ハリー・ポッターと灰の魔女 作:アストラマギカ
グリモールド・プレイス12番地の朝食は、人数が増えるほど騒がしくなります。食卓が狭くなるからではありません。誰かが何かを言うたび、十人十色の意見が出るからです。
その日の話題のきっかけは、フラー・デラクールさんでした。
「ビルは、いつ海外出張から帰ってきまーすか?」
「今夜よ。香港での会議が長引かなければね」
ウィーズリー夫人は答えましたが、フラーさんが「隠れ穴」にいること自体に何か言いたげです。ビルの婚約者なので騎士団関係者ではあるものの、ウィーズリー家らしからぬ雰囲気の彼女を煙たがっているようでした。
明るいブルーの瞳に、シルバーブロンドのロングヘア、背の高いすらりとした体型。白い薄手のブラウスと淡い青色のスカートという控えめな服装なのに、ヴィーラの血が混じった彼女が座るだけで、台所の一角が舞踏会場のように見えます。
左隣のロンは、先ほどから同じトーストに延々とバターを塗っていました。
「ロン」
「何だい?」
「それ、もうバタートーストを通り越してトースト入りバターになってるわよ」
「別にいいだろ。お腹ペコペコなんだ」
「そんなにバターが食べたいなら、塊で食べれば?」
ハーマイオニーに指摘され、ロンがようやく手元を見た、その時です。
「おはよー。なんか果物とかある?」
裏口から、元スリザリン監督生のジェマ・ファーレイ先輩が入ってきました。
彼女も正式な騎士団員ではありませんが、私が名誉会長を務めるハイテク魔法道具企業「ゼネラル・マギティクス社」(通称GM社)の実質的な経営者として、ビジネス界との仲介役を務めています。
「ジェマ! 何か上に着なさい! ここは海水浴場じゃないのよ!?」
「えー、だって暑いじゃないですか~」
朝のジョギング帰りらしく、艶やかなロングウルフの黒髪を高い位置でポニーテールに束ね、ランニング用の白いパーカーと黒のショーパン。しかもパーカーを肩から落として前を開けているため、ルター・クライン(魔法界の有名な下着ブランド)の黒いスポブラ、鍛えた腹筋、へそピアス、腰のタトゥーまで惜しげなく晒され、実に不健全な恰好です。
「ここには男の子もいるのよ!?」
「見られた方が運動するモチベになるから大歓迎♪」
脚線美に見惚れていたロンと目が合うと、先輩は悪戯っぽくウィンク。ロンは真っ赤になってフラーへ視線を逃がしました。
「あなたの体型はどうでもいいの! まったく、これだから最近の若い魔女は……」
ウィーズリー夫人は溜息をつきながら、先輩へタオルを押しつけました。
「とにかく! 油断するとすぐ冷えるから何か巻きなさい」
「はぁい」
そして今度はフラーさんへ。
「貴女も、そんな薄い服で寒くないの?」
「問題ありませーん」
「イギリスの冬は冷えるのよ」
「今は夏でーす」
「夏でも朝晩に冷えるときは冷えるの!」
どうやら服装だけが不満では無いようです。
フラーさんも察し、カップを置きました。
「何か言いたいことがあるなら、はっきり言ってくださーい」
「別に何も言っていないわ」
「ずっと言っていまーす。言葉にしていないだけでーす」
台所が静かになりました。
ハリーはハーマイオニーに「あの二人、仲悪いの?」と小声で聞き、ロンは無関係を装ってトーストに噛りつき、ジニーは「よくぞ言った」とばかりに笑顔。ファーレイ先輩は面白そうに唇をすぼめ、端で新聞を読んでいたペネロピー・クリアウォーター先輩も顔を上げました。
「だったら言いますけどね」
ウィーズリー夫人は腰に手を当てます。
「あなたとビルは、結婚を決めるのが早すぎると思います」
「一年も経ってまーす」
「一年しか経ってない、の間違いじゃなくて?」
「時間が長ければ、相手のことをよく分かるとは限りませーん」
「でも結婚は一生のことなのよ!?」
「だから手遅れにならないよう、早く決めまーした」
フラーさんも一歩も退きません。
「ビルは勇敢で、親切で、私にヴィーラの血が入っていることも、外国人であることも、変に気を遣わず接してくれまーす。私の家族も、ビルのことが好きでーす」
「あなたのご家族が賛成していても――」
