ハリー・ポッターと灰の魔女 作:アストラマギカ
「ドラコ・マルフォイだ」
そう名乗って、プラチナブロンドの男の子は握手を求めてきました。少し気取った感じもしますが、それも名前を聞けば納得というもの。
「おや、マルフォイ家のご子息でしたか」
マルフォイ家は有名な歴史ある純血で、いわゆる貴族です。私が自分の家名を知っていることに気を良くしたのか、マルフォイ少年は得意げな顔になります。
「僕の父上は隣で教科書を買っていて、母上はその先で杖を見ている。僕はこれから、2人を引っ張って競技用の箒を見に行くんだ。1年生が自分の箒を持っちゃいけないなんて、理由が分からないね。父上を脅して一本買わせて、こっそり持ち込んでやる」
典型的なお金持ちのドラ息子……改め、お坊ちゃんといった感じです。
「君は自分用の箒を持っているのかい?」
「持っていますよ。去年の誕生日に、コメット260をお母さんがプレゼントしてくれました」
魔法界では未成年の魔法使用が禁じられているのですが、魔法をかけた道具を使うだけであれば問題ありません。
「へぇ。じゃあ僕と同じだ。両親は二人とも魔法族?」
「ええ」
魔法族というのは、その名の通り魔法使いの家庭の総称です。
通常、魔法の能力は親から子供へと引き継がれ、両親が魔法使いなら「純血」、片方の親だけが魔法使いなら「半純血」、魔法が使えない非魔法族は「マグル」と呼ばれ、非魔法族の出身者の魔法使いは「マグル生まれ」と呼ばれます。
ちなみに私の場合、「半純血」のお父さんと「純血」のお母さんの間に生まれたため、定義としては「純血寄りの半純血」ということで、ギリギリ「純血」と言い張れなくもない微妙なラインです。
もっともマグル贔屓の両親が日常生活で魔法を使っている場面は、そう多くありません。
せいぜい家にやたら魔法の本が置いてあったり、体調が悪いとお母さんが不思議な魔法薬を煎じてくれるぐらいのもの。幼稚園までは皿洗いなんかに魔法を使っていた記憶があるのですが、全自動食器洗い乾燥機を導入してからは基本そっちを使っています。
補足すると、私の住むロベッタの街にも魔法使いコミュニティ自体はあるのですが、あまり数は多くありません。
なのでぶっちゃけ、日用品や食材はわざわざ魔法使い専門店に行くより、そこらにあるマグルの大手スーパーなりチェーン店で買った方が便利ですし。
後はまぁ、ご近所づきあいとかでマグル文化に溶け込んでいた方が何かと便利ですし。
そういった事情もあって私の場合は幼稚園や小学校も、ごく普通のイギリスの学校に通っていました。
これは最近になって知ったのですが、純粋な魔法族の多くはホグワーツへ入学するまで、親か家庭教師から勉学を習うそうです。
ですが、我が家の場合は共働きであること、そして何より「タダだから」という理由で普通の公立学校へ通っていました。そう、私が住むイギリスの公立学校は学費が無料なのです。
とはいえ、魔法界について全く知らないわけではありません。年に一度、夏休みには魔法使いの親戚の家にお邪魔して、いわゆる「普通の魔法使いの家庭」といった生活を送り、蛙チョコレートを食べたりクィディッチの話などで盛り上がったりしています。
「そういえば、まだ名前を聞いていなかったね。君の名前は?」
「イレイナです。イレイナ・セレステリア」
そう答えると、男の子の眉がぴくりと動きました。名前ではなく、フルネームの時に反応したので、苗字に心当たりがあったのでしょう。
ちょうどその時、採寸が終わりました。私はすとん、と採寸台から降ります。それと同時に、マルフォイが声をかけてきました。
「じゃあ、またホグワーツで会おう。たぶんね」
「ええ。あなたもお元気で」
外に出ると、ちょうどお母さんが換金を終えたところでした。魔法界に紙幣は無く、未だに古めかしい金貨・銀貨・銅貨が使われています。まぁ、魔法道具があるのでかさばることもないのでしょう。
ちなみにガリオン金貨1枚を換金すると、マグル界では5ポンドになるそうです。イギリスではビッグマックが税抜き3ポンドですので、随分と魔法界の物価は安いかと。
――いっそ溶かしてマグル界で地金に変えて売りさばき、稼いだポンドを再度グリンゴッツで換金すれば、無限に稼げるのではないんでしょうか。
そんな事を考えていると、お母さんが心を覗き込んだように注意してきます。
「イレイナ、いま考えてることをやってはダメよ。どの硬貨にも魔法がかかってて、試した時点で逮捕されちゃうから」
「……はて、なんのことでしょうか?」
**
それからお母さんと一緒に入学に必要なものをリスト順に一通り購入し、最後に辿り着いたのは随分と狭くみすぼらしい店でした。
