ハリー・ポッターと灰の魔女 作:アストラマギカ
「グリフィンドールの選手がどういうふうに選ばれたか知ってるかい? 気の毒な人が選ばれてるんだよ。ポッターは両親がいないし、ウィーズリーはお金がない」
クィディッチのハッフルパフ vs グリフィンドール戦、観戦席ではキレッキレのマルフォイがグリフィンドールを煽りに向かっていました。きっと昨日の夜、寝る前に布団の中で温めてた渾身のネタなのでしょう。
「ロングボトム、君もチームに入るべきだね。脳味噌がないから」
そういえばマルフォイは最近ずっとクラッブとゴイルに勉強を教えてて、めちゃくちゃストレス溜まってるっぽいんですよね。
「マルフォイ、ぼ、僕は君が十人束になっても敵わないくらい価値があるんだ」
「いいぞ、ネビル。もっと言ってやれ!」
ネビルが珍しく言い返す中、クィディッチの試合は進んでいきます。
「運がいいぞ。ウィーズリー、ポッターはきっと地面にお金が落ちているのを見つけたのに違いない!」
ロン、キレた!!
男子の取っ組み合いとスニッチに急降下しているハリー、どっちも捨てがたいですが、今回はクィディッチに目を向けました。
あ、ハリーがスニッチ取りましたね。早い。
「やった! グリフィンドールの勝ちよ!」
ハーマイオニーが手を叩いて喜んでいます。取っ組み合いの最中だったマルフォイはというと、全財産スッてしまったように顔が真っ青。怪我の手当ても他所に、慌てて私の元へと走ってきます。
「イレイナ、今回の券なんだが……」
「お客様、払い戻しはできない契約となっております」
「……どうしても?」
「そういう契約ですので」
「………」
賭博の際には契約内容をよく確認し、無理のない金額をベットし、賭け過ぎにはご注意ください。
**
よほどショックが大きかったのか、試合からそう時を置かずしてドラコ・マルフォイが突如、狂喜乱舞しながら談話室に入ってくるのが見えました。
「ついにポッターたちの尻尾を掴んだぞ! あの森番の野蛮人と一緒に、ドラゴンを飼っている!」
マルフォイ、ついに陰謀論にハマってしまうように……。
「ドラコ、辛かったんですね……。大丈夫、あなたは悪くありません。一緒にマダム・ポンフリーの所に行って休みましょう」
「待つんだイレイナ、何か勘違いしてないか?」
「もう頑張らなくていいんですよ、ドラコ。あなたが生きていてくれてるだけで、私は嬉しいです」
「人の話を聞けって! あと最後ぜったい嘘だろ!」
どうやら彼はパニック状態に陥っているようです。こういう時、陰謀論を正面から否定してはいけません。まずは彼の話に耳を傾け、落ち着くまで待つのがセオリーです。
「僕は見たんだ!見たんだって! 眼だけが光ってた!」
それは姿を消すエイリアンの見間違いでは。
「あの野蛮人の小屋、昼でもカーテンで閉め切られてた! そこにポッターたちがコソコソ入っていって、怪しいと思ったから近づいたら、暗がりの中でドラゴンの卵が孵化してたんだ!」
「あー、はいはい。分かりましたから、落ち着いてください」
仕方ありませんね。まぁ、これでも一応は友人ですし。一緒にハグリッドの小屋にでも行って、やましいところが無いことを見せれば、マルフォイも落ち着くでしょう。
**
ということで私はマルフォイを連れ、二人でハグリッドの小屋へ向かいました。コンコンと扉を叩くと、「誰だ!」と大きな声が響きます。
「1年生のイレイナです。森番さん、お疲れ様です」
第一印象は大事です。ハグリッドと直接話をするのは初めてなので、できる限り可愛く聞こえるような声で答えると、扉が少しだけ開かれました。
たしかにマルフォイの言う通り、窓はカーテンで閉め切られ、部屋の中はよく見えません。しかも扉を開けた瞬間、サウナのような熱気が漏れ出てきます。
「スリザリンの1年が俺に何の用だ?」
少しだけ開いた扉の奥からは、警戒するようなハグリッドの声。スリザリンにあまり良い印象が無いみたいです。まぁマルフォイも人目を憚らず「野蛮人」とか言ってるので、気持ちは分からなくもないですが。
私は事の経緯を説明しました。
「というわけで、ちょっと小屋に入れてくれませんか? 気が動転したマルフォイが、なんでもドラゴンの卵を見たとか抜かしていまして―――」
次の瞬間、ガチャン!と小屋の中で大きな音がしました。音からして、陶器の皿かティーカップが割れた音のようです。
「ハグリッドさん?」
「帰ってくれ! すまんが、俺はお前さんらと遊んでるほど暇じゃないんだ。じゃあな!」
バタン!
