ハリー・ポッターと灰の魔女   作:アストラマギカ

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※独自解釈、独自設定あり。苦手な方はご注意下さい。


第29章 ~コーネリウス・ファッジ~

 

 その日の私は、とある人物に会うためにホグズミード駅に向かっておりました。

 

「またなんか出来ておりますね……」

 

 基礎的な呪文である「レヴィオーソ-浮かべ」で重力を簡単に無視できることもあり、魔法界における建設業のスピード感はまるで魔法のよう。簡単な待合室があるだけのザ・田舎の駅といった感じのホグズミード駅は、いつの間にやら都会的な駅ビルへと様変わりしておりました。

 

 

 駅にあるアーチ橋の先には、トレイン・シェッドと呼ばれるプラットホームと線路を同時に覆う大きな屋根が設置されています。巨大な屋根の下にある広いコンコースには、出札所、待合室、売店、ホテルなどが同時に収められ、それを抜けるとゴシック様式の立派なファサードに至ります。

 

 ここからGMホグズミード支社のある時計塔やその他の複合商業施設とも連結されたのが、魔法界初の駅ビル『ステラ・ノルド』でした。

 

 

 駅前には外国の魔法使いも沢山いて、スペイン語やら中国語やらフランス語であれこれ喋っています。まるで去年のクィディッチ・ワールドカップ会場が、そのままホグズミードに引っ越してきたような雰囲気といいますか。

 

 

 

 ――何でこんなことになったのかと言いますと、きっかけはホグワーツ特急の採算問題でした。

 

 

 

「ホグワーツ特急って本数少なすぎて、ぶっちゃけ赤字路線だよね? 廃線にして税金安くしてくれない?」

 

 

 一応、代替手段として「煙突飛行粉」や「移動キー」があるので、こういった夢もロマンもない声が定期的にウィゼンガモットの議員から出てくるのは仕方のないことと言えるでしょう。

 

 

「いやいや、いきなり潰す前にまずは黒字化の方法を考えようよ。せっかく観光地(ホグズミード)があるんだから、駅前の再開発とかすればまだ希望はあるって!」

 

 

 一方で土地区画再整理による活性化で乗り切ろうという声もあり、ここで辣腕を発揮したのがバーテミウス・クラウチ・シニアさんの意志を継いだパーシー・ウィーズリーさんでした。

 

 

「クィディッチ・ワールドカップ開催のために整備した『移動キー』の国際ネットワークを再利用し、国際観光地化と経済特区化を進めるのはどうでしょうか?」

 

 

 国際魔法貿易基準機構長に昇進したパーシーさんは世界中の魔法使いをイギリス観光に呼び込むべく、『移動キー』の国際ネットワークを南部沿岸(セブンシスターズ)に設置されていたワールドカップ会場からロンドンのダイアゴン横丁とホグズミードに移転させ、盛んにキャンペーンを行ったのです。

 

 さらに何かとルーズなイギリス魔法界ですが、パーシーさんはこれを逆手にとって「規制が少なく、ビジネスがしやすい」と外資系の魔術工房や魔道具メーカーなんかを次々に誘致していきます。

 

 

 皮肉なことに、この路線を最も強く支持したのがコーネリウス・ファッジ魔法大臣でした。

 

「ワールドカップと三大魔法学校対抗試合のレガシーを使って、イギリス魔法界を豊かにする! 経済発展によって市民の顔に笑顔を取り戻し、シリウス・ブラックなど恐れるに足らんと見せつけてやるんだ!」

 

 ホグズミードが世界で唯一の「マグルのいない、魔法族だけの村」であったこともあり、リゾート開発も進んでいきます。騒がしいマグルの都会で隠れ潜むのに疲れた魔法族が人目を気にせず、イギリスの素晴らしい田園風景の中でのびのびと休暇を満喫できるというわけですね。

 

 

 かくして、ちょっとした好景気に沸いたホグズミード村やダイアゴン横丁の間では魔法省への支持が高まったものの、もちろん不安視する声が無いわけではありません。

 

 

「『例のあの人』が復活したというのに、経済優先など平和ボケにも程があるぞ! 油断大敵!」

 

 その急先鋒が騎士団員のマッドアイ・ムーディさんでしたが、パーシーさんはこれに真っ向から反論しました。

 

「失礼を承知で言わせていただきますが、アラスターは戦争経済についてご存じない様ですね」

 

 

 ムーディさんとパーシーさんの意見対立は、ヴォルデモートとの戦いが短期決戦で終わるか長期消耗戦になるかという見解の違いでした。

 

 

 もしヴォルデモート卿が2~3年以内に手持ちの死喰い人全員でホグワーツなり魔法省に攻め込んで来るのが分かり切っているのであれば、マッドアイの言う通り市民の生活を犠牲にしてでも徴兵なり戦争税でもかけて戦時体制を確立するのが正解でしょう。

