ハリー・ポッターと灰の魔女   作:アストラマギカ

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 前回から少し時間が経ってしまい、すみません。お待たせしました。

 前半はイレイナ視点、後半はマルフォイ視点です。


第43章 ~闘争と逃走~

 

 アンブリッジ先生がハーマイオニーとハリーたちを連行してから数分、私たちはピンクで埋め尽くされた先生の少女趣味な部屋で捕虜の監視をしておりました。

 

 一応、ドラコが「親衛隊も護衛に……」と進言したのですが、どうにも手柄を独り占めしたいのか、本心では親衛隊も信用していないのか、あるいはその両方か。

 いずれにせよ、アンブリッジ先生は「杖も無い子供二人ぐらい、れっきとした魔法省の上級次官である私ひとりで十分」と断ってから去っていきました。

 

 

(さて、どうしたもんですかね……)

 

 捕まっているロン、ジニー、ネビル、ルーナ、サヤさんを見てから、視線を親衛隊に移します。

 

 捕虜の監視という退屈な任務を真面目にやってるのはエイドリアン・ピュシー先輩とレイヴン・ロウル先輩、そしてアーガス・フィルチさんの3人ぐらいで、残りは暇を持て余してギリーサイダーを飲んだりカレーパイを食べていたりと、ゆるーい空気が流れておりました。

 

 

「ちょっとトイレ行ってきまーす」

 

 なので私が外に出ても特に誰も止めようとはせず、そのまま適当な空き教室に入った私は多機能両面鏡を開きました。

 

 連絡相手は、当然ながらシリウスさんです。ハリーの叫びでスネイプ先生にも伝わったとは思いますが、過去の恨みとか色々あるので念のため。

 

 

「もしもし、シリウスさん」

 

 

 ところが、おかしなことに一向に出る気配がありません。最新機種では通信障害への対応も強化されており、ロンドンとホグズミードの至る所にWWN(ウィザーディング・ワイヤレス・ネットワーク)の基地局を設置したはずなのですが。

 

 

「………」

 

 これは、ちょっとマズいかもしれません。

 

 

 もしダンブルドア校長が当初提案した通りシリウスさんをグリルモールド・プレイス12番地に閉じ込めていれば、ハリーの言葉を単なる幻覚に過ぎないと割り切ることは簡単でした。

 

 しかし本人の希望やメンタルケアも兼ね、GM社の社員として活動しながらスパイ活動までしている現状では、本当に捕まってしまった可能性も否定はできません。

 

 

 「老け薬」と「肥満薬」に加えて葉巻と丸眼鏡でチャー〇ル首相っぽく変装しているとはいえ、死喰い人の側にはかつて親友だったピーター・ペティグリューさんがいるのです。ちょっとした癖のようなものから、気づいてしまう可能性もゼロではありませんでした。

 

 

(そうでなくとも、シンプルに騎士団メンバーやその協力者が「服従の呪文」にかけられて話してしまった、という可能性だってありますし………)

 

 

 こうして悩んでいる間にも、時間は刻一刻と過ぎていきます。

 

 

「……念のため、社会人の知り合いにメッセージだけでも送っておきますか」

 

 というわけでフリント先輩やペネロピー先輩に送信するも、やはり日中は仕事で忙しいのか、唯一返事があったのがロックハート先生でした。

 

 

『お安いご用です! なぁに、心配ご無用! この私に任せあれ!』

 

 

 ダメ元で送った割に心力強い返事でしたが、期待できるかと言われればぶっちゃけ微妙。というか、あの人やっぱヒマなんでしょうか。

 

(まぁ、既読スルーよりはマシとしますか……)

 

 打てる手はすべて打っておくのがコンタクトの基本。本人は戦力にならずとも、騎士団メンバーの誰かに連絡だけでも取ってくれれば十分にファインプレーというもの。

 

 

 

「さて、次はハリーたちを探しましょうか」

 

 そもそも私は詳しい事情を聴いていませんし、やっぱり本人に確認するのが一番――そう考えて校庭に繋がる大広間へ足を踏み入れると、背後から声がしました。

 

 

「イレイナ、止まるんだ」

 

 

 振り返ると、声の主はドラコ・マルフォイでした。

 

 そればかりかクラッブとゴイル、パンジーとダフネにミリセント、ザビニとノット、さらにトレイシーとリリィにソフィ、アストリアさんとカロー姉妹まで引きつれ、私の進路を塞ぐように横一列に隊列を組んでいます。

 

