ハリー・ポッターと灰の魔女   作:アストラマギカ

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※オリキャラ(原作はほぼ名前のみ)の出番多めな話なので、苦手な方はご注意ください。
※人によっては不快感を覚える可能性のある表現が含まれております。ご注意ください。


第02章 ~グリモールド・プレイス12番地~

 

 僕――ハリー・ポッターがルーピン、ムーディ、そしてトンクスとキングズリーという2人の闇祓いに護衛されてプリベット通りを出てから1時間と少し、僕たちはロンドンのグリモールド・プレイス12番地という場所にいた。

 

 ムーディから渡された羊皮紙には「不死鳥の騎士団、その本部はロンドンのグリモールド・プレイス12番地に存在する」と書かれていたけど、ここがその本部らしい。

 

「ねぇ、ここが――」

 

 早速ルーピンに質問しようとした時、玄関ホールは恐ろしい叫び声に飲み込まれてしまった。

 

 

「汚らわしいクズども!ちり芥の輩に雑種、異形、出来損ないども!ここから立ち去れ!我が祖先の館を、よくも汚してくれたな――」

 

 

 声の主を振り返ると、それは等身大の肖像画だった。描かれた老女は涎を垂らし、白目を剥いて叫んでいるせいで、黄ばんだ顔の皮膚が引きつっている。

 

 ルーピンとトンクスが慌ててカーテンを引いて老女を閉めこもうとするも、カーテンは閉まらずに老女は更に鋭い叫びをあげたため、あまりの騒音に僕は両手で耳を塞いだ。

 

 すると、別の扉から長い黒髪の男――シリウス・ブラックが飛び出していた。

 

「黙れ、この鬼ババア。黙るんだ!」

 

 シリウスが吠えると老女は両眼を飛び出さんばかりに激怒し、ますます激しく叫ぶ。

 

「忌まわしや! 血を裏切る者よ、我が骨肉の恥!」

「聞こえないのか! だ――ま――れ!」

 

 シリウスが吠え、3人がかりでどうにかカーテンを元のように閉じると、ようやく老女の叫びが消える。シリウスは荒い息を吐き、長い黒髪をかきあげて僕を見た。

 

「やぁ、ハリー。今のが、わが親愛なる母親だ」

「……あんまり似てないね」

 

 純粋に見た目の感想を述べると、シリウスは何故か嬉しそうな顔になった。

 

「ここは私の両親の家だった。もう帰って来ることは無いと思っていたんだが……」

 

 最後まで言い終わらずに話を打ち切ったシリウスを見て、なんとなく状況を理解する。要するにこの家は、シリウスにとってのプリベット通り4番地なのだ。

 

 屋敷しもべ妖精の首がかかった飾り板がズラリと並ぶ廊下を通り過ぎ、シリウスが「さぁ、こっちだ」と大きな扉を開けると、その先にはけばけばしいピンクとライラック色の派手なホールが広がっていた。

 

「え、意外だけどシリウスそういう――」

「私の趣味じゃない」

 

 苦虫を5匹ぐらい噛み潰したような顔で答え、シリウスはホールの奥を顎で指した。

 

 そこにはウィーズリーおじさんにおばさん、ボロをまとった赤茶けた髪の男(マンダンガスという名前らしい)、スネイプ、そして見覚えのあるハンサムな男がいた。

 

 

「久しぶりだね、ハリー!」

 

 

 初めて会った時と同じように、勿忘草色のローブにとんがり帽子を小粋な角度で被り、輝くような白い歯でにかっと笑って近づいてくる。その男の名前を、僕は知っていた。

 

「ロックハート……先生」

 

 そこにいたのは、もう二度と会うことは無いだろうと思っていたギルデロイ・ロックハートだった。

 

「おっと、そこから先はダメですよハリー。なにせ、ここは騎士団のメンバーだけの会議ですからね!」

 

 2年ぶりに見るロックハートスマイルはますますウザさに磨きがかかっており、ロックハートがいると分かった途端、気になってたまらなかった『会議』に参加する気が失せていく。

 

