ハリー・ポッターと灰の魔女 作:アストラマギカ
禁じられた森の一件から約1週間後。私たちはようやく、魔法史のテストを最後に全ての学年末試験を終えたのでした。
「やったーっ! 終わったー!」
幽霊のビンス先生の「羽ペンを置いて答案羊皮紙を巻きなさい」という試験終了の言葉と共に、ダフネ・グリーングラスが歓喜の叫びをあげます。
「思ったより簡単だったね!」
「ええ。1637年の人狼行動綱領とか、熱血漢エルフリックの反乱とかも出てきませんでしたし!」
和気あいあいとダフネとはしゃいでいると、机に突っ伏したパンジーからは呪詛の様に低い声が。
「優等生サマはお気楽でいいわね……」
見かねたミリセントが慰めるように、パンジーの肩をぽんぽんと叩きます。
「もう終わったんだから、やさぐれんなって」
「終わってほしくなかった……」
「それよりこれから1週間どーするよ? イケメンでも探す?」
「ミリセントはまず落第の心配からして」
ちなみにミリセントは基本的に落第スレスレなので、テストが始まる前から既に色々と諦めている様子でした。「とっても面倒くさいのでやりたくないけど、すごく努力すればどうにかなる」という中の下レベルのパンジーに比べ、「どうせ頑張っても無理なもんは無理」と割り切れる分だけ悩みも少ないのでしょう。
「へい、そこのお嬢さんたち! テストの調子はどうよ!」
陽気な声で割り込んできたのは、スリザリン1年が誇るチャラ男ことブレーズ・ザビニ。颯爽と現れると同時に、ミリセントとハイタッチ。洋画のハイスクールでしょうか。
「こっちはいつも通りだけど、そっちは?」
「同じ同じ。普通」
ちなみにザビニの成績はほぼ平均点で、彼より点数が高ければ「頭いい」サイド、彼より点が低ければ「頭わるい」サイドに分類できるという、便利なポジションだったり。
「そういやザビニ、マルフォイは何で呆けてるん? あれで成績そう悪くないっしょ」
「男にゃ賢者の時間ってのが必要なんだ」
ザビニの戯言に補足すると、マルフォイの成績は上の下ですが、名家の生まれだと「その程度はできて当然」ゆえ、既に父親からネチネチ小言を言われる未来を心配して放心状態。窓の外のフクロウを見ていました。
「ノットはどーよ」
「大丈夫だ、問題ない」
ノットはまだここで死ぬさだめではないようです。
「クラッブとゴイルは……いいや」
あの二人は聞くまでも無いでしょう。名前が書けたかどうかも怪しいもんです。
***
試験終了後、私はパンジーたちと夕食を食べてから、グリフィンドール寮へと歩を進めていました。
「そういえばハリーたちの透明マント、テスト勉強ですっかり返すの忘れてました……」
いったんスリザリン寮に戻ってマントを取ってきたので、辺りはすっかり真っ暗です。どうにか門限までには帰れるとは思いますが。
「おや、ハリー達3人に……ネビル?」
私がグリフィンドール寮の入り口につくと、『太った婦人』の肖像画前では4人が言い争いをしていました。
「外に出ちゃダメだよ。また見つかったら、グリフィンドールはもっと大変なことになる」
どうやら夜間外出しようとしているハリーたちを、ネビルが止めようとしている様子です。
「あのー」
私が声をかけると、4人がギョッとした表情でこちらに振り返ります。
「イレイナ!? どうして君がグリフィンドール寮に?」
「忘れ物を返そうかと」
そう言って私が『透明マント』を見せると、ハリーが「あっ!」と声を上げました。ハリーのものだったようです。
「ありがとう、イレイナ! でも、どうして僕のものだと……」
「私は全知全能なので森羅万象を掌握しているからです」
そんな事より。
「さっきの話が聞こえたんですけど、また懲りずに夜間外出するつもりですか?」
私が言うと、ハリー達3人はバツの悪そうな顔になりました。
「もう失う物もない的なノリで開き直ってるのか知りませんが、今のはどう考えてもネビルの方が正論だと思いますよ?」
「君たちには分からないことだけど、これはとっても重要なことなんだ」
「じゃあ分かるように説明してください。じゃないと透明マント返しませんよ?」
ハリーたちは顔を見合わせ、ハーマイオニーが説明するよう促してくれました。
「ホグワーツに賢者の石が隠されてて、スネイプがそれを狙ってる。スネイプはそれを使って、ヴォルデモート復活を企んでいるんだ」
「………」
「………」
私とネビルは思わず、顔を見合わせてしまいました。
「ハリー、陰謀論にハマるのは結構ですが、いくら何でも設定盛り過ぎでは?」
「早くマダム・ポンフリーのとこまで行った方がいいよ。さっきは止めようとしてごめんね」
「なんで二人ともそうなるんだ!?」
そう言われましても。常識的に考えて、私とネビルの反応が普通では。
