ハリー・ポッターと灰の魔女   作:アストラマギカ

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※引き続きハリー視点
※独自設定および倫理観に立ち入る話が含まれております。苦手な方はご注意ください。


第07章 ~高貴なる由緒正しきブラック家~

 シリウスが壁のほうに歩いていくと、そこには壁いっぱいに広がる大きなタペストリーがあった。色褪せた古いタペストリーには金色の刺繍で家系図が書かれていて、一番古いのは中世にまで遡っていた。

 

 

「すごい……魔法史の授業で習った人がこんなに……!」

 

 目を輝かせてタペストリーを見るハーマイオニーは、まるで博物館に来た子供のようだ。

 

 見たところ時代は中世にまで遡っていて、タペストリーの一番上には大きな文字でこう書かれていた。

 

 

 ――高貴なる由緒正しきブラック家 ‟純血よ永遠なれ(Toujours Pur)

 

 

「わぁ……これ、本物なのね」

 

 うっとりするように呟くハーマイオニーの隣では、イレイナが多面鏡を取り出して何やら操作している。しばらくすると『生粋の貴族―――魔法界家系図』の表紙が鏡面に現れ、何ページかめくると「ブラック家のタペストリー」と書かれたリアルな挿絵が出てきた。

 

「やっぱり本物を見るとなんか感動しますね……」

 

 挿絵と本物を見比べながら、しみじみと語るイレイナ。さらにページをめくると、他の名家にも似たようなスローガンがあるらしく、一覧表が鏡面に現れた。

 

 

 マルフォイ家  『~純血は常に勝利する(Sanctimonia Vincet Semper)~』

 レストレンジ家 『~鴉は互いの目を突つかぬ(Corvus Oculum Corvi Non Eruit)~』

 

 

 さらに読み進めていくと、イレイナの友達のスリザリン生の家名も記されていた。

 

 

 ブルストロード家 『~汝は選ばれし者なり(Tu Es Electus)~』

 グリーングラス家 『~礼節が魔法使いを作る(Mores Facit Magi)~』

 パーキンソン家  『~魔術は一族と共にあり(Magia est cum familia)~』

 

 

 ちなみにイレイナ曰く、意外と純血名家は国際結婚に前向きだという。国内だけでは純血の魔法使いが足りないということで、マルフォイ家とレストレンジ家、ロジエール家はフランス系、ノット家は北欧、エイブリー家はスペインのナバラ、オリバンダー家はローマ、トラバース家はアイルランド、シャフィク家がアラビアでシャックボルト家はアフリカ系なんだとか。

 また、カロー家やバーク家など古英語から語源が来ている家ほど古くからの名家で、グリーングラス家やパーキンソン家などは純血名家の中では新しい家らしい。

 

 

 そんな話を聞いていると、最初はどうでもよかった純血名家の歴史とか伝統にも、多少は興味が湧いてくる。

 

 ノット家     『~我ら歴史を作らん(Nos, Facimus Historia)~』

 ロウル家     『~血清けば魂も清き(Serum Mundat Animam)~』

 フリント家    『~誉れ高きこと純血の如く(Honor Sicut Sanguis)~』

 

(そういえばマーカス・フリントがクィディッチでファウルをする度にスリザリン応援団が「今のめっちゃ誉れ高いわーw」って盛り上がってたけど、あの内輪ネタの起源これだったんだ……)

 

 

 それから家系図に視線を移し、見ていくとあることに気づいた。

 

「シリウスおじさんの名前が無い!」

「かつてはあった」

 

 シリウスが苦笑いし、指で髪を梳いた。

 

「家出したんだ。この家にはウンザリだった」

「えっ」

 

 驚いた顔をすると、シリウスは不快感の滲む表情で家系図を見つめる。

 

「両親と弟は狂信的な純血主義者でね、ブラック家が魔法界の王族だと信じていた」

「王族?」

「今は見る影もないが、両親の代までは魔法界で一番の金持ちだった」

 

 聞けば、かつてのブラック家はロンドンに莫大な不動産を持ち、‟ダイアゴンの管理人”とも呼ばれていたらしい。「ブラック家の土地を耕す小作人たち」であるダイアゴン横丁の商店街は、ブラック家に多額のテナント料をもたらしたという。

 

「ゴーント家を除けば、真の意味での純血に最も近い家がブラック家だ」

 

 苦笑いするシリウスからイレイナに目を向けると、イレイナは肩をすくめた。

 

 

「ブラック家は、少なくとも直系の一族から『チェンジリング』を出していません」

 

