ハリー・ポッターと灰の魔女 作:アストラマギカ
威勢よく啖呵を切ったものの、結局、決闘は最後まで地力の差で押し切られて負けてしまった。
僕たちも奮闘したけど、ゲームメイクは完全に向こうのペース。最初の2試合を持久戦にしたのも僕たちの行動パターンを解析するつもりだったらしく、最初はうまくいってたけど途中から一気に逆転されてしまった。
「いや、この流れで勝たせてくれないのかよ!?」
試合終了後、ロンが大声でぼやくも、返ってきたのはパーシーとペネロピーの冷静な言葉だった。
「真剣勝負だからな。手抜きはよくない」
「それに君たち、勝ちを譲られて喜ぶタイプでもないでしょ?」
それは、たしかにそうだけど……。
「とまぁ、カッコつけたい先輩たちはこんなこと言ってるけど」
トンクスが割って入り、先輩たちに意味深な笑顔を向ける。
「ぶっちゃけ、3人とも割と余裕なかったでしょ。なんか強敵オーラ出して誤魔化してるけど、正直やられそうになった瞬間ちょいちょいあったよね?」
「ちょっと、バラさないでくださいよー!」
「ふっふっふ、ハリーたちは誤魔化せても現役闇祓いの目は誤魔化せないのだ」
謎口調でドヤ顔を決めるトンクス。結局一回も勝てなかったから惨敗なのかと思いきや、トンクスに言わせれば結構いいところまで食いついてたという。
「3戦目だけど、弱点だったゲームメイクはかなり改善されてたと思う。呪文発動に時間のかかるペニーと防御一辺倒のパーシーを最低限の労力で妨害して、場を引っ掻き回すジェマから優先的に潰す。その順位付けは妥当な判断だよ」
「でも、すぐひっくり返されて……」
「そこは純粋に経験値と知識量の差があるから仕方ないね。パーシー達が平気な顔してたから気づかなかったかもだけど、私から見れば焦ってるのバレバレだったし、最後だいぶ強引に力業で押し切ってたし」
「そうなんですか?」
「うん。出し惜しみなしで体力・気力を総動員していたから、今はもう3人とも出涸らしだよ」
それからトンクスはビシッ!と効果音がしそうな勢いで先輩たちを指さした。
「ていうか、3人ともホグワーツ時代より弱体化してるじゃん! どうした、魔法省とGMのデスクワークでなまった?」
「あはは……」と苦笑いするパーシーたちに、トンクスは「もー」と口を尖らせた。
「由緒正しき『杖十字会』の先輩として、すっかり腑抜けた後輩にはガッカリだよ」
「そ、そこまで言わなくても……」
「いーや、ここで会ったのも何かの縁! ここぞとばかりに言わせてもらう!」
妙な言葉遣いでトンクスは声を張り上げ、その矛先がパーシーへと向けられる。
「まずパーシーの場合、慎重すぎて周囲へのフォローが弱い! タイマン勝負だったら最後まで自分が生き残れば勝ちだけど、チーム戦だと他のメンバーがその分だけ集中砲火に遭うでしょ。実際、3戦目はハリーたちから後回しにされて遊兵化してたよね?」
「……はい」
「独創性の高い強力な呪文にこだわるのは、ペニーの良くない癖だよ! 決闘は試験じゃないんだから、呪文のオリジナリティより費用対効果の方を重視して、もっとガンガン攻めてかないと。ハリー達からも途中で最弱扱いされてたじゃん」
「あはは……」
「ジェマはあれだね、純粋に全てがたるんでる」
「ひどいっ!?」
「特に『開心術』、うまいこと『姿現し』のアクロバット体術で誤魔化そうとしてたけど、人数が増えた途端に精度が明らかに落ちてた。あと話術でやたら目を合わせようとするのと煽って心の隙を作ろうとするのも、あからさま過ぎてハーマイオニーあたりは薄々気づいてたんじゃない?」
ハーマイオニーが「やっぱり……」と頷き、ロンが首を傾げた。
「『開心術』って何だい?」
「簡単に言うと、心を覗き見る魔法だね」
トンクス曰く、目を合わせることで相手の思考や感情を読み取るだけでなく、過去の記憶を引っ張り出すことも出来る魔法だという。
やりようによっては記憶を改変することや、感情や思考を共有したり、自分のイメージを他人に植え付けることも可能らしい。
「なにそれ、めちゃくちゃ便利じゃん」
「と思うでしょ? それがそうでもないんです」
トンクスに感化されたのか、ジェマも謎のセールスマン口調になって解説する。
