ハリー・ポッターと灰の魔女   作:アストラマギカ

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第47章 ~二度目の戦いへ~

  

 ダンブルドアが本気で怒っているのを、このとき僕――ハリー・ポッターは初めて目の当たりにした。

 

 

 杖を高く掲げ、全身から放電しているような威圧感を放ち、明るいブルーの瞳は怒りに白熱している。それを見た死喰い人たちが恐怖の表情を浮かべ、警官たちは一斉に歓声をあげた。

 

「ダンブルドアが来たぞ!」

「助かったわ!もう安心よ!」

「校長!校長!校長!」 

 

 生ける伝説にして、平和の象徴、英国魔法界の誇り……その登場は一瞬で戦況を塗り替え、あちこちで校長コールが湧き起こる。

 

 ここにいる魔法省の役人や警官たち、そして死喰い人にとっても「校長」といえばダンブルドアのことで、生まれた時から当たり前のように英国魔法界に君臨する、絶対的な存在なのだ。

 

 

 

「今夜この場に現れたのは愚かじゃったな、リドル」

 

 

 ダンブルドアが静かに言った。

 

「吸魂鬼と脱獄犯の半数は無力化され、残りもブリテン島から逃げ出した。お前の企みもここまでじゃ」

 

 そしてヴォルデモートが何か言うより早く、ダンブルドアは素早く杖を動かした。杖先から噴出する炎が、巨大な投げ縄のように渦巻き、炎の嵐となって襲いかかる。ヴォルデモートでさえ、その呪文から身を守るためには「悪霊の炎」で相殺しないといけないほどだった。

 

「俺様を殺す気か? ダンブルドア?」

「知っての通り、人を滅亡させる方法は他にもある」

 

 ダンブルドアは落ち着き払って、まるで酒でも飲み交わすかのようにヴォルデモートへと近づいていく。

 それを見た魔法警察たちも互いに目配せし、いつでもダンブルドアを支援できるように後に続いた。

 

「相変わらず死よりも惨いことがあるというのを、理解できぬのが昔から最大の弱点よのう」

 

 ヴォルデモートは銀色の輝く盾を召喚し、その陰から緑色の閃光を放った。

 

「死より惨いことは無いぞ、ダンブルドア!」

 

 しかし、ダンブルドアが指揮棒のように杖を優雅にしならせると、静かに呪文を唱えた。するとケンタウロスの像が立ちはだかり、緑色の閃光を受けて粉々に砕ける。その欠片が地面に落ちないうちに、ダンブルドアが杖をグッと引くと細長い炎が杖先から飛び出し、ヴォルデモートを銀の盾ごと絡めとった。

 

 だが、今度は炎のロープが巨大な蛇に変身してヴォルデモートの縄目を解き、今度はダンブルドアに対して牙を剥く。

 

「援護しろ!」

「撃て!撃てぇッ!」

 

 魔法警察が応戦し、集中砲火を受けた大蛇が倒れた。

 その間にダンブルドアが流れるような動きで杖を一振りすると、突風が吹いて泉の水が立ち上がり、溶けたガラス繭のようにヴォルデモートを飲み込もうとする。

 

「っ――」

 

 ヴォルデモートは咄嗟に近くで気絶していたワームテールを引き寄せ、身代わりに水の繭に放り込んだ。生贄にされたワームテールは目を見開き、窒息しまいともがいている。

 

 ダンブルドアが「水牢の呪文」を解除すると、ヴォルデモートは既に黒い煙のような姿へと変身していた。

 

「ご主人さま!」

「我が君!?」

 

 絶叫するベラトリックスとルシウスを、そのままヴォルデモートが連れ去っていく。さすがにジリ貧だと感じたのか、ついに逃げを決めたらしい。

 

 

 こうして、神秘部の戦いは終わった。

 

 

 **

 

 

 アトリウムを見渡すと、大勢の死傷者で溢れていた。

 

 腕が吹き飛んだり、顔が焼けただれたり、全身から気味の悪いイボが噴き出る、歯が異様に伸びたり、嘔吐や鼻血が止まらなくなる者など、見ているだけでも清算な光景だ。

 

 

 それでも警察癒の治療や適切な魔法薬を投与すれば、ほとんど後遺症も残さず治ってしまう。それが魔法族という生き物だ。 

 

 例外は「闇の魔術」を受けた場合で、こちらはマグルと同様に深刻な後遺症が残る。マグル基準でいえば暴力に緩い魔法族でも、「闇の魔術」が忌避されるのは後遺症のためなのだろう。

 

 

 

 周囲を見渡すと、黒と青のオッドアイをした初老の闇祓いがファッジと会話しているのが見えた。すぐ横にはジョン・ドーリッシュもいて、なぜかオッドアイの闇祓いを胡散臭そうに見ている。

