ハリー・ポッターと灰の魔女 作:アストラマギカ
※一部再構成
「フィニート・インカンターテム‐呪文よ、終われ」
トンクスが唱えると同時に解呪され、全身が自由になる。場外に運び出された僕に気遣うように、トンクスは声をかけた。
「どう? 少し落ち着いた?」
「……多少は」
完全に僕の失態だった。せっかく3対2に持ち込めたのに、安い挑発やフェイントで冷静さを失った結果がこのザマだ。
思い出すだけで、悔しさと羞恥心のあまり死んでしまいそうになる。吸魂鬼をやっつけたとかドラゴンと戦ったとか大見得を切っておいて、みっともなく返り討ちにあって。
(これじゃ大人たちと張り合うどころか、ロンやハーマイオニーのお荷物じゃないか……)
――まだ目の前で続いてる決闘は案の定、先輩たちが圧倒していた。
パーシーはポーカーフェイスのまま、じわじわと機械のようにロンを追い詰めにかかっている。堅牢かつ効率的な動きで体力の消耗を抑えつつ、ロンが疲労や焦りで精彩を欠いたのを見計らってから、ついに反撃に転じた。
「エクスパルソ‐爆破」
「ボンバーダ‐砕けよ」
一歩前に進む度に、力強い一撃を。
まるでスチームローラーのように容赦なく、驚くほど強い力で。
じわじわと一歩ずつ近づいてロンの逃げ場を断って追い詰めていく。
「うわっ―――!?」
対するロンの方は満身創痍で、ぜいぜいと荒い息をしている。疲れ切って、もはや純粋な力比べでは敵わない。パーシーの攻撃を防ぐ力は残っておらず、なんとか避けて躱すことしかできなかった。
「コンフリンゴ‐爆発せよ」
疲労で緩慢になっていくロンとは対照的に、パーシーの動きはむしろスピードを増していくように見えた。勝ち筋が見えたことで、これまで慎重に温存していた体力を一気に解放しているのだ。
(最初からこうするつもりだったんだ……)
試合を通じてのカウンター。最小限の動きで効率的に防御し、敢えて試合を長引かせて相手を疲弊させ、相手が精彩を欠いてから反撃に転じる。
やがて、ロンは逃げ場のない隅に追い詰められていき――。
「アグアメンティ‐水よ」
パーシーの杖から勢いよく噴出された水を、なんとかロンは『盾の呪文』で防いだ。しかし、パーシーは続けて更に呪文を重ねがけた。
「アクアブリオ‐水牢」
今度は水が溶けたガラスの繭のように、『盾の呪文』ごとロンを覆っていく。徐々に力比べに耐えられなくなったロンの防御呪文は水牢に飲み込まれ、パーシーが杖を一振りすると同時に地面に叩きつけられた。
「げほっ――ごほっ」
水が大きな音を立てて地面に落ち、びしょ濡れになったロンが出てくる。どう見ても戦闘不能だ。
――そして、残るハーマイオニーはというと。
「ルーモス・ソレム-太陽の光よ!」
ジェマの杖から目も眩むような閃光が迸る。暗闇を照らす呪文を使った目潰しだ。
対峙するハーマイオニーは反射的に「ノックス-消えよ」と反対呪文を唱えかけ―――それが目を潰された後では無意味なことに気づき、すぐ『盾の呪文』に切り替えた。
「プロテゴ-護れ!」
「ステニウス-くしゃみ呪い!」
間一髪、『盾の呪文』が呪いを弾く。ジェマはひゅうと口笛を吹いて、面白がるように口角をあげる。グロスを塗った艶のあるピンク色の唇がぬらりと光って、笑みに分類されるであろう妖艶な表情が浮かぶ。
そして。
「アバダ・ケダ――」
まさかの『死の呪文』が紡がれ、慌ててハーマイオニーが反撃に移ろうとする。大抵の呪いから守ってくれる『盾の呪文』も禁じられた呪文の前には無力だからだ。
「エクスペリ――」
「シレンシオ-黙れ」
僅かにジェマの方が早かった。ハーマイオニーの声が消えて、動きだけ綺麗に武装解除術が決まる……が、まだ無言呪文を習得してない彼女の杖からは何も出てこない。
「インカーセラス‐縛れ」
ぐるぐる巻きにされて悔しそうに睨んでくるハーマイオニーに、ジェマが上から目線で告げる。
「次からは相手の詠唱だけじゃなくて、杖の動きも確認しときなよ。今みたいなフェイントに引っかからなくなるし、無言呪文にも対処できるようになるから」
上から目線の口調は相変わらずだけど、アドバイス自体は的を射ている。ハーマイオニーは渋々といった表情で頷き、そのまま脱落となった。
