ハリー・ポッターと灰の魔女   作:アストラマギカ

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第17章 ~アンブリッジのあくどい処罰~

   

 議論が行き詰まってきたところで、「なあ」と何かを思いついたようにドラコが口を開きました。

 

 

「今さらなんだが、クィレルとロックハートの時って、フリント先輩たちはどうやって試験をクリアしていたんだ?」

 

 

 今さらですが、『闇の魔術に対する防衛術』は毎年のように教師が変わり、おまけに当たり外れも大きい科目です。

 去年の偽ムーディ先生と一昨年のルーピン先生は当たり年でしたが、ロックハート先生の授業は酷いものでした。クィレル先生はそれよりマシとはいえ、授業内容はアンブリッジ先生に近い座学中心のもの。実技も禁止こそされませんでしたが、消極的だった印象があります。

 

 するとザビニが「そういえば」と頬に手を当てました。

 

「ファーレイ先輩はたしか、上級生とか卒業生から個人レッスン受けてたって言ってたな」

「あー、その手があったか」

 

 ニヤッと狡猾そうな笑みを浮かべるトレイシー。

 

「異性慣れしてないガリ勉レイブンクローの先輩に気があるフリして、空き教室で実技教えてもらう的な?」

「でも、それだけだとだいぶ数が絞られますよね」

「ああ。だから途中から紹介制の講習会に変えたらしい」

「ふむ」

 

 何やら美味しそうなビジネスの匂いがしてきました。参加者は受講料を払う代わりに指導を受けられ、卒業生もちょっとしたお小遣い稼ぎに。何より主催者は両者を引き合わせるだけでぼろ儲け……いやまぁ、そのコネを作ったりアイデアの対価でもあるんですが。

 

 ふふふ、と悪い顔が表に出てしまったのでしょうか。ザビニが呆れたように「あのな」と口を開きました。

 

「言っておくけど、ああ見えて仲介手数料とかは受け取ってなかったぞ」

 

 あれ、ズル賢そうなキャラに似合わず良心的……。

 

「フリント先輩と組んで、自分たちに親しいメンバーにだけタダで紹介していたからな」

「思いっきり利権政治じゃないですか」

 

 もっとも、同胞愛という美名の裏に隠された縁故主義はスリザリンのお家芸。今さらツッコミを入れる方が野暮というものですし、何よりアイデアとしては悪くありません。

 

 

「考えてみればノットみたいに通信教育を受けてる生徒もいますし、そもそも純血名家の大半はホグワーツ入学前に家庭教師を雇って勉強してますもんね」

 

 公的機関で供給しないというなら、民間市場で調達するまで。需要があれば自ずと供給も生まれるものです。

 

 

 

 ―――というわけで。

 

 

 

 さっそく教育ビジネスを家業とするパンジーが実家に働きかけたところ、2週間ぐらいしてから土日開講の塾がホグズミードで開かれることに決まりました。

 

「元々ホグズミードにあったエリート向け予備校を拡張して、新しく『闇の魔術に対する防衛術』の講座を追加することになったわよ。すぐにというわけにはいかないけど、クリスマス休暇明けには開講する予定みたい」

「講師は見つかったんですか?」

「イゴール・カルカロフだって」

 

 ダームストラング校を退職したカルカロフさんは、しばらく魔法省の重要人保護プログラムを受けて護衛付きでイギリス国内に潜伏していたものの、ダンブルドアのお膝元であるホグワーツに近いホグズミードでの職を希望したとのこと。

 

 もともと闇の魔術で名高いダームストラングの校長なので、腕も悪くはないでしょう。

 

 

 とはいえ、これで万事が解決するというわけでもありません。問題は――。

 

 

 

「値段たっか!?」

 

 

 

 大広間の前に張り出された特別塾のポスターを見て開口一番、あんぐりと口を開けて目が点になるロン。

 

「こんな大金、僕の家じゃとても用意できないよ」

 

 がっくり肩を落とすロンを慰めつつ、ハーマイオニーとハリーは何とも言えない表情に。

 