「対抗手段に『閉心術』ってのがあるんですけど、これ使われると完全にガードされちゃうの。それどころか偽の思考や感情で逆に裏をかかれることだってあるから、同格以上の相手には諸刃の剣。困っちゃいますよねぇ」
それに、と続けてハーマイオニーに向き直る。
「けっこう集中力使うから、複数人を同時に相手すると気が散っちゃって、さっき言われたみたいに断片的にしか心が読めない。せめて無言呪文で『開心術』使えれば、また違ったんだろうけどね」
「え? でも、さっきの試合中はずっと無言呪文で……」
「あれは『クワイエタス‐静まれ』の呪文で声を聞こえないぐらいまで小さくしているだけ。その上で普通に『レジリメンス‐開心』って唱えてる」
「だけど、『クワイエタス』を唱えてる姿なんて一度も――」
「そっちは無言呪文で出来るんだな、これが」
「………」
場数を踏むと強い、というのはこういうハッタリも関係してくるんだろう。ほんと、まだまだ学ばなきゃいけない事ばっかりだ。
**
しばらく試合の感想を言い合っていると、不意に地下室の扉が開かれてルーピンが焦った表情で駆け込んできた。
「ハリー!」
続いて、シリウスが悪戯を成功させたような表情でのんびりと入って来る。
「けっこう派手にやったな……ハリー、大丈夫か?」
「あっ、うん」
「そうか。なら良かった」
「でも、どうして2人がここに?」
するとルーピンはジト目でシリウスの方を見た。
「さっきシリウスから聞いたんだ。ジェマたちがハリーをシメているって……」
「ちょっと待って、私たちそんなキャラ?」
「まぁ……」
「おい」
「ジェミーはともかく、なんで私まで……」
「おい」
ツッコミの後、前髪をかきあげながらジェマがぼやいた。
「ていうか、シリウスさんが悪いんですよ~」
急に話の矛先を向けられ、とぼけた表情で肩をすくめるシリウス。
「さぁて、何の話だかな?」
「いやいや、急に“ハリーのこと何とかできないか?”とか無茶ぶりするから、3人で慣れない悪役やる派目になったじゃないですか~」
「私はただ、君たちが元・監督生だというから、ハリーの悩み相談にでも乗ってくれると思っただけだ。肉体言語で語り合えとは言ってない」
しれっと返してから、冗談めかして口角を上げる。
「それから、3人とも結構似合ってたぞ? いかにもなスリザリンのイジメっ子とグリフィンドールの堅物委員長、理屈っぽいレイブンクローって感じだ」
「うーっわ、盗み見とかサイテー」
「一応、私の家だからな。管理義務がある」
オフだからか、気安い感じで軽口を叩き合う2人。どうやらシリウスは僕の様子がおかしいことに気づいて、先輩たちに一芝居打つように頼んだらしい。その結果があの決闘というわけだ。
ジェマが「といってもさ~」とぼやく。
「ほとんど話したこともない相手に、相談で解決とか無理じゃないですか。説得なんて最終的は信頼関係っていうか、何を言うか以上に誰が言うかが大事ですし」
投げやりな調子だけど、言わんとするところも理解できる。グリモールド・プレイスに来た直後はイライラが収まらず、ロンやハーマイオニーの言葉ですら悪い方にばっかり解釈してた。ましてや年の離れた大人の台詞なんて、何を言われても不信感で真逆にしか作用しなかっただろう。
僕が頷くのを見て、「でしょ?」と続けるジェマ。
「となると結局、サクッと溜まってるもん吐き出させてスッキリさせるしかないわけで」
うわぁ、雑……。
いや、たしかに大声出したり呪文で燃やしたり爆発させたら多少スッキリしたけどね? 運動して汗かいたらドーパミンとかセロトニンとか分泌されて精神衛生的にも良い、ってペチュニアおばさんが見てたBBCスペシャルでも言ってたし。
しかし、シリウスはどこか満足そうな顔で。
「いや、結果オーライだ。思い返せば私とジェームズも、今のハリーぐらいの歳には何かとイライラしてて、よく喧嘩したもんだ」
「そうなの?」
「喧嘩するほど仲が良い、ってやつさ」
隣にいたルーピンは「止める方は大変だったんだけどね」と苦笑する。
「――とまぁ、そんな大人の事情はさておき」
シリウスたちとの話を打ち切った後、ジェマは申し訳なさそうな顔で「さっきは悪かったよ~」と僕たちの目の前で手を合わせた。
