ハリー・ポッターと灰の魔女 作:アストラマギカ
第01章 ~フローリッシュ&ブロッツ書店~
平和庄ロベッタに、3人の家族がおりました。
そこには優しいお父さんとお母さん、そして魔法学校から帰省したばかりの娘が住んでいて、その日は雨が降る中、急用が入って帰りが遅くなるお父さんを母娘は待ちかねています。
「ただいまー」
玄関から入ってきたお父さんは雨に濡れており、用意されていた料理の匂いを嗅ぐなりお腹を可愛く鳴らしてしまいます。
きっと仕事が忙しくて昼ご飯もあまり食べられなかったと見え、お母さんは苦笑しながら優しく声を掛けました。
「お帰りなさい、あなた。お風呂とご飯、どっちにしましょうか?」
「うーん、どっちも捨てがたいな……」
「じゃあ、間をとって私にしましょうか♪」
多分そんな感じで生まれたのが私です。
***
そして翌日、私は去年と同じようにお母さんとダイアゴン横丁に来ていました。
「そういえばお父さん朝から見ませんけど、どうしたんでしょうか?」
「ぎっくり腰で聖マンゴへ診察に行ってるわ」
お母さんはそう言うと頬に手を当て、はぁと小さな溜息を吐きます。
「あの人ったら、無理しなくていいって言ったのに、ベッドまでお姫様抱っこするって聞かなくて。もう若くないのに」
「あるいはお母さんが太っ………」
次の瞬間、私のハリのある艶やかなほっぺたが万力のような力で左右に引っ張られていきました。
「いひゃい、いひゃいです!」
「うぅ~ん? 何を言ってるのか、よく聞こえないわねぇ?」
暴力反対……。
しばらく歩いていると、フローリッシュ&ブロッツ書店の前でお母さんが足を止めました。視線の先を目で追うと、書店の中では睨み合う中年のおっさんが二人。どちらも子連れです。
「おや、あれは……」
おっさん二人が連れていたのは、ドラコ・マルフォイとロン・ウィーズリーで、どちらも私の同級生でした。
ということは。
「これはこれは、アーサー・ウィーズリー」
これから生え際が後退していきそうなプラチナブロンドの、お金いっぱい持ってそうなパパは恐らくマルフォイ父。
「お役所は忙しいらしいですな。わざわざ魔法使いの面汚しになって何度も抜き打ち調査をしているというから、当然ながら残業代はもらっているかと思いきや……そうでもないらしい」
「魔法使いの面汚しがどういう意味かについて、私たちは意見が違うようだが」
そして真っ赤になって反論している、頭頂部からほとんど禿げ上がった赤毛のおっさんは多分、ウィーズリー父なのでしょう。
「さようですな、ウィーズリー。マグルとつき合っているようでは、君の家族はもう落ちるところまで落ちたと思っていたんですがねぇ――」
次の瞬間、ウィーズリー父がマルフォイ父に飛び掛かり、その背中を本棚に叩きつけました。分厚い呪文の本が数十冊ほど、周囲の人の頭にドサドサと落ちてきます。
「やっつけろ、パパ!」
「アーサー、ダメ、やめて!」
「お客様、どうかおやめを―――どうか!」
周囲が叫び、店員が悲鳴を上げる中、本屋でレスリングを繰り広げる二人の父親たち。
最大の被害者である本屋さんが魔法警察を呼んで賠償請求しても良いぐらいの状況の中、場違いな明るい女性の声が響きました。
「まぁ! ルシウス君にアーサーさんまで! 会えて嬉しいわ♪」
本の山をかき分け、その女性が近づいてくると、それまで取っ組み合っていたおっさん二人の動きが止まりました。
「ヴィ、ヴィクトリカ……」
「久しぶりだけど、二人とも元気そうで何よりです。うふふっ」
二人のおっさんを凍り付かせ、そこに人がいたのなら誰もが振り返らざるを得ないほどの美貌とプロポーションを兼ね備えた、彼女はいったい誰でしょうか。
そう、私のお母さんでした。
**
一時間後―――。
私とお母さん、そしてドラコとルシウス・マルフォイさんは、フローリアン・フォーテスキュー・アイスクリーム・パーラーのテラスに座っていました。
もちろんルシウスさんの奢りです。
「見苦しい姿を見せてしまったな、ヴィクトリカ」
取っ組み合いで乱れた服と髪をセットし直したルシウスさんが、やれやれと首を左右に振ります。呆れたようなジェスチャーにすら貴族特有の気品みたいなものが感じられるあたり、さすが名門マルフォイ家の現当主といったところでしょうか。
そんなルシウスさんですが、口ぶりからしてお母さんとは面識がある様子。口調もそこはかとなく穏やかなものを感じます。