 

「ハリーはこっち」

 

 トンクスに手招きされるがまま、トランクを引っ張って上の階にある別のリビングに入ると、ハーマイオニーとロンがそこにいた。

 

「久しぶり、ハリー……――ってほどでも無いわね」

「一応、直接会うのは久しぶりだから、別にいいんじゃないか?」

 

 本を読んでいたハーマイオニーが顔をあげ、飛び回っていたチビふくろうのピッグウィジョンを捕まえたロンが肩をすくめる。久しぶりに直で見るロンは、去年よりも更に背が伸びていた。 

 ハーマイオニーはボーダーのポロシャツにベージュの膝丈ハーフパンツで、ロンはストライプ柄のシャツにジーンズ。どちらもリラックスした様子で、僕が来たことにも特に驚いてはいないようだった。

 

 

「そうだね。本当に……()()が無かったら、と思うとゾッとするよ」

 

 

 僕はポケットの中から折り畳み式の化粧鏡のようなものを取り出す。去年、イレイナたちが使っていた『多機能両面鏡』の最新版『パランティア 3W』だ。最新モデルでは複数人の映像通話といった従来の機能に加えて、変幻自在術を応用して文字や数字を鏡面に表示できる『変幻自在術メッセンジャー』機能が追加され、若い魔法使いを中心にウケている。

 

「ほんと、シリウスに感謝しなきゃ」

「全くだよ。こんな高価なもの、誕生日にだって貰えやしない」

 

「だね」

 

 GM社で働いているシリウスは夏休みに入るなり、フクロウ便で最新機種を説明書付きで送ってくれた。ロンやハーマイオニーの分まで融通を利かせてくれ、皆でマグルのテレビ会議みたいな感じで夜中に会話できたから、下手すると今年が今までで一番楽しい夏休みだったまである。逆に会話が盛り上がり過ぎて、バーノン叔父さんたちに怪しまれないようにするのが大変だったほどだ。

 

 

 というわけで、実はウィーズリーおばさんが思ってるより多くの情報を、シリウスやロン、ハーマイオニーがこっそり教えてくれた。

 

 

 ヴォルデモートが巨人などの闇の生き物を自分の軍団に再び迎え入れようとしていること、それに対抗してダンブルドアは『不死鳥の騎士団』を再結成したこと、現在『死喰い人』と『不死鳥の騎士団』は激しいスパイ合戦を繰り広げていて拮抗状態にあること……。

 

 『不死鳥の騎士団』というのは、簡単に言うとヴォルデモートと戦うためにダンブルドアが作った自警団みたいなものだ。正規メンバーは20人より少し多いぐらいで、協力者まで含めるともう少し数が増える。

 

 起源はヴォルデモートが1970年代に仕掛けた内戦の時まで遡り、ルーピンやシリウス、そして僕の両親も騎士団員として闇陣営と戦っていた。ヴォルデモートが消えてからは活動休止状態だったものの、去年のヴォルデモート復活を受けて再結成されたという話だった。

 

 そしてグリモールド・プレイス12番地は、厳重な魔術的セキュリティの施されたブラック家の屋敷であり、正式な相続人であるシリウスがダンブルドアに本部として提供している……等々だ。

 

 

 **

 

 

 しばらくすると僕を護送してくれた闇祓いの一人、ニンファドーラ・トンクスがやってきて「なんか食べない?」と誘ってきた。

 トンクスは派手なピンク色の髪をした若い魔女で、黒いゴシックコートにチョーカー、ゴツめのブーツと中々にパンクな格好をしている。

 

「大人たちはまだ長話してるみたいだし、私、もうお腹ぺこぺこ」

 

 食事の話が出た途端、僕は自分も腹をすかしていたことを思い出した。ダーズリー家での食事は夏休み中に吸魂鬼がダドリーを襲ってからというもの、酷くなる一方だった(朝はリンゴ、昼はパン一切れとジャムにコンビーフ、夜はビスケットとチーズにチョコレート、と近世の英国マグル海軍の船員みたいな食事だった)から、トンクスの一言で急にお腹がすいてきた。

