ハリー・ポッターと灰の魔女 作:アストラマギカ
そう――。
OWL試験が迫る中、DAではついに「守護霊の呪文」の練習が始まりました。
「まずは自分が一番、幸福だと思うことを思い浮かべるんだ」
興奮気味のDAメンバーを前に、教師役が堂に入ってきたハリーが説明しています。
「理論だけなら難しくないように聞こえるかもしれないけど、実戦だと目の前に吸魂鬼がいて幸福な気持ちを吸い取ってくるから、思い浮かべるイメージは具体的な方がいい」
一昨年は凄まじい数の吸魂鬼に襲われていることもあり、それまで「自分の守護霊ってどんな形してるんだろ?」みたいな軽いノリで聞いていた生徒たちも、ハリーの真剣な解説に表情を引き締めました。
「幸福な事を思い浮かべたら、呪文はこう―――エクスペクト・パトローナム‐守護霊よ、来たれ!」
ハリーが杖を振ると、その先からは銀色に輝く牡鹿が現れました。神秘的な光を放つ牡鹿の守護霊を目の当たりにしたメンバーは感嘆の声を漏らし、すぐにでも自分の守護霊を出そうとウズウズしています。
「じゃあ、やってみようか」
ハリーがパチンと手を叩くと、部屋中に「エクスペクト・パトローナム!」の大号令が響き渡りました。
もちろん、最初の一回で簡単に出せた生徒は一人も――。
「あ、アストリアさん!?」
珍しく動転して声が裏返ったハーマイオニーの素っ頓狂な感嘆が響き、部屋中の視線がダフネの妹であるアストリア・グリーングラスさんに集中します。
ハリーと同じ時期にルーピン先生から秘密の授業を受けていたアストリアさんですが、特訓の成果もあってか彼女の杖から出てきたのは、銀色に輝く立派なサソリの守護霊でした。
「あ、そういえばアストリアさん、守護霊を出せるようになったんですね」
守護霊をよく見ようと近づいた私が耳打ちすると、アストリアさんは少しはにかんだ様子で頬を赤らめます。
「ルーピン先生とイレイナさんにお姉さま、そしてマルフォイ先輩のおかげですわ」
そう言って照れたようにくすっと微笑んだアストリアさんは、いつもの大人びている優等生ではなくて年相応の少女のようで――。
(あ、なんか分かったかも)
(ありゃ男だな……)
(絶対に裏に男がいるわね)
恐るべし恋する乙女パワー。
澄ました顔の裏で無限に広がって咲き乱れるお花畑は、きっと吸魂鬼が100匹いようと吸い尽くせないような気がしました。
**
「というか、ハーマイオニーとイレイナが今まで使えなかったのが逆に意外だな」
アストリアさんの守護霊を観察する私とハーマイオニーを見て、眉を上げたロンが失礼な事を言ってきます。
「君たち、大抵の呪文は出来るもんだとばかり」
どうやら純粋な感想で悪気はないようなのですが、ロンもドラコと同じく無意識に人の神経を逆撫でするとこありますよね。
「まぁ、ぶっちゃけ対吸魂鬼特化の呪文なので、あまり汎用性はありませんからね」
大人の魔法使いや魔法警察でも「守護霊の呪文」を使えない人が多いのも、それを練習するぐらいなら「盾の呪文」や他の攻撃呪文を練習した方が実用的、という理由があったり。
ダンブルドア校長やハリーは吸魂鬼を信用していませんが、世間ではアズカバンで看守を務めている吸魂鬼のことを「必要悪」と見なす方が多数派です。実際に第一次魔法戦争では最後まで魔法省を裏切ることなく、ヴォルデモート側に付いた前科のある人狼より信頼されてるぐらい。
なので統計的に「吸魂鬼に襲われる確率」というのは強盗に遭ったり人狼に襲われる確率よりも有意に低く、リスクマネジメントの観点からするとコスパの良い呪文とは言えないのです。
そして何より――。
「さっき言ったような事情もあって、OWL試験やNEWT試験の過去問でもほとんど出題されてなかったので」
「なら仕方ないか」
とまぁ、そんなわけで。
今まで「守護霊の呪文」を後回しにしていた私ですが、いざやるとなったからには本腰を入れますし、やろうと思えば出来ないはずもありません。
私は「すぅ」と大きく息を吸い、意識を集中させていきました。
イメージするのは、常に最強の私……クィディッチ賭博で大儲けた瞬間、私のおかげでスリザリン7年連続優勝をキープしたこと、マグルのエロ本から防呪チョッキに多面鏡といった数々の発明、クィディッチや三大魔法学校対抗試合の大活躍、そして――。
「エクスペクト・パトローナム‐守護霊よ、来たれ!」
では、ここで問題です。まるでお人形のように綺麗で可愛らしく、文武両道で才色兼備な魔女がいます。そんな彼女に相応しい守護霊があるとすれば、それは一体どんな形をしているのでしょう。
答えはもちろん、一つしか考えられませんね?