お母さんの方もまた、なんだか楽しそうにずっと笑顔を浮かべていました。
「ナルシッサちゃんが見てなくて良かったね。いい歳して取っ組み合いとか、呆れられちゃうわよ?」
「そういう君こそ、旦那の姿が見えないようだが。ついに逃げられたのかね?」
「残念、私が逃げてきたの。今はこうして娘と逃避行中」
お母さんが上品にくすくすと笑うと、ルシウスさんは「ほう」と眉根を吊り上げました。
「君ほどの魔女が逃げるとは、大層な理由があると見たが」
「じゃあ、私とルシウス君で不倫デートなんて理由はどう?」
「あいにく私はナルシッサ一筋なんでね」
「はい、惚気いただきました。ご馳走様」
お母さんがにかっと笑うと、ルシウスさんも肩をすくめました。とりあえず腹の探り合いはこの辺で終わりということなのでしょう。
「ということでルシウス君、この美少女が私の娘よ。イレイナも挨拶」
私はゆっくりと立ち上がると、これ以上ないぐらい完璧な笑顔を作り、貴族のご令嬢らしく優雅に礼をしました。片足を軽く曲げて、スカートの両端を掴んでヒラッとするアレです。
「お初にお目にかかります。イレイナ・セレステリアと申します。ご子息のドラコさんにはいつもスリザリンで親しくさせていただいています。高名なマルフォイ家のご当主様である父君にもお会いできて光栄です」
「よくドラコから話は聞いているよ。とても優秀な生徒だとか」
ルシウスさんはスマートに微笑み、握手を求めてきました。
「ルシウス・マルフォイだ。ホグワーツでは君の母上と同期だった」
そう言って、ルシウスさんはドラコに目配せします。
ドラコの方もさすが貴族の御曹司といったところで、普段の気取った態度を微塵も見せず、うやうやしく完璧に礼をします。
「ルシウスとナルシッサの息子、ドラコです。こちらこそイレイナ嬢にはよくお世話になっていて、そのご母堂にもお目にかかれて光栄です」
「ふふっ、どういたしまして。これからもイレイナをよろしくね、ドラコ君」
笑顔でドラコに笑いかけるお母さん。
それから、私たちに好きなアイスを買ってきなさいとお金を渡してくれました。会話を続ける大人組を残して、私たちはショーウィンドウへ向かいます。
去り際、ルシウスさんが夏休みに予定していたマルフォイ家主催のパーティーに誘えなかった件を、お母さんに詫びているのが聞こえました。
「どうにもウィーズリーがしつこくてな。名家を集めたパーティーひとつするにしても、役所に申請と監視の闇祓いまで付けろなどと……バカバカしい。あれはダンブルドアが裏で糸を引いているに違いない……」
**
ドラコと2人で色とりどりのアイスが並ぶショーウィンドウに立つと、急に体から緊張が抜けていくのを感じます。
「なんか疲れましたね……」
「ああ、最初に友人になってから親を紹介されるのは初めてだ……」
普段タメ口で話している相手が、急に敬語を使い出して顔にはとってつけたような営業スマイル。見られてる分にはもちろん、見ている分であっても何とも言えないむず痒さが。
「これ絶対、夜中に思い出して5回ぐらい悶えるヤツですよね」
「全くだ。アイス屋で黒歴史を作る日が来るとは、思ってもみなかったよ」
「『ルシウスとナルシッサの息子、ドラコです(キリッ』」
「待てイレイナやめるんだ」
微妙な気まずさを和らげるべく先ほどの声真似とお辞儀をすると、ドラコは青白いを頬を赤らめて「やっちまったー」みたいなノリで片目を瞑りました。久しぶりの再会ですが、あまり変わらないようで何よりです。
ヴィクトリカさんはルシウス・マルフォイと同期とさせて頂きました。ハリーの両親と同期にすると卒業してすぐ出産してしまうため、のんびり旅とかしてる期間がなくなっちゃうので。
見た目が若いのは魔女だし美魔女。
アーサー、モリ―、ベラトリックス>ルシウス、ヴィクトリカ>ジェームズ、シリウス、ルーピン、リリー、スネイプ
みたいな感じです。
たぶんルシウスはイレイナ母に振り回されてるし、ジェームズとシリウスは何度かとっちめられてる。
あとイレイナの出身地ロベッタは国じゃなくて、庄にしました。庄(Shire)はホビット庄とかにある英国の古い州の呼び方です。
海に面して温暖、自然公園も多くてやや豊かなハンプシャーにある、イギリス魔法省の行政区画。古くはウェセックス王国と共に栄え、国と名乗ってた時期もある……という設定(自己満足)