 

 しかし前回のイギリス魔法内戦は11年も続いており、パーシーさんの言うように長期戦になる可能性は否定できません。

 

(まぁダンブルドア校長の存在を考えれば、わざわざ隣町のホグズミードで騒ぎを起こす死喰い人も多くは無いと思いますが……)

 

 

 

 ――などと、とりとめのないことを考えている内に、私はホグズミードの大通りに面した繁華街に辿り着いておりました。

 

 

 

 とある交差点から裏通りに入った一角に、私が来るように指定された店はありました。

 

「……マジでここなんですか」

 

 看板に書かれた文字は魔法でネオンサインよろしくギラギラと点滅しており、力強い字体で『バーガークイーン』と書かれています。その横には、鮮やかなパステルカラーの帽子と洋服を着こなしたおばあちゃんのマネキン人形。ポンド紙幣に書かれた超絶VIPにそっくりなこのマネキンこそ、この店のマスコットキャラクターこと“バーガーババア”です。

 

 

「とりあえず、入るとしますか」

 

 私もクィディッチ・チームの先輩たちからオススメされて噂には聞いていましたが、実際に入るのは初めてです。入り口に近づくと魔法で人の気配を察知したのか、自動で扉が開いて。

 

 

「おーい、こっちだ」

 

 

 そう言って奥の方のテーブル席から手を振って来たのは、安物のワイシャツに少し色褪せたトレンチコートを羽織った中年男性――コーネリウス・ファッジ魔法大臣でした。

 

「すみません、本当にここでいいのか迷ってしまって……」 

「そう言うだろうと思った。とにかく、座りなさい」

 

 言われた通り席に着くと、笑顔でメニュー表を渡してくるファッジ大臣。

 

「さて、まずは腹ごしらえでもしないかね?」

 

 メニュー表には様々なハンバーガーがありましたが、驚くべきはトッピングの自由度の高さです。

 

 まずバンズだけでも大きさはもちろん、素材もプレーン、セサミ、マフィン、ドーナッツ、ライスの5種類が選べ、色まで茶、赤、青、緑、黄、白、黒と無駄に充実しています。パティもビーフ、チキン、フィッシュ、ターキーなど数種類、それに複数の野菜やチーズ、ベーコン、目玉焼きを自由にカスタマイズし、ソースも好きなソースを何種類でも選べる仕様でした。

 

 

「こうやって魔法のかかったイラストを指でスワイプさせて、自分が食べたい組み合わせのイラストを完成させるんだ。完成したらメニューを丸めて気送管の中に入れれば、注文は完了だ」

「便利な仕組みですねぇ」

 

 適当に世間話をしながら、とりあえず私が選んだのは定番のBLTバーガー。せっかくなので目玉焼きとオニオンを追加、更にケチャップをオランデーズソースに変更し、なんちゃってエッグベネディクト風バーガーを注文します。

 

 一方のファッジ大臣はまさかのバンズをドーナッツに変更し、ビーフパティにカリカリに焼いたベーコン、フライドオニオンとチェダーチーズという、実にカロリーモンスターな組み合わせ。

 

 注文してから3分ほど雑談をしていると、頼んだバーガーが浮遊呪文でやってきました。

 

 ファッジ大臣は躊躇いもなくそれにかぶりつき、一緒に注文していたクランベリーナ(アメリカ魔法界で人気の、クランベリー果汁たっぷり炭酸飲料)を飲んでは食べ、食べては飲んでを繰り返してあっという間に平らげてしまいます。

 

「なかなか豪快な食べっぷりですね……」

「魔法省の下っ端時代の癖でね。若い頃は残業が当たり前だったから、昼休憩は素早く食べて1分でも長く昼寝したものだ。それだけで午後のパフォーマンスがびっくりするぐらい変わってくる」

 

 女子的には見てるだけで胸焼けしそうな組み合わせですが、聞けば学生時代から食べてる思い出の味だとか。

 

「うむ、この甘じょっぱさと腹にガツンと来る感じが実にいい。そうそう、実は私も学生時代はスリザリン・チームでビーターをやっていてね、休日の練習後はよく仲間たちと一緒に食べに行っていたものだ」

「クィディッチ選手って、ほんとよく食べますもんね」

「よく食べ、よく寝て、よく動く。それがエリートになるための第一歩だよ。学業でも仕事でも政治でも、まず体力が無ければ始まらん」

 

 改めて話を聞けば聞くほど、いかにも役所で働くベテラン職員といった印象です。

 

「やっぱり魔法大臣でも体力なんですか?」

「大臣であれば猶更だ。政財界の重鎮と会談したり市民に挨拶回りするのが一番の仕事だから、休日返上で長時間労働したぐらいで病欠するようじゃ務まらん」

「なるほど」

 

