ハリー・ポッターと灰の魔女   作:アストラマギカ

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※独自解釈・独自設定あり。苦手な方はご注意ください。


第15章 ~組み分け帽子の新しい歌~

   

 例年通り、ホグワーツの始業式は「組み分け帽子の歌」から始まりました。

 

 ところが今年はいつになく拍手が少なく、歌を聞き終えた生徒たちは隣同士でヒソヒソと意見を交換し合うばかり。

 

 というのも、これまではホグワーツの4寮それぞれの特徴を述べるというのがセオリーで、学校に対して4寮の団結を訴える警告を発したことなどありませんでした。

 

 

「なんか今年の歌、いつになく意識高い系じゃねーか?」

 

 組み分けが終わって食事会に入ったところで、ザビニがローストビーフを切り分けながら言いました。

 

「帽子のくせに、学校が危ないとか分かんの?」

「校長室に置いてあるから、暇な時にダンブルドアの独り言でも聞いてるんでしょ」

 

 ヨークシャープディングにフォークを刺しながらパンジーが興味無さそうに言いました。

 

「なんだよ、危険って?」

「普通に考えたらシリウス・ブラックだけど……」

 

 ちらっと私の方を窺うダフネに、曖昧に微笑んで返す私。なんとなくスリザリンでは私の前でセドリックの話を出すのはタブーみたいな空気になりつつあり、パンジーが「ちょっと」とダフネを小突いて話題を変えるように口を開きました。

 

 

「それで、帽子は全寮に仲良くなれって?」

 

 パンジーがダフネ、トレイシー、ソフィを順に見ました。3人ともスリザリンカラーの夏服を着ているものの、よく見るとネクタイがレイブンクロー、グリフィンドール、ハッフルパフのそれ。

 

「……なんで何とかなりそうなのよ」

「良いことじゃないですか」

 

 もともと上級生になるとクラブ活動やバイトなんかで他寮と交流する機会が増え、他寮にも友人や恋人ができる傾向があります。しかし、去年の三大魔法学校対抗試合やクリスマス・ダンスパーティーの件もあってか、今や逆に他寮と全く交流のない生徒の方が少数派に。

 

「というか、恋愛だと逆に他寮と付き合うパターンの方が多いまであるような……?」

「そりゃあね」

 

 トレイシーが肩をすくめ、リリィ・ムーンさんも同意するように頷きます。

 

「寮内恋愛って別れた時に面倒じゃん」

「特に同期とか、ガキの頃から一緒なせいで異性として見るの無理じゃね?」

「なんとなく弟みたいに見えちゃいますもんね」

 

 反対側の席でギリーサイダー(炭酸入りギリーウォーター)を飲んでいたドラコが咽せると、パンジーはその背中をさすりながら憮然とした顔で言いました。

 

「イレイナはともかく、トレイシーはまた彼氏変えたわけ?」

「“また”っていつの話してんの?」

「 ハーパーと別れて、年度明けに付き合い出したハロルド・ディングルはどうしたのよ?」

「大昔の話じゃん」

「まぁ、ここ最近ずっと色々ありましたからね」

 

 学生時代は1学期が大人の1年ぐらいに感じられるものですし、私が三大魔法学校対抗試合に追われている間にも、他の生徒たちには彼らなりの物語があったんでしょう。知りませんけど。

 

 

「で、そのネクタイどうしたわけ?」

 

 パンジーが聞くと、ダフネは「待ってました!」とばかりに満面の笑顔で。

 

「じゃーん! アンソニーの予備もらったんだー♡」

 

 聞けば、去年の学期末からカップル同士のネクタイ交換が謎に流行りはじめたとのこと。社会人になると恥ずかしくて出来たものではありませんが、学生だからこそ許されるノリを全力で楽しんでいるようでした。

 

「さすがに付き合ってるアピール露骨過ぎない?」

「このぐらい分かりやすくアピールしないと、逆に変な勘違いされたりするんだよ。それで誤解されるのも困るじゃん」

「そういえば、フラー・デラクールさんも去年そんなこと言ってましたね」

 

 美人というのは少し親切にしただけで勘違いされる生き物ですし、かといって距離をとると「お高くとまってる」と揶揄されてしまうもの。

 フラーさんとはあまり仲良くはなれなかったのですが、美人ゆえの悩みについてだけは妙に共感できた記憶があります。

 

 

「それにレイブンクロー寮にお邪魔する時とか、スリザリン制服のままだと胡散臭い目で見られるけど、レイブンクローのネクタイ付けてると“あ、彼氏に会いに来たのね……”って心なしか温かい目で見られる気がする!」

「パスポート的な効果もあるわけですか」

「あと単純にかわいくない?」

「かわいいですね」

「ありがと! イレイナも相変わらず可愛いよ!」

「ふふふ、照れてしまいますね……」

 

