ハリー・ポッターと灰の魔女   作:アストラマギカ

21 / 163
 
 Vやねん!スリザリン!



第21章 ~寮杯の行方~

 私が大広間に着いた時には、もうテーブルは人で一杯でした。

 

 スリザリンが七年連続で寮対抗杯を獲得したお祝いに、広間はグリーンとシルバーのスリザリン・カラーで飾られ、シンボルのヘビを描いた巨大な横断幕がテーブルの後ろの壁を覆っています。

 

 

「また1年が過ぎた!」

 

 ダンブルドア校長が立ち上がり、朗らかな声で学期の終了を宣言します。

 

「ご馳走にかぶりつく前に、ここで寮対抗杯の表彰を行うことになっておる。点数は次のとおりじゃ。4位はグリフィンドール312点、3位ハッフルパフ352点、2位レイブンクロー、426点、そして1位はスリザリン472点」

 

 次の瞬間、スリザリンのテーブルから嵐のような歓声と、足を踏み鳴らす音が上がります。ドラコはゴブレットでテーブルを叩き、上級生たちも口々に優勝を祝う言葉を叫びます。

 

「よっっしゃぁぁあああーーー!」

「スリザリン万歳!」

「胴上げ待ったなし!」

 

 最後、なんで微妙に不安になるようなセリフを叫ぶんでしょうか。

 

 

「よしよし、スリザリン。よくやった。しかし、つい最近の出来事も勘定に入れなくてはなるまいて」

 

 ダンブルドア校長がそう告げると、部屋全体がシーンと静まりました。スリザリン寮生も嫌な予感を感じ、笑いが徐々に消えていきます。

 

 ハリー達の大冒険は秘密ということになっており、秘密というのは校長先生の言葉を借りれば全校生徒が知っているということでもありまして。

 

 

「えへん」

 

 ダンブルドア校長は咳払いをし、再び口を開きました。

 

「ではここで、かけ込みの点数をいくつか与えようと思う。まず最初は、ロナルド・ウィーズリー君」

 

 ロンの顔が、ひどく日焼けした赤かぶのように赤くなります。

 

「この何年間かホグワーツで見ることができなかったような、最高のチェス・ゲームを見せてくれたことを称え、グリフィンドールに50点を与える」

 

 グリフィンドールの歓声は、魔法をかけられた天井を吹き飛ばしかねないくらいでした。ひょっとしたら実際に、頭上の星もグラグラ揺れいたかもしれません。

 

「次にハーマイオニー・グレンジャー嬢。炎に囲まれながら、冷静な論理を用いて対処したことを称え、グリフィンドールに50点を与える」

 

 見れば、ハーマイオニーは腕に顔を埋めています。彼女の事ですから、きっと嬉し泣きしているに違いありません。グリフィンドールの寮生は一気に100点も増えたことに、テーブルのあちこちで我を忘れて狂喜しています。

 

「3番目は、ハリー・ポッター君。その完璧な精神力と、並はずれた勇気を称え、グリフィンドールに60点を与える」

 

 それはそれは、耳をつんざく大騒音でした。

 

 もし声がかすれるほど叫びながら足し算ができた人がいたなら、グリフィンドールが472点でスリザリンと全く同点に並んだことが分かったでしょう。

 スリザリンのテーブルでは、至る所で生徒たちが頭を抱え、悲鳴を上げているのが見えました。見事、寮杯は引き分けです。

 

 

 再びダンブルドア校長が手を上げると、広間の中が少しずつ静かになっていきます。

 

「勇気にもいろいろある」

 

 ダンブルドア校長は微笑みました。

 

「敵に立ち向かっていくのにも大いなる勇気がいる。じゃが、闇雲に立ち向かうのではなく、常に頭でよく考え、時に機転を利かせ、熱い心を冷静な頭脳で支えるのも大切なことじゃ」

 

 広間が水を打ったようにシーンと静まり返ります。

 

「そこで儂は、イレイナ・セレステリア嬢に50点を与えたい」

 

 大広間の外に誰かいたら爆発が起こった、と思ったかもしれません。それほど大きな歓声がスリザリンのテーブルから沸き上がりました。ドラコがガッツポーズを決め、クラッブとゴイルが吠え、パンジー、ダフネ、ミリセントは椅子から飛び上がりました。

 

「イレイナ、あんた最高よ!」

「結婚しよ!」

「これは惚れてしまうやろ」

 

「ふっ」

 

 ドヤァ…。

 

「皆さん、もっと私を褒めてくれてもいいんですよ?」

 