 ダンブルドア校長のようなカリスマや、ルシウスさんのような気品こそありませんが、こうして直接お話しすると良い意味で大臣らしくありません。気さくで親しみやすい庶民派、とでも言ったところでしょうか。

 

「そういえば、魔法警察特殊部隊長のヴィクター・フリントから聞いたよ。監督生の内定おめでとう」

「おや、耳が早いですね」

「政治家にとって情報は命だ。忙しくてもスリザリンOB会には欠かさず顔を出すようにはしているおかげで、耳よりな情報が他人より少しだけ早く届く」

 

 

 

 ――などと、大臣相手に世間話をしていると。

 

 

 

「よぉ! コーネリウスじゃねぇか! 久しぶりだな!」

 

 

 入り口の方から声がして、振り返ると格子縞のネルシャツと擦り切れたジーンズを穿いた年配のおじさんが笑顔で手を振っていました。

 

「カーマイケル! 君こそ、元気にしてたか?」

「まぁな。なんとかやってるよ」

「娘さんはどうだい? 子供が生まれたって聞いたんだが」

「それがよぉ、やれ子育てだ仕事だって最近はクリスマスにも帰ってきやしねぇ」

「私の息子も似たようなものだよ。両面鏡で通話はかけてくれるんだが」

「んで、連れのお嬢ちゃんは? 美人過ぎるから親戚じゃなさそうだが」 

 

 どうやら古い知り合いだそうですが、それにしてもノリが飲み仲間過ぎます。

 

「いや待てよ、どこかで見たどこかで見たことあるような……」

 

 カーマイケルさんは目を細めてじーっと私の美貌を見つめた後、あっと気づいたように指さしました。

 

「思い出した! あんた、去年の三大魔法学校対抗試合に出てたろ!」

「イレイナです」

「そういや、たしかそんな感じの名前だったな」

 

 よろしく、と握手をするとカーマイケルさんは人の良い笑顔を浮かべました。

 

「ドラゴンとの対決はよく覚えてるよ! 馬鹿デカい石の巨人を作り出してのステゴロ勝負、オレたちゃあーいうのに弱いんだ」

 

 ハイテンションでマシンガントークをするカーマイケルさんの顔には、シリウス・ブラックへの不安などはまるで見られません。去年セドリックが失踪したばかりだというのに随分と呑気なもので、不安は無いのか聞いてみると。

 

「そりゃあ、不安がゼロってわけじゃない。でもよ、ここ実際ここ数カ月は誰も姿を見てないって言うし、とっくに国外逃亡でもしたんじゃないか?」

 

 そんなことより、と深刻な顔になるカーマイケルさん。

 

「ブラックも大事だが、最近増えたイタリアの魔法使いが観光そっちのけで女性店員にナンパしてくるんだ。今のところ大きなトラブルにはなっちゃいないんだが、イタリア語なんざ分からんし、心配でさぁ」

「おやまぁ、そんなことが……」

 

 神妙な顔になるファッジ大臣。

 

「わかった、国際魔法協力部と魔法法執行部にかけあって通訳や警官の数が適切か見直してみよう」

「さっすがコーネリウスの旦那、話が早い! 次の選挙じゃアンタに一票入れるから頼むぜ!」

 

 

 そんな感じで世間話をした後、「またな!」と手を振ってカウンター席に着くカーマイケルさん。馴染みのお客さんらしく、時おり私たちの方を指さしながら店員さんとも仲良くおしゃべりしています。おおかた、有名人と会話したことを自慢でもしているのでしょう。

 

 

 私は疑問に思ったことを大臣に質問しました。

 

「いつもあんな感じなんですか?」

「ああ、いつもあんな感じだ。ああいった小さな困りごとに対処するのも、お役所の立派な仕事だよ」 

 

 凶悪犯の逮捕といった目立つ仕事より、むしろ悪質なナンパの注意みたい身近で地味な仕事こそが、役人の本職だと主張します。

 

「君の言いたいことも分かるよ、私もスリザリン監督生だったからね。グリフィンドールと同じで、若い頃は重要な社会問題に集中して取り組むべきだと思ってた。どうでもいい社会問題が切り捨てられるのは仕方ないと」

「今はどうお考えなんですか?」

「誰かにとってどうでもいい社会問題は、別の誰かにとっては重要なことで、その逆もまた然り――だからこそ特定の層を優先せず、全ての関係者の利害を調整するのが政治家の仕事だ」

 

 良く言えば中道主義、悪く言えば日和見主義、政策としては総花的といったところでしょうか。

 

「オススメはしないがね。ダンブルドア支持者からは純血寄り、純血主義者からはマグル寄りだと、両方から叩かれる」

 