 

「なんだい? そのチェンジリングって」

 

 ロンが質問すると、イレイナが皮肉っぽい表情を浮かべる。

 

「ヨーロッパに残る『取り替え子』の伝承は、皆さんも聞いたことぐらいありますよね?」

 

 僕たちは頷いた。

 

 マグルで伝えられている伝承では、妖精が人間の子供を連れ去って、代わりに妖精の子供を置き去りにしていくという。

 

「その元になったのが、魔法族の旧家にある風習です。マグルの言葉で言えば『準正』ですね」

「準正って?」

 

 

「婚姻関係にない両親から生まれた子を、婚姻関係にある両親の子と同じ嫡出子と見なすことですよ」

 

 

 イレイナの言葉に、ハーマイオニーが息を呑んだ。

 

「それって、つまり……生物学的な親が別にいるって、そういうこと?」

「結局、法律で大事なのは親の認知ですからね。訴えがなければ、魔法省も敢えてそれ以上は踏み込みません」

 

 血統が近い者同士で婚姻を繰り返すと虚弱化するというのは、魔法使いでも同じらしい。だから純血の看板を維持しつつ、子孫が虚弱化しないために「抜け道」が必要とされた。

 

 それがイレイナの言う『準正』で、夫婦のうち片方が別の異性との間に婚外子を為し、それを夫婦の子として育てるという方法だ。

 

 

「そう難しいことではありませんよ。形だけ純血同士で結婚して、愛人との間に出来た子供を夫婦の子供として周囲に認知させてから離婚して、その後に愛人と再婚すればいいだけですから」

 

 

 女性の場合はシンプルに愛人の子を産む。男性だと少し複雑になり、愛人との間にできた受精卵を妻が代理母出産するという形をとる。魔法薬を用いて愛人の卵巣から採卵を行い、夫の精液と共に妻の子宮に入れて受精させ、妊娠させるという方法らしい。

 

「なんか凄い闇の魔術っぽいけど……」

「詳細はロウル家に代々伝わる門外不出の職人技なので知りませんが、元は不妊に悩む夫婦の為のものなので闇の魔術ではありませんよ。誰かを殺傷することも無ければ、使用者にとって危険でもありませんし」

「まぁ、それはそうなんだろうけど……」

 

 なんというか、それで本当に生まれた子供を愛せるのだろうか――などと思っていると。

 

 

「別に、血が繋がってるからって自動的に愛が生まれるとは限らない」

 

 

 嫌悪感と諦めのこもった声でシリウスが呟いた。僕の考えていたことを察しての言葉なんだろうけど、それにしては妙に強い口調だった。これほどの嫌悪感をシリウスが見せたのは、ワームテールの時以来だ。

 

「私は家族全員を憎んでいた。家族の方も、きっと私の事を憎んでいただろう」

「……どうして?」

「両親はヴォルデモートが正しい考えをしていると信じて、魔法族の浄化に賛成していたんだ。弟は愚かにも死喰い人に加わって、連中と一緒にマグル生まれを殺しまわっていた」

 

 シリウスは苛立たしげに顔をしかめた。

 

 

「そんな純血思想に染まった弟のことを両親は、私よりも良い息子だと―――私は常にそう言われながら育った」

 

 

 憎しみの混じったシリウスの独白を、ロンやハーマイオニー、イレイナは気まずそうな表情で聞いていた。3人とも家族に愛されて育った側だから、本当の意味で共感するのは難しいのかもしれない。

 

 

(血の繋がった家族と憎しみ合うなんて……)

 

 僕は僕で、シリウスの話に少なからずショックを受けていた。

 

(あのマルフォイですら、家族からは愛されていたのに……)

 

 ダーズリーたちとはお互い嫌い合ってるけど、それは家族じゃなくて親戚だからある意味じゃ仕方のないことで、両親からは愛されていたと何度も聞かされていた。

 

 でも、シリウスが嘘や冗談を言っているようには見えない。肉親の話をするシリウスの表情は、スネイプと会った時のように酷く冷淡な顔をしていた。

 

 

「……すまない。暗い空気になってしまったな」

 

 シリウスは話題を変えるように言った。

 

「私が言いたかったのは、血の繋がりは大事だが絶対ではない、という事だ。血の繋がりの無い私を、ポッター家の人々は2番目の息子のように受け入れてくれた。ハリーの祖父母は本当によくしてくれたよ」

 

 16歳で家出したシリウスは、夏休みの間しばらく僕のお父さんのところへ転がり込んでいたらしい。17歳からは親切な叔父の残してくれた金貨で一人暮らししていたみたいだけど、それでも日曜のランチになると僕の実家で歓迎されたという。

