ハリー・ポッターと灰の魔女   作:アストラマギカ

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第04章 ~マンドレイク~

 その日の授業は『薬草学』で、ハッフルパフと合同授業でした。詳しくは分からないのですが、魔法生物飼育学のケトルバーン先生が授業でなんかやらかしたせいで、ドミノ倒し式に時間割が変更になったそうで。

 

 

 何はともあれ温室の近くまで来ると、小柄でずんぐりしたスプラウト先生の姿が見えました。いつも服は泥だらけで、つぎはぎだらけの帽子がトレードマークの先生です。

 

「みんな、今日は3号温室へ!」

 

 すると、興味津々の囁き声が流れました。これまで薬草学は1号温室でしか授業がなく、3号温室にはもっと不思議で危険な植物が植えられているからです。

 

 

 スプラウト先生がベルトから大きなカギを外してドアを開けると、天井からぶら下がった傘ほどの大きさの巨大な花の強烈な香りに混じって、湿った土と肥料の匂いが鼻をつきます。

 

「今日はマンドレイクの植え替えをやります。特徴が分かる者は?」

 

 さすがにマンドレイクほど有名な薬草になると、私以外にもチラホラと手が上がっていました。スリザリンからはダフネ、ノット、ドラコ、そしてハッフルパフからはアーニー・マクミランとハンナ・アボット。

 

「では、最初に手を挙げたマクミラン君から」

「マンドレイク、別名マンドラゴラは人型の植物で強力な回復薬となり、姿形を変えられたり呪いをかけられた人を元通りにするのに使われます」

「大変よろしい。ハッフルパフに10点」

 

 教科書通りといったマクミランの答えに、スプラウト先生が微笑みます。

 

「マンドレイクは大抵の解毒剤の主成分となりますが、危険な面もあります。誰かその理由を言える人は?」

 

 今度は私とノット、そしてハンナ・アボットさんの手が。

 

「では、ノット君」

「声を聞いたら死ぬ」

 

 ノットの簡潔な答えにスリザリンは10点を獲得しました。

 

 

「さて皆さん、耳当てを1つずつ取ってください。私が合図したら耳当てをつけ、両耳を完全にふさいで。耳当てを外しても安全になったら、私が親指を上に向けて合図します」

 

 私たちが言われたとおりに両耳を耳当てで覆うと、スプラウト先生は自分も耳当てをつけてからローブの袖をまくり上げ、ふさふさした植物を一本しっかり掴んで引き抜きました。

 

 土の中から出てきたのは、植物の根ではなく、とても醜く小さな赤ん坊のようなものでした。肌は薄緑色のまだらで、その頭からは葉っぱが生えています。

 

 スプラウト先生はテーブルの下から大きな鉢を取り出すと、マンドレイクを鉢の中に突っ込んで黒い湿った堆肥を被せていきます。マンドレイクが完全に生き埋めになると、ようやくスプラウト先生が親指を上げて耳当てを外しました。

 

「このマンドレイクはまだ苗なので、泣き声も命取りではありません。ですが、それでも皆さんを間違いなく数時間は気絶させるでしょう」

 

 

 

 それからスプラウト先生は4人1組で植え替るよう指示し、私はハッフルパフの3人組の中に放り込まれました。

 クィディッチ・ダービーを最初に購入してくれた、アーニー・マクミランとハンナ・アボットにジャスティン・フィンチ=フレッチリーの3人です。

 

 最初に話しかけてくれたのはジャスティンさんでした。

 

「そういえばセレステリアさんと組むのは初めてでしたね。あ、イレイナと呼んでも?」

「ええ、構いませんよ」

「では、僕たちのこともファースト・ネームで呼んでください。アーニーとハンナもそれでいいですよね?」

 

 それから4人でドラゴンの糞の堆肥を詰め込む間、しばらくお喋りをします。特にハンナは興味津々で話しかけてきました。

 

「実は前から、イレイナちゃんとこうして話してみたかったんだ」

 

 ダフネより濃い目の金髪を三つ編みにして、少しタレ目気味の目じりが優しそうな印象を与える子です。

 

 顔の良さでは私はもちろんダフネにも敵いませんが、おっとりした性格と人当たりの良さで「この子なら俺でも押せばいけるんじゃね?」的なノリで自称フツメンなんかに意外とモテるタイプだったり。

 

 

「まぁ合同授業でも、結局は寮ごとに固まっちゃいますもんね」

 

 ホグワーツの授業では座る場所というのは特に指定こそないものの、なんとなく最初に座った場所とグループで固定されるという、よくある学校あるある案件。それはそれで毎回座る場所とつるむグループを変えなくていいという気楽さはあるので、自然と惰性で続いてしまうもの。

 

「とはいえ、私たちスリザリンはちょっと身内で固まり過ぎてハブられがちな気はしますけど」

「あはは……寮生同士の仲がいいこと自体は良いことだと思うけど」

 

 ハンナがほんわかした苦笑を浮かべると、アーニーが興味津々といった様子で会話に乗り込んできます。

 

「いやー、実は僕も四寮で仲違いするのは良くないと常々思っていたんだ。しかしながら、なんというか君たちに少し気後れしてしまってね。つい話しそびれてしまった」

 

 要するに、スリザリンにビビってたわけですね。

 

「私は別に家柄とかそこまでこだわらないので、なんなら今度、一緒にご飯でも食べます?」

「えっ、いいの?」

 

