ハリー・ポッターと灰の魔女   作:アストラマギカ

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※クラッブ視点
※独自設定あり。苦手な方はご注意ください。


第39章 ~試験、自治会、そしてクラッブ~

 

 ふくろう試験が迫る中、オレ――ビンセント・クラッブはとても悩んでいた。

 

 

「ダメだこりゃ……なーんも思い浮かばない」

 

 目の前に置かれた紙には「進路調査票」と書かれている。隣には就職先のパンフレットが山のように積まれているが、どれも読む気にならない。

 

(スリザリンに入れば、楽にコネ就職できるんじゃなかったのかよ……)

 

 そんな淡い期待は、木端微塵に打ち砕かれた。OWL試験が近づく中、OB・OGを集めた進路説明会が開かれ、その最後に就活担当のレジーナ・ロウル先輩は締めくくるようにこう言ったのだ。

 

「――それから、推薦狙ってる学生はここに残ってね。OWL対策について、学習担当のサロウから話があるから」

 

 

 俺は耳を疑った。

 

 

(OWL対策? 推薦なのに? コネは?)

 

 不思議に思って説明会終了後にイレイナに聞いてみると、困ったような顔で苦笑いされる。

 

「まず誤解のないように言っておくと……コネ就職って救済措置ではありませんよ? むしろ逆です」

「逆って?」

「成績優秀者に、更なる成功の機会を与えるためのものです」

「マジか」

 

 

 世の中、残酷過ぎやしないか……?

 

 

「結局のところ企業がコネ採用をするメリットって、優秀な学生の囲い込みと青田買いですからね」

 

 成績表と面談だけでは、どうしても情報が限られる。だから知り合いを通じて、学生の人格や適性なんかを補う。それがコネ採用の現実らしい。

 

「つまり企業が求める最低限の学力がないと、そもそも紹介すらしてもらえません。仕事で使えない人を紹介したら、紹介した人の信用も一緒に落ちちゃいますし」

「純血で、名家で、スリザリン生でもか?」 

「もしご自分のことを言っているのでしたら……悪いですが、答えはイエスですよ」

 

 がっくりと肩を落とす。現実は甘くない。

 

 

(どうすっかなー……)

 

 OWL試験からは逃げられなし、いずれはNEWT試験も受けて、ホグワーツを卒業する日が来るだろう。けれど、それから先どうしたらいいか全くわからない。

 

 就活がうまくいかなければ、地元に帰ることになる。けど、実家の牧場はとっくに年の離れた兄貴が継いでいて、迷惑はかけたくない。

 

 

「私が言うのもなんですが、あまり落ち込まないでください」

「っ………どうも」

 

 完璧美少女にぽんぽんと肩を叩かれ、ちょっとだけテンションが上がる。我ながら現金だと思うけど、ずっとマルフォイの取り巻きモブでしかなかった自分には、刺激が強すぎた。

 

「本気で勉強する気があるなら、今からでもサポートしますよ。一応、私も監督生なので」

「それって……」

 

 心臓が高鳴る。自分には縁が無いと思っていた、学校1番の美少女に勉強を教えてもらえるチャンス――。

 

「監督生になると自動的にスリザリン寮自治会の執行委員になるんですが、優秀なスタッフを付けてもらえるよう頼んでみます」

「…………おう。助かる」

 

 

 そういえば、そんな組織もあったな。

 

 

 「スリザリン寮自治会」というのは名前通りの組織で、200人を超える寮生をまとめ、学校生活や進路についてサポートするのが仕事だ。

 

 スリザリン生の大半は自治会に入会していて、年会費1ガリオンで色々なサービスが受けられる。教科書や薬草の割引、談話室のラウンジコーナーにある軽食・ドリンクやコミック・雑誌の無料サービス、バイトの斡旋や求人情報の配信、過去問集の配布に奨学金……。

 

 運営の中心になっているのは6人の監督生で、それぞれ担当が割り振られている。ちなみに今年はこんな感じ。

 

 

 委員長:ジェイク・ファーレイ   

 ・寮全体の運営管理

 

 副委員長:ユーフェミア・ロウル 

 ・寮長のサポート

 

