ハリー・ポッターと灰の魔女   作:アストラマギカ

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第19章 ~仕掛けられた罠~

 4階の廊下に辿り着くと、扉はすでに少し開いていました。

 

「ほら、やっぱりだ。スネイプはもうフラッフィーを突破したんだ」

「フラッフィー?」

「三頭犬だよ。でも音楽をかければすぐ眠るって、ハグリッドが言ってた」

 

 ハリーはそう言うと、ローブの中からハグリッドにもらったという笛を吹き始めます。笛を吹くハリーに続いて扉の中に入ると、件の大きな三頭犬が唸り声をあげなら眠っていました。

 

「ひっ」

 

 ネビルが情けない悲鳴を上げようとするのを、慌てて手で塞ぎます。かくいう私も、三頭犬――ケルベロスを見るのは初めてで、想像よりもずっと大きな三頭犬に驚きを隠せません。

 

 

 そのまま三頭犬の横を通り抜けると、隠し扉に辿り着きました。隠し扉を開けると、遥か下まで続く落とし穴のような通路が。

 

 誰が最初に落ちるか問題は、ハリーが自らの手で名乗りを上げたことで決着し、ハリーは迷うことなく穴から落っこちていきました(笛はハーマイオニーが代わりに吹きました)。

 

 しばらくすると「大丈夫!」というハリーの声が聞こえてきたので、一刻も早く三頭犬から離れたかった私は、即座に穴へ突入しました。

 

 

 **

 

 

 冷たい湿った空気を切って落ちていくと、奇妙な鈍い音をたてて、私は何やら柔らかい物の上に着地したようでした。触ったところ、植物のような感触ですが、暗くてよく見えません。

 

「ルーモス-光よ!」

 

 あたりを照らすと、床一面に謎の植物が。しかもよく見ると、蔦が蛇のように私の足に絡みつこうとしています。

 

 蔦のくせに生意気な……燃やしてしまいましょう。

 

 

「ラカーナム・インフラマーレイ-炎よ!」

 

 

 サッと杖を取り出して振ると、リンドウ色の炎が植物めがけて噴射していきます。蔦は炎ですくみあがり、ビビったようにシュルシュルと逃げていきました。

 

「イレイナ!」

 

 ハリーが叫ぶ声に反応すると、その脚はすっかり蔦に絡めとられていました。すぐさま根元から植物を焼き尽くすと、ハリーの体を締めつけていた蔦は身をよじり、へなへなとほぐれてほどけていきます。

 

 

「僕、これ知ってる……『悪魔の罠』だ」

 

 ネビルたちが降りてくるころには、すっかり部屋中の『悪魔の罠』は私に燃やし尽され、端っこの方ですくみ上っていました。

 

「暗闇と湿気を好む植物だから、光と炎に弱いってスプラウト先生が言ってた。イレイナも知ってたんだね」

「ふっ、当然です」

 

 感心したようなネビルに、自信満々で答える私。

 

「イレイナもネビルも凄いわ! 私、名前は分かったんだけど弱点はすぐ思いつかなくて……」

「ネビルはともかく、イレイナはとりあえず植物だから燃やしとけみたいなノリだったんじゃない?」

 

 ロン、あなたはいつも一言多いです。

 

 

 **

 

 

 そのまま通路を進むと、今度はまばゆく輝く空間が広がっていました。天井は高くアーチ形で、宝石のようにキラキラとした無数の小鳥が、部屋いっぱいに飛び回っています。奥まで進んでいくと、分厚い木の扉が。

 

 

「鍵がかかってますね……アロホモラ-開け!」

 

 残念無念、開きません。どうやら開錠呪文を防ぐ呪文がかかってるみたいです。どうしたものかと考えていると、ハーマイオニーが「あっ」と何かに気づいたように宙を舞っている鳥を指さしました。

 

「鳥よ!あの鳥は単なる飾りじゃないはず!」

 

 すると、ハリーが何かに気づいたように呟きます。

 

「鳥じゃない……あれが鍵なんだよ。羽の付いた鍵だ」

 

 という事は、あれを捕まえろということでしょうか。

 

 

 きょろきょろと部屋を見渡すと隅の方に、いかにも「そんなこともあろうかと用意しておきました」みたいな感じで箒が3本ほど。それだけでなんとなく、この罠を作った人の良い人感が伝わってきます。

 

「じゃあ箒に……」

「待ってください、ハリー。ここは私の出番です」

「イレイナ、君が目立ちたがりなのは知ってるけど、箒の腕じゃハリーの方が断然――」

 

 ロンの失礼な言葉を遮り、私は杖を宙に向けて腕を振ります。

 

 

「イモビラス-動くな!」

 

 

