ハリー・ポッターと灰の魔女 作:アストラマギカ
今さらですが、ホグワーツでは『監督生』という制度があり、5年生になると4つの寮から男女2名ずつ選ばれます。
そのため各寮には監督生が6名、ホグワーツ全体では合計24名存在し、7年生から選ばれる男女2名のホグワーツ首席の下、ホグワーツの自治に協力するのです。
普通の生徒と大きく違う点としては「寮杯を加点・減点する権限」を保有していることで、生徒たちの生活指導や秩序維持の一翼を担い、いわば学級委員長や生徒会メンバーのようなもの。
それだけにメリットも少なくなく、就職の際には有利になったり、監督生専用のお風呂があったりして、コンパートメントも専用の車両が用意されていました。
「専用車両……ふふふ、なかなか良い響きですね」
特権を噛み締めながら、ふかふかのソファでキングズ・クロス駅の屋台で売ってたクルトシュカラーチをもぐもぐ食べる私。ひも状に伸ばした生地を円柱状の棒に巻きつけて焼いたハンガリー名物で、カリカリもちもちの食感がクセになる菓子パンです。
「イレイナ、君はもう少し行儀よくした方がいいんじゃないか?」
隣でクリームたっぷりのウィンナーコーヒーを啜っているのはドラコ・マルフォイ。こっちも監督生です。
今のところ、ドラコの方からヴォルデモート卿についての話題を振ってくることはありませんでした。
それがダンブルドア校長の“開心術”を警戒してルシウスさんが意図的に情報を秘匿しているのか、あるいは単純に私に気を遣って詮索していないだけかは不明ですが。
(もしドラコがグリフィンドール生だったら、はっきり白黒つけようとしてきたんでしょうか……)
スリザリンは同胞を大事にする寮です。歯がゆく感じていても、相手の顔色を窺い、空気を読んで、雰囲気で察し、遠慮と思いやりで対立を避ける。
だから寮生同士の間ではストレスも少なくて、かくいう私たちもハリー達のように仲間同士で喧嘩したことはありません。
「とりあえず、今年もよろしく。イレイナ」
「はい。こちらこそ」
笑顔でドラコにそう返すと同時に扉が開かれ、監督生専用車両に入ってきたのはハーマイオニーでした。
「――イレイナ、ここにいたのね」
成績からいっても委員長気質なキャラからいっても妥当な人選だったため、ドラコも「穢れた血を監督生にするなんて、ダンブルドアの目も節穴……」とボソボソ悪態を吐く程度に留まり、ハーマイオニーの方も慣れた様子でスルー。
むしろ意外だったのはもう一人の方で、相手を見るなりドラコも意外そうに眉を上げていました。
「……ウィーズリー、ここは監督生用の車両だ。なんでお前がいる?」
「
ぷんすか怒りながら、胸元にある赤と金の『P』と刻まれたバッジを見せつけるロン。ドラコは胡散臭げにバッジを眺め、 失礼にも「スペシアリス・レベリオ‐化けの皮 剥がれよ」をかけて偽物でないことを確認した後、やっと本物であることを認めました。
「へぇ、それじゃポッターは選ばれなかったってわけか」
いちいち嫌味な言い方で煽ってくるマルフォイに拳を振り上げようとしたロンを、ハーマイオニーが必死になって止めます。
「ロン、落ち着いて! 初日から監督生同士で殴り合いとかシャレにならないわ!」
「先に食って掛かったのはマルフォイだ!」
「――やぁ、なんか賑やかなことになってるね」
一触即発の空気を止めたのは、レイブンクローのアンソニー・ゴールドスタインさん。こちらは飄々とした感じの中性的な爽やかイケメンで、隣には癖っ毛をふんわりとしたポニテにまとめたパドマ・パチルさん。どうやらこの二人が、レイブンクローの監督生のようです。
「あ、イレイナちゃんだ」
「久しぶりだね。今後もよろしく」
すぐ後からはハンナ・アボットさんとアーニー・マクミランさんが現れ、そこそこ接点のある私も「久しぶりですねー」と返します。
こうなると流石のロンとドラコも空気が変わったのを察して、何か言いたそうな顔のまま口をつぐみました。
「ほら、結局イレイナだったろ?」
アーニーは得意げな表情でアンソニーを肘で突き、アンソニーが「やっぱり逆張りなんてするもんじゃないね」と返します。
「アンソニーは違う人だと思ったんですか?」
「パーキンソンさんに賭けてたんだ。イレイナより配当が高くて、ダフネやブルストロードさんより確率も高い。もし当たってたら、5ガリオンの儲けになってた」
魔法族とはいえ、やはり賭けごと大好きイギリス人。私のクィディッチ賭博に始まり、双子の三大魔法学校対抗試合を経て、ついには監督生や首席の当選まで賭けの対象になってる模様。