***
2ゲーム目が終わるなり、僕は2人の前で頭を下げた。
「さっきはごめん! ついカッとなって……」
そんな僕を見て2人は顔を見合わせ、おかしそうに吹き出した。
「いちいち気にするなって。誰だってイライラして、やらかしちゃうことぐらいあるって」
「去年の誰かさんみたいにね」
ハーマイオニーが茶化しながら言うと、ロンは顔を赤らめて「蒸し返すなよ」と耳をかく。そんな2人に勇気づけられ、ふっと頬を緩めると。
「なになに? 青春~?」
「放っておきなよ。可愛くていいじゃん」
「なんにせよ、お気楽なものだ」
茶化してくるジェマとペネロピーに、呆れたように溜息を吐くパーシー。
「いやっ、これはその――」
急に気恥ずかしくなって反論しようとすると、僕の言葉を遮るようにペネロピーが再び口を開いた。
「でも、ちょっと安心したよ。ハリーが案外、普通の子で」
「それはどういう……」
「だって“生き残った男の子”なんて言うから、やっぱり特別なのかなぁって」
特別――その言葉に、心の内側にヒヤリとしたものが落ちた。
「別に……僕は特別扱いされたかったわけじゃない」
口ではそう強弁したものの、その言葉は思いのほか心にズシリとのしかかった。なぜなら僕自身、心のどこかで「ダンブルドアに目をかけられている」という自惚れがあったからだ。
別にダンブルドアが僕を嫌うようになったわけではない。ただ、ここ最近は――傲慢な言い方をすれば――その他大勢と同じ「普通の子供」として扱い、相応に距離を置いているだけ。
だから、僕の言葉は届かなくなって。
代わりにダンブルドアは、イレイナの言葉に従ってファッジたちとの連携を重視するようになった。一生徒の信頼よりも、魔法省という巨大組織の機嫌を伺っている。真実を隠蔽してまで。
大人というのはそういうものかもしれないけど、尊敬していた人のそういうズルい一面を知りたくは無かった。
「ダンブルドアもイレイナも、一体いつから日刊預言者新聞の回し者になったんだ? そっちの方が都合が良いからってシリウスを偽の犯人にでっち上げて、都合が悪いからってヴォルデモート復活は隠蔽されて……そんなの、どう考えてもおかしいじゃないか」
イライラしながらヴォルデモートの名前を出すと、みんなの表情にギクリと緊張が走った。けれど、誰にも何も言わない。続きを促すように黙って僕を見ている。
「“ヴォルデモート復活を信じたくない”って、そんな子供みたいなお気持ちで現実を否定して、本当のことを言ったら逆に嘘つき呼ばわりだ。そればかりか、無実のシリウスを犯人だって信じ込もうとしている――2人も、本当のことが分かっているはずなのに!」
溜まっていたモヤモヤを吐き出すと、しばらく地下室に沈黙が降りた。
「ハリー君は、さ」
ペネロピーが口を開いた。
「ダンブルドア校長とイレイナに謝って欲しいの?」
ズバリと言われ、なんとも微妙な空気になる。
自分の正しさを認めさせたい、という気持ちが無いわけじゃない。けど、じゃあ2人が謝れば解決する問題なのかと聞かれれば、そうでない事ぐらいは分かる。
「謝罪なんていらない。ただ単に、2人に本当のことを言って欲しいだけだ」
僕の言葉に、ペネロピーは少し困ったように笑った。駄々っ子をいなすような、大人の苦笑いだった。
「ハリー君って、本当に真っすぐだね」
「皮肉?」
含みのある言い方に、つい刺々しく返してしまう。
「ううん、懐かしいなって思っただけ。私も昔はそうだったし、パーシーなんて今の比じゃなかったもん」
唐突に矛先を向けられて「昔の話だ」とそっぽを向くパーシーを見ながら、ペネロピーが微笑む。
「けど、世の中には色んな人がいるから、真っすぐ過ぎると貫き通すのは難しいかも」
「だから、嘘をつくのが正解って?」
「そういう考え方を『必要悪』って思う人も多いのは事実だね」
遠回しに正当化されて、眉間に皺を寄せた。そんな僕の表情を見て、ペネロピーは言葉を続ける。
「もちろん、理不尽だとは思うけど……間違ってる側にいた方が都合いいって人が多ければ、多数決を通じて正義になるのは世間の宿命だよ。いくら自分が正しいって確信があっても、それを押し通して空気を変えることができなければ、いたずらに和を乱すだけ」
