと」

「ミスター・ロングボトム、何がどう違うんですか」

 

 ネビルが何か言おうと口をパクパクさせていますが、蛇に睨まれた蛙のように完全に硬直しています。マクゴナガル先生は大きくため息を吐き、じろりと視線をダフネに移しました。

 

 

「ミス・グリーングラス、貴女から何か言う事は?」

「イレイナのせいです」

 

 ダフネの薄情者。嘘つき。裏切り者。

 

「ミス・セレステリア?」

「ネビルのせいです」

 

 ネビル、そんな恨めしそうな顔で見ないでください。

 

 

「……それで?」

 

 あからさまな責任転嫁に、マクゴナガル先生の声のトーンが一段落ちました。爆発する前に誤解を解かないと、トロールよりも恐ろしい事態になりそうです。

 

 こうなったら、覚悟を決めるしかありません。

 

 

「そう、あれは私とダフネが監督生に従って寮へ向かっている最中の出来事でした……」

 

 私は努めて誠実な口調で、事のあらましを語り始めます。

 

 友人想いのネビルが戻ってこないハーマイオニーを心配していたこと、そしてトロールと彼女が遭遇してしまう危険性に思い至ったこと、ネビル以上に友人想いの私とダフネは親友ハーマイオニーを見捨てられなかったこと―――。

 

 

「イレイナ! ネビル!」

 

 

 私が真実をありのままに述べていると、ハリーたち3人が息を切らしながら走ってくるのが見えました。マクゴナガル先生の注意がそちらに移り、青い瞳が驚きで見開かれます。

 

「ミスター・ポッターにミスター・ウィーズリー、それにミス・グレンジャーまで……!」

 

 動揺するマクゴナガル先生の前で、ハーマイオニーがまくしたてるように話はじめました。

 

 

「マクゴナガル先生! ぜんぶ私のせいなんです! 私がトロールを探して、1人でやっつけられると思ったんです。ハリーとロン、それからイレイナたちは私のことを心配してくれて……」

 

 

 ハーマイオニーが早口の説明を終えると、マクゴナガル先生は事の真偽を確かめるように、私たち一人一人に目を向けました。

 ハリーとロンはハーマイオニーの嘘に驚いたような顔をしていましたが、私が視線で合図するとその意図に気づき、すぐ彼女の弁を肯定するように何度も首を縦に振ります。

 

 

「まぁ、そういうことでしたら……」

 

 それでようやくマクゴナガル先生も納得したのか、大きな溜息と共に厳しい視線をハーマイオニーに向けました。

 

「ミス・グレンジャー、なんという愚かな真似を。貴方には失望しました。グリフィンドールは15点減点です」

 

 マクゴナガル先生の言葉に、ハーマイオニーがうなだれます。優等生の彼女にとっては初めての減点ですし、落ち込むのも無理もないでしょう。

 

「残りのあなた達もです。まったく、1年生が野生のトロールと対決しようとするなんて、生きているのが幸運なぐらいです!」

 

 マクゴナガル先生は鼻息を荒く鳴らし、しばらく間を置いてからゆっくりと再び口を開きました。

 

「本来なら一人につき5点減点するところですが、友人の身を案じて助けに向かう姿勢もまた、大切なものです。よってミス・グレンジャーを助けに向かった者には減点だけでなく、それぞれ10点ずつ与えましょう」

 

 差し引きでグリフィンドールはプラマイゼロ、スリザリンはプラス10点となりました。

 

「中断したハロウィンの続きは、それぞれの寮で行っています。帰ってよろしい」

 

 

 

 その場からそくさと退出し、私たちはそれぞれの寮へと向かいます。別れる直前、ハーマイオニーが声をかけてきました。

 

「イレイナ、その……さっきは助けに来てくれてありがとうね」

「まぁ、それほどでもありますよ」

 

 実際、かなり際どかったわけですし。ノリと勢いで来てしまった側面もありますが、結果的に私とネビルにダフネはハーマイオニーの命の恩人という事にもなります。

 

「グリーングラスさんも。ありがとう」

「あれ、名前知ってたんだ?」

 

 ダフネが少しだけ驚いたような顔になります。まぁ、直に話をしたことがなくとも、合同授業もあるので名前ぐらいは知っていたのでしょう。

 

「グランジャーも、グリフィン男子と仲良くね!」

「え、ええ……グレンジャーだけど!」

 

 一方、ロンは何やら釈然としない様子。

 

「まさかスリザリンに助けられるなんて……」

「スリザリンじゃないです。助けたのは、私です」

「君ってそういう人だったよね……」

 

 

 

 そんな感じでハリー達と別れ、私とダフネはスリザリン寮へと帰還しました。寮内ではハロウィンの続きが催されていたのですが、遅れて入ってきた私たちの姿を見て皆さんの視線が一気に集中します。

 

「ダフネ、イレイナ!」

 

 慌ててパンジーが駆け寄ってきました。

 

「大丈夫だった!? 怪我はない!?」

「ううん。でも、わたしね、すっごく怖かった……♡」

「大丈夫よダフネ、もう怖がらなくていいから」

 

 パンジーがぎゅっとダフネを抱きしめ、あやすように彼女のふんわりした金髪を撫でる様は、さながら映画のワンシーンのよう。ダフネは上目遣いで目を潤ませ、甘い声で囁きます。

 

「もっと強く、抱きしめて欲しいな♡」

「じゃあお望み通り、アンタが窒息死するまで抱きしめてア・ゲ・ル♪」

「いだいッ!? パンジー、ちょっとぐるじいッ」

 

 ダフネがパンジーをからかって自爆するのを遠目に、私も談話室のソファに腰を下ろしました。ふかふかのソファに座ると同時に一気に疲れが押し寄せてくるのですが、ここで眠るわけにはいきません。

 

「イレイナ、それでトロールはどうなったんだ?」

 

 ドラコ・マルフォイが目を輝かせて近づいてきました。そう、これを待っていたのです。

 

「ふっふっふ。聞いて驚くなかれ、トロールはとっくに退治されました」

 

 その言葉に、誰もが言葉を失います。一体、かの凶暴なトロールはどうやって倒されたのか。全ホグワーツ生はそれを知らんと欲す。

 

 はい、ではここで問題です。

 

 友人の身を案じて全長4メートルを超える凶暴な怪物・トロールに勇敢に立ち向かい、ダンブルドアとグリンデルバルドの伝説的決闘もかくやという大立ち回りを演じた、それはもう誰もが振り返らずにはいられないほどの美少女がいました。彼女はいったい誰でしょう?

 

 

 ―――そう、私です。

 

 

 

 ***

 

 

 

 翌日、私がトロールをボッコボコにしてやったという噂は、ホグワーツ中に広まっていました。スリザリン寮の得点を集計する砂時計が10点も増えていたのが、何よりの動かぬ証拠です。

 

 ファクトチェック? 知らない子ですね。

 

「ハリー、やっぱりスリザリンなんか信用しちゃダメだよ」

「そうかも……」

 

 




 ホラ吹きイレイナ(ロックハートをバカにできない)

 嘘は言ってないけど、たぶん大阪おばちゃん並に話は盛ってる。
 
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