「ママ」
ジニーが割って入りました。
「ビルもフラーも、もう子どもじゃないよ」
「分かっています!」
「つまり大人ってこと」
「ジニー!」
「そんな顔しないでよ。私はどっちの気持ちも分かるってだけ」
ウィーズリー夫人は深呼吸して、フラーさんへ向き直ります。
「こんな時代だから、あなたもビルも焦り過ぎているんじゃないかと思っているの。明日どうなるか分からないからって、人生を決めるのは危険よ」
「明日どうなるか分からないからこそ、今日決めることもありまーす」
フラーさんも正面から見返しました。
「戦争だからといって、慌てて結婚するのは良くないことでーす。でも、戦争だから結婚を先送りにするのも、同じぐらい良くないことでーす」
新聞を読んでいたペネロピー先輩が、わずかに瞳を伏せます。それを見たウィーズリー夫人は、彼女に助けを求めるように話を振りました。
「ペニーちゃんも、そう思うでしょう? フラーとビルは、もう少し慎重に考えるべきよね?」
ゆるく巻いた金髪に、ウェリントンの黒縁メガネをかけ、クリーム色のブラウスと黒のタイトスカートも優等生然として乱れがありません。
落ち着いた雰囲気の彼女はウィーズリー夫人に気に入られているようでしたが、当の本人は困ったように一呼吸置きました。
「……私も、慎重に考えるべきだとは思います」
「ほら!」
「ただ、慎重に考えることと時間をかけることが同じとは限りません」
ウィーズリー夫人の顔から、期待した表情が消えました。
「でも、あなたはパーシーと長いでしょう?」
「五年目ですけど、今のところ私もパースもキャリア優先ですし」
「まだ結婚したくはならないの?」
「今は結婚より仕事かなぁと」
柔らかく微笑む表情には、それ以上踏み込まないでほしいという色がありました。ウィーズリー夫人も察し、やれやれと首を振って部屋を出ていきます。
扉が閉まると、フラーさんは安堵と疲れの混じった顔でソファにもたれました。
「……本当は、モリーの言うとおり焦る気持ちもありまーす」
輝くばかりの美しさに、少しだけ陰が差して。
「ビルは、とーっても魅力的なフィアンセでーす。職場でも慕われていて、友達もたくさーん。ヴィーラの血が混ざってない、イギリス人の魅力的な女の子も、ビルの周りには何人もいまーす」
視線が私、ハーマイオニー、ファーレイ先輩、ペネロピー先輩、壁の集合写真にいるトンクスさんへ移りました。
「うそ、フラーの顔面レベルでも不安になることとかあるんだ?」
驚いたようにジニーが目を丸くすると、フラーさんは肩をすくめます。
「正直、顔だけなら誰にも負ける気はしませーん」
「は?」
「イレイナちゃんは少し黙ってようか」
なぜかペネロピー先輩に笑顔で圧をかけられました。
「でも、ビルは顔だけで結婚相手を決める人ではありませーん。それでも、わたーしを選んでくれました。とーっても嬉しかったでーす。だから、結婚したいと思っていまーす。貴重な時間を無駄にして、後悔したくありませーん」
とてもシンプルな理屈……というより、そんなものなど必要ないほど強い気持ち。それだけで、フラーさんには十分なのでしょう。
やがて、ファーレイ先輩がぽつりと言いました。
「これは……愛だな」
「愛ですね」
「うん、愛だ」
私とジニーも頷き、ハリーも納得したように言いました。
「ダンブルドアが聞いたら、きっと喜ぶと思うな」
そんな感じで――。
騒ぎが収まりかけた頃、玄関の方から何かが二度、派手に倒れる音がしました。
「あ、トンクスだ」
ジニーが言いました。
「ごめん! 傘立てが勝手に――」
「傘立ては勝手に動かないでしょ」
「じゃあ、床が傾いてたんだ」
バタバタと大きな音を鳴らしながら、ニンファドーラ・トンクスさんが台所へ入ってきました。
「はよー」
以前なら髪を桃色や紫色に変え、眠そうな人間を叩き起こすほど明るく挨拶したでしょう。しかし今日は髪がくすんだ茶色で、顔色も良くありません。
「痛っ」
座ろうとして椅子の端に腰をぶつけます。
「最近、いつも以上に転んでない?」
「気のせいだって」
「昨日は暖炉に肘をぶつけてたわ」
