ハリー・ポッターと灰の魔女   作:アストラマギカ

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第06章 ~「OK, Riddle!」~

 

 それから2日後、僕――ハリー・ポッターが朝食を食べにダイニングへ入ると、仕立ての良いイタリアンコートを羽織ったギルデロイ・ロックハートが待ち構えていた。

 

「やぁハリー、久しぶりだね! 本当は昨日、君にも色々と話をしたかったのだが、なにせ私は忙しい身でね。昼は出版社の社長、夜は英国を股にかけるスパイというわけだ!」

 

 真っ白な歯を見せてニカッと笑ってウィンクするロックハート先生は、相変わらずのウザさだ。ロックハートの語る武勇伝を適当に聞き流しながら朝食を食べていると、イレイナとヴィクトリカさんが到着した。

 

 

 どちらも『騎士団』メンバーではないけど、協力者という形でたまに出入りしているらしい。ヴィクトリカさんが僕の裁判――『未成年の魔法不正使用』案件の弁護のために呼ばれて、イレイナはそのお供ということだった。

 

 そして2人が入るなり、さっそくロックハートが満面の笑みと共に出迎えた。

 

「久しぶりですね、イレイナさん!」

「ロックハート先生、ご無沙汰してます」

 

 そういえば、この二人けっこう仲良いんだっけ。

 

「それから、ハリーもお久しぶりです」

「うん。イレイナも元気そうだ」

 

 見たところ、それほど変わった様子はなかった。白いノースリーブのラッフルブラウスに黒のミニスカート、ショートブーツという恰好で、夏らしく爽やかな印象だ。

 

 前の学期ではちょっと微妙な別れ方をしたから少しだけピリッとした緊張感が漂うも、それをぶち壊すかのようにロックハートが割り込んでくる。

 

「そういえば、この前に依頼した取材のお礼がまだでしたね! イレイナさんのおかげでGM社の方にも取材できて、ウチの新人も喜んでましたよ!」

 

 ロックハートの空気の読めなさは天然なんだろうけど、今回ばかりはそれがありがたい。なんというか、その場にいるだけで「ロックハートだし、仕方ないか……」みたいな緩い空気に包まれて、気を張っているのがアホらしくなってくる。

 

 

「実は最近、新作として出版したばかりなのですが――」

「あ、それなら一昨日に読み終わりましたよ。改良型『魔導機解析関(ウィザーディング・エンジン)』を搭載したゴーレムが魔法使いのサポート役として社会に溶け込んでいる近未来の魔法界、という世界観はなかなかに読み応えがありました」

「それは良かった! 実は『新しい魔法技術で変化した近未来の魔法界』という未来志向の作品は、これまでありそうでなかったジャンルでしてね……」

 

 久しぶりにヴォルデモートとか不死鳥の騎士団じゃない平和な話題が食事中の会話のメインに上ったことで、心なしかウィーズリーおばさんも上機嫌に見える。

 

「特に若い世代からの反響が大きくて、ゆくゆくはこの『マジックパンク』を一大ジャンルに育てていきたいと考えています!」

「そういえばスチームパンクとかサイバーパンクとかはありますけど、それの魔法版ってマグルの文学ジャンルでも珍しいですもんね」

「だからこそ、私たちの想像力が試される――と同時に単なる想像ではない、魔法族ならではのリアリティを出せたら、きっとマグルの読者にも楽しんでいただけると思うんですよ」

 

 ちなみに書籍は検閲を受けた上で「国際魔法使い機密保持法に抵触しない」と判断されれば、マグル界に流通させることも可能らしい。なのでスクイブの貴重な収入源になってるだとか、有名なマグルのファンタジー作家の親戚には魔法族がいる、なんて噂もある。

 

 

 そんな感じで嬉々としてイレイナとの文学談義を終えた後、ロックハートはシリウスを見て突然とんでもないことを言い出した。

 

 

「いやぁ、しかしシリウスさんには随分と助けられました。会社を潰した時は、本当にもうダメかと……」

 

 

「ぶっ――え?」

 

 吹き出した紅茶を慌ててナプキンで拭ってから「そうなの?」とシリウスの方を見ると、イレイナが代表選手に選ばれた時のスネイプみたいな顔をしていた。

 

