ハリー・ポッターと灰の魔女   作:アストラマギカ

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不死鳥の騎士団編、始まります。

※徐々に原作からの乖離や独自設定、独自解釈、オリキャラの活躍等も増えてきますので、苦手な方はご注意ください。


第5巻 不死鳥の騎士団
第01章 ~ヌルメンガード城塞~


 

 パチパチと燃える暖炉の前で魔女が2人、ふかふかのソファに腰かけておりました。すぐ傍のテーブルには濃厚なバターの香りのするスコーンとミルクティーが置かれ、それはそれはとても素敵な空間でした。

 

 

 私――フラン・ビエラが「ずっとこんな時間が続けばいいのに」と平和ボケたことを考えていると、不意に師匠が灰色の髪を揺らしながら、相変わらず綺麗な顔をこちらに向けました。

 

「ねぇフラン、そういえば貴女、何しに戻ったのかしら?」

 

 唐突に冗談めかして問いかけられた「YOUは何しにブリテンへ?」という疑問。

 

「元はと言えば師匠が呼んだのではないのですか……」

 

 一応、職場であるイルヴァーモーニー校にはそれっぽい理由を言ってあります。三大魔法学校対抗試合で不足する教員の応援だとか、構想中の環太平洋三大魔法学校対抗試合のための視察だとか。

 

 しかし、私がホグワーツに戻って来た本当の理由は、目の前にいる師匠――ヴィクトリカ・セレステリアから、とある頼み事をされたからなのでした。

 

 

 ――成功ばかりで調子に乗っているイレイナに失敗を学ばせる。

 

 

 正直な感想としては「親は良かれと思ってこういう事やるんだけど、子供は絶対にありがた迷惑だとか余計なお節介だとしか思いませんよねー」といったところで、ぶっちゃけ最初は断ろうと思いました。

 

 とはいえ、お世話になった恩人からのしがらみ案件を断れるほど、私も権力に対して強くはありません。「師匠がそこまで言うなら……」と人付き合いの一環で受けてしまったわけです。

 

 

 そして、イレイナと出会いました。

 

 

 師匠の話から親の色眼鏡を差し引いたイレイナの印象は生意気なガキんちょという印象でしたが、しばらくホグワーツで観察してみるとイメージと違う点も沢山ありました。

 

 ああ見えて親の前では心配させまいと、必要以上に人生楽勝であるかのように装っていたのでしょう。実際には調子に乗って失敗することもあれば、一人では力不足で周囲に助けを求めることもあり、けれど裏では相応の努力も重ねている。

 

 あれだけのハイスペック女子を普通とは呼べないけれど、それでも普通の延長線上にいる女の子でした。

 

 だから、師匠は「世の中、思い通りにならないこともある」と学ばせたかったのでしょうけど、それは必要のないことでした。とっくに、イレイナは自分で学んでいたからです。

 とはいえイレイナも14歳、ちょうど親離れしたくなってくる年頃です。周囲と比べても師匠とイレイナは仲の良い親子でしたが、かといって何もかも話しているという訳でもなかったらしく、師匠の認識は少し古いままで止まっていたようでした。

 

 

 というわけで、いざホグワーツに来てみればイレイナはとっくに学校生活の中で、挫折も忍耐も努力も友情も学んでいたわけでして。

 

 特に私から教えることは無い、というのが正直な感想でした。

 

 付け加えるならば代表選手に選出されてしまったせいで、私が与える試練なんてぬるま湯に思えるほどの試練を与えられています。ドラゴンと戦うだとか、水中人と戦うだとか、迷宮で戦うだとか……。

 

「しまいには()()()()()もありましたし、もう充分過ぎるほど試練を受けているので、むしろイレイナに必要なのは手助けの方ではないかと」

「そうよねぇ」

 

 大袈裟に溜息をつく師匠。物憂げな姿も絵になるほどですが、それはさておき師匠の悩みは簡単に解決できるものではありません。

 

 

 復活した闇の帝王、ヴォルデモート卿。

 

 

 いい歳して闇の帝王だとか死の飛翔だとか卿だとか名乗ってる時点で、やべー奴感が隠しきれておりません。ところが天才と何とやらは紙一重ということでもあるらしく、その実力は指折り付き。アルバス・ダンブルドア校長でもギリギリ倒せるかどうか、といったところ。

 

 