「証拠はあるんですか、証拠は。もちろん、証言以外で」
「イレイナ、君も見ただろ。禁じられた森にいた、あのフードの怪物」
「見てません」
「頼むから現実を直視して!」
まったく、嫌なことを思い出させてくれましたね。
たしかにあれは異常でした。
「スネイプは今までユニコーンの生き血を啜って、ヴォルデモートを生きながらえさせてたんだ。でも、今夜はダンブルドアも魔法省に出張しててホグワーツにいない。賢者の石は、4階にある例の立ち入り禁止の廊下にあって……」
ハリーの言葉に、入学式のときダンブルドア校長が言った言葉が思い出されました。
――とても痛い死に方をしたくない者は、今年いっぱい4階右側にある立ち入り禁止の廊下には入らないこと。
たしかに、怪しいと言われれば怪しく思えてきます。
スネイプ先生と賢者の石、そしてヴォルデモートはともかく、「4階右側の立ち入り禁止廊下に重要な物があって、禁じられた森にいた怪物が狙っており、ダンブルドアのいない今夜に侵入する可能性が高い」ぐらいであれば、ハリーたちの話も真っ赤な嘘では無さそうです。
その程度は私も個人的に信用してますし、ハリーたちも無意味に規則を破るような人間ではないでしょう。
「はぁ……仕方ないですね」
「イレイナ!」
ネビルが非難の声を上げるも、私は言い聞かせるように向き直ります。
「今夜、先生たちは試験採点にかかりっきりです。警備も甘くなるはず。それに、ネビルも禁じられた森でユニコーンの死体は見たでしょう?」
「う、うん……」
「こっちには透明マントもありますし、ミセス・ノリスは私がこんなこともあろうかと餌付けしておきました。大丈夫、バレなきゃ規則破りじゃないんですよ」
「バレなくても規則破りは規則破りよ、イレイナ。覚えておいて」
「君は代わりに空気読むことを覚えようね、ハーマイオニー」
初めてロンがハーマイオニーよりマトモなこと言ってるような。
――というのはさておき。
私はネビルの方に向き直りました。
「ネビルの気持ちは分かりますが、ハリー達のことも信じてあげてください。彼らの目をしっかりよく見て。あれが嘘を言ってる人間の目に見えますか?」
なんか適当にそれっぽい事を言うと、ネビルがハリーたち3人に視線を向けました。一人ずつ順番に、心の奥まで見透かすように目を合わせ、そして。
「……わかったよ」
わかっちゃったんですか。
「なら、僕も行く」
「ダメだネビル、危険だよ」
ハリーも結構、自分のこと棚に上げますよね。
「でも、僕だってグリフィンドールだ! それに、友達だけを危険な目になんて遭わせられないよ」
「……わかった。じゃあ僕たちと一緒に行こう」
ハリーが折れ、ネビルも付いていくことに。
これにて一件落着。万々歳です。もう思い残すことはありません。
「では、ネビルの誤解も解けたようですし、私はこの辺で―――ぐぇっ」
面倒ごとから逃げようとした私の首根っこを、ハリーたちにむんずと掴まれ、可愛くない悲鳴をあげてしまいます。
振り返ると、ハリー達の顔には「ここまで重要機密を聞いておいて、今さら一人だけ他人ヅラして逃げようとしてもそうはいかないからな?」といった感じのガラの悪い笑顔が。
「かわいそうなマルフォイは見捨てておけなかったのに、僕たちのことは見捨てるのかい?」
「ハリー、それはメンヘラのセリフですよ」
「トロールをボッコボコにした英雄イレイナが、こんなところで引くわけないよね?」
「今は引退を考えていまして……」
「イレイナ、賢者の石ってどんな金属でも黄金に変えられるのよ!」
「今すぐ賢者の石を守りに行きましょう」
何故でしょうか。皆さんの視線がとっても冷たいです。
だってどんな金属も黄金に変えられる石ですよ? そんなもん一目ぐらい見たいですし、あわよくば、まぁ……なんかこう、色々と幸運なことがあるかもしれないじゃないですか。
結局、なんだかんだで欲に駆られた私は、ハリー達の冒険に付き合う羽目になったのでした。
**
「ちょっとロン、足踏まないでよ!痛いじゃない!」
「君だってさっき5回も踏んだじゃないか!」
「ネビル、もうちょっとダイエットしてください」
「今そんなこと言われても……」
「4人とも静かにして!」
色々とあって大所帯で行く羽目になった私たちですが、当然ながら透明マントにぎゅうぎゅう詰めになり、互いの足を踏みつけながら前進していました。
正直、まだ小学校を卒業したての1年生だからこそ可能な力業です。実際には被るというより、壁を背にカーテンのように透明マントを掲げながら横歩きで移動するという、実にシュールな光景でした。
イレイナさんは賢者の石を正しくお金のために欲しがる子。
ネビルとの扱いの差は日頃の行いがゆえ。