ハリー・ポッターと灰の魔女   作:アストラマギカ

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※今回はミリセント視点
※独自設定あり。苦手な方はご注意ください。


第27章 ~ウィーズリーこそ我が王者~

 

 私――ミリセント・ブルストロードには最近、新しい趣味が出来た。自分で作った音楽を魔法のアコーディオンで弾いて、『スキータグラム』に投稿するのだ。

 

 

(まさかガキの頃、親にやらされてた習い事がこんなところで役に立つなんてなー)

 

 純血名家の子供たちは大体、子供の頃に無理やり習い事をやらされる。楽器、スポーツ、外国語、ダンス、絵画……私の場合は、ピアノと水泳、バレエとスペイン語だった。

 

 ほとんど身に付かなかったような気がしてたけど、魔法のアコーディオン(蛇腹が魔法で勝手に伸縮する)をピアノ代わりに少しリハビリしたら、経験者だったことが幸いしてか意外にコツを取り戻すことができた。

 

 もちろんガチの音楽クラブと比べれば、演奏技術はお遊びみたいなものだ。だからこそ、いっそ遊びと割り切ってオリジナル曲を投稿してみたら、これがどういうわけか思ったよりウケがいい。ウケがいいとモチベも上がる。気づけばハマっていた、というわけだ。

 

 

 

 **

 

 

 

 新曲を投稿した翌朝、さっそく朝食の席で多機能両面鏡がヴーと震えた。

 

 画面をタップ操作すると、昨日の投稿に何件かの『囁きメール』が送られてきている。『囁きメール』の音量は『吠えメール』と違って収録音の0.7倍ぐらいだから、再生しても周りに迷惑はかからない。

 

 

 最初のコメントは、音楽クラブの後輩グリフィンドール生からだった。

 

『先輩めっっっちゃカッコイイです!』

 

 

 次のコメントは歳の離れた姉貴から。

 

『やるじゃん』

 

 

 最後のはバイト先のリーダーからだ。

 

『ミリィちゃんの曲レベル高っ!?』

 

 

 少し離れた場所にいる色んな顔見知りが、まるで友人のように気さくに話しかけてきて、小さな満足感を与えてくれる。

 

 クスッと笑う声が聞こえて顔をあげると、正面に座るダフネが愉快そうな表情で見ていた。

 

「どした?」

「なんか嬉しそうだね―――ミリィちゃん」

「うっさいわ」

 

 脅すように拳を高く上げると、けらけらと笑いながらダフネは「暴力はんたーい♪」などと両手をあげてくる。

 

 

「けどさ、私の言った通りになったでしょ?」

 

 ふふん、と得意げな顔をするダフネにつられて、私の頬も緩んでいく。たしかに、そうかもしれない。

 

「普通は、人の鼻歌聞いて“曲にしたらいいんじゃない?”なんて思わないから」

「でも、やったら出来たじゃん」

「それは結果論だろ」

「んー、なんかミリセントなら出来そうな気がしてた」

 

 無邪気な誉め言葉に、思わず何も言えなくなってしまう。そんな私の内心を知ってか知らずか、呑気に牛乳をごくごく飲んでいる幼馴染は時々、こんな風に人を勘違いさせるようなことを言う。

 

「だってミリセント、昔から鼻歌よく歌ってたでしょ? きっとリズム感とかそれで磨かれてるはずだし、あとはいい感じに伴奏つければそれっぽくなるだろうなーって。たぶん」

「後半から説明だんだん適当になってきたな」

 

 口をへの字に曲げると、ダフネはクスクスと愉快そうに微笑む。

 

「適当な方がうまくいく時もあるんじゃない? 仕事とかだったら逆にプレッシャーで空回る気がする」

「それは百理ぐらいありそう」

 

 

 もともと性格的にも真面目な方じゃない。世の中には好きなことでも結果や我慢を求められると急にモチベが下がる人種がいるけど、私がそれだ。

  

 今では趣味になった作曲にしても、ダフネが雑に提案してくれたから捗ったまである。自分から言い出したわけじゃないという免罪符は、面倒くさい時や失敗した時の保険として実に都合がいい。

 

 しかし不思議なことに、そうやって責任やノルマから解放された時に限って作業が捗ったりするもので、気づけば2~3週間に1回ぐらいのペースで曲を投稿していた。

 

 

