ハリー・ポッターと灰の魔女 作:アストラマギカ
解説のリー・ジョーダンによる選手紹介が終わると、いよいよ試合が始まりました。
「正々堂々と戦ってください! ―――では、試合開始!」
審判のマダム・フーチがホイッスルを吹くと同時に、箒に乗った選手たちが一斉に空へと舞いあがります。
『さて、クアッフルはたちまちグリフィンドールのアンジェリーナ・ジョンソンの手に渡りました。なんて素晴らしいチェイサーでしょう。その上かなり魅力的であります!』
『ジョーダン!』
解説、めちゃくちゃグリフィンドール贔屓。マグル民放のワールドカップ解説なんかも自国贔屓は大概ですが、そんなレベルではありません。
『早くもグリフィンドールが10点を獲得! さすがです。そしてクアッフルはスリザリンへと渡り……おっと! ここで再びグリフィンドールがクアッフルを奪った! 素晴らしいプレーです! いけ!この調子でスリザリンをボコボコに――』
『ジョーダン! 公平に実況なさい!』
『失礼しました! グリフィンドール、惜しくもゴールならず……あーあ。そしてスリザリンがクアッフルを手にゴールへと向かいます。ですがご安心ください、グリフィンドールのキーパーは我らがオリバー・ウッド! あんな連中に負けるはずが―――おっと、あれはスニッチか!?』
ジョーダンの解説に、観客が一斉にシーカーの動きを追いかけます。すると確かに、ハリーの先には金色の光のようなものが。
『よし! ハリー、ニンバス2000の力を見せつけてやれ! このままスニッチさえ取れば―――あ! フリント、汚ねぇぞ!』
グリフィンドール席から、怒りの声が湧き上がりました。スリザリンのキャプテン、マーカス・フリントがわざと体当たりしたので、ハリーが弾き飛ばされてしまったのです。
「退場させろ、審判! レッド・カードだ!」
グリフィンドールの観客席ではディーン・トーマスが大声で叫び、珍しくロンが冷静に「クィディッチに退場はないんだよ。あとレッドカードって何?」と諫めています。
しかし大半のグリフィンドール生は怒り狂っており、解説のリー・ジョーダンも公平中立を保つのが難しくなっていました。
『えー、誰が見ても胸くその悪くなるような反則のあと―――』
『ジョーダン!』
『はい、了解です。フリントはグリフィンドールのシーカーを殺しそうになりましたが、きっと誰にでもある事でしょう。さあ、ゲーム続行。クァッフルはグリフィンドールが持ったままです』
「あの解説、ホントどうにかならないのかしら?」
「へふにええんひゃやいへふは?」
「イレイナはチョココロネ食べ終わってから話しなさい……」
そう言うパンジーですが、やってらんねーとばかりにシュウェップス一気飲みしてたりします。ちなみにシュウェップスとは、イギリスのローカル炭酸飲料で、旅行の際にはぜひお試しあれ。
その後も試合はサクサクと進んでいき、コロネとポテチの袋を食べ終わるころには点数が逆転していました。序盤こそグリフィンドールが優勢でしたが、途中からラフプレー上等でなりふり構わぬ、スリザリンの特色あるプレースタイルが功を為したようです。
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「あれ?」
試合も中盤にさしかかった時、双眼鏡で観戦していたミリセントが声を上げました。
「どうしたんですか?」
「なんかポッターが死にそうになってる」
「え?」
ハリーの方を見ると、確かにミリセントの言う通り、グルグルと謎旋回をしている最中でした。
「あっ!」
すると他の観客も異変に気付いたのか、あちこちでハリーの方を指さしています。箒は荒々しく揺れ、今にもハリーを振り落としそうな勢い。今やハリーは片手だけで箒の柄にぶら下がっている状態で、いつ落ちてもおかしくありません。
「ニンバスの故障?」
ダフネが首を傾げますが、最新型の箒はそんな簡単に故障しません。となると誰かが悪戯でもしていると考えるのが自然ですが、それにしては凶悪過ぎるような。そもそも最新型の箒であるニンバス2000に干渉できるほどの呪文となると、それなりに強力な闇の呪文になります。
思い当たる節は……ちょっとあり過ぎて困りますね。
スリザリンに大金賭けた廃人の誰かが、元を取ろうと裏工作してる可能性は否めません。
「こりゃあ、下手すると試合中止かな。先生たちがいるから死にはしないだろうけど、ポッターが落ちて大怪我でもしたら、続けるわけにもいかないだろうし」
「えっ―――」
ミリセントのつぶやきに、衝撃を受ける私。思わず手に持ってたポップコーンをポロリ。
「ちょっ、ちょっと誰か知りませんが、ハリーの箒妨害するの止めてください! 今すぐに!」
慌てて私が叫ぶと、パンジーが意外そうな顔で聞いてきます。
「なによイレイナ、グリフィンドールの味方するの? いい気味じゃない」
「試合が中止にでもなったらどうするんですか!? 私の主催者収入がパーです!」
もちろん、ハリーの事も心配ですし。あの高さから落下したら死にはせずとも、めちゃくちゃ痛いとかいうレベルではないでしょう。