「おや、全員で職務放棄ですか?」

「ピュシー先輩たちが残って見張ってくれている」

 

 ドラコは肩をすくめ、杖を取り出しました。

 

「ポッター達の所へ行くんだろう?」

「ええ、まぁ」

 

 するとダフネたちまで杖を抜き始め、なんだか剣呑な空気に。

 

「そんな怖い顔をしないでくださいよ。ちょっとアンブリッジ先生を助けに行くだけです。本人は自信満々でしたけど、ぶっちゃけ荷が重いかなーと」

 

 なんだかんだでハリー達の方が実践経験は豊富ですし、二人がかりで不意打ちすればマグル式肉体言語で杖をもぎ取れる可能性だって否定はできません。

 

「たしかに、君の言う通りかもしれない。でも、そんな事はどうでもいい」

 

 ドラコはそう言って、真っ直ぐに杖を私に付きつけます。

 

 

 

「僕たちは、君を止めに来たんだ」

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 「シリウス・ブラックが死喰い人に捕まった」という言葉をポッターから聞いた時、僕――ドラコ・マルフォイはその言葉が真実かもしれない、と内心思っていた。

 

 

 というのもクリスマスの少し前から、ブラックの情報はクリーチャーという屋敷しもべ妖精を通じて、僕たちマルフォイ家に筒抜けだったからだ。

 

 癇癪を起したブラックから『出ていけ』と命じられたクリーチャーはそれを「屋敷を出ていけ」という命令だと解釈した。

 そこでブラック家の血を継ぐナルシッサ・マルフォイ――僕の母上のもとへと向かい、スパイとして父上に『不死鳥の騎士団』側の情報を伝えていたのだ。

 

 

 とはいえ、ブラックだって間抜けじゃないから、重要な情報を信用できない屋敷しもべ妖精に漏らすようなヘマはしていない。

 クリーチャーから得られた情報も、せいぜい「時々、変装してどこかへ出かけるらしい」ぐらいのアバウトなもの。

 

 

 けれど、闇の帝王が本気でシリウス・ブラックを捕まえようとすれば、その程度でも十分だったのだろう。

 

 

 もちろん、ポッターが見たのは闇の帝王が見せた幻覚で、気の短いポッターと愉快な仲間たちが早とちりしてるだけという可能性もある。そのくせ無駄に行動力だけはあるから、イレイナの危惧通り今頃アンブリッジを返り討ちにしているのかもしれない。

 そして箒に乗るか、セストラルやヒッポグリフにでも乗って、無謀にも魔法省へ突入したと聞いても驚きはしない。

 

 

 問題は、そこにイレイナが関わる事だ。ポッターが毎年のように起こす事件に、彼女も何かと巻き込まれる。

 

 

(けれど、今回だけは一緒に行かせる訳にはいかない)

 

 

 ブラックが捕らわれたという話が本当でも嘘でも、ポッターたちと一緒に向かえば間違いなく父上たちと戦闘になる。下手をすれば、闇の帝王ご本人が出てくる可能性だって否定はできない。

 

 

 

「イレイナ、大人しくホグワーツに残るんだ。君まで危ない目に遭う必要はない」

「……その口ぶりからすると、ますますハリーの話が真実味を帯びてきますね」

 

 イレイナは苦笑し、少し真面目な顔になる。

 

「もし本当に捕まっているのだとしたら、このまま見殺しにはできません。パッドフッドさんだけでなく、助けにいったハリー達まで――」

「闇の帝王が待ち構えていたらどうするんだ!?」

 

 

 さすがのイレイナも、一瞬口をつぐむ。

 

 

「たしかに君は強いよ。でも、闇の帝王に勝てるほどじゃない」

「……必ず“例のあの人”がいるとは限りません」

「いいや、きっと闇の帝王も出てくる」

「言い切れるんですか?」

「あぁ。僕が何年ホグワーツにいたと思ってるんだ」

 

 

 瑠璃色の双眸が疑るようにひそめられる。頭の良い自分やグレンジャーですら本当か嘘か分からないのに、「お前どっから出てくるんだその自信」とでも言いたげな表情。

 

 

 けれど、僕には不思議と確信があった。

 

 

 なぜなら――。

 

 

 

「ホグワーツに入学してから毎年、ポッターは学年末になると闇の帝王に殺されかけてるからな」

 

 

 沈黙。

 

 

 イレイナの瞳が険しくなった。それからポッター達が連れて行かれた方を見て、もっかい僕を見た。

 

 