 

「大臣、“あの人”です。あれは紛れもなく、“例のあの人”でした」

「わかっておる、グレイヴス。私も見た。というか、ここにいる全員が殺されかけた」

 

 作業着姿のファッジはしどろもどろだったが、目の前に広がる光景を見て、どこか覚悟を決めたような表情だった。

 

「ハリー・ポッターの言葉は真実だった。それに――」

 

 ヴォルデモートから見捨てられ、魔法警察にしょっぴかれる死喰い人の中から、身を縮こませているピーター・ペティグリューに目を止める。

 

「どうして死んだはずの男(ペティグリュー)がここにいる? どうして、凶悪犯(ブラック)が我々を助けた?」

 

 シリウスは先ほどの戦闘で、何人かの警官の命を救っていた。警官たちは目の前にいるのが指名手配犯であるのに気づいて驚くも、逮捕すべきかどうか迷っているようだった。

 

 

 

「コーネリウス」

 

 ダンブルドアがファッジに近づいた。

 

「ヴォルデモート卿は戻ってきた。そして君はずっと見当違いの男を追っていたのじゃ」

「わかっている」

 

 魔法大臣は苦々しげに頷いた。

 

「すぐにウィゼンガモットの判事たちを集めて、非常事態委員会を招集しないと。全てを明らかにして、これからの準備をせねば」

「準備? いったい何の準備をするというのかね?」

 

 

 

 

「もちろん戦争だ!!!」

 

 

 

 ファッジが吠え、アトリウム全体に声が響いた。

 

 その場にいた全員が動きを止め、ファッジの方を向く。魔法大臣は最初こそ戸惑っていたけど、ここが勝負時だと長年の政治経験で悟ったのだろう。周囲の期待に応えて彼らの望む言葉を与えようと、「もうどうにでもなれ」とばかりに勢いよく腕を振り上げた。

 

 

「たしかに敵は強大だ。優れた魔法使いだっている。だが、我々だって負けてはいない! 我々は多くの被害を出したが、それでも“例のあの人”を撤退に追い込んだ! “あの人”と戦って生き延びたのは、もはやハリー・ポッターだけではない! ここにいる全員が“あの人”と戦い、生き延びたのだ!」

 

 

 ついに腹を決めたファッジの演説に、魔法警察たちも大きな歓声で応えた。

 

「敵はおぞましい闇の軍隊を集め、全員で苦労しながら築き上げた平和な魔法界を破壊しようとしている! だが、こちらにだって強力な軍隊がある! たとえアズカバンで吸魂鬼が反乱を起こそうと、魔法省を直接攻撃しようと――魔法族の自由と平和を守らんとする、我々の決意は微塵も揺るぎはしない!」

 

 

 警官たちは更に湧き立ち、魔法省は轟くような歓声に満ちた。

 

 

「今日の戦いで敵は逃げ、魔法省は持ちこたえた! 次の戦いでは、必ずや正義の裁きが下されるだろう! 我々の返事はこうだ――やれるものなら、かかってこい!」

 

 

 歓声が最高潮に達する中、ダンブルドアはそれを静かに見つめていた。けれど明るいブルーの瞳には、深い悲しみの色が浮かんでいた。

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 暖炉の火が、ぱちりと小さく爆ぜた。その横で儂――アルバス・ダンブルドアはダンブルドアは椅子に深く腰かけたまま、半月眼鏡の奥で静かに目を伏せていた。

 

 

 古びたラジオから、魔法大臣の声がわずかなノイズと共に流れている。

 

 

『――昨日、1996年6月18日、英国魔法省は自らを“なんとか卿”と称する者とその一味から、突然かつ用意周到な攻撃を受けました』

 

 

 ファッジの肉声で行われた緊急ラジオ放送は、英国魔法界全土で広く報じられ、海外でも驚きをもって受け止められた。

 

 

 「名前を呼んではいけないあの人」復活す――。

 

 

 ヴォルデモート復活を認めたファッジ大臣のコメントに続き、さらに魔法省はアズカバンの吸魂鬼が一斉蜂起して大規模な戦闘が発生したこと、それによって手薄になった魔法省に侵入したヴォルデモート配下の「死喰い人」と神秘部で戦闘があったこと……などが淡々と語られていく。

 

 

『残念ながら、市民の皆さんと我々が愛した自由と平和は、“例のあの人”の復活によって終わりを告げました。今や、我々一人一人に恐るべき脅威が迫っております。戦いは既に始まっているのです』

 

 

 驚き、怒り、悲しみ、恐怖、不安……多機能両面の「ショート魔法新聞」こと『スキータグラム』上では、ものすごい勢いでコメントが書き込まれているのが見えた。

 