 

 

「じゃあ決まり! よし、ダイニングにレッツゴー!」

 

 

 

 そんなわけで階段を下りてダイニングルームに入ると、中には既に先客がいた。ロンの兄で魔法省勤めのパーシーと、その彼女のペネロピー・クリアウォーターだ。

 

「やぁ、ハリー」

「こんばんは、ハリー君」

 

 家の中でもパリッと糊のきいたワイシャツ姿のパーシーは相変わらずもったいぶった様子で挨拶してきて、ミニ丈の白いニットワンピースというラフな恰好をしたペネロピーも優しげに笑って手を振ってきた。

 

「ペニー、久しぶり! なんか会う度に美人になってるね?」

「あはは……それはメイクとファッションに多額の資金と時間をかけたおかげかな」

 

 にこにこと微笑む金髪ロングのペネロピーは、レイブンクロー監督生だった頃よりも垢抜けた印象で、なんというか顔もキラキラして華やかな印象を受ける。

 

「ていうか、目元のキラキラどうやったの?」

「最近、グリーングラス製薬の新作アイグリッターを使い始めたの。よかったらトンクス先輩も後で試してみる?」

「ほんと!? やたっ!」

 

 親しげに会話するトンクスたち。聞けば3人とも、どうやらトンクスがホグワーツにいた頃からの知り合いらしい。

 

「あれ、そういえばジェマは?」

「厨房だよ。“待ちくたびれたからスコーン作る”って言ってた」

「うっそ! 家庭的なジェマとか想像できないんだけど!?」

 

 トンクスが大袈裟なリアクションと共に目を見開く。

 

 たしかジェマというのは、パーシーたちと同世代のスリザリン女子監督生だったはず。話したことはないけど、パーシーやペネロピーのような優等生というよりは、カースト上位のイマドキ女子とかそっち系の印象だ。

 罰則は減点よりも身体に叩き込むタイプらしく、よく規則破りをした生徒に「インカーセラス‐縛れ!」の呪文をかけて連行していた(何故か縛られた生徒の多くは嬉しそうだった)。

 

「スリザリンがここに……?」

 

 軽い驚きと共に呟くと、ほっそりとしたスタイルの良い女性がキッチンからひょっこりと顔を出す。

 

「おっ、みんな来たみたいだね」

 

 軽やかな声と共に現れたジェマ・ファーレイは、ウェーブがかったセミロングの黒髪をショートポニテ風にまとめていて、グリーンのエプロンには少し小麦粉が付いていた。

 服装は薄手の黒のドレスシャツにシルバーのネックレス、ネイビーの八分丈デニムパンツ。腕まくりがこなれ感のあるカッコいい着こなしで、家庭的というよりはお洒落なカフェ店員といった雰囲気だ。

 

「あー……なるほど、そーいう系かぁ」

 

 トンクスが謎の納得を示すのを見て、ジェマが不思議そうに小さく首を傾げる。それから僕と目が合うと、どこか大人びた艶のある微笑みを浮かべた。

 

「こんばんは。一応、初めましてになるのかな? ジェマ・ファーレイです」

 

 ぎこちなく頭を下げると、ジェマは「Oh……」と少しオーバーなぐらいガックリと凹んだリアクションをしてから、茶目っ気たっぷりの口調で続けた。

 

「分かってはいたけど、やっぱりスリザリン相手だとみんな最初はそうなるよね……ハリー君とは、出来れば仲良くしていきたいんだけどなぁ」

「えっ、と……」

 

 言葉に詰まっていると、僕たちのやり取りを見てペネロピーとトンクスが苦笑しながら助け舟を出した。

 

「ハリー君、悪いこと言わないからジェマには近づかない方がいいよ? 油断してると食べられちゃうから」

「スリザリンだからって偏見は良くないけど、目の前にいるお姉さんは個人としてアレだから騙されないでね」

 

「ひどっ!?」

 

 二重にフレンドリーファイアを食らったジェマは、助けを求めるようにパーシーの方を見る。

 