 私はダフネと椅子の上で飛び跳ねながら抱き合った直後、感涙のあまりタックルしてきたミリセントに押し潰されてしまいます。

 

「さすがイレイナ!」

「たまげたなぁ」

 

 ザビニはどさくさに紛れて抱き着こうとしないでください。ノット、言い方。

 

 

「こほん、こほん」

 

 再び、恐怖の校長せき払い。

 

 ちゃぶ台返しのオンパレードで、もう結果がどうなるか分かりません。スリザリン生は恐怖に怯え、その他の寮からは期待の眼差しが。

 

 

「敵に向かって行くのと同じように、味方の友人に立ち向かうこと、そして最後まで友人を信じることにも多大な勇気がいる。よって儂は最後に、グリフィンドールのネビル・ロングボトム君に30点をあげたい」

 

 

 一瞬の沈黙と静寂―――そして少しの間を置き、再びスリザリンから爆発的な歓声が上がりました。グリフィンドールからは堪らなく悔しそうな悲鳴と失望の呻きが漏れていましたが、それも長くは続きませんでした。

 

「だーっ! 流石に奇跡の大逆転はなかったかー!」

「まぁでも、ロングボトムはよくやったよ」

「とりま準優勝だしな」

「来年こそは勝ってやる!」

 

 優勝には届かなかったとはいえ、最下位から2位まで躍り出たのです。あと20点のところまでスリザリンに肉薄したことを考えれば、充分に健闘したと言えるでしょう。徐々にネビルたちを讃える拍手が広がっていき、ネビルは皆に抱き着かれて姿が見えなくなりました。

 

 ハッフルパフとレイブンクローからも悔しそうな声が一部聞こえたもの、じわじわとグリフィンドール、そしてスリザリンの健闘を称える拍手の音が大きくなっていきました。

 

 

 もちろん、無事に勝ち逃げて7年連続優勝を達成した、我がスリザリンは狂喜乱舞の嵐です。

 

「勝った勝った!」

「ばく進Vロード!」

「強すぎて堪りません!」

 

 教員席を見れば、スネイプ先生が見たことも無いようなホクホク顔で、ちょっと拗ねたような顔のマクゴナガル先生と握手をしています。

 

 グリフィンドールの机に目を向ければ、学校中の嫌われ者になってしまったハリー達は再び人気者に返り咲いていました。その意味で彼らの名誉を回復しつつ、全体としては落ちるべきところへ落とし込んだ、ダンブルドア校長の匙加減はそう悪い塩梅ではないと思うのです。

 もっとも、そんな風に思えるのは、結果的に勝ち逃げたからこその余裕かもしれませんが……。

 

「見てろよ、来年こそはグリフィンドールが勝つ!」

「言ってろ、このまま来年もスリザリンの8連勝だ!」

 

 大広間のテーブルでは、早くもグリフィンドールのオリバー・ウッドと、スリザリンのマーカス・フリントの間で衝突が始まっていました。今回ばかりは先生たちも止めようとせず、周りの生徒も二人に乗っかって互いにヤジを飛ばしたり、ブーイングで煽り合ってます。

 

 ですが、どちらの寮生の顔にも、どこか晴れ晴れした表情が浮かんでるように見えるのは気のせいでしょうか。

 

(こういうのも、悪くはないですね……)

 

 パンジーに抱き着かれ、ダフネからは頬にキスされ、ミリセントに絞め殺されそうになった後、マルフォイたちスリザリン男子に胴上げされながら、私は皆を見て思うのです。

 

 

 奇跡のような大逆転は、そう都合よく起こらないからこそ、尊いものだと。努力して犠牲を払って、それでも思うように世の中は動かない。けれども、足掻いたものもまた無駄にはならない。今はまだ理想に届かないとしても、その積み重ねがきっと、私たちを成長させてくれるから――。

 

 

 辛うじて、今回スリザリンは逃げ切ることが出来ました。しかし得点差はわずか20点。少しでも油断すれば、いつ逆転されても不思議はありません。そもそもハリー達のマイナス150点事件が無ければ、もともとスリザリンは準優勝だったのですから。

 

(私たちも慢心せずに、もっと頑張らねばなりませんね―――)

 

 

 **

 

 

 しばらくして、試験の結果も返ってきました。

 

 これは最初に、強調しておかなければなりません。学年1位と学年2位の点数にそれほど大きな差はなく、しかし2位と3位の点数には越えられない壁があったということを。

 

「結局、学年トップの座には届きませんでしたか……」

「たった7点差じゃない。まぁ、イレイナにトップを譲る気は無いけど」

「言うようになったじゃないですか、ハーマイオニー」

 