「無いよりはマシだけど、こうも露骨に格差が生まれるなんて……」

「寮で差別してないはずなのに、応募者の大半がスリザリン生だもんね」 

 

 塾や予備校に通える富裕層と通えない貧困層の格差問題はマグルでも問題になっておりますが、まったく同じ構図が魔法界にも持ち込まれてしまいました。

 

「奨学金とかは無いのかしら?」

「これじゃないかな」

 

 ハーマイオニーの呟きを受けて、ハリーが別のポスターを指さしました。

 

 

 

 ――※スリザリン生限定 ~ 貸付・給付型奨学金のお知らせ~ 詳しくはスリザリンOB・OG会まで!

 

 

 

「……僕、生まれて初めて一瞬だけスリザリンに入りたくなったかも」

 

 ぐぬぬ、と歯を食いしばるロン。

 

 面倒なことも多いスリザリンのOB・OG会ですが、ちゃんと口を出す分だけ資金・人脈・情報なんかも出してる模様。主な利用者は実家の太くない半純血の生徒で、「金は出すから死に物狂いで勉強して、優秀な人材になってウチの会社に貢献してね」と若い内から首輪を嵌めつつ投資しておくのが純血名家のやり口です。

 

 

「せめて平日の夕方に開講とかだったら、まだ土日に頑張ってバイトすれば何とかなったかもしれないのに……」

 

 苦学生みたいなことを言い出すロンですが、それはそれで生徒の安全面を考慮すると難しいと言わざるを得ません。夜中にホグズミードから帰ってくる途中で夜盗や変質者、あるいは危険な魔法生物なんかに襲われる可能性もありますし。

 

 

「……やっぱり、例の計画を実行するしかないのかしら」

 

 ぼそりと物騒なことを呟くハーマイオニー。それを聞いたハリーとロンは首を傾げました。

 

「例の計画? 何それ?」

「アンブリッジを闇討ちするとか?」

 

「闇討ちしたいのは山々だけど、その度に胸に付けてる監督生バッジの事を思い出して抑え込んでるわ」

 

 

 **

 

 

 踵を返して立ち去っていくハーマイオニーを見送った後、ハリーが大きな溜息を吐いて言いました。

 

「じゃあ、僕もそろそろ行かないと……」

 

 鬱屈とした表情には「行きたくない」というオーラがありありと出ております。

 

「なんか嫌なことでもあるんですか?」

「うん、すごーく嫌なことが僕を待っているんだ」

「いつもの事じゃないですか」

「もう少し心配して? 僕たち一応友達だよね?」

 

 さすがに5年目ともなるとハリーの対応も慣れたものですが、少しだけ引っかかる言い方に「おや」と首を傾げる私。

 

「心配してもらいたいような事があるんですか?」

 

 そう聞き返すと、ハリーは明らかに「しまった」といった表情で狼狽え、あらぬ方向に視線を向けました。

 

「いや、その……単なる書き取りの罰則だよ」

 

 どう見ても単なる書き取り罰則の反応で見せる反応ではありません。ちらっと隣にいるロンを見ると、私とハリーを交互に見た後にモゴモゴと話し始めました。

 

「ハリーが授業で抗議したから、アンブリッジが書き取り罰をさせてるんだけど……」

 

 ロンも何か違和感を感じた様子で、「そういえば……」と眉をひそめました。

 

「なんか変だと思ったんだ……ハリー、ここ最近よく左手を使うようになったよね? 右利きなのに」

「あー、うん。両利きになろうと思って」

 

 さすがに無理のある誤魔化し方だったのか、ロンは勢いよくハリーの腕を掴んで手の甲を自分の目の高さまで持ってきます。手の甲には包帯がぐるぐる巻きになっておりました。

 

「……じゃあ、これは何だよ?」

 

 ハリーは顔をしかめ、弱々しく反論しました。

 

「ちょっと自分で切ったんだ――なんでもない――こんなの普通によくある――」

「普通にしょっちゅうリストカットしてたら、別の意味でマズいのでは」

「………」

 