「イレイナが機転を利かせてくれたおかげで、魔法省がギリギリこちら側に留まってくれてるのがせめてもの幸いだけど……」

「動きが分からない、というのも困ったものですよねぇ」

 

 もっとも思い通りにいかないのは、ヴォルデモート陣営も変わりません。かろうじて復活は遂げたものの、ハリーとイレイナには逃げられ、ダンブルドア校長にも知られてしまい、魔法省もシリウス・ブラックと勘違いこそあれ警戒態勢に入ってしまいました。

 

 おかげでヴォルデモート陣営も下手に動けず、復活から動きは全く掴めずじまい。

 

 

「フラン、何か良い案はないかしら?」

 

 雑に無茶ぶりされました。

 

「そうですねぇ……」

 

 丸投げしてきたとはいえ、師匠の方もノープランという訳では無いのでしょう。むしろあれこれ考えた上で、決定打が見つからなかったので他人の意見を参考にしたい、というのが本音といったところでしょうか。

 

 とはいえ、それでホイホイと案が出てくれば苦労はしません。かくいう私もさっきから実はあれこれ考えているのですが、やはり決定打になるような良い案が浮かばないのです。

 

 むしろ、私の方が誰かに丸投げしたいくらい―――――と。

 

(………あっ)

 

 閃いてしまいました。

 

 

「あの、師匠」

「何か思い浮かんだかしら?」

 

 私は「うふふ」と柔和な笑顔を浮かべて、こう言いました。

 

 

「やはり、ここはプロに意見を求めるのが一番かと」

 

 

 師匠は「清々しいまでに他力本願ね……」などと自分のことを棚に上げつつ、私に聞き返しました。

 

「プロ、というと闇祓いのことかしら? それともカルカロフを尋問でもしてみる?」

 

 私は首を横に振りました。

 

「いえ、それよりもっと実力があって――同じように闇の魔法使いたちを率いて、戦争を引き起こした人間がいるじゃないですか」

 

 私は驚く師匠の前で、仰々しく言葉を紡ぎました。

 

 

「ええ。ヴォルデモート卿が現れなければ、歴史上もっとも強力で邪悪な魔法使いと言われた男……」

 

 その男の名は。

 

 

「ゲラート・グリンデルバルド」

 

 

 

 ***

 

 

 

 オーストリアの山間にひっそりと佇む、古びた廃墟のような城塞。高い壁で囲まれ、「より大きな善のために」と刻まれた城のもっとも高い塔の最上階に、一人の囚人が横たわっていました。

 

 独房の中にいる囚人は骸骨と見まがうばかりの姿で、白い髪と髭は伸び放題で頬は痩せこけ、幽鬼のような姿になって尚、落ちくぼんだ瞳だけはギラギラと輝いていており、私と師匠が部屋に入るなりゾッとするような笑顔を向けてきました。

 

「久しぶりだな、ヴィクトリカ」

「グリンデルバルドさんこそ、お変わりなさそうね」

 

 かつて史上最悪と呼ばれた闇の魔法使いに対して、まるで親戚のおじさんにでも会うかのように師匠は朗らかな笑顔を浮かべます。

 

「この痩さらばえた姿が変わりなく見えると?」

「んー、てっきりダイエットに成功したのかと」

「興味があれば、試してみるといい。イギリス料理ですら恋しくなるほどキツいが、効果は御覧の通り」

 

 骨と皮ばかりになった自分を指さして、愉快そうに微笑むグリンデルバルド。牢屋に閉じ込められていながら、一筋縄ではいかなそうです。

 

 

「それで、今日は隠居中の老害に何を聞きに来たのだ?」

「あら、言う必要があるのかしら? 貴方ほどの魔法使いなら、とっくに予想は付いているのかと思っていたのだけれど」

「おおよそ、だがな」

 

 グリンデルバルドはそう言って、部屋の隅を指さしました。色々な国の新聞や本が丁寧に積まれており、英語のものもありました。

 

「さすがに50年も閉じ込められていれば、そこらの看守より牢獄の事情に詳しくなる。それでいて模範囚ともなれば、連中がうまく仕事できるような助言と引き換えに、ささやかな役得ぐらいはあるものだ」

 

 住めば都と言いますが、なんだかんだで囚人にしては充実した日々を送っているようでした。アズカバンとはえらい違いです。

 

 

「ヴォルデモートのことだな」

 

 

 いともあっさりと、目の前の囚人は用件を言い当てました。年老いてはいても、未だその頭脳は明晰なようです。

 