「とはいえ、グリフィンドールでは僕の予想が大当たりだ」
「まさかロンが監督生になるとはねぇ」
「どうせ僕は穴馬だよ……」
茶化すように返しつつも僅かにロンの声音が変わったのを察してか、アンソニーは意味ありげにロンを見てから口を開きました。
「いやいや、そういう意味で言ったんじゃないって。単にハリーは現役シーカーだし、将来のキャプテン候補だからそっちに集中させたい、ってマクゴナガル先生が校長に進言しても不思議は無いってこと」
「アンソニーはマクゴナガル先生のことなんだと思ってるんですか」
「クィディッチになると急にIQ下がる人?」
「あとで本人に伝えておきますね」
「えっ」
慌てるアンソニーにハンナたちが噴き出し、ロンも「仕方ないな」といった表情に。機嫌を直したロンが顔を逸らした隙にアンソニーを見ると、向こうも口の動きだけで「ナイスフォロー」と返してきました。
「とりあえず、お互い監督生就任おめでとうってことで」
アーニーの言葉に乗っかり、適当な飲み物を掲げる私たち。
「「「「かんぱーい」」」」
**
お互い監督生就任を祝った後、「そうそう」とアーニー・マクミランが切り出しました。
「そういえば、みんな去年の成績どうだった? 僕は去年の最終試験、学年順位8位だったんだけど……」
当然、注目が集まるのは私とハーマイオニーの2人。そのうち、10ふくろうでオール『優・O』で堂々の学年1位となった、顔が良いばかりか頭も良い完璧超人の魔女がいます。彼女は一体誰でしょう?
そう―――。
「私よ」
ドヤ顔になるハーマイオニーに、「それ、私の台詞……」と情けない声を漏らしてしまいます。
「うぐ、代表選手に選ばれてさえいなければ、もっと試験対策する時間が……」
「自業自得じゃない」
「むぅ」と頬を膨らませる私に、アンソニーが呆れ顔で口を開きました。
「3位の僕に言わせれば、7科目『優・O』で2科目『良・E』でも十分に恐れおののくレベルだけどね」
「そういうアンソニーも、ちゃっかり3位でドヤってるよね?」
すかさずツッコミを入れたパドマさんは11位でしたが、横にいたロンの成績を見て目を見開きます。
「うわ、思ったよりウィーズリーに負けてる科目があってショック……」
「不正があったんだろ。ウィーズリーのくせに、変身術で優・Oとか絶対マクゴナガルの贔屓だ」
「パドマ、去年のダンスパーティーの件は謝るからもう許して!? あとマルフォイは絶対に許さない」
ワイワイしながら成績を見せあった結果、パドマの次には12位のアーニー・マクミランが続き、13位にドラコ・マルフォイが入ってきます。ハンナ・アボットさんは17位でロンは18位となり、1学年が140人前後であることを考えるとギリギリ成績上位層と言えるでしょう。
「やはりウィーズリーが最弱……」
「よーし、マルフォイちょっと表出ろ」
「ロン、やめなさい。そういうチンピラっぽい振る舞いは、監督生の品位を落とすだけよ」
「ドラコも辛勝レベルですし、煽り過ぎるといつかブーメランになって返ってきますよ」
ハーマイオニーと私に窘められて「はい……」と大人しくなるロンとドラコを見て、アンソニーとパドマがけらけらと笑います。
「やっぱり君たち、実は仲良しだよね?」
「いっそ付き合っちゃえば?」
「「絶対にお断りだ」」
「ほら、息ピッタリじゃん」
「ねー」
さすがに監督性ともなると成績だけでなく社交性もある程度は考慮されると見え、いい感じの塩梅で会話を回してくれるレイブンクローの二人組。そこにハッフルパフ監督性のアーニーとハンナが宥めたりフォローに入ったりしてくれ、時おり緊張する瞬間があっても丸く収まっていく流れが生まれました。
「でも、ウィーズリー君もマルフォイ君も入学してからずっとハーマイオニーとイレイナと一緒なんでしょ? ちょっと羨ましいかも」
「まぁ、逆にこれで成績悪かったら“4年間いったい何をしてたんですか?”とはなりますよね」
ハンナの言葉に私がそう返すと、アンソニーが「うーん」と顎に手をやります。
「レイブンクローはちょっと違うかも」
「良くも悪くも個人主義だから、教え合う文化はあんま無いよね」
パドマ曰く、自分から頼みに行けば割と教えてくれるらしいのですが、逆に言えば自分から行動できない人間は完全に放置されてしまうとのこと。
「ていうか、そもそもウチの寮ってそこまで頭いいわけじゃないし」
「えっ、そうなんですか?」
勉学に熱心な生徒が集まる寮、という評判を当のレイブンクロー監督生が否定するとはこれ如何に。ドラコたちも意外そうな顔になった後、視線をパドマさんに向けると。