――そう、私です。
そこに現れたのは、見た者すべてがあまりの美しさに溜息を吐いてしまうほど魅力的な、銀色に輝く「私」そっくりの守護霊でした。
「守護霊がヒトとかアリなん?」
「いいですかミリセント、ヒトもしょせんは動物ですよ」
人生で一度は言ってみたかったセリフで返したところ、横で聞いていたダフネが「あれ?それじゃあ……」と指を顎に当てました。
「ヒトである以上、イレイナもしょせんは動物ってこと?」
「……」
これだからスリザリン生はナチュラルに性格悪いとか言われるんですよね。困ったものです。
「本当に、守護霊って素敵ね!」
そして全員の予想通り、グリフィンドール生で最初に呪文を成功させたのはハーマイオニーでした。銀色に光るカワウソが滑らかに飛んでいるのを見て、珍しく子供のような笑顔ではしゃいでおります。
とはいえ、やはり大半の生徒はそう簡単にはいきません。
ネビルは顔を真っ赤にしても杖先から細い銀色の煙を出すのが精一杯、ラベンダーさんも同様にポッポッと煙を断続的に噴き出すだけで、シェーマスは一瞬だけ狐の守護霊を出した瞬間に霧散させていました。
「焦らず、何か幸福なことを思い浮かべるんだ」
形になるまで相当苦労したこともあってか、いつも以上に根気強く指導を続けるハリー。その甲斐あってか、しばらくすると徐々に有体の守護霊を出せる生徒も増えてきました。
「私、できたかも!」
「これでいいのかなぁ」
「ね!今の見えた!?」
レイブンクローのチョウ・チャン先輩は白鳥、ルーナ・ラブグッドさんは野ウサギ、ジニーさんは馬でロンはテリア犬、シェーマスが狐でアーニー・マクミランさんは猪……そして意外なところでは、なんとサヤさんもサメの守護霊なんかを召喚しております。
「イレイナさん、見てください! ボクのパトローナス・シャーク!」
「低予算映画のタイトルみたいに言わないでください」
魔法の存在を信じないマグルの大人とか、ビーチでイチャつく美男美女カップルとかが雑に犠牲にされそうですし。
「ちなみに守護霊の形って、何か意味あるんでしたっけ?」
「18世紀の呪文学者カトゥルス・スパングルによれば、“その人の内面に隠された、未知の必要なもの”を表してるそうですよ」
「つまり?」
「吸魂鬼のような敵と戦う時、初めて現れる無意識の本性みたいなものなんじゃないかと」
私の言葉を聞いて、サヤさんが自分の守護霊を見ます。
「ボク、サメなんですけど……」
「止まったら死ぬってことなんじゃないんでしょうか」
ちなみに守護霊になる動物は、人間と関わりの深い動物の形をとる傾向があるとのこと。そういう意味ではサメもまたサヤさんの故郷だと、食用にされたり映画で人気だったり神話にも出てくるそうな。
他の生徒だとエステル・ロストルフ先輩が蜜蜂でアンソニー・ゴールドスタインさんはフラミンゴ、ハルカ・エンドウ先輩はコウモリでヘレン・ドーリッシュ先輩がラクダ、リリィ・ムーンさんがロブスターでノットはカピバラの守護霊でした。
「これならOWL試験も『闇の魔術に対する防衛術』は何とかなりそう」
「ね、ダンブルドア軍団入ってて良かった~」
現金なことをのたまうトレイシーとダフネですが、それぞれカメレオンとアライグマの守護霊を出しております。試験が近いからか、心なしか5年生と7年生の成功率が高いような気も。
「試験対策が目的ってわけじゃないんだけど……」
ハリーの呟きに、トレイシーが「ごめんごめん」と両手を合わせながらウィンクしてきます。