 完全に墓穴を掘ったハリーは黙り込み、手の甲に巻いてあった包帯をロンが勢いよく剥がしました。すると、そこには痛々しい傷跡で文字が彫られておりました。

 

 

 

 ――僕は嘘をついてはいけない。

 

 

 

 さすがに観念したのか、ハリーは渋々ながら何があったかを教えてくれました。

 

「罰則で特製の羽ペンを使うんだけど、自分の血を使って文字を書くんだ」

 

「それ、普通に訴訟案件では?」

「イレイナの言う通りだ。マクゴナガルかダンブルドアに言えよ!」

 

 過去の罰則について立証するのは難しくとも、これから罰則があるのならば証拠品を押さえ、ウィゼンガモットに突き出せば勝訴は難しくないはず。

 

 

「嫌だ」

 

 しかし、ハリーは即座に首を横に振りました。

 

 

「僕を降参させたって、あの女が満足するのはまっぴらだ」

 

「そういう問題じゃないと思うんですが……」

「僕にとってはそういう問題なんだ」

 

 反抗期の真っ最中なのか、頑なに大人に頼る事を拒もうとするハリー。もちろんここで正論を重ねて論破することは難しくありませんが、むしろヘソを曲げられて逆効果になるというのは私も嫌というほど学んでおります。

 

 特にハリーは強い正義感と素直さの裏返しなのか、一度決めたことに関しては頑固に意地を張りがち。であれば、去年のファッジ大臣と同じように当人の意思を尊重し、否定しない範囲で望ましい状況に近づけるしかありません。

 

 

「なら、せめてマートラップの触手を裏ごしして酢に漬けた溶液に手を浸してください。だいぶ楽になるはずですよ」

 

 個人的な確執さえ無ければスネイプ先生からマートラップのエキスを貰うのが一番手っ取り早いのですが、どう考えても無理そうなので代わりにフレッドかジョージに頼むよう伝えます。

 

「たしか『ズル休みスナックボックス』の解毒剤開発のために何オンスか持ってるはずなので、あの2人なら深く詮索せずにくれるかと。足りなくなったらホグズミードのJ・ピピン魔法薬店でも売ってますし、多面鏡を使ってグリーングラス製薬から通販で買うことも出来ますよ」

 

 そう言うと、ハリーが驚いたように目を見開きました。てっきり反対されると思っていたのか、モゴモゴと口を動かすハリー。

 

「……ありがとう、イレイナ」

 

 

 肯定されたことでハリーの中で私の信用ランクも上がったらしく、少し迷ったような表情の後、ハリーは声を低めて私に質問しました。

 

 

「……それでアンブリッジのことなんだけど、イレイナに聞きたいことがあって」

 

 額に残る稲妻型の傷跡を指さし、ハリーは迷うように言いました。

 

「罰則を受けてた時、傷跡が痛んだんだ……今までこっちの傷が痛んだ時、大抵ヴォルデモートが近くにいた」

「少なくともアンブリッジ先生の後頭部に顔は無さそうでしたけど」

「じゃあ、ガマガエルの腹とか?」

「すごいド根性ですね……」

 

 中身のない私とロンの会話をスルーし、ハリーは声を落として言いました。

 

「でも、去年のクラウチの件もあるし、『服従の呪文』にかけられてるか、あいつ自身が死喰い人って可能性はあるだろう?」

「まぁゼロとは言えませんが……」

 

 確証が持てないような言い方をすると、ロンが質問してきました。

 

「マルフォイあたりから何か聞いてないかい? だってほら、あいつの父親は……」

 

 私の表情が少し険しくなるのを見て、ロンは慌てて口を手で塞ぎました。いつもの3人トリオでの会話ならともかく、一応スリザリン生でドラコの友人でもある私の前では、少々デリカシーに欠けた発言だと気づいた様子。

 

「親と子は別ですし、スリザリン生同士や友達だからといって何でも話すわけでもありませんよ。仮にそうだとしても、ルシウスさんがドラコにその事を伝えるメリットがないですし」

 

 私が言うと、ロンは少し不思議そうな顔をしました。

 

