ハリー・ポッターと灰の魔女   作:アストラマギカ

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『謎のプリンス』編、開始です。


第6巻 謎のプリンス
第01章 ~向こうの大臣~


              

 まもなく深夜になろうかという頃、英国首相――アダム・サトラーは執務室にひとり座り、長ったらしい文書に目を通していたが、内容はさっぱり頭に入らないでいた。

 

 活字に注目しようとすればするほど、数々のスキャンダルに追われる政府を、ほくそ笑みながら追及する野党とマスコミの顔ばかり浮かんでくる。

 

 例えば今週だけでも――テムズ川に新しくできたばかりの橋が突如として崩壊し、残酷な殺人事件が2件あり、西部で発生したハリケーンは多大な人的・物的被害を与え、政府次官のハーバート・チョーリーは様子がおかしくなって辞職に追い込まれた。

 

 加えて、まだ7月半ばだというのに冷たい霧がロンドンを覆っている。どうもおかしい。

 

 

 

 憂鬱な気持ちで窓ガラスを覆うように垂れこめている薄い霧を眺めていると、背後で軽い咳払いが聞こえた。

 

 

(――あ、これ奴だ)

 

 

 この咳払いは以前にも聞いたことがある。ちょうど6年前に初めて英国で2番目に偉い存在(当然だが、1番は女王陛下だ)としてこの部屋にひとり佇んでいた時、今夜のように咳払いが聞こえたのだ。

 振り返ると長い銀のカツラを着けたカエル顔の醜い小男の肖像画が動いていて、魔法大臣がまもなく挨拶にやってくるという知らせだった。

 

 

「魔法大臣かね?」

 

 

 例の肖像画に向かって声をかけると、絵の主は即座に答えた。

 

「マグルの首相閣下、火急にお目にかかりたし。至急お返事のほどを」

「今は台湾の外務大臣と貿易協定について―――いや」

 

 カエル顔の肖像画が「はよ首を縦に振れ」に自分を見つめているのを見て、首相は力なく「わかった」と答えた。

 

 今までも何度か「向こうの大臣」とは会っているのだが、予定の変更ぐらいであれば魔法でどうにかやってしまう。最初こそ魔法の存在を否定しようとカウンセリングに通ったり、この忌々しい肖像画を撤去しようと手を尽くしたのだが、全て徒労に終わった。

 

 

「……大臣にお目にかかろう」

 

 ネクタイを直して机に戻ると、大理石のマントルピースの中で突然明るい緑色の炎が燃え上がり、ライムグリーンの山高帽を手にした小太りの男――コーネリウス・ファッジが現れた。

 

 

 だが、それだけではなかった。

 

 

 ファッジに続いて、次々とソフト帽子に厳ついスーツ姿の護衛たちが現れる。護衛たちの統率された動きには無駄がなく、視線は険しかった。

 

 

「おお、首相閣下。またお目に書かれて光栄です」

 

 

 ファッジの挨拶に同じ言葉を返す気持ちになれず、サトラー首相は無言で頷いた。これまでも何度かやってきたことはあったが、いつも悪い知らせばかり持ってくるからだ。

 

 3年前は脱獄した殺人鬼、2年前は魔法界のワールドカップにおける傷害事件とドラゴンとスフィンクス輸入の件、去年は殺人鬼の集団脱走といった具合に。

 

 

 もちろん、誰にも相談はしていない。

 

 したところで、正気を失ったと思われるのがオチだ。それに万が一にでもマスコミや野党の耳にでも入れば、格好のスキャンダルになってしまう。

 

 

 

「さて、今日は何の御用ですかな?」

 

 サトラー首相が語りかけると、ファッジは一歩後ろに引いて別の魔法使いが前に出た。

 

 

「ルーファス・スクリムジョールだ。先日、ファッジから魔法大臣の職務を引き継いだ。お見知りおきを」

 

 

 握手を求めたスクリムジョールは、年老いたライオンのような男だった。たてがみのような黄褐色の髪やふさふさした眉は白髪交じりで、細渕メガネの奥には黄色みがかった鋭い目があった。わずかに足を引きずって入るが、所作のひとつひとつに優雅さがあり、俊敏で強靭な印象を受ける。

 

 

「ささやかなものではあるが、友好の印に受け取ってくれ」

 

 握手の後、スクリムジョールはポケットから香水瓶のようなものを取り出した。見た目は無害そうだが、それでも油断は禁物だ。なにせ、相手は魔法使いなのだから。

 