実に優等生らしい意見だ。きっとイレイナなんかも、基本的にはそっち寄りの人間なんだろう。集団をまとめるのが得意な人間は、自然とそういう考え方になるのかもしれない。
「どんなコミュニティにも理不尽な一面はあるし、かといってその全てを変えるのは無理。なら、まずは環境に合わせて自分を変えた方が効率的でしょ?」
「……」
効率的なのは理解できる。
でも、共感はできなかった。
そもそも効率の問題なのか、という疑念が胸の中でぐるぐると渦巻く。
子供っぽい考えかもしれないけど、やっぱり変わるべきは理不尽を強いている側じゃないのか。
「……集団をまとめる側としては、便利な理屈だね」
少し嫌味っぽく返すと、ペネロピーの微笑みが強張った。
「そうかも。集団を守る責任があると、下手に喧嘩は売れないからね。日刊予言者新聞を敵に回したらどうなるか、知らないわけじゃないでしょう?」
去年のことを持ち出され、口をつぐむ。
黙っていると、代わってパーシーが口を開いた。
「集団において、数は正義だ。少数意見を無理に通そうとすれば、集団はそれを民主主義に対する宣戦布告と受け取る。正当防衛や秩序維持という名目で、空気を読まずに集団の和を乱す人間に報復することは、イジメでもリンチでもなく罰だと解釈されて暴走する」
「ダンブルドアはそれを怖がってるわけ?」
「恐らくは」
皮肉で言ったはずなのに、パーシーはあっさりと肯定した。ダンブルドアほどの魔法使いが、ファッジのような小物とそれに追随する人達を恐れるだなんて。
「ダンブルドアだって、万能じゃないからね。思い通りにならないことぐらい、沢山あるでしょ」
口の端を吊り上げ、今度はジェマが意地の悪そうな笑みを浮かべる。
「だからホグワーツでも純血主義だとか、イジメが未だ残ってるわけで」
「……僕を庇い切れない、って言いたいの?」
別に怖くは無かった。どうせ今のままでも、独り除け者にされてプリベット通りに閉じ込められるだけなのだ。そっちの方がマシだと思っているなら、ダーズリー達のところで過ごした暗い日々のことを軽く見過ぎている。
あるいは、シリウスのことだろうか。だとしても、嘘の殺人犯にでっち上げられ、素性を隠して生きていく人生なんてまっぴらごめんだろう。
しかし、ジェマは吐息交じりの冷笑をこぼし、わざとらしくかぶりを振った。
「それもあるけど――せっかくレイブンクローに新しいカノジョができたばかりなのに、初恋の女の子を傷物にされたくないでしょ?」
一瞬、言われた言葉の意味が分からなかった。どうして僕個人の振る舞いに、チョウが出てくるのだろうか……そこまで考えて、血の気が引いていく。
「この件にはチョウは関係ない!」
カッとなって叫んだ僕に、ジェマは「これだから世間知らずな子供は」とばかりに目を細めた。
「いやいや、ダンスパーティーで踊った相手が無関係ってことはないでしょ。まだデート期間なのか交際中なのかとっくに別れたのかは知らないけど、スポーツじゃないんだからルールもフェアプレーも無い」
獲物をいたぶる肉食獣のような、ねっとりとした視線が絡みつく。
「ねぇ、ハリー。もし初恋の女の子が君のせいで学校に来れなくなったり、その親が職場で干されて家庭崩壊に追い込まれたりしたら、君はどう責任を取るつもりなの?」
「僕、は」
言葉の先が出てこない。どれだけ敵が強大でも戦うつもりだったのに、自分と関わったというだけで無関係な誰かが巻き込まれると分かった途端、喉の奥がカラカラになる。
「人は独りじゃない。だから誰かをコントロールしたい時は、まず外堀から埋めていくの」
「っ……!」
甘かった、と唇を噛む。
自分が間違ったことを言ったとは思わないけど、それで周りの人にどう影響が及ぶかまで、考えられていなかった。
自分ひとりなら、話は単純だ。最後まで堂々と真実を主張すればいい。
――けれど、それにロンやハーマイオニー、ウィーズリー家のみんな、グリフィンドールの友人たち、ハグリッドやルーピンまで巻き込まれるのだとしたら?
