ハリー・ポッターと灰の魔女 作:アストラマギカ
ホグワーツの何キロも下、いくつもの魔法の罠を抜けた先に、前と後ろが炎で塞がれてしまった部屋があります。
部屋の中には一人の男の子ともう一人、それはもう誰が見ても溜息をつかずにはいられないほどの美少女がいました。美少女は憂いを帯びた色っぽい表情で、どうにもならない現状に歯噛みしていました。彼女はいったい誰でしょう。
そう、私です。
……悲しいことに、私でした。
「今さらですが、ホントどうしましょう? この状況」
前に進むも炎、後ろに戻るも炎。ひたすら耐えて待って忍ぶしかありません。
残された瓶は毒とイラクサ酒。ちなみにイラクサ酒というのは薬草系リキュールの一種で、甘くてハーブの香りがします。お母さんが家でたまにお手製カクテル作る時に、ちょいちょい飲んでるのを見たことがあります。
やることもないので、もういっそイラクサ酒でネビルと酒盛りでもしましょうか。
「ネビル、一杯どうです?」
「僕たち未成年だから」
「ですよねぇ」
ついでに言うと、さっきから音沙汰のないハリーも心配です。
付け足すなら、このまま炎が燃え続けると私たちも危険です。こっちまで燃え移っては来ないようですが、地下室で炎が燃え続ければ酸欠で一酸化炭素中毒になるかもしれません。
「アグアメンティ-水よ!」
とりあえず水増し呪文をかけてみたのですが、炎を消すほどの水量はありません。
「逆に僕たちが水を被るとか、どうかな?」
「たしかにローブを水浸しにすれば、多少は火避けになるでしょうけど……」
構造上、頭などは露出してしまうため、正直ちょっと不安が残ります。
「せめて、もっと大きな布かなにかがあれば……―――あっ」
そういえば。
「ネビル、ハリーから『透明マント』預かってませんでした?」
私が聞くと、ネビルがローブをゴソゴソとまさぐり始め、「あった!」と声を上げました。
「ハリーが三頭犬の前で笛を吹いた時、邪魔にならないよう僕が持ってたんだ。そのぐらいしか、僕には出来ることが無かったんだけど……」
ネビルはそう言って、ぐるぐる巻きにして収納していた透明マントを取り出します。
「自分を卑下することはありませんよ。少なくとも、あなたが透明マントを預かってくれてたおかげで、二人とも焼け死なずに済みそうなんですから」
私とネビルの2人が入るだけなら、ハリーの透明マントは十分な大きさです。しっかり濡らせば、炎の中を突破できるかもしれません。
「すみません、ハリー」
人から借りた物を勝手に燃やすのも気が引けますが、私だって酸欠で死にたくはありません。透明マントの代金は後で弁償するので、ここは勘弁してもらいましょう。
「アグアメンティ-水よ!」
改めて水増し呪文をかけたのですが、ハリーの透明マントは一向に濡れず、それどころが水を弾いてすらいる様子。
「おかしいですね……」
「ど、どうしよう? 万策尽き―――」
「いえ、尽きてません」
私が言うと、ネビルは驚いたような顔になります。
「でもイレイナ、この透明マントぜんぜん濡れてないし……」
「だからですよ」
私は透明マントを手に取ると、端っこが炎の中に入るようにひらりと揺らします。
「イレイナ! そんなことしたらマントが燃え―――あれ、燃えてない?」
思った通り、透明マントは無傷でした。
「ネビル、何故かは知りませんが、ハリーの透明マントには強力な防護関係の呪文がかけられているみたいです。水を弾いたのはそのせいでしょう」
もちろん単なる防水加工という可能性もありましたが、どうやら今度の賭けは吉と出たようです。恐らく防火にも防水にも使える便利な「インパービアス」の呪文がかけられているのだろうと、賢い魔女の私は推測しました。
「防護呪文がかけられているのであれば、水であれ炎であれ関係ありません。念のためローブ全体を濡らして、露出部を覆うように透明マントを被れば、たぶん強行突破できるでしょう」
「じゃあ……」
ネビルが希望に顔を輝かせた瞬間、奥から大きな悲鳴が聞こえてきました。
「ハリー!? イレイナ、助けにいかないと!」
「ええ、急ぎましょう!」
私とネビルは透明マントに入り、二人で黒い炎の中に足を踏み入れました。透明マントのおかげで私たち炎の影響を受けず……なんてこともなく、燃えないのはマント本体のみで、中にいる私たちは普通に熱いです。
とはいえ、マントが燃えないだけでも防火ブランケットぐらいの役割は果たしてくれますし、その内側に濡らしたローブを着込んでいるため、炎で焼け死ぬことはありません。幸い、それほど燃えている通路が長くなかったこともあり、どうにか二人とも水膨れや赤みといった火傷で済みました。