 

『私は魔法大臣として、善良な市民の皆さんを守るために必要な、あらゆる措置を取るように命じることにしました。“例のあの人”の脅威に対抗するため、ウィゼンガモットおよび魔法省は非常事態宣言に基づき、『戦時魔法統制局』を設置します』

 

 

 窓辺には、ゲラート・グリンデルバルドが立っている。

 

 その顔に勝利の笑みはなかった。歓喜もない。ただ、長い年月の果てに自分の予見が現実と化すのを見た者だけが浮かべる、冷たい納得だけがあった。

 

 

 

『そして同局の指揮下には、より強力な治安維持活動を行うための法執行機関として、『魔法保安軍』を創設します。魔法省は全力を尽くして偉大なるイギリス魔法界を守り、必ずや勝利を掴み取るでしょう。この戦いに、正義と勝利があらんことを』

 

 

 言葉だけを並べれば、当然の帰結に聞こえることだろう。しかし、儂は言葉というものが時に、どれほど巧みに真実を覆い隠すかを知っている。

 

 

 やがてラジオの音が途切れた。

 

 

 

 

「……お主の望んだ通りになったな、ゲラート」

 

 ようやく絞り出した声は、自分で思っていたよりも低かった。

 

 

「私の望んだ通り?」

 

 グリンデルバルドはすぐには振り返らず、窓から校庭で遊ぶ生徒たちを興味深そうに眺めていた。

 

 

「違うな、アルバス。これはお前が望んだことだ」

 

 

 私は小さく息を吐いた。笑いにも、ため息にもならない息だった。

 

 たしかに、魔法省はヴォルデモートの復活を認めた。捕まえた死喰い人の中にピーター・ペティグリューがいたことで、シリウスの冤罪も認めた。そして今では、全面戦争の準備をしている。

 

 

「昨晩、魔法省は見た。ヴォルデモートが復活したことを。だが、彼らが本当に見たのはそれだけではない。自分たちの社会が、法律が、秩序が、何ひとつ彼を止められなかったという事実だ」

「だから、杖を揃えて軍服を着れば止められると?」

「怖気づき、泣き言を並べ、敗北主義に傾くよりは」

 

 まったく笑えない。だが、それもまた真実だった。

 

 

「お主は昔から、世界を盤面のように見る」

「お前は昔から、駒の痛みを聞こうとする」

「駒ではない。人じゃ」

 

 昨日、勇敢に戦った生徒たちのことを思う。ハリー、ロン、ハーマイオニー、イレイナ、ネビル、ジニー、ルーナ、サヤ……彼らは命を落としていてもおかしくなかった。

 

「彼らは軍人ではない。戦士でもない。ただ、友を守ろうとした子供たちじゃ」

「だからこそ、大人が軍隊を持つべきだ」

 

 グリンデルバルドの答えは早かった。

 

 

「子供に英雄の真似事をやらせる社会など、正気ではない。お前もそれは分かっているはずだ、アルバス」

 

 

 彼はいつも、儂の最も弱い場所を正確に見つける。そして厄介なことに、その指摘が常に間違っているとは限らない。

 

 

「……分かっておる」

「ならば認めろ。我々が昨日生み出したものは、断じて間違いではない」

 

 

 青と黒のオッドアイは、昔と同じ光を宿していた。若い頃、その光を美しいと思ったこともある。世界を変える炎の光だと思っていたからだ。

 

 だが、今なら分かる。炎は、眩く照らすものと燃やすものを選ばない。

 

 

 

「……殉職したアージュナ・バラジ巡査や、マーカス・フリントら数名の魔法警察に『服従の呪文』をかけたこともかね? 」

「もちろんだ。さもなくば、ハリー・ポッターは死んでいた。そっちの方がマシだったとは思えんが」

「今も昔も同じ言葉で、刃物を包む癖は変わらんようじゃな」

 

 グリンデルバルドは低く笑った。

 

「大いなる善のために、か……そうとも、私の好きな言葉だ」

 

 本気でそう言っているのか、あるいは笑えない冗談のつもりなのか。完全にはわからない。恐らく、その両方なのだろう。

 

 

 思えばゲラート・グリンデルバルドという男は、いつもそうだった。

 

 真実の中に嘘を混ぜ、平然と人を欺く。

 人を欺きながら、時に恐ろしく正直になる。

 

 

「ゲラート、お主はマグルを支配する夢を捨てたと言った」

「ああ」

「だが、マグルを恐れる幻想はまだ捨てていないようじゃな」

 

 踏み込んだ質問に、かつての革命家は物憂げに微笑みを浮かべる。

 

「幻想ではない。予測だ」

「どちらにせよ、杖を持った大軍が一つの号令で動く光景を望んでいる」

「それは否定しない」

 