ウィーズリーおじさんは職場で干されるかもしれない。ジニーやネビルが、学校でイジメに遭うかもしれない。ルーピンやペネロピーの働くGM社が魔法省を敵に回せば、倒産して大勢の従業員が路頭に迷うかもしれない。
「今はまだダンブルドアと魔法省が連携できてるから、向こうも簡単には手出しできない。たしかにイレイナの嘘は、君とシリウスを傷つけたかもしれない。けど、それで守れたものも、決して小さくは無いんだよ」
「……」
「どうせマイナスにしか選べないなら、消去法で小さなマイナスを選ぶのがベター。環境が間違ってるなら、その間違った環境に合わせるしかない――より大きな善のために、ね」
視界の端で、ハーマイオニーが唇を噛んでいるのが見えた。去年のスキーターの事件では当事者だっただけに、世間を敵に回した時の怖さは身に染みているのだろう。
――けれど。
「いや、どう考えても今の話はおかしいだろ」
恐れることなく、正面から堂々と反論したのは―――ロン・ウィーズリーだった。
「“例のあの人”が復活したのは本当なんだろう? なら、ハリーは何も間違っちゃいない。世間がそれを認めないで同調圧力だとか脅しをかけてくるんだとしたら、それは世間の方が間違ってる」
間違った意見に屈して嘘をつくのが正しいわけない、とロンは言い切った。
「仮にそのせいで誰かが傷つけられたとしても、悪いのは傷つけた奴じゃないか。ハリーに責任転嫁するのはおかしいよ」
イジメはイジメる奴が絶対的に悪い、そうシンプルに切り捨てていく。
「もし自分が正しいって確信があるなら、絶対にそれを曲げちゃダメだ。たとえ僕が疑っても、ね」
「ロン……」
「結果論かもしれないけど、僕はハリーが最後まで自分を貫いてくれて良かったと思う。そりゃ大変だったと思うし、僕もイヤな態度とったけど……あの事があったから、今こうしてハリーを信じられるんだ。たとえ僕が自分の目で『例のあの人』の復活を見ていなくても、“ハリーが言うならきっと本当のことなんだ”って信頼できる」
信頼―――ロンの口から出てきたその言葉を聞いて、ストンと腑に落ちるものがあった。
「兄貴たちの言ってることも理解はできるよ。世の中は正しいだけで通るほど甘くないし、そのせいで周りの人が傷つくこともある」
けどさ、と続けて。
「ハリー、君の周りにいる人たちは――どんな人たちだい?」
頭の中で何かが、かちっと音を立てたような気がした。
ロンは。ハーマイオニーは。
ウィーズリーおじさん、おばさんは。
シリウスにルーピン、ハグリッドは。
「君が理不尽な嫌がらせを受けているのを見て、“巻き込まれたくない”なんて思うような人たちかい?」
首を全力で横に振る。
―――そんなわけがない。
「そうとも」
ロンはニヤッと笑ってから、ジェマたちに挑発するような顔を向けた。
「さっき“周りの迷惑を考えろ”的なこと言ってましたけど、先輩と一緒にしないでください」
「ほう?」
「親友が嫌がらせに遭ってるなら、加勢して戦ってやります。もし僕たちに遠慮して理不尽に屈したら、そんな気遣いはいらないって逆に怒ります。その程度の迷惑はお互いさまだって、ぜんぶ一緒に背負ってやりますよ」
言葉にしてもらって、やっと思い出す。
――そうだった。僕たちの周りにいる人たちは、そういう人たちだ。
間違ったことには決して屈せず、どんな強大な敵にも立ち向かう。誰か助けるために、傷つくことだって恐れはしない。
「ロン、お前は……」
パーシーが驚いたように呟く。
「そうだよ、僕はロン・ウィーズリーだ。パパとママの息子で、兄貴たちの弟、そしてジニーのお兄ちゃんだ」
誇らしげにロンが胸を張る。
「僕の家族がどんな人たちか、パーシーもよく知ってるだろう? たとえ嫌がらせに巻き込まれたって、ハリーを見捨てるもんか」
まっすぐにパーシーを見つめるロンの背中には、迷いもブレもなかった。ただ、信じていることをそのまま素直な言葉にしているという、強さと誠実さがあった。
「私も」
続いて前に足を進めたのは、ハーマイオニーだった。