 私が誘ってみると、ハンナが嬉しそうな顔になり、しかしすぐ不安そうな顔でパンジーたちを見てこっそり耳打ちしてきます。

 

「でも、いいのかな? 変だと思われない?」

「逆にハンナは、私たちにどういうイメージを持ってるんですか?」

「えっと正直、イレイナちゃんとこのグループって、ちょっと怖いイメージあって……」

 

「ふむ」

 

 まぁ、その辺は自覚が無いでもありません。

 

 スリザリンで純血といえば、魔法界におけるエリート階級です。ということは基本的に名家のご子息で、カネもコネもあり、相応に身だしなみや振る舞いに気を使い、それゆえ自然と自信に満ち溢れて、同級生にも教師にもデカい顔をしがち。

 いわゆるスクール・カーストで例えると間違いなく1軍と2軍で、他寮に比べると華やかな金持ち率と不良率、その取り巻き率が高い傾向にあります。

 

 

「ちなみにスリザリン女子のイメージをお聞きしても?」

 

 せっかくなのでこの際、ハッフルパフのハンナさんに外部からどう思われているのか聞いてみました。

 

「えーっと、なんか性格キツそうなクラスの女王様っぽい子と」

「パンジーですね」

 

「ノリ良さそうなギャルっぽい感じの子と」

「ダフネですね」

 

「ちょっとガラ悪そうな今時スケバン?みたいな子と」

「ミリセントですね」

 

「職権乱用系の腹黒生徒会長キャラみたいな」

「そんな人もいるんですねぇ」

 

 最後だけ心当たりがありませんが、とりあえずロクでもないイメージであることは伝わりました。

 

 

「逆にイレイナちゃんから見て、私たちハッフルパフの印象って?」

「えっ、地味?」

「だよねぇ……」

 

 ハンナは苦笑しながら「知ってたけど」と続けます。

 

「でも、皆が地味ってわけでもないよ? ほら、2つ上のディゴリー先輩とか、1つ上で学年成績トップのエステルさんとか」

「そこでアーニーとジャスティンがフォローされないあたり、ハッフルパフも業が深そうですね」

「まぁ、それは仕方ないかな」

「おっと、獅子身中の虫とはこのことか?」

 

 アーニー・マクミランのツッコミに、ジャスティン・フィンチ=フレッチリーも続きます。

 

「全くです。こう見えて僕、イートン校に行くことになってたんですからね」

 

 

 えっ。

 

 

 ジャスティンの爆弾発言に、私は思わず堆肥を落としてしまいます。

 

「イートン校ってあのイートン校ですよね?」

「ええ、あのイートン校です」

「学費が下手な管理職の年収ぐらいあるイートン校ですよね?」

「はい、学費が下手な管理職の年収ぐらいあるイートン校です」

「なんでホグワーツなんかに来ちゃったんですか……?」

 

 私の発言を聞いたアーニーが「なんかって……」と苦笑していますが、それほどの事なのです。

 

 なにせイートン校といえば、英国マグル界で首相を20人も輩出している、名門中の名門です。入学すれば学歴はもちろん、在学中のコネなんかも含めれば、将来は上流階級の仲間入り間違いなし。

 そして何より、入学が決まっていたという事は、それまでに必死に勉強して狭き門を突破したということの証明でもあるわけで。

 

「フィンチ=フレッチリーという二重姓から、名家とは思っていましたが……」

 

 ちなみに二重姓とは、二つの名家が婚姻した際、どちらの家名も残すためのもの。基本的に二重姓=エリートだと思ってもいいぐらいです。

 

 

 私があんまりにも驚いているので、最初こそ笑い飛ばしていたアーニーとハンナも徐々に怪訝な顔になっていきます。

 

「えーっと、今さらなんだけどジャスティンってさ……もしかしてマグル界ではめちゃくちゃ凄い人?」

「だから去年からずっとそう言ってるじゃないですか!?」

「ごめんねジャスティン君、そういうネタだと思ってた……」

 

 まぁ実際、イートン校の学費は年に約4万ポンドとアホみたいな金額なので、基本的に教育機関がホグワーツしかない魔法族のハンナ達から見れば、学費だけでそこらの中流家庭の年収を軽く超えちゃうマグルの有名私立校、なんて言われても信じられないのかもしれませんが。

 

「実は実家が南アフリカにレアメタル鉱山をいくつか保有していまして……」

 

「「先にそれ言って!?」」

 

 なにはともあれ、ジャスティンが正当に評価されたみたいで良かったです。

 




 そういえば3巻のクィディッチ決勝戦で「スリザリン生が200人ほど」といった描写と、どっかで全生徒数は1000人ほどという話があったので、純血の問題でスリザリンがやや少ないにしても一学年は約30~40人ほどの計算になり、同期のスリザリン寮生があと20人ぐらいいる感じですかね?

 あとホグワーツってそこまで同じ学年クラスで一緒になんかやるみたいなイベント無いし3年以上は単位によって分かれるので、言われるほど中学・高校クラスのスクール・カーストみたいな階層化はそれほど進んでなくて、大学の仲良しグループみたいな集団に別れてそう(目立つグループとそうでないグループはいるけど、お互いあんまり関わらない感じ?)。

 いうてハリーたち3人組も同じグリフィンドール寮同期でもシェーマス、ディーン、ネビル、ラベンダー、パーバティぐらいしか関わってないけど、多分まだまだ名前の出てこない同期はいると思う(映画版はちょくちょくモブ同期いたりしますしね)。
 
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