 就職支援課長:レジーナ・ロウル   

 ・就職関係のサポート

 

 学習支援課長:アルバート・サロウ   

 ・勉強関係のサポート

 

 学生支援課長:イレイナ・セレステリア 

 ・人間関係のサポート

 

 生活支援課長:ドラコ・マルフォイ   

 ・生活関係のサポート

 

 

 そうは言っても、たった6人で200人ものスリザリン生を管理できるはずないから、ほとんどの監督生は友達や知り合いを何人かスタッフとして抱えている。

 ところがスタッフ用の予算はゼロで、監督生が「高貴なる義務」として自腹あるいは借金で用意するのが伝統だ。

 

 逆にいうと、自前でスタッフを用意できるだけの資金力なり人望があるか、1人で数人分働けるだけの能力が無いとスリザリン監督生は務まらない。

 だから就活では「スリザリン監督生」ってだけで、どんな大企業もほぼフリーパスだと聞く。

 

 

 

「……しゃーない、腹くくるか」

 

 さんざん悩んだ挙句、俺はドラコに助けを求めることにした。幼馴染のドラコではなく、監督生としてのドラコ・マルフォイに。

 

 なんとなく予想は付いていたんだろう。ドラコは俺の話を黙って聞いた後、「頼む」と手を合わせる俺に向かって「まったく」と苦笑した。

 

「いつ頼んで来るのかと思ってたが、やっとだよ。頼むのが半年遅い」

 

 心なしかドラコの声は嬉しそうだった。

 

「やるんだな? 勉強」

「がんばる」

「言っておくが、面倒を見る以上は僕にも責任があるから、甘くはできないぞ?」

「覚悟はできてる」

 

 胸をドン!と強く叩く。ここまで来たら、後はもう気合と根性でなんとかするしかない。将来かかってるし。

 

 

 ――それから、ドラコの動きは素早かった。

 

 

 さっそく幹部に話をつけてくれて、翌週には担当まで付けてくれた。OWL試験まで、先輩たちが俺の指導にあたってくれる。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 学習支援課のリーダーを務めるのは、6年生のアルバート・サロウ先輩だった。

 

 高身長に青い瞳、程よく鍛えた細マッチョ。襟足長めの茶髪メンズウルフに隠れて、チラッとピアスが見える。全身から自信がみなぎっていて、プライベートで女殴ってそう。

 

「5年のビンセント・クラッブですッ! これからよろしくお願いしますッ!」

「声でけぇよ」

 

 せめて気合だけでも見せようと大声で敬礼するも、気だるそうにメンチ切られた。それだけで首元にナイフを突きつけられたようにヒヤッとする。

 

 

「しっかし、ほんと酷いな。この成績」

 

 バツがびっしりと書かれた俺の答案用紙をみて、サロウ先輩が眉を顰める。

 

「こ、これでも昔よりはマシになった方で……」

 

 やっとのことで絞り出した声を無視して、サロウ先輩はぐっと顔を近づけてきた。

 

「お前、これでOWL試験受ける気だったわけ?」

「う、うっす」

「マルフォイに頼んで正解だったな。じゃなきゃ留年してた」

 

 サロウ先輩の声色は落ち着いてはいるものの、威圧感はたっぷりだ。

 

 

「今年は覚悟しろ」

 

 

 杖を振って回答用紙をまとめてから、先輩は「1年生」と書かれた棚からいくつかの冊子を引っ張り出す。

 

「これは1年生レベルの参考書だが、1年生向けってわけじゃない。図体は5年生なのに頭は1年生レベルな奴、つまりはお前のための教材だ」

「おす!」

「同じことを何度も聞かれてイライラするほど、お前には誰も期待してない。だから怖がらず、分からないことはすぐに何度でも質問しろ」

「うっす!」

 

 不機嫌そうに「答える時は“はい”だ」と冊子を放り投げられ、慌ててキャッチする。

 

「お前は運がいい。スリザリン寮には、バカを誤魔化すノウハウも山ほどある。素直に言う事を聞いてりゃ、今からでもOWLには間に合う」

「はい」

「あらかじめ言っておくが、もちろん才能の壁や効率的な勉強法ってのはある。だが、それは平均点より上の話だ。それ以下のレベルの争いなら、問題の大半はシンプルに勉強時間が足りてない」