「3人とも、本当にゴメンね! ぶっちゃけ私たち、めちゃめちゃ性格悪かったよね?」
「えっと、別に……そんなこと……は」
「嘘下手かーい」
「僕からも、ちゃんと謝りたい」
今度はパーシーが前に一歩進み出た。そして、しっかりと頭を下げると、ロンが驚いたように目を見開いた。まるでパーシーが自分の非を認めたところなんて初めて見た、とでもいうような顔だ。
「シリウスに頼まれたこともあるけど、僕は本気で君たちの心をへし折るつもりだった。世の中は正論だけじゃ通らないし、簡単に変えることも出来ないからね。自分を真っすぐ貫き通そうとすれば、様々な悪意や困難が待ち受けている。途中で心折れたり、拗らせたり、グレてしまった人も少なくない」
3年間ホグワーツで監督生を務め、今では社会人として働いているからだろうか。パーシーの言葉には重みがあった。
「だから僕は、君たちが心配だった。自分の弟やその親友が、本当に権威や世間という巨人に立ち向かえるのか。途中で壊れてしまわないかとね。大人しくダンブルドアやファッジと歩調を合わせておけば守ってくれる――とまでは言わずとも、敵に回すことはない」
味方でないなら敵――残念ながらそういう極端な人も少なくない、という事実を踏まえた上で僕たちの身を案じていたのだろう。
「僕は正直、そこまで自分に自信がない。自分が絶対にクロだと思っていても、ダンブルドアやファッジにシロだと言われると不安になる。そして結局は“妥協も大事”と言い訳して、権威や世間の空気に流されてしまう自分を正当化し続けてきた」
そんな思いを聞くのは初めてだった。僕から見たパーシーはいつだって大人びていて、頑固に既存の権威を守ることが正義だと信じて疑っていないと思っていた。
「もちろんハーマイオニーの言っていたように、ダンブルドアや世間の多数派だって間違うことぐらいあるだろう。ただ、理屈では分かっていても、周囲が反対ばかりしてくる中で最後まで自分の中にある正しさを信じられるかは、本人の気持ち次第だ」
それから、ふっと表情を緩めてロンを見る。
「自分を信じられる内は、誰と対立しようと恐れず自分の中にある正義を信じればいい。その意志の強さが、他人を動かすことだってきっとある」
ロンは照れ隠しのように「兄貴に言われてもなぁ」と軽口で返していたけど、その声音はいつになく嬉しそうだった。
「私からも」
続いて、ペネロピーから笑顔を向けられる。
「さっきは世間がどうとか責任が云々って言ってたけど、やっぱり間違ってるものは間違ってるでいいんだよ。私も笑顔で自分の気持ちを誤魔化してるだけで、昔から“穢れた血”って陰口叩かれる度に心の中では中指立ててるし」
そういえば、この人もマグル生まれだった。
スリザリン生とも仲が良いから例外扱いされているのかと思っていたけど、やはり相応の苦労や不満はあるらしい。
「“郷に入っては郷に従え”ってのは賢い処世術だけど、正しいかどうかは別問題。なんだかんだ“間違ってるのは世間の方だから、自分たちが変えてやる!”みたいな気概を見せられたら、こっちも応援したくなっちゃうし」
「よくぞ言った!みたいなノリでつい応援しちゃうことってあるもんね」
「むしろ内心では元々そっち寄りな場合も多いからな」
案外、そういうものなのかもしれない。空気に流されてしまう人達だって、いつも向かい風の方に流れていくとは限らない。追い風になれば、今度は同じ方向に向かって歩いていける。
「ハリー」
最後にジェマに隣に来て、ぐいっと肩に手を回してきた。
「いい友達を持ったね」
にっと笑って、ロンとハーマイオニーを順に見る。
「監督生として色んな人間を見てきたけど、ここまでお互いのために本気になれる友人関係はそうそう無いと思う。大事にしなよ」
「もちろんだ」
強気に返すと、ジェマは優しい表情で目を細める。
「
「………」
たぶん、今のは僕にエールを送ったつもりだったのだろう。けれど、先輩の言葉には妙に引っかかる部分があった。
「あの……さっきの“君は”というのは」
まさかそこに突っ込まれるとは思っていなかったらしく、ずっと飄々とした表情を崩さなかったジェマが、初めてきょとんとした顔になった。
「……まいったな、最後で油断したのが命取りだったか」