 しかし、私が本当に驚いたのはそれに続く言葉の方でした。

 

 

「でないと、わざわざ彼がここに来るはずがない――――そうだろう? アルバス」

 

 

 グリンデルバルドは唇を歪ませ、細められたオッドアイは真っすぐに師匠のコートに付けられたピンバッジを見据えていました。

 

 

「……ゲラート」

 

 少しして、扉から現れたのは苦々しい顔をしたアルバス・ダンブルドア校長でした。二人はしばらく無言で見つめ合っていましたが、すぐに後ろの方からバタバタと数人がやってくる足音が聞こえました。

 

 

「なんと、なんとまぁ!」

 

 続いて現れたのは、シーラたち闇祓いを引き連れたコーネリウス・ファッジ魔法大臣でした。続いて厳つい足音と共に、別の一団が入ってきました。

 

「だから言ったでしょう? この男は油断できないと」

 

 気取った声でファッジ大臣に語りかけたのは、オーストリア=ハンガリー魔法議会のコンラート・スピールマン議長でした。議長の手にはGM社製の通信鏡が握られ、師匠のピンバッジに仕込まれた小型通信鏡の映像がリアルタイムで送られています。

 

 

「なに、アルバス・ダンブルドアを知る人間には、そう難しい推理ではない。去年のシリウス・ブラックの脱獄と全く音沙汰の無かった2年間、唐突なセドリック・ディゴリーの失踪、バーテミウス・クラウチの急病、魔法省の過剰な反応……おかしな点をあげればキリが無いが、それをアルバス・ダンブルドアは放任しているどころか、陰で支援すらしているように思える」

 

 そんな状況下でヴィクトリカ・セレステリアがやって来た、とグリンデルバルドは続けました。

 

「ヴィクトリカの父親とは親しくしていてね、娘のこともよく知っている。その彼女がわざわざ訪ねてくるほどの事態となれば、よほど状況は深刻なのだろう。例えば、そう……ヴォルデモートが復活したとか」

 

 グリンデルバルドの言葉に、ファッジ大臣は一瞬ビクッと身体を縮ませた後、すぐに気を取り直して不機嫌そうに口を開きました。

 

「バカバカしい……まさか“例のあの人”が復活したなど、本気で信じているのかね?」

「ハリー・ポッターがそう証言したと聞いている」

「戯言だ! おおかた例の誘拐事件で、気が動転したのだろう……もう一人の証人、ヴィクトリカの娘の方は、犯人がシリウス・ブラックだと主張している。どちらが信頼に足る証言かは明らかだ!」

 

 ファッジ大臣の言葉を聞いたグリンデルバルドは「ほう」と面白そうに頬を緩ませ、意味深な視線をダンブルドア校長に向けました。

 

「なるほど、そういう事か……ふむ、実に面白い」

 

 老いた魔法使いは、一瞬で状況を理解したようでした。かつて大勢を言葉で惑わせた経験があるだけに、裏で何があったか見抜くのは造作も無い事だったのでしょう。

 

 ダンブルドア校長は大きくため息を吐いて、師匠に「どうしてくれるんだ」とばかりに顔を向けました。すると師匠は笑顔で頷き、再びグリンデルバルドに声を掛けました。

 

 

「単刀直入に言うわ。シリウス・ブラック捜索のため、イギリス魔法省に協力してくれないかしら?」

 

 

 

 ***

 

 

 

 師匠の言葉を聞いたグリンデルバルドは人懐っこい笑みを浮かべ、青と黒のオッドアイが抜け目なく彼女を見据えました。

 

「ふむ……意外性の欠片も無い申し出だが、いくつか質問しても?」

「もちろん」

 

 グリンデルバルドの視線が師匠から、ファッジ大臣とスピールマン議長へと向けられました。

 

「根回しはどこまで済んでいる?」

「魔法大臣の特別許可も取って、国際魔法使い連盟の同意も得た上で、ここに来る前にオーストリア=ハンガリー魔法議会と外交文書も交わしました」

 

 師匠がグリンデルバルドの前に掲げた羊皮紙には、しっかりと国際魔法使い連盟とイギリス魔法省、そしてオーストリア=ハンガリー魔法議会の印璽が押されていました。

 

「もうひとつ確認だ。私が協力するのは、あくまでイギリス魔法省なのだな? ヴィクトリカ・セレステリアでもアルバス・ダンブルドアでもなく」

「そうよ。本件に関して、一番骨を折ってくれたのはファッジ大臣だもの」

 

 本音半分お世辞半分といった感じで師匠が答えると、ファッジ大臣がドヤ顔でふんぞり返りました。ダンブルドアじゃなくて自分が悪名高きグリンデルバルドを従えているのだ、という優越感が目に見えるようです。

 

 当然ながらこの取引には裏話があって、師匠がファッジ大臣を説得できた理由もここにあります。

 

 

 ―――もしグリンデルバルドを従えることが出来れば、魔法警察と合わせてダンブルドア校長への抑止力として使えるのではないでしょうか?