 

 

「だから逆説的ではありますが、血が繋がってなくても何とかやれてる家は少なくないという話です。もちろん金の切れ目が何とやらとも言うので、純血名家のケースがそのまま一般家庭に当てはまるかは要検討ですが」

 

 割と身も蓋も無いことを言うイレイナ。

 

「もともと純血名家になると恋愛結婚よりも政略結婚が主流ですし、むしろ大半は仮面夫婦で、マルフォイ家みたいなのは逆に珍しい方なんですよ」

「そうだな。お互い合意の上で両親それぞれに愛人がいる、なんて話も私の時代はよく聞く話だった」

 

 さっきのチェンジリングの話も、基本はこういった公認の愛人との間で発生することが多いのだとか。書類上は純血貴族同士の夫婦だけど、実態としては例えば夫と妻がそれぞれ半純血のメイドと執事の愛人との間に子供を作り、同じ屋敷に2つの家庭が存在する、という感じ。

 

「それ、夫婦仲は大丈夫なの?」

「やっぱり周囲も気を遣って慎重にお見合いするみたいで、仲の良い幼馴染同士での結婚が推奨されるみたいですね。そうなると、お互い幼馴染だから異性として見れなくて逆に大丈夫って話みたいです」

 

 言われてみればマルフォイとミリセントあたりは仲が良い姉弟って感じで、異性として意識してる印象はない。なんなら、あの2人が結婚してそれぞれ別の相手との間に子供を作ったとしても、同じ屋敷で一緒に可愛がりながら両方の子供を兄弟姉妹として普通に育ててそう。

 

 

「……なんだか中世の貴族みたいね」

 

 ハーマイオニーが呟くと、イレイナが頷いた。

 

「その理解でだいたい間違ってないと思いますよ。そもそも純血主義にしても、起源は中世のマグル貴族と同じ、財産保持のための血族婚というのが近年では通説になってますし」

 

 イレイナの言葉に、ハーマイオニーが反応した。

 

「“青い血”を誇ったハプスブルク家みたいに?」

「はい」

 

 ロンが首を傾げた。

 

「なんだい? その“青い血”って」 

「マグルの世界で“貴族生まれ”を示す慣用句です」

 

 もちろん本当に青い血が流れていたわけではなく、肉体労働に従事しない上流階級の人間は肌が日焼けせず、白い肌に静脈が透けて見えたことから来た言葉だという。

 

「マグルの世界でも王族や貴族といった上流階級では、かつて親戚同士で結婚することが広く行われていました」

 

 親戚同士で結婚すれば、領地や爵位が一族以外の人間に継承されて流出することを防げる。財産が相続の度に親族に分散すれば貴族ではいられなくなるし、最悪の場合には外戚に家ごと乗っ取られてしまう。

 

 一般人だって遺産相続の際は何かと揉めがちだし、金持ちや貴族ともなればその比ではない。同族経営の会社でお家騒動が激化すれば、会社の経営が危うくなる場合だってある。

 そうした相続のトラブルを回避するためには、血族結婚は有益だと考えられたのだ。

 

 

 もちろん、副作用が無かったわけではない。

 

 近親婚が繰り返されることで障害を持った子供が生まれる確率は高くなり、有名なハプスブルク家では顎がしゃくれた人物が多くなってしまい、食べ物をうまく噛めなかった王様がいたほどだ。

 

 とはいえ、近親婚の弊害も必ず出てくるわけでもなく、確率でいえば普通の子供が生まれる可能性の方が高い。仮に病気や障害があっても、貴族だから治療を受けるのに十分な財産もある。

 

 

「だからマグルの世界でも長らく上流階級では貴賎結婚が制限されてきて、例えばエドワード8世が平民のアメリカ人女性、ウォリス・シンプソンと結婚するためには退位しなければならなかったほどです」

 

 さらにイレイナ曰く、純血主義のもう一つの芽はこの貴賤結婚に対する反感にあるという。

 

「当時ほとんど歓迎ムードはなく、シンプソン夫人に対しては“財産目当て”とか“国王を騙してる”といった批判が多く寄せられたそうです」

 

 そういえば、去年ハーマイオニーがクラムといい感じになってた時も、大半の読者はそんな感じだった。

 

 すっごく想像したくないけど、もし「マグル生まれ」のハーマイオニーが「純血名家」のマルフォイと付き合ったりしたら、エドワード8世の時と同じように財産目当てだとか後ろ指さされる姿が容易に想像できる。