「はぁ゛ぁ゛ぁ゛~~~~~~~~~」

 

 

 自分で言っておきながらあれだが、『なぜか学期末にハリー・ポッターはヴォルデモートに殺されかけるの法則』に論理的なエビデンスは何もない。

 なのに「何も言えねぇ……」の声にならない感情の発露だった。

 

 

 

「やっぱりトレローニー先生の言う通り、ハリーって軽く呪われてる気がしてきました……」

「正直、良くないものを引き付ける体質ではあると思う」

 

 だんだんと不安になってきたらしい彼女に、ダフネも被せるように細い声をかける。 

 

「ねぇイレイナ、今からでも止めようよ……チョウ先輩も言ってたけど、こういうのは魔法警察に任せた方がいいって」

 

 ダフネの言葉に、パンジーやソフィまで不安そうな顔になる。どちらの家も死喰い人ではないけど、やっぱり情報は伝わっているんだ。

 

 

 ――今度こそ、本格的な殺し合いになるって。

 

 

 僕やダフネに諭され、さすがのイレイナも悩んでいるようだった。

 

「ですが、そうなるとパッドフットさんを見殺しに……」

「そもそも問題、パッドフット(ぱたぱた足)さんって誰やねん」

 

 ミリセントがもっともなツッコミを入れる。父上から話を聞いている僕を除いて、ここにいる大半はシリウス・ブラックの真相を知らない。

 

「てか、仮にそのパッドフッドさん?とかいうふざけた名前の人を見殺しにすることになっても、ここで止める気だから」

 

 パンジーが強気な表情で言う。

 

「アンタは友達だけど、その人は別に友達じゃないし。どっちを助けるかなんて、考えるまでもないでしょ」

 

 言い方は冷たいが、微かに言葉が震えている。

 イレイナもまた、そんなパンジーの裏を読めないはずもなく――。

 

 

 ただ、気まずい沈黙だけが落ちた。

 

 

「……そんな顔をするなよ」

 

 まるで自分から死に場所を探しているみたいな、聖母みたいに悟りきった顔をしないでくれ。頼むから、もっと情けなく「死にたくない」って顔をしてくれ。

 

 今の君は、まるで。

 

 

 死んだ聖人(ディゴリー)に魅入られているみたいだ――。

 

 

 

 

「………」

 

 無言で、しばらく睨み合う。

 

 もし僕ひとりだったら、とっくにイレイナは強行突破していただろう。でも、そうさせないために皆を呼んだ。いくら彼女が強くたって、たった1人で10人以上も相手できるわけがない。

 

 

 けれど、その油断………ではなく、慎重さこそが仇になった。

 

 

 

「―――ダンブルドア軍団!」

 

 

 雄たけびと共に大広間に飛び込んできたのは、捕まっていたはずのロングボトムたちだった。それだけではない。

 

「私たちも行くわよ!」

 

 双子のパチル姉妹やリー・ジョーダン、アンジェリーナ・ジョンソンからエステル・ロストルフまで大勢の生徒たちが現れる。

 

 数はざっと30人近く……こちらの倍以上だ。ロングボトムたちが解放されてることから考えて、ピュシー先輩たちは奇襲を受けて既に倒されていると見た方がいい。

 

 

 ―――それでも。

 

 

「ヴェンタス-吹き飛べ!」

 

 

 僕が動くより早く、アストリアが突風を発生させた。歩くのもままならないほどの強風に、広間にあったテーブルや椅子、シャンデリアや皿が吹き飛び、ダンブルドア軍団が思わず怯む。

 

「マルフォイ先輩!」

「分かってる――」

 

 こうなったら先手必勝――このまま押し切るしかない。押し切って、イレイナを止める。

 

 

「親衛隊に命じる―――総攻撃だ!」

 

 

 僕の声を合図に、尋問官親衛隊とダンブルドア軍団の戦いが始まった。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 見慣れた大広間は、今や戦場と化していた。

 

 

 

 リリィ・ムーンはマリエッタ・エッジコムと戦っていたが、背後からシェーマス・フィネガンの爆撃呪文をくらって気絶している。

 

 スーザン・ボーンズのインセンディオでスカートに火がついたソフィ・ローパーに至っては、火を消そうとパニックになって頭からシェリー酒を浴びてしまい、火だるまになってアンソニー・ゴールドスタインから消火&治療を受けていた。

 

 

 イレイナ達から直々に訓練を受けていただけあってDAは手強かったけど、僕たち親衛隊だって権威を笠に威張ってただけじゃない。

 

 