「これは?」

「ハゲを直す魔法薬だ」

 

 

 魔法すごい。

 

 

「ありがたく頂きましょう」

 

 謎の敗北感が胸を満たすが、背に腹は代えられない。最近、巻き返しを図る野党は若いイケメンを党首に選び、ベテランの実務家で固めた我が与党を「老害おぢ内閣」と揶揄することで、盛んにネガティブキャンペーンを展開している。

 

 

 というわけで友好の印(断じて買収されたわけではない)に魔法薬を受け取ると、新首相が魔法界の近況について説明した。

 

 

「――我々は現在、内戦状態にある」

 

 

 聞けば16年前に消滅したはずの反政府武装勢力のトップが復活して、再び武力闘争を開始したという事だった。アイルランド共和軍みたいな連中が魔法界にもいるんだろうか。

 

 

「それで、こちらに用というのは?」

「貴方を狙ったテロが発生する可能性がある」

「……」

 

 はた迷惑すぎる。

 

 私がやったことと言えば、せいぜい――公務員の給料を削って、難民受け入れ数を削って、補助金を削って、生活保護を削って、規制を削って、浮いた予算で公平に減税した――だけだというのに。

 

 

「……私を殺して、何の得が?」

「殺すのではない。あなたに“服従の呪文”をかける可能性があるということだ」

 

 服従の呪文? と頭に浮かんだ疑問に答えるように、スクリムジョールが肩をすくめた。

 

 

「要するに、洗脳の魔法だ。そこから先の想像はお任せする」

 

 

 核兵器保有国の首相を洗脳したテロリストが何を考えるかなど、口に出すまでも無い。あるいは、ロシアか中国あたりの首脳と会談中に隠し持ったナイフで切りかかるだけでも、どれだけの惨劇がもたらされることか。他にも原子炉を暴走させるだとか、研究中の危険なウィルスをばら撒くだとか、悪用する方法ならいくらでも考えつく。

 

 

 

「……魔法とは、便利なものですな」

 

 今度は皮肉だった。テロリストにそんな芸当が出来るということは、目の前にいる彼らにもきっと出来るということだ。

 こちらの疑心暗鬼を察したのか、スクリムジョールは安心させるように手の平を見せるジェスチャーをする。

 

「そのつもりなら、わざわざ伝えたりしない。それに、こちらの世界でも“服従の呪文”は違法であり、国際的にも禁止されている」

「……失礼を承知で聞くが、その法とやらは魔法使い以外にも適用されるので?」

「もちろんだ」

 

 スクリムジョールは断言した。

 

「我々に、世界の陰の支配者を気取る気はない。陰鬱な魔女狩りの歴史は、魔法を持たない人間であっても数の暴力と残忍さで、魔法使いを滅ぼし得るのだと教えてくれた」

 

 皮肉で返される。本当に友好を結ぶ気があるのか疑問だが、魔法が使えるからといって我々を見くびっているわけではないらしい。

 

「だからこそ、我々はこれまで隠れ潜んで相互不干渉を貫いてきた。それを不満に思うテロリスト共が、今回の内戦の首謀者だ」

「重ねての失礼を承知で聞くが、あなた方がグルではないという証拠はあるのかね?」

「誠に遺憾ながら、魔法をもってしても『悪魔の証明』は無理難題としか」

 

 ライオンのような風貌の顔がこわばり、鋭い眼光がサトラー首相を射抜いた。

 

 

「強いて言えば、こちらが戦争を仕掛ける気なら、正体を明かさず奇襲攻撃をかける方が効果的だといえよう」

 

 

 まだ味方と信じるには早いが、それなりに話は通じるようだ。下手な独裁国家の狂信者や、会話の通じない市民団体、不満と不安しか口にしない有権者に比べれば、よっぽど知性を感じる。クイーンズ・イングリッシュを使いこなしている点も高評価だ。

 

 

 

「……やむを得まい。あなた方に勝ってもらった方がマシなようだ」

 

 それはそうと、MI5(英国軍情報部第5課)と国防情報参謀部に対して調査の指示を出しておこう、と決意する。なぜならば――。

 

「それでいい。元より、我々には“永遠の同盟も永遠の敵もない”のだから」

「……」

 

 

 とりあえず、目の前の連中も英国人であることは分かった。 

 

 

「既にキングズリー・シャックボルトが新しい秘書官という体で警護についているが、状況の悪化を受けて増員を決定した」

「……歓迎しましょう。ここ最近は忙しくて、すっかり人手不足なもので」

 