「その通りなんだけど、アンブリッジの授業はアレだし――ねっ?」
「……尋問官親衛隊がそんなこと言っていいの?」
「ううん、ダメだよー♡」
オリーブグリーンの瞳を上目遣いにしたまま、するっと距離を縮めてくるトレイシー・デイビスさん。
「でもハリーなら大丈夫な気がして、つい言っちゃった♪」
「ありがと。アンブリッジにもそう伝えておくよ」
「うわっ、ひどぉ」
口調に反してけらけらと笑うトレイシーを軽くあしらい、ハリーは呆れるやら感心するやらでクスクスと茶番劇を見守っていたダフネに声をかけました。
「なんだかんだで君たちって、OWL試験のこととか結構しっかりしているよね」
「ふっふっふ、何を隠そう――あ、スーちょっとメガネ貸して――私たちスリザリン生はこう見えて、魔法界の未来を担うエリートですからっ!」
レイブンクローのスー・リーさんから借りたアンダーフレームの赤メガネをかけ、頭のいいお姉さん風にポーズを決めるダフネ。開いた胸元やネックレスにピアスやらミニスカなんかで、そういうコスプレにしか見えないのはご愛敬というやつでしょう。
「僕、勉強ならレイブンクローの専売特許だと勝手に思ってた」
ハリーが首を傾げると、チョウ・チャン先輩がダフネから取り戻したメガネを持ち主に返しながら答えます。
「たしかに個々の教科で成績トップ層はほぼレイブンクローだけど、全教科の合計じゃそうでもなくて。ウチは良くも悪くもオタクというか研究者気質だから、興味のない科目は逆に落第スレスレだったりするの」
極端な話、ロックハート先生のように忘却術とマーケティングの才能はピカイチだけど他はサッパリ、みたいなのが割と多いのがレイブンクロー。興味の有無で成績にムラがあるので、就活でも総合職よりは専門職に強い傾向があったり。
逆にスリザリンは試験期間になると寮全体でフォローアップする空気があるので、個々の科目では「中の上」ぐらいでも全教科合計になると成績トップ層を独占する、みたいなことが起こりがち。就活でも総合職採用に強く、そのまま管理職コースに乗っかるのがエリートの寮たる所以です。
もっとも、真面目に勉強しているがゆえの問題というのも無いわけではありません。
というのも――。
◇◆◇
「いやよ! 嫌です! こんなこと……あたくし、受け入れませんわ!」
玄関ホールから悲鳴が聞こえ、何事かと様子を見に大広間から溢れ出してくる生徒たち。その群れをかき分けて前にでると、トレローニー先生が玄関ホールの前に立っていました。
「こんなことが起こるはず無い……16年も! 16年もこの城に住んでいたのに……!」
片手に杖を持ち、もう片方の手には空っぽのシェリー酒の瓶。髪は逆立ち、メガネがずり落ちて、何枚ものショールやスカーフがあちこちに垂れ下がっています。
見るからに怯えた表情で見つめる先には、面白がるような表情をしたアンブリッジ先生がおりました。
「あら、こういう事態になると予想できなかったのかしら?」
満面の笑みを浮かべながら、権力の味を噛み締めるように。
「明日の天気すら予測できない無能な貴女でも分かるよう、事前に査察結果はお渡ししたはずです。せめて心機一転して授業内容の改善に取り組みでもすれば、能力評価はともかく勤務態度ぐらいは見直すつもりでしたが」
ガマガエルのような顔に、楽しそうな表情が広がっていきました。
「どこぞの半巨人すら――盛大に空回ってたとはいえ――やる気だけはあったのに、まさか下には下がいただなんて想像もしませんでしたわ。OWL試験やNEWT試験で将来のかかってる学生もいるというのに、真昼間から酒浸りになるなんて職務放棄も甚だしい」