 

 

 最近のファッジ大臣は表立ってダンブルドアと敵対することは避けつつも、水面下では反ダンブルドア陣営とも接触して牽制をきかせているとも、魔法省内の親ダンブルドア派と反ダンブルドア派の板挟みになっているとも、あるいはその両方だともいうのが、もっぱらの噂です。

 

 

「ならば結構。しかし、私が裏切るとは思わないのかね?」

「もちろん思ってるわよ。だから、ちゃんと備えも用意したわ」

 

 師匠が取り出したのは、2つに砕けたペンダントでした。美しく複雑な文様が刻まれたペンダントの残骸を見ると、グリンデルバルドの表情が変わりました。

 

「ほう……何かと思えば、また懐かしいものが出てきたな」

「さすがに忘れてはいないようね」

「忘れるわけがなかろう―――実に懐かしい……『血の誓い』だ」

 

 『血の誓い』というのは魔法契約の1つで、誓いを立てる者が杖で手を切って互いの手を合わせ、誓いを述べることで発揮されます。その後、ペンダントが形成されれば契約は成立。一度血の誓いを立てたら、ペンダントを破壊することはほぼ不可能とのこと。

 

「グリンデルバルドさんには、ダンブルドア校長と『血の誓い』を結んでもらいます。契約内容は『グリンデルバルドはイギリス魔法省に協力し、魔法界の平和と秩序を守る』です」

 

 

 師匠の提示した契約内容は簡潔でありながら、その裏では様々な駆け引きがあったことを匂わせるものでした。

 

 

 まずこの契約によって最大の利益を得るのはイギリス魔法省でありながら、誓いを立ててそれを守る義務を負うのはダンブルドア校長とグリンデルバルドというアンバランスさ。明らかにファッジ大臣にとって有利な契約条件ですが、だからこそ「グリンデルバルドに協力させる」という無茶な提案を大臣も許可したのでしょう。

 

 一方でグリンデルバルドが守る対象は「イギリス魔法界」ではなく「魔法界」であり、国際魔法使い連盟にとってもメリットのある話となります。何より国際魔法使い連盟のトップである上級大魔法使いはダンブルドア校長その人であるため、その意向は無視できません。

 オーストリア=ハンガリー魔法議会にしても、取り扱いが面倒な囚人を厄介払い出来る上、国際魔法使い連盟とイギリス魔法省に恩が売れる。

 

 もちろんダンブルドア校長は私のアイデアをひっさげてホグワーツに乗り込んできた師匠の直談判に大反対したそうですが、師匠はいつものように謎めいた柔和な笑顔でこう言い返しました。

 

 

「グリンデルバルドが危険なのは、十分に理解してるわ。けど、私たちが先に利用しなければヴォルデモート卿が代わりに利用するだけのことよ。そっちの方が危険でしょう?」

「じゃが……」

「でないと、被害を拡大させないためには口封じするしか無くなるわよ」

 

 最悪の可能性を提示した師匠に反論できず、最終的にダンブルドア校長も渋々ながら提案を受け入れたのでした。

 

 

 しかし、グリンデルバルドの方もすぐには首を縦に振りませんでした。

 

「お前たちの利益は理解した。だが、私にとって利益はなんだね? 敵に利用されるのを防ぐために殺されないことか?」

「そうねぇ……“魔法族の未来”なんていうのはどうかしら?」

 

 師匠の返事に、グリンデルバルドは可笑しそうに口元を歪めました。

 

「曖昧だな。その言葉では、マグル共に数の暴力で押し潰され、絶滅するか動物園行きの未来だって含まれる」

「なら訂正するわ。私が提供するのは、“魔法族の将来的な安全と繁栄の可能性”よ」

「今度は随分と控えめになったものだ」

「その分だけ現実的になったでしょう?」

 