 とはいえ、さすがに全てをゼロから1人で作っているわけでじゃない。音楽クラブにちょいちょい顔出したりして、アドバイスをもらうことなんてしょっちゅうだ。お互い顔見知りになってくると向こうからリズムの提案をしてくれる時もあれば、ボツになった譜面をもらって私がアレンジしたりすることもある。

 

 

「このままミリセントの曲をみんなが聞いてくれたら、いつかミュージシャンになれるかもね」

「ならないから」

「どうして?」

「芸術系なんて一部の人しか食えないじゃん。いくら名家だからといって、いつまでも親の脛はかじりたくないし」

「実はその一部の側かもしれないよ?」

「やめろぉ! 調子乗ってまうやろがい!」

 

 冗談めかして笑い飛ばしたけど、軽く満更でも無かったのは内緒だ。

 

 誰かが自分を褒めてくれて、これからの自分に期待してくれている。若者特有の承認欲求と言ってしまえばそれまでだけど、それでも嬉しいものは嬉しいのだ。

 

 

 

 **

 

 

 

 ドラコ・マルフォイがやってきたのは、朝食を食べ終えたタイミングだった。私と目が合うと、気取った顔を少しだけ和らげて、ポケットから多機能両面鏡を取り出す。

 

「ミリセントの新曲、聞いたよ。なかなか良い旋律じゃないか」

「そりゃあ、こちとらプロですから」

 

 わざとらしく勿体をつけてお辞儀すると、「相変わらずだな」と苦笑される。

 

「ドラコもこういうの聞くんだ?」

 

 バナナマフィンにかじりつきながら、ダフネが意外そうな顔で質問した。言われてみればドラコの好みはスカしたクラシックみたいなのばかりで、私が好きなバイブス強めの系統は苦手なイメージがある。

 

「たしかに僕自身はあまり聞かないが、たまたま今ちょうどノリの良い曲を探しててね」

「なんで?」

「モンタギュー先輩だよ。次の試合に音楽でも流してみないかって」

「思い出した! もうすぐグリフィンドール戦なんだっけ」

 

 ドラコは頷いて、視線をダフネから私に移す。

 

 

「それで、この曲なんだが……ミリセント、よかったら僕に使わせてくれないか?」

「えっ」

 

 

 私の反応を見て、ドラコが慌てたように言う。

 

「も、もちろん無理にとは言わないとも! もし著作権料が必要なら――」

「いやいや、さすがにダチからカネふんだくろうとは思わんがな」

 

 イレイナみたいな方向性の心配をするドラコに、こっちが逆に慌てて遮る。

 

「別に嫌とかじゃないから。曲使う話なら全然問題ないし、むしろ普通にありがたいって」

「そうなのか……?」

「即答しなかったのはなんつーか、単に応援歌ならもうあるだろって思っただけ」

 

 きょとんとした表情を浮かべたドラコに、ダフネが「ほら、あれだよ」とフォローを入れた。

 

「練習の時によく歌ってる“スリザリン・チームを知ってるか~い♪”の方」

「そういうことか」

 

 腑に落ちたような表情になるドラコ。

 

「あっちは練習歌なんだ。応援歌じゃない」

「無駄にこだわりが細かいな……」

「伝統だからな」

「さいですか」

 

 脱力して投げやりに答える。とりあえず素朴な疑問が解消されたから、後は好きに演奏してくれ―――そう言おうとした矢先に、ダフネが「あれ?」と何かに気づいたように顔をあげた。

 

 

「応援()ってことは、これから歌詞もつけるの?」

 

 

 たしかに。

 

 私が『スキータグラム』に投稿した『ショート魔法新聞』に載っているのは、魔法のアコーディオンの演奏と譜面だけだ。

 

 

「で、ドラコどうなん?」

 

 ちょっとした冗談のつもりだったのに、何かがドラコに刺さったらしい。顎に手をやって「歌詞………歌詞か………いや、待てよ」とブツブツ呟いたかと思えば、ハッとしたように青白い顔をあげた。

 

「ミリセント、歌詞も僕が考えていいかい?」

「別に嫌とは言わんけど……」

「なら、決まりだな」

 

 にんまりとドラコが笑い、握手を求められる。

 

 

「僕に、いい考えがあるんだ」

 

 

 さいですか、と若干引きつった顔で返事をする。経験上、こういうセリフをドラコが吐く時は基本ロクなことが起こらない。

 

 

 それからほどなくして、この時の悪い予想は的中することになった――。

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 5日後、魔法史の授業で隣の席になったトレイシーが笑顔で声をかけてきた。