「パーシーは私の味方だよね? その曇りなき(まなこ)で、真実を見定めてくれるよね?」

「そんなことより、そろそろスコーンが焼きあがる頃だから……」

「私の誉れはスコーン以下かーい」

 

 流れるようなノリツッコミを経てキッチンに引っ込むジェマを見て、つい堪え切れずに頬が緩んでしまう。同時に、今まで顔しか知らなかった先輩たちやトンクス、何より堅物だと思っていたパーシーの意外な一面に少しだけ驚く。

 

(グリフィンドールにいた時はもっとピリピリしてたけど、同世代の友達といる時は案外くだけた感じなんだ……)

 

 

 そんな僕の表情を読んだのか、トンクスがパーシーを見ながら少しからかうように言う。

 

「パーシー、昔よく“もし僕がレイブンクローに組み分けされてたら……”とか愚痴ってたもんね」

 

 するとパーシーは少しだけバツの悪そうな顔でもごもごと答えた。

 

「だ、誰だって一度ぐらいは“組み分け間違えたかな?”って思う時はあるじゃないですか」

 

 グリフィンドールに組み分けされたからといって、全ての生徒が馴染めるとは限らない。実際、生真面目な優等生タイプのパーシーは監督生時代、やんちゃなグリフィンドール生の扱いに苦労してたみたいだし、色々と思い悩んでたらしい。

 

「そういえばハーマイオニーも昔、レイブンクローに行きたがってた時期あったよな」

「ロン、どうして私がそう思う羽目になったのか、今一度胸に手を当てて理由を考えてみて」

 

「トンクス先輩は、ハッフルパフ以外に行きたいって思った時期ありました?」

「んー、グリフィンドールも賑やかで楽しそうだなー、とは思ってた」

 

 しばらくその話題で盛り上がっている内にスコーンも焼き上がり、バターの芳醇な香りを堪能しながら全員でテーブルを囲む。お腹が反射的にぐぅと音を立てるのを見て、ジェマが得意げな笑みを浮かべた。

 

「スコーンはプレーンとカレンズ(干しブドウ)、あとプロテインの3種類あるから好きなの沢山食べてね」

「3つ目の選択肢だけ主張強過ぎない?」

「えー、ハリーこそプロテインもっと補給しないと。クィディッチ選手は第一に根性、第二に練習量、第三に筋肉でしょ?」

「そうでした」

 

 オリバー・ウッドも似たようなことを言ってたから頷いてしまったけど、ハーマイオニーからは「いや、そうはならんでしょ」みたいな目を向けられる。僕は気づかないフリをしながらクロテッド・クリームとジャムを塗ったスコーンを3種類全て平らげ、ミルクティーを飲んだ後に気になっていたことを質問した。

 

 

「それで……その、2人はどうして騎士団に?」

 

 

 最初に答えたのはペネロピーだった。

 

「えっと、私たちとパーシーは厳密には騎士団員じゃないの。関係者というか協力者というか、保護対象みたいな」

 

 だから会議には入れてもらえないんだ、とペネロピーが苦笑すると、ジェマがおどけるように肩をすくめる。

 

「あの時は驚いたよ~。いきなりイレイナとダンブルドアが訪ねてきて、“例のあの人が復活しました”とか“君たちも狙われておる”とか言い出して。エイプリルフールにしては遅すぎない?って」

 

 どうやらイレイナも関わっているGM社の件で、ヴォルデモートに目を付けられてしまったらしい。

 

「私もジェマも半信半疑だったけど、そしたら今度は従業員のホワイトさんが目の前でシリウス・ブラックになって、もう何が何だか」

「てか、今さらだけど本名がブラックだから偽名はホワイトって、あまりに安直だったな」

 

 気づかなかった私たちも私たちだけど、とジェマが続けて。

 

 

「――というのが表向きの理由で、たぶんダンブルドアの本命は()()()

 

 

 彼女が顎で示した先には、僕が手に持った多機能両面鏡があった。首を傾げる僕に、パーシーが事情を説明する。

 