「はい」

「とりま放課後に1日3時間、何があっても学習室の机に座って本を開け。どうせそれすら出来ないんだろう?」

 

 図星だった。つい腹が減ったり、眠くなったりして、何もしてないのに気づいたら夜になっている。

 

「いいか、3時間なんてあっという間だ。1日で1冊終わらせようとすれば、すぐに時間が過ぎる」

「はい」

「今日から始めろ。来週までに1年の復習を終わらせる」

「え」

「返事」

「はいッ!」

 

 無理だろ、とか言える雰囲気じゃなかった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 サロウ先輩の指導で、1日のスケジュールも決められた。ホグワーツの授業は16時半に5限目が終わるから、19時までに食事と運動と入浴を済ませて、後は22時の門限までひたすら勉強だ。

 

 勉強はスリザリン寮近くの地下教室を借りた、学習室と演習室でやることになっている。自分以外にも勉強に集中したいスリザリン生が大勢いて、部屋の空気からして違う。

 

 

 生徒によっては学習支援課スタッフの個別指導まで付き、ドラコの頼みもあってオレにも個別指導がついた。

 

「今の時代、魔法薬なんて店で買うもんですよね? 自分で調合する意味あるんすか?」

 

 魔法薬学の勉強で愚痴を吐いたオレに、担当のヴィオラ・リッチモンド先輩がクスクス笑う。スリザリン女子では珍しくオーバルのメガネをかけていて、肩までの金髪をハッシュボブにしている。

 

「どんな仕事にもマニュアルや手順書があるでしょう? で、大体の仕事はそれを読んで、書かれた通りにやれば、最低レベルはこなせるように出来てるの」

「それと同じってことですか」

 

 口をすぼめて紙パック紅茶のストローに唇をつけながら「ん」と答える先輩に、この人なんかエロいなと思いながら「はぁ」と生返事をする。

 

「けど実際には怠けて読み飛ばしたり、雑に測ったりするから、失敗だとか労災が起こるわけ」

「はい」

 

 きちっとネクタイ締めてストッキング履いて露出控えめなのに、でっかい胸のおかげで制服がぴっちりしてメリハリのあるボディラインが目立つ。あと、めちゃくちゃ良い匂い。

 

「偏見だけど魔法薬学が下手な人って、説明書を読まない・読めないタイプが多いと思う」

「はい」

「君の事だよ?」

「はい」

 

 

 ** 

 

 

 古代ルーン語の勉強では、6年の()()()()・ロウル先輩が生真面目に重要性を説いてくれた。

 

「よろしくお願いします、レイブン先輩」

「ロウェナだ。その仇名で呼ぶなといつも言ってるだろ」

 

 レイブンクロー創始者に由来するしょーもない仇名だけど、なんとなく先輩の雰囲気的にしっくりくる。

 

 銀髪ショート七三分けの凛々しい顔立ち、コバルトブルーの瞳に中性的なハスキーボイス……と男子より女子にモテる王子様タイプだ。分家出身だから同期で本家出身のレジーナ・ロウル先輩に騎士のように付き従っていて、生真面目な性格もあいまってファンも多い。

 

 ただ、堅苦しい人というわけではなく、初手から結構ぶっちゃけてきた。

 

「正直、古代ルーン語を覚えることそれ自体に意味はさほど無い」

「マジですか」

「マジですだ」

 

 じゃあ何のための科目なんだ、と頭に浮かんだ疑問に答える代わりに、レイブン先輩は事務書類一式を渡してきた。

 

「これは?」

「スリザリン談話室の備品購入の申請書だ。試しに書いてみてくれ」

 

 言われるがままに書いてみようとしたけど、さっぱり読めない。英語なのに、似たような専門用語が多過ぎるし、注意書きも細かいし、どの項目にどの説明が対応しているか探すだけで一苦労だ。

 

 でも、レイブン先輩が何を言いたいのかは理解できた。

 

「……古代ルーンを学ぶ意味って、これの練習だったんすね」

「思ったより鋭いね、君は」

 