「こいつに経営能力があるように見えるか?」

 

 聞けば自分の成功体験をベースに「高品質な本をお手頃価格で!」という消費者的には嬉しい薄利多売のビジネスモデルを展開したものの、想定より本ごとの当たり外れが大きかったせいでオペレーションが崩壊したのだとか。

 

 

「個人事業主として自分で本を書く分には売れるに決まってたんですが、出版社として他人のマネジメントをするのは少し違いますね! しかし、良い勉強になりました。やはり何事も経験ですね!」

 

 結構な大事に聞こえるけど、当の本人は案外けろっとしている。でも冷静に考えたら作家やってる時から忘却術で武勇伝を盗んでたりしたから、この図太さなら会社を一回倒産させたぐらいじゃ諦めないんだろう。

 

「まぁ、ロックハート先生は自分の貯金で起業したので倒産しても借金は残りませんでしたし、プロデュースした本も評判は良かったですし、再起の目は十分にあったんですよ」

「というわけで、私が尻拭いをする羽目になったんだ。下手にグリンゴッツ銀行あたりに融資を頼まれたら、『騎士団』のことをポロッと漏らしかねないからな」

 

 呆れたようにかぶりを振るシリウスだったけど、本気で嫌がっているというわけでも無さそうだ。やらかしは多いけど陰湿な部分は無いので、一応「愛すべきバカ」という扱いになってるらしい。

 

 

 そしてイレイナの見立て通り、ビジネスマンとしてのロックハートには一定の商才があった。

 

 

「事業は失敗しましたが、その経験を活かして私は考えたわけです。なるべく在庫を減らして、注文に対して柔軟に対応できるようにしなければと!」

 

 ロックハートが僕の方を見た。

 

「では、ここで質問してみましょう。本の在庫を減らすには、どうすればいいと思います?」

「え? えーっと……受注生産にするとか?」

 

 たしか、サヤの故郷がそれに近い感じで自動車を作っていた気がする。うろ覚えだけど。

 

「惜しい! 受注生産ではたしかに在庫は減らせますが、読者の手に届くのに時間がかかってしまいます。熟練の職人技で納期を短くするというのも一つの手ですが、やはり遅い」

 

 ロックハートはそう言って、おもむろにポケットから多機能両面鏡を取り出した。

 

「私にヒントを与えてくれたのは、グレンジャーさんが発明した『変幻自在術メッセンジャー』でした!」

 

 にっこりとハーマイオニーに微笑み、ロックハートは再び陽気な声を響かせる。

 

 

「そう、変幻自在術です! これを使えば、理論上はいくらでも大元のマスター品を瞬時にコピーして配布することができます!」

 

 

 ロックハートは満面の笑みで今度は鞄を手に取り、まるで子供に誕生日のプレゼントを見せるかのように大袈裟なリアクションで――小さな薄い本を取り出した。

 

 

 よく見るとそれは、黒い表紙の日記だということに気づく。

 

 

 

「こちらがGM社と共同開発した魔法書リーダー、その名も『Riddle Books』です!」

 

 

 

 うっ、頭が……。

 

 

 思わずジニーの方を見ると、あんぐりと口を開けて食べかけのパンケーキをポロッと落としているところだった。

 

 しかしロックハートは気づいてもいない様子で、邪気の無い笑顔のまま『Riddle Books』を開く。白紙のページには何も書かれておらず、既視感しかない。

 

「これまで私は数多くの作品を世に送り出してきましたが、残念ながら一つだけ欠点がありました」

「……それは?」

「1つの本で読める私の物語は、本1冊分だということです!」

 

 ロックハート構文がさく裂する。

 

「しかし、この『Riddle Books』を使えば、たった1冊分で私が世に送り出した全ての本を読むことが出来るのです!もちろん、分厚い増量版なんかじゃありません。薄さもこの通り!」

 

 薄さを強調するように『Riddle Books』を横向けにしてみせた後、ロックハートは本に優しく語りかけた。

 

 

「Hey, Riddle――『バンパイアとバッチリ船旅』を出してくれないかな?」

 

 

 すると真っ白だったページに、ロックハートの言葉が自動速記羽ペンのようにスラスラと文字起こしされていく。文字は紙の上で一瞬だけ輝いたかと思うと、やがて跡形もなく消えてしまった。