 二人で不敵な笑みを浮かべて、笑い合います。

 

「来年こそは、私が勝ちます」

「来年も負けないわよ」

 

 私たちは互いの健闘を称えて、二人で拳を合わせました。

 

 

 そう、とても残念なことに学年1位は私ではなく、案の定ハーマイオニー・グレンジャーでした。私はほんの7点差で、1位を逃してしまったのです。

 

 差がついたのは変身術の実技で、ネズミを嗅ぎタバコ入れに変身させるというもので、美しいものであればあるほど点数が高くなります。逆に髭が生えてたり、尻尾が残っていたりすると減点の対象に。

 

 私の場合、これといった失敗はなかったものの、確実に点をとろうとシンプルな嗅ぎタバコ入れに変身させていたので、ゴージャスなタバコ入れに変身させたハーマイオニーと差がついてしまいました。

 ここ一番の勝負所で賭けに出る大胆なグリフィンドールと、狡猾に日和って安全策に傾きがちなスリザリン。こういうとこに、案外2つの寮で気質の差が出るような気がしないでもありません。そして今回は、前者にプラスに作用したようでした。

 

 

 そして私以外のスリザリン寮生だと、ノットが学年上位10名に名を連ね、ダフネはギリギリ10番台という好成績です。

 

 驚いたことに、いつも中の下だったパンジーはダフネが補習してくれたおかげで、最後に詰め込んだ魔法史と天文学の成績が良く、なんとか中の上に食い込んでいました。

 ミリセントは変身術が想像以上に壊滅的だったものの、闇の魔術に対する防衛術で張ったヤマが大当たりし、どうにか落第を免れていた様子。

 

 男子だとザビニはオール平均点、マルフォイはいつも通り上の下でしたが、彼が頑張って教えた甲斐あってか、クラッブとゴイルは周囲の期待を裏切って試験をパスすることができました。

 

 

 **

 

 

 そして夏休みが近づくころ、あっという間に洋服タンスは空になり、旅行カバンはいっぱいに。しばらくの間、ホグワーツともお別れです。

 

 ハグリッドが湖を渡る船に生徒たちを乗せ、私たちは全員でホグワーツ特急に乗り込みました。

 

 しゃべったり笑ったりしている内に、車窓の田園の緑が濃くなり、小綺麗な街並みへと変化していきます。そしてバーティー・ボッツの百味ビーンズを食べ終えるころになると、ホグワーツ特急はマグルの大都会を抜け、キングズ・クロス駅の9と3/4番線ホームに到着しました。

 

「そういえばイレイナ、夏休みの間に僕の家でパーティーをやる事になってるんだが、君も来るかい?」

 

 マルフォイが言うと、パンジーが不満そうに頬を膨らませます。

 

「イレイナばっかりズルくない? ドラコ、私も誘ってよ」

「ああ、もちろんだとも」

「私もたかるー」

「たかるとか言うな」

 

 ダフネにミリセントが続くと、どこからかザビニとノットまで現れます。

 

「ドラコてめぇ、なに一人でハーレム作ろうとしてんだ。オレも交ぜろや」

「人の金で肉が食いたい」

「お前たちは帰れ」

 

 ザビニとノットに拉致されるドラコと慌てて後を追いかけるクラッブ&ゴイルを見送り、私もパンジーたちとそこで別れました。人の波に押されながら、私はゲートへ、マグルの世界へと進んでいきます。

 

 途中、ハリーたち3人の姿が見えました。

 

「またね、イレイナ!」

「私、あなたに手紙書くわ!」

「グッバイ!」

 

 口々に声をかけられ、私も。

 

「ええ、また新学期に! 皆さんも、その時までお元気で!」

 

 

 

 ***

 

 

 

 キングズ・クロス駅の中を、両親と一緒に歩いている魔女がいました。

 

 その魔女はどこかワクワク楽しそうにしています。次に友人たちと会う時は、どんな再会になるのでしょう? 次の新学期では、どんな未知の体験が私を待っているのでしょう? と、期待に胸を膨らませているのです。

 

 その魔女はいったい誰か。 そう、―――私なのでした!

 

 




「グリフィンドール奇跡の逆転V」はありませんでした。

 イレイナさんの活躍(悪魔の罠を燃やす、羽つき鍵を制止させる、クィレル戦でのサポート)が普通に評価されてスリザリンにも50点です。


1巻「賢者の石」編はこの話で完結となります。

いつも感想をくださる方、また誤字報告をくださる方、本当にありがとうございます! 

次回から2巻「秘密の部屋」編です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。