 

 

「実際、純血名家の多くは金持ちなので、お金目当てに擦り寄って来る人も少なくありません。となれば親の方は子供を守るために“自分と同格の純血名家以外は人間扱いしない”という教育を施すのは必要悪で、それが繰り返されていくと……」

 

 立派な純血主義一族の出来上がり、というわけだ。

 

 もちろん、純粋に愛し合っている場合には迷惑なだけだし、とばっちりで差別される無関係のマグル生まれにとっては堪ったものではない。

 ただ、こうした家庭事情なんかも深く関わっているという話を聞くと、未だに純血主義が名家の間に根強く残っている理由の一つが垣間見えるような気がした。

 

 

 

「だからマグル生まれと結婚したりすると、家系図から抹消されるんだ。家系図にない人間には、相続権も無いからね」

 

 シリウスおじさんが皮肉っぽい顔で、タペストリーにある別の黒焦げを指さす。

 

「ほら、従姉のアンドロメダも消されてる。私の好きな親戚だったんだが、マグル生まれのテッド・トンクスと結婚したからね」

「アンドロメダ事件って言えば、今でもスリザリンでは有名ですしね」

 

 イレイナが遠い目になり、シリウスは肩眉を吊り上げた。

 

「そうなのか?」

 

 なんだかんだで仲の良かった親戚の恋愛事件が後世にどう伝わっているのかは気になるらしく、シリウスは興味津々といった様子だ。

 

「パンジーたちから聞いたんですが、名家というのを差し引いてもアンドロメダさんってモテモテだったみたいで」

「あー、そんな事もあったな」

 

 何を思い出したのか、可笑しそうにくっくと肩を揺らすシリウス。

 

「私たちがホグワーツにいた頃、“スリザリンでどの子が一番可愛いか?”って話になった時、決まって上位に挙げられたのがヴィクトリカとナルシッサ、そしてアンドロメダだった」

 

 当時は今より寮同士の対立が激しかったとはいえ、やはり思春期の男女たるもの、そういう話はしっかりとするらしい。

 

 

 ロンも興味津々でシリウスに質問する。

 

「ちなみに昔の3人って、どんな感じ?」

「ヴィクトリカはクールでミステリアスな凛々しいお姉さん、ナルシッサは可憐でお淑やかな箱入りのお嬢様、アンドロメダは明るくて人気者の元気っ子みたいなイメージだった」

 

 唐突に過去を語りだすシリウスおじさん。

 

「ちなみにリーマスはアンドロメダ派だった」

「あー、ぽい。ルーピン先生、意外とそういうの好きそう」

 

 本人のいないところで好き勝手言い出すシリウスに、ロンまで腕を組んで乗っかってきた。

 

「とりわけアンドロメダは社交的で、男女問わず友人も多かった。ナルシッサは少し感情表現に乏しかったし、ヴィクトリカは隙が無さ過ぎたのに対して、アンドロメダは娘に“かわいい水の精霊ニンファドーラ♡”なんてキラキラネームを付けるような愛嬌まであったから、そりゃもう」

「うわぁ、絶対にモテる奴じゃん」

 

 なぜか金髪のフラー、背が伸びたイレイナ、そして黒髪のダフネ・グリーングラスみたいなのが思い浮かんだ。

 

 たしかに美人度でいえば前の2人の方が高いんだろうけど、ちょっと隙がある方が男子的にはアプローチをかけやすいというのは、去年のダンスパーティーで僕も嫌というほど実感した。フラーみたいに塩対応されると落ち込むし、イレイナぐらい隙が無いと気後れするから、相対的に「いけそう」な方に人気は集中するんだろう。

 

 

 そして、そんな風に考える男子は当時も多かったらしい。

 

 

「となれば当然、勘違いしちゃったり、密かに狙ってた純血名家の男子生徒も大勢いたわけでして」

「あっ、待ってその先は――」

「ここだけの話、その世代は死喰い人になった男子がやたら多いみたいなんですよねぇ」 

「うわぁ……」

 

 途中からオチは想像ついてたけど、こうして聞くと想像以上に生々しい話だった。

 

(きっと“僕が先に好きだったのに、マグル生まれがたぶらかしたせいで……!”みたいな痴情のもつれがあったんだろうな……)

 

 そして多感な時期の失恋した純血スリザリン男子に、ヴォルデモートはこう囁いたのだろう。

 

 

 ―――『穢れた血』なんかが魔法界に入ってこなければ、彼女の隣にいたのはお前だったかもしれない。

 