「なんだかんだで懐柔されてんじゃないわよ。あんた監督生でしょうが……」

 

 じゃあ呆れ顔で溜息を吐くパンジーの方は真面目に校則を守っているのかと言われると、堂々と第3ボタンまで開けた胸元には――。

 

「……そのネックレス、すごく似合ってますね」

「でしょ!?」

 

 私が褒めた途端、気だるそうにしていたパンジーの顔がぱぁっと輝きました。嬉しそうに蝶のネックレスを手に取り、もっとよく見ろと言わんばかりにヒラヒラさせます。

 

「誕生日プレゼントにドラコが買ってくれたのよ! それもそこらのネックレスじゃなくて、『ヴァンフリ』のプシュケーよ! ほら見て、こうやって指でつつくと……」

 

 パンジーが指でつつくと、ホワイトゴールドの蝶がまるで生きているように優雅に羽ばたきました。

 このヴァンフリ……ヴァンフリート&イーペルは魔法界5大ジュエリーブランドの一つであり、全て小鬼の職人による手作りで生産されています。さすがに若者向けブランドの廉価版とはいえ、社会人でもプレゼントするには若干勇気のいるお値段だったりするのですが、純血名家には通用しません。

 

 

 というのはさておき。

 

 

「パンジーもそろそろ、ハーマイオニーあたりと仲良くしてみたらどうです?」

「やだ。私、あの子嫌いだし」

 

 今後に向けて更なる融和を図ろうとする私でしたが、ぷいっとそっぽを向かれてしまいました。

 

「ハーマイオニーの何がそんなに嫌いなんですか?」

「なんとなく」

 

 そんなフワッとした事で嫌わなくても……と思いつつ、「おや」と気づいたことがありました。

 

 

「マグル生まれだから嫌いだったんじゃないんですか?」

 

 

 死喰い人にこそなっていませんが、パーキンソン家も純血主義で知られた家風です。なのでパンジーのハーマイオニー嫌いも、ドラコと同じように親の思想の影響が強いのかと思いきや。

 

「違うわよ。ジャスティン・フィンチ=フレッチリーは上流階級の作法をわかってるし、クリービー兄弟だって可愛いと思ってるし、クリアウォーター先輩は普通。グレンジャーはグレンジャーだから嫌いなの」

「じゃあ、『穢れた血』って煽ってたのは……」

「嫌いな奴をディスれる悪口があったら、言うに決まってるでしょ」

 

 身も蓋も無いことをのたまうパンジー。

 

 もっとも往々にして戦争というのは、大義名分があるから戦争するというより、戦争したいから大義名分を捻りだす、ということが少なくありません。

 

「こういうのは理屈じゃないの。よく人を好きになるのは理屈じゃないって言うでしょ? なら、嫌いになるのだって同じ。根っこは感情で、理屈は後から付いてくるもんよ」

「無駄に清々しくて一瞬だけ好感持ちそうになりましたけど、普通にイジメっ子の理屈ですからね?」

 

 とはいえ、身内である私にはこうやって素直に自己開示してくれることもあってか、なんだかんだ嫌いにはなり切れないので困ったものです。

 

「ちなみに、パンジーともハーマイオニーとも仲良くしたい私のことは?」

「別に。友達の交友関係にまで口出すほど束縛しようとは思わないし、第一、グレンジャーのことなんかでイレイナと喧嘩したくないわよ」

 

 「友達の友達は友達」と考えるダフネと違い、「友達の友達は他人。だから口出ししないし、されたくない」というのがパンジーの考え。

 そう考えると無理に「仲良くなれ」とも言えないわけで、同じスリザリン生いえどもやはり人によって色々な考え方があるなーと、人間関係の複雑さを改めて実感する私なのでした。

 

 

 **

 

 

 そんな感じで夕食を終えた生徒たちがガヤガヤしてきたところで、再びダンブルドア校長が立ち上がって事務連絡に入ります。内容は恒例の「禁じられた森に入ってはならぬ」とか「フィルチさんから追加された禁止事項」なんかについてで、ヴォルデモート卿のことについて特に言及はありませんでした。

 

「人事について、2件ほど伝えねばならん。まず魔法生物飼育学の教員じゃが、今年はハグリッドがサバティカル(研究のための長期休暇)を取ったため、グラブリー=プランク先生に全生徒を担当してもらうことになった」

 

 十中八九、サバティカルというのは建前なんでしょうが、それはそうとスリザリン寮を中心に拍手で歓迎されるグラブリー=プランク先生。続いてダンブルドア校長は簡単にアンブリッジ先生の紹介をして、そのまま話し続けようとしたところで「ェヘン、ェヘン!」と特徴的な咳払いが大広間に響き渡りました。