私が止める間もなく、小屋全体が揺れるほどの勢いで扉が閉じられました。
「………」
おやおや?
「だから言っただろ? 怪しいって」
それ見たことか、とマルフォイが勝ち誇った様子で口を開きます。
「森番が忙しいって、そんな訳ないだろ。24時間、家に籠って薪割りでもしてるとでも?」
たしかに、これは怪しいですね。ハグリッドの怒鳴り声も心なしか震えていましたし、本当にドラコの言う通りクロかも知れません。
「となると、ドラゴンは本当に?」
「ああ、この目で見た」
もしマルフォイの言葉が真実なら、これは由々しき問題です。
ドラゴンはとても凶暴な生き物で、飼育は法律で禁止されていたはず。それを魔法生物が専門の研究者ならともかく、一介の職員がドラゴンを飼うなど、バレたら一発退職です。というか生徒の安全もっと考えましょうよ、ハグリッド。
――それに。
「生ドラゴン赤ちゃん、一目でいいからこの目で見てみたいですね……」
現在、ドラゴンの数は減少傾向にあって、厳重に管理された魔法自然公園以外ではほとんど目にすることはありません。
しかもドラゴンは寿命が長い事もあり、卵から生まれたばかりの赤ちゃんドラゴンを目にする機会など、一生にあるかどうか。
「こうなったら一蓮托生です。ドラコ、証拠を押さえてやりましょう」
「あ、ああ」
こうして、私とマルフォイはハグリッドのドラゴンを確保すべく計画を立て―――。
**
「――あ、寝過ごした」
私としたことが。
「……勉強疲れで、すっかり寝落ちしてしまいました」
時計を見ると、時刻はすでに深夜の零時。マルフォイの情報によれば、ドラゴンの研究をしているロンのお兄さんが手引きして、土曜零時に天文台の塔でドラゴンを輸送する計画とのことでした。
なんとも運の良いことに、ロンがうっかりお兄さんからの手紙を本に挟んで置き忘れ、たまたま通りがかったマルフォイが手に入れたとか。
私は慌てて外出用のローブを羽織り、談話室へと降りていきます。案の定、ドラコ・マルフォイはいませんでした。
「……さすがに、先に行っちゃいましたか」
ちなみにこの時の私は知る由も無かったのですが、もし予定通りに一緒に外へ出ていたら二人で仲良くマクゴナガル先生に見つかるところでした。実際、私の知らないところで彼はマクゴナガル先生に捕まり、スリザリンは20点も減点されてます。
寝過ごしたおかげで、災い転じて何とやら。
しかしその時の私は、マルフォイがそんな状況に陥ってるなどつゆ知らず。後で遅刻のお詫びに勉強でも教えてあげようかなー、なんて考えながら寮の外へ出ます。
すると―――。
にゃあ。
「おや、ミセス・ノリスではないですか」
ミセス・ノリスというのは管理人のフィルチさんが飼っている猫です。私は猫を拒む体質なので触れませんが、猫自体は嫌いではありません。自前のペットがいないので、余った料理で餌付けているうちに懐かれてしまいました。
ミセス・ノリスは私をじっと見つめ、「美味いもん食わせなきゃチクってやんぞ」と言わんばかりに尻尾を振って、夜食に期待してる様子。
「えーっと、こんなこともあろうかと………乾燥ビーフジャーキー、食べますか?」
ほれ、と目の前で揺らすとミセス・ノリスはくんくんと匂いを嗅ぎ、私が手を離すとジャーキーが地面に落ちる前に口でナイスキャッチ。そのまま満足そうに立ち去っていきました。
「さて、これでフィルチさんに告げ口されることも無いでしょうし、私も天文台の塔へ向かうとしましょうか」
私は小さく呟くと、廊下の暗がりに隠してあった箒を引っ張り出してきます。この日の為にマルフォイと一緒に練習用の箒を一本、拝借していたのです。許可? バレなきゃいいんですよ。
「よっと」
箒に腰かけ、私は天文台の塔に向かって私は夜の空を駆けます。夜景は綺麗ですが、とっても寒いです。
「おや、あれは……」
私が箒で天文台の塔へ向かうと、ちょうど屋上から4つの小さな影が空に飛びあがっていくところでした。影と影の間には大きな木箱のようなものがあり、恐らくその中にドラゴンが収納されているのでしょう。4つの影はそのままホグワーツから離れ、見る見るうちに遠くへ飛んで行ってしまいます。
「残念……やはり間に合いませんでしたか」
ドラゴン、確保ならず。試験勉強疲れがあったとはいえ、こんなビッグチャンスを寝過ごしてしまった自分にちょっと自己嫌悪。しょんぼり。