 

「やばいね、ミリセント有名人じゃん」

 

 パールホワイトのラメがロングネイルで器用に掴まれた多機能両面鏡から、ドラコが作った応援歌が囁くように流れてくる。

 

 

 

 ウィーズリーは守れない 万に一つも守れない♪

 だから歌うぞスリザリン ウィーズリーこそ我が王者♪

 

 ウィーズリーの生まれは豚小屋だ いつでもクアッフルを見逃しだ♪

 おかげで我らは大勝利 ウィーズリーこそ我が王者♪

 

 

 

 この際どい歌こそ、ドラコ・マルフォイが心血を注いで作った渾身のスリザリン応援歌『ウィーズリーこそ我が王者』だった。

 

 一昨日の夜に投稿されるやいなや、たった一日の間にホグワーツ中に拡散され、気づいた時にはとんでもない再生回数を叩き出していた。もはや昨日から何回ホグワーツで流れているのを聞いたかも分からない。

 

 

「ハリーの暴露動画が出た時より拡散されてんじゃない?」

 

 お経のようなビンズ先生の講義をBGMに、ヒソヒソと話しかけてくるトレイシー。実際そうなんじゃないかと思うぐらい、今日は色んな人から声をかけられていた。

 

「あの曲聞いたぜ!」

「お前有名人じゃん!」

「さすがに笑うわw」

 

 大部分はスリザリン生だったけど、レイブンクロー生やハッフルパフ生からもかなり声をかけられた。一昨年にポッターがファイアボルトを手に入れて優勝杯をゲットしたあたりから、少しずつグリフィンドールへの風当たりも強くなっている。

 

 

「つっても、あの歌詞を作ったのはドラコなんだけど」

 

 当のドラコ・マルフォイはというと、私以上に色んな人から声をかけられていた。念のため本人から「盗作にならないよう、君が投稿するかい?」と聞かれたけど、もちろん断った。

 

 

「うまいやり口だよねー」

 

 トレイシーが嗜虐的な表情でけらけらと笑う。アーモンド形のツリ目が細められ、スレンダーな体型と明るい茶髪ショートと相まってキツネみたいだ。

 

「うまいって、何が?」

「グリフィンドール全体じゃなくて、ウィーズリーだけに狙いを絞ってるとこ」

 

 

 新キーパーのロン・ウィーズリーに対しては、グリフィンドール内部からも快く思わない声が少なくなかった。存在感のあったオリバー・ウッドの後継というだけでどうしても比較されるし、たった1枠しかない今年の貴重な新人枠だから嫉妬と期待も大きい。

 

 そのプレッシャーに耐えかねてか、練習試合でウィーズリーが見せた動きは見事に期待外れだった。大勢のサポーターから失望され、グリフィンドールの選手たちでさえ「人選ミスったかも……」と不安の声が漏れ聞こえている。実力不足なのにキーパーになれたのはポッターの身内びいきだ、と悪い噂が流れるのに時間はかからなかった。

 

 際どい歌詞なのに意外と好意的な声が多いのは、ひょっとしたらトレイシーの言う通り、評判の良くないロン・ウィーズリーだけをディスるという微妙なバランス感と関係あるかもしれない。

 

 

「どうかな。ドラコそこまで考えてないと思うけど」

「だとしたら一周回って才能だね」 

 

 

 ――才能。

 

 

 なんの気なしに放たれた言葉が、ずしりと胸に鈍くのしかかった。顔にも出ていたのか、トレイシーが怪訝な表情を浮かべる。

 

「大丈夫?」

「へーき平気。ただ、ちょっと羨ましいって思っただけ」

 

 それを聞いて納得したのか、トレイシーは机につっぷして「わかる~」と間延びした声を漏らした。

 

「私も着こなしとかメイク動画たまに投稿するんだけど、ぜんっぜん見てもらえなくて! 一応『エイティーン』の読モやってたから、少しは自信あったんだけどな~」

 

 唇を尖らせるトレイシーに、うんうんと話を合わせるように頷く。けれど不意に芽生えたモヤモヤは心の奥にへばりついたまま、なかなか離れてくれなかった。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

「これはマズイです……とても、よろしくないです」

 

 

 放課後になると、珍しく青い顔をしたイレイナから予想通りのことを言われた。

 

「グリフィンドールから苦情が殺到しています」

「だろうよ」

 