「ちょっと眠くて」
ペネロピー先輩も首をかしげました。
「たしか、一昨日は魔法省で書類棚を倒して、下敷きになってませんでしたっけ」
「なんで知ってるの!? てか、見てたなら助けてよ!」
「すみません、ちょっと関係者だと思われたくなくて……」
「薄情か!?」
相変わらず騒がしいノリですが、その表情には少し疲れが見えました。大きな声も、どこか空元気のように聞こえます。
「ちゃんと寝てます? 食事も抜いたりしてません?」
「うわぁ、イレイナが実家のお祖母ちゃんと同じこと言ってる……」
「髪も最近、ずっと暗い色ですし」
「気分転換だって」
「気分転換なら、普通はもっと明るい色にするものでは?」
「地味な色が好きになったの!」
トンクスさんが話を終わらせるように紅茶をがぶ飲みすると、ファーレイ先輩の眉がわずかに上がりました。
そして何か気づいたことでもあるのか、エメラルド色の瞳をにまーっと細めて。
「――そういえば、リーマスさんって今日こっち来るんだっけ?」
次の瞬間、トンクスさんの髪が一瞬だけ桃色になり、すぐ茶色へ戻りました。
「今、色変わったよね?」
「変わってない」
「変わったわ。桃色だった」
「光の加減だよ」
「名前を聞いた瞬間だけ桃色になるの?」
ハーマイオニーまで微笑み、言葉に詰まるトンクスさん。すかさずファーレイ先輩が追い打ちをかけます。
「ね、トンクス先輩ってさ。リーマスさんと何かあった?」
「ない! 何もないっ!」
「完全に意識してる人の反応じゃん」
「何の意識だよ!?」
「男」
「違うから!」
「別に否定することないでしょ。好きなんじゃないの?」
直球の質問を受け、トンクスさんは口をぱくぱくさせました。
「ファーレイ先輩、さすがにもう少し手心を……」
「だって分かりやす過ぎない? リーマスさんの名前が出たら髪がピンク。いないって分かったら茶色。魔法生物の求愛行動みたいじゃん」
「人を珍獣みたいに言うなし」
「まぁ、人もしょせん動物ではありますが」
「イレイナまで!?」
わーわー騒ぐトンクスさんを見て、ハリーとロンは目を丸くしました。
「えっ、ルーピン先生なの!?」
「ビルかシリウスじゃないの!?」
今度はトンクスさんの髪がライムグリーンになりました。
「待って、ビルとシリウスって何!? 私も初耳なんだけど!?」
視線がフラーへ移ります。
「てか、ビルってフラーと婚約してるんでしょ!?」
「はい」
フラーさんが頷き、ゆっくり杖を抜きました。
「もし横から寝取ろうと思っているのなら、今ここで受けて立ちまーす」
「受けて立たんでいい! 大人しく二人でお幸せになって!?」
フラーさんは杖を収めました。
「で、シリウスとの噂ってどこから!? 言っとくけど、親戚だよ!? そもそも親子ぐらい歳離れてるし!?」
「いや、それならルーピン先生も親子ぐらい歳離れてると思うんですが」
「そうだった……」
トンクスさんが「あ」と口を開け、私たちは顔を見合わせました。
「今、認めましたよね?」
「認めたわね」
「認めたな」
「認めた」
「……ひーん」
爆速で墓穴を掘り、両手で顔を覆うトンクスさん。一番年上のはずなのに、最早すっかり弄られキャラです。
「みんな、あんまり年上をからかわないの」
ペネロピー先輩がたしなめますが、かなり興味はある顔でした。
「で、トンクス先輩はリーマスさんのどこが好きなんですか?」
「……前から思ってたんだけど、実はペニーが一番容赦ないよね」
ついにトンクスさんは降参し、腹をくくるように一呼吸し、そして。
「……オムレツ」
「え?」
「リーマスの作ってくれたオムレツが、すごく美味しくて……」
なんか急にかわいいこと言い出しました。
「それで好きになったんですか?」
「子供か」
「違うの! いや、違わないけど!」
ぶんぶん首を振ってから、トンクスさんは話し始めました。
「ちょっと前にさ、仕事で超疲れてて、ご飯も抜いてて……どうにか屋敷までたどり着いたんだけど、ソファに倒れたら“ぐぅ~”ってお腹鳴っちゃって」
ヴォルデモート卿の復活後、闇祓いは残業続き。そこに騎士団の任務まで重なっています。疲れないはずがありません。