「結局、無駄足になってしまいましたか……」
少しばかりダウナーな気分に浸っていると、天文台の屋上で一瞬だけ何かが光ったように見えました。
「なんでしょう? ドラゴンの爪か牙でも落ちたとか……?」
そう呟いて天文台の屋上に降り立つと、なにやら月明かりを反射してキラキラと霞のように輝くものが。
(ゴースト……いや違いますね、動いてませんし)
恐る恐る近づいてみますが、ゴーストのようなもの(仮)からの反応はありません。怖々と手を伸ばすと、柔らかい感触が指先に触れます。
これはもしや。ひょっとして。
「透明マント?」
手に取ってみて、さっとローブの上に被せてみます。するとマントがかかった部分だけ、まるで透明になったかのように私の姿が消えていました。
「なるほど。ハリーたちはドラゴンの輸送がバレないように、透明マントを使ったわけですね」
その発想は私ですら驚きを覚えるものでしたが、そんな重要アイテムを置き忘れちゃうなんて、ハリーとハーマイオニーも中々のうっかりさんです。まぁ、睡魔に襲われて寝過ごした私が言うのもなんですが。
「ま、これは後でハリーに返しましょう」
とはいえ、せっかくなので今日は私が使わせてもらいます。透明マントを被って箒で天文台から降り、箒を返して寮へと向かいました。
「このマント、なかなか暖かくて快適ですね。普通に便利ですし、なんかハリーに返すのが勿体ないような気も……」
いっそ、お金で買っちゃいましょうか。ハリーが売ってくれたら、の話ですが。
**
ところが翌日、事態は一変します。
次の日、私は起きてすぐマルフォイを探しました。昨日、寝過ごしてしまったことを詫びるためです。
「ドラコ、昨日は本当にすみませんでした。眠くて、つい」
「いや、いいんだ。むしろ寝過ごしてくれて助かった」
「それはどういう……?」
何を言ってるのか分からず、きょとんとしているとドラコがそっと耳元で囁きます。
「実は昨日、イレイナを置いてグリフィンドール寮の前で待ち伏せしようとしたら、運悪くマクゴナガルと鉢合わせたんだ」
それは、なんと不運な。
「まぁ、もう過ぎた話さ。それよりイレイナ、大広間に行ってみろよ。最高に愉快なものが見れるぞ!」
マクゴナガル先生に罰則を受けた割には、やけに機嫌のいいマルフォイ。私の遅刻にも憤慨している様子はなく、何が彼をそこまで上機嫌にさせたのか探るべく、私は大広間に足を踏み入れました。
「おや、何かあったのでしょうか?」
大広間に到着すると、そこはいつも以上に多くの人だかりができていました。人だかりは各寮の得点を示す砂時計の前にできているようです。
そこで私が目にしたものは―――。
「ま、マイナス150点………」
グリフィンドールの点数が、一晩でなんと150点も減っていました。思わず口をあんぐり開けて茫然としていると、ヒソヒソと囁く声が聞こえてきます。
「グリフィンドールの1年生が、夜中に3人も抜け出したらしい。しかも、その一人はあのハリー・ポッターって話だ」
マルフォイの言ってた‟愉快なもの”ってそういう……。
他の寮杯カウント砂時計に目を向けると、グリフィンドールの150点減点の陰に隠れて目立たないものの、よくよく見ればスリザリンも20点減っています。これは多分、というか十中八九マルフォイがやらかした分でしょうね。
我ながら、紙一重の幸運に身震いします。もし少しでも起きるのが早かったら、もしハリー達が透明マントを忘れていなかったら………大量減点の戦犯になっていたのは、私だったかもしれないからです。
その日の午後には、学校中に噂が広まっていました。学校で最も有名だったハリー・ポッターは、その日から一転して一番の嫌われ者になってしまいました。
減点されたグリフィンドールはもちろん、レイブンクローやハッフルパフでさえ責めるような視線を送っています。彼らも、スリザリンから寮杯が奪われるのを楽しみにしていたからです。
皮肉なこと、というか皮肉そのものなのですが、仲の悪かったスリザリンからは逆に感謝されたり、口笛を吹きながら「借りができたぜ、ポッター!」などと囃し立てられる始末。
「ほんと、ざまぁって感じね!」
スッキリした笑顔のパンジーに、私は曖昧な苦笑いを浮かべることしかできませんでした。
イレイナは とうめいマントを
手に入れた!