 

「アグアメンティ・マキシマ-放水せよ!」

 

 パンジーは対暴徒制圧用に訓練した放水呪文を使い、パチル姉妹とクリービー兄弟を足止めしていた。

 

 そして水浸しになった4人に、申し訳なさそうな顔をしたダフネが追加攻撃を加える。

 

「ごめんね――エレクトルム-電撃!」

 

 派手な閃光が不純物を含んだ水を通って感電し、4人まとめてぷるぷると震えながら地面にのびていた。

 

 ダフネの奴、口じゃ遠慮してた割に結構えげつない攻撃するな……。

 

 

 

「呪文なんか知るか! 当たんなきゃ関係ねぇッ!」

 

 ミリセントはクラッブとゴイルを引き連れ、ホグワーツの甲冑からパクったメイスやら盾を振り回して全力疾走している。

 

「せいやッ!」

「そいやッ!」

 

 体育会系特有のフィジカル機動力を活かし、テリー・ブートやリサ・ターピンら頭脳派の繰り出す複雑な高等呪文を軽々と躱して、そのまま豪快にタックルを決めた。

 

 

 

「リクタスセンプラ-笑い続けよ!」

 

 ブレーズ・ザビニの「笑い呪文」をくらったシャーリー・フォーセットは、まるで「クルーシオー苦しめ!」を受けたように全身をくねらせて苦しそうに喘いでいた。

 

「待って、ダメ……くっ、ははははは! む、無理っ……お願い許して! あはははっ!」

「なんで? 先輩、すげぇ楽しそうな顔してるけど?」

 

 涙目で懇願するフォーセットだったけど、ブレーズは嗜虐的な笑みを浮かべたまま責める手を緩めない。いかにも闇の魔法使いって感じだ。

 

 

 

「インカーセラス-縛れ!」 

 

 トレイシー・デイビスの杖先から噴き出した荒縄は、しゅるしゅるとアーニー・マクミランにまとわりついて後ろ手に拘束し、猿ぐつわのように口まで塞いでしまった。

 

「んんーッ、んーっ!?」

「聖28一族に生まれた純血の監督生が、こんな情けない声で鳴くんだ? 恥ずかしー♪」

 

 親衛隊の訓練にはあまり熱心に参加していなかった気がするけど、きっと彼女もどこかで呪文の練習をしていたんだろう。手慣れた杖捌きでマクミランを縛り上げ、けらけらと楽しそうに耳元で囁きながら、完全に心を折りにいっている。

 

 

 

 ノットはというと、淡々と親衛隊本部に応援要請をかけていた。

 

「HQ、HQ、こちら親衛隊アルファチーム、大広間で敵の攻撃を受けている。至急、増援を求む」

『――本部よりアルファチーム、敵の戦力はわかるか?』

「こちらアルファ、敵は少なくとも30人。よってノット、マルフォイ、パーキンソンの幹部3名の権限において、戒厳作戦『レコンキスタ』の発動を要請する」

『――こちら本部、戒厳作戦の発令を受諾した。これより総動員を開始、部隊を展開する』

 

 

 

 

 ――そんな感じで。

 

 

 

 

 右も左も戦いの真っ最中の状況で、イレイナの姿を追う。

 

(頭のいいイレイナのことだから、優先順位は間違えないはず……)

 

 僕たちを倒すことより、ポッター達に合流することを目指すはずだ。となれば、まずは校門を封鎖するに限る。

 

 

「アストリアとカロー姉妹は僕について来い! 残りの隊員はパンジーの指揮に従って時間稼ぎに徹しろ!」

 

 

 追いかけてくる僕たちを見て、イレイナが杖を向けた。

 

 

「コンフリンゴ-爆発せよ!」

 

 

 イレイナ得意の爆発呪文は大抵の相手なら一発でノックアウトできるぐらい強力だけど、あいにく今の僕には親衛隊でこっそり鍛えた切り札がある。

 

 

「プロテゴ・メルクリオ-水銀の護り!」

 

 

 詠唱と共に、杖先から鏡のような金属光沢を放つ液体がドロリと溢れ出た。続けざまに杖を振ると、魔力を充填された水銀が完璧な防護膜へと一瞬で変化する。

 

 爆発呪文は銀色のドームに阻まれ、僕とアストリア、カロー姉妹のうち1人にかすり傷を負わせることすらできず、虚しく轟音を響かせるだけの結果に終わった。

 

 