 今度こそ、グリンデルバルドは笑わなかった。

 

 

「逆にお前こそ、どうして連中を信じられる? 都市を焼き尽くし、民族ごと浄化し、放射能で大地を汚染し、やがて魔法を暴くかもしれない彼らを」

 

 

 ゆっくりと首を横に振る。

 

 

「儂はマグルを信じているのではない」

 

 

 グリンデルバルドがわずかに眉を上げた。

 

 

「人間が、最悪の可能性だけで定義されるべきではないと信じている」

 

 

 

 再び、沈黙が落ちた。

 

 無言で儂を見つめる表情に、嘲りの色は浮かんでいない。反論を探しているわけでもない。ただ、慎重に推し量っている。

 

 

 長い沈黙の後、グリンデルバルドは穏やかに言った。

 

 

「ならば、我々が道を違える理由はあるまい」

 

 

 そしてテーブルの上に置かれた多機能両面鏡に目をやり、次々とコメントが次々と更新されていく様子を見つめた。

 

 ヴォルデモートを目撃した職員のインタビュー。コメンテーターの解説。新設された魔法保安軍への志願を呼びかけるプロパガンダ……長く停滞していた魔法界は、着実に変化している。

 

 

「人類の進歩に希望があるというのなら、それはマグルだけでなく、魔法族の変化もまた恐れるべきではない」

 

 

 たしかに、筋は通っている。かつてグリンデルバルドが危惧したマグルの進歩は、膨大な犠牲の果てに高度なテクノロジーと発展した社会を生み出した。ならば、魔法族がこの戦争で得られるものが、無駄な犠牲だけとも限らない。

 

 

「……だからこそ、儂は恐ろしいのじゃ。ヴォルデモートは止まらぬ。止めるには、勝つしかない。勝つためには、戦争を始めるしかない」

「それの何が不満だ?」

 

 不満――そう呼べるほど単純なものなら、どれほど良かっただろう。

 

「ゲラート、お主の話は正しい。だが正しさは、しばしば必要悪を正当化して推し進める。悪を倒すための必要悪が別の怪物となることを、儂は恐れているのじゃ」

 

 グリンデルバルドは淡々と答えた。

 

 

「なら、恐れればいい。恐れを知らぬ者に、軍を率いる資格はない」

 

 

 思わず彼を見た。

 

「……お主の口から、そんな言葉を聞くとはな」

「私も、お前と同じ部屋でラジオを聞く日が来るとは思わなかった」

 

 

 ほんの一瞬、彼の顔から年月が消え去ったように思えた。

 

 若さ。夏の日差し。過剰なほどの才気。才能ある者の義務。間違った世界を正す革命。世界など、二人であれば作り替えられると信じた愚かな日々。

 

 そして今は、理想の果てにどれだけの数の墓標があるか、儂は知っている。

 

 

 フォークスが止まり木の上で羽を震わせ、歌うように低く鳴いた。その声は、遠い過去とやがて訪れる未来の両方を悼んでいるように聞こえた。

 

 

 **

 

 

 儂は冷めかけた紅茶のカップを手に取り、別の手でティースタンドに手を伸ばす。

 

「ところで、レモンキャンディーは好きかね?」

 

 ゲラートは一瞬、顔をしかめた。

 

「この流れで菓子か」

「だからこそじゃよ。美味しいものを食べると、自分がまだ人であることを思い出せる」

 

 儂を見つめる視線の中には、呆れと苛立ち、そしてわずかな懐かしさがあった。気づかないフリをしていると、やがて根負けしたような表情を浮かべた。

 

「本当に、人を呆れされるのが上手い男だ」

「昔からそう言われておる」

「誰に?」

「主に、賢すぎる友人たちに」

 

 ゲラートは答えなかった。

 ただ、儂が差し出したキャンディを一つ受け取った。

   




 覚醒ファッジ、ヤケクソでヴォルデモートに宣戦布告。

 イレイナはもっと国民軍に近い魔法市民軍を作るつもりでしたが、あくまで内戦&体制側の軍隊なので魔法保安軍に。

ダンブルドア「ヴォルデモートを倒すために第2のヴォルデモートを産んではならん」
イレイナ「ですよね。だから皆で協力して倒しましょう」
グリンデルバルド「つまり全員でヴォルデモートになればいいんだな」


イレイナさん
・スリザリン生なだから独裁は懸念してるけど「力」でヴォルデモートを倒そうとしてる
グリンデルバルド
・マグルの愛国心や国民軍を勉強して「力こそ愛」に目覚める
魔法省
・もともとシンガポールみたいな権威主義的民主主義モデルなので、スムーズに戦時体制に移行

 ここのダンブルドアはめっちゃ頭抱えてます。
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