 本音半分、皮肉半分で答える。キングズリーは高度に訓練された魔法使いらしく、他の人間の2倍は仕事をこなす。

 

 スクリムジョールは小さく頷いてから、スーツ姿の護衛たちの中から3人を選んで手招きした。人懐っこい笑顔を浮かべた鼻の大きいアジア系の中年男性と、ピンクの派手髪ショートヘアの若い女性、そして金髪をポニーテールにまとめた元ヤンみたいな女性だ。

 

 

「ジャッキー・チャン警部は魔法省でも4本の指に入る実力者で、彼に指揮を執ってもらう。トンクスとシーラもまだ若いが、どちらも優秀な人材だ」

 

 

 しかし結局、サトラーが彼らと挨拶をすることは無かった。 

 

 

 チャン警部に握手しようと手を伸ばしたところで、廊下の方から銃声が聞こえてきたからだ。

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 最初の銃声が聞こえてから、すぐに私――ニンファドーラ・トンクスは同僚のシーラさんと一緒に階段を駆け下りた。

 

 マグルの首相の方はキングズリーとスクリムジョール大臣、そしてチャン警部が守っている。私たちの役目は敵――どう考えても死喰い人だろう――の戦力把握だ。

 

 

 

「こちらD班、至急応援求む!」

「くそっ、奴はどこにいる!?」

「急いで首相の安全確保に向かえ!」

 

 廊下に出ると、拳銃を構えたマグルのボディガードたちがインカムで慌ただしくやり取りをしていた。

 

 

「すみませーん!」

 

 偽造したマグルの警察手帳を掲げて、シーラさんがマグルたちに近づく。

 

「応援要請を受けて来たんですけど、今の状況は?」

 

 緊張と困惑を装ってシーラさんが声をかけると、マグルの一人がピリピリしながら答えた。

 

 

「俺にも分からないんだ! ただ、B班が()()()()()()()()と――うわぁあッ!?」

 

 

 最後まで言い終わらないうちに、そのマグルは見えない力で吊り上げられたかのように宙に浮いて天井に叩きつけられ、ふっと糸が切れたように落ちて重力に引かれて地面に激突して苦しそうに呻いた。

 

 

「ちくしょう!」

 

 

 正体不明の敵から身を隠そうと別のボディガードはソファの陰に隠れるも、敵はそれをあざ笑うかのようにソファごと爆発呪文で吹き飛ばした。

 

 

「あそこだ!」

 

 別のマグルが叫ぶ。振り返ると、胸元の空いたロングドレスにコルセットをまとった女―――ベラトリックス・レストレンジが苦しむマグルをいたぶりながら、狂ったような高笑いを浮かべていた。

 

 

「撃て!」

 

 

 数人のボディガードが銃をベラトリックスに向け、一斉に発砲する。しかし彼女が杖をひと振りしただけで、見えない壁に阻まれたように銃弾は彼女の手前であらぬ方向へと弾かれていく。

 

 『盾の呪文』は基礎的な防御呪文だけど、拳銃の銃弾ぐらいであれば充分に防げる。ベラトリックスぐらいの魔女になると、戦車の大砲ぐらい持ってこないと貫通させられないだろう。

 

「インセンディオ‐燃えよ!」

 

「やばっ――アクシオ‐来い!」

「プロテゴ‐守れ!」

 

 炎がマグルたちを焼き尽くす寸前、慌てて「呼び寄せ呪文」で彼らを引き寄せる。

 

「下がってて! あの人、めちゃくちゃ悪い魔女だから!」

「そういう君たちは何なんだ!?」

「通りすがりのスーパーヒーローです!」

 

 助けたマグルたちは面食らっていたが、とりあえず敵ではないと認識したっぽい。小さく頷いて拳銃を構え、全員で壁を背に四方を経過し、共闘の姿勢をとった。

 

 

「銃声が聞こえたぞ!」

「こっちか!?」

 

 さらに別の扉から二人組のボディガードたちが現れて、私たちを見るなり銃を突きつけた。

 

「動くな!」

「違う、不審者は私たちじゃないって!」

「じゃあ誰だっていうんだ!?」

「えーっと……あなた達の後ろにいる人?」

 

 二人組が振り返ると、ベラトリックスが歪んだ笑みを浮かべていた。面食らうマグルたちの目の前で、その姿が溶けるように消えていく。

 

「嘘だろ、消えたぞ!?」

「どこに―――かはっ……?」

 