「魔法省がブラック逮捕に本腰を入れたせいで、フクロウ便と煙突飛行ネットワークの監視が強化されたんだ。僕個人としては騎士団と魔法省は連携を取るべきだと思うが、残念ながらダンブルドアは魔法省を完全には信用していない」

「当然だよ」

 

 自分でも驚くほど冷たい声が出て、パーシーは訝しげに目を細めた。

 

「ファッジはヴォルデモートが復活したことを認めようとしなかった。僕を嘘吐きだと決めつけて、イレイナの嘘を鵜呑みにした」

 

 急に氷のように冷たいものが胃に溢れて、わけもなく何かを傷つけたい衝動に駆られる。パーシーは小さく溜息を吐いてから、強引に話を元に戻した。

 

「まぁ……とにかく、だ。騎士団が秘密裏に活動している以上、魔法省に知られると面倒なことになる」

 

 曰く、政府から見れば反政府であろうと親政府であろうと、国家権力の統制下にない武装集団は治安を乱す存在でしかない、とのことだった。死喰い人がギャングだとすれば、騎士団は武装した自警団。警察からすれば、どちらも取り締まりの対象だ。

 

「だからダンブルドアは、魔法省の管理下にない連絡手段を欲した。そこで、ペニーたちのGM社の出番、というわけだ」

 

 ペネロピーがにこやかに説明する。

 

「今のところ魔法ワイヤレスネットワークは、まだ魔法省の統制下じゃないからね。もちろん正式な情報開示請求の手続きを踏めば拒否はできないけど、プライバシーを盾に裁判に持ち込めば多少は時間稼ぎ出来るし」

「じゃあ、イレイナもこのことを?」

「うん、知ってるよ。本人は今、フラン先生とマンツーマンで修業中みたいだけど」

 

 ちくり、と小さな痛みが胸を刺す。僕が何もできないでいる間にも、イレイナはとっくに動き出していて。

 言いようのない焦燥感が、殺気立った気持ちをざわつかせる。

 

(シリウスは“気にするな。ダンブルドアが認めたのなら、私はダンブルドアを信じる”って言ってたけど……)

 

 イレイナのことを考えると、氷のように冷たいものが胃に溢れる感じがした。

 

 そもそも、なんでダンブルドアはあんな提案を認めたんだろうか。

 僕よりも、イレイナの方が大事だと考えているからなんだろうか。

 

 

「……ダンブルドアは、今どこなの?」

「イルヴァーモーニーだ」

 

 答えたのはパーシーだった。

 

「そういえばイレイナとフラン・ビエラさんも、今はアメリカにいるらしい」

「っ――」

 

 再び、今度はダンブルドアに対する苛立ちが溢れてきて、暗い感情が心の奥で沸々と湧き上がってくる。

 

(僕が吸魂鬼に襲われている間、ダンブルドアはイレイナと一緒に? 僕に内緒で、フラン先生と一緒にイレイナにだけ特訓でもしてたのか?)

 

 チラッと目を上げると、困ったような表情をしたロンとハーマイオニーが目に入ってしまう。2人とも、僕の態度がまさに心配していた通りだという顔だ。

 一方のパーシーは既に「用事は済んだ」とばかりに日刊予言者新聞に視線を落としながらペネロピーと肩を寄せ合っていて、ジェマとトンクスはスコーンに蜂蜜とピーナッツバターを塗りながら「カロリーやばw」などとクスクス笑っている。

 

 そのどれもが急にくだらなく思えてきて、気づけば冷たい声が漏れていた。

 

 

「そうかい。ダンブルドアはきっと、僕じゃ役に立たないと思ったんだろうな」

 

 

 分かりやすく不機嫌な声に、ロンは呆気にとられたような顔をしてから気遣うように言う。

 

「バカ言うな。ダンブルドアがそんなことを思う訳ない」

「じゃあ、なんで僕はずっとダーズリーのところにいなくちゃいけなかったんだ?」

 

 必死に普通の気軽な声を保とうとするも、声に皮肉が混ざっていくのが止められない。

 