 

「今年はのど飴が売れそうだな」

 

 ドラコが皮肉を言うと、ニヤッと笑って本物そっくりに「ェヘン、ェヘン」と咳払いを始めるミリセントとザビニ。2人の悪ノリにパンジーやダフネたちがクスクス笑いを始め、ノットは無言でのど飴をスタンバイ。

 他のテーブルも似たり寄ったりの反応で、早くも悪ガキたちに苦労するアンブリッジ先生の姿が見えてくるようです。

 

 

 

「さて、ホグワーツに戻って来られて本当に嬉しいですわ!」

 

 しかし、当の本人は全く気付かない様子で演説を始めていきます。

 

 

「ホグワーツの歴代校長は、この歴史ある学校を治めるにあたり、常に何らかの新しいものを導入してきました。進歩がなければ停滞と衰退あるのみ……それは間違っていません。ですが、進歩のための進歩は奨励されるべきではありません。何故なら、変化には良い変化も悪い変化もあるからです。もちろん時代遅れになったものは切り捨てるべきですが、次の世代に残すべき伝統もまた存在します」

 

 

 暗記したように無味乾燥な話し方でしたが、内容の方は意外と筋が通ったもの。

 

 

 

 純血主義や人狼差別は良くないから、どんどん魔法界を変えていくべきだ――。

 

 魔法界を変えることで別の問題が起こったら困るから、慎重になるべきだ――。

 

 

 

 前者がダンブルドア校長らの立場だとすれば、アンブリッジ先生の立場は後者でした。

 

 

「着実に進歩するには、歴史から学ばねばなりません。伝統とは、先人たちが試行錯誤してきた獲得した知恵の宝庫です。ゆえに歴史から学んだ者は必然的に伝統を重んじるようになる、と言っても過言ではないでしょう。一見すると理不尽に見えた伝統が、実は最悪を防ぐための必要悪であった、ということは珍しくないのですから」

 

 

 アンブリッジ先生の言葉に、ロウル先輩ら純血主義寄りの生徒たちがうんうんと頷きます。

 

 一方でブレッチリー先輩ら実力主義寄りの生徒たちは渋い顔をしており、リリィ・ムーンさんに至っては小声で「老害の発想じゃん」とばっさり。

 

 

「もちろん時代にそぐわないものは切り捨てなければなりませんが、安易に理不尽な迷信だと切り捨てる前に、なぜそういった伝統が現代まで受け継がれてきたのか……今一度、再考すべきでしょう。保持すべきは保持し、正すべきは正し、バランスを保ちながら新しい時代に前進しようではありませんか」

 

 

 アンブリッジ先生が座ると、教授陣から拍手が起こりました。逆に生徒の大半は話をロクに聞いていなかったらしく、演説が終わったことで不意を突かれていました。

 

 

「面白かった?」

 

 欠伸しながら聞いてくるダフネに、「それなりには」と返す私。

 

「要点は2点です。1点目は魔法省がホグワーツに干渉するということ」

「2つ目は?」

「干渉の方針は、伝統重視だということです」

「へー」

「自分から聞いといて何の興味も無さそうな顔をしないでください……」

 

 もっともスリザリンだとこの手の政治に関心のある生徒ほど純血主義に染まりがちなので、ダフネのように無関心な生徒の方が他寮の友人が多い傾向があったりします。

 

 

「てか、今さらなんだけど魔法省ってホグワーツに口出しできないんだっけ?」

 

 ふと思い出したように、そんなことを聞いてくるトレイシー。

 

「ホグワーツは私立学校ですからね」

「あ、そっか」

 

 外国では魔法省が設立した公立魔法学校もあるらしいのですが、ホグワーツの成り立ちは4人の創始者が私財を投げうって作った私立学校。なので学校の運営を担うホグワーツ理事会はあっても、教育庁のような組織が魔法省にあるわけではありません。

 

 

 なのでマグル風に言えば、ホグワーツは“魔法族のための“パブリックスクール(名門私立制寄宿学校)となります。そしてホグワーツ理事会は会社でいう取締役会に相当し、校長はさしずめ雇われ社長といったところ。

 

 

 何度か公立化するという話もあったのですが、マグルで例えるならオックスブリッジを国立大学化するようなもの。やはり一筋縄ではいきません。

 

 

「あれ……でもホグワーツって、学費無料じゃなかったっけ?」

「その話なんですけど、だいぶ揉めたみたいなんですよね」

 

 今でも魔法学校のない国なんかでは家庭内教育で済ませている魔法使いも多く、私立学校であるホグワーツへの入学は今でも建前上は「権利」であって「義務」ではありません。

 なので先ほどの公立化の議論にしても、財源の話になると増税反対の大合唱に遭うのが関の山。

 

 