「ぶっちゃけレイブンクロー生、基本ただのオタクだから⭐︎」
ドヤッ、という効果音が聞こえて来そうな顔で親指をグッと立てるパドマさん。どうして自慢げなのか。
「でも、みんな薄々気づいてたでしょ? レイブンクロー生って得意呪文や好きな分野はぶっち切りで1位とるけど、そうじゃない分野は割と平凡って」
言われてみると、たしかに自分の専門分野の時だけ急に早口になるような気がしないでもありません。
「好きなことには食事も睡眠も忘れるぐらい没頭するけど、興味ないことは正直どーでもいいと思ってるもんね、私たち」
「だから他人に寛容で多様性に溢れるとも言う」
「そうそう。他人に無関心なことの裏返し、とか言ったらアカンで」
「なんで急にアイルランド弁になったん?」
謎のエセ方言で話し始める2人ですが、自虐していても卑屈さは無いやり取りに、監督生としての落ち着きと視野の広さを感じなくもありません。
自寮中心だった人間関係も進学するにつれて広がっていき、少しずつ「〇〇寮生」だけでなく「ホグワーツ生」という意識も芽生えつつあるようでした。
「ちなみにオタクでいったら、アンソニーって何オタクなの?」
「一応、チェスかな。未だにロンには勝てないけど」
「いやいや、時間の問題だって。君の上達スピードえぐいし」
さすがに5年も同じ学校で過ごしていれば他の寮生とも普通に接点が増えてくるもので、いつの間にやらチェス・クラブで仲良くなっていたそうです。
「キッカケとかあったんですか?」
「3年生の時、スキャバーズのことでハーマイオニーと気まずくなっちゃった時があってさ」
そういえば、あの時のハーマイオニーはとにかく忙しそうでした。バックビーク裁判のことを調べてたり、沢山の教科をとってたりで、ちょっと話しづらい雰囲気はあったかもしれません。
「かといってハリーはハリーでクィディッチ優勝杯がかかってたから、たまたまヒマで“なんかやることないかなー”って思ったところで、チェス・クラブの部員募集の張り紙を見つけたんだよ」
「こっちでは有名人だったけどね。マクゴナガルの巨大チェスを破ったって話はみんな知ってたし」
「だったら、もっと早く誘ってくれよ」
「ウチの部員はシャイな人も多いから」
そんな感じで盛り上がってるうちに、徐々に会話は「監督生として、これからホグワーツでどう過ごすか」に移っていきます。
「とりあえず、最初の山場は新入生の歓待だよね」
「ちょっと緊張するかも。うまく説明できるかな……」
アンソニーの言葉に、ハンナが不安そうな顔になります。
「イレイナちゃんは不安とか無い?」
「別にありませんよ。ちゃんと準備しましたので」
「準備?」
「実はこんなこともあろうかと」
ハンナに対して、私が差し出したのは1枚の冊子。
「なになに……『スリザリン寮新入生用:ホグワーツ入学の手引き』?」
マグルの大学なんかに入学すると、まず最初に渡されるのが入学ガイドライン。授業スケジュールや図書館の利用方法、クラブ活動の紹介、学校の大まかな地図、その他もろもろの規則なんかが分かりやすく記載されています。
それと似たようなものを作って新入生に渡しておけば、いちいち新入生に説明する手間が省けますし、新入生の方も先輩がいなくても自分たちで確認できるため、あって困ることはありません。ガイドラインを読んでも分からないことだけ、監督生が対応すれば大幅な労力の節約になります。
「イレイナ、これ凄いわ! でも、たしかにあれば便利かも」
感心したようなハーマイオニーの声に、ハンナがうんうんと頷きました。
「みんなで苦労したもんね。もう慣れたけど、動く階段とか普通に恐怖だったし」
「わかる。動く階段はまだしも、途中で段が消える階段は死にかけたから止めて欲しい」
「無駄に絡んでくる肖像画とか、ゴーストとかピーブスも最初は怖かったよね」
「むしろ、今まで何でなかったのか不思議なくらいだ」
「あ、でもウガンダのワガドゥーと中国のシャンバラ魔法学校にはあるってチョウ先輩が言ってた」
パドマの感想に「そうなんですか?」と質問すると、「らしいよ」と頷いて。
「どっちの魔法学校も、人口が多いからね。マニュアル化しないと捌ききれないんじゃない?」
「なるほど」
ちなみに中国魔法界は人口が多いため、学校だけでなく魔法省もマグルと同じように官僚制度やマニュアル主義が発達しているそうな。
逆に言うとイギリス魔法界が自由放任主義というのは、人口が少ないがゆえにわざわざ発達させる必要が無かったという経緯もあります。