 端正な顔に「ふっ」と柔らかな笑みが浮かぶ。

 

「他人の書いた文章を読み、自分の知らない単語を調べてその意味を理解し、自分も同じ単語や文法を使って文章を書く……これはどんな組織に入っても、報告書を読んだり、書類を作成する時に必要になる力だ」

 

 

 **

 

 

 変身術の魔法式に悲鳴を上げるオレに、サロウ先輩は容赦なかった。

 

「魔法族が単なる魔法生物と決定的に違うのは、魔道具を使えるからだ。杖や箒はもちろん、逆転時計に移動キー、自動速記羽ペン、両面鏡……ありとあらゆる便利な魔道具が魔法界の生活を支えてる」

「はい」

「こうした魔道具を運用したり開発するためには、呪文の特性や効果を数値データに置き換えて、魔法式やモデルとして構造を理解する必要がある」

「は、はぁ」

 

 不安そうに答える。けど、サロウ先輩は怒ったりするでもなく、少し考えてから。

 

「要するにだ。雰囲気で杖を振ったり呪文を唱えるだけなら、トロールに杖を持たせるのと同じってこと」

 

 そういう話なら俺にも理解できる。サロウ先輩って見た目は怖いけど、意外と面倒見が良い性格なのかもしれない。

 

 

 

 ――そんな感じで。

 

 

 

 最初は言われるがままに問題を解き、間違えた問題は解答を読んでから再チャレンジして、どうすれば解けたのかを覚えるまで繰り返し練習した。

 

 段々と解ける問題が増えてくると、解けなかった問題も解答を読んで「あ、そういうことか」と気づくことも増えていく。なんとなく授業を聞いて、なんとなく問題を解いていた、今までのオレとは大違いだ。

 

「頭いい人、ってこういう感じなんですね。なんか勉強が楽しくなった気がします」

「なんでも楽しむためには、それだけの実力がいるからな。もっと実力がつけば、もっと楽しくなるぞ」

 

 サロウ先輩の言葉通り、成績が上がるとモチベーションも一緒に上がっていった。日々、自分が進歩しているという手応えを感じる。

 

 ホグワーツ5年目にして、オレは初めて本当の意味で「学生」をやっていた。

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 やがてイースター休暇が始まると、ほとんどのスリザリン生と同じように「パーキンソン模試」を受けた。

 

 イースター休暇を利用して本番と同じスケジュールで、通しで模擬試験を受けるのだ。受験料はタダじゃないから、模試を受けている生徒の半分はスリザリン生だった。

 

 

 

 かなり練習してきたはずなのに、試験会場に入ると急に不安が襲ってくる。

 

(昨日、もう少し寝ないで公式でも覚えときゃ良かったかな……)

 

 けれど問題用紙を開いて、見慣れた問題が目に入ると、緊張が嘘のように解けた。羽ペンがすらすらと解答を紡ぎ出していく。

 

 実技試験では、なんと1回も爆発を起こさなかった。俺的には快挙だったのに、試験官は大して驚きもせず、点数を記録するだけだった。

  

 

 模擬試験から二週間が過ぎた頃、模擬試験の結果が届いた。ふくろう便を受け取り、封筒を開けようとすると、指が小刻みに震えていた。心臓がバクバク鳴り、腹も痛くなってきた。逃げ出したい気分だけど、そうしたところで試験結果は変わらない。

 

 意を決して封筒を開き、目を閉じながら通知書を取り出す。ゆっくりと目を開け、そして――。

 

 

 

 ――――――――――

 

 パーキンソン・ゼミナール 

 

 普通魔法レベル模擬試験 個人成績表

 

 

 試験番号17番 ビンセント・クラッブ は下記の成績を修めた。

 

 

 天文学         不可・P

 薬草学         可・A

 魔法生物飼育学     可・A

 魔法史         可・A

 呪文学         可・A

 魔法薬学        可・A

 闇の魔術に対する防衛術 良・E

 変身術         不可・P

 古代ルーン語      可・A

 

 ――――――――――

 

 

 

 めちゃくちゃ普通だ。普通の人なら当たり前にとっているような成績だけど、勉強が苦手な自分には縁がないと思っていた普通の成績。

 

(これ、本当にオレの成績表なんだよな……?)