 呪文を唱えると、それまで羽虫の様に飛び回っていた羽根つき鍵が、無重力空間へ放り出されたようにパッと動きを止めました。この呪文、飛び回るピクシー妖精の群れを止められちゃうぐらい強力なので、覚えて損はありません。

 

「では、探しましょうか」

「……う、うん」

 

 なんでハリーはちょっと残念そうな顔をしているんでしょうか。

 

 そのまま私たちは、金縛りにあった羽の付いた鍵を黙々と回収していきます。素直に箒で追いかければクィディッチ選手並みの技量が求められますが、金縛り呪文で動きを止めてしまえば、後は単純作業の繰り返しに過ぎません。

 

 片っ端から捕まえて、どんどん鍵穴にぶち込んでやりましょう。

 

 

「あ、この羽の曲がった鍵じゃない?」

 

 鍵を抱えていたハリーが、その中から青いブルーの羽がついた銀色の鍵を見つけます。試しに鍵穴に入れてみると、ガチャリと大きな音をあげて扉が開きました。

 

 

 **

 

 

 次の部屋に入ると、また真っ暗で何も見えません。ですが、少し進むと光が部屋中にあふれ、驚くべき光景が目の前に広がります。

 

 そこで待ち構えていたのは、大きなチェス盤でした。チェスの駒は私たちよりずっと背が高く、ポーンは甲冑に身を包んだ剣士、ナイトは騎兵、という風に凝った作りです。

 

 そのまま先に行こうとすると、次の扉の前に配置された白のチェス駒が一斉に刃を抜き放ちました。ネビルが小さく悲鳴を上げ、ハーマイオニーが不安そうに呟きます。

 

「どうするの?」

「見ればわかるよ」

「チェス駒を全部ぶっ倒すんですね」

「違う、そうじゃない……」

 

 ロンはそう言うと黒のナイトに近づき、手を伸ばして馬に触れました。すると石に命が吹き込まれ、 兜をかぶったナイトの騎馬兵が馬を降り、代わりにロンがナイトの馬に跨ります。

 

「向こうに行くにはチェスをしなくちゃ。僕たち5人がひとつずつ黒い駒の役目をしなくちゃいけないんだ……きっと」

「では、私はキングでお願いします」

「わかった。じゃあイレイナとネビルは、それぞれキングとクイーンで。ハリーはそこのビショップ、ハーマイオニーはその隣のルークと代わって」

 

 駒はロンの言うとおり黙々と動き、取られた駒は刃で派手に粉砕されます。しばらくすると負傷した黒駒が壁際に累々と積み上がっていきました。私たちが取られそうになった場面に、ロンが間一髪のところで気づいたことも4回ほど。

 

「それにしてもロンって、めちゃくちゃチェス上手ですね……」

 

 素直な称賛の言葉が、胸を突いて出てきます。

 

 この勝負、ロンは自分と私たちを失うわけにはいかないので、かなりの縛りプレイ。

 取られたら負け確定のキングとそれに準ずるクイーンはともかく、ハリーのビショップとハーマイオニーのルークすら取られてはならないとなると、極めて動きは制限されるからです。

 

 もし当初の予定通りハリーたち3人だけで来れば、ここまで苦戦することも無かったでしょうか。

 

 

「うーん、……やっぱり」

 

 しばらくして、ロンが静かに言いました。

 

「これしか手はない……僕が取られるしか」

 

「「「「ダメ!!」」」」

 

 私たちが同時に叫ぶも、ロンは首を横に振ってきっぱりと告げます。

 

「これがチェスなんだ! 僕がひとつ前進する。そうするとクイーンが僕を取る。ハリー、それで君が動けるようになるから、キングにチェックメイトをかけるんだ!」

「でも……」

「賢者の石を守りたいんだろう。違うのかい?」

 

 ロンが前に出ると白のクイーンが勢いよく剣を抜き、ロンの跨っていたナイトの馬を一撃で粉砕します。ロンは地面に投げ出され、頭を打って気絶しているようでした。

 

「チェックメイト」

 

 3つ進んだハリーが告げると、白のキングは冠を脱いで足元に投げ出しました。残ったチェス駒も左右に分かれ、扉への道を空けてお辞儀をします。

 

 私たちはもう一度だけロンを振り返り、次の通路を急ぎました。

 

 

 **

 

 

 そして次の扉を開けると、凄まじい悪臭が。慌ててローブで鼻を覆い、中へ入るとハロウィンの時よりも大きなトロールが血を流して倒れていました。

 

「今、こんなトロールと戦わなくてよかった」

 

 小山のような足をまたぎながら呟いたハリーに頷きつつ、私たちは先にある扉を目指します。

 さて、次は何が出てくるのでしょうか。

 

 

 ――瓶でした。

 

 

 てっきりもっとヤバそうな何かが出てくるのかと思いきや、目の前には形の違う7つの瓶がテーブルに置かれているだけ。

 