アンブリッジ先生の視線に合わせて、生徒たちの視線がトレローニー先生の持つシェリー酒の瓶に注がれていきます。
「飲酒が原因と思われる業務効率低下について、生徒たちから“酒臭い”だとか“愚痴が多い”やら“急にキレる”など、多数の苦情を受け取っています」
ザビニやリリィが「そうだそうだー」と同意するように頷いたり野次を飛ばし、トレローニー先生に同情して泣いていたラベンダーやパーバティもこればかりはバツが悪そうに俯きました。
「高等尋問官令に基づく査察の結果、業務効率改善の勧告を受け取ったにもかかわらず――このような職務専念義務違反および誠実労働義務違反ともなれば、誠に遺憾ながら懲戒免職処分を通達せざるを得ません」
ここがアメリカだったら一言「お前はクビだ!」で済むのですが、敢えてのクイーンズ・イングリッシュでガチガチのお役所言葉を読み上げるのがイギリス仕草。エリートは気取ってナンボです。
「あ、あなたに、そんなこと――で、できないわ! クビになんて! ほ、ホグワーツは――あた、あたくしの――家です!」
「訂正しますわ。正解は“家でした”よ」
巨大なメガネの奥から涙を溢れさせて断固拒否するトレローニー先生でしたが、ウッキウキで嫌味を言うアンブリッジ先生は止められません。楽しくて仕方がない、といったオーラが全身から迸っております。
「シビル!」
誰もが「あんまり関わらんどこ……」と遠巻きに見守る中、堂々とトレローニー先生に歩み寄ったのはマクゴナガル先生でした。
「さぁ、シビル……落ち着いて。少なくとも……ホグワーツを出ることにはなりません」
厳格な理論派として知られるマクゴナガル先生ですが、一方で情に厚いという一面も。たとえ非論理的な「占い学」のことを快く思っていなくとも、泣きじゃくるトレローニー先生の背中を叩いて励ますような優しさを持ち合わせており、まさしく人格者といった趣があります。
「あら、マクゴナガル先生」
感情を逆撫でするような甲高い声で、アンブリッジ先生が数歩前に進み出ました。
「彼女の懲戒免職については全教職員に通達したのですが、もしかして受け取っていませんでした?」
「いいえ。ミスター・フィルチが30分前にきっちり届けてくれました」
「であれば、解雇の事由についても納得いただけるかと。能力も無ければ意欲もなく、最低限のコンプライアンスすら守れない……そんなダメ教師に、未来ある子供たちを任せるわけにはいかないでしょう?」
割と正論で詰めてくるアンブリッジ先生に、マクゴナガル先生は唇を真一文字に結んだまま生徒たちを見回します。
そして想像通りと言いますか、やはりアンブリッジ先生寄りの声が大きかったのは、学業重視のレイブンクロー生と現実的なスリザリン生でした。
「ぶっちゃけ、トレローニーの授業じゃ試験で点取れないからなー」
「就活で使わないならいいんだけど、ちょいちょい要るんだよね」
一方のグリフィンドールやハッフルパフではトレローニー先生に同情的な声が多かったものの、全員がそうというわけでもありません。
「アンブリッジはやり過ぎだって。あんなのイジメじゃん」
「そこ私もアンジーと同意見だけど……酒気帯びで仕事するとか、普通に社会人としてダメじゃない?」
憤るアンジェリーナ・ジョンソン先輩をアリシア・スピネット先輩が冷静に窘めると、ハッフルパフ7年のハルカ・エンドウ先輩なんかもうんうんと頷きます。
「可哀そうだとは思うけど、真面目に勉強した子が馬鹿を見る授業はなぁ……」