「私だって、ハリーを見捨てたりなんてしないわ。不特定多数の保証なんていらない。何を信じるかは自分で決めるし、必要なら戦うまでよ」
挑発するように言い切った後、「だって」と少し表情を緩めて。
「イレイナやダンブルドアだって、たまには間違えることぐらいあるでしょうし」
茶目っ気のある表情でそう言うと、隣にいたロンが「ぷっ」と吹き出した。
「おいおい、まさか君の口からそんな言葉を聞く日が来るなんてね」
「あら、これでも学年1位の秀才のつもりよ」
「今のところイレイナと引き分けじゃなかったっけ?」
「だから今年こそ勝ってやるって言ってるの」
それから、ハーマイオニーは真っすぐに僕の顔を見た。
「貴方はダンブルドアでもイレイナでもない。ファッジでもないし、私たちでもない。貴方は貴方よ、ハリー。他の人に出来て貴方に出来ないことだってあるし、ハリーにしか出来ないことだってある」
そっと、僕の胸に手を当てる。
「だから、自分を信じて」
(―――っ)
そうか、と気づく。
たしかに先輩たちの言う通り、不都合な真実を主張し続けることは難しいのかもしれない。付いていけずに離れてしまう人たちだっているのかもしれないけど、彼らを責めることもできない。
だから、イレイナやダンブルドアは声高に真実を主張することを諦めた。それもきっと、1つの答えではあるんだろう。
(でも、僕はまだ諦めたくない)
もちろん諦めなければ報われる、なんて保証はない。
でも、逆に必ず報われないことだって証明できない。
――じゃあ、自分はどっちなんだ? 自分を貫き続けた果てに報われる日が来るのか、来ないのか。
(そんなの、今はまだ誰にも分かりっこない)
きっと、その答えを知るには、信じた道を進み続けるしかないんだろう。
「僕、決めたよ」
すぅ、と大きく息を吸う。
「恨み節を吐くのは、もう止めにする。結局、やりたい事があるなら、つらくても大変でも1人でも、やるしかないんだ」
本当は、無意識のうちに最初から分かってたのかもしれない。ただ、覚悟が決まらなかったんだろう。
でも、ロンやハーマイオニーのおかげで、ようやく腹をくくれた。
(なら、後は突っ走るだけだ)
だから、僕は再び杖を固く握って。
「最初の約束、まだ有効ですよね? 僕たちが勝ったら言うこと何でも聞くって」
「わーお、まだ勝つつもりがあるんだ?」
おどけたような口調のジェマに、僕の方も挑戦的に笑い返す。いつまでも煽り耐性が無いと思うなよ、と満面の笑みで綺麗なアーモンド形の双眸を真っすぐに見据える。
「今までの態度は謝ります。でも、自分の意見は曲げません。今度こそ勝って証明してみせます。どれだけ大変な道でも、諦めなければ可能性はゼロにはならないって」
「私たちを倒すのは、その最初の証明ってわけ?」
「はい。まだゴチャゴチャした難しい話は整理しきれてませんけど、まずは目の前にある壁をぶっ壊してから考えます」
吹っ切ったように答えると、ジェマはクスっと口元を緩めた。
「いいね、だいぶ男前な顔になった。ここだけの話、実は私、そういうのに弱いんだ」
「なら、容赦なく倒しにいかせてもらいます」
期待してる、とウィンクして自陣に戻るジェマ。パーシーとペネロピーもそれぞれ杖を構えて、準備万端のようだ。
そうして、みんなで決闘用コートに戻っていく。休憩時間を挟んだこともあって、ロンとハーマイオニーもすっかり回復している。僕たちは良くも悪くも、まだまだ若いのだ。
「じゃあ、決闘再開といこうか」
ご無沙汰しております。久々にようやく投稿できた……。
今回の話、原作と違って魔法省が敵に回ってないので、ハリーも先輩たちもお互いに憶測でものを語ってるのがミソ。
なのでハリーは原作より楽観視してて、逆に先輩たちは必要以上に不安を煽ってます。
原作でもこの辺からハリーの親離れならぬダンブルドア離れが始まっていきますが、最後まで読むとハリーが独り立ちする上でこの反抗期は必要だったんじゃないかなという気もしたり。