一旦は照れ隠しのように茶化そうとするも、黙ってじっと見つめ続ける僕の表情から何かを感じ取ったのだろうか。
ややあって、諦めたような溜息と共にジェマが話し始めた、
「せっかく良い感じだったのに水を差すような形で悪いけど……誰もが君たちみたく、お互いのために本気になれるわけじゃないんだよ」
伏し目がちに、彼女は話を続ける。
「むしろ表面上は仲良くしてても……いや、表向きの仲良しで優しい友情を大切に思うからこそ、それ以上は踏み込まない。踏み込めない、って子も結構いる」
それからあまり話したくなさそうな顔で、僕と目を合わせた。
「君の身近にもいるでしょ、何人か」
「それ、って……」
こくん、と頷かれる。
「正直、ギスギスしているよりはずっとマシだよ。本音でぶつかり合った結果、やっぱり分かり合えなくって、気まずいまま壊れる友情の方が多いぐらいだと思うし。みんなが波風立てずに空気を読んで、仲良しこよしで対立しがちな争点から目を逸らし続けてくれれば、誰も傷つけずに済む」
自虐的な表情は、ある意味で先輩自身の過去に向けたものなんだろうか。
「実際、最近のスリザリンは悪くない雰囲気でしょ?」
「それはどういう――」
「年々、毒気が抜けてきてる」
褒めるような言葉とは裏腹に、ジェマの声音にはどこか皮肉っぽい響きが含まれていた。
「だから、こんな状態でも身内の結束は固いままだ。本当なら、とっくに壊れていてもおかしくないのにね」
物憂げな表情をした彼女が何を言わんとしているのか、鈍い僕にもやっと理解できた。
(ヴォルデモートが復活して、一番バラバラになるのはスリザリン寮なんだ……)
スリザリンと一口に言っても、色々な人達がいる。純血もいれば半純血もいるし、マグル生まれだってごく稀にいる。死喰い人の親がアズカバンに入っている人もいれば、しれっと罪を逃れた人、魔法省側で戦った人、中立だった人、日和見だった人も。
そういう色々な立場の生徒たちが、同じ寮生として幼馴染・友達・恋人・先輩後輩として一緒に過ごしている。今のスリザリン寮は、様々な化学物質の詰まった、爆発寸前の火薬庫のようなものだ。
「けど、長くはもたないよ。あくまで壊れかけの堤防を、継ぎはぎの板やトタン塀で塞いでいるようなものだから」
ここでいう板やトタン塀は、きっとイレイナの嘘による納得感やマルフォイやダフネたちの間にある幼馴染関係、あるいはロウル先輩あたりの人望、といったところだろうか。
「………もし僕が本当のことを言って、みんながヴォルデモート復活をみんなが信じるようになれば」
そんなの、想像するまでもない。
「イレイナとマルフォイたちの関係が壊れてしまうかもしれない……そういう事ですか」
僕の言葉に、先輩はどこか哀しげな表情を浮かべた。
「ハリーのせいじゃないよ。遅かれ早かれ、誰もが守るものと捨てるものを選ぶ羽目になる。友達か、恋人か、家族か、あるいは自分自身か」
ふと、思い浮かんだのはマルフォイのことだった。
尊敬する父親を選ぶのか、友達のイレイナか、付き合ってるパンジーか、幼馴染のダフネか、懐いているスネイプか。そもそもマルフォイ自身、無事でいられるのか。
「もちろん、君たちがスリザリン寮の人間関係まで責任を負う必要なんてない。それこそイギリス魔法界の将来と比べたら、取るに足らない些末な犠牲だって切り捨てられても仕方ないと思う」
でもね、とジェマが優しい声で言う。
「嘘で塗り固められたぬるい関係でも、あの子たちはそれを出来るだけ引き延ばしたいって思ってる」
きっとそれは、イレイナやマルフォイたちにとって凄く――大切なものだから。
「そこんところ、胸の片隅でいいから覚えといてくれると嬉しいな」
寂しげな言葉に、僕はただ頷くことしかできなかった。
タイトルに反して最後に思いっきり呪いかけてるとか気にしてはいけない(戒め)
ウィーズリー家、ロンの親友とはいえほぼ赤の他人だったハリーのために命張り過ぎな件。これは一族そろって代々グリフィンドールなのも納得。
ちなみにイレイナさんがもし反ヴォルデモートを明らかにした場合、ドラコに「親か友人か」の選択を、パンジーに「彼氏か友人か」の選択を、ダフネとミリセントに「幼馴染か友人か」の選択を突き付けることになります。