 二人組の一人が「妨害呪文」を食らって吹き飛ばされた。

 

「なん―――」

 

 相方を失った方のマグルは警戒して拳銃を上下左右に向けるも、いきなり重力が逆転したかのように天井まで叩きつけられ、直後に重力に引きずられて地面に叩きつけられた。

 

 恐らく無言呪文で「レヴィオーソ-浮かべ!」を使ったのだろう。それも、「目くらまし術」で姿を背景と同化させたステルス状態のままで。

 

 

「しゃーない、こうなったら……」

 

 シーラさんと目が合う。いつの間にかタバコを咥えていて、本気モードになったのが分かった。

 

「トンクス、アレをやるぞ」

「え、アレやんの?」

 

「「「アレってなんだ!?」」」

 

 不安げなマグルたちを落ち着かせるよう、シーラさんが「市街戦のマニュアルを思い出せ」と声をかける。

 

「姿が見えない敵に遭遇したら?」

「あっ」

 

 マグルたちも察した。

 

 

「建物ごと、吹き飛ばす!!」

 

 

 そう、世の中にある問題の大半は爆発呪文を使えば解決するのだ。 

 

 

「みんな伏せろぉッ!」

 

 マグルたちが一斉に避難した直後、私とシーラさんは同時に大声で呪文を唱えた。

 

 

 

「「コンフリンゴ・マキシマ‐大爆発!」」

 

 

 

 轟音と共に部屋全体が衝撃波で揺れ、砕けた壁やら家具の破片やらが撒き散らされていく。

 

 もっとも、この程度でやられてくれる相手じゃない。あっさりと「盾の呪文」で弾いていることだろう。でも、こっちだってそのぐらいは想定内だ。

 

 

 けれど、無残に破壊された部屋で一か所だけ。きれいに無傷なまま残っている場所があって―――そこにベラトリックスがいる。

 

 

「見つけた!あそこ!」 

 

 

「でかした!」

「嬢ちゃん頭ええな!」

「手榴弾でもくらえ!」

 

 いつの間にやら順応して、割とナイスフォローを入れてくれるマグルたち。魔法使いと戦うのは初めてだろうに、さすがはプロだ。次々に手榴弾を放り投げて、ベラトリックスのいた場所が爆煙に包まれた。

 

 

「やったか?」

 

 

 返事の代わりに飛んできたのは、怒り狂ったベラトリックスの「磔の呪文」だった。

 

「ぎゃぁああああッ!?」

 

「ダメだ! やってない!」

「スタンだ!スタングレネードを持ってこい!」

「スモークグレネードも使え!」

 

 今度は大音量と眩い閃光、そして濃いめの煙が部屋を埋め尽くした。

 

 

「がぁッ!?―――目がッ!?」

 

 

 悲鳴を上げるベラトリックス。「盾の呪文」では物理的なダメージは防げるけど、光は普通に透過する(光まで防ぐと何も見えなくなるから)。

 

 シーラさんが感心したように「ヒューッ!」と口笛を吹いた。

 

「お前らすげぇな! いいぞ、もっと投げ込んでやれ!」

「さっきのが最後です!」

 

 たまらずシーラさんが「おいぃッ!?」とズッコケる。

 

「なんでそうなる!? 今いいとこだったのに!」

「首相が減税のために政府予算カットしたせいです!」

 

 上司の愚痴を言いながら、ヤケクソ気味に発砲するマグルたち。こういうところはマグルのお役所も一緒なんだな、となんだか妙なシンパシーを感じてしまう。

 

 ――でも。

 

 

「だからって負けてらんないし!」

 

 杖を喉に向けて叫ぶ。

 

「ソノ―ラス・バンシィ-バンシィの如く響け!」

 

 それから、杖をベラトリックスに向けた。

 

 

「ルーモス・ソレム・マキシマ-最大限の太陽光よ!」

 

 

 今まで聞いた中で一番うるさいルーモスの呪文が唱えられた次の瞬間、大音量と閃光が再び炸裂した。

 

 

 

「おのれ――!」

 

 

 ベラトリックスは悔しそうに四方八方を攻撃するも、視界と方向感覚を奪われては狙いも満足に定められない。まだ「盾の呪文」は使えるだろうけど、反撃できなければジリ貧だ。

 

「ロコモーター・モルティス-足縛り!」

 

 追い打ちでシーラさんの杖から「足縛りの呪文」が飛び、転倒して瓦礫に頭から突っ込むベラトリックス。痛そう。

 