「やっぱり、杖を買うならオリバンダーね」
「ここがオリバンダー杖店……」
魔法界では有名な杖作りの一族、オリバンダー。かくいう私も名前は聞いたことがあるのですが、実際に見るのは初めてです。
お母さんが店のドアを開けると呼び鈴が鳴り、奥から薄く淡い目をした老人が出てきました。
「いらっしゃいませ。杖をお買い求めで?」
「はい。ホグワーツに入学する娘に」
オリバンダーさんの視線が私に移ります。
「はじめまして、可愛らしいお嬢さん。それでは、さっそく杖を選びましょう。杖腕はどちらですかな?」
「右です」
腕を伸ばすと、巻き尺が勝手に動いて指先から手首、肘から肩まで寸法を取り始めます。その間にオリバンダーさんが杖の解説をしてくれました。
「この店の杖は、一本一本に強力な魔力を持った芯を使っております。ユニコーンのたてがみ、不死鳥の羽根、ドラゴンの琴線……ですが、同じ杖は1つとしてありません」
さらにオリバンダーさんの話によると、杖は持ち主を選ぶとのこと。なので他人の杖を使っても、決して自分の杖ほどの力は出せないのだとか。
勝手に私の鼻の穴まで測り出した巻き尺をはたいていると、オリバンダーさんが細長い箱を持ってきてくれました。中から取り出した杖を受け取ります。
「柊にユニコーンのたてがみ、23cm、振りやすい」
私は杖を受け取り、試しに軽く振ってみます。すると杖先から桃の花が咲き……残念ながら、花はすぐにしおれてしまいました。
「あまりよろしくないようじゃの。では……これは。カラマツにドラゴンの心臓の琴線、29cm、少々頑固」
杖を受け取り、再び軽く振りました。今度は何も起きない……と思ったら、天上近くまで積み上げられた箱の一部が崩れ落ちてきます。
「これもいかんな。それでは……ふむ、これはどうでしょう。トネリコに不死鳥の羽根、32cm、よくしなる」
さっと同じように、杖を振ります。すると奥のテーブルにあった花瓶が割れ、水が弾け飛びました。あたり一面水浸しですが、オリバンダーさんは気にせず別の杖を探しています。
「ふむ……では、こちらの杖を。ハンノキにドラゴンの心臓の琴線、32cm、無言呪文に最適」
―――おや。
握ってみると、今までの杖とは違う感触です。握りやすいのは勿論、なんともいえない充足感。
(これですよ、これ!)
私は興奮のまま杖を振り上げ、思いっきり振り下ろしました。すると杖の先からは、アムネシアの花が吹雪のように舞い散り、店内を華やかに染め上げます。
「ブラボー! なるほど、そうきましたか」
オリバンダーさんは嬉しそうに、そしてどこか納得したような顔で頷きます。
「ハンノキは数ある杖の中でも、高度な能力を持つ魔法使いにしか使いこなせないものでしてな。ハンノキに惹かれる魔法使いは、自分を信じて決断することができる、冒険好きな旅人に多い」
旅人………その言葉に、私としては思わず反応せざるを得ません。なぜなら私の将来の夢は、大好きな本『ニケの冒険譚』に出てくる魔女ニケのように、世界中へ旅に出ることだからです。
さらにオリバンダーさんの説明によれば、ドラゴンの心臓の琴線は学習が早く、華々しい呪文に向いているだとか。使いこなせれば、忠実で力強い味方になるとのこと。
「良かったわね、イレイナ」
「ええ、本当に」
改めてオリバンダーさんにお礼を言い、杖の代金を払って店を出ました。最後に買い忘れがないかチェックし、問題ないことを確かめてから家に帰ります。
「二人とも、お帰り!」
家に帰ると、お父さんが色とりどりの料理を用意して待ってくれていました。パンにチーズ、サラミ、いちじく、オリーブ、サラダにマッシュポテト、ミートボールのクリーム煮と大きなフルーツケーキまであります。
「改めて、入学おめでとう!イレイナ」
「貴女は私たちの誇りよ」
にっこりと、嬉しそうに祝福してくれる両親。それから私たち家族は賑やかに語らい、料理に舌鼓を打ち、皆がお腹いっぱいになったところで、お母さんが隣の部屋に来るように手招きしてきました。
「そうそう、私たちからイレイナにプレゼントがあるの」
そう言ってお母さんが渡してくれたのは、とんがり帽子と日記帳です。
「いつか、貴女の物語を聞かせてね」
「はい!」
イレイナさんの苗字は、原作者さんのツイートから、もともと苗字として名乗らせる予定だった「セレステリア」にしました(原作では国名になってましたね)。
杖の設定は、ハリポタ設定から「冒険好きな旅人に多い」ハンノキと、学習が早く華々しい呪文向きのドラゴンの琴線がそれっぽいかなーと。