「ダンブルドアは騎士団を再結成して、魔法省に隠れて色々な活動をコソコソやって、イレイナとマンツーマンでレッスンする余裕まであるのに、僕には一言も無いままほったらかしだ。きっと僕がプリベッド通りで優雅に休暇を満喫してるのを、邪魔しちゃ悪いとでも思ってたんだろうよ」

 

 嫌味を言っている間にもロンとハーマイオニーは困ったようにチラチラと目配せしていて、まるで自分だけ除け者にされたような感覚に更に気持ちがささくれ立つ。

 

「ああ、おかげで思い出に残る休暇になったよ。まさか夏休み中にダドリーと一緒に吸魂鬼に襲われた挙句に裁判だなんて、そこらのホグワーツ生じゃ滅多に体験できないことだしね」

 

 ひとたび口に出してしまうと、もう止められなかった。心の中に溜め込んでいた不満が、堰を切ったように次々と口から溢れ出していく。

 

 

「僕だって、あいつの復活を目撃したんだ。僕も一緒に戦って、あいつから逃げおおせた。イレイナだけじゃない――なのに、どうしてダンブルドアはイレイナばっかり構うんだ?」

 

 

 声を荒げるとロンは目を見開いて黙り込み、ハーマイオニーは泣きそうな顔になった。トンクスとペネロピーは驚いたような表情をして、パーシーとジェマは興味深そうに僕を覗き込む。

 

 

 しばらく気まずい沈黙が支配した後、静寂を破ったのはジェマ・ファーレイの怜悧な声だった。

 

 

「君、本当に分からないの?」

 

 

 ジェマの表情は柔らかだったが、声にはナイフのような冷やかさが滲んでいた。

 

「どうしてダンブルドアがイレイナばかり贔屓するかなんて、理由は1つしかないでしょ」

 

 僕が睨みつけると、ジェマは挑発するように続ける。

 

「ほら、さっき自分で言ってたじゃん――“ダンブルドアはきっと、僕じゃ役に立たないと思ったんだろうな”って」

 

 口の端から鋭い犬歯がのぞき、ジェマは何かを企むように微笑む。

 

「私もダンブルドアに同意だね。だって君、強くないし」

「違う!」

 

 思わず叫んでいた。

 

「僕は弱くない――ここにいる誰もが手に負えないようなことだって、色々やり遂げてきたんだ! 賢者の石を守ったのは誰だ? 僕だ! リドルだって、吸魂鬼だって僕がやっつけた! ドラゴンと戦って、水中人とスフィンクスだって出し抜いた――ダンブルドアはそれを知ってるはずだ!」

 

 何か言い返そうとするジェマを腕で遮り、呆れたような顔と共に口を開いたのはパーシーだった。

 

「子供相手に、いちいち煽るのはよすんだ。ハリーはまだ15歳なんだぞ」

「そうだよ。私たちも一応は大人なんだし、優しく言い聞かせてあげないと」

 

「―――ッ」

 

 

 もはや我慢の限界だった。

 

 

「僕はもう子供じゃない! 並みの大人だって出来ないようなことを、色々やってきた!」

 

 

「じゃあさ」

 

 猫のようなグリーンの瞳が細められ、再びジェマが口を開く。

 

 

「なんでセドリックは助けられなかったわけ?」

 

「っ―――」

 

 

 言うまでもない。

 

(……僕が弱かったからだ)

 

 ショックでうまく言葉が出てこない僕に、パーシーとペネロピーが子供を諭すように優しく声をかけてくる。

 

「気にするな。ジェマはああ言っているが、それが普通だ」

「そうだよ。逃げ帰っただけでも、よく頑張ったと思う」

 

「おい、そういう言い方はないだろ!」

 

 ピリピリしていく空気に、ついにロンが口を挟んだ。ハーマイオニーは不安そうに先輩たちとロンを交互に見やり、トンクスは黙って成り行きを見守っていた。

 

「逆に聞くけど、兄貴だったら助けられたのかよ」

「少なくとも、お前やハリーよりは可能性は高い。なにせ僕は監督生で、主席で、12ふくろうだ」

「そういう話じゃないだろ」

 