「お前の負けだ、ベラトリックス!」

「私の力を見くびるな!」

 

 目と足を封じられながらも、黒髪の魔女は殺意をこめて叫んだ。

 

 

 

「ペスティス・インセンディウム‐悪霊の火よ!」

 

 

 

 マジか。

 

 

 

 杖先から放たれた炎が凄まじい火力となって広がり、大蛇の姿になって襲いかかってきた。

 

 

「みんな逃げてッ!!」

 

 厄介なことに「悪霊の火」は術者の指示が無くても、ある程度は自立して動きながら敵を焼き尽くすように出来ている。反面、高度なオート機能が邪魔をして制御は難しいのだが、ただ破壊をまき散らすだけであればその必要もない。

 

「仲良く焚火でもしてな!」

 

 狂ったように高笑いしながら、「姿くらまし」で逃げ出すベラトリックス。

 

 

「てめぇ逃げんのか!? この腰抜け―――」

「ちょ、シーラさんってば! その前に消火しないと!」

 

 

 あと一歩のところで逃げられたシーラさんはカンカンになって追跡しようとしてたけど、ぱたぱたと腕を振って制止させる。「悪霊の火」が巨大化したら、さすがに手に負えない。

 

「はいはい、しゃーねぇな……――フィニート‐終われ!」

 

 二人で消失呪文を唱え、杖を地面に突き立てる。

 

 幸い、ベラトリックスの唱えた「悪霊の火」は時間稼ぎが狙いだったのか、威力はそれほどでもなかった。2人で燃え盛る蛇を逃さないように終了呪文を操作し、燃え広がるのを防ぐ。

 

 やがて行き場を失った「悪霊の火」はその場でぐるぐると回転をはじめ、消失呪文に巻き込まれるように渦を描いて消えていった。

 

 

 

 ***

 

 

 

「……終わった」

 

 へなへなと地面に崩れ落ちる。

 

 シーラさんも疲れたように瓦礫の上に腰かけ、「やってらんねー」と追加のタバコに火をつける。さっきバーベキューにされかけたばかりなのに、よくタバコ吸えるなこの人。

 

「トンクス」

「はい?」

「あたしら、先週もこんなんじゃなかったっけ?」

 

 思い出したくない事実を突きつけられる。そう、シーラさんの言う通り先週は原子力発電所でドンパチやって、先々週はダイアゴン横丁、その前の週はパキスタン大使館でドンパチやってた。

 

「この調子だと来週もこんなんなのかな」

「さすがに慣れてきたけどな」

「慣れたくなかったなぁ……」

 

 

 今のところ死喰い人の襲撃は、ギリギリで対応できている。

 

 

 去年にファッジが()()()()()()()()()()()のために魔法警察で採用人数を増やしていたこと、ダンブルドアを失脚させるために魔法省の力を強めてたことで、思ったより戦争の準備は整っていた。

 

(死喰い人がなりふり構わずテロ攻撃を仕掛けているのも、むしろ余裕の無さの表れだってマッドアイも言ってたし……)

 

 ボロボロになった首相官邸に、消防隊員に変装した忘却術士チームが到着する。きっと明日にはガス爆発か何かのせいにされて、魔法の存在は隠蔽されるだろう。

 

 そして来週には、きっとまたどこかで死喰い人がテロを起こして、同じことが繰り返される。嫌な時代になったもんだ。

 

 

 ブルーな気持ちのままシーラさんに視線を戻すと、ふと目が合う。疲れた私の顔を見たシーラさんは「やれやれ」と首を横に振ってから、少し優しい表情になって。

 

「……一本どうだ?」

「いらないです」

 




 「盾の呪文」で銃(物理攻撃)をどのぐらい防げるかについて、ファンタビ2でグリムソンという賞金稼ぎがオブスキュラス化したクリーデンスの物理攻撃を難なく防いでいるので、ちゃんと訓練すれば現代戦車ぐらいの防御力はあるのかなと思いました。

 ちなみに気づいた方もおられるかもですが、ベラトリックスと英国首相ボディガードの戦闘シーンは、「X-M〇N2」冒頭でナイトクローラーがホワイトハウスで大統領を襲撃したシーンのオマージュ。

 本作だとイレイナさんたちの機転で魔法省がそこそこ強化されてるので、ヴォルデモート側は「魔法省を直接叩くより、マグルの重要拠点にテロ攻撃してキャパオーバーさせる(機密保持法の関係で魔法省は無視できない)」に力を入れるように。
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