 そもそも、『ホグワーツの歴史』によれば創始者4人の間でも学費に関する考え方が大きく異なっていたそうです。 

 

 サラザール・スリザリンは「教育は限られたエリートのためのもの」と考えていて、教育無償化に強固に反対していたそうな。

 対してヘルガ・ハッフルパフはいわゆる公教育的な思想の持ち主で、魔法が使える子供たちに幅広く門戸を開くべきと考えていたことから、教育無償化を推進していました。

 

 ロウェナ・レイブンクローとゴドリック・グリフィンドールはその中間で、前者は筆記試験、後者は実技試験を入学試験として課して、合格すれば奨学金を提供すべきと主張。

 最終的に妥協案として成立したのがホグワーツの四寮制で、『組み分け帽子』は当時の適性試験の名残だという話でした。

 

 

「その後も長らく純血名家の寄付がホグワーツの財源だったのですが、徐々に魔法省の寄付――事実上の教育補助金――も増えて、少しずつ無償化も進んでいったそうです」

 

 

 最初は奨学金審査の廃止、次いで奨学金の無利子化、そして無償化といった流れですが……マグル生まれにも無償化が認められたのは、1991年になってようやくでした。

 

 これはホグワーツ理事会メンバーには多額の寄付を行っている純血名家が多く、純血の彼らからすると「遠い親戚かもしれない魔法族のために寄付するならともかく、なんで縁もゆかりもないマグル生まれの学費まで肩代わりしなきゃならんのだ?」という話になります。

 

 

 なので最近までマグル生まれの生徒は卒業と同時に、高額な奨学金(ホグワーツは私立なので、本来の学費は非常に高額)を請求されて返済に追われることになる者がほとんどでした。

 そのため卒業後に生活苦から犯罪に走ったり、返済期限までに金を揃えるために多重債務に陥って破産するマグル生まれも少なくありませんでした。

 

 

 もちろん純血名家は「借金を返せない奴が悪い」「犯罪に走ったらアズカバンに放り込め」と自己責任論を振りかざし、それどころかマグル生まれ=犯罪者予備軍というイメージを盛んに喧伝して「魔法界から追い出せ」と主張します。

 

 一方でダンブルドア校長などは「そんなことをしても対処療法にしかならないから、マグル生まれの奨学金返済地獄を回避するために、ホグワーツを完全無償化して予防すべき」と主張。

 

 するとまた最初の議論に戻る、という堂々巡りが繰り返されていたのですが――。

 

 

「結局、最終的にダンブルドアの意見が通ったってことか」

「結論から言うとそういうことになります」

 

 なるほど、と納得するトレイシーに微笑みつつ、私はお母さんから聞いた真相を思い出していました。

 

 

「――ダンブルドア校長って、もともとルシウス君たちを無罪放免にすることに反対してたのよ」

 

 残念でもないし、当然としか言いようがありません。ぶっちゃけ“『服従の呪文』で従わされてた”というのが何十人もいたら色々と無理がありますし。

 

 ともあれ、最終的にどうやって説得したんですか、と聞くと「それはね」とにっこり笑って。

 

「ルシウス君たちを無罪放免にするかわりに、マグル生まれを含めたホグワーツの完全教育無償化に賛成&多額の資金を寄付させるよう取引したらどうかしら?って提案したのよ♪」

「………大人って、やることが汚いですね」

 

 ともあれ、この汚い裏取引によってハーマイオニーは奨学金地獄に陥るリスクを回避でき、ルシウスさんもアズカバン入りを免れ、ドラコは両親の愛情をたっぷり受けて育つことが出来た……という事もまた、否定できない事実なのでした。

 




 アンブリッジの演説、子供時代に呼んだ時はハリーたちと同じく退屈に感じたんですが、大人になって改めて読むと英国を代表する「保守思想の父」エドマンド・バークを彷彿とさせる内容で軽く驚き。

 バークはフランス革命などによって「理性」が広く受け入れられつつある時代にあって敢えて「偏見」を肯定し、「人間は不完全だから、理性のみによって判断するのは危険。一方で偏見や伝統というのは、先祖たちの試行錯誤の末に生まれたもので、不完全で非合理的でも間違いが少ないがゆえに生き残ってきた」と主張しました。
 なので好意的にとらえるなら、「純血主義や人狼差別といった偏見は魔法界の長い歴史の中で生き残ってきたものだから、マグル的価値観や理性のみで切り捨てるのは逆に危険」というのがアンブリッジの思想でしょうか。

 
 あとハリー・ポッターってイギリスの伝統ある「学校物語(貴族だらけの名門私立に、庶民の主人公が入学するサクセスストーリー)」から影響を受けているような気がするので、ホグワーツってやっぱりパブリック・スクール(名門私立学校)のイメージが近いのかなと。
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