「いや、そういう話だよ。学力こそパワーだから」

 

 ペネロピーが杖を取り出し、不敵に微笑んだ。杖先から火花がバチバチと迸り、ロンが思わず後ずさりすると、その様子を見たジェマがけらけらと笑う。

 

「ちょっとペニー、あんまり脅しちゃダメでしょ。いくらグリフィンドールだって怖いものは怖いんだし、男の子のプライドとかも考えてあげないと」

 

 もはや嘲笑を隠そうともしない先輩たちに対する怒りがこみ上げてきて、気づけば思わず杖に手を伸ばしていた。

 

 

「へぇ、やる気?」

 

 

 僕が杖を抜いたのを見て、ジェマは細い眉を吊り上げた。

 

「まさかとは思うけど、監督生3人を相手に勝つ気でいるわけ?」

「たかが監督生だ。しかも、2年前に引退済みの」

「そうこなくっちゃ」

 

 いいね、とジェマが好戦的な笑顔を浮かべた。

 

「わかった。もし君が勝ったら、何でも言う事を聞いてあげる。知っている情報は全部教えるし、騎士団の会話にも入れてもらえるよう私たちから頼んでみる。断られたら、盗聴できるようGM社の技術力を提供する――どう?」

「それでいい」

 

 負けるもんか、と思った。

 

 この際、協力なんてどうでもいい。ただ、目の前にいる傲慢な先輩たちを叩きのめしたいという衝動に駆られて、僕は考えるより先に頷いていた。

 

 オッケー、とジェマがパーシーたちの方を見る。

 

「久しぶりに3 × 3(スリーバイスリー)でどう?」

 

「構わない」

「パーシーがOKなら私も」

 

 続けて僕が視線を向けると、ロンは迷うことなく杖に指をかける。ハーマイオニーは少しだけ目を瞑って深呼吸した後、覚悟を決めたようにゆっくりと杖を手に取った。

 

「決まりだね」

 

 4人の了解を取り付けたジェマがトンクスの方を見ると、トンクスは呆れた顔で溜息を吐いた。

 

「はいはい、審判は私がやるよ。まったく、グリフィンドールもスリザリンも血の気が多いんだから……」

「こういう生意気な子供相手だと、言葉で語るより身体で分からせた方が早いんですよ。みっちり力の差を思い知らせて、上下関係を叩き込まないと」

 

 トンクスは苦笑してから、「こっち来て」と手招きした。

 

 

 **

 

 

 誘われるがままに連れてこられた場所は、巨大な地下倉庫だった。無機質なコンクリートで作られた空間は、マグルの小規模なフィットネスセンターぐらいの大きさがあり、決闘するには十分な広さだ。

 

 驚く僕たちに、トンクスが冗談めかして言う。

 

「ここがブラック家の“秘密の部屋”なんだ」

 

 どうも古い時代には貴重な魔法生物なんかを閉じ込めていたこともあったようで、十分な防音設備と魔術的な防御が施されているらしい。

 

 

「じゃ、チームごとに向かい合って並んで」

 

 トンクスの掛け声に、6人ともこくりと頷いて並ぶ。

 

 

「それじゃ、いくよ」

 

 

 僕たちは互いに向き合い、杖を構えた。

 

 

「さん――に――いち―――――――はじめ!」

 




 先輩たちのキャラが途中で変わってますが、そういう仕様です(念のため)。

 ロックハート再登場。2巻で「理想的な贈り物は、魔法界と非魔法界のハーモニー」みたいな話もあったので、改心した本作ではまさかの騎士団メンバー入り。扱いはマンダンガスといい勝負。魔法の腕はからっきしなので、有名人という立場を利用した後方支援がメイン。

 地味に離反してないパーシー。ただし騎士団とは少し距離をとっていて、正式メンバー加入はしていません。フラーとかマダム・マクシームみたいな感じ。

 そういえば、この時期の情緒不安定気味なハリー、どこまでが思春期でどこまでがヴォルデモートの影響なんだろ・・・?
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