 ―――『穢れた血』に彼女は騙されているのだ。奴を倒し、彼女の目を覚ますことが出来るのはお前だけだ。

 

 

 不安定な精神状態でこんな風に言われたら、コロッとヘイトに走るのも……いや良くはないんだけど、なんか妙に人間臭くて困る。

 

「………」

 

 隣にいるロンも、ブロークンハート闇墜ち死喰い人の方に一部感情移入してしまったらしく、なんとも沈痛な表情をしている。

 

(というか去年ハーマイオニーがクラムと踊ってた時、僕たちが見たこと無いようなはしゃぎ方をしてて、ロンも軽く暗黒面に片足を突っ込みそうになっていたような……?)

 

 幸い、あの時は似たような境遇だったザカリアス・スミスやらエロイーズ・ミジョン、嘆きのマートルがいてくれた。4人で一緒に愚痴りながら飲んだくれてたのは傷の舐め合いかもしれないけど、そういうのも生きてく上では割と大事だったりする。

 

「……もう止めよっか、この話」

 

 妙にいたたまれなくなり、ひとまずアンドロメダ事件は置いて話題は別の親戚へと移った。

 

 

 

「純血結婚をした、他の姉妹は載っている。一人はさっき話題に出たナルシッサ、もう一人がベラトリックスだ」

 

 そして最後に、シリウスは家系図の一番下の名前を指さした。

 

「レギュラス・ブラック……さっき話した、私の弟だ」

「でも、死んでる」

「馬鹿な奴だった……死喰い人に加わっておきながら途中で怖気づき、逃げ出そうとして粛清された」

 

「ブラック家の事実上の跡継ぎだったのに、粛清されたんですか?」

 

 意外そうな顔をするイレイナに、シリウスはフンと鼻を鳴らした。

 

「結局、ヴォルデモートにとっては純血なんてその程度の扱いだったということだ」

「とはいえ、流石に純血名家筆頭の跡継ぎを殺せば反発――――いえ」

 

 イレイナは途中まで言いかけて、思い直したように首を振った。 

 

「そういう訳にもいきませんね」

 

 去年、自分が拷問されていた時のルシウス達の態度を思い出したのだろう。最初こそ一緒になって持ち上げていたものの、ヴォルデモートが拷問を始めるや否や、あっさりと手の平を返してイレイナを見捨てた。

 

 あれこれ理屈をこねて純血思想を正当化するけど、そのために身を捧げようという人はいない。

 だから自分の身に危険が迫れば、純血名家の王族だと呼ばれたブラック家の次期当主さえ見捨てる……ルシウスたちが声高に掲げる純血思想には、結局その程度の重さしかないってことなんだろう。

 

 

(僕はああいうの、薄っぺらくて好きになれないけど……イレイナは多分、それを悪いことだとは思っていない)

 

 

 保身で「昨日の友は今日の敵」になることがあれば、その逆もまた然り。事実、ヴォルデモートが力を失った後も忠誠を誓い続けた死喰い人は数えるほど僅かで、大半は「昨日の敵は今日の友」とばかりに魔法省やダンブルドアにあっさり寝返った。

 

(だから、きっとイレイナは、まだルシウスたちが寝返る可能性があるって思ってるんだ)

 

 あんな変わり身の早い連中を味方につけても信用できない、と個人的には思う。

 

 けれど、それは多分グリフィンドール的な発想で、スリザリンのイレイナは裏切り寝返りも含み損みたいに考えているのかもしれない。

 たとえ信用できない烏合の衆でも、数は力。そして力に貴賎は無い。組み分け帽子だって、こう言ってたじゃないか。

 

 

 ――どんな手段を使っても目的遂げる狡猾さ、と。

 




チェンジリング
・純血夫婦の子と周囲に偽って、愛人(主に半純血)の庶子を嫡出子として扱う、純血名家の風習。本作の独自設定。

 ちなみに上記の設定、「呪いの子」に出てくる某キーパーソンの生い立ちから思い浮かんだものです。
 倫理的にはアレですが、ガチの近親婚だとゴーント家みたいになるし、かといって自由恋愛OKにしちゃうと相続の度に財産が分割されて貧しくなる(個人的にウィーズリー家がそうなんじゃないかと妄想していたり)ので、この辺はトリレンマなのかなと。


アンドロメダ事件
・スリザリン寮で語り継がれるBSS案件。正論で小馬鹿にする人間は、例えスリザリン生だろうとスネイプ先生から容赦なく減点される。
 
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