(仕方ありませんね。いざという時には浮遊呪文で……)
念のため杖を取り出し、ハリーが落ちても墜落しないように狙いを定めます。
ハラハラしながら見守っていると、今度はどういうわけか教員席の方からも慌てた声が聞こえてきました。
見れば、スネイプ先生の足元でマントの裾が燃えています。ボヤ騒ぎの混乱で教員席では観客が押し合いへし合い、哀れなクィレル先生は押し倒されて席に倒れこんでいました。
「あ、復活した」
ミリセントの声に再びハリーに視線を戻すと、どうやらコントロールを取り戻したらしく、再びスニッチを追いかけ始めていました。やっぱりニンバスの故障か不具合だったんでしょうか。
そのまま心配していた試合中止や一時中断などもなく、試合は継続されるようです。まぁ私としては都合がいいんですが、選手の安全的にそれでいいのかと思わなくもありません。
そんな事を考えている内に、ハリーが地面に向かって急降下していきます。私も含めて観客が息を吞んで見つめていると、ハリーは急に手で口を押さえたまま4つん這いになって着地……何かを吐こうとするように何度か咳をすると、金色の物体がハリーの掌の上に吐き出されました。
―――金色のスニッチです。
「スニッチを取った!」
ハリーが叫ぶと、グリフィンドール席からわっと雷のような大歓声が響き渡ります。解説のリー・ジョーダンは大喜びで、何度も試合結果を叫び続けていました。
『グリフィンドール、170対60で勝ちました!大勝利です!』
混乱のうちに試合は終わり、終了後20分経ってもフリント先輩が「あいつはスニッチを取ったんじゃない。飲み込んだんだ」とブツブツ愚痴っていましたが、結果は変わりませんでした。
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そして試合終了後、会場出口の脇に設置された、こじんまりしたテントには長蛇の列が出来ていました。
「はい、次の方。あ、ジャスティンさんですね。では、券を確認いたしますので」
テントの中にある椅子にちょこんと腰かけ、差し出された券と金額を確認し、金貨の枚数を数えている受付嬢の魔女がいます。ええ、もちろん私です。
「はい、では本人確認と金額の計算が終わりましたので、こちらが払戻金になります。おめでとう」
払戻金を渡すと、ジャスティンさんは嬉しそうに帰っていきました。
「では次の方―――………って、え?」
そう言って顔を上げると、そこにはよく見知った人物の顔が。思わず目が点になると同時に、顔が青ざめていくのが自分でも分かります。
「お、お名前は?」
「ミネルバ・マクゴナガルです」
まさかのマクゴナガル先生登場。どうして。
「あ、いま券と金額を確認しますので少々お待ちを……あ、私が休憩でノットが受付代行した時に購入されたんですね。なるほど……」
ノットの奴、いくら何でも仕事を適当にし過ぎです。これだから臨時バイトは。
「それで、いくらになるのです? ミス・セレステリア」
「え、あっ、はい。払戻金ですが……えっ、うそ100ガリオン!?」
めっちゃ大金ぶち込んでますね、マクゴナガル先生。
「あのぅ、その、私が言うのもなんですが……教師が賭博に関与するのは職業倫理的にどうかと」
「クィディッチは例外です」
「はぁ……」
そうですか。例外ですか。ならば仕方ないですね。
「そういえばミス・セレステリアも見ましたか? ミスター・ポッターのファインプレー! やはり十年に一度の逸材だと見込んだ私の目に狂いありませんでした! ああ、アルバスに頼んで本当に良かった……!」
よほどグリフィンドールの勝利が嬉しいのか、ウッキウキのマクゴナガル先生。この人、本当にクィディッチになると人が変わりますね。ネビルの「思い出し玉」事件の時もそうでしたけど。
帰り際なんて、軽くステップ踏んでましたよ。一瞬でしたけど。
ちなみにマクゴナガル先生の配当金ですが、グリフィンドール寮のお祝いパーティーとチーム運営費に充てられたそうです。
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そんなわけで汚い金儲けに走った私は何らお咎めを受けることもなく、試合に負けたばかりか大半が賭け金までスッてお通夜状態のスリザリン寮へと帰っていったのでした。
ちなみにザビニなど数人の不届き者は、あろうことか敵のグリフィンドールにもヘッジしていたそうな。汚いさすがスリザリンきたない。もちろん誉め言葉です。
「しかし、それにしてもハリーの箒の不具合、なんだったんでしょう?」
少しだけその事が心に引っかかりつつも、そのうち関心もクリスマス休暇へと移っていったのでした。
マクゴナガル先生、ハリーを強引にシーカーにねじ込んだり、ニンバス2000をプレゼントしちゃうあたり、クィディッチになると壊れる人(欲はないので、収入はグリフィンドールに寄付されました)
スリザリンが勝ってたら武装お仕置きオチの可能性が微レ存