 

 しばらくすると、今度は同じページからインクが滲み出してきて、2年生の授業で嫌というほど見慣れたロックハート本の目次が現れた。

 

 

「OK, Riddle――次は『トロールとのトロい旅』だ」

 

 

 目次が消え、再び別の目次が現れる。

 

 

「Riddle, 本の中から『アルバニア』という単語を含むページを検索して開いてくれ」

 

 ロックハートが言うとページがまるで強風に煽られたかのようにパラパラとめくれ、真ん中ほどのページで止まった。ページを覗き込むと、5行目ぐらいに書かれた『アルバニア』という単語が点滅している。

 

 

「もちろん、私の本以外も――あくまで提携した出版社の本だけですが――すべて、この1冊で読むことが出来るんですよ!」

「教科書も?」

 

 ハーマイオニーが聞くと、ロックハートは「もちろんです!」と微笑んだ。

 

「見た目は闇の魔術っぽいですが、技術的には先ほど言った通り基本は変幻自在術の応用です。開発にはシリウスさんやルーピンさんも関わってますしね!」

「あ、そうなんだ」

 

 そう言われると、途端に魅力的に思えてくる。これ1冊あれば、授業が変わる度にグリフィンドール寮まで本を取りに戻ることも、あるいは重い本を何冊も持ち歩いて教室を移動する必要もない。『Riddle Books』を1冊持っていれば、小さな図書館を持ち歩いているようなものだ。

 

「本当は、例の多機能両面鏡にこの機能を搭載したかったんだがな」

 

 シリウスが無念そうな表情で言う。

 

「リーマスと一緒にマローダーズの矜持を見せたかったんだが、どうにも小型化が難しい」

 

 シリウスが持ってきたのは、『G-Pad』と刻印された本ぐらいある大きな鏡。たしかに多面鏡として通話やチャットをするには大きすぎるし、逆に本として読むならやはり本ぐらいの大きさはあった方がいいかもしれない。

 

 

 そんな感じでお蔵入りになった『G-Pad』なんかの話をしているうちに朝食も食べ終わり、ロックハートが立ち上がった。

 

「では、そろそろドクシーの退治に移りましょうか」

 

 手に取った『Riddle Books』には『ギルデロイ・ロックハートのガイドブック ~一般家庭の害虫~』が表示され、ロックハートが大声で言った。

 

「さぁ、みんな気を付けるんですよ! ドクシーは噛みつくし、歯に毒がありますからね! とはいえ、いざとなったら私が何とかしますので、大船に乗ったつもりで退治しましょう!」

 

 

 結局、ドクシーの処理は午前中まるまるかかった。フレッドとジョージは何匹かのドクシーをこっそり悪戯用品の実験用に確保し、ロックハートは予想通り途中からドクシーにノックアウトされて倒れていた。

 

「こいつの作家とビジネスマンとしての能力が、あと少しでも魔法と脳味噌にあれば、私もだいぶ楽が出来るんだが……」

 

 浮遊呪文でロックハートを適当なソファに放り投げ、シリウスが苦笑しながらぼやく。

 

 

 それから、シリウスは僕たちとイレイナを上の部屋へと案内した。

 

 階段を上がる途中、踊り場でウィーズリーおばさんが明日の裁判について不安を漏らしていて、ヴィクトリカさんが安心させるように手を握っていた。これがママ友の付き合いという奴なんだろうか。

 

 階段を上がり切って廊下に出ると、シリウスがイレイナに話しかけた。

 

「イレイナ、ちなみにヴィクトリカが『騎士団』に参加してくれそうな素振りはあったりしたか?」

「ええ。前向きに検討してるみたいです」

 

 それ、絶対に参加してくれない奴じゃん……。

 

 どうやらヴィクトリカさんには、また別の考えがあるらしい。僕の目から見るとイレイナたちとダンブルドアは歩調を合わせているように見えたけど、実際にはそれぞれ色々な思惑があるってことなんだろうか。

 

 

「そうか、ヴィクトリカが騎士団に入ってくれれば百人力なんだが……」

 

 残念そうに呟くシリウスは、今まであまり見たことのない表情をしていた。

 