「じゃあ、ハルカ達はトレローニーが路頭に迷ってもいいと思うの?」
「そこまでは言ってないけど……」
エンドウ先輩が困ったように眉をハの字にするのを見て、スリザリン7年のマイルズ・ブレッチリー先輩が口を挟みました。
「そんなんジジババの介護だろうがド田舎の工場夜勤だろうが、死にもの狂いで雇ってくれるとこ探すしかねーだろ。トレローニーの奴は仕事ナメ過ぎ」
突き放したように言うブレッチリー先輩に、アンジェリーナ先輩が顔をしかめます。
「いや、アンタまだ学生だろ。なんで社会人ヅラしてるん?」
「だーから使えない新人にならないよう、4年の時からバイト掛け持ちしたり、7年からクィディッチ選手も辞めてNEWT試験で平均『良・E』ぐらい取れるよう頑張ってんの」
ピリついた空気が流れる中、「まぁまぁ」と宥めるように割って入ったのは同期のジェイク・ファーレイ先輩でした。
「2人とも後輩たちの前だよー。1年だっているんだし、これ以上ビビらせてどうすんの」
卒業した姉のジェマ・ファーレイ先輩と同じく中性的なルックスに反して武闘派との噂で、半純血ながらスリザリン監督生になってることからもその実力が伺い知れます。
「てかさ、アンジーはそもそも『占い学』選択してないし、マイリーだって別に第一志望で必要なわけじゃないんでしょ? だったらマジになる必要なんか無いって。もっと前向きに考えようよ、進路のこと」
「「お姉ちゃんのコネで大手から内定もらった奴に言われてもなー」」
こんな感じで寮ごとの違いはあれど、基本的に『占い学』がどうなろうが自分に関係ない生徒ほどトレローニー先生に同情的で、成績や就職に影響する生徒ほどアンブリッジ先生寄りという傾向に。
そして真面目に勉強している生徒ほどトレローニー先生に厳しく、不真面目な生徒ほど同情的というのは、なかなか考えさせられるものがあります。
(かくいう私も『占い学』は受講してないので冷静ですけど、受講してたらやっぱり「頑張った分だけ報われたい」って思っちゃうでしょうし……)
結局のところ、誰だって損はしたくありません。利害関係が無ければ他人に優しく正しく在れますが、自分の損得がかかってくると実利を優先してしまうのが小市民というもの。
だとしても――。
マクゴナガル先生はトレローニー先生にハンカチを渡すと立ち上がって、正面から勝ち誇るアンブリッジ先生と対峙しました。
「ええ。ドローレス、たしかに貴女にはシビルを解雇する権限があります」
「ご理解いただいたようで何より」
「ですが、この城から追い出す権限まで高等尋問官が持っているという話は聞いたことがありません」
次の瞬間、アンブリッジ先生の顔が真っ赤に茹で上がりました。毒々しい視線を軽く受け流し、マクゴナガル先生は細い腕をゆっくりと上げて、ある一点を指さします。
正面玄関から深い声がしました。
「それは儂の権限じゃ」
扉が大きく開き、玄関ホールまでの道を埋めていた生徒たちが急いで道を開けると、1人の老人が現れました。海を割ったモーセのごとく堂々と群衆の輪を突っ切り、泣きじゃくるトレローニー先生へと近づいていきます。
「ダンブルドア……!」
とびっきり不快そうな表情になるアンブリッジ先生。校長先生はマクゴナガル先生と一緒にトレローニー先生を支えるように立たせてから、涼しい表情で向き直りました。
「ミネルバの言う通りじゃ。遺憾ながら、この城に誰が住むか決める権限はまだ校長が持っておる。そして儂は、引き続きシビルに住んでいただきたいのじゃ」