 拍子抜けしたまま敷居をまたぐと、通ってきたばかりの入口でたちまち火が燃え上がり、同時に前方のドアの入り口からも炎が燃えあがります。

 

「閉じ込められましたね……」

 

「見て!」

 

 ハーマイオニーが瓶の横に置かれていた羊皮紙を取り上げると、何やら書かれている様子。

 

 

 前は危険 

 後ろは安全

 君が見つければ 

 二つが君を救うだろう

 

 前進はひとつだけ

 別のひとつは退却の道

 二つの瓶はイラクサ酒

 残る三つは殺人者 

 どんなにずるく隠れても

 イラクサ酒の左は毒入り瓶

 両端の二つの瓶は種類が違う

 君が前進したいなら

 二つのどららも友ではない

 

 七つの瓶は違う大きさ

 小人も巨人も殺人者にあらず

 双子の薬は見た目が違っても 

 左右の端から二番目は同じ味

 

 

「すごいわ!」

 

 ハーマイオニーが嬉しそうな声を上げます。

 

「これは魔法じゃなくて論理、パズルだわ! 大魔法使いでも論理に弱い人はここで行き止まりだけど、私たちは違う」

 

 そう言って、私の方を見つめてきます。

 

「どっちが先に解けるか、勝負しましょ!」

「いいでしょう。賭けますか?」

「1ガリオン!」

 

 ハーマイオニーの言葉に私が頷き、勝負スタートです。

 

「ハーマイオニーもイレイナも、なんか楽しそうだね」

「女の子の考えることは分からないよ……」

 

「「静かに!!」」

 

 ネビルとハリーを黙らせ、しばらく無言で羊皮紙とにらめっこ、そして頭の体操です。

 

 

 しばしの沈黙の後、パチン!と最初に手を打ったのはハーマイオニーでした。1分ほど遅れ、私もハーマイオニーに向き直って頷きます。

 

「じゃあ、答え合わせしましょ。前に進む薬は?」

 

 ハーマイオニーが言い終わると共に、二人で一番小さな瓶を指さします。

 

「じゃあ次、後ろに戻る薬」

 

 こちらも同時に、一番右端にある丸い瓶を指さします。

 

 二人とも正解……ということは、最初に解いたハーマイオニーの勝ちということに。

 

「参りました。さすが学年成績トップなだけはありますね――どうぞ」

 

 私は懐から金貨を取り出すと、指で弾いてハーマイオニーに投げました。ハーマイオニーが嬉しそうに受け取ります。たぶん、金貨よりも私に勝てたことが嬉しいのでしょう。

 

 

「とりあえず問題は解けたわけなのですが……困りましたね」

 

 

 この罠をしかけた人物、たぶん4人も辿り着くとは思っていなかったんじゃないでしょうか。

 

 

 瓶の中に薬は1人分しかありません。つまり4人いる場合、前に進める人が1人、帰れる人が1人、残る2人は炎に囲まれて待ちぼうけです。

 

「前に進む薬は僕が飲む」

 

 ハリーがきっぱりと言いました。

 

「後ろに戻る薬は……」

 

「ハーマイオニーが飲んでください」

 

 言い淀んだハリーの言葉を、私が代わって続けます。ハーマイオニーが何か言おうと口を開きかけますが、私はその肩を掴んで説得するように囁きました。

 

 

「ハーマイオニーはまっすぐフクロウ小屋へ行って、ダンブルドア校長に手紙を送ってください。それからマクゴナガル先生にも連絡を。ハリーの次に事態を把握しているのは貴女です。正直、私とネビルでは、うまく状況を説明できませんので」

 

 

 ネビルは巻き込まれただけ、私に至っては美しすぎる通りすがりの野次馬に過ぎません。

 

「ネビル。巻き込んでしまって、すみません」

「ううん。謝らないで、イレイナ。ここまで来たのは、僕が自分で決めたことでもあるんだから」

 

 ネビルが答えると、傍で聞いていたハーマイオニーが唇を震わせ、私たちに駆け寄って抱きついてきます。

 

「ああ、 3人共お願い、気をつけてね!」

 

 そう言うとハーマイオニーは列の端にある丸い瓶を飲み干し、踵を返して紫の炎の中をまっすぐ帰っていきました。残された私とネビルは、瓶を握りしめたハリーに向き直ります。

 

「ではハリー、幸運を」

「気を付けて、ハリー!」

 

「イレイナとネビルも!」

 

 続いてハリーも一番小さな瓶を迷うことなく飲み干し、燃え盛る黒い炎を抜けて前へと足を踏み出していきました。

 

 




スネイプ先生の罠、もしロンが気絶しないか回復して最後までついてきてたら、炎の中で待ちぼうけだった説

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