「エピスキー-癒えよ!」
簡単に応急処置だけして、私たちはそのまま通路を抜けて最後の部屋に入ります。
**
最後の部屋には、既にハリーともう一人がそこにいました。ですが、それはスネイプ先生ではなく――。
「クィレル先生?」
私たちがそこで見たのは、ハリーに馬乗りになって首を絞めようとしているクィレル先生でした。しかもターバンをとったクィレル先生の頭の後ろには、恐ろしい形相の別の顔まであります。
「殺せ!殺せ!」
クィレル先生の後ろの顔は狂ったように叫び続け、その言葉通りにクィレル先生はハリーを絞殺しようとするも、ハリーが掴んだ部分が何故か焼けただれてしまい、悲鳴を上げています。
「イレイナ、ハリーを助けないと!」
「え、ええ……そうですね、ええっと、――ペトリフィカス・トタルス-石になれ!」
私が動揺しながらも石化の呪文を唱えると、呪文をかけられたクィレル先生が石のように硬直しました。その隙をついて、ハリーはクィレル先生の頭を掴みます。
「ギャアアアアアァァーーッッ!!」
この世のものとは思えない悲鳴が部屋中に響きました。焼け爛れた顔がみるみるうちに崩壊し、ぼろぼろと崩れ落ちていきます。とても正視に耐える光景ではなく、私とネビルは思わず目を背けました。
「っ――――!?」
次の瞬間、おどろおどろしい呪詛のような低い叫びと共にクィレル先生の頭からゴーストのようなものが抜け出し、そのまま私たちの横をすり抜けて炎の先へと消えていきます。
「イレイナ……い、今のは……?」
「し、知りませんよ。ていうか、あんまり知りたくありません……」
あの禍々しい怨霊のようなものが横を通った時の、全身が震えるような気味の悪い感覚……思い返しただけでも悪寒が走ります。あれは下手に触れてはいけないものだと、それだけは不思議と確信できました。
再び視線をハリー達に戻すと、クィレル先生だったものは地面に倒れこみ、ハリーの方もピクリとも動きがありません。
「ハリー!? 死んじゃダメだよ!」
ネビルが慌てて駆け寄り、泣きながらハリーの身体を揺らしています。私もその隣に腰を下ろし、最悪の事態にならないことを祈りながら、ハリーの脈と呼吸を確認します。
ぐったりした手首をとって青い血管に指を添え、鼓動のリズムを確認すると、一定間隔で脈打っているのが分かりました。
「よかった……大丈夫ですよ、ネビル。ハリーはただ、気を失ってるだけのようです」
「ほ、本当に………?」
「―――イレイナ嬢の言う通りじゃよ」
ネビルが何か言いかけた瞬間、背後からこの場にいるはずの無い声がしました。慌てて杖を向けると――。
「おっと、儂は味方じゃ。だから落ち着いて、その杖を下ろしてはくれんかね?」
そこにいたのはアルバス・ダンブルドア校長先生でした。私たちが唖然とする中、校長先生は優しげな微笑みとともに口を開きます。
「ネビル、彼女の言う通りハリーは死んでおらん。眠っているだけじゃ」
ダンブルドア校長の言葉で、ようやくネビルもホッとしたように安堵の表情を浮かべました。
「校長先生、ハーマイオニーからフクロウ便で連絡を?」
「いや、空中ですれ違ってしまったらしい。ロンドンに着いた途端、儂がおるべき場所は出発してきた所だったと、はっきり気がついたんじゃ」
「はぁ、そうでしたか」
ぶっちゃけ、もう少し早く気がついてくれると楽だったんですが。
「本当に、すまんかったのぅ。じゃが、ヒーローは遅れてくるものではないのかね?」
まるで心の声を読んだかのように、半月眼鏡の奥からのぞくキラキラした青い瞳でウィンクしてくる校長先生。おまけに、いつぞやのトロール事件の時に自分が言った言葉を引き合いに出されてしまうと、私もそれ以上のことは言えなくなってしまいました。
やっぱり、この人は底が知れません。
「ああ、それからイレイナ」
ダンブルドア校長が思い出したように、私が手を伸ばしかけた透明マントを見やります。
「その透明マントは、ハリーのお父さんの持ち物でのぅ。君が
「そういうことでしたら」
私は
「ちなみに校長先生、賢者の石をちょっとお借りするわけには?」
「貸し出し中に君が作った黄金を、全て慈善活動に寄付するというなら考えよう」
今世紀最高の魔法使いこと、アルバス・ダンブルドアは案外ケチでした。
透明マント:マント本体が呪文の影響を受けないだけでも、防火ブランケットぐらいの役割を果たしてくれるはず・・・。
ちょっと強引だったかもしれませんが、大目に見て頂けると助かります(汗)
原作だと死喰い人のアクシオは防げてるけど、マルフォイの金縛り呪文は防げなかったので、呪文の強さとか特性によるんかな?