口をあんぐりさせて固まるアンブリッジ先生に、ダンブルドア校長はにっこりと微笑みかけます。
「ご不満があれば、この後お茶でもどうかね? 実はマダム・ピンスが図書館からホグワーツ校長の権限について規定したウィゼンガモット判例集を見つけてくれてのぅ」
「……結構ですわ」
ギリギリと歯ぎしりする音まで聞こえてきそうな形相のまま、なおも食い下がるアンブリッジ先生。
「ですが、もし魔法省が新しい『占い学』を任命し、トレローニー
「おお、それなら心配には及ばん」
朗らかに答えるダンブルドア校長ですが、どこか有無を言わせぬ威圧感を感じます。
「こんなこともあろうかと、実はもう後任の『占い学』教授を見つけておってのぅ」
「え」
「え?」
アンブリッジ先生とトレローニー先生の言葉が見事にハモりました。たぶん、生徒たちも同じことを思ったことでしょう。
(((ダンブルドア、トレローニーがクビになる前提で後任探してたんかいっ――!)))
絶句するアンブリッジ先生。そしてトレローニー先生。それから生徒たち。
(いやまぁ、ダンブルドア校長がアンブリッジ先生の敵だからって、別にトレローニー先生の味方というわけでも無いのでしょうけど……)
校長先生、そういうとこじゃないでしょうか。
そんな私たちの心の声を知ってか知らずか、校長先生は呑気に好々爺じみた笑顔を浮かべたまま口を開きました。
「その方はトレローニー先生の住む北塔の屋根裏部屋より、一階に住む方が望ましいとのこと」
ダンブルドア校長が魔法で扉を開け放つと、夜霧と共に聞こえてきたのは蹄の音でした。ざわざわと驚きの声が流れ、続いて現れた「後任」を見て隣にいたダフネがはっと息を呑む音が聞こえます。
「うそ……私、夢でも見てるのかも」
「ええ。私も信じられません」
それもそのはず。何故なら新しい『占い学』の先生は――。
「めっっっっっちゃイケメェェェエエンッッッ♡♡♡」
「禁じられた森のケンタウロスで……―――えっ?」
思わず真顔で横の金髪ギャルを見つめる私。
「ダフネあなた、少々ストライクゾーン広過ぎでは……?」
「大丈夫、時代は多様性だから!」
魔法界、寛容と不寛容の振れ幅がジェットコースター過ぎやしないでしょうか。
ともあれ、玄関ホールに現れたのは金髪碧眼のケンタウロスでした。そして何より、超イケメンでした。
「新しい『占い学』の先生を紹介しよう――フィレンツェじゃ」
フィレンツェさんを見たアンブリッジ先生の悲鳴が玄関ホールに響き渡ったかと思うと、次の瞬間には女子生徒特有の黄色い歓声でかき消されてしまったのでした。
3連休中に投稿しようとしたけど間に合わず、遅ればせながら(汗)
ということで、イレイナさんの守護霊はもちろん「私」でした! いつかイレイナがノリで開発した魔法薬(物を擬人化する魔法薬)で自我を持って、自分のことを「わたくし」と呼んだりイレイナのことを「イレイナ様」と呼んだりする……かもしれません。
フィレンツェの「占い学」教授就任、時系列的にダンブルドアが「今度ウチのトレローニーがクビになるの確定だから、代わりに占い学教えてみない?」って内定出してるのがじわる……
いや権限的にクビは止められないにしても、トレローニーの立場が無さ過ぎて「校長ほんと人の心とか無いんか……?」ってなります。
それはそうと真昼間からシェリー酒の匂いぷんぷんさせながらヤケクソ気味に詐欺みたいな授業してる5巻のトレローニーはトレローニーで、クビにされてもあんま文句は言えないと思ってたり。