 

 羊皮紙を何度も見直し、読むたびに落ち着いてきた。ほとんどが「可・A」で、「落第・D」はひとつもない。良くて「不可・P」だと思ってた魔法薬学では予想以上の好成績だったし、「闇の魔術に対する防衛術」はまさかの「良・E」だ。

 

 

「おいクラッブ、大丈夫か」

「え?」

 

 肩を叩く手を感じて振り返ると、怪訝な顔をしたドラコとパンジーがいた。

 

「さっきから5分ぐらいずっと固まってたぞ」

「心配したんだから。封筒にバジリスクの目玉でも入ってたわけ?」

 

 2人に模試の結果を見せると、「おぉー」と意外そうでそうでもない感嘆の声が返ってくる。

 

「なんというか、思ったより普通だな。良い意味で」

「最近の小テストの結果通りって感じ」

 

「そうなのか……?」

 

 全然現実感がない。ここ半年ずっとこの成績を取るために勉強したはずだったのに、驚くほどにあっけなく感じる。

 

「そうそう。だから、後でサロウ先輩たちにお礼言っときなさいよ」

「やっべ、そうだった」

 

 パンジーに言われ、慌ててサロウ先輩の部屋に向かう。扉をノックすると「入れ」と声がする。ソファに座る先輩の隣に腰かけ、テーブルの上に成績表を乗せた。

 

 サロウ先輩はしばらく無言で成績表を見てから、ふっと口元を緩めた。

 

「さてはお前、意外と本番に強いタイプだな?」

「はい」

「もっと自信持て。模試に強い奴は本番にも強い」

 

 変身術が「不可・P」だったことについても、サロウ先輩は「考え過ぎるな」と手を振った。

 

「前に“平均点とるだけなら努力の問題だ”って言ったろ? お前は充分に努力してたよ。なら、教える俺の問題だ」

「いえ、先輩の問題じゃ――」

「最後まで聞けって」

 

 慌てて口を挟んだオレを遮って、サロウ先輩は落ち着いた表情のまま続ける。

 

「たしかに今回は『不可・P』だったが、筆記の方は悪くない。問題の実技も、初級レベルの呪文はきちんと出来ている」

 

 魔法の中でも特に正確さが要求される変身術は、きちんと理論を覚えないまま実技練習をしても失敗を繰り返すことになる。だから、どうしても立ち上がりが遅いのだという。

 

「理論が頭に入ってるなら、後はひたすら実技の練習量をこなせばいい。本番までに仕上げるぞ」

「はい!」

 

 即答すると、サロウ先輩は「よし」と満足そうにうなずく。

 

「いいかクラッブ、お前はやればできる奴だ」

「そ、そんなことは……」

「逆にいうと、やらなきゃできない奴だ」

 

 言われてみて、今までの自分を振り返る。

 

 ホグワーツに入ってから5年生になるまで、ほとんどの時間をなんとなくで過ごしていた。とりあえず授業に出て、眠かったら寝て、宿題も面倒になったら丸写しを提出して、試験で分からない問題があったら勘で回答してた。今思えば、できなくて当然だ。

 

 

「素直に人の言うこと聞いてしっかり練習すれば、大抵のことは平均レベルまではギリギリ手が届くんだよ。これが動かぬ証拠だ」

 

 模試の成績表を突き付けられる。

 

「……全部、先輩たちのおかげです。俺一人じゃ何もできなかった」

「当たり前だ。だが、人に助けてもらえるのも才能だよ」

「才能、ですか?」

 

 誰だってそうじゃないのか。優秀な人間がこれだけ支援してくれるなら、どんなアホでも多少は伸びると思うんだが。

 

 するとサロウ先輩はオレの考えを読んだように苦笑する。

 

「それが、案外そうじゃないんだよな。変にプライド高くて人に頭下げれない奴とか、うだうだ理屈こねて余計な手間増やす奴とか、結構いるんだよ。良く言えば自分の頭で考えてる、ってことなんだろうけど」

 

 遠い目になるサロウ先輩の顔は、明らかに「面倒くせぇ」と語ってた。

 