 ちらりと一緒に集められたパンジーとダフネを見る。

 

「何よ、本当のこと言ってるだけじゃない」

「パンジー、なんでも本当のことを言えばいいってもんじゃないんだよ?」

 

 言っておくがダフネ、それはフォローになってないからな。あとパンジーはちょっと彼氏(ドラコ)を甘やかし過ぎだぞ。

 

 

「監督生は大変だね~。別にイレイナのせいじゃなくても、立場が立場だし」

 

 イレイナの相談を受けて、さっそくトレイシーは日和り始めた。表面的には優しい声でイレイナを労わってるように見えるけど、細められたブルーの瞳の奥では抜け目なく場の空気を探っている。

 ドラコに味方して煽るか、イレイナに味方して火消しに回るか。どう立ち回るのが得か計算しているのだろう。

 

 

「放っておいてもアンブリッジが勝手に止めるんじゃない? 風紀の乱れとか何とか言って」

 

 長い睫毛をビューラーでカールさせながら、ソフィ・ローパーが常識的なことを言う。しかし、イレイナは首を横に振った。

 

「アンブリッジ先生ならダメですよ。念のため聞いたんですが、“そんなことよりハリー・ポッターのフェイクニュースを取り締まるほうが優先です!”と」

「露骨に話題を逸らしたわね……」

 

 かと思えば、リリィ・ムーンは空気をガン無視して「えー」と愚痴るように顔をしかめた。 

 

「私、スリザリンが勝つとこ見たかったんだけど」

 

 意外な反応だったのか、ソフィがビューラーを動かす手を止める。

 

「リリィって、ウィーズリーを犠牲にしてまでスリザリンに勝って欲しかったの?」

「イギリス人は恋愛と戦争で手段は選ばないんだ」

 

 許せロナルド・ウィーズリー、と雑に十字を切るリリィ。質問したソフィはソフィで「そっかぁ」と割とどうでも良さそうに頷いて、再び睫毛をカールさせる作業に戻る。

 

 

 ともあれ、このあたりの意見がスリザリン寮全体の縮図なんだろう。クィディッチで勝つためにウィーズリーには犠牲になってもらう派と、別にウィーズリーに恨みはないけど敢えて盛り上がってる友人を止めるほどでもない派が大半を占めている。

 

 

 そしてリリィが『ウィーズリーこそ我が王者』を擁護してくれたことに勇気づけられたのか、パンジーが強気な表情でイレイナの前に立つ。

 

「ね? そういうことだから。私たちは取れる手段を取っただけ」

「ふむ」

「そんなにウィーズリーに勝って欲しいなら、グリフィンドールだってウィーズリー応援歌でも作ればいいのよ」

 

 

 さてイレイナはどう出るか―――彼女の反応を待っていると、意外な言葉が出てきた。

 

 

「……パンジー、今のそれナイスアイデアかもしれません」

「へ?」

 

 面食らったようにパンジーが裏返った声をあげる。

 

「どういう意味?」

「だから、作っちゃえばいいんですよ。ウィーズリー応援歌を」

 

 そういう問題か?と疑問符を浮かべる私たち全員に向かって、イレイナはいつものプレゼンモードに入る。

 

「拡散されてしまった以上、今さら無かったことには出来ません。ハリーの暴露動画のように、止めようとすればかえって注目を集めてしまうでしょう」

 

 なので拡散されたことを逆手に取ります、とイレイナが続ける。

 

「むしろ今なら、このビッグウェーブに便乗できるというもの。グリフィンドールチームもこの状況を放置するつもりは無いでしょうし、『ウィーズリーこそ我が王者』に劣らない応援歌があれば渡りに船です」

「でも、このタイミングでそんな都合よく応援歌なんて……」

「あるじゃないですか」

 

 血色のいい唇をゆっくり結んで「うふふ」とドヤ顔を浮かべるイレイナ。そして私の方を見る。

 

「ミリセントが作ってくれた、すばらしいメロディが」

「やっぱそう来るかー」

 




 長くなってしまったので次回に続きます。

 「ウィーズリーこそ我が王者」、歌詞はアレだけど原作でルーナも歌ってたり、ロンが活躍した後は逆にグリフィンドール側がポジティブな歌詞の替え歌にしてお祝いしてて、6巻だと実質グリフィンドール応援歌みたいな扱いになってるので、たぶんメロディは悪くないんだろうなと想像してたり。
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