「……僕、君たちはもっと仲が良いと思ってた。僕から見たらスリザリン生は苦手な奴が多いけど、なんていうか……その分だけスリザリン生同士は結束力があるというか」

「良くも悪くも身内優先ってイメージだ」

 

 ハリーが続けると、ロンはその通りとばかりに頷きました。

 

「スリザリンにも色んな人がいますから」

 

 私は苦笑しながら言いました。

 

「それに同じ人でも成長すれば価値観も変わりますし、集団だって環境が変わればやっぱり変化します。スリザリン寮の結束力が高かったというのも、純血主義が蔓延して他の寮と疎遠だったことの裏返しという一面もありますし」

 

 お母さんの話ではスリザリンで過激な純血主義が蔓延し出したのも、ヴォルデモートの台頭に合わせて長い物には巻かれろ的な時勢に則った判断の結果とのこと。なのでヴォルデモート消失後は徐々に純血主義も下火になり、他寮との距離も縮まってきたのですが、そうなると今度はスリザリン生同士で強い結束を維持するのが難しくなってきます。

 

「というか、そんなデリケートな事まで話せるぐらいスリザリン寮生同士でガチガチに固まってたら、こうして今みたいに会話できませんからね」

 

 実際、お母さんの学生時代にはグリフィンドール生やマグル生まれと話しただけで、次の日には怖い上級生数人に呼び出されて「もっとスリザリンらしくしろ」と詰められる、みたいな事もあったそうな。

 

 

「それはともかく―――これは個人的な意見なんですが、たぶんアンブリッジ先生は死喰い人じゃないと思いますよ」

「どうして? あんなに嫌な奴なのに?」

「貴方の嫌な人が全員死喰い人というわけじゃないですし、もし本当に死喰い人だったらわざわざ自分から警戒されるような真似はしないと思います。むしろ去年の偽ムーディのように信用されるよう振舞った方が、情報収集するにしてもハリーを暗殺するにしても好都合でしょうし」

 

 私が言うとハリーは「うーん」と少し考えるような顔になり、しばらくして「それもそうか」と微妙な顔になりました。

 

「なかなか難しいね……嫌いな人が必ずしも敵じゃなかったり、いい感じの人が実は敵だったりするのは」

「そういった気持ちに折り合いを付けて、割り切りながら前に進むのが、きっと大人になっていくという事なんじゃないでしょうか」

 

 ちょっとだけ良いこと言った風な私の言葉に、ハリーは苦笑して「かもしれないね」と肩をすくめました。

 先ほどまで頑なだっただけに少し拍子抜けした私でしたが、なんだかんだでハリーの反論を否定せずに肯定した結果、向こうも「一回譲歩してくれたし、次は僕も譲らないと悪いかな……」という気持ちになった模様。これが営業や接客なんかでよく聞くドア・イン・ザ・フェイスという奴でしょうか。

 

 

 

(それはそうと、アンブリッジ先生が虐待じみた罰則をしているというのは、普通に問題なんですよね……)

 

 今のところ被害者はハリーだけなのですが、これまでの傾向を見るにロンとハーマイオニー、フレッドとジョージあたりも危ない気はします。

 

 そう思う一方で、ロンが「マクゴナガルに真相を知らせるべきだ」と真っ当な事を言ってましたし、却ってそうなった方がアンブリッジ先生自身で墓穴を掘ってくれるかもしれません。

 あるいは下手に世話を焼こうとすれば、反抗期の真っ最中のハリー達を刺激してしまう可能性もあります。

 

 なのでしばらく見守りつつ、本格的にヤバそうになったら監督生として介入しようと考えた私だったのですが、やはりアンブリッジ先生もああ見えて魔法省の上級次官まで登りつめた実力者。相手によって有効な手段を使い分け、どうすれば自分にとって都合よく動かせるかしっかり理解しているようでした。

 

 

 かくして次の標的となったのは―――授業でハリーに代わって反論した、ハーマイオニー・グレンジャーさんでした。

 




 次回、アンブリッジvsハーマイオニー!

 今年度から忙しくなり、投稿頻度が落ちがちなのですが、なんとか書き続けていこうと思います。
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