「そしたらリーマスに見られて、すっごく恥ずかしくなって……でも笑わないで真面目な顔で心配して、キッチンでオムレツ作ってくれたの。その動きが慣れてるっていうか、すごいテキパキ料理してる姿がカッコよくて……気づいたら見惚れてたんだ」
きっと、高価な食材や特別なテクニックを使ったわけではないのでしょう。
――それでも。
「忙し過ぎてずっと簡単なものしか食べてなかったし、誰かの手料理なんて久しぶりでさ。この人、私のために作ってくれてるんだ。私のことを心配して料理を作ってくれる人が、まだこの世にいたんだ……みたいに思ったら、なんか泣けてきちゃって」
それだけで恋に落ちたのではないのでしょう。最初は、子供が大人に甘えるような可愛らしい好意。それでも、芽生えた恋の種は少しずつ育っていき。
「あの時リーマス、優しいっていうか真面目な顔で心配してたんだ。ちょっと怖いぐらいに」
「それって……」
「うん。たぶんリーマスは過労で壊れた人を見たことがあるか、自分も壊れかけたことがあったんだと思う」
人狼が多い職場は、魔法族がやりたがらない、人手不足でハードな仕事が多いと言われます。となれば、あとはお察しの通りでして。
「リーマスは優しいし、頭いいし、誰にでも親切だけど押しつけがましくなくて……きっと今も昔もずっと大変な目に遭ってたのに、滅多に弱音なんて吐かなくて……せめて私ぐらいは、何かしてあげたいと思ったんだ」
トンクスさんは優しく言いました。
「ほら、リーマスって他人との間に壁を作りがちっていうか、あんまり頼ってくれないじゃん? でも、それって不公平っていうか……もっとこう、周りの人を甘やかすだけじゃなくて……」
「甘えてほしい?」
「……うん」
俯いた顔は見えませんが、髪は淡いピンクに染まっていました。
なんというか、ちょっと応援したくなるような初々しい馴れ初めです。私たちはもちろん、恋愛慣れしてるファーレイ先輩までしみじみとした顔になり。
「あれだけ否定しといて、めっちゃ語るなこの人」
「ジェマが語れって言ったんじゃん!?」
――その時、台所の扉が開きました。
「何の話だい?」
振り返るとルーピン先生が立っていました。古びた鞄を持ち、旅の埃がついた外套姿。いつからいたのかは分かりません。
トンクスさんの髪が鮮やかな橙、白、真っ赤と立て続けに変わります。
「わ、信号機みたい」
ジニーが感心しました。
「リーマス!? いつからいたの!?」
真っ赤な顔で立ち上がったトンクスさんは膝を食卓にぶつけ、カップを跳ねさせ、水差しを倒し、椅子に足を引っかけ――。
「危ない!」
ルーピン先生が腕を掴みました。
二人は一瞬、近い距離で見つめ合います。
「大丈夫かい?」
「う、うん。きっと床が傾いてたんだ」
「なんでもかんでも床のせいにするなし」
「今日だけ傾いてるの!」
茶々を入れるジニーにそう言って、腕から離れるトンクスさん。直後、今度は後ろの棚に背中をぶつけました。
「痛っ!」
「やはり、どこか具合が悪いんじゃないか?」
「悪くないって」
「でも、最近ずっと元気がないと聞いたよ」
「大丈夫」
「無理はしない方がいい。任務も減らせるよう、ダンブルドアに――」
「……そうやって、すぐ仕事の話にするんだから」
「何か言ったかい?」
「なーんも」
ルーピン先生は困ったように笑い、追及しませんでした。
追及しない優しさは、時に非常に厄介です。
「そうそう、アーサーに渡す物があるんだ。どこにいるかな?」
「パパなら物置の方にいるよ」
「ありがとう」
それから、もう一度トンクスさんへ。
「本当に大丈夫かい?」
「だから大丈夫だって」
「何かあれば、いつでも相談してくれ」
「……相談してもすぐ話題逸らすじゃん」
「え?」
「何でもない!」
最後まで困った表情のまま、ルーピン先生は出ていきました。
**
足音が遠ざかるのを待ってから、ファーレイ先輩が珍しく神妙な顔で口を開きました。
「マジか。あれ絶対に気づいてるやつじゃん」
「知ってるよ!」
トンクスさんはまた顔を覆いました。