「ぶっちゃけ教える側だってヒマじゃねぇし、好き嫌いはあるからな。素直にさっさと言われた通り動く奴の方が、こっちも世話焼きたくなるもんよ」

「いいんですか、ぶっちゃけて」

「と、どっかでダンブルドアが言ってるのを聞いた」

 

 べっと舌を出すサロウ先輩。

 

 それを見て、ようやく心の底から笑うことが出来た。

 

「なにニヤニヤしてんだよ。校長に失礼だろ」

「先輩ほどじゃないっすよ」

「こいつ、言うようになったな」

 

 そのまま首に腕を回される。

 

 

「――ちょっと、どうして健気な彼女を放っておいて男同士でイチャついてるのかしら?」

 

 ガチャっとドアを開ける音と共に、呆れたようなヴィオラ・リッチモンド先輩の声がした。他にも何人か後ろで人の気配がする。

 

「私も交ぜなさい」

 

 この人もけっこうノリいいな?

 

 

 リッチモンド先輩が入ってくると、続けてぞろぞろと人が入ってくる。

 

 

「正直、まさか半年でここまで成績あがるとは思いませんでした」 

 

 イレイナが聖母のように微笑む。急に元気が湧いてきて、美少女の笑顔は万病に効くような気がしてくる。

 

 

「こいつ、満更でもない顔しやがって!」

 

 ニヤニヤしたゴイルがバシバシと何度も背中を叩く。

 

 

「言っておくが、本番はこれからだからな。気を緩めないように」

 

 相変わらずレイブン先輩は生真面目に釘を刺してくるけど、その眼差しはどこか柔らかい。

 

 

「まぁまぁ、今日ぐらいはいいんじゃないかしら? 嬉しいことはお祝いしないと」

 

 その隣でニコニコと微笑んでいるのは、7年生のユーフェミア・ロウル先輩だ。しれっと交ざってるけど、あんた今回は何もしてないよな?

 

「じゃあ――ここも狭くなってきたし、談話室に行きましょ」

「なんでユフィが仕切ってんだ」

「だって首席で、監督生で、聖28一族だもの」

 

 首席バッジを見せられ、小さく舌打ちして引き下がるサロウ先輩。権威に弱いかよ。

 

 

 

 ***

 

 

 

 談話室に辿り着くと、いつもと違って派手めに飾り付けられていた。

 

 今までのイースター休暇では帰省してたから気づかなかったけど、OWL試験やNEWT試験対策でホグワーツに残った生徒で毎年、こうしたお疲れ様会を開いているらしい。

 

 

「それでは受験生の皆さん、そして学習支援チームの皆さん、お疲れ様でした!」

 

 寮長のジェイク・ファーレイ先輩がハンサムな笑顔でグラスを掲げる。

 

「今回の模試で良い結果を出せた人はこの調子で、結果に思うところがある人は本番に向けて一層気を引き締めて―――泣いても笑っても本番まで残り2ヶ月、悔いのないように過ごしましょう!」

 

「「「「はい!」」」」

 

「ちなみに今日の食事はスリザリン寮OB・OG会からの奢りです! 足りなかったらメニューの追加もできるし、どうせ自分たちのお金がじゃないから、遠慮しないで好きなだけ食べちゃって!」

 

 部屋中が笑いに包まれ、談話室がたくさんの笑顔で満たされる。

 

 そして、改めて思う。

 

 オレは、今の自分が好きだ。そんな自分にしてくれた、スリザリンが好きだ。スリザリンに入れてくれた、ホグワーツが大好きだ――と。

 




 個人的にハリポタ7巻の衝撃のひとつが「クラッブが悪霊の炎を使ったこと」だったりします。ずっと頭良くない描写しかなかったのに、急にマルフォイに対して饒舌になって過激なこと言った挙句に高等レベルの呪文でハリー達を攻撃したので、「お前そんなキャラだったんかい」とかなり驚いてました。

 そう考えると、本人が勉強に興味が持てなかったのに加えて周囲がずっと無能扱いしてたせいで上達の機会を逃してたけど、案外やればできる子(良い子とは言ってない)なんじゃないのかなぁと。
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