 自嘲するように苦笑してから、ふとファッジ大臣は真面目な表情になりました。

 

 

「さて、そろそろ本題に入ろうか。今日、私が君に直接会いに来たのは他でもない―――これを渡すためだ」

 

 

 でっぷりとしたファッジ大臣の指が摘まんでいたのは、真鍮製の精巧な鍵でした。それを目の前に持ってきてから、ゆっくりとテーブルの上に置いて私の方に寄こしてきます。

 

「これは?」

「グリンゴッツの鍵だよ。金庫には君の――三大魔法学校対抗試合の賞金が入ってる。ちょうど500ガリオンだ」

 

「………」

 

 これほど貰って嬉しくないお金は、生まれて初めてでした。本来であれば、これを受け取っていたのはセドリック・ディゴリーだったはずなのです。

 

「あの、私はたしかオブザーバー参加だったはずでは? 試合結果に関わらず、点数はゼロだと聞いていたのですが」

「ディゴリー夫妻たっての頼みだ。君とポッター君に半分ずつ寄付したいと」

「………」

 

 結局、私もハリーもディゴリー夫妻にはお悔やみを言えずじまいでした。何度かあの場所で何があったのか話したいと手紙を送ったのですが、「あの子はまだ行方不明なだけだ」と拒絶されていたからです。

 

 しかしハリーがヴォルデモート復活を主張したことや、帰還した時の私たちの様子、そして魔法省が未だ何の手掛かりも見つけられてないことから――真実について、薄々察してはいたのでしょう。

 

「そうでしたか………」

 

 

 それから、どれほど時間が経ったことでしょうか。

 

 

「イレイナ」

 

 かしこまった雰囲気でじっと私の顔を見据えたかと思うと、ファッジ大臣は神妙な顔でテーブルに手をついて頭を下げました。

 

 

「去年は取り乱してすまなかった。それからあの時ダンブルドアとの間を取り持ってくれたことについて、改めて礼を言わせて欲しい」

 

 

 いきなり大臣に頭を下げられ、私は慌てて言いました。

 

「と、とりあえず頭を上げください。というか、謝るならダンブルドア校長にも……」

「それは出来ない」

「……」

 

 この人、なかなか意固地ですね?

 

「どうしてもですか?」

「どうしてもだ。私にも立場がある」 

「立場」

 

 曰く、政治的肩書きの無い美少女に謝罪するのは大臣個人の問題だが、政治的影響力を持つホグワーツ校長に謝罪するのは魔法省全体を代表することになってしまう、とのこと。これが大人になると立場に縛られる、という事なのでしょうか。

 

「そしてディゴリー君とシリウス・ブラックの件だが……こちらもまだ、成果は上がっていない。私のコネで動かせる人手と情報は全て動員したが、リトル・ハングルトン付近では何も見つけることは出来なかった。このままだと、未解決事件として処理される可能性が高い」

「大臣のせいではないですよ。相手が悪かっただけです」

「私もそう思う」

「……」

 

 自分では言わないでください。

 

「残念ながら今の魔法省には、ブラックを迅速に逮捕できるだけの力が無い」

 

 捜査の経緯を聞いたところ、どうやらルシウスさんら純血名家の妨害にあった様子。長年の献金やロビー活動の結果として、魔法省内部の純血派は政策決定にまで影響を及ぼすほどになっています。

 

 一方で闇祓いにはダンブルドア派が多く、ヴォルデモート復活や吸魂鬼の襲撃事件などを巡ってファッジ派と対立。結果として魔法警察特殊部隊が捜査を担当することになったのですが、もともと犯人捜査より暴動鎮圧などがメインの組織であったことが災いし、思うように成果が上がっていません。

 

 

「今まで散々『ダンブルドアの傀儡』などとマスコミになじられてきたが、今回の件で痛感したよ。ダンブルドアの助け無しでは、私はこうも無力だ」

 

 ファッジ大臣の表情に影が差し、声には過去の自分を恥じるような響きがありました。

 

「では、これからはダンブルドア校長と仲良く―――」

 

 

 

「だから、私はもっと強くならなければ」

 




 地味にイレイナさんはハリポタ原作知識を持ってないので、「ヴォルデモートが短期決戦を挑んでくるとは限らない。むしろ前回の戦争&復活が世間にはバレてない&ダンブルドアの寿命とかを考えたら、長期戦も十分にありうる」という考え。

 個人的に、ファッジは平時だったら無難に任期満了まで務められたんじゃないかと思ってたり。地味にダンブルドアともルシウスともアーサーともアンブリッジとも交流できるあたり、コミュ力は高そう(魔法大臣になったのは1990年からとそこまで長期政権でもないので、多分それ以前から全員と上手くやってたでしょうし)。
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