「それにしても、いつの間にこんなのを作ったんだい?」
「作ろうと思えば作れるんだろうけど、それなりに大変じゃなかった?」
アーニーやパドマも興味津々で聞いてくるので、この辺で少し種明かしをする私。
「実はパーシーさんから、新入生指導に必要な情報をまとめたマニュアルを自分用に作ってたという話を聞きまして」
「たしかにパーシーさんなら作ってそうよね」
「なのでダメ元で頼んだら“役に立てるなら僕としても嬉しい”って、普通にくれたので」
「やだイケメン……♡」
「あとは私が少し手を加えて、ファーレイ先輩の歓迎メッセージの台本をコピペしたりして、スリザリン仕様に改訂した感じです」
「あれ、思ったよりイレイナなんもしてないような……」
失敬なことをのたまうアーニー・マクミランの口に、厳選された百味ビーンズを放り込む私。ゲロ味やら鼻くそ味やらで悶絶するアーニーを横目に、切り貼りしたり目次作ったり、見栄えとか文字の大きさとか、案外やってみると時間がかかるものなのだと、いかに苦労したかを力説していたところで、再びガラッと扉が開いて大柄な男子生徒が入ってきました。
既にグリフィンドールの学生服に着替えたガタイのいい男子の胸には、昔のパーシーさんと同じように「H」のバッジが。
「よし、皆集まったな!? ミーティングを始めるぞ!」
監督生専用車両に、自信に満ちた声が響きました。
「今年の男子首席、クリスチアン・アレクサンダーだ! 諸君、おはよう!」
胸を反らして車両中に響く大声で挨拶したのは、グリフィンドールの7年生。精悍な顔つきのマッチョマンで、ハリウッドのアクション映画とかに出てきそうなタイプです。
声を揃えて「おはようございます」と挨拶を返す監督生に「元気でよろしい!」と豪快に笑った男子首席の次に、優雅な足取りで前に出てきたのはユーフェミア・ロウル先輩でした。
「ようやく新学期が始まりました。学期始めは1年生の指導やクラブ活動の勧誘などで忙しくなると思いますが、頑張っていきましょう」
「はい」
今年の女子首席はロウル先輩のようで、こちらも妥当な人選といったところ。
「じゃあ、これから事務連絡に入るが―――その前に、ひとつだけ俺からお願いがある」
男子首席のアレクサンダー先輩が真剣な面持ちで私たちを見回しました。
「本来であれば、首席にはセドリック・ディゴリーが選ばれるはずだった」
しん、と静まり返った室内に先輩の声だけが響きました。痛々しいほどの沈黙が、心の奥底に封じ込めていた記憶を蘇らせます。
最後まで品行方正で模範的な生徒であろうと、その生き様を貫いたセドリック。最後に交わした約束を、果たして私はどこまで守れているのか。
「もちろん、ダンブルドアからそう聞いたわけじゃない。だが、誰もがそう思っているはずだ。そして俺もまた、首席になったセドリックを笑顔で拍手してやれないことが残念でならない」
堂々とした口ぶりで語る先輩の手は、ぎゅっと固く握りしめられていて。
「俺たちには、セドリックに出来なかった事が出来る。ホグワーツで当たり前のように授業を受け、当たり前のように友人と団らんし、当たり前のように休日には箒に乗ったり本を読んだり恋人とデートする……そんな“普通の学生生活”を、俺たちは守っていかなければならない!」
アレクサンダー先輩は分厚い胸を反らして、力強く宣言しました。
「もちろん、その中には諸君の生活も含まれている! 上級生となって将来の進路を考えるために、学校の外に目を向けることも多くなるだろう! その中で不安を覚えたり、憤りや焦りを覚えることも増えてくると思う。そんな時こそ、目の前のことに集中して欲しい! 俺たちは大人からみればまだまだ子供で、しかし大人へと成長している道半ばにある! 自分がどういう大人になりたいのか、そのために今すべきことは何かよく考えて行動しろ! いいな?」
「「「「はい!」」」」
こうして、新たに監督生となった私の5年目が始まったのでした。
ホグワーツ首席って4寮の監督生を全て率いる存在なので、どの寮とも仲良くなれるタイプが望ましいような気がします。
監督生も有力な首席候補なので、多少は考慮されるかも?
レイブンクロー生、知識は重んじるけど変人も多いらしいので優等生タイプというよりオタク気質なんじゃないか説。ゴブリン語オタクとか忘却術一点特化、杖職人なんかを見てても、勤勉な優等生というより一芸に秀でる人が多いのかなと。
シャンバラ魔法魔術学校(独自設定)
・チベットの山奥にある魔法学校。主に中国系の生徒が通う。