 師匠は肩をすくめて、ポケットから手鏡のような魔道具――『多機能両面鏡』を取り出しました。

 

「ほう……噂は聞いている。ガレージで3人の学生が発明し、そのうちの一人は君の娘だとか」

「そうよ。ちなみに今は名誉会長で要はお飾りなんだけど、それでも娘の伝手を頼ればこうやって開発中の試作品を貸してもらうことぐらいは出来るの――ちょっと使ってみる?」

 

 グリンデルバルドは牢屋の格子越しに多機能両面鏡を受け取ると、興味深そうに指で操作を始めます。

 

「……ほう、これは面白い……」

 

 闇の魔法使いと言っても、根っこはやはり所謂“魔法使い”なのでしょうか。面白そうな魔道具を手にして、夢中で操作を続けるグリンデルバルド。

 

「映像通信は『両面鏡』、望遠および画像の撮影・記憶・再生機能は『万眼鏡』から、音声・音楽の記録と再生は『吠えメール』、文字の送受信は『変幻自在術』で表記は魔法の新聞……」

 

 最初こそ純粋に面白そうな表情をしていたグリンデルバルドでしたが、イレイナたちの開発した多機能両面鏡の機能が明らかになるにつれて、徐々にその表情が真剣なものへと変化していきました。

 

 

「ふむ……汝の秘密を現せ!」

 

《申し訳ありませんが、私の知識は1995年3月までのものであり、本製品に関する最新情報や具体的な動向については提供できません。『Riddle 95』に関する最新情報は、ゼネラル・マギティクス社のカスタマーサービスセンターから入手することをお勧めします。メーカーの公式発表やスタッフの意見を確認することで、詳細な情報を得ることができるでしょう》

 

「………」

 

 

 さらに師匠は検知不可能拡大呪文をかけたバッグの中から、『ドローン・スニッチ』や『防呪チョッキ』に『伸び耳』といった商品を次々に取り出して見せていくと、やがてグリンデルバルドは観念したように大きな溜息を吐きました。

 

 

「なるほど……これが“未来”か」

 

 

 グリンデルバルドに限らず、純血主義者や魔法族至上主義者の多くはマグルを「数が多いだけの野蛮人」と見下す一方で、マグルが物量だけでなく質の面で魔法族に追いつくことを恐れてもいます。

 

 そして20世紀に入ってからマグルの技術進歩はかつてないほど急激なものとなり、今や多くの魔法がマグルの技術で代用できるようになりました。つまり裏を返せば、魔法族が再び魔女狩りに遭った場合のリスクは、かつてないほど危険なものになっているということです。

 

 こうした事態に際して、魔法族の世論はタカ派とハト派の2つに別れました。グリンデルバルドのようなタカ派はパワーバランスがこれ以上マグル優位に傾かないうちに先制攻撃して支配するべきだと主張し、ダンブルドア校長のようなハト派は対立を避けて今まで通りひっそり隠れて生きるべきだと訴えました。

 

 

「私とアルバスは真逆の結論に達したが、奇しくも前提条件は同じだった。すなわち、魔法の科学に対する優位性は薄れていく一方だと」

 

 師匠が提示したのは、その前提条件を根本からひっくり返すというものでした。

 

「マグル共が科学を進歩させるというのなら、我々もそれ以上に魔法を進歩させればいい……魔法の進歩こそが、魔法界をより安全で豊かにすると――そう言いたいのか」

「もちろん、不確実性は残るわ。確実性を期すなら不確かな将来の進歩に賭けるより、今ある魔法の力を前提に、マグルと戦うか逃げるかを考えた方がいい」

 

 けれど、と師匠は続けました。

 

「私の娘は――イレイナは、希望を見せてくれた。魔法には、まだまだ可能性がある。創意工夫次第で、魔法界はもっと発展できるんじゃないかって」

「……老人に夢を語るか」

 

 グリンデルバルドの視線が師匠の目をとらえました。

 

「都合の良い夢を見せられると、つい目醒めるのが惜しくなる。だが、大人になるということは、現実を直視せざるを得なくなるということだ。たとえ、それが魔法族にとって不都合な真実であっても」

「ならば、目の前にある現実を見てください」

 

 師匠は一歩も引かず、グリンデルバルドを見つめ返しました。

 

「貴方の前にある、ひとつの真実を」

 