「ねぇ、シリウスとヴィクトリカさんって、ホグワーツでは知り合いだったんだよね?」

「そうだ。スリザリン監督生のくせに、私とジェームズが気の利いた悪戯をしたら、面白がって点をくれるような人だった」

 

 当時を思い出しているのか、懐かしそうに顔をほころばせるシリウス。

 

「それどころか一緒になって、スリザリンの男子監督生だったルシウス・マルフォイに悪戯を仕掛けたこともあったな」

「何をしたの?」

「監督生用風呂に通じる道を改装してね。ルシウスが女子風呂に入るように誘導した」

 

 ブッ!と隣でロンが吹き出し、ハーマイオニーは顔をしかめた。

 

「よくそれで問題にならなかったわね」

「70年代だったからな。飲み会で一発芸を無茶ぶりされて困ったら、とりあえず服を脱いで裸になればウケる時代だった」

「何が面白いのか、まったく分からないわ……」

「そこはほら、アレじゃないですか」

 

 少し前までスリザリン・クィディッチチームにはそのノリが残っていたらしく、イレイナが遠い目で言う。

 

「日焼けしたマーカス・フリント先輩が、割れた腹筋を見せつけて“最高級板チョコ!”みたいな」

 

 「ぶはっ」とシリウスが豪快に笑う。ロンもツボに入ったらしく、「ハニーデュークスに失礼過ぎるだろw」と言いながらお腹を抱えている。

 

 

「裸はともかく、ルシウス・マルフォイはどうなったのよ」

「ああ、そのことなんだが」

 

 呆れたようなハーマイオニーに、シリウスは大袈裟に涙をぬぐうような仕草をしてから続ける。

 

「ヴィクトリカが根回しして女子風呂にはナルシッサ……私の従妹が入浴中だったんだが、そこに全裸のルシウス・マルフォイが現れてだな」

「完全にアウトじゃない」

「ところが、そうでもなかった」

 

 シリウスが悪戯っぽい顔になる。

 

「もともとナルシッサはルシウスに好意があったみたいなんだが、ルシウスの方は当初そうでもなかったらしくてな。おまけにナルシッサは受け身がちで、白馬の王子様を待ってる系だから一向に進展しない」

 

 あれ、どっかで聞いた話のような……?

 

「だが、あの事件以来マルフォイは何かとナルシッサに気を遣うようになり、お詫びとしてホグズミードでランチを奢ったりと接する機会が増えて、ついには結婚するに至った」

 

「そうして生まれたのが、ドラコ・マルフォイという訳ですか」

「ほんと、70年代だから許されたノリね……」

 

 飄々と肩をすくめるイレイナに、釈然としない顔になるハーマイオニー。

 

 

 でも、僕が気にかかったのは別の事だった。

 

「シリウス、さっきマルフォイの母親のことを『従妹』って……」

「魔法界は狭い世界だからな」

 

 皮肉げな笑顔を浮かべ、シリウスは首を縦に振った。

 

「純血の家はほとんど姻戚関係だ。娘も息子も純血としか結婚させないというのなら、あまり選択の余地はない。間違いなく純血とされる家は『聖28一族』などと名乗っているが、逆に言えばそのぐらいしか選択肢が無いとも言える」

 

 そのままシリウスに案内され、とある部屋の前に立つ。

 

 

「せっかくの機会だし、我が家についても君に話しておこう。さぁ、入ってくれ」

 

 




 『Riddle Book』、めちゃくちゃ闇の魔術っぽいけど、あくまで変幻自在術の応用です。グレー度合いは『忍びの地図』ぐらい。

 ファンタビ1作目で指名手配チラシが、ゴブリンの店主の通報を受けてティナの指名手配チラシに変化したりしてたので、恐らく変幻自在術あたりで画像や文字データを一斉転送してたのかなぁと(日刊予言者新聞でも緊急速報)。『Riddle Book』はその辺の技術の応用だと思っていただければ。

 スチームパンクとかサイバーパンクの魔法版を売り出し中のロックハート。個人的にはこういうジャンルってあんまり知らないなーと。

 あとルシウスファンの皆さんには深くお詫びいたします。今ならアウトだけど50年以上昔の価値観なので(汗)
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