「私、こんなだから嘘つけないし……守護霊まで狼に変わっちゃうし、それも見られたし」
「むしろ好意はありそうでしたね。すごい気を遣ってましたし」
私が言うとジニーも頷きます。
「それ。完全に脈なしだったら、もっと扱い雑になるからね。悪気はないけど眼中にも無いっていうか……」
「ハリー、言われてるぞ」
ロンに小突かれ、ハリーが気まずそうな顔になりました。
「なんかその、色々ごめん」
「気にしないで。私も吹っ切れてからは、たぶん適当にハリーの相手すること増えたと思うし」
良くも悪くも、脈なしだと自然体になるのでしょう。
「でも、だとしたらコンプライアンスとか立場的なことを気にしているのかしら?」
ハーマイオニーの言葉に、トンクスさんは頷きました。
「そうだと思う」
親子ほどの年齢差に加え、結婚まで考えれば「人狼」という属性は大きなハンデです。家族や親戚の理解も必要になります。さらに二人とも騎士団員なので真剣交際となれば、危険な任務で恋愛感情が判断を狂わせる可能性もあります。
「そう考えると、単なる気持ちの問題とも言えませんね……」
「そうなんだよぉ」
トンクスさんが呻き声をあげました。
「私は正直に伝えた方がいいと思いまーす」
フラーさんは結論を変えませんでした。
「後で後悔しても遅いでーす」
「わかる。めっちゃ分かるんだけど!」
それからトンクスさんは、私とファーレイ先輩、ペネロピー先輩を見ました。
「GM社のコンプラ的にはどうなの? 一応、リーマスも表向きはそっちの社員でしょ?」
私たちは顔を見合わせました。
「それは……まぁ、普通に非推奨ですけど」
「油断するとすぐハラスメント案件になって、一瞬で拡散&炎上しちゃうし」
「一割の脈ありを後押しするより、九割の勘違いトラブルを防ぐ方が経営的には大事っていうか」
「この流れで後押ししてくれないんかい」
模範解答なんだろうけど、とツッコむトンクスさんの髪には、まだ薄い桃色が残っていました。
「決めた! もう少しだけ様子見る」
「あ、逃げた」
ジニーが言いました。
「準備期間だよ!」
「期限は?」
「決めなきゃ駄目?」
「じゃないと永遠に様子見てそう」
「なら……クリスマスまでに決着つける」
「四年ぐらい長期戦が続きそうですね」
私が言うとハーマイオニーがくすりと笑い、残りの四人はいつの間にか飽きてトランプに興じていました。
けれど、トンクスさんの髪色は先ほどより少しだけ明るい色になっていて。
結局、堂々巡りで何か進展したわけではありません。
恋していることが周囲にバレて、色んな人の意見を聞き、なのに本人を前にすると言いたいことの半分も言えない。
ただ、今のトンクスさんの周りには、彼女の悩みを知り、気にかけ、いざという時に相談に乗ってくれそうな人が、少なくとも七人はいます。一人ではありません。
そして私は、ふと別の友人を思い出しました。
(せめて、ドラコもこのぐらい素直になってくれたら……)
助け合うのは美徳ですが、他人に迷惑をかけないよう一人で解決したいというのもまた別の美徳です。相談するにも、タイミングはあります。
だから、無理強いはできません。善意であっても、押し付けられれば迷惑というもの。
けれど――その時の私は、まだ知りませんでした。
本当に追い詰められた時、人は助けを求めることすら難しくなってしまうのだということを。
タイトルのわりに半分ぐらいはトンクスの話になってしまった・・・。
ルター・クライン
ドイツ魔法界のブランド下着メーカー。シンプルで健康的なデザインと快適な着心地が若い魔女に人気。
本作だとハリーたちの周辺にも派手めな女性陣が多いこともあってか、慣れでフラーとも打ち解けている感じです。まぁ美人がストレートに好意伝えてきて肝も据わってるときたら、そりゃ好きになるよね的な。
ルーピン先生は鈍感キャラじゃないから好意には気づいてるけど、苦労人だからこそ愛があっても現実は色々厳しいから慎重、というスタンスです。
悩みとか愚痴とかって相談しても大抵は何も解決しないけど、かといって一人で抱え込むと後々からメンタルに響いてロクなことにならないような気がしたり。