 ひょんなことから、イレイナたちが発明した便利な魔道具。それは若くて才能ある魔法使いたちによって日々改良が重ねられ、今や原型となった「両面鏡」とは全く別ジャンルのものへと生まれ変わろうとしています。

 

 

 けれどそれは、イレイナという天才が、世界にただ一人彼女しか行使できない大魔法を使ったわけではありません。

 

 例えば『ドローン・スニッチ』なんかは、それこそ技術的には単に「スニッチに両面鏡をくっつけただけ」という代物ですが、将来的にはあらゆる分野で活躍することが期待されています。

 

 『防呪チョッキ』に至っては、普通のチョッキに「盾の呪文」をかけただけの商品ですが、公的機関を中心に海外からも注文が来るほど。

 こちらはマグルの戦車に使われている爆破反応装甲のように、呪いを受けるとそれに反応して「盾の呪文」が展開される仕様です。現状ではまだ防げる回数に限界があり、失神呪文のような一般的な攻撃魔法なら数回程度、強力な呪いになると1回防げるか防げないかといったレベルですが、マグルのヘルメットのように少しずつ改良と普及が進んでいます。

 

 

 どれも蓋を開けてみれば、独創的な魔法というよりはコロンブスの卵のような発想の転換だったり、使い古された魔法や魔道具の組み合わせだったりと、既存の魔法の延長線に過ぎません。

 ですが、若い世代の柔軟な発想力と先人たちが脈々と受け継いできた魔法の蓄積が重なりあうことで、今まで見たことのないような魔道具が誕生したのです。

 

 

「この鏡の発明には、先ほど貴方が分析した魔道具の他にも多くの技術が流用されているわ。『忍びの地図』に『憂いの篩』、そして『組み分け帽子』……」

 

 師匠はグリンデルバルドにというより、自分に言い聞かせるように言った後に。

 

 

「そして、『分霊箱』よ」

 

 

 さすがのグリンデルバルドも目を見開き、師匠が微笑みました。

 

「ええ。これは“例のあの人”の分霊箱のひとつ、『リドルの日記』をベースにしているの」

「………無駄ではなかったと言いたいのか。闇の魔術でさえ……」

 

 グリンデルバルドの問いに、師匠はゆっくりと頷きました。

 

「私の考えは、ダンブルドア校長とは少し違うわ。闇の魔術だって、最初から存在しない方が良かったとは思わない。どんな存在だってそれ自体が邪悪だと決まってるわけじゃなくて、使い方次第ではみんなを幸福にすることだってできると思う。純血主義だって、議論すること自体は悪くないと思ってるわ」

 

 師匠の話を聞いたグリンデルバルドは唇の端を歪め、片眉を吊り上げました。

 

「たしかに、お前はアルバスとは違う。闇の魔術を恐れて嫌悪した男に比べて、目の前にいる魔女はずっと若くて恐れ知らずだ」

「私はこう見えて、けっこう魔法が好きなのよ。娘もきっと魔法が好きで、魔法界とその住人たちも好きなんだと思う。だから、出来ればより良い形で子供たちに魔法界を残していきたいの」

 

 師匠がまっすぐ答えると、グリンデルバルドは面白そうに笑いました。

 

 

「……いいだろう。お前の語る未来を、私も見てみたくなった。それはきっと、かつての私が信じていたものよりも―――より大いなる善となろう」

 




各陣営の思惑
・ヴィクトリカ
 「数は力。まずはとにかく同盟相手を増やしてヴォルデモート包囲網を構築して、純粋な戦力で優位に立つ」

・ファッジ
 「ダンブルドアとは協力を続けるけど、完全には信用できない。ヴィクトリカやルシウスら他の人間にも恩を売って、保険をかけておく」

・ダンブルドア
 「ヴォルデモートを唯一倒せるのはハリーだけ。ヴィクトリカとファッジは昔のクラウチ・シニアみたいなもので、重要な同盟相手だけど油断はできない」

・グリンデルバルド
 「?????」


 ヴィクトリカはダンブルドアと違ってトレローニーの予言を知らないので、かつてのクラウチ・シニアのように、純粋に正面戦力を整えてヴォルデモートを倒そうとしています(クラウチに比べると同盟重視というか物量重視で、パウエル・ドクトリン的な傾向)。


 なお、今回の契約によるグリンデルバルドとダンブルドアの関係は、それぞれ某SFアニメの執行官と監視官みたいな感じでイメージをしていただければ。
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