 だが、この呪文の真価は単なる物理防御に留まらない。水銀は常温で一番重い液体であり、しかし液体であるがゆえにどんな形にも変形できるため――。

 

 

「オパグノ-襲え!」

 

 

 僕の命令に従い、水銀の一部がくびれて鞭のようにしなり、ハンマー並みの威力でイレイナ達の横にあった長テーブルに叩きつけられた。長テーブルはあっさりと粉砕され、その破片から身を守るためにイレイナたちの動きが止まる。

 

「……変幻自在な水銀を攻防一体の呪文にするとは、考えましたね」

「ようやく尋常に立ち合う気になったかい?」

 

 挑発するも、イレイナは冷静に彼我の戦力差を比較して。

 

「こちらにはロンとネビルにサヤさん、ジニーさんにラブグッドさんがいます。数では私たちが上回っていますよ?」

「それはどうかな」

 

 

 大広間の方に顎をやると、ノットの命令を受けた尋問官親衛隊の援軍が続々と到着していた。

 

 

「灰シャツ隊、総勢17名――参陣!」

「闇祓い予備隊、総勢5名――参陣!

「オーグリー軍団、総勢13名――参陣!」

「ヘンデル・グループ、総勢62名――参陣!」

 

 

 まぁ、そうは言っても正規雇用の尋問官親衛隊はあんまりいなくて、主力は委託先の雑多な下請け組織の寄せ集めだから、ぶっちゃけ烏合の衆も同然なんだけど。

 

 学年も寮もバラバラ、おまけに下請けなら辛うじて隊長はスリザリン生で部下がハッフルパフ生とレイブンクロー生みたいな感じだけど、これが孫請けになると全員がグリフィンドール生みたいな部隊すらある。

 

 

 でも、そういう連中を効率よく動かすノウハウを僕たち純血はよく知っていた。

 

 

「金だ! 金ならあるぞ!」

「一人倒したらボーナスで5ガリオンよ!」

「レイヴン先輩との握手券もあるぞ!」

 

 

「「「うぉぉおおおおーーー!!」」」

 

 

 増援部隊を指揮するモンタギュー先輩たちが煽ると、物欲と煩悩に突き動かされた現代っ子のホグワーツ生は一瞬で目の色を変えた。

 

 これも純血主義みたいな主義主張より実利を重んじる風潮が広まり、寮の垣根を気にしない生徒が増えたからなのだろう。

 エロイーズ・ミジョンなんかは握手券目当てに、平気でハッフルパフ同期のザカリアス・スミスに「鼻くそ呪い」をかけている。

 

 

「戦いは数、数は金、金は純血名家……イレイナ、これが新しい純血の戦い方だ」

「うわぁ……」

 

 

 誉れをドーバー海峡の底に沈めた戦だけど、尋問官親衛隊は恐るべき物量でダンブルドア軍団を圧倒しはじめていた。時間さえ稼げば、増援はいくらでも沸いてくる。

 

「この辺で降参したらどうだい?」

「まさか」

 

 徐々に不利になりつつある戦場を見てなお、イレイナは首を横に振った。苦戦は認めるが、それでも最後には自分が勝つ――そう確信している顔だった。

 

 

 

「皆さん!」

 

 

 イレイナがウィーズリーたちに声をかけた。

 

「急いで私のそばに集まってください!」 

「ひゃいっ♡」

「サヤさんは少し離れてください……」

 

「逃がすか!」

 

 守りを固めるイレイナたちと、総攻撃の準備に入る僕たち。だが、続くイレイナの言葉は想定外なものだった。

 

 

 

「私に掴まってください! 校外まで『姿くらまし』します!」

 

 

 

「なっ――」

 

 まさかの発言に、頭が混乱する。ホグワーツでは「姿くらまし」が出来ないよう強力な結界が張られており、闇の帝王やダンブルドアにだって不可能なはず。

 

 そして虚を突かれて攻撃の手が緩んだ、次の瞬間―――。

 

 

 バシッ!という大きな音と共にイレイナたちの姿は消えてしまった。

 




 
 ちなみに初戦で数の割にダンブルドア軍団が苦戦していたのは、もともと「死喰い人の襲撃から1人でも身を護れるように」が訓練の目的なので、「逃げ」や「守り」には慣れていても「攻め」には不慣れだから、みたいな。

 マルフォイのオリジナル呪文、ほぼ某時計塔の魔術師の礼装のイメージですが、あそこまで高度なものじゃないです。防御は自動化されてないし、攻撃も質量を使った打撃のみ、索敵能力もありません。割と手動操作です。
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